人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ラスティ『俺自身は問題ないよ。でも…マリカの槌は砕けしまった』
ラニ『あれほどの行いの、ツケという事か』
『厳しい条件に条件を重ね、やっと神の世界を壊す事ができる。……アダム・カドモン氏は、オレの遥か先で背中も見えないほどみたいだね』
ラニ『構わんさ。お前は、お前でいてくれたらそれでいい』
『………ありがとう、ラニ』
マリカ「…………」
ラニ(……あいも変わらず豊かな金髪、無駄に豊かな身体つき…。腹立たしい美貌の母だ)
ラニ『…………今日は多目に見てやろう』
ラニは自身も完璧しようと、心に誓うのであった。
(返信は後日行います)
「王、それに姫に…レナラの子供たち、そしてアスラの……」
壊れかけのマリカは復活した。万象律の修復ルーンにて蘇った肉体を以て、ゆっくりと立ち上がり事情を聞き及ぶ。
「長い長い旅、険しい道のりを越えて…。此処まで、来てくれたのね。私の祝福と、願いを胸に」
【……………】
マリケスは静かに沈黙している。彼は、彼女を恨みも憎みもしていない。
【壊れかけのまま、よく耐えた。見事だったぞ】
「マリケス……」
言葉は少ない。だがその目線と交わした言葉には、絆と万感の想いがある。
「それに、アスラ。彼が遺した息子に……」
「はっ。ラスティ・エングウィン。アスラ・ルー並びに女神セフィアラの子であります。ラニを伴侶とする、夜の王として此処に」
「夜の王…ラニ、あなたは見つけたのね。暗き道を照らす暖かい篝火を」
『やらぬぞ。……我が父が迷惑をかけたな、マリカ』
ラニにもまた、マリカは微笑む。今更辿り着いた結末にケチを付ける無粋さをラニは持ち合わせていない。
「…黄金律が砕け散ったのを感じる。ラスティ、まさか貴方が…?」
「あなたの成した逸話を再現し、全身全霊を込めてたった一度きりの大道芸です。とても、生涯二度はできそうに──」
その時、ラスティがマリカに優しく抱きよせられる。
「!」
『な、貴様…!』
「ありがとう。アスラの子として生まれ…彼の生命を繋いでくれて。あなたの母たる女神にも、感謝を」
「……はい。母セフィアラも、父アスラも喜びます。お帰りなさいませ、女王マリカ」
マリカの祝福と恩寵を授ける様子を見たラニは憤激を表しかけるも、即座に律し平静を装う。
『フン。…………永劫とも言える罰を乗り切った気概に免じ、私の王に触れる栄誉をやる』
「心中穏やかじゃないんじゃない?」
『手にする肉体はマリカを素にマリカを越えるものを作らねばな…………』
ラニの思惑を他所に、マリカはライカード達に向き直る。
「お前達にも、多大な迷惑をかけました。私の不徳の、致すところです」
「よい、世界は移ったのだ」
「禍根は、旧き世界に捨て置かなくては」
マレニアやライカードの言葉に、また小さくマリカは頷く。
「ありがとう…。そして、王と姫の宝物たち」
次はルゥやら旅の仲間達に向き直る。
「ありがとう。此処まで来てくれて。貴方達が、この壊れた世界を直してくれた」
ルゥに目線をあわせ、抱き寄せる。
「ありがとう、神なる龍。その白き魂に」
『わぁ〜。治って良かったねぇ〜』
フリーレンには、頭を撫でる。
「導けし長寿のあなたよ。ありがとう」
「エルフって呼んでくれると嬉しいな」
ヘラクレスには、頬にへとキスを捧げる。
「逞しき不撓不屈のあなたよ、ありがとう」
「美女の口づけ程、素晴らしい報酬はないな」
そして、マシュには母の抱擁を。
「勇気の雪花の子よ、ありがとう」
「ぁ、……マリカ様、ご無事で良かった……」
ラダーンには……。
【女王マリカよ!御礼はゴッドフレイへの挑戦にさせていただきたい!】
「ふふ、解ったわ。赤獅子の将軍よ、ありがとう」
夫への挑戦が、ラダーンへの報酬となる。
そして、リッカには優しく腕を広げ、迎え入れる。
「気高き善を宿す絶対なる悪の娘よ。ありがとう」
「あ……」
「さぁ、おいで。いらっしゃい」
母として、血の繋がらぬ娘として、マリカはリッカを受け入れる。
リッカは数巡、照れくさそうに迷いながらも、おずおずとマリカの胸に顔を埋め抱きしめられる。
「頑張り屋さん。本当にありがとう。お疲れ様、とても立派な戦いぶりだったわ」
「マリカ様……」
「あなたに、めいっぱいの祝福を与えるわ。これからの道筋も、力強く歩めますように」
優しく頭を撫でられ、柔らかく暖かい温もりに包まれながら祝福されたリッカは、涙を流すほどの柔らかさと慈愛に触れる。
「ありがとうございます…!頑張ってきた甲斐が、ありました…!」
名残惜しげにリッカの頬にキスを捧げながら、ギルガメッシュの下に跪く。
「王よ。あなたが望むならば、我が身は貴方の妻として捧げます」
「幻視の器か。財としては悪くないが…。今の我には后も妻も必要ない。姫の教育に忙しい故な」
「ふふ…左様ですか」
「礼を尽くしたいのであれば、貴様の知る智慧をエアに授けよ。少しは流浪の風船が如き有様も、シャキッとするであろうからな」
略奪愛は今の好みではない。ギルの裁定に頷き、マリカはエアと向き合う。
「あなたが、私の想いを受け取ってくれた。だから新しい世界は、到来することが出来る」
──マリカさん……。
「ありがとう。あなたという存在のありとあらゆる全てに…女王と神たる身として、祝福を」
──ありがとうございます。本当に、本当にお疲れ様でした…!
