人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
カドック「リッカ!無事だったんだな、良かった!」
リッカ「こっちの台詞だよ!良かった、皆無事で…、あ、レダさん達は!?」
レダ「ここだ、リッカ」
リッカ「レダさんも!良かった!」
レダ「恥ずかしい話だが、死闘でね。なんとか皆に回復してもらいながら戦線を維持していた。……そちらも、成し遂げたな」
リッカ「うん!」
レダ「だが…本番は、ここからのようだ」
遥かなる空が、燃えていた。それは遥か、挾間の外の空でありながらも…狭間の中心たるローデイルの王座からも見て取れる。
紅蓮を越えた真紅の空。全てを分け隔てなく焼き尽くす黄色き炎が、空を……世界そのものを焼いて広がり来たる。
「あの方角は……」
ラスティが、気付きと共に口にする。それは、ローデイルより見つめた方角の得心。
「聖山、セフィアラの方角……まさか…!」
「そうだよ、そのまさかだ。ラスティ」
フリーレンがら確認の如くに告げる。
「ギデオンが言っていた事は事実だ。君が一番理解しているように、狂い火を継いだのは……」
その答えが、ローデイルの王座に飛来───
否【降臨】する。
「ラニ!」
『指図をするな、マリカ』
マリカとラニが、それぞれの律……。至尊万象律と夜の律を展開したのは同時であった。
そして、それは更に重なる同時。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッッッ!!!!】
天を焼き焦がし、地を焼き払う戦慄の咆哮と共に、【それ】は帰還した。
「───お帰りなさい」
その姿に似つかわしくない言葉を、マリカが送った。
【オオオオオオオオオオオオ…………!!】
それは、まさに悪神、魔王、邪悪なる存在としか形容できない威容だった。
赤く光る紅蓮の双眸、強く食いしばられた鋭き咬合。
炭のように焦げきった漆黒の肌には生物的な意匠は微塵も感じられることはない。無数にヒビ割れがあり、刻まれし印が如くに光っている。
髪にあたる部分、衣服にあたる部分には、燃え盛る黄色き業火が燃え盛っており、ヒビの皮膚の下にはそれと同じ炎が満ちていることを証左とする。
ゴッドフレイと一歩も劣らぬ体躯。闘気と対を成す、無限の狂気。
【ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーッッッッッッッッッ!!!!】
狂い火を完全に引き継いだ、狂い火の覇王。
戦士の理性、アスラ・ルー。ゴッドフレイに続き、マリカの待ち望んだ戦士の片割れが、今此処に帰還したのであった。
「あ、あれが……狂い火の覇王!?」
「アスラ・ルー」
「えっ…?」
「ヤツはアスラ・ルーという。ゴッドフレイと対を成す、私が最も待ち望んだ戦士の一人だ」
マリカの言葉が、その存在を後押しする。戦士の理性にして、マリカの朋友。ゴッドフレイの闘志と対を成す、知恵と理性の存在
。
「そしてヤツは……狂い火を完全に制し、この地へと戻ってきたのだ」
「……地下に狂える三本指がいなかったのは、そういう事だったのか…!」
ラスティは合点がいき、声を上げる。
「今なら解る!我が父が…アスラが何故、狂い火を引き継いだのか!」
それは、断じて禁忌を犯したわけではない。
マリカの世界に異を唱えたわけでも、混沌を欲した訳でも断じて無い。
ラスティにはそれが理解できた。
何故なら、自身も同じ選択をしたからだ。
「皆が迎える次代の世界に…狂い火を残さぬため…!」
アスラは常に、自らの身を罪過の受け皿へと捧げてきた。
それは軈て、黄金律や他の者達の為に。
そして起源は、原初の黄金樹の時代の為に。
そしてマリカが、戦士達を追放した際にも。
彼は狂い火という、世界を焼き尽くす危険な存在を預かったのだ。
新たなる世界を焼かせない為に。必ず訪れるであろう新世界に持ち込ませぬために、自らがその炎を従える【王】となる為に、狭間の外に出た。
そしてそれは、ラスティが狂い火の王になった理由と全く同じ。
ラニの行く暗い夜の道を照らす灯火となる為に。
そして封印というその場しのぎの手段ではなく、抜本的な解決を図らんが為に。
『…………血は、争えんな』
ラニの為に狂い火の王となり、完全に制御したラスティ。
マリカの夢、望み、世界の為に狂い火の覇王となったアスラ。
その生き方は全く同じ。
比類なき力は、いつであろうと誰かの、何かの為に。
どれほどの苦痛が、苦難が待ち受けようと意に介すことは無い。
自らより大切な何かのため、誰かの為に。
例え、それがどれだけ困難な道であろうとも。
アスラ、そしてラスティはそういう男であった。
