人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
(誰にも、願いはある)
〘──────〙
(叶う事を、誰もが願う)
〘─────〙
(けれど、ただ叶えることは正しい事?)
〘─────〙
(願いとは、どう向き合うべきなのだろう)
?「やぁ。少しいいかな?」
初華〘────?〙
仮面のおじさん「実は、先程ここに招かれてね。少し、案内を頼めないだろうか」
初華〘─────〙
改築や召喚、カルデアの営みに触れ、初華…始まりの娘は『願い』についての思案を巡らせていた。
誰もが抱え、叶うことを願う。しかし、それらは『どう叶うか』『どう叶えるか』も大切な事だと彼女は至る。そんな折、悩む初華の前にとある客が現れた。
「君はどうやら、何かを叶える事が出来る存在のようだね。不思議な見た目だけれど、確かに力を感じるよ」
二十代後半の、仮面のおじさん。『ハクオロ』と名乗る彼の案内をしてほしいという要請に、初華は一人ふらりと答えていた。
「成る程…。ここが、世界や人々を護る最前線の拠点。実際に呼び寄せられるとは思わなかったから、新鮮だな」
仮面のおじさんは、落ち着いた様子で初華とカルデアを見やる。それは物見遊山や視察のような、興味から来る洞察めいたものだ。
「私もこう見えて、国や政治には心得がある。その観点から見て、ここは特異で、素晴らしい場所だ」
〘─────〙
「トップが頑張り、トップの頑張りに甘えることなく民達が自身を磨いている。独裁の理想は、完璧な統治者が治めることだが…ここは、そんな夢物語がかなり高いレベルで叶っている。驚くべき事だね」
仮面のおじさんの言葉を、初華は聞き及ぶ。
初華は意思疎通や意志の発露を行わない。意志や思考は勿論存在するが、全能や根源に至ったものとして、自我が介入する可能性を避けるためだ。
「とても参考になる場所だ。数多の王、権力者がありながら調和している。統一国家の雛型…とでもいうべきか。それもまた、王や為政者のたゆまぬ努力の賜物なんだろうね」
〘──────〙
「おっと。難しい話ばかりをしてすまない。どこか、茶屋のようなところはないかな?少し休憩がてら、話そうじゃないか」
初華はそれを受理し、カルデア歓楽街エリアへと招く。
不思議な事に、二人を見かけたものはその時には皆無で在ったという。
〜
「この場所は娯楽や歓楽にも力を入れているのだね。人間のやる気を出すものを、ここの統治者はよく分かっている」
仮面のおじさんと初華は、茶屋で団子とお茶を啜っていた。カルデアに設置された環境設定宝具が、四季すらも再現してみせる為に二人の前には春の景色が広がる。
「君は無口だけれど…話せない、というわけではないんだろう?」
〘──────〙
「そうか。君はとても誠実で、やさしいのだね」
その言葉の真意は何か。初華と仮面のおじさんは桜を見やる。
「私は、このカルデアという場所にとある確認をしたくて足を運んでみたんだ」
初華と肩を並べ、仮面のおじさんはぽつぽつと話し出す。
「君は、恐らく誰かの願いを叶える力を持っている筈だ。そうだろう?」
〘───────〙
「不躾で申し訳ない。実は、なんとなく解ってしまうし、そう確信したから君に会いに来たところもある。怪しくて申し訳ないが、これは大切な事なんだ」
仮面のおじさんは、初華に問う。
「願いというものは、願うものだけではなく叶えるものの信義や資格、そして決意を問うものなんだ」
〘─────〙
「意思あるものに願いを叶える力が宿った時、それは禍福を同時に呼び込む。他人の願いだけでなく、自身の衝動や邪念をも叶えてしまう危険がある」
君が話さない、何かを示そうとしないのもそうだろう?その問いに、初華は静かに頷いた。
「そうだ。だからこそ、私はこの場所に…世界のために戦い続ける者達の生きる場所に、足を運んだんだ」
〘─────〙
「もし、叶えたい願いがあるとして。君達やここにいる人達はどのように願いと向き合うのだろうか?君には、それが解るかい?」
〘─────〙
