人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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じいやも、執事も、誰も彼も!私に教えてくれなかった!それが悪いコトだったなんて、誰も教えてくれなかった癖にいぃぃぃぃ・・・!!



あぁ、ああぁ!幽閉はいや!また暗いところに戻るのはいや!誰も会いに来てくれないの!声をかけても無視されるの!皆皆、忘れていってしまうの!

あんなに、あんなに一生懸命歌ったのに・・・!彼処じゃ誰も、私の歌を聴いてくれないのよ・・・!



――この、記憶は・・・

いつかの、エリザベート・バートリーの記憶・・・?


あの暗い箱の中で、欲しくてたまらなかった私の夢。
 許される筈もない、もし私が正常だったのなら、なんて、恥知らずで場違いな願い事。
 ま、燃え尽きるのはお互いさま。それこそ解散ライブに相応しいわ。アイドルごっこはこれでおしまい。
 正真正銘、これがラストナンバーよ。
 柄じゃないけど―――生まれて初めて、他人のために唄うとしましょう!



――!


跳ね起きるエア。のしのしと、フォウの歩く振動が伝わる

《目が覚めたか。まだ不調ならば無理をするな、しばし横たわっておけ。特に赦す》

英雄王は既に身体を起こしている。もう既に、エリザベートショックから立ち直ったらしい。・・・流石と言う他ない。こちらはまだ後味の悪さから抜けでていないと言うのに

こみ上げる気持ち悪さを堪え、王に訪ねる

――今のは・・・

《月に召喚されたヤツの末路だ。ヤツの手を、一度だけ借りた局面が有ってな。この窮地を突破する手立てにならぬものかと見返していたのだが・・・》

千里眼のは身体に備わったスキルなため、王の魂が覚醒し、自らを確立させたエアも問題なく拝見が可能となる

――今のがエリザベートの記憶だと言うのなら・・・

誰かの為に、一度だけ歌った事がある。あの、黎明の空間にて響き渡っていた歌声は紛れもなく絶世のものだった

《見返しては見たが、今のマスターにそこまで深淵な絆を結ぶ機会はあるまい。これは資質ではなく、召喚形態の問題だ。カルデアのシステムでは、霊基に刻む程の絆を紡ぐのは困難であろう。・・・その皺寄せが此処に至って巡ってくるとはな・・・》

思い悩むギルと対照的に、エアは顔を上げる

今の自分の不調、誰かの為に歌うことを自覚させる・・・それならば、皆が助かる・・・

(起きたかい?辛いようなら寝ていてもいいよ。ボクの背中に癒されていいよ)

その論理と手順を頭で組み立て・・・

――あります!英雄王!フォウ!皆を、エリザベートの歌から乗りきらせる方法が!

(なんだって!?)

驚くフォウ、そして――ニヤリと笑う英雄王

《聞かせよ、エア。どのような手筈だ?》

――はい。肉体の主導権を少しお貸しいただいて、マーリンさんの幻術をお借りして・・・

エアがその作戦を告げていく

(成る程・・・どのみち、最終回になるかもしれない。注意してくれってことだね!)

――うん!よろしいですか、英雄王!

《ふははは!これは確かにお前にしか出来ぬ、我には叶わぬ手段だ!よい、赦す!思うまま、成し遂げるがよい!》

[・・・何をする気だ?]

一同は、生命の瀬戸際へと向かう・・・



ヘルシャウトエリ~キャストオフ・ビギニング・スター~

「来たね」

 

 

最上階、チェイテの主の間の前にたどり着き、 巨大な門の前に立つ一同

 

「来てしまいましたね・・・ある意味、最大の試練が・・・」

 

マシュもまた、嘆きと決意を悲壮にて奮い起たせ、身体の震えを押し止める

 

「ゴージャスは少し遅れるそうだ。では赴くとしよう」

 

キャットはいつも通りお気楽に、ドアをガンガンと叩く

 

「御主人!観客を連れてきたゾ!開け!早急にゴマを開くのだ!」

 

「え!もう来たの!?ちょっと待って、アレをああして、こうして・・・」

 