感極まったエアとマリカが、抱き合う。互いに涙ぐむその抱擁は、万感の想いの発露だ。
「あなたが掲げ、直したもの。それこそが、この世界に永遠なる豊穣を齎すの」
マリカは、虹色に輝くエルデンリングを展開し、エアにそっと手渡す。
「これは、あなたのもの。空を律し、理をも手にするエルデンリングを受け取って」
永遠の豊穣の誓い。世界を手にせし証明。
───これは、ワタシが受け取るのではありません。リッカちゃん、マシュちゃんを始めとした、この旅路に関わった全ての皆様の為の世界を形作る為に…。
エアはそっと、虹色に煌めくエルデンリングを受け取る。
──僭越ながら、皆様を代表して。確かにエルデンリングを…万象の律の世界の象徴として、お預り致しますね。
全ての旅路に祝福を。
全ての者達に繁栄を。
マリカの願いの受け取り手として、エアはエルデンリングを『預かった』。
世界は誰のものでもない。
世界は、其処に生きる全てのみんなのもの。
王座と支配に最も執着がなき者こそが、最も万象の担い手に相応しい。
マリカの想いを手にし、カルデアは本当の意味で狭間を……。
否。世界を『永遠の豊穣』で満たす神造のアーティファクト。
エルデンリングを、確かに手に入れたのだった。
《我が宝物庫に納めるに相応しい宝を手にしたな。お手柄だぞ、エア》
──お戯れが過ぎますよ。お手柄なのは、遥かなる旅路を乗り越えた全ての方々なのですから!ね、フォウ?
(その通り!ボク達は皆が皆、素晴らしく凄いんだ!)
「ふふ……」
仲睦まじい三人を見やるマリカは笑う。それは在りし日のマリケスにアスラ、ホーラと夢中になって駆けたあの日を思い出したが故。
あの頃とは何もかも変わった。しかし、変えてはならないものが確かに存在する。
「女王マリカ。狂い火の王は既に……」
ラスティの言葉に頷き、マリカは立つ。
「皆。あと一息、あと一つ倒さねばならないものがいるわ」
「狂い火の王、だね。ギデオンから話は聞いてるよ」
マリカの言葉に、フリーレンが付け加える。
「アスラ・ルーが、狂い火を継いだ事もね」
「「「「!?」」」」
『…姿が見えぬかと思えば。やはりそうであったか』
「えぇ。最後に倒すべきは、狂い火そのもの。アスラに宿った今こそが、千載一遇の機会」
マリカは皆に、願いを告げる。
「これは私からの、最後のお願い」
一同は神妙に向き直る。
「狂い火は、遍く全ての敵。消さなくては未来が無い」
世界を護るための、最後の戦い。
「私や、ゴッドフレイ…家族の力を合わせて戦う相手に、あなた達の力も、貸してほしい」
狂い火の根絶。最後の最後に戦う相手。
しかし、一同らに迷いはない。
「行きましょう、マリカ様!」
「誰もが望んだ、世界の為に!」
リッカとマシュが頷き、一同も同意する。
「ありがとう、私の大切な人達…」
その厚意に感謝を捧げながら……
「行きましょう。ゴッドフレイ達を止めなくちゃ」
マリカは再び、動き出すのであった。
マリカ(時間はもうない、でも……)
「此処には、たくさんの希望がある」
(待っていて、アスラ。討ち果たすべきは、狂い火であるのだから………!)