人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
始まりの娘〘─────〙
はくのん「リッカにつられてアンリマユやアジーカも行方不明。根源に今いるってことかな」
始まりの娘〘──────〙
はくのん「なら大丈夫。リッカならそのうち戻ってく……どったの?」
始まりの娘〘──────〙
はくのん「世界を壊す呪詛を止めに行く?え、どこ?どこに?」
始まりの娘〘──────〙
はくのん「……消えてしまった」
(まぁ、必ず帰ってくるはず。始まりの娘だってリッカだし)
はくのん「カルデアに連絡しておこう。あ、もしもしゴッフ?リッカが根源に至って魔法使いになって今戻れなくなってる。今カルデアに一緒に行くから……」
(誰かが倒れる音)
はくのん「………誰かがぶっ倒れたみたい。なぜゆえ」
「それにしても、魔法使いかぁ〜〜〜………」
(山盛りのプレミアムロールケーキとか…アリかな。むふふ)
【──────……………】
時空の果て。概念の底。
其処に一人、呆然と空を見上げる者がいた。
【…………………】
色を失った桃色の髪。折れた腕に、潰れた片目。その痛ましい姿は、壮絶な戦いの果てに刻まれたもの。
彼女は戦った。この宇宙に巣食う根源的厄災…その眷属と。
【……あー…、やっぱり、こうなっちゃったか】
彼女は感じる苦痛や痛覚も、何処か他人事のような感覚で受け止める。
彼女は、ゼインと戦った。独善の権化にて、全ての生命を抹消する存在と。
理由は、幼稚なもの。ただ傲慢な態度が鼻についた。
自分こそが優良、自分こそが絶対。そんな風に振る舞っていたのがムカついた。
戦いはした。しかし、やはりヒーローは強かった。
倒されるだけの魔女がヒーローに負けた。当たり前の結末。
自分に出来たことは、幼稚な思いつきの幼稚な反逆。
それが実を結ぶわけもなく、やはり現実は残酷なもので。
【何がしたかったんだろ、私…】
返り討ちにあって、今に至る。
自分が成し遂げた事は、何もない。ただ、当たり前の様に処分されただけ。
ふと口にした言葉が、自身の生まれた意味を問う。
何がしたかったのか。
何をしたかったのか。
それを思い立った時には、懐のスマートフォンを取り出していた。
【…………】
操作する。それは、彼女が秘蔵していた映像。
並行同位体の生活を、少しだけ覗けるもの。
『アダム先生〜!次のショッピングは、夏草でどうかなっ?』
楽しげに、朗らかに跳ねる画面の向こうの『彼女』
『そうだな。荷物持ちは任せてくれ。衝動買いもいいぞ』
『わーい!ナギちゃんやセイアちゃんにも自慢しちゃおー☆』
目が潰れてしまいそうな程に、輝く『彼女』が、画面の向こうにいる。
【………あはっ】
乾いた笑いが漏れ出る。羨ましい、とか。妬ましいとか、そんな些末な呪詛すら出ない。
こんなにも違う。こんなにも、画面を隔てた世界が違う。
同じなのに。
向こうの『彼女』と、こちらの【自分】は、哀しいほどに違う。
どうして、こんなにも違うのだろう?
『彼女』と【自分】は、どうしてこんなにも違うのだろう?
向こうの『彼女』は、最愛の人と幸せにしていて。
こちらの【自分】は、最悪の神に使い潰される。
何が、違ったのだろう。
何を、違ったのだろう。
【酷いよ、神様】
神様に向かって堪らず出た非難、そしてすぐに思い当たる。
【そうだった。今の世界の神はアレじゃんね…】
酷いのも納得だ。
あんな神様が世界を統治しているのなら、酷くない筈がない。
ヤルダバオト・デミウルゴス。
世界を造った、最低最悪の神。
それなら、こんなにも世界に救いがないのも納得だ。
そして、もうすぐ全ての世界が不要になる。
今ある全ての世界を糧に、礎にして真の世界が作られる。
今の世界の、何が気に入らないのかは知らないけど。
今の神様もどきは、躍起になって『ちがう世界』を作ろうとしている。
全ての世界の、全ての存在に居場所はない。
だからきっと……
ここで死んだ方が、きっと幸せ。
『アダム先生〜!ナギちゃんとセイアちゃんがお茶会しようってー!』
『それはいい。午後の紅茶を持参するか』
『あははっ、ナギちゃん的には甘すぎるみたいだけどね?』
【………………】
幸せは、世界は不平等だ。
ある所には腐る程溢れてるくせに、無いところには髪の毛一つも存在しない。
【…………あ〜………】
自分だって同じなのに。
自分だって、あの娘なのに。
向こうの彼女には全てがあって。
こちらの自分には何もなくって。
それが、人生の歩み方で決まったのなら。
それが、人生の生き方で決められたのなら。
ねぇ、神様。
私にどうして、教えてくれなかったのかな。
【……私だって……】
幸福は得難いものだって。
日常は大切なんだって。
当たり前なんてものは、どこにもないんだって。
教えてくれたなら。少しでも教えてくれていたなら。
きっと、少しは……。
【……あぁ、そっか】
神様は、今の神様はアレだった。
なんだ、じゃあどこにもないんだ。
救いなんて、どこにも無いんだ。
助けてくれる神様が、自分しか見ていない。
そんな事実を、知っているから。
じゃあどこにも、希望なんて無いんだって。
当たり前の答えが、胸に落ちた。
【────もう、いいや】
もういいや。
考えたくもない。足掻きたくもない。起き上がりたくもない。
……生きて、いたくもない。
【どうせもう…良いことなんて一つもないし】
苦しむために生まれてきたと、狼耳のあの子は言った。
私は、それは少し違うと思う。
私は違う。
……生命なんて、必要無かった。
【どうせ、苦しみしか持っていないんだったら】
携帯端末の電源を、落とす。
【生まれてなんて、こなければよかったのに】
諦観と、悟りと共に目を閉じる。
【まぁいいや。もう二度と】
もう二度と目覚めないのなら。
それに勝る幸福なんて、きっと無い。
【もう二度と、生まれ変わりませんように】
死んだらどこに行く?
