――地下を抜けば、冥界に行けるのですね・・・!地続きなのですか、神代は!
《冥界や天界が形而上、伝承となるは人類の物理法則に安定した時期の話よ。神代は、天上、地上、冥界。全てが同じ織物として紡がれている。――あの鳥籠のようなモノを見てみよ、エア》
――?あれは・・・?
【――ォ、オ・・・ォオ・・・】
――光のようなものが籠の中で浮遊しています・・・
(ソレは地上で死に果てた魂。その籠は、エレシュキガルの槍檻さ。とらわれた魂は、けして地上には帰れない)
《肉体を失った魂は自然消滅を果たす。が――エレシュキガルはとある理由からそれを赦さぬ。魂に『
――・・・私が、器から出ないようにとは、これが・・・
《然り。――生きた氷になりたくなくば、我が庇護から離れるなよ》
――はい!そして・・・ありがとうございます
《む?》
――いつも・・・ワタシを、護ってくださって。暖かい、至高の器に、滞在を許してくださって・・・
《――礼には及ばぬ。至高の魂には、それなりの待遇は当然であろう?》
――身に余る光栄です!さぁ、行きましょう!フォウも――
『神獣飾りを纏ったフォウ』
――フォウ!?
(僕も一緒だからね。飾りは僕だよ。フォウくんの身体維持は任せてほしいな)
――エルキドゥさん・・・!良かった・・・フォウをお願いします!さぁ、行こう!フォウ!
(地獄の底まで、一緒だとも!エア!)
『酷いのだわ、酷いのだわ!私を悪者扱いしたのだわ!あんまりな仕打ちなのだわ~!』
『よしよし・・・ギルガメッシュも、解っていますよ。悪のイシュタル、善のエレシュキガルと言っていたでしょう?』
『ハッ!そ、それもそうなのだわ・・・!』
「たんじゅ、――シンプルだな、君は・・・」
『答えよ――答えよ――』
華美なものなど何一つない、寂寥と閑散の世界、冥界
イシュタルの降下にて降り立った一同は、冥界下り、試練と深淵の七門に挑む――
(えー、あちらに見えますは冥界の七門第一、第一となりまーす)
フォウの体飾りに扮したエルキドゥが、まるでアナウンサーのようにエアとフォウに示す
――あれが、冥界に挑むものを試す門・・・イシュタル様やエルキドゥさん、王が挑みし門・・・
《アレの投げ掛ける問いに答えねば活路は開けぬ。かといって額面通りの模範解答がある筈もなし。――生者たるマスターの意地の見せどころよな。エアも生者ではあるが・・・諸事情で姿は曝せぬからな》
――・・・
・・・肌で、魂で感じて思うが・・・ここは、やはり非常に寒い。万全を期して英雄王の器に入ってはいるが、この肌を刺すような寒気は、今まで感じたことがないほどのものだ
英雄王の肉体から弾き出されれば・・・即座に凍死するだろう。――つくづくワタシは、英雄王に助けられてばかりだ
――ぷるるっ・・・はぁーっ
魂のシバリングと、手に息を吹き掛け、器の中にて気合いをいれる
泣き言を言っている場合ではない。賢王が、待っているのだ!必ずやり遂げる!
(どうでもいいけど、賢王が『さむい・・・さむいぞ我・・・はよ、エアよはよ来るのだ』とか言ってるの想像したら最高に面白くない?)
(ブフーッwww)
ころげまわるフォウの首根っこを掴む。――落ちないでね、フォウ
『冥界に落ちた生者よ――その魂の在り方を答えよ――』
「――二択の質問が来るわよ、リッカ。冥界の門は魂の善悪を問う、公正にして理性の門。善も悪も等価値ではある。だから、どちらが正解ということはないわ。ただ、それを選ぶ人間の価値が試されるだけよ」
「どちらを選ぼうと待ち受けるは試練のみ。故に――『愉快な選択肢を選ぶのだ』、マスター」
「OK!」
サムズアップするリッカ。――門は問いかける
『では罪深きもの、リッカに問う』
(はぁ?名指しだぁ・・・?)
『美の基準は絶対であり、黒は白に勝り、地は天に勝る。であれば――』
(黒は白に勝り、地は天に勝る――これは、つまり!)
『イシュタルとエレシュキガル、美しいのはどちらなりや?』
深遠な――どっちの女神ショウを・・・!
「ちょっと待った前と違うわよそれ――!!」
「エレシュキガル!!」
「そして第一門から裏切られた――!?美よ、美!?私じゃないの!?」
「ふはははははははははははははははははははははは!!!貴様は真なる智恵ものよなマスター!」
(ナイスゥ!)
