人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『・・・・・・』


『お母様、大丈夫?』


『はい。嘆く時は過ぎ去りました。今は――全力で、彼等の力となりましょう』

『はい!』


天の丘

「・・・」

「緊張しないでくだサーイ!私は、やるといったらやる女デース!」

「心配はしていない。・・・後は、僕次第だ」

(・・・母さん・・・)


人類悪

マルドゥークは最大速度で駆け抜けていく。メソポタミアの空を、真紅の飛行機雲を残し、飛翔する。

 

 

 

――あのオーロラと虹!間違いない!フォウです!

 

 

親友の全力が、このメソポタミアを満たしている。今まで重ね、溜め込んだその力を解放している。共に、戦っている

 

 

――ワタシ達も、必ずや本懐を果たしましょう!

 

《フッ、当然よ。覇気に満ちているな。賢しき我から答えの一つも貰い受けたか?》

 

王の言葉に、即座にうなずく。自分は、宝を見せてもらったと。かけがえのない、至宝を見せてもらったと

 

 

《そうか。――天命の粘土板を渡すとは。ヤツも最後に何が要るかは理解していたか》

 

王も満足げに一人ごち、即座に前方に視線を切る

 

 

「友が蹴散らしたのは山を丸々一つ改良せし生産工場だ。本命は杉の森の奥地にありし神殿!――たどり着くまであと何分要するか!」

 

『二分ほどで、上空真上に至るでしょう』

 

「そうか!構わぬ!天元螺旋腕イルカルラ、発動せよ!一分一秒の時間も無駄にするな!移動と撃滅を即座にこなせ!急げよ!」

 

 

『はっ――エレシュキガル様、天元螺旋腕イルカルラ、発動を』

 

『よぅし!やるのだわ!我が決意こそ冥府の螺旋!』

 

飛来しながら、マルドゥークの左腕、掌に黄金と翡翠のエネルギーが渦を巻き、螺旋を描き、回転を増していく

 

それに比肩するかのように背部のブースターから莫大な推進力が展開し、翼を開かせ、飛行特化の形態、進み、蹴散らし、貫通するためのフォームと化していく

 

 

「ギリシャの怪物よ!貴様の復讐、それなりに意を汲まんでも無いが――生憎と、八つ当たりに付き合ってやる義理は無い!」

 

重ね、束ねられ、二重螺旋に織り込まれたエーテルの輝きは、60メートルのマルドゥークの数倍の巨大さのドリルとなり、回転を開始する――!

 

『貫通するのだわ!御兄様、行きます!――ひっさーつ!!』

 

『GAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOO――――――!!!!』

 

そして、口から排熱と咆哮を迸らせ、輝く黄金と螺旋の軌跡を残し、回転を増していき――

 

 

『天元螺旋!!イルカルラーっ!!』

 

エレシュキガルの言葉と共に、音速を越えた速度で鮮血神殿へと殴り込む――!

 

「容赦なく総てを碎け!ここはヤツの腹も同じ!食い荒らすになんの呵責も要らぬわ!」

 

英雄王の言葉と共に、邁進と削岩と貫通が果たされていく

 

魔獣の生産場所を砕き、神殿の通路を崩落させ、おぞましき肉床を蹂躙し、迷路めいた場の空間を貫通していく

 

凄まじい勢いで崩落が始まる。貫通された場所から落盤が始まり、全てが瓦礫と成っていく。

 

 

――微弱な生命反応を感知!向こうに、ゴルゴーンがいます!

 

今にも崩れそうな、消えてしまいそうな生命反応。間違いない。ゴルゴーンであろう

 

「マーリン!聞こえたな!タイミングを見計らい夢から醒めよ!」

 

 

『あぁ、勿論だとも!決めてくれ!』

 

英雄王が、マーリンと合図を取り合う。その刹那――

 

「――――果てよ!!復讐の女神!!貴様の本懐、異邦の地で果たすことなく逝くがいい!それが――!」

 

【ぐ、ぬ――】

 

 

数秒の邂逅を経て――

 

 

「我が地を荒らした貴様への、断罪と処断としてくれる――!!」

 

 

マルドゥークの螺旋腕が、ゴルゴーンを貫き穿つ――!