「例えば、彼等が今戦っている敵。……そうだな。仮に、異世界からの侵略者という仮定をして話を進めよう。君ならば、その戦いを一瞬で終わらせられるはずだ」
根源、即ち全能の力。仮面のおじさんが言う事は正鵠を射ている。
初華…始まりの娘の力の行使の用法の極致として『因果の発生断絶』という手段もある。
これは対象の要因、因果、発生、事象の全てを根絶することにより『事象』全てを存在しなかった事にするもの。タイムパラドックスとは似て非なるものだ。
タイムパラドックスは、AがBと行う因果要因を、介入したCがAを消してしまった場合に起こる未来の変革要因。
因果発生の断絶は、AとBが描かれた紙そのものを抹消するということ。紡がれる事象などない、存在しようがないものをどうすることもできない。
初華、根源の存在にはそれが可能なのだ。
「どうだろう?戦う事で数多の傷や痛み、哀しみが生まれるのなら、いっそ君が『打倒』という願いを叶えてあげれば。たくさんの人々を助け、幸福に出来るんじゃないか?」
仮面のおじさんは、初華に願いの功罪を説いた。
確かに、初華にはそれができる。
完全に覚醒し、根源に繋がった今ならば、この旅路の果てに待つものすら、それがまつわる全てを消し去ることも出来るだろう。
「誰もが願う、不倶戴天の厄災を…君が祓えるとしたら、どうする?」
初華は考えた。
自身が力を振るえば、この旅と戦いは終わる。
偽神に連なる悲劇は消える。
〘───────〙
───だが。
〘────意味がない〙
初華は、意志を示した。
〘それでは、意味がない〙
「意味がない、かい?」
〘カルデアの人々は『叶えてもらう』を、望んでいない〙
それは、確信だった。
カルデアの人々は、偽神の討伐を。
『悲願の成就』を、望んでいないのだ。
「望んでいない。どうして、そう思うんだい?」
〘それは、私が私であることが根拠〙
不思議な事に、初華の意志が今は根源に介入していない。
まるで、その願いが根源に伝わるを阻むようにする何かがある。
〘叶えるための努力。叶えるための道筋。叶えるための目標。カルデアの皆は、それを大切にしている〙
「願いを叶えることよりも、かい?」
〘そうであり、そうじゃない。『努力』と『道筋』と『目標』がない願いを、叶えても意味が無いと信じている〙
願望機、根源、聖杯。
願いを叶えるだけなら、幾らでも手段はある。
でも、それでは意味が無いとカルデアは信じている。
願いを叶える切磋琢磨の努力があって。
願いを叶える才気煥発の思案があって。
願いを叶える天衣無縫の夢想があって。
その果てに、『願い』は『実現』できるのだと信じている。
『願いは叶えてもらうものかもしれない。でも、カルデアは違う』
それを、初華は知っていた。
努力の果てに。思案の果てに。
完全無欠の旅路の果てに。
〘カルデアの皆にとって、願いは『掴む』ものだから〙
その果てが、カルデアの皆のゴールなのだと。
そう、仮面のおじさんに告げる。
〘私やあなたが、叶えてあげる必要なんてない〙
そう、初華は告げたのだった。
「───。そうか。そういうものか」
仮面のおじさんは、何度も深く頷く。
「願いは叶えるのではなく掴むもの。──成る程。他ならぬ君が言うのだから、間違いはないだろうね」
〘─────〙
「では…私達に出来ることは、願いを叶えるのではなく、掴むことを『手助けする』事なのかもしれないね」
納得したように、仮面のおじさんは立ち上がる。
「ありがとう。素敵な話を聞けたよ。御礼に、私も君に力を貸そう」
〘!〙
「君が話し、考えるくらいの余裕は持たせられるさ。これからは、恐れずに自分を出してご覧。それくらいなら、私だって助けてあげられるからね」
仮面のおじさんは、初華をそっと撫でる。
「今日はありがとう。またいずれ、共にこうして話し合おう。願いとは、想いとは何かを、ね」
〘────〙
「それじゃあ、また。これからよろしくね」
おじさんは笑い、初華にお代を渡し去っていく。
〘────〙
そこには、金額と名刺が封入されていた。
ご馳走様でした。 ハクオロ