人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ウィーン
マシュ「先輩……いえ、始まりの娘さん。はじめまして。マシュです」
始まりの娘〘──────〙
マシュ「御挨拶と……懺悔に来ました…!」
〜
始まりの娘〘──────〙
マシュ「私はかつて、無垢であれと言われた事があったような無かったような気がします。そうする事で、私は盾を担うに相応しい存在であると」
始まりの娘〘──────〙
マシュ「しかし私は先輩や皆様のお陰で思ったんです!『他人に言われたまま無垢であるって、それは白痴と同じでは?』と!」
始まりの娘〘──────〙
マシュ「そう……!私は無垢でした!無垢に甘んじ、無垢に縋り、いい子なマシュであろうとしました!そう望まれたからという理由で!」
始まりの娘〘──────〙
マシュ「でも今は違います!!」
(押し倒すマシュ)
始まりの娘〘──────〙
マシュ「根源先輩だというのならちょうどいいです!根源にまつわるもの、全てに聞いていただきます!」
始まりの娘〘──────〙
マシュ「今の私は無垢ではありません!先輩への愛やパッションとかその他諸々でむしろムクムクしています!!皆さんが大好きですがカルデアの皆さんは特別で!」
始まりの娘〘────〙
マシュ「その中でも!!先輩とオルガマリーさんが特別に大好きです!!!」
始まりの娘〘────(拍手)〙
マシュ「以上です!ご清聴ありがとうございました!あ、押し倒してしまい申し訳ありませんでした!」
始まりの娘〘──────〙
マシュ「きゃっ!?なんの光!?」
(なすびと剣と盾のアーティファクト)
マシュ「これは……」
始まりの娘〘─────〙
マシュ「素敵なペンダントですね!ありがとうございます!!それではまた!藤丸初華さんっ!!」
始まりの娘〘────(手を振り)〙
オルガマリー「部屋で何をしてたの?マシュ」
マシュ「先輩を押し倒していました!」
ドムッ
マシュ「ふぐぅ!」
【アダム先生は、此処とは違う世界においての王。こういった名称は手慣れているかもしれないけれど…】
「確かに民たちから生まれた子の名前を請われたことはある。しかし、それは決して惰性ではならぬ行事だ。常に一度一度に全霊を尽くすものだったぞ」
【そう。なら私との子の名前も大丈夫そうね】
「ん?」
【?】
シャーレの一室。始まりの娘に与える名前を考えようとしていたアダムの下に、協力を申し出るペットロボ。
彼女の具申を得て、アダムは始まりの娘の真名を手繰り寄せていく。
【私なりに情報やルーツを探ってみたところ、聖書と呼ばれる文献にはアダム先生と同姓同名の存在が現れるわ。そのまま、始まりの人類たるアダムという存在が】
「そうだな。詳細は省くが、今考えている名前を賜る娘は間違いなくアダムとイヴの実子だ」
【えぇ。そして聖書を読み解いて把握、推論した事実が一つ】
「?」
【アダム先生。あなたは……この聖書に現れるアダムの、平行世界の同一人物ではないかしら】
ペットロボの指摘に、アダムは感嘆と共に問う。
「単なる同一人物、とは考えないのか?」
【あなたとは一致しない部分が多いわ。始まりの妻リリスに男性上位を強要したり、知恵の果実を食べた後にイヴに責任転嫁したり…。言ってしまえば『解釈違い』というものね】
「若さ故の過ち、であったら?」
【私は誰かが編纂したアダムより、この目で見てきたアダム先生を信じるわ。ユウカもノアも、きっとそう】
「────フッ。そうか」
ペットロボを優しく撫で、アダムは喜びの笑みを浮かべる。
【それであると同時に、一つの疑問も抱いているわ】
「疑問?」
【始まりの娘……おそらく私はその娘を、ゲヘナ風紀委員会指揮官『藤丸リッカ』に近しい存在と推察している】
「当たりだな」
【先のアダム先生の『実子』という言葉からして、リッカと先生との関係は『平行世界の自分の娘』という共通点がある。だから、アダム先生は彼女に名前を贈ろうとしているのかしら】
「半分当たりで、半分外れだな」
【?】
「彼女は嘘偽り無く『私の娘』だ。そしてその存在が新たにこの世に生を受けた。故に私は先に生きるものとして、名前と祝福を贈る。生誕の動機や親元がどうであるかなどは関係ない」
アダムは紅茶を啜り、湯気を見上げる。
「家族、肉親というものは何も血を分けた家族の事ばかりを言うのではない。互いに想いやり、生まれる絆は血よりも濃く互いを結ぶに足り得る。私と彼女は、そういった家族でありたいと思っているのだ」
【想いやり、生まれる絆…】
「察しのとおり、私はこの世界に近しい存在ではない。こちらの世界のアダムの愚行には頭を抱えたものだが…それを成り代わり、名誉を回復させるつもりもない」
平行世界の自身の犯した過ちと恥を消しては、続く者たちにも歪みが生まれる。ならば自身の恥として、背負う他無いと彼は語る。
「故にこそ、奴等が遺した形見にして最高の娘たる彼女を愛する。奴等は彼女を楽園へ帰るための供物にせんとした。唾棄すべき愚行だが、彼女には何の関係もない」
【!】
「愛したい。支えたい、慈しみたい。その感情は普遍的に生まれ出ずる。それは先生が生徒に抱くものであり、親が子に抱くものである。私にとって全ての生命はそういうものだ。繋がりや血縁など関係なく。背中を見せ、道を拓き、自由に可能性と未来を選んでほしい。そう私は常に願い、君達と触れ合っているのだから」
