人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「どうだアストルフォ!仮装した俺もカッコいいだろ!」

「頭にカボチャ被ってちゃ誰だか分かんないじゃん!ばかなの?」

「バカはお前だっての!こう、立ち上る焼き肉の香りみてぇに漂う風格とか、アレだ、――カッコいいだろ!!」

「ごり押しかっこわるーい!あ!聖女だ!おーい!ジャンヌも仮装しないー!?」

「パンプキン麻婆・・・右ストレート・・・カボチャ砕き・・・ハレルヤ聖拳・・・」

「・・・あれ?ジャンヌって、あんなに物騒だったっけ・・・?」

「あ、こんにちは!麻婆いかがですか?」

「お、いきなりか!いいねぇ、振る舞ってくれよ!」

「分かりました!」

「あっ――」



「辛ぇえぇえぇえぇえぇえぇえ!!」

困難に立ち向かう俺カッコいいという理由でサタン麻婆を頼んだシャルルは撃沈し

「ぶは――――――――――!!!!」

横から一口食べたアストルフォも撃沈した

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ」

新開発のパンプキン麻婆を、その横でもくもくと食べるジャンヌであった(サタン麻婆はジャンヌが食べた)


真祖と吸血鬼の饗宴

「・・・ふむ、此処まで辿り着いたか」

 

 

更なる上階へと足を踏み入れし一行を待ち構えしは、闇に溶け込むような漆黒の衣装に身を包みし男性。突き刺すような威圧、凄まじいまでの殺意を醸し表し、槍を手に握りしサーヴァント

 

 

「カーミラめの嘆きに根気よく付き合ってきたと見える。ならば良し。この『串刺し公(ドラクル)』、ヴラド・ツェペシュと戦う栄誉を与える」

 

ワラキアにその名を轟かす、苛烈にして敬虔なる君主。そして、無知の刃にその在り方を歪められし怪物。相反する二面性を持つバーサーカーのサーヴァント、ヴラド三世が一同の前に立ち塞がるのであった

 

 

「あら、素敵なおじさまじゃない。あなたも、サーヴァントなの?」

 

アルクェイドの気楽な問い掛けに、特に咎めることもなく返答を返す

 

「然り。星の擬人化、触覚よ。その身に備わる忌名、我が前で口に出さぬが身のためだぞ」

 

「忌名?それって・・・きゅうけむぐっ」

 

その言葉を口にする前にリッカが素早く口を塞ぎ、何が地雷なのかを説き伏せる

 

(ヴラドおじさまは、後世の後付けと風評で吸血鬼にされちゃったタイプだから物凄く吸血鬼関連にはナイーヴなの!触れないであげて!)

 

(そういう事?・・・可哀想ね。一生懸命生きたのに、血を啜る三下なんかに貶められちゃうなんて。私を神様に認識するようなもの、かぁ)

 

リッカの言葉に静かに頷き、触れないようにする事を決めるアルクェイド。別に、気にしていることをほじくりかえすような悪趣味は備わっていないが故に

 

「随分と気合いが入っているではないか、串刺し公。いや、王としては正しき様相ではある。つくづく貶められし事実が恨めしいな、名君よ」

 

王の言葉に、獰猛な笑いにて返礼する

 

「貴様ならば理解していよう、英雄王。治世や人の世は娯楽無くして立ち行かぬもの。王であるならば祭りの重要さは理解している。ならば――道化であれ、本気でかからねば面白くもなんともあるまい」

 

それこそが場に似つかわぬ気迫と気合いの真相。彼はここにおいて、全力にて祭りに取り組んでいるのだ。求められた役割が道化ならば、それに全力で取り組む。『宴の場で本気を出す』空気の読めぬ道化を、真摯に行っているのだ

 

――解ります!王は自らの役割に妥協を許さぬもの。王の納得の行く仕事とは、己が責務を全うすることに他なりませんから!ですよね、ギル!

 

王の在り方に関して、理想である王に問うエア。多くを語らずただ頷き、肯定する

 

――ヴラド三世・・・けしてその身の偉大さを損なわず、風評に貶められぬ名君です!端的に言って素敵な王です!

 

英雄王の勇姿を見てきた影響で、王様のカッコいいムーブには目がないエアである。その寛容なキヴラド三世をキラキラと見つめる

 

《あまり我以外に目移りは感心せぬ――いや、構わぬか。お前にとって我が至高であればそれでよい》

 

そんなエアの頭を、愉快げに撫でる英雄王。そもそも王に憧憬を持つようになったのは自らに惹かれたからであると考え、王という概念に敬意を懐く即ち自らへの敬愛なのだと定義し、エアの好奇心をおおらかに許す

 

 

――ギルの揺るぎない王の姿から、様々な王の在り方に枝分かれしていったのですね・・・感慨深いです!

