人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『・・・私のアドバイス、きちんと伝わったかしら・・・いいえ、信じるの。信じるのだわ!必ずオルガマリーならやるのだわ!』


(信じるのだわ・・・オルガマリーは私のフレンズ!信じるのだわ・・・!)


『・・・戦いは、近い。・・・私の、願いは・・・』

「・・・そういえば、母さんの願いはなんなんだい?聞いていなかったよね、そういえば」

『――私は・・・』

「――――そうか。それが、母さんの望みか」

(――なら、僕は・・・停止するわけには、いかないな・・・)

『・・・キングゥ・・・?』


おつかれさま、冥界の女神

「い、いえ!私はめげないわ!この世に、挽回できない失敗はない!失敗して顔を上げないことこそ真の失敗だもの!」

 

 

奮い起ち、改めて立ち上がる様子を、一同はほほえましく眺める

 

(うんうん。君はそれでいいんだよ、エレシュキガル)

 

(なんだいこのポジティブは)

 

二人が頷き合う。・・・実際問題、黒歴史を見せつけられてもめげない、挫けないのは強さだ。見習いたいと・・・エアは頭を下げる思いだった

 

 

「そうでなくてはな。陰気な方に無駄に前向きな女神よ。前の貴様は欲しいものはまず殺し、手に入らぬものは腹いせに穢し、誰も訪れぬが故に宮殿を高みに置く面倒極まる娘であったが・・・倒される側の自覚はできているようだな、善なる麻婆神エレシュキガルよ」

 

くっくっと笑いながら告げる英雄王。目を白黒させた後エレシュキガルは告げる

 

「う、うるさい方の英雄王までここに来たのね。それに・・・」

 

エアの頭に声が響く

 

【こんにちは。えっと、エアと呼ばれていたわね。私はエレシュキガル。冥界の女主人よ。寒くてごめんなさい・・・後でイシュタルからひっぺがした貴婦人の衣装を渡すから、身体を冷やさないでね】

 

礼を尽くす女神にエアは喜色を示す

 

――優しい方です!エレシュキガルは優しい方ですね!

 

《やはりエアを知覚するか。哀れよなイシュタル、力の出力にて些細な知覚叶わぬとは》

 

【え、気付いてないんだそこの羽虫。・・・こんなに綺麗で、透き通るみたいに輝く魂なのに・・・馬鹿なのかしら・・・】

 

(バカなんでしょ。久しぶり、エレシュキガル)

 

【エルキドゥもいるの!?同窓会めいているのだわ・・・】

 

(ボクもいるぞ!)

 

【や、厄災のけも・・・あれ?もう育ちきってるじゃない!それも見たことない姿に!何を食べたの?眩しいくらい人の善いところでキラキラしっぱなし!眩しいのだわ!】

 

(これぞ、プレシャスパワーさ!)

 

困惑の精神通信が絶え間なく行われる中

 

「すまぬな、横から失礼をするぞエレシュキガル。空気を読めぬ王を許すがいい」

 

賢王が、真剣に会話を遮る

 

「・・・何よ。呼んでもないのに勝手に来ちゃった王様。あなたがいられても迷惑だから、さっさと戻りなさい。邪魔よ、邪魔。ふはははははってうるさいし」

 

「フッ、とぼけおって。貴様の献上した麻婆で我はショック死したのだというにな」

 

「え、何それ知らないのだわ・・・というか食べて死ぬ食べ物って何なのだわ」

 

(困惑するよなぁ、やっぱり)

 

うんうん、と頷くエアとフォウ。おかしいなぁと首をかしげるエルキドゥ

 

 

《うむ、矛盾が出たならいい感じに補佐するがよい。任せるぞエア》

 

――ワタシですか!?わ、解りました!

