人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アダム「波乱の事態となってしまったが、ノゾミ達に怪我が無くて良かった」
パパポポ『お前も気が利くようになった。その気になれば電車を原子分解すら出来ただろうに』
アダム「生徒達が教えてくれたのだ。力付くで済ませてはならない、労るべき命があるのだと」
パパポポ『お前も、成長しているのだな。…大天使達の修復、特にジブリールも可能ならばなんとかしなくてはな』
アダム「オルガマリーから聞いたが、魔術世界ではルシファーたちのような天使はあくまで器…存在する神霊ではないらしい」
パパポポ『魔術世界は夢が無いッポね〜…』
アダム「価値観の相違。面白いものだ。…ん?」
アロナ『むにゃむにゃ…』
モモトーク『やほー。夜分にごめんね、おじさんだよ〜』
アダム(ホシノ…?)
モモトーク『ちょっと、お話してもいいかな?』
アダム『……あぁ、勿論だ』
「という訳で、来たよ〜。やほー、アダム先生〜」
深夜、生徒達も帰った折。深夜のシャーレにやってきたのは小鳥遊ホシノ…アビドスの三年生、先輩たる存在であった。
「夜更かしとは悪い子だな、ホシノ」
「うへー、それは言わない約束だよ〜」
気まずげに笑った後、ホシノはソファのアダムの隣に座りこむ。
「ホシノ…?」
「アダム先生、またアビドスの為に頑張ってくれたんだって?オルガマリーから聞いたよ〜」
これは余談だが、オルガマリーはアダムの活躍を秘密裏に映像化。ブラックマーケットの様子映像として確保していた。
「本当にありがとね。アビドスの皆を代表してお礼を言うよ〜」
「フッ、どういたしましてだが気にする必要はない。何故なら」
「これが私のやりたいこと、だから?」
「そういう事だ」
互いに笑い合い、やがてホシノはアダムの膝に身を預ける。
「…夢みたいだよ。このまま行けば、在学中に…アビドスは蘇るんだもん」
「ともすれば、アビドスはかつての隆盛を極めた時代に立ち上る。胸が熱くなるというものだ」
「………………」
「ホシノ?」
「……ね、先生。おじさんには、昔『先輩』がいるって…話したっけ?」
アダムはホシノの神妙な口調に、茶化すことなく答える。
「いや、詳しくは」
「やっぱりそうだよね。話した覚え、ないからさ。……先生には、とっても感謝してるから」
ホシノは身体を仰向けにし、アダムを見つめる。
「聞いてくれる?私の『先輩』だった人。……もう二度と帰ってこない、大切な先輩だった人のこと」
アダムは、ホシノの頬をそっと撫でた。
「聞かせてくれ。君の『先輩』の話を」
「───うん。あんまりお話、上手じゃないから…そこは許してね?」
そしてホシノは語る。
かつて、懸命にアビドスを蘇らせようとし…
生命を散らした、一人の先輩の話を。
〜
ホシノがアビドスにやってきた頃、既にその地は荒れていた。
度重なる砂嵐、それから逃れるために去っていく人々。かつての隆盛は見る影も無く、治安も人心の様に荒れ果てていた。
自分が入学し、特に目標も無く放浪していた際に出会った一人の生徒…。
それが、『梔子ユメ』。
誰もが逃げ出した責任、押し付けられた裸の王様の『アビドス生徒会長』。
襲われていた所を助けた所から気に入られたホシノは、ユメと共にたった二人での『アビドス生徒会』を結成した。
また、アビドスに沢山の人が来てくれるように。
また、アビドスに緑が満ちるように。
また、アビドスに沢山の生徒がやってきてくれるように。
ビラ配り、清掃活動、借金返済の為の資金稼ぎ。
砂漠の水脈探しなど、やるべきこと、やらなくてはならない事は山程あった。
どんな苦境、どんな困難であろうと『ユメ』は笑顔であった。
いつかきっと、努力は報われる。
必ずいつか、私達の努力は実を結ぶ。
いつかきっと。負けずに頑張っていれば。
いつかきっと。めげずに頑張っていれば。
