人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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300回です!


いや、なんというか――感無量です!

この物語は、本当に幸福です!

どうか最後まで、よろしくお願いいたします!


蒼きを誇る、生命の星

ビーストⅡは焦り始めていた

 

 

 

目の前にいる何者かは、こちらを徹底的に邪魔するつもりだ。同じ大きさで、同じ力で、同じ強さで、こちらを排除するために

 

【Aaaaaa・・・!】

 

あの巨大な何かも同様だ。暴れ、狂い、嵐を以てこちらを阻まんとしている。どちらも邪魔、どちらも敵

 

 

こうなれば、真の姿にて一気に――そう憎しみの本能で決意しかけたとき・・・

 

『ブモォアァアァァアアァア!!』

 

【⬛⬛⬛!?】

 

 

突如、嵐のような何かが、おぞましい何かに襲いかかる。嵐と蹄が、おぞましい何かを打ち据え、攻撃を加える

 

【Aaaaaa・・・?】

 

仲間や協力者ではないのか?ビーストⅡは混乱するが、すぐに心が塗り潰される

 

【LAAAAAAAAA!!】

 

どうでもよい。ただ、この大地を殺すのみ

 

 

脚は作れぬ。邪魔物が多すぎる。これではたどり着けない。ならば――

 

【Aaaaaa!!】

 

身体中の体積を緩和させていた魔力が角の部分に集積する。大角が持ち上がり、背部外骨格・・・翼に相当する部位となる

 

 

地から進むのは止め、天より至ろう。一息に潰すとしよう

 

決意したビーストⅡの翼にあたる箇所が羽ばたき、今、空に飛び立つ――!

 

 

 

【よし!ビーストⅡが飛び立った!作戦第一クリアだね!】

 

安堵と歓喜の声が響く。結局のところ、いくら痛め付けようがビーストⅡは死なないのだ。打撃やダメージは全て、精神的な焦燥を誘う手段でしかない

 

【あぁそいつぁご機嫌だ!出来る限り喜びたいんだが今はこっちだ!】

 

猛り狂うグガランナ。嵐のように叩きつけられる蹄。その一撃一撃は重く、防がなければやっていけない

 

【あのクソ女神!テメェのペットの面倒も見れねえのか!?責任持てないならペットなんて飼わないで欲しいんですがねぇ!】

 

攻撃を捌きながら、アンリマユがうんざりげに吐き捨てる

 

【まずいな・・・】

 

リッカは冷静に状況を整理する。ティアマトは飛び立った。グガランナは暴れた。ティアマトと一緒にグガランナが攻めたら計画は台無しだ

 

【えぇ、リッカ。貴女はそれでよいのです】

 

(――・・・)

 

【えぇ、母が赦します。目障りにも躾がなっておらぬ畜生など、首を落とすに躊躇う必要なし。よいのです、さぁリッカ・・・】

 

――ここで始末する!

 

【はい。とてもよい決断です。棟梁となるに相応しき判断力。では、いざ――】

 

顔を上げ、きっぱりと告げる

 

【イシュタルには悪いけど、ここでグガランナをやっつけるよアンリマユ!】

 

【はっ?いいのか――】

 

答えを待たず、翼を刃にして、無数の剣をグガランナの身体中に突き刺す

 

『ブモォアァアァ!?』

 

暴れるグガランナの角を折り曲げ、スピンアームソルトならぬスピンホーンソルトにて回転を加え、回転し続ける

 

『ブ、ブモォアァアァ、ブモォアァアァ――!!!』

 

「待って――!!今私がなんとかするから!!それは私のぜんざいさ――」

 

イシュタルの嘆きと叫びは届かない。回っているから

 

 

【地獄の九所封じ、ラストワン!】

 

力の限り放り投げ、投げ出されたグガランナの首に、ニードロップめいて脚を掛け、ロックし。そのまま――

 

【『地獄の断頭台』――――ッッッ!!!】

 

海底の大地に叩き付ける――!!

