人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
リッカ「─────」
彼女は見た。
満天の天の川ときめ細やかな黒い夜空。
清らかに流る川と滝。
満ち溢れる青々しい木々や草木。
そして一際巨大に聳える、高き巨大なる菩提樹。
リッカ「───カーマ……」
その涅槃は、神が支えている。
まるで、守護するかのように。
アカシック『話はつけている。帰る準備をしておくから、詳しくは彼から聞くといい』
アカシックは、背を押す。
リッカは見た。
菩提樹の下にて、座を組む者を。
?『───ふふ。一足早い解脱ですな?リッカ殿』
その者を間違えることはない。
いつだって、彼女の救いだった者。
リッカ「───グドーシ……!」
彼女の救い。
覚者、グドーシであった。
『一先ずはこちらにてかけられよ、リッカ殿。この場には悩みや苦しみというものは非ず、在るが儘に在れる場所故に』
グドーシはリッカを招き、リッカは促されるままにグドーシの隣に座る。そこからは、星と空と、地が調和した全ての景色が見えた。
それに留まらず、涅槃からは全てが見える。全ての信仰が生む世界。天国、高天原、オリュンポス。ゲヘナ、地獄、冥界。
全ての世界に属さず、また全ての世界を見やる場所。悟りの境地に至る者のみが辿り着く、涅槃という場所。
「あなたは、グドーシ?」
共に星空を見やるリッカが、グドーシに問う。
『そうであり、そうでなきといった所。拙者はこの時空、この世界においての覚者の化身でござる。サーヴァントの大元たる存在…本体といったところ。この姿は、大悟に至った魂と同化したが故の姿』
グドーシと合一した、覚者。目覚めた者。リッカは理解し、引き続き傍に在る。
『本来、覚者は世のうねりには干渉しませぬ。全ては世界のままに。在るがまま、流れるままに。リッカ殿が知るグドーシ殿は、曼荼羅の中心に召されし如来へと至るはずでした』
そこには、悩みも苦しみもない。故に、全てを理解できる。
「グドーシは、如来になる事を選ばなかった?」
『然り。覚者となりながら、大悟すらも彼は慎みと共に脇に置いた。サーヴァント、英霊という形で苦界たる俗世に戻られたのです』
グドーシたる覚者は、どこまでも穏やかだった。凪でありながら、春風のように優しい。
『彼には未練がありました。その未練を涅槃に招くまで、けして成仏するわけにはいかぬ魂たると』
「成仏を、如来になることすら跳ね除ける未練……」
『そなたの事にござる、藤丸龍華殿。グドーシ、否。覚者と大悟、入滅よりも大切で、大きな俗世の未練こそが貴方だった』
グドーシは、覚者は微笑む。
『あなたという魂に寄り添い、未練を救いに昇華する。その為彼はただ一度、セイヴァーとして涅槃から下界へと出奔為されたのです』
「───────」
『人は、私を唯一生の苦しみから解き放たれたと讃えます。しかし、それは正しいものではない』
手を合わせ、目を閉じる。
『独りしか無き真如への道。誰も歩けぬ道などになんの救いがありましょう。人は独り独りに真如への道を有し、輪廻の果てに人は皆真如への道を拓く。それは遅いか早いかの差でしか無い』
「!」
『大悟は玉座ではありません。間口を広げた門戸であるのです。ならば、全ての生命には齎されて然るべき。そうする為の宝具を、グドーシはあなたの為に有している』
静かに、覚者は語る。
『かつて私は、千人の弟子に告げました。『この場にいる弟子達よ。あなたたちは私と同じ悟りに達した』と。それは逸話として、グドーシの宝具としてある』
「逸話の、宝具……」
『『
静かに、リッカに手を差し出す。
『あなたに救いを託す為に、再びグドーシは下界に降りた。そしてそれは既にあなたに宿っている。故に、貴方の終着とは涅槃なのです』
「グドーシは……私を最後まで救い、導こうと……仏様や、悟りまで拒否して…」
リッカの目から、涙が落ちる。大粒の涙が、流れ落ちる。
「自分が得た、涅槃に至る資格までとっておいて……私を、ずっとずっと見守ってくれるだなんて………」
『─────』
「困ったなぁ……。グドーシには、いつもいつも助けられて、救われてばっかりだよ…。全然、これっぽっちも恩返しできてないのに…」
返せない恩ばかりが増えていく。
そう嘆くリッカの頭を、優しく撫でる。
『佳いのですよ』
「!」
『あなたの全てが、あなたの思うまま、ありのままであること。それこそが、彼の最大の救い』
「─────」
『他者を他者のまま、己と受け入れる。それこそが真如への道。己を是とし空となさい。空を是とし、己となさい。それこそが、あなたに齎された救いなのだから』