 

「エレシュキガルよ。貴様はクタを守護する都市神でありながら『三女神同盟』に与した。――その罪は、他の女神どもなどとは比べ物にならぬ程重い」

 

賢王の糾弾が、冥界を震わせる。是非を問うは、冥界の女神の罪――

 

《ヤツめ、王権を振るう気か?》

 

英雄王の険しい物言いに、エアが訪ね返す

 

《ディンギルを得た王は、全てを引き換えに神すら処断、断罪が叶う。――メソポタミアの取り決めでな。神を罰すもまた、王たる者の責務であるのだ》

 

――王権を手にした者は、神をも・・・

 

(あくまでメソポタミアルールだけどね。権利や能力を断罪する時は、話が違ってくるけど)

 

この世界は、王の役割は余程重いのだと、エアは深く頷く

 

《彼方の管轄である『天命の粘土版』・・・最後の鍵にはアレがいるのだが、今はあえて追求すまいよ》

 

「侵略者は力で撃退するもの。しかし同胞の裏切りは世界そのものが処断する。王権とはそういうものだ。それは貴様も分かっていよう」

 

「・・・えぇ。ディンギルを得た王であれば、全てを引き換えに神さえ処罰できる。で、それが?命と引き換えに私を殺すの、アナタ?」

 

・・・それも貴様の返答次第よ、と王は笑い、そして告げる

 

「では問うぞエレシュキガル!貴様はなぜ女神同盟に加担した!シュメルの文化、シュメルの民を護ることを否定したか!」

 

「――何を問うかと思えば!見損なうな、ウルク王!」

 

エレシュキガルの眼が、神性を示す黄金に輝く

 

「我が責務、我が役割は何も変わらない!私はエレシュキガル、冥界を任されたものだ!すべての人間、すべての魂を冥界に納めるのが我が存在意義にして我が運命!それを全力で行うことに、何の後悔も自責もない!」

 

高らかに槍を掲げ突きつける

 

「我が責務を阻むというなら、死者の安寧を妨げるというのなら!貴様こそ!我が神権に滅ぶがいい!!」

 

「ほう――見事な口上だ!であれば、もはや貴様の罪は問うまい!ただその首を差し出すがいい!敗北を以て、その過ちを断罪する!!」

 

「望むところよ。一切の呵責なく、全身私の槍で串刺しにしてあげる!――でも、その前に一つだけ。・・・リッカ」

 

エレシュキガルが、リッカに向き直る。その顔には・・・苦悶と悲嘆が浮かんでいた

 

「いいよ、エレシュキガル」

 

「ありがとう。私は気の遠くなる時間、ここで死者の魂を管理してきた。自分の楽しみ、喜び、悲しみ、友人・・・何もないまま、自由気ままに翔る自分の半身を眺めてきた。その私に――罪を問うの?今さら、魂を集めるのは間違っていると指さすの?」

 

エレシュキガルは、真剣だった。真剣に、初めて出来た・・・人間の友に問いかけた

 

「ずっと一人で・・・この仕事をこなしてきた私の努力を、誰も・・・褒めてはくれないの?」

 

リッカはただ聞き、頷き・・・そして、真っ直ぐに告げた

 

「勿論。私はエレシュキガルの苦しみを『解った気』になんてなれない。そんな侮辱、私にはできない」

 

「・・・え?」

 

エレシュキガルは問い直す。リッカは告げる

 

「私は女神じゃないし、ずっと一人であったこともないし、冥界にいた事もない!そんな私が知った風な顔で、『エレシュキガルは悪くない』なんて口が裂けても言えない!そんなの――どんな言葉よりバカにしてる!『真面目にお仕事できて偉いね』『エレシュキガルは御仕事ちゃんとできるね』なんて言っていいはずがない!そんなの、あなたの侮辱に他ならないじゃん!」

 

「リッカ・・・」

 

「私があなたに伝えるのは『敬意』と『感謝』だけ!こんな暗い中ずっとずっと頑張り続け、逃げださなかったエレシュキガルそのものへのリスペクト!本当に、誰も真似できない、あなたにしかできないことを貴女はやっていた!そして――」

 

リッカは、更に・・・告げる

 