 

「い――――や――!!!や――――め――――て――――!!!」

 

イシュタルの悲鳴、グガランナの断末魔、破壊音、炸裂音、爆発音

 

 

グガランナミニマムは凄まじい勢いで首に大ダメージ、いや致命傷を受け、絶命と相成る

 

ギロチンに見立てたニードロップが首を真っ二つに両断する。地響きを立て轟沈する天の牡牛

 

【動き止まったね!良かった!】

 

【息の根もな。まぁ、適当に処分しておかなきゃ調子乗るだろうし、結果オーライかね?】

 

アジ=ダハーカの咆哮と、イシュタルの咽び泣きが、メソポタミアの地に響き渡った――

 

 

ウルク、ジグラットにて。新たなる局面に対する備えが、忙しなく行われていた

 

「伝令!ティアマト神、飛翔!真っ直ぐ、このウルクに向かってきます!」

 

切羽詰まった声音で、悲鳴のように王に報が伝わる

 

「カルデアのは無事か!どうなのだ!」

 

「はっ!海岸の観測から、健在との報告が!しかしグガランナは殉職!暴走を始め、リッカ様に介錯された模様です!」

 

そのキテレツな報告に腹を抱えて笑う王。シドゥリは死んだ目になる

 

「ふははははははは!!何処までも期待を裏切らぬ女よな!!王宮日誌につけねばなるまい!盛大に自爆とは愉快にすぎるふははははははは!ははははははははは!!」

 

「・・・王。次なる手を」

 

「おっとそうであった。各員配置につけ!ディンギル隊は南と東、ナピシュテムの牙は城壁だ!これよりジグラットに残るは我とシドゥリのみ!事が済むまで持ち場を離れるは赦さぬ!!」

 

その言葉を聞き、兵士一同が敬礼する

 

「はっ!ギルガメッシュ王!これまでの貴方の威光に、最大限の敬意と感謝を!」

 

「貴様らもな。最後まで王のために働くがいい」

 

やがて兵士たちが持ち場と準備を終えたことを確認し、王が決意を顕にする

 

「さぁ寸分違わず飛び込めティアマト神!我等ウルクの民の総力を上げた抵抗、見せてくれるわ!――矢を構えよ!!我が許す!!」

 

ディンギル、稼働。360の砲門の全て、一斉にティアマト神に向けられる

 

装填されたラピスラズリの爆砕を断腸の思いで容認し、今、王の号砲が響き渡る――!

 

「至高の財を以てウルクの守りを見せるがいい!!――天地を穿つは我が決意!!」

 

放たれる、ウルクの民の総力を挙げた驚異の大砲撃――!

 

「『王の号砲(メラム・ディンギル)』――!!!!!」

 

 

飛来せしティアマト神の目に大地の心臓、ウルクが映りし時、震えるような歓喜が身を貫く

 

アレを殺せば、再び私が母に返り咲ける・・・

 

回帰の理に身を震わせながら、ティアマトは一層速度を早める

 

 

回帰の理はすぐそこに。待っていて、子供たち――

 

笑みすら浮かべしビーストⅡを待っていたのは、歓喜の歓待ではなく・・・

 

 

【AaaaaaAaaaaa――――!?】

 

 

天地揺るがす大号砲。戦闘都市ウルクの力を合わせた大砲撃であった

 

 

「ラピスラズリを砕きなさい!運搬は巴が行います!」

 

「ローテーション!ローテーションが大事です!!焦らない走らない!誰でもできて大切な事を行うのです!!」

 

巴とレオニダスが指示を飛ばし、兵士の皆がディンギルを放ち続ける

 

向きが違うディンギルは賢王が自らの魔力を賄い自動追尾を付与させ滅多撃つ。つまり、全てのディンギルがティアマトを撃ちのめしている――

 

【LAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】

 

煩わしい程に凄まじい大砲撃を鬱陶しく感じながらも、構わず飛行を続ける原初の母

 

彼女には死がない。何をしようとも果てがない以上、どれ程の驚異的な勢いにも恐怖する筈がない

 

身を絶えず焼かれながらも、少しずつ前進を続けていくティアマト

 

もうすこし、もうすこし――――

 

回帰の本能に突き動かされるまま、ウルクに手を伸ばさんとしたその瞬間――

 

