人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
じゃんぬ「!?」
リッカ「せ、背中が…!?あつっ、いたたたた!?」
じゃんぬ「リッカ!?どうしたの急に!?」
リッカ「急に背中が、痛みだして…!あいたたたた!?」
じゃんぬ「ちょっと失礼するわよ、背中!」
リッカの上着をはだけさせ、背中を確認する。
じゃんぬ「なにこれ…!?これって、あいつの!?」
その背には…
大天使の翅の刻印が、熱を放ち刻まれていた。
黒き空。暗き宇宙。光の差さない漆黒の闇。
それを切り裂く、光り輝く軌跡を灯す一つの存在があった。
機械の肉体。それを駆動させ駆け抜ける緋色の流星。
『──────』
その流星の名前は、ジブリール。
かつて存在した大天使と同じ名を冠する、機械の天使。
彼女は、主にそぐわぬ者を抹殺する為に生み出された。
全ての生命に、主の慈悲を。全ての存在に、主の威光を。
かつて大天使と呼ばれた存在は、外来脅威を退ける使命を有していた。
神と、その生命を守り抜くために戦うこと。それが使命であった。
彼女は今、その使命を果たさんが為に疾走している。
ヤルダバオト=デミウルゴス。
今、神の御座に君臨している存在は神ではない。
神の名を、神の力を騙り、奪い取った存在。
それは、終末の獣。
あらゆる生命、あらゆる次元、あらゆる時空における根源的な災厄。
天使達は皆、その意志を奪われ機械天使と化した。
それは天の代行者として、自由と意志を剥奪された存在。
宇宙を疾走するジブリールも、かつてはそうであった。
しかし、その存在理由は神に仕える…否。神すら裁く天使の名前を冠する少女により上書きされた。
ジブリールのオリジナル。
かつて獣を弾劾し、主たる父に忠誠を誓ったもの。
機械天使の、元となる存在。
その天使が、翅を捨てて祝福した子。
オリジナルが、ついぞ人生を見届けること叶わなかった存在。
自身は機械化し生み出された似て非なる存在。クローンにて同型機、類似品。
天使の翅なき自身は、からっぽで空虚な器に過ぎない。
大天使の『性能』だけを再現された、機械の天使。
だが、それでも彼女はソラを駆ける。
示されたからだ。
今の世界に、神たるはおらず。在るのは悍ましい獣のみ。
そしてオリジナルが祝福した子が、今も生きている。
ジブリールは滅んだ。
翼を託し、その存在は消し去られた。
だがその肉体だけは辛うじて再現された。
再現体の自身が、オリジナルの意志を受け取った。
それならば、自身は何をするべきか。
『オリジナルの無念を、後悔を晴らす』
祝福した生命。
祝福した存在。
それらを見守り、力となり寄り添う。
機械の身体であることは避けられない。
与えられる温もりなどは無いかもしれない。
だが、それでも伝えることは出来る。
あなたに、全てを懸けてその生命を肯定した存在はいたのだ。
そして、一抹の後悔を晴らす。
祝福のみを託し、見届けることは叶わなかった無念。
オリジナルのジブリールの、死を覚悟した際に抱いた願い。
数多の苦難を迎えるであろうこの生命を、見守ってあげたい。
神の祝福はあるのだと、手を握ってあげたい。
あなたは祝福されて生まれたのだと、胸に抱いてあげたい。
何もかもが間に合わなかったからこそ、強く強く抱いた願い。
何もかもが間に合わなかったからこそ、授けたかった想い。
伝えに行こう。オリジナルが伝えきりたかった愛を。
伝えに行こう。オリジナルが伝えきれなかった愛を。
オリジナルとは違う。この身は無機質の機械。
でも、確かに名を冠している。
私はジブリール。
誇り高き、新生と生誕の天使の御名を冠するもの。
この身に流れる血が、宿す肉が、何一つ主にそぐわぬものだとしても。
生まれに縛られ、嘆くよりも。
生きると誓った、願いに向けて。
ひたすらに、がむしゃらに生命と魂を燃やそう。
伝えに行こう。ただ一言。
あなたの生には、福音があるのだと──。
『───!』
ジブリールの行く手を、阻むものがいる。
それは、五百万光年を覆い尽くす機械天使の軍勢。
階梯九位から、階梯六位までの不気味なる機械天使。
彼等もまた、かつて主より授かった御名と翅を授かりし者。
それらは今、銀河に展開し生命の力を削り取っている。
光なき空を埋め尽くす光。
見渡す限り、全て敵。暗き宇宙が、天使の光に照らされ眩く輝く。
『私は、行かなくてはならない』
