人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アダム「地下鉄?」
ヒカリ「スオウが言ってた〜。地下鉄に乗って行けって〜」
ノゾミ「実は人も待たせてるんだよねー。ま、付いたら謝ればいっか!」
アダム「成る程、周りを振り回す奔放さが魅力という訳だな」
ヒカリ「みりきのかたまりー」
ノゾミ「じゃあレッツゴー!」
地下鉄前
?「ど、どこに行ってたんですか…!非常事態っていう自覚はあるんですか…!?」
ヒカリ「御立腹だー」
ノゾミ「まぁまぁ、怒らないでよ。とびきりの凄い助っ人呼んできたんだから!」
?「助っ人…?」
アダム「それはこの私、アダム・カドモンだ」
?「うえぇ!?あ、あのアダム・カドモン先生…!?ほ、本物ですか!?」
アダム「アダムは二人いる。正確にはこの世界のアダムでは無いのだが今はいい。君の名は?」
アオバ「う、内海アオバ。二年生です…よろしくお願いします…」
アダム「あぁ、よろしく」
アオバ「…私なんかによろしくされたって、嬉しくなんか無いでしょうけど…」
アダム「…?」
ノゾミ「あ!地下鉄来たよ!」
ヒカリ「のりこめー」
アダム「ではアオバ、行くとしようか」
アオバ「は、はい!」
「うおー、ゆれるー。人生のようにー」
アダム達は消えた列車を追いかけ、地下鉄へと乗り込む。その間、アダムはスオウからの始末書と報告書に目を通していた。
「ま、地下鉄ならこんなもんじゃん?列車なら揺れないのにねー」
「あ、あの…仮にもハイランダーの制服を着ている身でそういう事は言わないほうが…」
「なんで?事実じゃん」
「事実でも…TPOとかあるじゃないですか…」
「別に遠慮すること無いでしょ?誰に言ってるわけでもないし!」
「…なんでこんなのが幹部やれてるんだろう…」
内海アオバ。ハイランダー鉄道学園所属整備士。
トラブルや設備故障に事欠かないキヴォトス鉄道業界における修理工として、絶望的な激務にも真面目に取り組む日々を送っているが、それが評価される事も改善される気配もないという不憫な人物。
さらに所属部署の体制も非常にブラックな為、一部業務用の紙などさえ私費で購入しなければならない苦労人。
修理工としては優秀だが事務員としてはあまり優秀でなく事務仕事は苦手。
「吊り革回転ー、インフィニティスピンー」
「パヒャヒャ!10点、10点、10点!」
「はぁ……」
当然ながらそんな過酷かつ悪辣な環境から、内部に溜めているのは鬱憤、鬱屈、怨恨の類。小さな声音で毒を吐く毒舌家な面がある。
そしてさらに妥当ながら、日々を破天荒に生きるヒカリとノゾミは苦手の部類に入る。今回の事件もひょんなことから白羽の矢が立ったようだ。
「ヒカリ、公共の施設では例え空いていようと周囲に迷惑のかかるやもしれない行為は自粛しなくてはいけない。ノゾミも、大声は想像以上に不快に受け取る者もいる。トーンダウンだ」
「はーい」
「ごめんなさーい」
「せ、先生の言う事は素直に聞くんですね…。やっぱり、アダム先生くらいに有名にならなきゃ出世なんて…」
ヒカリとノゾミは向かい側に座る中、隣り合うアダムにアオバは口を開く。
「あ、あの。アダム先生。御迷惑でなければ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「私にか?勿論だとも。どうした?」
アダムに、アオバは憂いた眼差しを床に落とし告げる。
「どうして、アダム先生は先生を頑張れるんですか?」
「先生を…頑張れるか?」
「は、はい。……先生と生徒、って言ったって、早くて三年には卒業して、離れ離れになってしまうじゃないですか」
地下鉄の暗い窓に、アオバの小さい身体が映る。
「卒業したら、自分の事で手一杯になって、そのうち先生の事なんか忘れてしまう。ううん、むしろ卒業できたら良い方で、退学や停学になるかもしれないし、いじめや不登校とかの問題まで…」
「……………」
「先生がどれだけ頑張っても、その頑張りが受け取られるとは限らない。手塩にかけた分だけ、裏切られた時の失望は大きくなる。それじゃあ、最初から期待なんかしなければいいじゃないですか」
照明で、照らせない諦観が口をつく。
「エデン条約の件は私なんかでも知ってます。でも生徒にとって必ずあなたは『昔いた人』になってしまうのに…たった三年間の為に、どうして、アダム先生は頑張れるんですか…?」
アオバの問いは、アダムという大人への不信や疑問のカタチなのだろう。
どうせ責任なんか誰も取らない。期待し頑張っても報われない。
なら何故、頑張るのかと。
「知れた事だ」
だが、アダムは照明を見あげる。
「その三年間が、全てを懸けるに値するものだからこそ。私は全身全霊を懸けるのだ、アオバ」
「え……?」
まるであっさり、あっけらかんと告げた答え。それは一体と告げる前に…
