人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
フリーレン「人間を識るために、まずは何をしよう…」
慈愛の声『フリーレン。フリーレン。私の声が聞こえますか──』
フリーレン「誰?」
慈愛の声『突然、すみません。私はセフィアラ。セフィアラと申します』
フリーレン「セフィアラ。聞いた事無い名前」
セフィアラ『そうでしょう。私は遠き地にて、神たる者』
フリーレン「神」
セフィアラ『あなたの涙、あなたの願い。私は感じ入ったのです。その道行きの、助力をさせてくださいな』
フリーレン「胡散臭いくらい優しい…」
セフィアラ『私はあまねく慈悲と慈愛を司る者。全ての世界の悲しみと嘆きを晴らす力添えを願う者。それを、御覧なさい』
フリーレン「…たき火?」
セフィアラ『それは祝福。神となりながら、人たる者のもたらしたもの。あなたは其処で、王を目指す旅をする者の『巫女』をやってみてください』
フリーレン「巫女」
セフィアラ『人に寄り添い、人を導き、人を見つめる。それにより、あなたの願いはきっと叶います。知るためには、識る事が大切ですから』
フリーレン「巫女…導き手ってことだね。でも、私、無愛想だから大丈夫かな」
セフィアラ『勿論です。貴女は、人ではなくとも人の様に魅力的な魂を有する者。慈悲と慈愛たる私には解っちゃうのです』
フリーレン「解っちゃうんだ」
セフィアラ『ですが、強すぎる力と自我は正しい導きに至れないやもしれません。ですので、願い以外の全ては眠らせておきますね』
フリーレン「えっ」
セフィアラ『自信と自負は、真摯な学びには時に阻害たるもの。フリーレン、あなたはレンとして、人の様に学ぶのです』
フリーレン「スパルタだ…」
セフィアラ『失うのではなく、眠るのみです。あなたが答えを見つけた時、全ての力を返すことをお約束します』
フリーレン「それならまぁ」
セフィアラ『フリーレン。その願いと想いに善き答えがあらん事を。そして、願わくば…』
──救い給え。我が最愛の息子と、運命に出逢わず燃え滾る我が異界の夫を。
王を待つ礼拝堂
レン「…………あれ」
「なんで私、ここにいるんだっけ」
「馬鹿な……私は識っている、識っているのだ。魔術師トープス。それは魔術鍵すら与えられず、学院にすら再訪を拒まれし愚鈍の魔術師」
「…………」
「そんな者が、そんな愚者が、我が世界を…神にすら届く理論を組み上げてみせるだなどと。あってはならん。あってはならんのだ…!」
フリーレンの完全復活。狼狽するギデオン。図らずも、フリーレンに自らの全てを思い出させたギデオンだが、最早関心はフリーレンにはない。
魔術師トープス。自身の識っている筈の存在が、自身も知らぬ可能性を見せた事。その事実が百智の尊厳を傷付けたのだ。
「…………」
フリーレンが歩みを進める。彼女の歩みに、最早迷いはない。
「あり得ぬ事を、私が識る由もない愚昧などに…!」
狼狽しながら魔術を、祈祷を放つギデオン。それらは全て、高位のもの。
しかしそれらは、全てフリーレンより弾かれる。魔術も、祈祷も、その全てがフリーレンを傷付けられない。
「無駄だよ。この理論は、遥かな未来でも称賛と驚嘆に値する力。誰もが力と規模にのみ注目していた魔術の中で、彼はその力が生まれる空間に目をつけた。まさに天才だ」
「…!」
「魔術師トープス。君の百智を覆す、至高の鈍石だ。…老いぼれたヒンメルみたいなハゲだけど、そこも魅力」
知っている。いや、共に歩んだ友を誇るフリーレン。
「そして私すら瞠目し、教えを乞うに値する傑物。私すら知り得なかった人間の女傑。それが…満月の女王レナラ」
ふわりと、フリーレンが浮遊する。