「あーかーとーかーげー!」

 

「誰がとかげよ!ドラゴンよ!ドラゴン!――はい、開けていいわよ!」

 

エリザベートのばったばたとした忙しない声音と了承を得て、タマモキャットは愉快げに扉に手をかける

 

「では覚悟はよろしいな皆の衆。地獄の歌唱祭、開幕である」

 

「~終っちゃうのかぁ・・・」

 

開かれていく扉を前に、どこか寂しげに、悲しげに目を細めるアルクェイド。物悲しげな憂いを、すぐに打ち消す

 

「ん、まぁそれはそれ!お祭りだもの、最後まで楽しまなくちゃ!」

 

「アルク姉さん?」

 

「何でもないわ、さ。行きましょうマスター!ラストステージもラストアークでフィニッシュよ!」

 

「ぉおぉ~う!」

 

背中をぐいぐいと押すアルクェイドに成すがまま、一行はいよいよ、メインイベントに誘われる――!

 

ガチャリ、と扉が開かれると同時に、一同を襲う浮遊感

 

暗転する景色、ライトを落としたような暗闇、人為的な闇

 

「――よくやって来たわね!この歌姫、ハロウィン特別仕様のステージへ!」

 

そして高らかに響き渡る、天下無敵のトップアイドル(自称)の宣戦。混乱する一同を他所に、ボルテージは高まっていく

 

「なんの光!?」

 

次々とライトアップされていくステージ。スポットライトが輝き、煌めき、ステージへと注がれていく

 

「よくぞ試練を乗り越えたわ!よくぞ苦難を突破したわ!そんな筋金入りのファンのあなたたちに、今日は特別にワンマンライブを敢行してあげる!」

 

そのスポットライトを独り占めするは、気楽な永遠の少女。魔女の装いに身を包み、ステッキを持ち、大きな帽子を被るドラゴンウィッチめいた新進気鋭のアイドルにして傍迷惑なドラゴンガール

 

 

「この、エリザベート・バートリーがね!!はい、拍手!アリーナ席なみに近いのよ、素敵でしょう?最高でしょう!」

 

名乗りを上げた通り・・・エリザベート・バートリーなるハロウィンサーヴァントが一同を待ち構えていたのである・・・!

 

「おぉ~!サーヴァントってこんなはではでーな演出も出来るのね!新手の空想具現化かしら。器用ね、あなた!」

 

派手な演出の登場に、素直に拍手を送るアルクェイド。視覚的に楽しいものは、なんであれ楽しく、楽しめるイベントであるのだ

 

「そうよ!ナイスオーディエンス!観客って言うのが分かってるわね!アナタ!」

 

「誉められちゃった♪んー、それはいいんだけど・・・どこかしら、ここ」

 

アルクェイドは辺りを見回す。ステージ、ライト、立てられた記事の数々。そこはチェイテ城と言うよりは・・・

 

「というかここ、カルデアじゃない?エリちゃんの部屋だよね、ここ」

 

リッカの答えに指をならすエリザベート。その通りよ!と火を吹かんばかりの勢いだ

 

「ナイスよ小ジカ!そう!ここはカルデア、楽園の女神が居を構えるエデン!よく気付いたわね!流石は私のマスター!」

 

「エリザベートさん。訂正を要求します。先輩は最早シカのような小動物ではありません。もっともっとストロングです」

 

「あはははははは、否定はしないけどそこは譲ってほしく無かったなぁ!」

 

マシュにじゃれつき、ポカスカ叩くリッカ

 

「いけないのはこの口か!この口なのかマシュケベ!」

 

「あっ、先輩!あっ・・・先輩・・・!」

 

「うんうん、仲良しなのは良いことね!でもでも、なんでこの場所に繋がっているか、何故この場所になっていたか、知りたくはないかしら?」

 

「知りたーい!」

 

「なら教えてあげる!!」

 

ツーカーめいて物事を進めるアルクとエリ。互いにシリアスが混ざらなければこんなお気楽なモノである

 

「此処に来るまで、たくさんの妨害にあったでしょう?」

 