「今だ弁慶!!錨を上げよ!ナピシュテムの牙とやら!お披露目だ!!」

 

「どっせぇえぇえい!!」

 

力の限り叩きつけた槍が合図となり、秘密兵器が牙を剥く

 

【AaaaaaAAAA!?】

 

目の前に突如『壁』が現れる。飛来していたティアマトの進路すら阻む高き、高き地獄組――

 

正面から阻まれ、ぶち当たるティアマト。またしても、母の愛は拒まれる

 

 

「よし!上手くいったな!」

 

「手を緩めるな!撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

ディンギルの猛攻が勢いを増す。撃たれ、阻まれ、ティアマト神の苛立ちと憎しみは頂点に達する

 

【AAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!!】

 

力任せに壁を引きちぎり、砕き、叩き潰し声をあげるティアマト

 

何故邪魔をするのか

 

何故拒むのか

 

私はただ、愛したいだけなのに、と

 

その、回帰に――

 

「――母よ」

 

【!?】

 

新たなる神が、厳かに告げる――

 

「母の愛は在って然るべきもの。揺りかごのように、子を優しく包むもの。その愛を箱庭にしてはならぬ。牢獄にしてはならぬ。大樹のように、悠然と我が子らを見守るべき在り方に移らねばならないのだ」

 

そこにありしは、輝ける神の祖。偉大すぎるローマ。あらゆる者を庇護し愛する――

 

「そう。ローマのように」

 

偉大なる神祖、ロムルスである――

 

【Lo・・・ma――!?】

 

「神よ。子を玩弄してはならぬ。見守り、祝福し、ただ在るのだ。それこそが正しき親の使命である」

 

【Aaaaaa、Aaaaaaaaaaaaaaaa!!】

 

「――憎しみと哀しみも、私は愛そう。この世に、ローマでなき者は存在しない。回帰の獣、貴女から産まれし世界もまたローマ。つまり――」

 

瞬間――ナピシュテムの牙に二重構造として、ロムルスの『血塗られた』城壁が防護として展開される――

 

「『全て、我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)』」

 

これこそがロムルスの第二宝具。弟レムスを自らの手で誅した逸話の再現

 

空間そのものを分断し内側の者達を護る――ローマ的絶対守護の具現!

 

【Aaaaa、Aaaaaa!?】

 

ナピシュテムの牙とは別次元に堅い壁に困惑するティアマト。殴り付けても、壁はびくともしない

 

「母よ。見るがいい。我等が偉大なるローマに、彼等は偉大なる想いを抱いた。その事こそが、最も偉大なるが故に」

 

ロムルスの言葉と同時に――

 

【!!?】

 

身体中に『金色の鎖が巻き付けられる』。それは凄まじく硬く、強く、強烈にティアマトを縛る――!

 

【Aaaaaa、aaaaaaaaaa!!】

 

暴れる度に身体に食い込む鎖

 

この勢いは、強さは、まさか――

 

【Kin、gu・・・!!】

 

 

「捕まえましタ!我ながらナイス投擲デース!」

 

ティアマトをがんじがらめにせしは天の鎖。そして――それを放り、彼女を絡め取りしは・・・

 

 

「これからお姉さんの本領発揮デース!・・・いいのね、キングゥ」

 

翼ある蛇、ケツァル・コアトルである。『人よ、神を繋ぎ止めよう』にて変化したキングゥを手に取り、力の限りぶん投げ、ガチガチに巻き付けたのだ

 

『あぁ。思いきりやってくれ。この身体は・・・必ず堪えきれるとも』

 

キングゥは、先んじてケツァル・コアトルに嘆願していたのだ

 

――僕が母さんを繋ぎ止める一助となる。君の力を貸してほしい

 

そう告げ、自らの拘束を担うものとして、ケツァル・コアトルの剛力を借りることを願ったのだ。そしてその盟約は果たされる

 

「――そうね。なら、本気で引っ張りマース!!」

 

天から地へ、女神を引きずり下ろすべく。力の限りに鎖を引き下げる――!