 

【ガ――――】

 

身動ぎも、断末魔も許されなかった。彼女には、そんな慈悲も自由も許されなかった

 

メソポタミアの地を荒らした不届きものに、王の下せし結論は、『死』のみである。螺旋腕が憎しみも、復讐も、何もかもを貫いた。霧散させ、蹴散らした

 

・・・その、因果の決定を以て。――複合神性ゴルゴーンは消滅を確約されしものとなる

 

憎しみを、抱く暇なく打倒される。――それこそが、罰であるかと吟うように

 

『さようなら。――怪物と成り果てていようとも、貴女は私達の妹よ』

『本当、真面目に過ぎるんだから。――バカね』

 

二人の姉の手向けの言葉を、せめてもの情けとして

 

複合神性ゴルゴーンは、此処に、討たれたのである

 

「――・・・」

 

「先輩?」

 

強く顔を上げるリッカに、マシュが声をかける

 

「ううん。――今は皆のために、覚悟を決めなきゃね」

 

「――・・・先輩」

 

それだけを告げ、再び決意にて天を睨むリッカを、マシュはただ見つめ、寄り添う

 

 

「このまま地表に上がり、海面に向かうぞ!マーリン!無事だな!」

 

『勿論だとも!――さぁ来るぞ!原初の母を騙る、災厄の獣――』

 

瞬間、大気が震える。打ち震える。あまりに巨大な存在が、神威が現れる事に堪えきれず、世界そのものが震える

 

『Guuuuuu――――・・・!!』

 

唸りを上げるマルドゥーク。――その運命を感じ取り、静かに激しく気炎を吐く

 

『――来ます』

 

ティアマトが、総ての始まりを告げる

 

 

『真なる戦い。――人の、子の回帰を願う・・・【獣】が来ます』

 

「――!」

 

リッカの目がいっそう鋭くなり――

 

――来る!ビーストⅡ・・・人類の自滅機構。人類が滅ぼす悪・・・!

 

 

今・・・最大の試練が現れる――!

 

 

 

割れた海の狭間から、それは来た

 

 

【――・・・Aaaaaa】

 

大地を現す巨大なる角。星の内海を現す紫の瞳。透き通るようなベールがごとき髪。美しくも儚い、白き肌。その偉容、巨人が如し

 

「あれが――原初の神・・・!」

 

60メートルの巨大さにて、一直線にウルクを睨む。海底に、自らの領域たる泥を張り巡らせ、ゆっくりと起き上がる

 

【Aaaaaa・・・】

 

――其は、全ての母。生命の母胎

 

その身体に蓄えられし生命原種。惑星間の飛行すら可能な魔力量。――人類が、あと数百年を掛けて辿り着くべき神の方舟――

 

・・・かの母は、自らの拒絶を果たした世界と人類の殲滅の決議を果たした。捨てられた悲しみと憎しみ、拒絶された嘆きよりも――

 

もう一度、全ての母となり、生命体の総てを愛する喜びに耽る事を願いとせし、災厄の獣

 

――以上の本性を以て彼女のクラスは決定された

 

【Aaaaaa・・・!】

 

創生の女神など偽りの名。其は人類が置き去りにした、人類史に最も拒絶された大災害

 

【Aaaaaa・・・――Aaaaaa・・・!!】

 

その名を、ビーストⅡ。七つの人類悪の一人・・・

 

【AaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAA――!!!!】

 

七つの人類悪の一人。【回帰】の理を持つ獣である――

 

  【人 類 悪 顕 現】

 

 

「出るものが出たな!キャスパリーグ!準備はいいかい!――キャスパリーグ?」

 

「・・・」

 

 

・・・ビーストⅡは、憎しみに支配された本能にて思い至る

 

・・・子が、産み出せない?

 

ビーストⅡの権能たる『百獣母胎』の能力が発動していないのだ

 

いや――正確には、『凄まじい力で抑え込まれている』や、『権能そのものを殺されている』と言った方が正しい

 

母が、子を産み出せぬその理不尽、物悲しさ、邪魔する理不尽・・・即座にソレを特定する

 

【――!!】

 

目線の先には、二人の魔術師。マーリン・・・そして、フォウが扮する人間である

 

彼等が、母の喜びを邪魔している――

 

 

【LAAAAAAAAA!!】

 

 

排除。殺さなければならない。原初の本能に従い、その力を振るい、ティアマトは子を産む

 

 

語るもおぞましきフォルム。生理的嫌悪とおぞましさを煮詰めて形にしたようなこの世にあってはならない『新人類』

 

顔に口と歯があり、手足が頑強な槍であり、翼があり、濃紫の身体。生殖機能など見当たらぬ、群れの在り方

 

【・・・――?】

 

【??】

 

【?――?】

 

その名、ラフム・・・11体の卷属である、ティアマト神の子供たち・・・!