妨害、と聞いて思い浮かぶのは・・・

 

「マタ・ハリさん、カーミラさん、ヴラドおじさま、タマモキャット・・・」

 

「妨害・・・妨害かぁ・・・言われてみれば、ヴラドおじさま以外は歓待のような・・・」

 

宴の日に本気でかかる、といった道化の役回りを果たしたヴラドおじさま以外は妨害と呼べるものでもなかった気がしないでもないが、水はささないでおく

 

「そう!熾烈にして苛烈。凄まじいまでのエネルギー、カロリー消費にしてげんなりするほどの苦難に困難を乗り越えて、ヘロヘロになってしまったわよね?」

 

「?そうかしら・・・」

 

「そうかな・・・?」

 

(合わせておくのだ、星の化身、突っ込まなければ勝手に話は進む、ベルコンのように)

 

「そうでーす!疲れましたー!」

 

「死ぬかと思ったー」

 

タマモキャットに促され、もう細かい突っ込みや追求は止めようと悟る一行

 

 

「でしょう!そうでしょう!砂漠を行くかのような行軍、からからになった喉に唾を飲み込んで、至った小ジカが目にしたモノが・・・!」

 

ババーン、と

 

「幸せよ!!幸福の青い鳥はすぐ傍にいたの!ハロウィンという一夜の夢の報酬はこの私!エリザベート・バートリーのお部屋に招いて歌うワンナイト・コンサート!今宵この日の為だけに!私が!歌うの!高らかに!」

 

 

「・・・」

 

「ほへぇ~」

 

「うん、うん・・・うん?」

 

金星の文明圏の地球とは異なる意思疏通のアプローチを、あまりの勢いで捲し立てられ呆気にとられる地球人。タマモキャットが空気を読み、場を促す

 

「うむ、言いたいことは解るぞ。吐き出してよいのだ」

 

「つ、痛烈に突っ込む英雄王がまだいらっしゃらないので・・・代弁させていただきますが」

 

「え、いないのゴージャス?」

 

「ふ、普通にカルデアの部屋に来てもらうのではいけなかったのでしょうか・・・?」

 

マシュの理屈は最もだ。ワンナイト、ワンマンライブならただ呼んでもらえればよかったのだ。そうすれば万事がうまく・・・いったかは分からないが、少なくとも心の準備は出来た筈だ

 

「え、ダメよそんなの。つまんないじゃない」

 

その正論の指摘を、ロマンス&スイーツドラゴンはさらりと却下する。異世界ベクトルでブッ飛んだその発想を赤裸々にぶつけ、提唱する

 

「いい?アイドルのライブと言えば、それは一世一代のお祭りよ?夏の暑さにも冬の寒さにも負けず、チケットの為に並んで、グッズを買うためにやっぱり並んで、満員のコンサート会場でぎゅうぎゅうになりながら、それでも歌姫の奏でるセレナーデに絶頂し、狂乱し、無我夢中になるのがファンの本懐なの・・・!」

 

うっとりと語るエリザベートに同意を示すロマン、リッカ。ドルオタであるロマニ、そして夏と冬の祭典に揉まれに揉まれたリッカはその思想に深い共感を示す

 

「あの熱気、ごった返す人、人、人。向こうに行きたいのに波に流され押し退けられるあのもどかしさ。そして目当てのサークルを見つけて並んだあの胸の高鳴り、目当てのものを手にした喜び・・・!」

 

『解るなぁ。そもそもアイドルという職業はですね』

 

「あ、解るんだ二人とも。アイドルってそーいうものなのね?種族の党首とはまた違った生き物なのかしら。そういえば身体付きは彼女と似てるわね、あの子」

 

「い、今はエリザベートさんのお話しに耳を傾けましょう・・・」

 

脱線しかけた一同を、なんとか軌道修正するマシュ。その視線を受けて話を続けるエリザベート

 

「で、ね?アイドルはファンを焦らすのが常なの。私がマイルームに殴り込んで歌ったら、それは心無い悪魔そのものでしょう?」

 

「まさに悪魔だねー。じゃんぬとははうえに即SECOMするレベルのテロだねー」

 