いつかきっと…
いつか────。
…それはある意味、心と精神が誰よりも強かったのだろう。
出口のない暗闇を、きっと出口があるはずだからと走る才能。
光を信じて、駆け抜ける才能。真の強さ。
ホシノの先輩たるユメは、それを兼ね備えていたのだ。
だが……。
『いい加減にしてください。ユメ先輩』
ホシノが見ていたのは現実であった。
『どれだけ夢物語を、叶いもしない現実を追い続けるんですか』
残酷で、誰も助けに来てくれない現実だった。
『いつかは、またいつかはって。私達を助けてくれる人なんて何処にもいない!』
『ほ、ホシノちゃん…?』
『いつまでも騙されて、いつまでも押し付けられて!ユメ先輩はそんな生き方で満足なんですか!?』
ホシノは誰よりも強かった。
どんな敵も、どんな戦いにも勝利してきた。
『いい加減、自分の現実を見てくださいよ先輩!』
だが……
『もう何もかもどうにもならない、手遅れなんだって!先輩のやってきた事は全部無駄なんだって、悪足掻きをやめて受け入れたらどうなんですか!?』
残酷なまでに聳え立つ『現実』という怪物に……。
目が潰れ、膝が折れ、心が屈してしまい。
『ホシノ、ちゃん……』
未来永劫にまで刻まれし、傷となる言葉を告げてしまったのだ。
〜
砂嵐が巻き起こっていた。
砂嵐だけではない。雷雲が無数の落雷を叩き落とし、アビドスを焼き払った。
「なに、あれ………」
ホシノは見た。
アビドスを襲った、天変地異の根源たる存在。
暴風と天雷を統べる嵐の神秘。
『セト』と呼ばれる、アビドスに顕現した暴威。
あれこそが、アビドスを蝕み続けた嵐の根源であると。
「ユメ先輩………!!」
謝ろうと思った。参っていた精神が吐き出した暴言をホシノは恥じていた。
だが、アビドスの学園に現れたセトの眷属に対処しなくてはならず、彼女と話すことは叶わなかった。
「ユメ先輩!何処ですか、ユメ先輩!?」
だが、ホシノは強かった。100対1の戦力差であった眷属達を、一人で撃退した。
彼女は探した。ユメの姿を。
心優しく、鈍臭く、間抜けでおっとりとした先輩を探した。
彼女は学園にはいなかった。
「…………───ユメ先輩………?」
ホシノは見た。遥か遠くからユメの姿を見た。
災厄の化身。アビドスを滅ぼさんとする神秘、神とすら称される存在。
そのセトと、『一対一』で互角に戦っているユメの姿を。
「ッ、先輩っ!!」
ホシノは走り出した。嵐は増し、雷雨の中を走り出した。
「先輩!ユメ先輩……!!」
その戦いは、想像も出来ぬほどに鬼気迫るものだった。不良にすら危ういほど、戦いを好まなかった筈の彼女が。
嵐の神が如き神秘と、真正面から戦い、圧倒すらしていたのだ。
だが、嵐の中心にいる彼女はあまりに遠い。
加勢は、間に合わない。それでもホシノは歩みを止めなかった。
雷鳴が轟き、暴風雨が荒れ狂う。自分の耳には、嵐の音しか聞こえない。
懸命に歩いた。懸命に進んだ。
そして─────。
「………!」
空が、晴れ渡る空が現れた。
「ユメ先輩…!!」
勝ったのだ。そう確信した。
あの先輩が、神たる化身にすら打ち勝ったのだ。セトは、消え去っていた。
「凄い、凄いですよユメ先輩!なんで、なんで今まで…!」
沢山褒めようと思った。
沢山謝ろうと思った。
やり直そうと。今度こそ先輩を信じ抜きますからと伝えようとした。
だが─────。
「ぁ……ホシノ、ちゃん────?」
盾にもたれかかるユメの、頭に浮かぶヘイローは……。
粉々に、砕けていた。
「ユメ先輩ッ!!!」
抱き抱える。体温が、温もりが、抜け落ちていく。
「どう…?ホシノ、ちゃん。私、やったよ。アビドス……護れたんだよ………」
「喋らないでください!もう、喋らないで…!」
「ねぇ、ホシノ、ちゃん……」
「喋らないでください!今、医者に……!!」
ヘイローは砕けている。
もう、助からない。