「ついたー」
「降りよ!先生ー!」
「また後で話そう」
「は、はい……」
アダム達は、件の特急暴走の駅へと到着するのだった。
〜
結論から言えば、特急は尚も行進を続け追いつくことはならず。
上り線を走行しているという情報から、追いつくためにバスを利用しなければならなくなってしまった。
その為四人は、バスを待っているのだが…
「バス来ないんだけど!?」
「歩いた方が速い〜?」
時刻表の時間に有りながら、バスは到着せず。ノゾミ達は声を荒げる羽目となった。
「…………………………」
「アオバ、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
バスという単語が出てきてから、アオバの口数が少ない事に気づいたアダムはアオバを慮る。
「は、はい。じつは私、乗り物酔いが酷くて……」
「ふらふらー、げろげろー?」
「はい…車とかバスとか想像しただけで、おぇっ………」
「これだから車は。列車なら酔わないのにねー?」
「だから、ハイランダーに入学したんです……」
「そうだな、即席の酔い止めならば作るか買うかができるのだが…」
逡巡の間に、漸くのバスがアダム達の前に現れる。
「バス来ちゃったよ!」
「先生、私は大丈夫です…。我慢出来るうちに、早く…!」
「本当に無理ならば伝えてほしい。父に何とかしてもらおう」
こうしてアダム達を乗せたバスは、次なる駅へと向かうのであった…。
〜
「5分も遅れてるじゃん!?」
「わはは、すまんすまん。渋滞にぶつかってな!」
「車は脆弱〜」
「列車ならこうならないのにねー」
「バスにはバスの良さがあるもんさ。ともあれ、出発!」
アダム達を乗せたバスは動き出し、次なる駅、目的地へと向かう。
そんな中、青い顔で蹲るアオバにヒカリが語りかける。
「背中トントンしてあげるー」
「お、お構いなく…」
「ヒカリ108式、サウザンドハンマー(ぺちぺち)」
「や、やめてくださ…更に気持ち悪く、うっ……」
「パヒャヒャ!ビニール袋いる?いつでも言ってね!」
言葉に違わず、アオバの車酔いはかなりの酷さだった。顔色も悪くなるばかりなほどに。
「やむを得ん。───父よ」
『おや、どうかした?バス通勤なんて珍しい』
「癒しの力を此処に」
『あぁ、車酔いか。ラファエルの翅でいいかな』
シッテムより送られた青い羽を、そっとアオバに託すアダム。
「あ、あれ…?気分が、楽に…」
「まじないをかけた。暫くは大丈夫な筈だ、アオバ」
「あ、ありがとうございます…!そ、そんなスピリチュアルかぶれだとは思いませんでしたけど…」
気分が直ったアオバに興味を失ったのか、二人はバス運転手の方へと向かっていった。アダムはアオバの背を擦りながら告げる。
「では気を紛らわすついでに、先の質問の答えを返そう。何故先生は頑張るのか、頑張れるのかという質問を問いかけたな?」
「は、はい……」
「それは当然、私の望む『未来』や『理想』に進む為だ。私の思い描く夢や理想に辿り着くには、頑張る他に道はない」
アダムは迷わずに告げる。
「誰かの為に。それ以上は私は私の為に頑張っている。いくらでも手は抜ける。いくらでも怠けることはできる。そしてそれらは悪ではない。誰であろうと、楽な方が好ましいのは当然だ」
「それなら、どうして…」
「だが、手を抜いた先に私の理想はない。怠けた先に未来はない。私の望む未来と理想は、一生懸命頑張った先にしか無いというだけの話なのだ」
単純だろう?アダムは笑った。
「更に言わせてもらえば、君達の人生における『青春』の三年間を任せてもらえているのだ。1日たりとも無駄になどできない」
「…!」
「たった三年だと、私はそうは思わん。子供から大人になる寸前の極めて大切な期間。君達の人生の大いなる糧や導になれるよう、藻掻き足掻くには十分すぎる三年だ」
そして、その言動に揺らぎは決してない。
「たった三年ではない。大切な三年だ。私は君達生徒が大いなる羽ばたきを以て飛び立てるよう、日々に全身全霊を尽くし続ける。私の全ては、それだけのものだ」
バスは止まり、目的地につく。
「裏切られ、失望に傷付くのが怖いか?アオバ」
「…!」
「ならば証明しよう。私は決して、期待と信頼を裏切ることはない男であり先生であると」
アダムがアオバに手を伸ばす。
「騙されたと思って、というやつだ。よろしく頼む、アオバ」
「…………変な、人ですね」
アオバはおずおずと…
アダムの手を握るのだった。
ノゾミ「やっとついたー!」
ヒカリ「おのれ、ぼーそーぞくー」
アダム「道理でバイク通行が多いわけだ」
ノゾミ「まぁいいや!スオウにどやされる前に回収しにいこ!」
ヒカリ「じんそくー」
アダム「たまには鈍行も悪くないな、うむ」
アオバ「……………」
胸に抱く、怨恨や鬱屈以外の何かを知ってか知らずか…
アオバはじっと、アダムを見つめていた。