人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
あなたはもしかして、私の王子様なのかしら?
『それはまた、どうしてそう思うのかな?』
──だって、貴方はとても美しいもの。
『美しい?僕がかい?』
──えぇ。まるで夜空を誰よりも早く照らす、一番星のよう。
私の指揮官に、私達の指揮官に相応しいわ。
『それは光栄だね。君に美しいと言われるのは、とても誇らしいよ』
──ねぇ、指揮官。
もし、戦いが終わって平和を取り戻したら…
あなたは、いなくなってしまうの?
『そうだね。戦いを指揮する必要もない。君達がちゃんと『勝利の女神』になれたのを見届けたなら、僕はもう必要ないさ』
───それは、だめよ。
『だめ?』
──許さないわ。勝利の美しい栄光を、一緒に味わう事が無いなんて。
私と指揮官はずっと一緒よ。だから、いなくなるなんて許さない。
『わがままを言うものじゃないよ。星はやがて、夜明けを迎えたら見えなくなるものだろう?』
──…………
『君達を、勝利の朝日が照らしたなら。僕みたいな小さな星は、消えて見えなくなるのがお決まりさ。君は王子様のキスで目覚め、めでたしめでたし。素敵なハッピーエンドだろう?』
───いやよ。
探すわ。何処にいようと、何処に翳ろうと。
『探すって…』
──あなたは王子様ではないと言うけれど。
私の、私達の指揮官よ。
美しい、私達の…私の…
『───……』
──あなたみたいな美しい星、見失わないわ。
探して、探して、旅をするわ。
平和な世界になって、地上を歩けるようになって、あなたを探すわ。
『そんなにも、かい?』
──それくらい、あなたは美しいの。
待っていて。私の指揮官。
何処へいても、探し出すわ。
そして…
あなたに、勝利を捧げに行くわ──。
(感想は今日にかけて返します)
それは、召喚サークルの起動のあっという間の出来事だった。
「────あら?」
管制室がどよめく中、召喚サークルの中心に立つ一人の少女。
「ここは…?私は確か、地上にいたはずなのに」
銀色の髪、透き通るような肌と吸い付くようなボディスーツ。ツインテールに、青い瞳。
「何処か、迷い込んでしまったのかしら?おかしいわ。真っ直ぐ歩いていた筈なのに」
そしてその華奢で豊満なシルエットに似合わぬ、四つの浮遊ユニット。見たところ、ただの人間ではないことは明白だった。
「ラプチャーの仕業……でも、なさそうね」
辺りを見回した後、ふわりとした動作でカルデア職員の前に立つ。
「ねぇ、あなたたち。ここはどこ?私は、どうして此処にいるのかしら」
記憶喪失か?と、ムニエルは問うた。
「違うわ。記憶も認識もきちんとある」
彼女は答えた。
「私はシンデレラ。ゴッデス部隊と共に地上を取り戻したニケ…。フェアリーテール第二世代モデルの一人、シンデレラよ」
くるり、と周り、彼女は示す。
「美しいでしょう?私はとても、美しいわ」
カルデア職員達は、驚きながらも頷きつつ意思疎通を図る。
「……ニケを知らないの?ラプチャーも?ゴッデス部隊も?私達の事も?」
次に驚愕するのは、シンデレラの方だった。
「そうなの…。じゃあ、教えてあげる」
シンデレラと名乗る少女は、一人置かれた状況にも精神的に揺らいではいなかった。
「私がなんなのか。私達がなんなのか。そして、何を成し遂げたのかを。あ、大きな鏡や大理石の床を用意してくれる?」
彼女は、探しているものがあった。その探索の途中だったのだ。
〜
ある日、世界に『ラプチャー』と呼ばれる機械生命体が現れた。
あらゆる兵器や人類の抵抗をものともせず、人類は霊長より転落した。
人類は地下の生活区画『アーク』へと逃げ込み、地上を奪われた。
「その美しくないラプチャーと戦うために生み出されたのが、私達『ニケ』と呼ばれる存在。勝利の女神よ」
自信満々に告げながら、シンデレラは鏡に映った自身を見つめる。
「ラプチャーに唯一対抗できる、女性のみがなれるヒューマノイド。人類の希望を背負う、美しい戦士達。その中でもゴッデス部隊と呼ばれる美しい部隊と同格に作られたメンバーのうちの一人が、私。シンデレラよ」
美しいでしょう?カルデア職員達は頷く他なかった。彼女の構成は、汎人類史とは全く異なるものだったからだ。
「ゴッデス部隊。人類最強の勝利の女神達に肩を並べる私達、オールドテイルズ。私達はゴッデス部隊と合流し、美しくないクイーンを倒し、地上のラプチャーを殲滅し、打ち勝ったの」
美しいでしょう?カルデア職員達は頷く他なかった。
「……そこに至るまで色々な事があったわ。仲間の裏切り、味方が侵食されたことによる人類の敵となってしまった絶望。本当に色々な事があったわ」
鏡に映る顔を、物憂げに見やる。
「でも、それを纏め上げ導き、私達を勝利に導いてくれた存在がいるわ。『指揮官』と呼ばれる、私の美しいパートナーよ」
誇らしげに、シンデレラは笑ってみせた。
「私達、オールドテイルズの指揮官として。そして大切なパートナーとして。指揮官はとても美しい活躍をしてくれたわ。挫けそうな時も、指揮官が私達を励まし、支えてくれた。そして私達は、遂に地上をラプチャーの手から取り戻したの。美しい物語の終わりを迎えたのよ」
何もかもが懐かしい。『ガラスの靴』と呼ばれるそれを、静かにシンデレラは見やった。
「でも……。指揮官は、いなくなってしまったの。共に宇宙ステーションに乗り込んで、共にクイーンと戦って。共に討ち果たして、それで…」
宇宙ステーションが切り離され、地上に戻ることが出来なくなったシンデレラと、指揮官と呼ばれる二人。
「もういいわ、と私は言ったわ。仲間達と会えなくなるのは残念だけど、指揮官と終わりを迎えるなら本望よ、と。……でも」
シンデレラは、言葉に詰まる。
「ハッピーエンドを迎えた先にも、君の物語は続いていくんだ。さぁ、行ってらっしゃい。………だなんて……」
〜
『待って!指揮官、何をするつもりなの…!?』
宇宙ステーションから、シンデレラは地上へと戻される。
シンデレラ一人を、脱出ポッドに乗せ。
『嫌、嫌よ!ここを開けて!私は嫌!指揮官を置いてだなんて!』
指揮官は、いつもの様に優しく美しく笑った。
──ハッピーエンドを迎えるんだろ?