 

 

【Aaaaa、Aaaaaa――!!!!】

 

全力でケツァル・コアトルが引っ張るなか、ティアマトも全霊で抵抗する。主神、そして創生の女神の綱引きが、いつ終えるとも知れず続く――

 

「――」

 

ケツァル・コアトルは冷静に判断する。自分とキングゥの力では『拮抗』が精々である、と。二人でようやく、動きを留める事が精一杯

 

それほど、ティアマトは強大だった。身をよじり、悶えさせ、巨人がごとき力を躊躇いなく振るう

 

「ゴングがならないラウンドと言うのも不親切デース。ならば、せめて――」

 

『彼女』が来るまで持ちこたえる――そう決意した瞬間、異変が起きる

 

【Aaaaaa!!?】

 

蛇だ。白い蛇。巨大なる無数の白き蛇が、ティアマト神に巻き付き拘束していく――

 

「あれは!?」

 

『まさか・・・!』

 

その視線の先に、彼女は現れていた

 

 

巨大なる女神、紫の髪、美しき白き身体。無数の蛇を産み出す複合神性・・・

 

「ゴルゴーン!?あなた、どうして――!」

 

 

「説明は後です。私とあなた、キングゥさんで、ティアマト神を地に落とす――!」

 

『君は・・・』

 

全てを察したケツァル・コアトルは笑い、向き直る

 

「ヤ!では変則的にタッグチェーンデスマッチと参りまショウ!ムーチョ!ムーチョ!」

 

鎖を引き下げ、蛇に巻き付かれ

 

【Aaaaaa、Aaaaaa――!!】

 

必死に抵抗するティアマトではあるが。遂に力負けし――

 

【LAAAAAAAAA――――!!?】

 

真下に在りし【冥界の門】へと、真っ逆さまに落ちていく――!!

 

 

「グラシアス!作戦成功ネ!」

 

額の汗を拭いながら、ケツァル・コアトルが朗らかに告げる

 

『ふぅ――まだだ。まだ終わっていない』

 

まだ、鎖の姿を解かないキングゥ

 

「・・・頼みます。エレシュキガル・・・」

 

ゴルゴーンを名乗る女神が、心配げに門の向こうを見つめ続ける――

 

 

叩き落とされた

 

引きずり下ろされた

 

天から地へと戻された

 

地上から冥界へと叩き落とされたティアマトは歯噛みする

 

何故、こうも拒むのか

 

何故、こうも拒まれるのか

 

私はただ、愛したいだけなのに――

 

その摂理を浮かべた瞬間――

 

 

【AAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa――――――――!!!??】

 

絶え間なく、身体を焼かれる苦痛

 

絶え間なく、身体を苛む痛み

 

山を吹き飛ばす程の凄まじい熱量の雷と炎が、ティアマトを――冥界に赦しなく脚を踏み入れた狼藉者を焼き尽くす――!

 

【Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa――――!!!】

 

 

「どう?ああなってはティアマト神もお仕舞いよ。この冥界では、神ですら抗えない。御兄様だって、ああなってしまっていたかもしれない」

 

私が味方で良かったでしょ?とウィンクするエレシュキガルに、全力で頷く

 

――あれは全てが、対城宝具クラスの熱量・・・あれでは、ティアマト神は・・・

 

勝敗は決した。――王と、ティアマト以外の誰もがそう確信する

 

「さぁ、これで決めるわ!冥界のガルラ霊達よ!冥界の安らぎを脅かし狼藉者に裁きを!全槍、一斉発射――!!」

 

 

数百、数千、数万、数億――その槍の全てが、ティアマトに降り注ぐ

 

身体を余すことなく貫かれ、穿たれ、断末魔の叫びをあげるビーストⅡ

 

熱と肉を焼く臭いが充満し、生命の終わりを告げる――

 

「どうかしら?私と冥界のガルラ霊達の総攻撃。いくらお母様と言えど一たまりも・・・」

 

「たわけ!手を緩めるな!」

 

王が油断せず、檄を飛ばす

 

「これからが正念場よ・・・!見るがいい!ヤツは今、原初の姿へと立ち返るのだ!」

 

「え?え?どゆこと?」

 