「ちょっと待ってくださいよ……!!こんなの、こんなのってありますか!?」
「泣かないで、ホシノちゃん……」
「じゃあいつもみたいに、笑ってください…!馬鹿みたいに明るい笑顔で、笑ってくださいよ…!!」
ユメは、言葉を紡ぐ。
「ありがとう、ホシノちゃん」
「え………」
「私、ホシノちゃんに会えて……幸せだったよ……」
「やめて、やめてくださいよ……!!最後みたいな、お別れみたいな事言わないでください!」
「…………ごめんね、だめな先輩で……ごめんね……」
「謝るのはこっちですよ!!土下座でも何でもします!逝かないで、死なないでください!お願いですから…!!」
「盾と………手帳……。よろしく、ね………」
「背負えませんっ!!あんな重いの、背負えませんってば………!!」
「手帳は………………たてと、いっしょに………」
「…………先輩?」
「………………」
「……ユメ、先輩………?」
「…………せん、ぱい………?」
………ユメは、死んだ。
自らの生命と引き換えに、アビドスと、その未来を守り抜いた。
ホシノは、謝罪を告げられなかった。
永遠の離別は、無念と悔いしか残らなかった。
盾は、自分が引き継いだ。
ユメのいう『手帳』は、まだ見つかっていない。
ユメとは、永遠の喧嘩別れとなってしまった。
ホシノは今も生きている。
ユメが護ろうとした学園と、アビドスと共に生きている。
……死んだように、生きている。
ユメは、最高の先輩だった。
だが、届かない場所に行ってしまった。
どれだけ見上げようと、どれだけ羽ばたこうと届かない場所に…。
自分を置いて、逝ってしまったのだ。
ホシノは今も生きている。
死んだように…。
ただ、生きている。
アダム「ホシノ………」
ホシノ「……アダム先生が来てくれたお陰で、ユメ先輩の理想は叶おうとしてる。かつて以上のアビドスが、もう目の前にある」
アダム「………」
ホシノ「………今から、私は最低な事を言うよ。でも…」
「それは、心の底からアダム先生を信じているから。アダム先生なら、受け止めてくれると確信したから…」
アダム「……遠慮なく、言うといい」
ホシノ「…………………どうして………………」
涙が、浮かぶ。
「……どうして…………もっと早く……助けに来てくれなかったのさ…………」
解っている。
こんなのは、ただの八つ当たりだ。
アダム先生に、何にも悪いことはない。
アダム「……すまない」
信じている。
心から、アダム先生を信じている。
ホシノ「あそこにアダム先生がいてくれたら…。アダム先生みたいな『立派な大人』さえいてくれたら……ユメ先輩は、今もきっと……………」
だから、これはホシノの弱さと、甘え。
誰にも、仲間にも見せなかった癒えない心の傷。
「すまない、ホシノ…」
きっと、アダム先生はこれからも全てを上手くいかせてくれる。
最高の未来を、見せてくれる。
ホシノ「……ごめんなさい、アダム先生…。あなたに、紹介したかった……」
だからこれは、幼稚な八つ当たり。
頼れる大人に甘えた、精一杯の心中の吐露。
「ごめんなさい、アダム先生…ごめんなさい、ユメ先輩……。本当に、本当に……ごめんなさい…………」
アダム「……………」
アダムは、ただホシノを受け入れた。
ホシノの、抱えていた哀しみと絶望を。
『あなたがいてくれたなら』という、希望が生み出した八つ当たりを、静かに受け入れた。
その心からの吐露が続き、終わる頃には…。
「すぅ……すぅ……」
ホシノはアダムの膝の上で、安らかな寝息を立てており。
アダム「…………私は過去を変えられない」
ホシノ「すぅ……」
アダム「だが、過去を今に、よりよい未来には繋げられる。……誓うぞ、ホシノ」
彼女を抱き上げ、告げる。
アダム「亡きユメ先輩の夢見たアビドス。必ずや実現させてみせると」
アダムが抱えるホシノの寝顔は…
消えぬ涙の跡を刻んだ、とても穏やかなものであった。