誰かの為に、その比類なき力を捧げる者達であった。
【オオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!】
故にアレは、力に溺れた姿でも狂い果てた姿でもない。
完全なる透徹した理性により、完璧なる徹底した決意により果たされた【約束】の姿。
マリカと世界に示す、最後の姿。
新世界の礎となるための、死装束。
狂い火の覇王として討たれる事により、世界に狂い火の種火は完全に途絶える。
それがアスラが自らの人生の果てに選んだ運命の死。
それこそが、アスラが世界に捧ぐ愛であったのだ。
『……この世界に、私の王がいない理由が解ったよ』
寂しげに、哀しげにラニが呟く。
『自らの全てを、狂い火を制するために捧げたのだな』
最早人とは触れ合えぬ。最早誰かと語り合うことは叶わぬ。
それはまさしく、一人の存在個人としての死に他ならない。
『残念だ。異なる世界の私の王がどんな存在か、見てみたかったのだが』
レナラ譲りの、情深き夜の魔女は、哀しみを隠すこともなくそう告げた。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】
最早意識は介在していないのか、叫び狂い充溢した黄色い狂い火を撒き散らすアスラ。狂い火の覇王。
『……あれは全てを焼き溶かす狂い火だ。排除しなくば、今までの歩み諸共焼き払われる事となるぞ』
ラニが顔を上げ、促す。
『そうだろう、マリカ。お前達の取り決めは、大方そのようなものの筈だ』
ラニは見抜いていた。マリカのその目論見を。
『そうだ。アスラはその身に狂い火を宿し、そしてそれを制した。今、狂い火の根幹はアスラの内にある』
それを討てば、この世界から狂い火は完全に消え去ることとなる。それこそが、マリカとアスラの目論見。
『ヤツを討てば、真なる黄金樹の世界は完遂する。それが……』
『それでいいのか』
『!』
ラニは、マリカに問うた。
『それでいいのか。満足かと聞いている』
『………ラニ』
『私は不足だ。これ以上、家族の不和やお家騒動など御免被る。何より…』
ラニはラスティに、そっと覆いかぶさる。ミケラと、ゴッドウィンのように。
『異なる世界と言えど、あの方は私の義父なのだ。殺す事など容認できるものか』
その言葉には、ラダゴンには決して見せぬ親愛があった。
母を裏切った血の繋がっただけの父など、永劫に許すことはない。
しかし、自らの愛する男の父であるならば、それは自らの愛する父も同然。
『お前たち。アスラを救うぞ。神の勅令だ。嫌とは…』
「言わせない、でしょ?大丈夫!」
ラニの言葉に、力強く応えしはリッカ。
「言うつもりもないから!」
「リッカ……」
「マリカママ、世界は新しく生まれ変わったんでしょ?なら古臭い理だって捨てちゃおうよ」
何かを成すには、何かを捨てねばならない。
何かを果たすには、誰かを犠牲にしなければならない。
そういった、奇跡や成果に対価を要求する世界の理。
「マリカママも、黄金の一族も夜の一族も、皆纏めて幸せになる!私達が掲げる世界の律は、そういうものだよ!」
リッカの力強い宣言に、そこに居る皆が頷く。
「だからマリカママも諦めないで!」
「…!」
「誰もが幸せになる世界!完全無欠のはっぴぃえんどを、皆で迎えようよ!」
一同が、戦闘態勢を取る。
倒し、殺す為の戦いではなく。救う為の戦いを。
『………でも…』
【おーい!】
『!!』
その時、マリカの耳に飛び込んできたのは知己の声。
【マ〜〜リカ〜!】
『!!』
それは、もう二度と会えないと思っていた…
【久しぶり〜!】
【此処に来て自らを偽らないで良いはずだよ】
【成すべきではなく、成したいことを成せ!】
『ラトリア…!グィネヴィア、シフ…!』
壺にされる為、攫われてしまった友達。
奇跡は、起きていたのだ。
「マリカ」
『!』
そして、傍らには王、ホーラ。
「救うぞ。我の友、お前の親愛を受けし男を!」
最早、何もかも諦めることはない。
全てが救われる未来は、すぐそこにある。
『────解っている!』
熱い涙を拭い…
『誉れ高き、誇り高き戦士達よ!今一度、女王の名の下に戦え!』
マリカは、女王の激を告げる。
『全てを、救わんがために!』
最後の戦いが、始まった。
ミケラ『…………』
マレニア「兄様!」
ミケラ『…マレニア……』
マレニア「良かった、ご無事で…!」
ミケラ『……やはり、僕には…』
マレニア「!」
ミケラ『何も、出来なかったみたいだ…』
マレニア「兄様…」
?『諦めるのは早すぎるぞ、ミケラ』
ミケラ『!』
ゴッドウィン『神なのだろう?ならば天地開闢の戦いに参加するのが道理だろうが!』
ミケラ『……ゴッドウィン、兄様……』