「死ぬことを、怖いことじゃなくて、きっちり居場所を与えて、魂を休ませてあげてた事への感謝!エレシュキガル!――死を、怖いものから変えてくれてありがとう!」

 

リッカは気付いていたのだ。優しく、思慮深く、がんばり屋な彼女の真意を

 

「そして――『友が悪に堕ちたなら、全霊を以てこれを糺す!』これが私の意地と決意!――さぁ、槍を取って!エレシュキガル!今私達が――貴女の意固地を叩き潰す!!」

 

高らかに冥界を震わせるリッカの咆哮。身体に纏いしは、覚悟と決意の人類悪の鎧――!

 

《当たり前の事を誉めるほど、マスターは愚かではないと言うことだ。与えられた境遇を嘆くことはよい。違う道を探すのもよい。だが――自らがこなしてきた責務を卑下することは悪であり、それを称賛すると言うことは、何より――エレシュキガル自身への侮辱に他ならぬ》

 

(何よりも――安易に『解る』なんて口にしてはいけないんだよ。誉められるのは、彼女が為した偉業だけさ)

 

英雄王が真理と心理を語り、エルキドゥが静かに呟く

 

(だからこそ・・・苦しみを知り、認めながら・・・彼女は、対立を選んだわけさ)

 

 

――・・・安易な和解を選ばず。対立を選ぶ。相手を尊重し、重んじ・・・その果てに、真なる和解を掴むために

 

 

それが、マスターの戦い。それがマスターの決意

 

 

――まだまだ、マスターには・・・学ぶことばかりですね

 

《であろうよ。さて――急所を突かれたのだ。エレシュキガルも黙ってはいるまい。――だが》

 

エレシュキガルはリッカの言葉に一瞬顔を赤らめるものの、――すぐに、冥界の女神としての表情を表し、決意する

 

「――いいでしょう!貴女の答えがそうならば――私は貴女の前に立ち塞がり、試練を与えるまで!」

 

 

その姿は見上げるほどの『巨大なガルラ霊』に変化し、辺り一帯に魂を凍えさせる波動を撒き散らす――!

 

『私は冥界の女神、エレシュキガル!貴女を殺して――初めて私を理解した魂を手に入れる!』

 

【全員!来るよ!戦闘準備!!】

 

今、冥界の最奥にて――

 

『まずは殺す!殺すわ!その後で、私の話を聞いてください――!私を知りながら、対立を選んだただ一人の人間の――果たすべき責任です――!』

 

魂を懸けた戦いが始まる――!

 

 

『エネミータイプ!ガルラ霊が大量に現れるぞ!おまけにブリザードが君達に吹き付けてくる!』

 

エレシュキガルの背後から現れる無数の悪霊が冥界を埋め尽くし、凍傷を越え、身体が欠損し崩れ落ちる現象が起きるほどの冷気が吹き荒れ

 

『リッカ!なんとしても、あなたを閉じ込めてあげる!誰も傷つけられないよう、永遠に槍の中にね!』

 

『リッカのみを狙う』、槍の檻が無数に地を走り、襲いかかる――! 

 

【イシュタルはマシュの傍に!マシュはシールドで吹き付ける寒気をガード!英雄王はガルラ霊を迎撃!賢王は魔術で、私達の体温と生存環境を確保してください!】

 

 

リッカの指示が飛ぶ。速やかに動きを取る一同 

 

マシュはパーティーの最前列に立ち、盾を叩き付ける。その盾にて吹き付ける極寒の寒気から一同を護る。盾の一枚向こうから叩き付けられる、凍える冥界の風から生命の炎を庇護し守護する

 

――選別を開始します!オルレアンの際選別した聖なる武器を重点的に!英雄王!射撃を!

 

《フッ、照準と選別は一任するぞ、エア!》

 

フォウを庇い、射撃を開始する英雄王。ガルラ霊の数の二倍、三百門。一つの霊に二門をあてがい、首と核を的確に撃ち貫く。広がっていく霊達に合わせ100門ずつ増やしていく

 

《一秒先の配置を見据えよ!いくら徒党を組もうが襲いかかる者は全体の一割程度!お前ならば読みきれよう!》

 

――はい!