『――来ます。女神の姿。真なるビーストⅡの姿が、今――此処に』

 

英雄王と、ティアマトの言葉と共に、ビーストⅡ更なる変化が起きる――

 

 

身体がさらに膨れ上がり、脚に筋肉が充ちる

 

腕は倍以上太くなり、雄々しく四肢として大地に叩きつけられる

 

それはさながら獣人。人間と獣が調和し、融合せしめたようなそのフォルム

 

翼が漆黒の巨大な様相となり、髪が逆巻き竜巻を描く。口は喉まで引き裂け、角は折れ、眼は怒りの満ちたりを告げるように爛々と輝く

 

尻尾、翼、角、牙。それはまさしく獣の様相。――まさに――

 

 

『神代回帰、ジュラ紀にまで転換。内部の魔術炉心、限界稼働――それはもう神体じゃない。紛れもない神の体だ!』

 

【――――――】

 

『来るわよ――!あれが、ビーストⅡの、本当の姿――!』

 

今こそ、真なるカタチにて――ビーストⅡが顕現する――!

 

 

【――――LAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!!!】

 

咆哮と、絶叫により――冥界全ての刑罰をはね除ける――!

 

「フン、これ程手を尽くしようやく本領か!よいぞ、マルドゥークを呼んだ甲斐があると言うものだ!」

 

「なんじゃありゃあぁあ――!?」

 

驚天動地するエレシュキガルの頭を英雄王がはたく

 

「あいたっ!?」

 

「手を緩めるなと言ったであろうが!絶え間なく刑罰を続けよ!!」

 

「で、でも!全然効かないし、効き目も弱くなってるし・・・!」

 

「狼狽える気持ちは解るが逆に発想を転換せよ!ヤツの状況に変わりはない!今のヤツこそが最も弱体化している有り様なのだ!」

 

「そ、そうなの?」

 

――あのティアマト神は、今はフォウとマーリンさんの力で限界まで能力を封じられています!今の彼女は生命を産み出せない・・・!アレは逆転の布石ではありません!最後の苦し紛れ、悪足掻きなのです!

 

そうだ、倒すのは今、この時しかない・・・!

 

――エレシュキガル様!お願いします!最後まで――出来ることを、諦めないで!

 

姫と王の叱咤を受け、エレシュキガルが自らの頬を叩く

 

「――やるのだわ!どのみち、私は貴女達に掛けたのだから!冥界が滅びるか、此方が勝つか!最後まで半端は無し!死なばもろともやってやるのだわ――!!」

 

やけくそぎみに放たれる冥界の全権能。ビーストⅡの身体を絶え間なく、間断無く焼き尽くす――!

 

『マルドゥーク神の神体解放まで、残り一分』

 

「一分――気の遠くなるような永劫よな――!」

 

王が歯噛みせし瞬間――

 

【AaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAA!!】

 

自らを害する女主人、自らを害したかつての神の姿を認めたビーストⅡが、猛烈な勢いで迫り来る――!

 

 

「あわわわわわわわ来たのだわ来たのだわ!食べられちゃう――!!」

 

――ギル!!

 

「『天の鎖』よ――!!!」

 

王と姫が最も頼みにする秘宝『天の鎖』にて、ビーストⅡの突進を制する――

 

が・・・

 

【AAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!!】

 

 

悶え狂い、暴れ狂い・・・『天の鎖』すらも引きちぎり、破壊する――!

 

 

――そんなっ!!天の鎖が――!

 

「流石は女神よ!これはエルキドゥにどやされような!チッ、後一手が振るえぬと言うのはもどかしいものよ――!」

 

「させません!『今は遥か理想の城(ロード・キャメロット)』――!!」

 

ティアマト神の突進を、マシュの盾が食い止める――!

 

【Aaaaaaaaaaaaaaaa!!】

 

「くぅうっ、ぁ――!!」

 

盾は壊れない。が、ビーストⅡは止まらない・・・!