(あぁ、聞くまでもない。臓物と腐敗のラフレシア、地下に咲く血色の可憐な華。わかりきっているね)
「この問題は深遠。美とくれば皆がイシュタルを選ぶはず。だが私は違いのわかる人類悪!地下で輝く輝きをこそ評価したい!」
「そこはストレートでいいんじゃないかしら!?あと金ぴか笑いすぎ!射つわよマジで!」
『あ――――り――――が――――と――――う――さ――――ち――――あ――――――れ――――』
――敵性エネミー出現!数は、数は・・・一?
【ガイコツー!】
「スケルトンタイプか。殴り殺せ、マシュ!」
「はい!マシュっと突破します!」
『ぐ――わ――』
――スケルトンタイプ撃破!門が開きました!
『こんなんでいいのかしら・・・』
『うん。理性の欠片もないな!』
「激闘であったな――よし。勝利を噛み締め、進むとするか!」
第一の門 clear !
「はい突破!」
「第二ステージです!」
(ピーピー鳴らない?)
(大丈夫さ、フォウくん)
「フン、容易いわ」
次々と潜り抜けていくが・・・
「きゃっ!」
イシュタルが通り抜けた瞬間、彼女の体が雷に打たれ、変化が起きる
「あいたた、なんか痺れた・・・大丈夫よ。門を通ったらヘンな悪寒が走っただけ」
「それだけか?よく身体を見てみるがよい。その無様で間抜けで貧相な身体をな」
「ん、え・・・、・・・!?なんかおかしくない!?」
イシュタルは・・・本来のスケールから縮んでいた。いつもの輝きが、七分の一ほど削れている
――それに加え・・・なんだか、縮んでいませんか?
「もはや哀れみしか湧かぬ・・・これ以上貧相になってなんとするのだ・・・骨と皮だけになる気かイシュタル・・・」
(ダイエットの究極かな?)
何が起こった――と考える瞬間
『そうよ。自らの愚かしさを思い知ったかしら、イシュタル』
冥界の空に、巨大なるガルラ霊の姿が浮かび上がる――
――あれが、エレシュキガル・・・?
《仮の姿ではあろうがな。神体は我も知らぬ》
(ふふ・・・)
物怖じせず、英雄王は睨み返す
「現れたな、麻婆の神エレシュキガル。出迎え、補足御苦労。別に構わぬが説明だけはせよ。この小小娘に何が起きている?」
『たかだか半神半人の王が生意気な・・・え、麻婆?・・・まぁいいわ。・・・イシュタルは冥界下りに失敗している。この神話上の事実がある限り、冥界の呪いからは逃れられない。荒野を象徴する冕、葦の測量尺、瑠璃の首飾り、ビーズのネックレス、金の腕輪、魅惑の胸飾り、そして、最後に残された貴婦人の衣装。かつてあなたは、この七つの宝を私に奪われた』
こほん、と咳払いし説明を告げる
(フォウくん。マスターの国でこういうのなんて言ったっけ)
(カモネギ)
(カモネギの女神かぁ・・・ふふっ(笑))
『その決まりは今も生きている。宝に該当する権能が無い以上、アナタ自身が負債を払うしかないわ。分かる?アナタは門をくぐるたびに小さくなる。七分の一ずつ神性を奪われていく』
「第二の門をくぐれば下級の神。第四をくぐればガルラ霊以下の精霊」
――そして、最後には・・・
「趣味わる!また一段と拗らせているようね、エレシュキガル!」
『――これでも恩情を与えています。本来なら生者を連れてきた段階で、アナタも、そこの彼女も冥界の底に落としています。ですが七門の試練を受けるとならば、答えを見定めるのが冥界の決まり。リッカ。私を倒しに来たのであれば、試練を越えてみるがいい。――無事に七門のを通り抜けたのであれば、その時は――』
それを言い残し――ガルラ霊は、姿を消したのだった――
「だそうだ。大した問題ではないな。行くぞ、次の裁定を見届けようではないか」
「ノータイム決断か!わかってたけど!いいわよ、覚悟はしてたし!私は冥界じゃ戦力にならないって言ったでしょ?状況は特に変わらないわ」
「冥界では・・・うむ。そういう事にしておくか」
(冥界以外でも役には立たないと言ってもいいんじゃないかな、エア?)
――え、エルキドゥさんまで突っ込みを弄りますかっ!うぅ・・・無銘のワタシに、知ったような突っ込みは控えなさいと叱りたい気分です・・・!