 

『一秒先にいるガルラ霊の位置』を念頭に入れ、精密極まる財の射撃を放ち続ける。次々と撃ち放ち、叩き落とされ、霧散していくガルラ霊の群れ――

 

「フッ、暖を取るは任せておけ!」

 

王が魔杖を使い、辺りの気温を保ち暖める。凍傷と肺胞の破裂、肉体の凍結を防護し、万全の防護を展開する

 

「わわ、ちょっと!吹き飛ばされないようにしなくちゃ!」

 

(全く)

 

フォウがイシュタルを囲い、飛ばさないよう防護する。倒されてしまっては、今までの戦いが無駄になるからだ

 

チーム一丸となって、冥界の女神の暴威に反抗し、立ち向かう――!

 

『生意気な!冥界で私に抗えると思わない事ね!』

 

暴威はますます増し、槍が全方位から、『リッカ』のみを狙い襲いかかる

 

「先輩!」

 

【ッ!】

 

素早く身体を纏う泥を強固にし、肉体に槍が刺さらぬように防護を固める

 

 

【――!!】

 

身体を切り裂き、突き立てられ、切り刻む無数の槍。肉体には届かぬが、切り裂かれた場所が凍り付く

 

【ふぅうぅう・・・!!】 

 

蒼炎を焚き、火焔を吹き、凍結を阻む。泥を固め、腕をクロスさせ、翼をたたみ、槍の怒濤から身を護る・・・!

 

「先輩!」

 

【大丈夫大丈夫・・・!さぁ、もっと、もっと撃ってきなよ・・・!エレシュキガル!】

 

『何を、生意気な・・・!』

 

突き出る、放たれる槍。リッカのみを狙い、リッカのみを手にせんとする冥界の槍檻――!

 

【くっ、っう――!】

 

『必ずあなたを手に入れる!誰にも渡しはしないわ!もう、あなたを傷つけさせはしない・・・!』

 

エレシュキガルの思いに応えるように、勢いが強くなる。身体を絶え間なく切り裂く槍に、自らに単体治療魔術をかけ、切り裂かれながら治癒し耐えるリッカ

 

『ここにずっといれば、ずっと平穏でいられる!貴女を傷つける人は誰もいない!なのに、なのに・・・』

 

歯を食い縛り、耐え抜くリッカに、エレシュキガルは驚愕と歯噛みを隠せない

 

『どうして貴女は屈しないの!?どうして貴女は頑張れるの!?』

 

ますます強まっていく槍の威力。マシュは寒気、英雄王はガルラ霊に対応、賢王は――あえてそれを見定めている

 

『いいから、もういいから!もう傷つかなくていいから・・・私の、私の――』

 

いよいよ以て放たれる、全方位の槍――!

 

 

『私のものに、なりなさ――――いっ!!』

 

リッカは翼にてすっぽりと自らを覆い防護する――!

 

 

巻き起こる稲光、吹き荒れる砂埃。立ち上る砂塵・・・

 

『――なんで、貴女は・・・』

 

【――決まってるでしょ】

 

翼を展開する――黒き龍

 

 

【それが私の、生き方だから――!】

 

冥界の神威を防ぎきったリッカ達の反撃の、狼煙が上がる――!