だからこそ、誰かの祝福をすることができる。異邦からの来客でも。漂流者であり旅人であろうとも。
【…………相変わらず、あなたは規格外ね。アダム先生】
「褒め言葉として受け取ろう」
【だからこそ、既に考案していた名前を提出できるわ】
黒いペットロボは、映像を映し出す。
【旧約や新約、偽典などで描写が揺れる神学だけれど、アダムには二人妻がいるわ。最初の妻、リリス。彼女はアダムの男性上位主義に反対し、楽園を出た女性。フェミニズムの象徴たる存在ね】
「あぁ。彼女はまさに強き女性の象徴だ。私の故郷での伴侶でもある」
【その彼女が生み出した子は『リリン』とか『リリム』とか呼ばれるもの。まず、この名前をミドルネームとして呼称するのはどうかしら】
おお、とアダムが感嘆する。最新の覇者に、彼女の子の名を付けるのは洒落が効いていると膝を叩く。
【そして、今のアダム先生の発言からイヴは第二夫人か、或いは娘かどちらかと思うのだけれど】
「あぁ。かつて私がEDEN…故郷の王であった時、リリスとの間に設けた子の名前はイヴだった」
【では、アダム先生の『こちら』で巡り会えた縁として『イヴ』を冠しましょう。そうすれば、二つの意味でアダム先生の娘たるに相応しい名が見えてくる】
ペットロボは、スペルを投射する。
【イヴ・リリン・カドモン。血縁や妻の差異を越えた、心が繋がる娘に相応しい名前だと思うわ。…どうかしら】
「────完璧だ」
アダムはそう言葉にする他無かった。
リリスの子。
アダムの娘にして2番目の妻。
偽神に歪められたアダムの運命。EDENのアダムの縁が全て昇華した、アダムにとっての福音ですらある名前。
「そこに、丘の上という意味の『オリカ』という意味を持たせ、『丘の上に在る娘』という二つ名を有させれば、バアル神の縁起にあやかり完全な名前が生まれるな…!」
【素晴らしいわね。採用に足るかしら】
「勿論だ!早速カルデアに提出しよう!!」
アダムは小躍りで報告書を制作する。
そんな中、ペットロボは一息をつく。
【…少しは、罪滅ぼしになったかしら】
「罪滅ぼし?」
【……アリスの件よ。私は一人で世界を救おうとし、結局迷惑をかけ失敗した。…アダム先生のお陰で、生徒同士で傷つけ合う事は無かったけれど…】
ペットロボ越しからでも解る、自責の念。
アダムはそっと、ペットロボを撫でた。
「罪は赦されるものだ」
【!】
「向き合い、付き合う事により、必ず罪は浄められ、その魂は赦される。自分を責めすぎなくていいんだ」
【でも……】
「人が罪に苦しむ原因は、私とイヴにある。君達、後の生命が罪に苦しむのは、アダムとイヴの犯した原罪によるものだ」
アダムは、アダムにしかできない手段で彼女を慰める。
「全ての罪と責任は、始まりのアダムとイヴにある。だから、君は自分の過ちを責め立てずともいいのだ」
【……アダム先生……】
「ユウカもノアも、きっとコユキも待っている。いつか一緒に、ごめんなさいをしにいこう。約束だ」
ペットロボに、小指を差し出す。
【………えぇ。きっと必ず、約束するわ…】
その小指に、ペットロボは前足を重ね合わせた。
それは、臆病ながらも大切な、赦免の約束。
そして、別れの時は訪れる。
【アダム先生。突然だけど、あなたはキヴォトスにおいて罪を犯しているわ】
「む…それはまぁ、生きているわけだからな」
ペットロボは立ち止まる。
【………思春期の多感な頃合いの少女が、アダム先生という『男性』という存在の頂点を知った後、卒業して他の男性で妥協できる確率を計算したの】
「………結果はどうだったのだ?」
【0%よ。貴方の存在は、私達にとって何よりも残酷だわ】
それを聞いたアダムは、告げる。
「それならば、全責任を以て。君達を卒業後…妻に娶らなくてはならないな」
【────そう言うと思ったわ。全ての先を生きる人】
そして、ちょいちょいとアダムに耳寄せを所望する。
「ん?」
【恐らく貴方は、自分の世界に何らかの『変数』を齎すためにキヴォトスへと来たのでしょう?その変数とは、その、つまり……】
「………?」
【………………わ、私の……『遺伝子』が、その変数に役立つのなら。いつでも、アダム先生に…………提供するわ………】
辿々しく、消え入りそうな声音で告げられた言葉。
「!──────」
アダムはその言葉を受け、ペットロボに返す。
「───進路には『アダムの妻』と書いてくれ。卒業後、迎えに行こう。『リオ』」
【…………〜〜は、話は以上よ。この会話記録は、保存しないでちょうだい】
「行くのか?」
【犯した罪は償わないと。……あなたの隣に、胸を張って立つために】
そうして、ペットロボは歩き去っていった。
「………恐らくだが」
アダムは紅茶を啜り…
「君を許せないのは、恐らく君だけだぞ。リオ」
昇る湯気を、愛おしげに眺めていた。
デイビット「彼女が我々の味方である方法?」
キリシュタリア「あぁ。人理の為ならば、万が一、私達とは敵対する可能性もあるのかもしれないだろう?」
デイビット「簡単だ。我々が心から彼女を受け入れればいい」
キリシュタリア「!」
デイビット「彼女を尊び、尊重し、一緒にいられることで幸せだと伝える。ならば彼女は俺達と離れれば、俺達が幸せでなくなると考えるだろう。離反はあり得なくなる」
キリシュタリア「なるほど!魔術師では考えられない簡単な手段だね!」
デイビット「そうだな。故にこそ……名前は素晴らしいアイデアだろう」
名前とは、最も強い祝福なのだから。
デイビットとキリシュタリアは、笑いながら頷いた。