「人生とは道であり、後悔は路傍に咲く雑草である」
「?何言ってるのよ金ぴか」
「人とは繊細な生き物と言うことよ。――さぁ見えたぞ。第二の門だ」
せめて、イシュタル様が消えぬよう・・・眼を光らせておこう。そう決心したエアであった・・・
《エアめの運命力も減らぬとは限らぬ。さっさと帰還するぞ》
――運命力?
《生存のために消費されし幸運、これを運命力と言う。どのような存在であれ、『危険に遭遇しない』と言う幸運を常に浪費している。これが失われた時、その生命は死神に見初められる。不慮の事故や害に巻き込まれるのだ。――それが冥界では働かぬ。生きる意味がないのだからな。――エアめは魂。僅かにも外に出れば運命力が加速度的に削られ長生きは叶わぬ。――僅かにも冥界の空気に触れるなよ、エア。真っ当な生を送りたければな》
王の真剣な警告に、エアはただ頷くばかりであった――
【第二の門】
『答えよ――答えよ――』
再び第二の門が、深遠な問いを投げ掛ける
『財の分配は流動なれど、相応の持ち主は一人なり。地に在りし富、その保管は一方に委ねるべし。即ち――』
生者を迷わせる(笑)、深遠なる問いを――
『財を預けるに足る女神は、エレシュキガルとイシュタル、どちらなりや?』
「よし!二門めもラッキー問題ね!考えるまでもない話だわリッカ!ガツンと言いなさい!」
「オッケィ!――エレシュキガル!」
「うむ」
(うん)
(せやな)
――魂の管理を一任せしエレシュキガル!パーフェクトですマスター!
『私も賛成でーす♥冥界上手はやりくり上手なのですよ~♥』
「そ、そうね!あえてエレシュキガルに任せて家計を火の車にする作戦ね!アイツのダメさ加減を白日の下に晒して、私との差を明確にするという作戦でいいのね!?」
「ハッ」
(ははは(殺意))
(は?)
――離別の呪いがあるので、財を託すにはちょっと・・・
『せ――――い――――か――――い。ま――か――す――の――だ――』
――エネミータイプ!出現!
【ガルラ~!】
ガルラ霊一!
「マシュ!マシュっとバスター!」
「了解!マシュっと撃退します!」
『ぬわ――――』
「・・・激闘であったな・・・よし、次なる門に行くぞ。サクサク進むは良いことだ!ふははははははは!!」
第二の門 clear!
クリアした門をくぐったイシュタルの神性が再び奪われる
「魔力全開で防御しても駄目みたいね・・・」
「無理をせず、私達にお任せください!」
「ばっちり守って見せますよ、はい!」
「ありがと。――お任せするわ」
「少しは慎ましくなるのだな。体つきはもうよい。十分に貧相だ」
「あんたは本当に一言多いわね!」
――第三の門が見えてきました。イシュタル様を見失わぬよう、気をつけて進みましょう!
第三の門
「ようやく来たか、我が期待のついでの小娘よ。?いや、実際に小娘になっていないか小娘よ?ふはははははははなんだそれは面白い!そのような珍妙な厄除けを用意するとは気が利いているなリッカ!」
「!」
――この声は・・・!!
《フン、囚われる質ではないと知っていたが・・・存外に息災ではないか》
『ふははははははは!!待ちわびた!そして信じていたぞエア!この我をお前が見捨てる筈は無いと天命を見るまでもなく確信していたとも!』
――賢王~~~~!!御無事で――!!
『ははは、感極まるのはよいが抱擁は後だ。我と我が抱き合っては冥界が潰れ果てよう!』
(あぁ――良かった・・・)
「ギルガメッシュ王!?何故こんなところに!?エレシュキガルに囚われていたのでは!?」
「冥界もまた我の庭。それなりに勝手は知っているだろうよ」
「何度も来たからな!油断して死んでしまったが、ガルラ霊どもが来る前に物陰に隠れ呼吸を止め、瞑想に浸り!気配遮断EX!奴等の眼を盗んだあと此処にて貴様らを待っていたそれだけの話よ!」
――あぁ・・・!賢王は此処に健在です!
『ふはは!その台詞は少し早いぞお茶目さんめ!だが許す!感動の対面はロマンティックかつドラマチックでなくてはな!』
《健勝で何よりだ賢しき我。体裁は見繕ってやった。後は名誉挽回の手段を考えておけ》
『無論だ!エレシュキガルめ、許さぬ!』
――え、エレシュキガルさんはその、誤解で冤罪で・・・!