 

 

「フッ、お前の槍がこやつの魂を捕らえる事はなく、また、こやつの魂を貫く事はない」

 

英雄王がガルラ霊の始末を完遂し、エレシュキガルにその事実を突きつける

 

『・・・何故・・・!?冥界に在りながら、どうして私の槍が利かないのだわ!どうして!?』

 

――それは・・・

 

「決まっていよう。・・・貴様の槍は、あまりに優しすぎる。他者を思い、他者を庇護せんとする思慮の槍。――鱗を貫くには、あまりにも切れ味が鈍いのだ」

 

【・・・言葉の刃に比べたら、全然平気!】

 

無数の切り傷に晒され、鎧に亀裂が入りながらも――五体満足でエレシュキガルを見据えるリッカ

 

『リッカ・・・そんなにも、傷付く事になれてしまったと言うの・・・?そんなにも・・・』

 

エレシュキガルの動きが――止まる

 

【――次は、こっちの番!!】

 

『リッカ!お待たせ!行くわよ!』

 

同時に、位相を完全に把握し観測したオルガマリーが合図を送る

 

「エレシュキガルよ、冥界に篭っていた貴様の知らぬ、魔術師の最奥を見せてやろう!人は最早、自らの力にて『世界』すら手中に収めることを可能としたのだ!」

 

その声に重なる魔力の高まり、吹雪が吹き荒れ、暗雲が立ち込め、世界の侵食が始まる――

 

『なんですって!?え、どういう――』

 

「今こそ萎びた冥界に、鮮やかなる華をくれてやる!――放て!!オルガマリー!!」

 

王の号令に応え、展開せしは――

 

『今こそ冥界に、人理に寄り添う華を!――カルデアス、シバ、トリスメギストス!疑似掌握!』

 

魔術師がたどり着きし、魔術の極致――!

 

 

『『人理に寄り添う、希望の華(カルデアス・アニムスフィア)』――!!』

 

エレシュキガル、カルデア一行を包み込むは、オルガマリーの固有結界。世界そのものを塗り替える大魔術――!

 

 

 

『こ、ここは・・・!?』

 

暗雲、吹雪吹きすさぶ寂寥なる世界。オルガマリーの心象風景・・・

 

 

『なんて、なんて・・・素敵な場所なのだわ!?』

 

その直中に放り込まれる、エレシュキガルが感嘆の声を漏らす

 

『あ、ありがとうございます・・・その、殺風景なので恥ずかしいのですが・・・』

 

「ふはは、暢気よな!――省みるがいい。貴様の神権、『見る影もないほどに落ちているが?』」

 

『え、ぇえ?・・・あぁあ!?』

 

英雄王の指摘通り――巨大であったエレシュキガルのガルラ霊は、先程から半分以下の大きさに落ち込み、萎びてしまい、威厳が見る影も無くなっている

 

「あぁ!そっか!ここはオルガマリーって子の心象世界!世界そのものを書き換える大魔術だから、ここは既に冥界じゃなくて、あの子の世界・・・!」

 

「先程説明したであろうが。もしや難聴なのか?」

 

「うっさいわね!ほら見なさい、エレシュキガルの神性ががた落ち!オホホ、ざまぁみなさい!凄くみっともないわよ今のアンタ!」

 

ここぞとばかりに指を指し笑い者にするイシュタル。・・・棚上げ、目くそ鼻くそを笑うとはよく言ったものである

 

『あわ、あわ、あわわわ・・・!』

 

「ふはははははは!!お山の大将ならぬ冥界の女主人強制外出といった所か!ふはははははは馬鹿め!暗殺を目論んだ罰を受けるのだな!」

 

『さっきから何を言っているのだわ~!?』

 

「さて、最早ヤツは先程の脅威は発揮できぬ。一撃――いや、『一刀』の下に切り伏せよ、マスター!!」

 

【応!!――来て!】

 

身体中に走る紅き令呪の紋様が輝き

 

【――『武蔵ちゃん』!】

 

 

カルデアより、日本の誇る剣豪、宮本武蔵を縁にて呼び寄せる――!