 

 

「ううっ、なんだいあれは・・・!?おぞましいなんてものじゃない!ピクト人が可愛く見える異形だな!あんなものをギルガメシア姫に見せるわけにはいかない!」

 

「マーリン。アレの権能を役立たずにするのを忘れるなよ」

 

振り返らず、フォウは飛び立つ

 

「ちょっと殺してくる」

 

それだけを、簡潔に告げ――

 

「あぁ!だが、程々にするんだよ!君は怒ると怖いからね――!」

 

ケイオスタイドを華に変えながら、マーリンはエールを送り、見送った――

 

【――??】

 

こちらに飛来してくる物体を、興味深げに観察するラフム達

 

「――本当は違うんだけど、あえてこの名を名乗ろう」

 

飛来せしフォウの姿が、変わる

 

「お前たちを殺しやすい姿になってやるよ。一人一人、じっくりと付き合ってやる」

 

【!】

 

光輝くものに群がる蛾のように、フォウにラフムが殺到する――が

 

【【【!?】】】

 

降り注ぐ無数の攻撃に、あえなく阻まれる。その方角を睨むと――

 

「あぁ、なんて醜い姿だろう。シャムハトに感謝しなくちゃいけないね。デザイン性をとっても、君達が勝てる要素はないな」

 

たおやかなる笑みと、冷徹なる殺意を滲ませるは、天の鎖、メソポタミア最強の兵器、エルキドゥである――

 

「君達も見習うといい。そら・・・」

 

その隙が、契機であった

 

『――・・・』

 

人の姿は、美しくも麗しき獣の姿へと変わる

 

透き通るような白い毛並み、虹やステンドグラスを纏ったかのような、光加減で虹色に煌めく光彩。どの伝承にも伝わらぬ、しなやかにして流麗な四肢

 

瞳は『白金』色に輝き、万物流転を現すかのように七色の尻尾が美しく、雄々しくはためく

 

この世の美しさの概念を形にしたような、高貴にして麗厳、威厳と儚さ、可憐さと雄々しさを同居させたような雄々しく、また神秘に溢れるその姿

 

そして・・・その美しさから放たれる、絶対なる殺意

 

『お前達にくれてやるものは、死ぬことだけだ。学ぶことなく、知ることなく。生まれたことを悔やみながら泥に帰れ』

 

ラフムが、震えだす。自らに向けられし、純然にして揺るぎない宣告

 

『この世界に――お前達の居場所はない』

 

吠える、吠え猛る。霊長の殺戮者。人を殺し、相手より強くなり、上を行く絶対殺戮権の行使

 

だが――その理は過去のもの。至尊の英雄姫により倒され、まったく新しい理を身に付けし、人類悪の理を乗り越えしもの

 

 

以上の奇跡を以て、彼の願いは形を為した。基は尊き願いを胸に、世界を守護する至尊の獣

 

『さぁ――始めよう。戦闘じゃない、敬意すら要らない。・・・単なる流れ作業。どうと言うことはない』

 

名を、『至尊の守護者(プレシャス・ガーディアン)』。世界の在り方と尊さを信じる、姫に寄り添う獣である

 

『単純な――駆除だ』

 

 

『人 類 愛 降 臨』

 

 

真体を表したことにより、フォウの力が強まる

 

 

【【!?】】

 

ラフムの身体の構成が致命的な迄に緩まる。屈強な肉体が、砂糖菓子のように柔らかく、脆くなる

 

全ての防護を剥ぎ取られ、生命活動を維持するのみが精々となる

 

『細胞殺戮』。霊長の塩基配列を破壊し、殺戮し、細胞結合を絶ち、精神系を切断し、筋肉繊維を引きちぎる

 

あらゆる生命活動を断ち切り、殺戮に適した状態とさせる絶対殺戮権。この獣の前には、抵抗すら許されない

 

 

【【【――、・・・――・・・】】】

 

 

皿によそわれし料理のように、判決を待つ、罪人のように

 

活け作りを待つ、まな板の魚のように。――ただ、その時をまつばかりとなるのだ

 

『笑ってみろよ。面白いものが見れるぞ?』

 

「うん。さぁ、始めようか。僕は別に、戦いを嫌っている訳じゃない。――いい声を聞かせておくれよ、子供たち――」

 

フォウとエルキドゥは、優しげに笑う

 

・・・ラフム達は、まず始めに理解した

 

自らが殺される、殺そうとされることへの【恐怖】

 

そして――『笑顔』とは、如何なる物なのかを。

 

 

笑顔とは・・・

 

【――b0、e】

 

例えようもなく、恐ろしいものであるのだと――!