グドーシの言葉は、覚者の言葉は暖かった。
まるで、優しき父のように。
「────はい!はいっ……!!」
全ての苦しみを涙として、リッカは洗い流し立ち尽くす。
────どれほどそうしていたであろうか。
「────覚者様。私は、行きます」
上げた顔には、決意が満ちる。
「グドーシが、覚者様が齎してくれた救いは本当に嬉しいです。涅槃から、私は全ての世界に行ける。理解があります」
『えぇ。あなたもまた、他者に救いを齎すもの故に』
「なら私は行きます!私はグドーシのように、自分だけが救われて満足することはどうしてもできません!」
晴れやかに、朗らかに。彼女は心から告げる。
「私が救われ、涅槃に至るのは!『世界と其処に生きる皆をまるっと全員救ってから』です!」
グドーシの眼差しは、穏やかであった。
『救いを知り、安寧を知り。それで尚、不理解の痛みと争いの苦しみに身を投じるのですね』
「はい!」
『次に、此処に至るは死後の安寧のみ。生きながらへは、此処に至れぬとしても?』
「はいっ!」
覚者であろうと。
大悟を前にしようと。
永遠の救いを、生の苦しみの解脱を前にしようと。
「私は────『藤丸龍華』!人理を救い、生き抜いていくカルデアのマスター!」
『────』
「私は、私であることから逃げないと決めているんです!だから……そう!私が救われるのは!一番最後でいいんです!」
彼女は、彼女の生命から逃げなかった。
七欲、数多の苦しみを受けることになろうと。
救いを知り、大悟を知りながらも、それにすらも執着すること無く生命を全うする。
『─────善哉、善哉』
覚者は、彼女に心からの祝福を贈る。
『救い、大悟、安寧に縋るもまた執着。生命の答えと真如たる道筋には、これらもまた障害と成りうる』
「覚者様……」
『藤丸龍華。救いを知りながらもそれに溺れず、得た救いをあなたは分かち合わんとした。それはかつての私や、グドーシが選んだ救いの形そのものだ』
満足気に、頷く。
『貴方の気高き魂に心からの祝福を。そしてその道行きに、遍く輝く光と救いと────』
「?」
『────完全無欠の、はっぴぃえんどが在らんことを』
リッカと覚者は、互いに笑い合う。
「はいっ!!」
その時、涅槃の元に彼女の救いが現れる。
【よう!待たせたな、リッカ!】
【お迎え。天使じゃないけど】
それは、巨大なる黒き神龍。リッカの半身、アジーカとセーヴァー。
「二人とも!!」
【おひさ】
【よう覚者様。悪いがこの魂、ゾロアスターが貰っていくぜ?】
『彼女を頼みます。夜の安らぎを齎すが如き、宵の貴方がた』
【まかせて】
【へっ。キラナみてぇな雰囲気でケツが痒くなるぜ。さ、乗りな!】
「うんっ!!」
リッカを有し、菩提樹よりも巨大なる龍は身体を起こす。
【それとついでだ。お前さんに会いたい奴もいるぜ?】
「え、誰?誰なの?」
【それでは、どうぞ】
瞬間、リッカの目の前に現れし存在に彼女は瞠目する。
『──────』
「!!」
輝ける翅。緋色の長髪。金色の目。
間違えようもない。リッカの魂の母親たる天使。
「お母さん!!」
二人は抱き合う。そして、ジブリールは見つめる。
『─────』
「あ…………」
それは、リッカの翅の思念。本人ではない。
しかしだからこそ、彼女に気持ちを告げる。
──────愛している。
──────行ってらっしゃい。
「───うん!!」
今は言葉は交わせない。
だけど、きっといつか。
「行ってきます!お母さん!アカシック!覚者様!!」
生きながら二度とは来れぬ涅槃。
全人類、三人目の資格に背を向け、リッカは飛び立つ。
『これで、向こうの彼女も一安心だな』
『───────』
見る間に小さくなるリッカを、アカシックと覚者は見やる。
『彼女の内に、真なる救いの萌芽は芽生えた』
静かに、覚者は告げる。
『それが、憐れなる輪廻より外れた魂達の最後の慈悲とならんことを──』
その姿を……
二人は、祈りを込めて見つめていた。
始まりの娘〘─────〙
そして、その時は来たる。
マシュ「先輩!?」
始まりの娘は、分かたれる。輝ける魂、輝ける翅、そして肉体へと。
それらが光に満ち──
オルガマリー「ど、どうしたの!?」
マシュ「いよいよ名称決定でテンションが振り切れたのでしょうか!?」
やがて、光が収まるころには。
リッカ「────あれ?ここ……」
始まりの娘inメカジブリール〘──────〙
リッカ「帰って、きた?」
マシュ「─────!!」
オルガマリー「……!!」
根源より帰還したリッカは……
親友二人の抱擁にて迎えられ。
始まりの娘〘─────〙
その様子を、始まりの娘はメカジブリールの内在人格として。暖かく見守るのであった。