 

「応とも!!――冥府に招かれば魑魅魍魎を叩き斬り、天に殴り込めば神を斬る!新免武蔵、いざ!推して参ると致しましょう!」

 

『え、嘘――生きてる――!?』

 

武蔵の、生者の殴り込みに混乱を起こし

 

『これ、これどうやったら帰れるの!?帰して!私を冥界に帰して欲しいのだわ――!!』

 

ホームシックを起こしパニックに慌てふためく哀れなりしエレシュキガル

 

「敵は困窮の最中!――勝機!!」

 

素早く決着、雌雄を決する決意を固め、武蔵が素早く刀を収め――

 

「『南無、天満大、自在天神――』」

 

『不味い、退くわ、退くのだわ!冥界以外で私に勝ち目なんかあるわけ――』

 

【逃がさないでダブル(オー)!一斉掃射――!!】

 

 

「ふはははははは往生せよ!年貢の収め時と言うやつだエレシュキガル!!」

 

(内緒で僕も縛っていいかい、ギル)

 

《やる気よな、友よ》

 

(いや、何――神様は縛っておかなくちゃね?僕の名前的に?)

 

――財装填!目標エレシュキガル!範囲一斉掃射、ロックオン!

 

鎖、財、魔杖がエレシュキガルに向け、暴威を以て放たれ、逃げ場と自由を完全に封殺される

 

「『仁王倶利伽羅――聖天象』!!」

 

武蔵の剣気により練り上げられ顕現せし不動明王が――五輪の気勢を手に持つ刀に宿し、叩き付ける――!!

 

【火】

 

烈火の如く加勢に絶ち

 

『きゃうっ!!』

 

【地】

 

不動を鳴動させし振り下ろしが響き

 

『ひゃいっ!』

 

【水】

 

流麗なりし太刀筋を残し

 

『ちべたっ!?』

 

【風】

 

吹き抜ける風の如く斬り流し

 

『ひゃあぁ!!』

 

 

「我が剣、未だ空には至らず。されどこの一刀、煩悩魔道を断ち斬らん!!」

 

抜き放ち最後の一刀を八相に構え、紫色の剣気を天に、【空】に立ち上らせる

 

『お、オーバーキルにも・・・――!』

 

【いけぇ!武蔵ちゃん!!】

 

「応とも!!――伊舎那!!

 

そしてそれを――一直線に、叩き振り下ろし――

 

 

「大!天!象――――――――――ッ!!!!!」

 

無限の魑魅魍魎、剪定を天眼の下一刀両断に断ち切る――!

 

『オーバーキルにも程があるのだわ――――!!!っ、ぁあぁあぁあぁあぁあ――――――!!』

 

 

財に穿たれ、魔杖に撃たれ、鎖に縛られ――

 

冥界ならぬ世界にて、エレシュキガルは討ち果たされたのであった――




固有結界内


「っ、ぅう・・・っ・・・あ・・・」

イシュタルの身体が、エレシュキガルの戦闘不能に対し元の神威に戻る

「よっし戻った!完全にリッカの勝ちね!」

(割とどうでもいい)

「そして我の戒めも解かれたようだ!」

――やったぁ!お勤め、大変お疲れさまでした!

『ふはは!労いを忘れぬとはどこまでも愛いヤツよ!すぐにでもウルクに戻らねばならんが――』

――そうだ。まだ、マスターと、エレシュキガルの絆を、縁を結ぶ儀式が残っている――


「・・・そうね。負けた女神の首を刈る仕事が残っている。魔術王の甘言に乗って、ウルクを支配しようとした女神の始末が」

【――・・・】

「・・・私は命乞いなんてしない。死の女神が死を否定しては、それこそ悪辣な死を迎える。多くの魂を捕らえた女神として、私はここで倒されるわ」

【――・・・】

「・・・貴女は優しいから、私に情状酌量の余地を見出だそうとしているのね。でも、無駄よ。私はメソポタミア全ての人間を殺すつもりだった。この冥界に魂を集めて、そこで支配者になる気だったのよ。――私は支配欲から人間を全滅させようとした。どう?これ以上の邪悪さは無いでしょう?」

【・・・・・・】

「・・・だから、首を落として。死の国の主人として人間に負け、女神としてイシュタルにも負けた。――そもそも、初めて会ったとき、貴女を殺さなかった時点でよれていた。――私と生者は解り合えない。――結局、私とアナタはそれまでの――」