 

 

・・・そして、更なる悪が降り立つ

 

 

「海面に出たな!マルドゥークはこれより海洋を干上がらせ、移動を封じる!各種エンジンと聖杯を限界まで稼働させよ!」

 

『了解!』

 

『巻き込まれないかしら!?』

 

「案ずるな、我等には祝福となる!――行くのだな、マスター」

 

ハッチを開け、サムズアップするのはリッカだ。笑いながら、頷く

 

「時間稼ぎ、行ってくる!」

 

「先輩!」

 

「ん?」

 

「・・・お気をつけて!」

 

「・・・うん!」

 

『飛行形態に持ち込んだら、すぐに戻りなさい!無茶は許さないわよ!いいわね!』

 

自らを心配してくれる存在を噛み締めながら、リッカは地上100メートルの高さより翔ぶ!

 

 

【行くよ、アンリマユ!】

 

【あいよ!へへっ。ホントは対話の人類悪なんで、どこまでやれるか解らねぇが・・・いっちょ時間稼ぎと行きますか!】

 

【全ては、人類の未来のために――!!】

 

アンリマユを召喚し、泥の珠の中で、リッカの存在は変生する

 

6つの角、真紅の瞳。牙が剥き出しとなっている恐ろしき口。人型の龍人。三対の翼を開き、両腕には、龍の頭を現すガントレット

 

【――――・・・・・・!!】

 

長き尻尾が大地に打たれ、空中に威厳と絶望を振り撒き希望を守護せし邪悪なる龍が、今、顕現する――!

 

【Aaaaaa、Aaaaa・・・――!?】

 

困惑を現すティアマト神。あれは、一体・・・

 

人でもない、子でもない。あのおぞましきものは一体・・・

 

【――――――⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!】

 

その疑問には、咆哮を迸らせ応える

 

 

基は、有り得た人類悪。人を知らないまま、人を愛さんとした大災害

 

名を、ビーストif。アジ=ダハーカ。有り得た人類悪の一つ。【未知】の理を持つ獣なり――!

 

 

【挿絵表示】

 

【人 類 悪 見 参 ! !】

 

【Aaaaaa――――!!】

【⬛⬛⬛⬛――――!!】

 

吠え合い、威嚇し合い、がっちりと首相撲の体勢に持ち込むアジ=ダハーカ、そしてビーストⅡ

 

此処に――人類悪の戦いが、人の決議が幕を開ける!




――フォウ、エルキドゥさん、マスター・・・!


《気になるのは解るが、今はこちらだ!集中せよ!さぁ、放たれよ!!マルドゥークの神威よ!!》

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

マルドゥークの咆哮と共に迸る、太陽の輝きと力

その灼熱と莫大なるエネルギーに照らされし海は、一瞬にて蒸発、霧散し、消えていく

『――――・・・FUurrrr――』

マルドゥークの輝きが3分程、照らされし頃には、ペルシャ湾の、メソポタミアに隣する全てが蒸発し、消え去っていた・・・

そのエネルギーの放出に、深く熱を吐くマルドゥーク

――蒸発確認!マルドゥークの稼働効率、40%にダウン!

「即座に冥界に飛ぶぞ!足止めは奴等に任せ――」

王の言葉が消えたのは、ソレを目の当たりにしたからだ

「アレは――もしや・・・」


迫ってきている。向かってきている。真っ直ぐに『積乱雲』がこちらにやってきている


サーヴァントの核を砕かんばかりの雷鳴、吹き飛ばさんばかりの嵐。――大分小柄ではあるが、まさしく・・・


「――グガランナか!?アレは駄女神の管轄を離れ、縁を切ったのでは無かったか・・・!?」

「フッ、あははははは!あははははは!!発想が貧困ね金ぴか!」

その傍らにあるのは、金星の女神・・・

「私は転んでもただでは起きない女神イシュタル!思い至ったのよ!『無いのなら 作ってしまえ グガランナ』!エビフ山に金星のテクスチャ貼って、生体パーツくっつけたマアンナ走らせて、魔方陣書いて、貯まった力をイシュタルマネーイズパワーシステムに全財産ごとぶちこんで!作り上げしはグガランナミニマム!!おほほほ!褒め称えなさい!私はミスのケアだって万全なんだから!」

『ブモォオォオォオォオォオォオォオォオ!!!』

「さぁ行きなさいグガランナ!リッカを助けてあげるのよ!天に飛び立つまで痛め付けて上げるんだから!」

【Aaaaaa!!】
【――!】

グガランナが嵐を唸らせ、ティアマトに突撃する――!

――(絶句)

《よもや、これを予測していたのか?エア》

――(全力で首を振る)

《ふっ、まぁよい!少しは役に立ったなイシュタル!此処は任せるぞ!マルドゥーク!転身せよ!》

『Guuuuuu・・・――』
【Aaaaaa・・・――!!】

互いに目線を交わし、神々はそれぞれの手を打ちに行動を起こす――

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