「さぁお前たち!王たる我が命じる!我のために冥界の門を抜け、あのさもしくみみっちいエレシュキガルめをこらしめるがいい!」
「了解!王が二人!勝ったな!」
「任せるがいい。そこの小小娘との格の違いを見せてやろう。ところで、何故そんなに縮んだのだ?今さら己の愚かさに気付き、畏まりまくったのか?」
「呪いよ!エレシュキガルの呪い!!あぁもう、やっぱりアンタなんて助けにくるんじゃなかったわ!」
「ははは、こやつめははは。貴様が我を助けに来るなどこれは夢か?もしや我、冥界で更なるショック死を迎え、幻でも見てしまっているのかな?」
《この醜態は現実のものよ。こやつは我等愉悦部員の
『こやつがヒロイン!!ふはははははははははははははははははははははははははははははははパワーワードはよさぬか!笑い死ぬであろう!!』
「そのまま深淵まで堕ちれば?泳ぎ得意でしょアナタ。沐浴に夢中になって、霊草を蛇に盗まれる程度には」
「ぬう、我のトラウマを的確に抉るその口汚さ!間違いない、真のイシュタルだ!しかし・・・それでは辻褄が逢わぬ。我の夢でないのなら、このやや愛らしいイシュタルはなんだと言うのだ?」
《さてな。猫を100匹被り重ね着で圧縮されたのではないか?》
「うわきも、愛らしいって、アンタに言われると寒気がするわ」
(んー、刺したい・・・)
(ステイステイ。エルキドゥステイ)
――み、皆さん!ウルクトークはまた後に!ほら・・・!
『答えよ――我の問いに答えて――』
――いじけてしまっています・・・
「おっと忘れていたわ。よいぞ、許す。第三の門よ、貴様が裁定はなんだ?」
『・・・共に戦う仲間・・・信頼、敬愛、そして勝利に相応しいのは・・・どちらだと、思いますか?』
「これは決まってるね!」
――聞くまでもない質問です!
《ふっ、ならば・・・高らかに謳うがいい!》
「「せーの、ギルガメッシュ――!!」」
――当然ですね!全てを掴むのが、王なのですから!
『ま――あ――い――い――や――』
――エネミー、・・・エネミー?
「キュー」
――ガゼル?
「ペットかな?持ち帰ろう」
「ふははははははははははは!!今さら山国アラッタ、支配者なぞウルクの敵では無いわ!あらっためてくるがいい!!」
――ノリノリですね、賢王!
『であろう!であろう!姫が我が目論み通り現れ超!上機嫌であるのだ!!』
《現金なやつよな。非常食も受け取ったことだ。さっさと出国許可を貰うとするか!》
第三の門 clear!
第三の門を意気揚々とクリアする一行。賢王の合流を果たしたと言えど、冥界に招かれた魂はエレシュキガルの許可なく地上には出ることはできない。なんとしても、出国許可を貰わねばならないのだ
「うぅ・・・こんなにも縮んでしまうなんて・・・こんな姿を見られたらお父様がどれ程嘆くことか・・・」
当然の負債として・・・イシュタルは合計七分の三の神性を奪われてしまう。更に縮こまるイシュタル。それを見て――
「ふははははははははははははははは!!おいリッカ!ドクター!こやつを記録せよ!何か記録するものは無いのか!こう、パシャっとするものがあるだろう!パシャっとするものが!」
堪えきれぬとばかりに笑い転げる賢王。死してなお笑い上戸である
《エルキドゥ、撮れ。カメラマンの面目躍如だ》
(連写、連写――)
内緒でイシュタルの醜態を撮りまくるエルキドゥ
――冥界下りに果敢に挑むイシュタル様として、永遠に飾っておきましょう!
「悲しめって!言ってるのよ!」
その様に逆上したイシュタルが、その器のマックスパワーで賢王に突撃する。道すがら吹き飛ばされ深淵に落ちかけるが――
――賢王!!
「ギルガメッシュ王!」
肉体のコントロールを瞬間的に掌握し、マシュと共に両手を掴む
「ふんぬっ!!」
二人をリッカが支え、なんとか落下を避ける。冷や汗を垂らしながら、いそいそと上がり怒りを叩きつける
「何をするたわけ!もの凄い突進力だな!?マシュとリッカ、エ――愚かな我のファインプレーがなければ深淵に落ちていたわ!!」
『大型の猫がダンプカー並の衝突エネルギーで突っ込んで来る訳だからね・・・そりゃ落ちるよね』
――大丈夫ですか!?賢王!