 

(うんうん。キングメイカーとかこいてるマーリンに人生を台無しにされた輩が何人いるものか・・・)

 

そんなスピリットトークを知ってか知らずか、ヴラドは更に気を入れ直す

 

「マタ・ハリは歓待の唄。カーミラは嘆きの詩。それに倣うなら余も鮮血の叫も歌い上げるところだが・・・生憎余の得意とするところは歌ではなくてな」

 

「知ってる!編み物でしょ!」

 

「――うむ。そちらには余がいるようだな。随分と気楽に過ごしているか。手慰みを推進している生き方を送っていると見える」

 

その言葉を聞き、一つ息を吐き直し、戦いの構えを取る

 

「ならばこの余を乗り越えるに異はあるまい。歴史に名を残せし串刺し公の刑罰、宴の歓待に喰らっていけ・・・!」

 

「先輩、サーヴァント戦です!連戦ですが大丈夫ですか!?」

 

マシュが素早くリッカのカバーに回る。王は変わらずがっしりと腕を組み、戦いをリッカ達に一任するスタンスだ

 

「真祖、引き続き友楽の時間だぞ。その持て余しぎみな膂力を振るうに相応しき相手だ、存分に舞うがいい」

 

「それって馬鹿力って事?むむむ、心外と怒るべきか、だよねと開き直るべきか・・・」

 

「ぬぅっ――!」

 

ふむむ、と考え込むアルクェイドに、ヴラドの気迫が乗せられた杭が無数に襲い掛かる。地を這う杭の葬列。身体を串刺すに充分な本数と威力の、禍々しい刑罰の具現

 

「アルク姉さん!」

 

「ほいほいっと!」

 

リッカの言葉に応えると同時に、アルクが行動を起こす。広大なる玉座の間、壁から壁まで十数メートルあるほどの広い空間に彼女は跳躍し、鋭角的な三角跳びと壁蹴りを駆使し、部屋中を俊敏に駆け回り跳ね回る

 

「ぬっ――」

 

それを串刺しにせんと杭を自在に操り、アルクェイドを追う。壁を走り、天井を走り、縦横無尽に駆け回るアルクェイドを仕留めんと穿たれ放たれる杭。それらは勢いと数を加速度的に増していく

 

「串刺しにされるのはあんまり好みじゃないわね、そーいう嗜好は今はノーサンキューだから!」

 

走りながら床に着地し、ヴラドに向かって一直線に走り抜ける。背後に迫る杭、目の前には迎撃体制を整えし串刺し公が待ち構えている

 

「侵略者や敵対者の要望や命乞いなど聞かぬよ。聞かせるのは隣にいる犠牲者の苦悶と悲鳴、未来への絶望のみだ」

 

槍を中段に構え、串刺しにせんと振るう。その必殺の一撃に、ニヤリと不敵に笑うアルクェイド

 

「それはご遠慮いたしますわ、おじさま――!」

 

アルクェイドは駆けながら、下段を攻めるスライディングに移行する。虚を突かれた形になったヴラドが数瞬硬直する

 

「ほい、よっと!」

 

そのまま、ヴラドの真下を股抜けし、即座に両腕の力だけで身体を起こす。体勢を瞬時に整え

 

「アルクェイドスラーッシュ!」

 

鋭き爪を、凄まじいまでの腕力で振るいヴラドを真っ二つにせんと振るい上げる。めり込む爪、両断される身体、床に穿たれる破壊の孔

 

「やったかにゃ?」

 

「あ!アルク姉それは――!」

 

言ってはいけないというより、ヴラド公は早かった

 

「否、宴は序の口である」

 

切り裂かれたヴラド公の身体が大量の蝙蝠となる。霧散することによってアルクェイドの攻撃を受け流す形となり、ダメージはゼロとなる

 

「わ、なんてテンプレ!誰もがイメージするものを押し付けられるってこういう事なのね!」

 

「左様。衆愚が積み重ねに重ねた愚かなる幻想、その身にて堪能するがいい――!」

 

蝙蝠は霧となり、即座にアルクェイドを取り囲み、問答無用で活動の自由を奪う

 

「ッッ~!?」

 

