人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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地獄

悪魔【オイ、またサタン様が演奏を為さっているぞ】

悪魔【……少し前は、演奏している姿が美しいだけで音にそれほど魅力は感じなかったが…】

悪魔【最近は凄い、美しいよな…】

アスモデウス【あなた達】

【【【はっ!】】】

アスモデウス【そういう感想は直接おっしゃいなさい。サタン様も喜びます】

悪魔【直接!?】

レヴィアタン【いや…立場あるし…】

アスモデウス【言えないの!?仕方ありません。私がアンケートを実施します!感想付きで書きなさい!】

悪魔【【【は、はい!】】】

レヴィアタン【……まぁ、目を通してくれるかは…】

【……ううん。通してくれるよね。今のあの御方なら】


地獄からの切なる願い

【オーディール・コール……ですか】

 

【そう。果たすべき使命の呼び声とも言う、人理に対する弁明と言い訳。潔白の証明だよ】

 

地獄の最下層。ベルゼブブを呼び出したサタンはハープを奏でていた。地獄に響き渡る壮麗な音色を響かせながら、サタンはベルゼブブにそれを説明する。

 

【当たり前過ぎてて失念がちだけど、本来英霊のクラスは七騎であり、エクストラクラスなんてものは存在していない。冬木の魔術師たちのチンケな儀式でもそうだし、英霊召喚のグランドだってそうだろう?】

 

【はっ。アルターエゴ、ルーラー、アヴェンジャー、フォーリナー、…ビーストなどが該当します】

 

【本来それらは汎人類史には存在しない鋳型だ。人類史にないって事は人理にも無いって事。人理の為とは言え、治外法権にあるものを濫用してしまえば、やがて人理が完全となった時…カルデアは『自身』を異物と認定する】

 

【自身を……】

 

【そりゃあそうさ。正当防衛とナイフと銃を振り回しスラムを生き延びたとして、帰国する際にそれらが異物にならない筈がない。その前に『こんなものを持ち込めない』と考えるのが普通だろう?】

 

サタンの旋律に、ベルゼブブが声を上げる。

 

【では、彼ら…楽園カルデアの旅路も…?】

 

【あぁ、それは大丈夫。彼等が取り組むのは最早人理どうこうの話じゃない。全宇宙、全次元。全並行世界の危機であり窮地だ。濫用なんて言っている場合じゃない。全てを総動員するべき決戦だ。ガイアもアラヤも、宇宙の戦犯になる事は避けたいだろうしね】

 

故に、楽園カルデアは異物として弾かれる事はない。故に、その旅路が絶えることは……。

 

【まぁ、それが偽神にとって楽園カルデアに手ずから手を下さない理由でもあるんだけれどね】

 

【……!?】

 

【今の彼等では、偽神に到れる道筋がない。そしてそれは、全知に到る資格が無いということさ。戦いが凄まじいが故に、叡智の欠落が避けられないという落とし穴がある】

 

手を止め、サタンは星を見上げる。

 

【それは福音でもあり、寂しい事でもある。【知る】という事が、望んだ結果を生み出すばかりではないようにね】

 

【エクストラクラスの真意。それに至ることは、幸福ばかりではないと?】

 

【そうだね。アルターエゴは証明だし、ルーラーは裁決や委託だからまぁ別にいいかもだけど…。アヴェンジャーは旅の色を変えてしまう。別離しなくては破綻ができてしまうものだ】

 

【……アヴェンジャー。ジャンヌ・ダルク・オルタや、エドモン・ダンテスが該当するクラス】

 

【アヴェンジャー。復讐者はどう足掻いても炎でしかない。完全無欠の旅路ではなく、奪われた未来の為に戦う旅路だった場合。復讐者を連れていては【復讐の旅路】となってしまう。故に、他のカルデアでは別離を選ばざるを得ないという話だ】

 

その事実を、以前のサタンなら嘲笑うか、興味もなさげに切り捨てていただろう。

 

【……人理を救った、誰でもない功労者の報酬にしては。残酷すぎるとは思うけれどね】

 

今のサタンは、寂しげに目を細め旋律をかき鳴らす。それはまるで、傷ついた魂への鎮魂ということだ。

 

【楽園カルデアでは起きえない全知の欠落。これを何とかしなくては、偽神の階梯には至れないだろうね。それに…】

 

【まだ、何か懸念がございますか?】

 

【うん。こちらには、いいや…。あらゆる全人類には『罪』がある。アダムとイヴが犯した禁忌の原罪。そして七つの大罪とされる人に刻まれた罪が】

 

罪を刻まれしもの。それが意味する事をサタンは語る。

 

【神は天の座、天の柱にいる。天国とも呼ばれるそれは、どんな存在が行けるかな?】

 

【罪なき者。善なるもの。天の門に招かれるべき…。…!】

 