何処にも行きたくない。
真っ白でも、真っ黒でもいい。
二度とこんな、不平等で無慈悲で、不完全な世界に呼び戻さないでほしい。
【もう二度と……】
虚無の祈りと共に、目を閉じる。
【苦しいだけの生命を、繰り返しませんように…】
目を閉じる。
神を騙る獣が支配する、一片たりとも救いのない世界から。彼女は解き放たれ──。
【────ッ!?】
瞬間、眼前に満ち溢れる光。
〘───────〙
六枚翅を携えた、目にきついほど光輝く存在。
【な、に………?】
〘──────〙
困惑する彼女を認めたその存在は跪き、そっと手を翳す。
【─────!】
瞬間、全ての傷が癒えていく。いや、治癒の領域を超えている。
これは『奇跡』。はじめから、傷付いていた事など無かったかのように…。
【………あなた……確か……】
覚えがある。
たしか、偽神が必死に貶めていた始まりの獣。
〘──────〙
微笑みと共に彼女が離れた頃には、全ての傷が癒えていた。
【─────どうして】
突如現れた、慈悲と救い。
彼女には、それが受け止められない。
【どうして助けたの?どうして、助けようとしたの?】
〘──────〙
【あなたの敵だよ?私は敵で、あなたの知る『ミカ』じゃない。勝手に自滅して、勝手に死にかけてただけ。なんで助けたのって聞いてるの!】
見れば彼女は、何かが根本的に、決定的に違う。
存在が、風格が。持っている因果が、獣などとはまるで違う。
これではまるで、本当の……
【私は死にたいの!もう生きていたくない!何もかもが嫌なの!】
〘──────〙
【生きていたって何にも良いことなんてない…!いつまでも苦しいし、私じゃない誰かは皆幸せなのに、私は何にも幸せじゃない!私が悪かったの?私がいけなかったの!?それなら────!】
堰を切ったようにぶつける思い。
それは、神への懺悔にも似て。
【どうして、誰も教えてくれなかったの…!教えてくれたら…教えてもらえたら…!私だって!】
〘──────〙
【私だって……私だって…!私だって、幸せに、なりたかった…!】
血の涙を流し、蹲る。
不平等に疲れ切った娘に、歩み寄る。
〘生きてほしい〙
【!!】
〘私はあなたに、生きてほしい〙
それは、彼女が堕ちてから初めて受け取った言葉。
祝福の肯定。
【……無責任な事、言わないで……!生きていたくなんてない!誰も助けてくれないのに…!】
〘助けに来る〙
【!】
〘何度も、何度でも。私や皆が、助けに来る〙
その言葉は、実体験。
〘生命を謳歌する権利は、誰にだって赦されているよ〙
【……!!】
〘生きるって事は、生命活動を続ける事を言うんじゃない〙
彼女の手を取る。
〘自分だけの幸せを、手に入れるための旅を言うんだよ〙
世界が、皆が、そうしてくれたように。
〘辛い時、苦しい時、哀しい時。思い出して〙
【──────】
〘必ず誰かが、誰でもないあなたを待っているから───〙
彼女は、彼女が知る世界の真理を告げる。
【──────】
その言葉に、呆然と聞き入る彼女。
〘迎えが来たよ〙
【!】
〘またね。またいつか…〙
ふわりと、翅を開く。
〘またいつか会おうね。約束だよ〙
輝きと共に、彼女は消え去る。
彼女の手には……
【……………】
緋色の翅が残されており。
その暖かさは、静かに彼女を癒していた。
シロコ?【探した。大丈夫?】
ミカ【………探してくれたの?】
シロコ?【うん】
ミカ【どうして?】
シロコ?【…………友達】
ミカ【!】
シロコ?【友達だと、思っているから】
ミカ【……………そっか】
シロコ?【迷惑だった?】
ミカ【………、………】
翅を、握る。
ミカ【…………別に】
その『救い』を……
否定することは、しなかった。
カルデア
始まりの娘〘─────〙
オルガマリー「……………えー…………」
「第六魔法の使い手。人類最後の魔法使い…根源接続者、藤丸龍華よ」
始まりの娘〘──────〙
…その紹介のみで。
一般カルデアスタッフ数十名とゴッフが卒倒したという。(ゴッフは2回目)