仲間達の元に帰って、初めてそれは叶うはずさ。
『あなたもよ、指揮官!あなたがいないと私達は、私は!』
そうだとも。
君がいなくちゃ、美しいハッピーエンドにならない。シンデレラは、美しく輝かなくちゃ。
『待って!やめて!嫌、嫌!離れないで!指揮官!私の指揮官…!』
最後のピリオドは任せておいて。
指揮官として、最後の仕事をするよ。
『開けて!ここを開けて!お願いだから!お願い、お願い!お願いだから………!!』
シンデレラ。
君はとても、美しかった。
『いや、いやよ…離れないで…私の傍にいて…!指揮官、指揮官…!私の、私だけの…!』
セイレーン、ヘンゼルとグレーテル。エイブによろしく。
『私の、おうじさ────!!』
勝利の女神たちの奮闘に、敬意と感謝を。
さようなら、地上の星よ。
君達は、心から美しかった。
『いやああぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!指揮官!指揮官!!』
───ありがとう。誰よりも美しい君。
もう、曇っちゃダメだよ?
『ッッッ───王子様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッッッ!!』
〜
「…地上に落ちるポッドの中で私が最後に見たのは、爆発する宇宙ステーションと、そこから放たれる無数の黄金の輝き。それが地表にいる残りのラプチャーを、全て一掃したの」
職員達は、静かにそれを聞いていた。
「人類は地上を奪還し、指揮官を人類を救った大英雄として讃えたわ。……慰霊碑を立て、その存在の全てを人類の誇りとした」
ニケも同時に役目を終え、戦いの幕は下りた。
「指揮官は最後まで気遣ってくれていたわ。ニケの自由と人権を認める様に、人類の権力者に働きかけていた。お陰でニケは、人権を認められ自由となったの」
だが、シンデレラは終わっていないと告げた。
「私は、指揮官を探しているの。指揮官は、必ず生きているわ。必ず」
残念ながら、その可能性はと、カルデア職員は告げる。宇宙ステーションの爆発に巻き込まれてしまったのでは、例え地上に落ちたとしても…。
「生きているわ。私は、そう信じているもの。私の指揮官が、私達の星が、あんな程度で死ぬわけがないもの」
指揮官が守り抜いた青い瞳が、決意に燃える。
「そう信じて地上を彷徨っていたら、此処に来たの。……ねぇ、折角こうして逢えたのだもの。一緒に協力しない?」
彼女は告げる。
「ニケの技術やノウハウを、私の身体を素体として研究してもらって構わない。その代わり、私の人探しを手伝ってくれる?」
数ヶ月に何回か、共に地上を散策する。
その代わり、シンデレラの身体を自由に研究して構わない。それがシンデレラの出した協力の条件だった。
「私は最も美しいニケよ。きっとお眼鏡に叶うはずだわ。その代わりに、私の指揮官を、見つけてほしいの」
カルデア職員は頷いた。
しかし、訂正するところがあると。
「?」
研究材料や、実験動物みたいに扱うだなんて思われるのは心外だ。
私達は君を、対等で大切な仲間として扱うと。
「…!」
とりあえず、友好的な関係を築くところから始めよう。
そう、ムニエルは手を差し出した。
「─────そう」
シンデレラは、確信した。
「あなたたちは、とても美しいわ」
そう頷き、
一人一人、職員の手を握り返していった。
シンデレラ「必ず見つけてみせるわ。あなたを見つけないと、本当の意味で私の物語は終わらないの」
「指揮官……。私の、王子様」
彼女はカルデアの連絡端末を持ち、地上に戻る。
「見つけてみせるわ。『明星』のあなたを…」
青い瞳を、決意に燃やし。
シンデレラは、雲一つない青空の下を歩く。
『カルデアの美しい人々』
そう浮かぶ、端末を脇に抱えながら。
彼女は『ピルグリム』として、
星を求め、旅を続ける。