『うむ。大事ない。気が利くなエア。後でとびきりの飴をやろう』
《全く。此処までの苦労を水泡に帰すなよ。あまりエアの気を揉ませるな》
解っておるわ、と目配せで頷く。勝手に身体を動かした事を謝罪するエアを、当然のように赦す英雄王であった
「賢王さま、深淵とはなんでしょう?」
リッカの問いに、ふむ、と頷き、賢王は概要を説明する
「メソポタミア世界は天と地、地の下のここ冥界、そして更なる深淵と繋がっている。――深淵とは無の海だ。その暗い海よりアプスー神とティアマト神は現れ、メソポタミアの世界を作った」
《海とは言うが、真なる意味で無であるからな。何もなく、生命もなく、景観もない。形あるものを融かし、取り込む原初の闇にして黎明の黒泥――触れれば、形を保てはすまい》
――ごくりっ
(そうかい?意外と気持ちいいかもだ)
(エア、麻婆の観点からしてエルキドゥの価値観を信用してはいけないからね!)
(酷いよフォウくん~)
飾りが震えだし、悶えるフォウ
「深淵を管理するエンキ神も消えた今、落ちれば今度こそ、帰ってはこられまい」
――英雄王が、不老不死の霊草を求めた場所・・・
(そう言えば、僕も冥界には縁があってね。エレシュキガルとは仲良しなんだよ?)
カタカタと飾りが主張するように揺れ動く
《――その話は我の醜態でもある。まぁ・・・構わぬか。今さらかき捨てられぬ恥などあるまい》
(じゃあ遠慮なく。ギルが新しい発明品を開発し、三日三晩宴会をしていてね。その喧騒が癪に触ったエレシュキガルが冥界の門を僅かに開けたのさ)
《――酒に酔いに酔っていた我は、そこにうっかり楽器を落とした。我は盛大に取り乱し、慌てた訳だ。『おお、なんと言うことか!我が至高の発明品が冥界なんぞに落ちようとは!あれほどのものは作れぬ!つらい!我はつらい』と涙で枕を濡らし悶えた》
――余程最高傑作だったのですね・・・
(その悲嘆が見ていられなくてね。僕が楽器を取り返し、持ってくるよう伝えた。で、僕はエレシュキガルに礼を尽くして無事楽器を持ち帰ったと言うわけさ)
『弁明するとだなエア!元はと言えばイシュタルめが『ハルブの木に蛇が住み着いたわ助けて~』となどと頼み込んだ末の顛末なのだ!それを切らなければ醜態など晒さなかったわ!』
(ちなみに僕の遺体を引き取ってくれたのも彼女だよ。だから僕は、エレシュキガルには礼を尽くしているよ。頑張り屋だからね)
――皆様の交友関係が、トップクラスの有名人ばかりで感嘆するばかりです・・・
(ふふ、キミの交友関係だって大したものだよ、エア)
冥界にてウルクトークに華を咲かせながら、試練の門へ向かっていった――
第四の門
『答えよ――答えよ――信仰とは報われぬもの、祈りとは与えるもの・・・人は神に恵みを求めず、ただ恵みを捧げるもの――生涯かけての奴隷である――』
《神の在り方など滅びしか無いわけだが・・・本題は其処では無い。苦言はよそう》
『であれば、答えよ――その尊い労働を受けとる資格ある潔癖な女神は』
――ふと思ったのですが、イシュタル様を選ぶとどうなるのでしょう?
(試練がキツくなるんじゃないかな。ほら、怒らせる的な意味で)
(ふふ。エレシュキガルは乙女だからね。そこの淫売と違って、素直に誉めてあげるべきだよ。――侮辱にならない程度にね)
――誉めることが、侮辱に・・・?
「働き者には働き者を!エレシュキガル!」
「私だって働いてるわよ!?ただで助けないだけで!」
「寝言は寝て言え、放蕩癖のアバズレめが」
『H――O――P――E――さ――ち――あ――れ――』
「キシャー!」
「敵性エネミー!蛇です!」
「「ぬっ――」」
(絶妙にギルのトラウマを抉るね。そこの蝿を囮に使おう)
――そ、それはダメです!待ってください、宝具を――
「ふん!!」
――マスターが蛇を踏み潰したぁ!?
「おっけ、さぁ行こう!」
「――蛇を見たらね、女の子は怖がるものよ?」
(コイツらは乙女だった・・・?)