「そう!アタシの歌は、苦難を乗り越えてこそ輝くのだから!そんな最ッッッッ高のご馳走を取り上げて、あなたを哀しませるなんてアタシには出来ないわ!」

 

「では、チェイテへの招待状は・・・ハロウィンパーティーを楽しませるためではなく、先輩に、エリザベートさんの歌を聴かせるためだったのですか?」

 

「えぇ。私の歌を心地好く聞いてもらうための過酷な試練だったの。素敵でしょう?革命でしょう?雷鳴でしょう?」

 

あっけらかんというエリザベートに目眩を覚えるマシュ、ほへーとなるリッカに、拍手を送るアルクェイド

 

「サーヴァントの鏡ね、アナタ!中々出来ることじゃないわ!あの歓待に匹敵する歌、美声・・・!相当の自信家にして大物アイドルと見たわ!」

 

「解る!?解っちゃう!?」

 

「解るわよ~!中々言えるものじゃないわ!それだけの歌、期待してもいいのよね!」 

 

「勿論よ!私、頑張って歌うわ!最後まで楽しんでいってね!」

 

テンションと無茶ぶりが上がりに上がっている事にも気にせずノリノリとなるエリザベート、純粋に期待するアルクェイドに、事情を知っている後方は顔面が青くなる

 

『・・・不味いんじゃないかな。アルクェイド君は知らないだろうけど、エリザベートの歌は、こう・・・兵器な感じだから・・・』

 

『気ままな方だから、最悪落差に怒り心頭になって暴れまわるかも知れないわね。もしそうなったら・・・』

 

『カルデアの一室が、大変な事に・・・』

 

アルクェイドの力は一同理解しているところだ。戯れでサーヴァントと渡り合い、軽い運動でフロアを破壊し尽くす星そのものの具現。その彼女が本気で怒り、暴れ狂った日には・・・

 

「・・・――どうしようか・・・」

 

此処に至って事の重大さを理解する。詐欺にて騙されたと憤慨するのは自由だが、アルクェイドVSサーヴァント達なんて終末戦争はおぞましく、酷いことになるだろう。確実に

 

『これだけの準備が出来ているんだ、確実に聖杯を持ってはいるんだろうけど・・・取り上げるにしても、向こうは単純に善意だしなぁ・・・』

 

「流石に私には出来ない・・・どうあれセッティングしたライブをクラッシュして聖杯ぶんどるなんて鬼畜の所業は、私には出来ないよ・・・」

 

「だからといって、アルクェイドさんを避難させるわけにもいきません・・・楽しみにしていますし・・・」

 

進退窮まったか・・・と一同が頭を抱えているその時

 

「ちょっと、そういえばゴージャス・・・いいえ、あのプレシャスお姫様はどうしたのよ?」

 

エリザベートが不思議そうに訪ねる。プレシャスお姫様と言われて、一同が思い浮かべるのは・・・

 

「ギルガメシア姫の事?」

 

「そうよ、彼女の枕元に置いといたのよ、招待状。姫を名乗るのなら、私の歌を聞いて、感動に胸を震わせるくらいの感受性が必要だと思うの。・・・というか、アントワネットがロイヤル!ネフェルタリがオアシスに加えて、プレシャスって何!?このカルデア事務所、トップアイドル多すぎじゃない!?」

 

その口調的に、ギルガメシアはエリザベートのお眼鏡に叶う程の輝きを示したらしい

 

『凄いなぁ姫。名だたる歴史の姫君と並べられて全く違和感が無いよ・・・』

 

『というと・・・ギルガメシア姫にも、歌を聴かせるために・・・?』

 

「そうよ、ほら。彼女、いつもゴージャスと一緒でしょう?アイツ、残酷で、冷酷で残忍な蛇みたいなヤツだから。今は物凄い上機嫌だけど、舞台裏で日頃地獄みたいな日々を送ってるんじゃないかって。そう考えたら・・・一夜だけでも、息抜きは必要だと思うのは普通でしょう?」

 

