人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ホシノ「ぁ………」
(……寝てた?私…?最近寝るなんてこと、無かったのに)
ホシノ「…アダム先生…」
(運んでくれたんだ……)
(………)
「……アダム先生が、信じる大人。オルガマリーや、カルデア」
「……信じて、みようかな」
(待たせてごめんなさい、ユメ先輩。やっと…)
「やっと、踏ん切りが…つきそうです」
『アビドスを襲った嵐の神格…それにそれを打ち払ったユメという生徒か…』
アダムは、極秘裏にホシノから受け取った情報をパパポポと共有する。
「ホシノが観測した、セトとされる神格。黒服達は神秘の照合はそれに当たると言っていた」
『エジプト神話の嵐の悪神。オシリスと神々の王を巡り争い、ついには殺めたとされる旧き神…成る程、アビドスに仇なした事も頷けような』
パパポポは唯一たる神とされているが、彼にその様な傲慢さは当然ない。慈悲深き様相であり、彼もまた、ティアマトがもたらした王権の光が神となったもの。神を否定する筈がない。
『しかしそれは正真正銘、生徒のカタチを成さぬ荒ぶる神だ。まさかそれを、たった一人で討ち果たすとは……』
「ユメという生徒は、護る為に全ての力を発揮したのだろう。後輩を、学校を、アビドスを護り抜く為に」
『……神を宿した神秘の人。それはまさに、救世主たるに相応しい存在だ』
パパポポは静かに感じ入り、静かに痛み入る。
『……哀しい。そんな未来溢れる存在が、成長することもなく、学生から大人になることもなく、命を落とすなど…』
「─────…………………」
『……アダム。何を考えている?』
アダムは前を向いていた。
そこには、悲嘆も苦悩も、存在してはいない決意に満ちたもの。
「セトを討ち果たしたユメ。ホルスと呼ばれしホシノ。であるならば、ユメの宿せし神秘はオシリスで間違いない」
『それはそうだな。互いに弱点、互いに特効を持っていたのだろう。故に、オシリスが齎した世界をセトは侵し、オシリスはセトの嵐を打ち払った』
「─────………」
『…アダム、まさか、お前は……』
「父よ、予め言っておく」
アダムは静かに告げる。
「私は、生徒…。私の知る生徒達の全ての哀しみと絶望を討ち果たすためならば。あらゆる道理を越えるだろう」
『お前……』
「オシリス。ユメにしか許されない『奇跡』は…まだ、行使されていないのだから」
パパポポに、アダムは告げる。
「ユメはアビドスの全てを救った。それは、世界を救ったに等しい。その『報酬』は……受け取らなくてはならないからな」
『………フッ。仮にも神の前で道理を越えるとは、流石は偽神を討ち果たした男だ』
「不可能か?」
『いいや。お前には、お前にだけは。その資格があるとも』
パパポポは、その答えに言葉を返した。
『だが言っておくぞ。『蘇生』はできん。死者は蘇らない。これは不文律のルールだ』
「あぁ」
『死者の『蘇生』を許せば、前例を残せば世界はそれを理とする。やがて生者と蘇生者で、世界は溢れ滅びる』
「その通りだ」
『『新しく』『生きる』道を探せ。それがどれほど苦難でも、どれほど困難でも。お前には、それを行う『義務』と『責任』がある。涙を拭うと、決めたのならば』
「勿論だ」
『───誰かを頼るのを忘れるなよ、アダム』
「当然だ、父よ」
アダムの言葉は少ない。
しかし、彼の目には確信が在った。
「時に父よ、我が娘、リッカに宿るジブリールの事だが」
ジブリール。偽神に抗い、神への忠義を貫いた大天使。
彼女の翅……神格と霊基は、リッカの内にあった。アダムとイヴの遺伝子により生まれた彼女を、祝福していたのだ。
『彼女は大天使の祝福を宿していたが故、無病息災であり、その身の全てを振るい呪の中で何も喪わなかった。それもジブリールの、格の高さによるものだろう』
「彼女は、祝福と共に産まれたのだな」
良かった、とアダムは笑う。彼女は、ジブリールに祝福されて生まれた。
大天使に祝福されし始まりの人類の子。彼女の来歴に、アダムは安堵する。
『だが、それゆえにジブリールの復活は難しい』
パパポポがフレークを啄む。ジブリールの再顕現のために必要な『翅』の回収がほぼ不可能であるのだと。
『ジブリールはその全ての祝福と翅を彼女に注ぎ込んだ。故に彼女の身体能力、生成魔力、オルガマリーから託された魔術回路の適合、悪神の憑依と言った全ての素養が齟齬を起こさず調和している』
「それは最早、リッカには必要不可欠なものだと?」
『そういう事だ。異なる世界では…これを観ろ』
パパポポは自らの『FGО』のアカウントのフレンド画面を見せる。
『『メタトロン・ジャンヌ』。ジャンヌ・ダルクの外装を纏いしメタトロンが顕現しているのが解るか?』
「なんだこのものぐさは…」
『今のリッカ…彼女はこれと同じ、或いはそれ以上なのだ。後天的にゲーティアに宿されたアンリマユ、アジ・ダハーカの前に彼女はジブリールを宿していたと言っていい』