【――愚かな。やはり、お前ではそれ止まりよ。エレシュキガル】

「?せんぱ――ああっ!?」

一閃。そして、両断

「・・・・・・うそ――リッカ・・・わた、し――」

リッカの絶技の一閃により、真っ二つに割かれ、両断される。舞う血飛沫、血に染まる大地

【未熟。あまりにも未熟。意地を張るのであれば、それはこの後であっただろうに】

「リッカ――じゃない!貴様、何者!」

イシュタルの矢を、外套の一振りで払うリッカ

【落ち着け。よく見るがいい。我が斬ったのは命にあらず。――同盟の契りなり】

言葉の通り、『血染めの安綱』を払い、収める

「って驚いた――!神話的に真っ二つじゃなかった私!?」

「エレシュキガルさん・・・!」

――アナタは、一体・・・

《賢しき我ではない、魔術王でもない、カルデアでもない・・・貴様、よもや――》

【さて――埒が明かぬ故、深淵より身体を借り受け、針を進ませに参った。なに、同じ境界のよしみ、と言うやつだ。――エレシュキガル。お前は真実を隠し、虚言を弄した。それを恥と感じる余地があるならば答えよ。死の国を作ろうとした理由とは――】

外套を翻し、告げる

【魂を任された女神として、人間を愛しているからだ、と】

「!やっぱり・・・!」

《周知の事実ではあったがな。まぁ、空気は読むさ》

「っ、な、何よそれ・・・そんな訳ないじゃない。私が愛するのは自分の物だけ。檻に閉じ込めた魂だけ!この国を見なさい!光のないソラ、明かりのない地表、花の芽吹かない泥!確かに娯楽はないわ、何もないわ。部員の皆の力を借りても、作れたのは、あんな小さな屋敷だけだった!でも、死の安らぎだけは・・・どんな国にも、負けないものだった!私が愛するのはこの国に落ちたものだけ!そんな私が――地上の人間を、愛するはずが無いでしょう!?」

【――――】



『こんな、傷だらけになって・・・こんな・・・』



『誰もあなたを傷つけさせない!だから、だから――私のものに、なりなさ――いっ!!』



『――それは、違うよ。エレシュキガル』

「な、何がよ。全然違くないわ。私は、死んだ人間にしか興味がなくて・・・」

【――そうだ。それは違う。冥界の女主人。地の底に捧げられた血色の華よ。お前は死した人間を愛したのではない。『いずれ死する運命にある、人間を愛したのだ』。死を、忌まわしい恐怖に落とさず、尊び、その後に残る魂をまもろうとした女神よ。お前が同盟に与したのは、一人でも多くの魂を、この死の国にて保護するため】

《・・・たとえ、誰一人として貴様を理解せず、メソポタミアの裏切り者の汚名を受けようとも》

(――死の安らぎを守ることこそ、君の誇りだったんだね、エレシュキガル)

「・・・でも、私は、もう、何人も・・・」

『エア、伝えてやれ。貴様の心配は杞憂であるとな』

――はい!安心してくださいエレシュキガル様。衰弱死した方々の遺体は、賢王が保管済みです。槍檻を解いてくだされば、皆ひょっこり生き返りますよ!

『ホントに!?』

『当然だ。ゴルゴーンの被害に比べれば、貴様の衰弱死など取るに足らん』

――クタ市の人口900人、ウルク市での被害10人。合わせて910人!ジグラットの地下にて保管されております!結論から言えば・・・被害規模は、エレシュキガル様がダントツ一番ビリです!