・・・要するに、彼女は心配していたのだ。マスターと共に、彼女の事を。英雄王と共にあることが、負担となっていないか・・・と。だからこそ、彼女は招待状をギルに渡したのだ

 

「マスターと、プレシャスに贈るお疲れ様ライブ。その相方がいないんじゃ、始められないわよ。何処にいるのかしら?」

 

「ギルガメッシュくんなら、下の時にはいたわよね?え、まだいるの?ゲスト?」

 

キョトンとするアルクェイド。一同は思い至る。そういえば、ギルガメシアの事は伝えていなかったと

 

「アルクェイドにエリちゃん、姫様はね・・・」

 

その様相を語ろうとした時、扉を開けて現れる

 

「ぐわー。ワタシは、もうだめだぁ」

 

棒読みと、大根演技でログインするのは、我等がプレシャス。噂をすればやって来る、至尊の理を懐く人類最新の英雄姫・・・

 

「ちょ、プレシャス!?」

 

「あれ!?ギルガメッシュくんは!?」

 

困惑するエリザベート。驚くアルクェイド。同時に、一同の頭に英雄王の声が念話にて伝わる

 

 

《此処は我等に任せよ。目論み通りに行けば、逆転の目があるやも知れん》

 

王の言葉に頷く一同。アルクェイドに簡潔に姫と王の関係を伝える

 

(なるほどなるほど、別の人格か・・・え、大丈夫なのソレ。別の魂を入れたりしたら肉体との解離とかスゴそうなんだけど)

 

『本来ならそうなんだよね。魂が一つの肉体に混ざり合わず共存、共生するなんて本来なら有り得ない。互いに混ざり合い、誰でもない怪物になるのが落ちなんだけど・・・今の英雄王に、常識は通用しないってことで』

 

 

『禁忌の外法として、千年樹の家系が編み出したとも調べたけど・・・まぁ、英雄王に限って魂の寄生を赦す筈がないわよね。あの英雄姫は、確かに英雄王へ寄り添うことを赦されているのよ』

 

「まぁギルだし!」

 

細かい突っ込みはそれで片が付く。それより今はエリザベートの歌の問題だ。エアに駆け寄り、抱き起こす

 

「何があったのよ!?顔色が真っ青じゃない!?」

 

息も絶え絶えに、エアはエリザベートに告げる

 

「張り切りすぎました・・・階段から、滑って転んだ身体を、押してこんな事に・・・」

 

「階段から!?だから顔が真っ青なのね・・・!?」

 

『た、確かにバイタルがやや低下してる・・・!何があったんだ!?いや、何をするつもりなんだ・・・!?』

 

一同が固唾を飲んで見守る中、エアは心が籠った棒読み演技にてエリザベートに問いかける

 

「あなたの、歌が、聴きたいです」

 

「アタシの・・・!?」

 

「歌って、ください。皆の為に。ワタシたちは、その為に、此処に来たのですから」

 

演技というものに絶望的な不馴れからくる拙さは、マーリンにかけてもらった幻術でごまかす

 

「あなたの、輝きは、皆の為にこそ輝くのです。ワタシは、輝くアナタを見たいから、此処に来たのです」

 

「アタシの輝きを・・・そんな身体で・・・!?」

 

先程振る舞われたパンプキンパイの気だるさをも活用し、エリザベートに訴えかける

 

「自分の為ではなく、誰かの、為に・・・アナタの歌声を・・・皆様に・・・」

 

強く手を握り・・・

 

「お願いいたします・・・がくっ」

 

エリザベートの腕の中で息絶える(演技)エア。ドラゴン喉の絶叫が響き渡る

 

「プレシャス――――――!!!アタシの、アタシの為に、命を振り絞って・・・!」

 

感涙と哀しみの涙を流すエリちゃん。視線を贈り、念話を皆に

 

(今です!皆様!エリちゃんコールを!)

 

(えっ!?)