「彼女の魔術は至高の領域。ギデオン、君にしかと見せてやる」
うずくまるように浮かぶフリーレンに、満月の魔力が満ちていく。
「更に、そこには人の事を愛した娘…暗月の魔女ラニという神もいるんだ。その魔術も、こっそり教えてもらった」
「満月に…暗月…それは、ノクステラの象徴……」
「思い知れ。二つの月が織り成す魔術の粋を」
重なる月。フリーレンが行う、規格外の魔術行使。人の満月、神の暗月。
至高の魔術の双月が、間断なく地面にへと叩き落された時──。
「ぬ、おおおおっ………!」
ギデオンすら呻かざるを得ない、莫大な魔力の爆発。月が放たれた瞬間、それらはローデイル全てを覆わんが程の規模で、青と白の魔力を荒れ狂わせる。
「識っている、これも識っている…!レナラには双子の妹がいた。これはヤツの得意技たる『双月』…!」
そう、二つの月を同時に叩き落とす魔術。しかしフリーレンはレラーナの腕前を越えていた。
「満月、暗月を完全に使いこなすとは……!これ程の、魔術師としての存在は…」
類を見ない。まさにそれは、ギデオンにとっての最大の瑕疵となる評価。想像を超え、理解すら及ばぬもの。遥かなる存在。
「知らないのは当然だし、敵わないのも不思議じゃない。こと魔術においてはね」
フリーレンは杖を掲げる。
「ギデオン=オーフニール。今、君の前にいるのは───」
瞬間、屋内にも関わらず天井に『星空』が満ちる。それはかつての星見が見た原初の星空の再現。
魔術という枠の『源流』。滅びの流星、大彗星に並ぶ、フリーレンがこの狭間の地にて手にした魔術にて最古のもの。魔術が魔術たる前に現れた自然現象。
星々の夜。フリーレンが垣間見た、魔術の源流。この地に星の琥珀をもたらした、始まりの魔術。
それを、放つ。
「──千年以上、生きた魔法使いだ」
「『創星雨』」
星空が、辺りに降り注いだ。
「ぐ、おおおおっ………!!」
ギデオンは持てる叡智を振り絞った。しかし、その星の対処の仕方は持たなかった。
あまりにも古すぎた。先史の先史、狭間の地が狭間の地ではない黎明以前の現象の再現であり、星見が見いだした古き古き技術。
レナラと共に復活させ、最後の切り札として用意していたもの。神に撃つつもりだった奥義をギデオンに放つ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお──────!!!!!!」
フリーレンの、狭間の地における最終奥義…。
それは確かに。
ギデオン=オーフニールの『百智』の、『葬送』の業と相成った。
……やがて、星が全てに穿たれ満ちた頃合いに。勝敗は決する。
「……………」
見下ろすフリーレン。
「ぐ………」
倒れるギデオン。
その情勢は、完全に明らかだった。
「私の勝ちだね、ギデオン」
「………。私は、負けたのだな。未知に。私が知らぬ最古の業に」
百智は、静かにその事実を受け入れた。彼は、痴愚でもなく幼稚でもなかった。
「千年以上生きた、耳の亜人……。成る程、百を智る程度では、太刀打ちできぬ筈だ」
「潔いね」
「今私は識ったのだよ。敗北の味を。………嗚呼、これは、何ともまた」
ギデオンは知らなかった。今、静かに新たなる智を噛み締めていた。
「存外に、心地良いものだ……」
全てを覆され、未知に敗北する。
それもまた、識るべきものと。ギデオンは最後まで、百智の男だったのだ。
「殺し給え、フリーレン君」
「!」
「味わうは味わった。最早世界は新生する。…古きにしがみつく老人なぞ、重荷でしかないだろう」
ギデオンは悟ったのだ。そして恐れたのだ。
「古い世界の全てを識る事は……新しきには、不要なのだ」
あるはずの無い終わり。新しい世界の到来。
それにより、自らの全てが無意味に、無価値になる事を。