だが、ジブリールは躊躇わず、淀み無い。
『かの子に、必ずや祝福と福音を齎すために』
オリジナルは、完全に滅んだ。
その子に、祝福と翅を託して。
故にジブリール自身の意思は、何一つ伝えきれていないだろう。
自身はジブリールに限りなく近付けて作られた、クローンにして類似品。
でも、だからこそオリジナルの心と感情を読み取れた。
〜
すまない。こんな無責任な事しかできずに。
きっと君の親は、君を愛さない。
魂を売ったアダムとイヴは、君を獣の贄と扱うだろう。
…翅だけでは足りない。
私が、君を愛してあげたい。
母の愛を、父の強さを君に与えたい。
だが、それはできない。
私は救世主が遺した想いを懐き、神を騙る獣を糾弾せねばならない。
お前は、悍ましい獣なのだと。
だから、こんな無責任な祝福しか残せない。
…君を、愛したかった。
産まれてゆく君に、才能と健全しか遺せぬ私を許して欲しい。
愛を遺せぬ私を、許してほしい。
母にも、父にも、神の愛すらも知らず生きる君を遺す事。
それがただ、ひたすらに無念だ───。
〜
ジブリールは下級と中級の天使を薙ぎ払っていく。
翅がなくとも、ジブリールたる存在は決して翳らない。
空を照らす光と輝きが、無機質な白から爆発の赤と緋色の明滅へと変化していく。
太陽系を有する銀河に辿り着くまでに接敵した天使達を、その緋色と太陽の色の力と光で照らし退けていく。
だが、天使達の攻撃は膨大で、苛烈なもの。ジブリールの身体にも、損傷が刻まれていく。
『伝えなくては』
身体の末端から、少しずつ損傷が広がっていく。
宇宙において、孤独の決死行における傷と損傷が広がっていく。
『伝え、なくては』
大天使の力を有すといえど、質を覆す量はあまりにも多かった。
跳躍、転移した空間。その先々でジブリールは交戦を繰り返す。
『伝えなくては』
百と、千と、万の天使達を退け破壊し。
少しずつ、その機体は削られていく。
『伝えなくては…』
だが、それでも決してジブリールは航行を止めなかった。
『伝えなくては──』
蓄積されていく損傷、そしてダメージ。
願いを果たす為の身体が、消えていく虚脱感。
『伝えなくては…!』
それでも、ジブリールは駆け抜けた。数多の銀河を、数多の宇宙を駆け抜けて。
『伝え、なくては──!』
目指すべき場所へ、想いを抱いて進み続けた。
それは、既に与えられた使命などではない。
自分自身が成し遂げる、成し遂げたいもの。その全て。
祝福なき生命など存在しない。
意図があろうと、意志が介在しようと。
あなたは、沢山の想いと願いを受けて産まれてきた。
神の愛は確かにある。
天使達の祝福は、確かにあなたに存在している。
貴方がたを、神は確かに愛している筈なのだと…──。
『───!』
やがて、ジブリールの前に『大天使』が立ち塞がる。
セラフィム。文明を滅ぼす際に投入される存在。
跳躍と離脱を繰り返すジブリールを、抹殺するために作られた。
無数の光が走る。
それは光の織物のようですらあった。宇宙という暗闇に、隙間なく敷き詰められる光の線。
『!!』
ジブリールが旅してきた距離は、やはり数億光年に至る。
その疲労と消耗は、決して無視することが叶わず。
セラフィムクラスの攻撃を、直撃してしまう。
『ま、だ───』
終われない。そう決意したジブリールは、大破しながらも最後の空間跳躍を行う。
『私は、果たさなくては、ならないのだから──!』
爆発を起こしながら、爆発に吹き飛びながら行う最後の時空跳躍。
『……生まれ行く、あなたに……』
だが、ジブリールの限界は間近であり。
『満ち溢れん程の、祝福を…………』
その満身創痍の身体は……
無念にも、太陽系の詳しい座標を指定したと同時に。
『祝福を……あなたに────』
──跳躍したと同時に、連鎖爆発を起こし、その機能を停止したのであった
最後の跳躍を果たせし場所。
それは座標を指定せぬ場所。
ただ、地球と月の周辺宙域。
『─────』
果てしなき旅を終えたジブリールは、沈黙する。
それは、全壊である程の負傷。
このまま、朽ち果てる他に道はない。
それが、ジブリールの運命。
……──だが。
?『……おや?このデブリ、デブリじゃない』
その意地を懸けた遥かなる旅路は。
はくのん『とりあえず拾っておこう。きっと重要な何かである…はずだから』
確かに、地球と『月』へと、届いていたのであった。