《ははは!笑えぬわ!》
『繊細さで我等が勝るというか。――藤丸リッカ、貴様は何を目指しているのだ・・・』
「?」
第五の試練 clear !
「っ――またピリッときた・・・段々慣れてきた自分が恐ろしいわ・・・」
(うずうず・・・後ろから鎖たい・・・)
(鎖たい!?)
ますます小さくなったイシュタルに、無邪気な殺意と好奇心を向けるエルキドゥ。丁重に抑えてもらわねばならない。此処で彼女を失っては、あまりにもあんまりである
「むう。初めは面白かったが看過できなくなってきたな。――これでは、エレシュキガルにこやつは使えぬか・・・」
賢王が少しばかり懸念を表す、が、英雄王はどこふく風で歩みを止めない。微塵も期待していないためだ。むしろ、塵屑風情ながら負債を一手に受けている時点で称賛すらくれてやってもよいと思っている節すらある
『賢王、エレシュキガルとはどれ程の神性なのでしょう。やはり、イシュタル女神と同等なのですか?』
オルガマリーの問いに、首を振る
「いや、イシュタル程ではない。イシュタル同様古い女神ではあるが、アレは慎ましやかだったからな。イシュタルは天の娘として、欲しいものは全て手に入れてきた女神だ。神々もイシュタルには甘く、ねだられればなんでも与えたものだ」
《人間の不完全性の起源でもある話よな。神は人間を下劣と詰るが、そも全能でなき神が造りしものが全知全能に至れるはずが無かろう。神もこのように育児失敗の醜態を晒しているのだからな》
此処に、英雄王の持論が掲げられる所以がある。いくら全能でも、精神や生物の思考は人間と大差がないのだ
「そして――深淵のエンキ神など、イシュタルの酌で家財一切すべてを騙し取られたことがある」
――えっ!?
(ホント、こいつ・・・)
呆れ果てるフォウと、驚くエア。エンキ神は、かなり格の高い神だったのでは・・・!?
《アレはまさに醜態、愚かなる神の詐欺にして、メソポタミア最大の笑い話よ》
(本当にね)
うんうんと頷くメソポタミアフレンズ。笑いながら賢王は語る
「気分よく酔っ払い、全ての神性をイシュタルに譲ってしまったエンキ神。目が覚めれば素寒貧。イシュタルはとっくにマアンナに財を乗せて地上へと帰還中だ。エンキ神は慌てて下僕たちにイシュタルを追わせるもこやつめ、凄まじいスピードで逃げる逃げる!」
《エンキ神も泣きわめいていたな。全てを奪われ、家財を奪われ、神ですらなくなりかけていたのだ。エアも、酒には気を付けるのだぞ》
――ウーロン茶と麦茶で頑張ります!
「このままでは天地の支配者があのバカ娘になってしまう!誰か助けて!と頭を抱えていた。様子を見ているしかなかった神々も人間も思わずこう叫んでいた。『なんだあのドラテクは!天舟とはあそこまで速く軽快にコーナーを曲がれるのか!これはとても追い付けない。神話に残るコース記録だ!いまウルク最速が決定した!』」
そこまで王に言わせるとは!どれだけな速さだったのか!?・・・イシュタル様、恐ろしい神――!
《真に業腹だが・・・我ですらそう思ってしまった。こやつの気性は知っていよう。無駄な所でガッツを発揮する輩なのだ、こやつはな》
――天の女主人は伊達ではないのですね・・・
「あ~ら、何のことかしら?あの日はたまたまオートが壊れていたから、運転をマニュアルに切り替えていただけなんですけど?」
ニトロは積んでいたけどねオホホホ、とイシュタルは高笑う。
(あの世代に麻婆あったっけ)
(麻婆はニトロじゃねーから)
「どうだリッカ。これがウルクの都市神だ。我の苦労も解ろう?」
「イシュタルは自由なんだねー(棒読み)」
「まぁ、最後にエンジントラブルで天舟は停止。あわや惨事は、免れたがな」
――あ、そこはうっかりなのですね!