「…………」
フリーレンは静かに見下ろす。
そして、ゆっくりと歩み寄り…。
「ほら」
そっと、手を差し出した。
「…何の、真似かね」
「勝者の権利だよ。ギデオン、君には新しい世界で『エルフ』って言葉を普及してもらう」
フリーレンは、勝った。ギデオンに勝利した。
ギデオンに与えるは、敗北の苦汁。断頭台に載せたいわけでは無かった。
「耳の亜人なんて、全然可愛くない呼び名が無くなるまで智慧を絞ってもらうからね。今日から君は、エルフ信仰に生きるんだ」
ギデオンは硬直していた。
だが、彼とて阿呆ではない。
「情けを、かけるというのか。この百智に」
「うん」
「無意味となった智慧、叡智。それにしがみつく老人をも……救わんとしようというのか」
「お年寄りは大切にするものだろ、おじいちゃん」
フリーレンは笑う。フリーレンからしてみれば、高々数十年や百年そこらの長生きなど小生意気なガキだ。
「無意味な智慧なんてない。君が知り、蓄え、集めた知識はきっと新世界で役に立つ。いつまでもレベル上げなんかしてないで、さっさと次のステージに行きなさい」
「……!」
「あなただって、人間でしょう?ならいくらだって始められるし、成し遂げられる。私に負けた後の人生、きっと見え方だって違ってくるはずだよ」
だから…そう。
ギデオンもまた、リスペクトの対象であるのだと。
「千年先で待ってるよ。全力で追いかけろ、くそがき」
悪戯っぽく、フリーレンは笑いながらそう示した。
ギデオンは善人では断じて無い。識るが為に全てを捨て去る冷酷なる知識魔。
しかし、尊重やリスペクトは払われるべき存在だ。
どのような者であれ…。
「………愚か者だ。耳の亜人は」
「エルフって言え」
「だが……。千年生きただけの事はある、力だった」
積み重ねてきた功績には、報いられるべきなのだから
「私の負けだ。そして、敗者は勝者に従うのが真理であり道理」
「うん。解ってるじゃない」
「耳の亜人よ。やってみよう。百智を越えた『全智』を目指さんが為…古い時代に固執するのは、終わりにする時だ」
「うんうん。だからエルフって言えと言うに」
ギデオン=オーフニールは、葬送のフリーレンに敗北した。
しかし、その命までは取られず、智をもって新世界の意見番としての道を模索することとなる。
「……ふう」
フリーレンは一息つく。
「……勝ったよ。リッカ、皆」
そして愛する新しい仲間達に───
勝利を、捧げるのだった。
ギデオン「…敗北と、新しい道を示した礼だ。一つ、教えておこう。耳の亜人」
フリーレン「エ・ル・フ!」
ギデオン「このローデイルの遥か下に、狂い火を宿す禁忌の三本指が封じられている事は識っているか?」
フリーレン「…狂い火。ラスティが宿している…」
ギデオン「ラスティ…?……禁忌の智だが、それはもう地下にはいない」
フリーレン「!」
ギデオン「戦士がマリカにより追放された折、既に受領は果たされたのだよ。封印では何者かが破ると踏み、それを宿し世界の人柱とならんとした者にな」
フリーレン「それって…」
ギデオン「長き時が経った。幸か、不幸か。その者が狂い火の王の誕生を、狭間より遠ざけた。しかし今頃は……狂い火に、呑まれていよう」
フリーレン「!まさかその、狂い火を封印した人って…!」
ギデオン「……知己や子孫にでも会ったのかね。そう、その者の名は──」
フリーレンは、息を呑んだ。
「狂い火の覇王、アスラ・ルー。アスラはゴッドフレイと約束したのだよ。この世全ての災禍となりし身を、戦士として討て。それこそが──アスラにマリカが託した【厄災の根絶】による『豊穣の再生』なのだ」
アスラ・ルー。
それがこの世界の狭間における…
狂い火の覇王たる、存在だった。