 

【Aaaaaaaaaaaaaaaa、Aaaaaaaaaaa――・・・】

 

あわや押し潰されんとした時――王と姫が、神の偉容に圧倒されし時――獣が、止まる

 

「あ、あれ?――止まった?なんで?」

 

「はあっ、はあっ・・・!」

 

獣は、見ていたのだ――ソレを

 

 

『――人の世が始まり、あらゆる手を尽くしてきました』

 

ティアマトが、静かに吟う

 

『都市を使い、海を割り、龍を呼び、獣を興し、蛇を呼び、鎖を使い、華を咲かせ、冥界にて責め苦を為す。――英雄達の神すらも呼び寄せながら』

 

ビーストⅡは、震えていた。ただ、恐れていた

 

『――かの暗殺者は謳いました。今こそ、彼等に恩を返すと。今こそ、【冠位】を捨て去ると。――貴女達の戦いには、全てに意味があったのです』

 

【Aaaaa、Aaaaaaaaaaaaaaaa・・・!!――AaaaaaAAAAAAAA――!!】

 

ティアマトが、ゆっくりと指差す・・・

 

『彼処に、私達の【死】が待っています――』

 

指差した先に、【彼】はいた

 

 

【……死なくして命はなく、死あってこそ生きるに能う。そなたの言う永劫とは、歩みではなく眠りそのもの。災害の獣、人類より生じた悪よ。回帰を望んだその慈愛こそ、汝を排斥した根底なり】

 

 

はためかせし外套。幽鬼のごとき蒼き炎。見るも恐ろしき骸骨の面。――血に染まりし、信仰の剣

 

「――フッ、そう言うことか。はじめから、貴様が来る条件は整っていたと言うことか。全く、甲斐甲斐しい輩よな――!」

 

見えた光明に、弾む声を上げる英雄王

 

彼こそは境界の狭間に在りし者。天命を告げし、晩鐘を響かせし者

 

その名は――

 

【冠位など我には不要なれど、今この一刀に最強の証を宿さん。獣に堕ちた神と言えど、原初の母であれば名乗らねばなるまい―――幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った山の翁、ハサン・サッバーハである】

 

厳かに告げ、冠位の霊基を全て一刀に注ぎ込み、手向けとして――

 

【晩鐘は汝の名を指し示した。その翼、天命のもとに剥奪せん―――!】

 

渾身の一刀と共に――翼を、角を両断する――!!

 

 

【AAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaa~~~~――――!!!】

 

悶え苦しみ、転げ回るビーストⅡ。――手向けは、苦痛のみに非ず

 

 

『・・・ビーストⅡの霊基が変化した・・・』

 

呆然と、ロマンが告げる

 

『相変わらず膨大な霊基ではあるが、今なら討伐が叶う!ビーストⅡを倒せる!』

 

『死の概念が付与された・・・!?これが、冠位の一撃・・・!師匠!今なら!』

 

――冠位の、一撃・・・

 

『あぁ!ギル君!今なら行けるんじゃないかな!彼女を、どうにか!』

 

【――・・・】

 

刀を携え、不動にて見守る山の翁

 

 

《よし――覚悟はできたな!エア!》

 

王の言葉に、深く頷く

 

――はい!今こそ、この戦いに終止符を!!

 

『マルドゥーク、木星変換完了!行けます、王よ!』

 

シドゥリの言葉を合図に、英雄王達がマルドゥークに乗り込み

 

 

「あんちゃーん!!マルドゥークの斧だニャ――――!!!!」

 

ケツァル・コアトルの投擲と共にぶん投げられたマルドゥークの斧を、確かに英雄神は受け止める――!

 

「吠えろ!!マルドゥーク!!今こそ、神殺しの神話――再演と行こうではないか!!」

 

――どうか、ワタシ達に力を!英雄神、マルドゥーク!!

 

王の号令、姫の願いに答え――

 

『――――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOO――――――!!!!』

 

招かれし英雄神――ロマンに宿りし英雄神マルドゥークが吠え猛り、勇猛と勝利を誓う――!