《馬鹿な女よな。小まめなメンテナンスを怠るなど二流。ピットイン場所を用意しろと言うのだ》
ハン、と英雄王は鼻をならす。賢王と違い、基本英雄王がイシュタルに向けるは嘲りのみだ
「このようにイシュタルは多くを望み成長した女神。一方、エレシュキガルは何も望まなかった。――アレは冥界が出来たとき、その定礎として冥界に捧げられたもの。冥界には誰か一柱が赴任しなければならなかった。その責任を押し付けられたのがエレシュキガルだ」
・・・生まれたばかりのエレシュキガルは冥界に押し込まれ、そのまま地の底の女主人となった。千年、万年、亡霊達の管理をする神として
・・・ただの一度も、一瞬も。地上と天上で過ごすことなく
――・・・それは、まさに・・・規律と法のみの生き方・・・出逢いもなく、研鑽も無い生き方・・・
・・・その責務から逃げ出さず、こなし、全うし続けてきたエレシュキガル
・・・尊敬と敬意を表さずにはいられない。それは一体・・・どれ程の、長い時間だったのか
「その代償として、エレシュキガルは無敵となった。神々ですら、冥界ではアレの定めた法律には逆らえん。そこの小小小小小小娘のようにな」
「マルドゥーク神を動かせぬといった理由は此処にある。ともすれば、ティアマト神も例外では無かろうよ。冥界でなければ神としては大したものではないがな。精々中級程度。ケツァル・コアトルには及ぶまい」
『・・・冥界では無敵・・・冥界に希望の華を咲かせよとは、そう言う・・・』
オルガマリーはその言葉に、人知れず頷くのであった――
第五の門
『答えよ――答えよ――生存とは無駄を省く習慣、生活とは無駄を培う習慣。食事に贅をこらし、工夫を重ね、慶びを見いだすのは知性あるものとして当然の権利である。だが心せよ。際限の無い栄誉摂取は贅肉を招く。そなたが命を託すとしたら、それは――』
「肝臓に優しい料理!慎ましやかがモットーのエレシュキガル!」
――3食しっかり取った規則正しいご飯が健康の秘訣!野菜、主菜主食に副菜!栄養バランスを気にした献立はお任せください!・・・腕前は、それなりですが・・・皆様に必要な栄養を即座に見抜き、メニューをお作りいたします!一人一人の健康を、英雄姫の名に懸け保証しますね!
「肝臓に優しい料理こそよい家庭料理。長寿と快眠の秘訣です。ご飯は白米と麦米を一・六の割合で。お肉も問題ありませんが、鳥のササミなどを日常に!また、特定のお野菜には老化防止成分も多く含まれます。バランスの取れた栄養摂取を心掛けましょう!」
《ふはは、どうだエアの良妻賢母ぶりは!侍らせし王として鼻が高い!マシュめもよい嫁になろうよ!これが我が至宝の至宝たる所以である!》
(ボクの胃袋はエアに捧げるぞぅ!)
(こう言った細やかな気遣いが出来る子は、好ましいね)
『それに比べ・・・』
「ホント!?これから狂ったようにパプリカ食べるわ私!」
「カロメと野菜ジュースでやっていけるへーきへーき」
『こやつらの女子としての醜態はいかなることだ・・・嫁の貰い手が不安で堪らぬぞ・・・』
『g――o――o――d――。まさにg――o――d――』
「ザクロだ!ザクロがはえてきた!」
「冥界を表す果実だ。貰って損はない。ありがたく貰い受けてやろうではないか」
『これ試練というか接待・・・』
(自分が誉められて嬉しいんだね、エレシュキガル。まったく愛らしいな、君は――)
第五の門 clear!
第六の門
『答えよ――答えよ――』
「エレシュキガル!!」
「うむ!エレシュキガルだ!とにかくエレシュキガルだ!」
「マシュ、これから冥界の女神を毎日称えてくれ」
「せ、先輩?」
「いいからエレシュキガルだ!!」
『あ、う――――さ――く――せ――す――』
「冥界チケット!?何に使うんだろう?」
「ふはは!出すものに窮したな!施設など無かろう!記念代わりに取っておけ!」
「これ行けるんじゃない!?ワンチャン呪いもスルーで――」
『な――わ――け――な――い――で――しょ――』
「ぎゃわ~~~~!!!」
(ナイスゥ!)
(ナイスゥ!)
《そろそろ手のひらサイズか。手のひらイシュタル・・・うむ、いらんな。イナンナだけに。――ふははははははははははははは!!はははははははははははははははははははははは!!!》
――いけません王!深淵に行ってしまいます王!!
第六の門 clear!
第七門
「せーの!」
「「「「エレシュキガル――!!」」」」
――きがるー!
『な――い――す――。き――た――れ――』
「皆覚悟は持ったね!!行くよォ!!」
『さ――ば――き――』
「見逃しはしないのねコンチキショー!!」
――いよいよ、対面のとき、ですか・・・!