『そ、それはそれで凄いショックなのだわ!私、かつてないほどやる気だしたのに~~!!』

《そして、我が部員にて魂を砕かれた者はおらぬ。――だから言ったであろうが。善のエレシュキガル。悪のイシュタル、とな》

『当たり前でしょう!異世界に飛び出す冥界仲間は丁重に扱うに決まっているのだわ!』

(落とし穴かなんかかよ)

【――エレシュキガル】

「は、はい・・・」

「・・・私のものに、なってくれる?」

「は、――――――はい・・・・・・――」

(落ちたね(確信))

(エアに勝るとも劣らない輝きの魂だからね、仕方ないね)

「それでは、エレシュキガルさんもティアマト討伐に協力してくださるのですね!?」

「ハッ!?ま、まあね。だってそうしないとリッカに・・・」

「?」

「・・・気の、せい?・・・いえ、そんな・・・あれぇ・・・?」

「ふふっ。よろしくね、エレシュキガル」

「えぇ!ウルクはもう襲わない。あなたたち、世界を救うんでしょ?私も協力するのだわ。冥界の女神として、そこの駄女神とは違うってとこ、見せてあげる!」

「よし。貴様は攻略の要となろう。後に計画の仔細を送る。冥界の鏡を寄越せ。作戦会議にも出席せよ」

「解ったわ。――私は冥界管理の仕事に戻ります。アナタたちも、部員の皆様にも、出国許可を上げるから早く戻りなさい!――あ、それと」

――?

『伝えておいて。『一緒に冥界を良くしてくれて、ありがとう』って』 

――必ずや。でも・・・皆、分かっていると思いますよ

『え?』

――エレシュキガル様は、素晴らしい冥界の女神様だって!

『――綺麗さでは初めてみるくらいの魂のアナタにそう言われたなら、私も自信が持てるわね。ありがとう、エア。その英雄王をよろしくね。ソイツ、アナタがいなくなったらきっと泣きわめくわよ。エルキドゥの時と同じくらいにね』

《こやつめ。――まぁ、けして補填が利かぬ至高の財を喪うなど、コレクターの想定すべき中で最悪のもの。万が一にも有り得ぬが・・・直面した際の、涙の一つは赦すがよい》

――英雄王・・・

《――下らぬ想定をさせた礼だ。貴様には――この世界の真の姿を見せてやろう》

「え――?」

《エア》

――はい!・・・最後にもう一仕事、お願いね。『エア』――

・・・そして、乖離剣は唸り、世界を切り裂きあるべき姿を導き出す

「わぁあぁ――!!」


そこは、白き山々、太陽、赤き星々、突き抜ける青空。どこまでも広がる、美しき世界・・・


「これが、世界の姿――綺麗・・・――!私が夢見た、世界の・・・!」


エレシュキガルは、その景色を目の当たりにし続けた。夢を見る乙女のように、いたいけな少女のように

目を輝かせ、ただ・・・喜びを顔に浮かべながら

「――いよいよ、ティアマト討伐の駒は揃った。ウルクに戻り次第、会議を始めるぞ」

「はい!」

「良かったね、エレシュキガル」

「うん!皆――冥界に来てくれて、ありがとう――!」

蒼銀の世界にてはしゃぎつづける、エレシュキガルであった――


・・・戻った賢王は『三度めの冥界帰還おめでとうキャンペーン』を実地

『冥界で妖精と戦う王』『冥界で崖から落ちる王』『冥界で胸を張る王』『冥界で高笑いする王』『冥界で楽しむ王』『冥界で愉悦する王』といった粘土細工が作られた

中には、ミニマムな愛らしい龍をかたどった粘土、盾を持つ可憐な粘土、ちっちゃな獣の粘土

そして、ジグラットの見晴台に『冥界の王の窮地を救いし尊きもの』を象った、黄金とラピスラズリで作られし、絶世の美女の像が鎮座されたと言う

そのモチーフ、英雄王と賢王のみが知る

・・・同時に麻婆は『エレシュキガルの神威の結晶』として、神の食べ物として敬われ、奉られ、エレシュキガルに捧げられる事となる

『どういう事なのだわ・・・』と困惑するエレシュキガルを余所に、一行は三日三晩の宴を楽しんだ


・・・そして

『――Aaaaaa・・・』

戦いは、最終局面へ――

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