そのまま、ヴラドが扮した霧は縦横無尽にアルクェイドを叩き付ける。壁に、地面に、天井に。赤黒い霧は無形が故に衝撃も反動もなく、ダメージを負うはアルクェイドのみであるのだ。壁や天井、床が破壊の跡を刻んでいく

 

「あいったぁ~!いたたた!こんな事も出来るのね!器用だし、強力ね!」

 

「アルク姉さん!」

 

リッカの不安げな表情を受け、ウィンクを返す

 

「そー心配そうな声出さないの。アルク姉さんを、サーヴァントを信じなさいって!」

 

「ほぅ・・・――」

 

「強がるのは勝手だが、そう醜態を晒していては説得力を見出だせぬな。意地を見せよ、真祖」

 

もちろん、と言わんばかりに身体を捻り、捩り、両手の爪を輝かせる

 

「んん~!アルクタイフーン!!」

 

そのまま捻りに捻り、捻りに捻った身体を超回転させ、真紅の竜巻となってヴラドの霧を吹き飛ばす。部屋を、あらゆるものを削り取っていく赤き竜巻の風圧と威力に、一同は圧倒される

 

「先輩!私の後ろから離れないでくださいね!先輩なら飛ばされる心配は無いと思いますが!」

 

 

「ガードよろしくマシュ!そして重いと言いたいのかなこのデンジャラスビーストは!」

 

――フォウ、ワタシから離れないでね!

 

(頼まれたって離れるもんか!)

 

王が右手を突きだしガード体勢を取り、その背後にフォウを抱きしめ飛ばされないように対処するエア

 

「よいぞ、大道芸としては上出来だ。もっと我等を楽しませよ」

 

微塵も揺らがず、愉快げに笑い二人の戦いを見届ける英雄王。態度には出さないが、後ろの存在を護るために本腰を入れている状態である事は、見るものが見れば即座に把握できるだろう

 

「ぬぅっ――!」

 

霧を弾き飛ばされ、元の固体に戻りしヴラド。即座に接近し・・・

 

「はいっ、どーん!」

 

頭部を掴み、力の限り床に叩き付ける。床部の崩壊が更に進むほどの衝撃と力が加わっているためだ

 

「ぬうっ――!」

 

即座に杭を出現させ、アルクェイドを串刺しにする。無数の杭が突き刺さり、アルクェイドの白い上着を赤く染める

 

「むむっ――!」

 

急所は避けるよう身体をよじり、致命傷は避ける。本来なら身を省みる必要は無いのだが・・・

 

「『瞬間回復』!頑張って、アルク姉さん!」

 

自分の身を案じてくれる人間がいるのなら、無茶な戦法は取るべきではないと承知しているが故に、自らの安全にも気を配る

 

・・・そんなやりとりを、アルクェイドは新鮮に、心地好く感じていた

 

なんというか、マスターとサーヴァントは片方だけがいい気持ちではいけないんだろうな、と。アルクェイドは戦いの中でなんとなく感じる

 

自分はマスターの代わりに力を振るい、サーヴァントが傷付いたり、負けないようにマスターがあれこれ考える

 

それは互いの気持ちがなければできないこと。野蛮や乱暴なだけの怪物や化け物には到底再現できない、高尚な関係

 

強くなったり、弱くなったり、相性で有利になったり、不利になったり。気を遣ったり、遣われたり。そんな風なコミュニケーションで戦うのが、マスターとサーヴァント・・・みたいな感じなんだと、ヴラドとの戦いの最中で感じる真祖の姫

 

(なるほどなるほど・・・!何よこれ、楽しいじゃない!)

 

気を使ってもらうのは嬉しいし、マスターの要望に応えるのは楽しい。苦戦するのは面白いし、うまくいくのはもちろん痛快。

 

こういったやりとりを、こういった戦いを繰り返して、彼女達は世界を救ったのかと。アルクェイドは無邪気に思い至る

 

「っ、あはははっ!惜しいことしちゃったなぁ。こんなに楽しいのなら、私ももっと早くサーヴァントみたいに戦ってみるんだった!」

 

リッカの信頼を背に受けながら戦う事の楽しさに浸りながら、幼子のように夢中になってヴラドと爪を交えるアルクェイド

 

「心配されるなんてくすぐったい体験の次は、一緒に戦う気持ちよさ!凄いわ、癖になっちゃいそう!隣に一緒に戦うとはまた別な感じで・・・胸がきゅんきゅんする感じの戦いなのね!マスターとサーヴァントって!」

 