 

【Aaaaa、AAAA・・・】

 

その迫力と偉容にたじろぎ、圧倒されるビーストⅡ

 

『Guuuuuuaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

木星権限を使い、『木星そのものを取り込み、無限大の動力』を確保したマルドゥークは、自らの何十倍もの巨大さを誇る斧を大いに振り回し――

 

「切り裂かれるがよい!!これが貴様に向ける、神代の手向けに他ならぬ!!」

 

一振りの下に――翼を、角を、尾を、完全に両断し断ち切る――!

 

【Aaaaa、AAAA――!!】

 

マルドゥークの斧は衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散る。そのまま構わず、英雄神は突進し・・・

 

『――王が在った(ギル・ナナム)!』

 

右拳で母の頬を殴り付け

 

姫が在った(エア・ナナム)――』

 

左拳でアッパーをかまし

 

天と地の繋ぎ目(ドゥル)()その神の名は(ディンギル)――!!』

 

回し蹴りにて、浮かんだティアマトをゲート目掛けて吹き飛ばし――

 

英雄神(マルドゥーク)!!――――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――――――!!!!!』

 

右手の地の王権、左手の天の王権を力尽くで束ね、雄叫びを上げながら母へ向けて突撃を開始する――!!

 

【!!!!!】

 

避けることもできず、防御することもできず、莫大にして純粋なエネルギーと化したマルドゥークの突進を――

 

【――A、a・・・】

 

『腹』に直撃させられる。血を吐くようにうめき声を洩らすビーストⅡ

 

「まだ結末には早い。貴様には――この世界の姿を見せてやろう」

 

瞬間、ゲートから『天の鎖』が伸び、ビーストⅡをがんじがらめに巻き取る

 

『事は済んだかい?』

 

たおやかなる声、エルキドゥである。いくらか艶やかな響きを持っている。良いことでも在ったんだろうか。

 

『君達の引き下ろしは僕がやる。行っておいで。君達だけの場所へ』

 

「うむ。――では、行くか」

 

――はい!

 

全てを察したエアは、元気よく頷く

 

瀕死のビーストⅡは投げられ、それを助力にマルドゥークは大気圏を越える推進力を発揮する

 

 

高く、高く飛来し、飛んでいくマルドゥーク、ティアマト

 

最早ビーストⅡに抵抗の力は残されていない。死を意識し、成すがままにされている

 

 

それを傷付けることなく、掴みながら飛び立つマルドゥーク。黄金と薄翠色に煌めき、紅い飛行機雲を描きながら、大気圏を離脱し、何処までも何処までも飛んでいく

 

 

「――行っておいで。母さん」

 

キングゥは、その景色をただ見つめる

 

「僕には、それだけが見たかった。それが、見たいから・・・僕は、もう一度戦うことを決めた」

 

・・・母さんは嘆いてばかりで、一度もソレを見せてくれなかった

 

この戦いの果てに、ソレを見れると信じたから・・・僕は、戦うことができた

 

それを見たとき、貴女は何を感じるのだろう

 

驚きかな。それはそれでいい

 

感嘆かな。それは素晴らしい

 

くれぐれも、嘆きや悲しみではあってほしくない

 

貴女は、もうずっとずっと嘆き続けてきた。十分すぎるほど悲しんだ。十分すぎるほど哀しんだ

 

 

・・・もういい、もういいんだ母さん

 

 

憎しみを抱く必要はない。哀しみを嘆く必要はない

 

穏やかに、時を過ごしても、貴女は赦されるんだ。母さん

 

だって、あなたも同じ生命だから

 

生命に、優劣はない。貴女の子が笑うなら、貴女だって――

 

「・・・子の願いくらい、聞いてもバチは当たらないだろう?――母さん・・・」

 

キングゥは、空を、何処までも眺め続けた――

 

 

――そして

 

 

《見るがいい、エア》

 

 

王と、姫は辿り着く

 

《これが、我が庭たる星の姿。――お前が望みし、我等が根付きし世界の姿、そのものである》

 

王の誇らしげな言葉を耳にし、エアはただただ圧倒されていた

 

――海の蒼、大気の白、森の翠

 

 

――これが、・・・此が――・・・

 

生命を育む、全ての魂が根付く場所。そして――いつか、飛び出し、旅立つ星の港――

 

 