言うなれば、それはジブリール・リッカとも言うべき大天使の霊基を有すること。彼女もまた、偉大なる大天使に連なる可能性を秘めているに等しい。
『故に、彼女の翅は切り離せないのだ。ジブリールは既に、リッカの魂そのものと寄り添っている。彼女とは、離れられない程に』
「リッカは言わば、転生したジブリールとでも言うべき存在という事か」
『そうだ。翅という祝福を受精卵に取り込んだ事から、ジブリールの人格が彼女の中にも生まれることはない。覚醒したとして、彼女の中にもジブリールは生まれることはないだろう』
ジブリールが、生まれる子に翅と共に託した『無償の愛』
『今の時点では…ジブリールは悪用されることも、転生することもない。彼女の魂を、人生をただ支えるのみだ』
彼女だけに託した祝福。彼女に全て捧げた大天使の全て。
『……言うなれば、彼女こそが真っ先に目覚めたのだろう。愛という、素晴らしき自我に』
それが結果的に、世界を悪龍、悪神と共に救った。
『父として…誇りに思う』
それが、パパポポがジブリールに贈る福音であった。
「そうだ。ジブリールは祝福し、リッカとして『新生』した」
『!』
「ジブリールは『新生』の守護天使としての属性を獲得し、理とした。この事実こそが、我々に福音を齎す」
「『新生』……アダム、まさかお前は…」
「今はまだ話さないでおこう。だが、私は既にホシノの笑顔を取り戻す準備は出来ている」
アダムは虚言を口にしない。
「待っていろ、ホシノ。新しいアビドスを見届けるのは『君達』なのだから」
(そしてありがとう、我が娘。君のお陰で、私は無理を通せそうだ)
ただ、確信を持つのみである。
【今ジブリールの話しした?】
『私達の、大切な友のお話を…』
『ポ!?』
その時現れたのは、サタン並びにサリエル。ジブリールの友だった者達。
『いきなり来たな、ビックリしたッポ…』
【ごめんよお父さん。ルシファーの翅はエアにあげたからサタンで来ちゃった】
『主よ。これを貴方様に』
サリエルとサタンが渡したもの。それは翅の欠片。
『これは……メタトロンと、サンダルフォン…?』
【残骸から引っ剥がした彼等の鋳型さ。傑作な事があってね】
「傑作…?」
【そうだよ!別の世界のメタトロン、事もあろうに自分の言葉を父さんと同じだなんて宣ったんだ!いやぁ、傑作だったよ!】
『汎人類史を、私が嫌いだから滅ぼす。私の言葉は、主と同じであると』
【あはははは!神に侍る大天使が事もあろうに神を僭称したときた!一気にメタトロンが好きになってね!翅を回収したんだ!あ、サンダルフォンはついでね!】
『ルシファー?(チャキッ)』
【おっと、怖い怖い。どう?お父さん?汎人類史は滅ぼしていいの?】
『───何を馬鹿な』
パパポポは毅然と応える。
『遍く全てに光あれ。『滅びた世界』はあろう。『滅ぼされた世界』も『滅ぼした』世界もあろう』
「………」
『だが『滅びていい』『滅ぼしていい』世界などはない。遍く世界に、生まれし全てに祝福在れ。それが変わらぬ、私の意思だ』
『あぁ───主よ……』
【はいはい。じゃあこれ、使ってよ。偽神に生み出された天使にも、光はあるべきだろ?】
パパポポに翅を託し、サタンはアダムに告げる。
【何をする気かは知らないけど、やるべきことをやるといいさ】
「!」
【一回神を殺したんだ。君だけが、ルールを越える資格を持つ。神殺しってのはそういう事さ】
「………」
【頑張りなよ?アダム『先生』。この美しい都市と、生徒達のためにね】
「美しい。そう見てくれるのか?」
【僕にとっては、ね?】
「─────そうか。ありがとう、『ルシファー』」
明けの明星の名を呼ぶアダムに…
サタンは困ったように、苦笑するのだった。
アビドス生徒会室
オルガマリー「ここは……対策委員会とは別の…」
ホシノ「────!」
オルガマリー「むぐっ、ん…!?」
(クロロホルム!?これ、は────)
〜???
ホシノ「オルガマリーさん、起きて」
オルガマリー「……はっ!?」
ホシノ「手荒な真似して、ごめんね。万が一にも、漏らせない秘密があるんだ」
オルガマリー「ホシノちゃん……」
ホシノ「カルデア所長のあなたに………」
「……託したいものが、あるんだ」
オルガマリー「カルデアに…?」
『棺』
オルガマリー「それは、棺…?」
ホシノ「……オルガマリーは、アダム先生が信頼する大人」
「だから私も…信じることから、始めるよ」
オルガマリー「その棺には…何が?」
「2年前、死んだ私の先輩」
「!!」
「梔子ユメ。その亡骸だよ」
オルガマリー「なっ………」
ホシノ「見てみて。アダム先生には、内緒だよ。あなたは、裏方がメインらしいからね」
オルガマリーは、棺を除く。
オルガマリー「えっ………!?」
そこに収められし『ユメ』の遺体。
ホシノ「先輩。…お引越しですよ」
まるで眠っているかのようなその遺体は…
「少しだけ、我慢してくださいね」
腐敗も、損壊も無く。
ただ眠っているかのように、目を閉じていた。