テンションが上がったアルクェイドは、ついうっかり力加減を間違えてしまう。強めに振るった爪の一撃が、かわしたヴラドではなく玉座の間に巨大な爪痕を抉り付ける

 

「享楽に酔うか、星の触覚。マスターの信頼を受け、どう変わるかはその者次第だが・・・」

 

「そうね、これはよくないわ!気持ちよくて、楽しくて・・・ちょっとテンションが上がりすぎちゃうくらい!このまま続いたらどうなっちゃうのか、興味はあるけれど・・・」

 

そのまま、アルクェイドは爪を下ろし、戦闘体勢を解く

 

「『ここまでにしておきましょう』。いくら楽しいからって、独り善がりの快楽に耽っちゃダメよね。殺戮とか、饗宴のスイッチを押すのはマスターの判断。そういうものなんでしょ?おじさま」

 

辺りを見渡す。ヴラドとアルクェイドの戦闘の余波で、豪奢さが見る影も無いほどに凄惨に破壊し尽くされている。家具は余さず串刺しにされ、空間にはアルクェイドの爪痕が余さず刻み込まれ、その戦闘の激しさを物語る。・・・壁も砕かれた所がちらほらあり、風通しがとてもよくなっているほどだ

 

「うむ。これ以上は遊戯の枠を逸脱しよう。あの小娘も、それは望むまい」

 

ヴラドも槍を収め、次なる階層に招き入れる

 

「盛り上げろ、騒ぎ立てろが我が勅令。この有り様を見れば納得しよう。――最後まで付き合ってやるがいい。この首謀者にも、そちらのマスターにもな」

 

「そうするわ、素敵なおじさま。あまり気負わない事よ?否定するのは当然だけど、風評に心まで苛まれるのも辛いでしょうし。あなたの偉大さは、そんな風評に覆されるものでは無いのでしょう?あなたは英雄なのだから」

 

「――忠告、称賛は胸に留めておこう。最後まで、望むままに振る舞うことだ」

 

アルクェイドはその言葉にウィンクを返し、リッカの下へ歩み寄る

 

「応援とか回復ありがと!張り切っちゃったけど、どうだったかしら?」

 

「アルク姉さんすげぇ!私も参考にする!カッコよかった!」

 

「そ、そう?そっかぁ~!カッコよかったかぁ~!まぁそうよね~!私、カッコいいわよねぇ!うんうん!」

 

リッカの言葉に上機嫌になるアルクェイド。誰ともなく呟く

 

「・・・頑張って良かったわ。いいものね。ごっこでもこんなに楽しいなら、契約なら・・・」

 

一夜の夢で終わらせる。そんな言葉を後悔してしまうくらいには、この時間が、あまりにも――

 

「?アルクェイドさん?どうしましたか?」

 

マシュの言葉に、煩悶を打ち消し、笑顔を返す

 

「ううん、なんでもない!さぁさぁ、次の階層にレッツゴー!」

 

二人を抱えて、朗らかに階段に走るアルクェイド

 

(少なくとも、今の時間は凄く楽しい!)

 

そう思うだけで、今のアルクェイドは満足げに笑顔を浮かべるのであった――




――アルクェイドさん・・・


[ふっ、至尊の理に達したと言えど、真祖の力の一端には恐れ戦くばかりか。それが正しき反応だ。たかが児戯で震えるその姿はまさに――]

――綺麗でした・・・その身一つで紅い軌跡を描き、舞うように躍り戦うその姿・・・それでいて、マスターの事をしっかり考えた立ち振舞い・・・!流石は真祖・・・力を減衰させていても、これ程までに力強く、理性的で美しいのですね・・・!

[・・・――そういった感傷を懐くのか、お前は・・・]

――いつまで一緒にいられるかは解らないけど、せめてこの時間を忘れることの無いようにしなくては!一夜の夢を、胸に懐くのは悪いことではないはずです!ね、フォウ!

(あぁ。あんなバグにも美しいと言えるキミには驚かされてばかりだ!)

[・・・まさか星の獣と意見が合うとはな。――口惜しく、楽しくなってきたぞ。たまさか異常にて産み出されし人格にそのような感情を懐くならば・・・素体たる我を目の当たりにした時、どのように狼狽してくれるのか――心待ちにさせてもらうとしよう・・・]

――・・・?では、早速掃除に取りかかりましょう!

《うむ、手短に終わらせるぞ》

「ほう・・・清掃に手を貸すというのか」

「此度の我は、特別な我なのでな――」

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