タイプ・アース。太陽系第三惑星――地球が。エアの紅き瞳に鮮明に映っていた――




【A、Aaaaaa・・・――】


ビーストⅡが凍り付いていく。生命の一欠片もおらぬ極限環境に、生命たるビーストⅡは適応が叶わない。瀕死ならば尚更だ

凍りつく中、マルドゥーク神が、星を指差す

見るがいい、と。指差したそこには――蒼き星が浮かんでいる

「原初の母よ。貴様は拒絶され、憎しみと哀しみにて生命を滅ぼさんと決議したが・・・生命は育まれ、とうにお前への回帰などは果たしている」

【――・・・!?】

「解らぬか?あの空は、大地は。元は貴様なのだろう?そこにて育まれる生命は、余さず貴様から産まれしモノだ。なればこそ――その意味は計れよう」

【――!!】

やがて、ビーストⅡは目を見開く

そこには――


あ り が と う

虹色の軌跡にて、星に描かれたメッセージ。七色の色彩にて飛び回りし、フォウが書き記した、至尊の言葉――

――フォウ・・・!!

感激に口を抑えるエア。・・・これこそが、フォウがエアに教わった事

誰かが、誰かに感謝を伝える――心を繋ぐことの、その意味――その、尊さの証――

『・・・遥かな未来にも、私の名前が残り、人々に愛されています』

ティアマトが、静かに告げる

『私達を拒絶した生命は――遥かな成長と進歩を経て、私を愛してくれるまでに育ったのです』

【――Aaa・・・】

『もはや、嘆きも哀しみも必要ありません。――私達の願いのままに』

穏やかに、告げる

『子供たちは・・・私達に、帰ってきてくれたのだから・・・』

ビーストⅡは、ただ見つめていた。星に浮かぶ、その言葉を

【A、ア・・・ぁ・・・】

声の固まりではなく、確かな言葉として、口にする

【・・・あ、り・・・が・・・と・・・う・・・】

「――もはや、死体を辱しめようとは思わぬ。眠るがよい。星を一望せしこのソラにて。誰も――起こすものはおらぬ」

『――お休みなさい。獣よ。いつか、子供達が星を飛び出す、その日まで――』

――ティアマト様!

エアが、眠りに着かんとするティアマトに声をかける

――ワタシ達を、生命を産んでくださり、慈しんでくださり――本当に、本当に!ありがとうございました――!

生命の感謝。産み出された事への感謝

貴女がいなければ、何も生まれはしなかった。だからこそ、言葉にて告げる

――生命を産み出せし母よ、安らかに

貴女への感謝を、いつまでも忘れないように――

【――――エ、ア】

たどたどしく、言葉を告げる

【――し、――ア・・・わ・・・――セ、ニ・・・】

・・・ビーストⅡは、穏やかに笑みを浮かべ・・・静かに、凍結せし生命となり

そのまま、ソラの闇に抱かれ・・・星を見守る母と成った――

「・・・何れ、貴様の身体は迎えよう。手頃な星を見繕い、再び母となるがよい」

穏やかに・・・王が言葉を紡ぐ

「我等は旅立つ者。その行く末に、お前も参ずるが良かろうよ」

『・・・ありがとうございます。此処に――我が望みは果たされました』

――帰りましょう。ティアマト様

『え・・・?』

瞬間、マルドゥークの両手に『天の鎖』が二つ、巻き付く

――あなたの子供が、待っています!

『・・・ですが・・・』

「獣は滅んだ。その先の事は伝えていまい?――お前はマルドゥークの重要な機関であり、電脳の中枢である。消滅など赦さぬぞ」

『――・・・』

『――笑ってよ、母さん』

『!』

『僕は、それが見たかったんだから・・・――』

・・・ティアマトは戸惑い、迷いながらも・・・

『――お疲れ様でした、皆様』

その願いに応え・・・

『帰りましょう!私達の、星へ――!』

輝くような笑顔を浮かべたのだった――


・・・回帰の獣、ビーストⅡは此処に討ち果たされる

感謝を伝え、遥かなる感謝の回帰によって――

時間神殿への道筋は、直ぐ其処に示されている――

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