「これを機に、少しは淑やかになるのだな。嫁の貰い手が見つかるやも知れんぞ?」
「そうね・・・とりあえず浪費癖を改めるわ・・・気持ち皆に優しくする・・・今回の件で弱いものの立場がちょっと解ったし・・・」
「ふはは!萎らしくなりおって!だがよい、冥界に来た甲斐があったと言うものよ!貴様の姿は、メソポタミアにて永遠に語り継がれるであろうよ!」
「語り継ぐな――!!英雄王のアンタホントに性格悪いわね!」
(一番御機嫌なんだけどね)
(見る目ないなぁコイツ)
――さぁ皆さん、行きましょう!冥界の女主人とのたいけ――
くしゅっ!
《・・・》
(・・・)
(・・・)
『・・・』
――あ、あの・・・対決、です・・・はい・・・その・・・
・・・魂を冷やさないよう、気を付けます・・・
冥界の宮殿
『おいでませ 冥界宮殿と書かれたささやかな屋敷』
「なんか屋敷建ってる――!?」
《部員どもの入れ知恵か?中々に良いセンスではないか》
「ふはは!少しは改築が進んだか!もしやマインなクラフトにはまったか、冥界の女主人!」
【マインなクラフトなど知りません。――恐れよ、祈れ。絶望するがいい、人間ども。我こそ死の管理者。冥界の女主人、霊峰を踏抱く者――『三女神同盟』の一柱、エレシュキガルである】
「あれが女神エレシュキガル!凄い悪寒です、マスター!」
「そうだね(棒読み)」
「大気温度は変わっていないのに、体感温度が急速に低下していきます・・・!」
『そちらの大気状態、気圧500hPa!?こんなの、高度5000メートルクラスの山頂と同じよ!そこは寒いのではなく、高いのよ!』
『断熱冷却による気温低下!おそらく今の気温マイナス6度!生命活動の限界に近い!このままでは減圧症だけでなく、肺胞が破裂する!その前にエレシュキガルを倒すんだ、リッカ君!』
【たわいのない。我が姿を表しただけでその取り乱しよう。カルデアの指揮官はおくびょ・・・え、ソロモン?】
「ハ、何言ってるんだか。ウジとカビ、穢れ。棺桶の中の空気がカタチになったような女。それがあなたでしょ、エレシュキガル」
【ほう?耳障りな羽音がするかと思えば、憐れな女神がいるではないか。・・・以前同様、口だけは達者な女だ。良かろう。私が醜いといったな。貴様らなどに姿を晒すのは酔狂の極みだが、侮辱されたまま、と言うのも女神の恥。特別に見せて・・・いえ、いいえ!いい加減この言葉遣いにもうんざりよ!】
――えっ!?
(うん、うん)
【特別に見せてあげる!これが、私の女神としての真体よ――!!】
瞬間、ガルラ霊が弾け、現れしは――
「じゃーん!ふふん。驚いたかしら?驚いたみたいね、驚いたようね!ガルラ霊の姿なんて仮の姿に決まってるじゃない!シュメルの神々にも見せなかった私の姿を見て驚きなさい!リッカ!」
「いや~いいっすね~」
「そうでしょ・・・あれ?そんなに、驚いてない?なんで?これ、恋に落ちるパターンよね?人間の本だとこれでいけるってあったわよね?ロマンスの気配とかあるものじゃないの・・・?」
「せ、先輩は驚かないのですか?その」
「知ってるよ。会うのはこれで三度めだよね、エレシュキガル」
「そ、そうだけど・・・もしかして、気付いてたの?夜にあなたと話していたのはそこの羽虫ではなく、この私なんだって。でも、どこで!?どうやって気づいたのアナタ!」
「なのだわ!最初からなのだわ!エレシュキガルは可愛いのだわ!」
「な、な、な、な・・・知ってて、知っててあんなに恥ずかしいこと!?話してたの!?私!?」
「ッ、く、ふ、はははっ・・・!」
――おぉ、ホイップでクリーム。甘い夢にて形どられた、胸の焼ける思考回路の持ち主よ。心を鬼にして告げさせていただきます
「い、い――――いやぁぁあぁあぁあぁあぁあ!こんな筈じゃない!こんな筈じゃ無かったのに――!!!」
――汝の名は、
「その顔がっ――その顔が見たかったのだエレシュキガルよ!!やはりお前は最高だ!盛大に張り切り盛大に自爆する!道化としていたいけな女として超一流の道化よなぁ!!ふふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
(ドンマイ、エレちゃん)
(ヒロイン力高いなぁ・・・)
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