 

至近距離の絶叫に耳がキーンとなりながら促すエア

 

音階も、声音も人には到達できぬものを持つ彼女が何故音痴なのか?それは、英雄王の千里眼により把握し、推論を出した

 

彼女は自分が楽しく、自分だけの為に歌ってしまうと・・・力が入りすぎてフリーダムになってしまうのだ。自分が楽しく、自分だけの世界をぶつけているだけでは、誰かの心を湧かせる事はできない。エアはその点に着目した

 

「っ――エーリちゃん!エーリちゃん!エーリちゃん!!」

 

素早く真意を察したリッカが、エリちゃんコールを高らかに上げる

 

「エーリちゃん!エーリちゃん!エーリちゃん!」

 

マシュも続き、声を上げる。耳がダメになるかならないかなんだ。やってみる価値はある

 

「面白そー!エリちゃん!エーリちゃん!エーリちゃん!」

 

アルクェイドも右にならい、全力でコールする。こういう雰囲気こそが大事なのね!と全力でコールを続けマスターに続く

 

『マギ☆マリ・・・シバ・・・これは、裏切りじゃないから・・・!エリちゃん!エリちゃん!』

 

『え、エーリちゃん・・・エーリちゃん・・・!』

 

『エリちゃん~♥』

 

 

巻き起こるエリちゃん大合唱。ぐったりしたエアをそっと寝かせ、立ち上がる

 

「皆が・・・皆が私の歌声を・・・」

 

(――・・・)

 

「・・・見ていて、プレシャス!アタシ、歌うわ!アナタの為に、マスターの為に、――皆の為に!」

 

マイクを握り、高らかに叫ぶ

 

「ライトを当てなさい!アタシ――本気で歌う(いく)わ!!

 

 

これは賭けだ。目論見がうまく行かなければ、エリザベートの破壊音響を至近距離で拝聴することになる。無防備で倒れている以上直撃であり、確実に魂が吹っ飛ぶだろう。だが――うまく行く。必ず

 

(死ぬ時は、死ぬ時は一緒だよ・・・!)

 

懐にいるフォウを抱き締める。信じるんだ、王の見た者を

 

「――すうっ・・・」

 

善性に目覚め、罪の炎に身を焼かれながらも――とある一人のマスターの為に戦い抜いた・・・

 

 

《――――》

 

一人の、サーヴァントの真価を・・・!

 

息を吸い、声を上げ、いよいよ行われるライブの開演

 

・・・そして、エリザベートの歌声を聴いた皆は、一人を除いて耳を疑う

 

 

「ラ、ラ、ラ~♪ラ、ラ、ラ、ラ、~♪」

 

常人には届かぬ音階。美しき美声が、歌として紡がれていく。チェイテへ響き渡る、極上の美声

 

「わ、凄い!本当に上手じゃない!ここは外すところと思ってたのに!」

 

手放しで褒め称えるアルクェイド。信じられないものを目の当たりにしたようにロマンが呻く

 

『なんだこれ、どうなってるんだ・・・!?ハロウィンって、エリザベートの音痴が治る日だったのかい!?』

 

 

『・・・どういうこと・・・?』

 

呆気にとられる理系組。耳がいよいよダメになったかと疑うも、その美声は疑いようがない

 

「エリちゃん!エリちゃん!エリちゃん!!」

 

リッカが声援を送り続け、マシュもそれに続く

 

 

ハロウィンの最後を締めくくる、そのメロディ。パーティーの終わりを告げる、最後の歌

 

 

「――良かった」

 

 

そう。基本にて、最も初歩的な事なのだ。彼女は、『誰かの為に歌いし時』その真価を発揮する

 

 

貴族として育てられ、自ら以外は非支配階級や奴隷、拷問の道具としてしか見られなかった彼女には、極めて難しい問題ではあったが・・・今の彼女になら、それが出来る

 

《そうだ。よくぞその事実に至った。別世界、僅かながらであろうとも・・・ヤツは、確かに、何者かの為に歌を紡いだのだ》

 

この星ならぬ何処かにて、マネージャー・・・最高のマスターに出逢うことが出来た彼女なら。償いを胸に懐くことができた彼女なら。それが叶う

 

 

「最後まで楽しんでいってね!これが、プレシャスと皆に捧げる、ワンマン・ワンナイト・ナンバーよ!」

 