【そういう事さ。【罪あるものには天国には行けない】。元よりそんな法を定めた偽神を殺したアダム、救世主の天敵たる別の救世主、セイヴァー。そもそも神の座を脅かす人理の守護獣、ビーストIF。新たな真理と化した真化人類とかなら行けるだろうけど…単独攻略ができるほど、無駄に力しかないアイツは生ぬるくは無いだろうしね】

 

楽園の力と、集まる縁。それほどの力を集うことをよしとしたのは何故か。

 

簡単なことだ。【罪あるものは至れない】。どれほど全宇宙を駆けずり回ろうと、天の門は開かれる事はない。

 

【そういう意味では、楽園に必要なのはルーラーの呼び声かもね】

 

サタンは頷き、壮麗な旋律を鳴らす。

 

【ちょうど父さんがいる。人類に、今を生きる人間に、罪は許され、浄められたと宣告してもらう必要がある。それは神と同じ階梯の赦免にして免罪。法廷にて、『人類は無罪である』と証言して貰えばいい】

 

【人類が、無罪…】

 

【おかしいかい?だがよく考えてご覧。神のエゴで白痴の無垢であったアダムとイヴ。食べる事を唆した僕。罪の在処と言うならば、人間は被害者という観点もある。失楽園では僕の餌食だったしね】

 

故に、楽園カルデアにおいてもオーディール・コールは必要だと言う。

 

【別にこの時空である必要はないよ。他のカルデアは人理保障天球でてんやわんやだろうし、それに手助けして、証明の結果を持ち帰ればいい。こっちは本当に、それどころじゃないのだから】

 

【即ち、カルデアのフレンドにおける藤丸立香を救援する形になると】

 

【そうなるね。そうだな…。アルターエゴはあの人理の寵児。ムーンキャンサーは『何故人は停滞に至ったか』を解き明かす彼。まぁ彼は知識に没頭するから、リッカちゃんと共同かな?アヴェンジャーはあの昼行灯ともう一人かな。妻と娘三人、そしてマシュ自身が奪われたらどんな顔をするのかな?そしてルーラーは楽園カルデアともう一人。神を騙る天使の赤っ恥が楽しみだね】

 

弾き終わり、そしてサタンは立ち上がる。

 

【そして楽園カルデアには、七つの大罪も乗り越えてもらわなくちゃね】

 

【……年末における決戦ですね】

 

【傲慢、憤怒、嫉妬、強欲、暴食、怠惰、色欲。それらは美徳とすれば力になる。矜持、義憤、克己、欲望、健啖、安寧、情愛。それらを彼等は掴めるか否か…】

 

【危惧しておられますか?】

 

【まさか。楽園カルデアがこんな場所で終わるはずないさ。いつか、全宇宙を駆ける日まで。いつか、全ての時空に辿り着くその日まで。エアや皆の旅路は続いていく】

 

そこまで語り、サタンは告げる。

 

【………本当なら、そこで僕らはおしまい。罪を越えるための供物となる予定だったんだけど】

 

【今更、そんな離別は赦してもらえないでしょう。彼等にとっても、我等にとっても】

 

【だよね。……今更傷になろうだなんて、烏滸がましい考えさ】

 

覚悟を決めたかのように、サタンは立ち上がる。

 

【僕たちはあくまで倒されるもの。故に倒されるものが、末期を決めるのは道理に合わない】

 

【はっ】

 

【故にベルゼブブ。カルデアと戦い、敗北した際の処遇は一個人に任せる。カルデアに与するもよし。退去し消えるもよし。僕はお前たちに、選択と生存の自由を与えよう】

 

【……仰せのままに。ルシファー様】

 

【しかし、ただ負けるのは許さないよ。僕たちのような神の被造物ごときに負けているようでは、そもそも神になど勝てはしない。敬意と尊重を持ち、存在を根絶するつもりの覇気で臨め】

 

【無論です。………カルデアの善き人々が、あのような痴愚蒙昧になる姿を見るくらいならば、我等が仕留めてやるが慈悲と言うものでしょう】

 

【あぁ。僕もエアがあんな、神の賛美しか口に出来ぬ悍ましい姿になるのを見るくらいなら──】

 

サタンは、決意と共に決を下す。

 

【彼女たちの旅路は、彼女たちの魂の尊厳と共に。─────僕の手で、終わらせよう】

 

【………サタン様】

 

そして、ベルゼブブは見やる。

 

その言葉を告げたサタンの……

 

悲痛と悲嘆極まる、愁嘆の表情を。

 

 

 




サタン(………負けないでおくれ)

(乗り越えておくれ、エア。僕たちを、神を)

(永遠に……)

(───美しき、開闢の星であっておくれ)

地獄の底で、サタンは音楽を奏でる。

それは、大魔王に似つかわしくない…

遍く全てを、祝福する音色であった。
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