「「「お――――っ!!!」」」

 

ワタシが、王やフォウ、皆に出逢う事ができたように・・・

 

「行くわよ!伝説を作ったあの歌!『恋はドラクル~デラックスナンバー~』!」

 

彼女も、運命の出逢いは果たしているのだから・・・――

 

皆と一体となり、エリザベートは絶世の歌声を築き上げていく

 

ファンと、アイドルが一体となり、一つの大きなうねりとなり、輝くような時間を紡いでいく

 

その一夜の夢を・・・

 

「あはははっ!楽しいわね~!」

 

「エリちゃーん!うぉー!エリちゃーん!」

 

「コンラちゃんにも、聞かせてあげたかったです・・・!」

 

(うん、何よりも・・・エアが無事で良かった・・・)

 

《フッ、やはりヤツに必要なのは上等なプロデューサーであったか。・・・生命と魂を懸けた説得、見事であったぞ、エア》

 

――ギル?

 

ニヤリ、と英雄王は笑う

 

《此処からは我の仕事だ。其処で、王の威光を拝むがよい。――宴の締め括り、見事果たしてやろうではないか!》

 

熱狂のままに、夜は更けていくのであった――

 

 




「みんなー!ありがとーっ!!」


全てのナンバーを歌いきり、マイクを掲げるエリザベート。それに呼応し、歓声を上げる一同

「エリちゃ――ん!うぉー!!エリちゃーん!!」

「凄かったです!私、感動してしまいました・・・!」

「ぶらぼー!おー、ぶらぼー!」

思い思いの称賛を、エリザベートに浴びせる

「あぁ・・・歌いきったわ、私。まんぞく・・・」

エリザベートの体から、金色の物体が浮かび上がる

『!聖杯だ!回収してくれリッカ君!』

『ようやくハロウィンも終わりね・・・』

「はいよっ!」

ジャンプし、キャッチし

「マシュ!」

「了解!」 

素早く盾に収納を完遂する。――これで、本当に一夜の夢は、終わったことになる


「・・・あーあ。これで、楽しいお祭りも終わりかぁ・・・」

アルクェイドのぼんやりとした呟きが、誰ともなく呟かれるのも、その事実を後押ししていた

「歌った、歌ったわ・・・プレシャス、聞いてくれた・・・?はっ!そうよ!プレシャス!プレシャスは!?」

がばり、と起き上がり辺りを見回す

「プレシャスはどこ!?アタシの歌で、甦れたかしら!?」

ステージで呼び掛けるエリザベートの前に・・・

「案ずるな、恥ずかしき竜の娘よ。言伝てを預かっているぞ?『素晴らしかったです。これからも、奮闘を祈っております』とな」

響き渡る王の声。エリザベートは胸を撫で下ろす

「良かった――アタシの歌、ちゃんと届いたのね・・・って!あんたじゃないわよ!アタシ、プレシャスに・・・」

「まぁそう言うな。我が至宝に良き歌を拝聴させたせめてもの礼に、我が威光を受けとるがいい!」

それを聞いて、素早く察する一同。リッカはアルクェイドの目を塞ぎ、マシュはリッカの目を塞ぐ

「?なに?なに?」

「ご褒美が来るぞ――!」

「目を開けないでください!絶対!」

素早く通信を切る一同

――うん、予想は出来ていました

穏やかに笑うエア。ステージ上空より・・・

「どれほど元気になったか、その目で確かめるがよい!!しかと見よ!A・U・O――!!」

高速飛来し、キャストオフがエリザベートの目の前で果たされる――!!

「スカイ・キャスト・オフ――!!!!」

着地と同時に放たれる、王の♂威光♂――!!

「ぶはぁ――!!!なんでラストがあなたなのよ――!!!!」

「我が結末を締め括るに何の不満がある!!さぁ見よ!特に赦す!!此度の貴様の歌声に免じ、至近距離の拝謁を許してやろうではないか!!」

「いらないわよそんなの――!!!誰か――!!たーすーけーてー!!」

「ふふははははははは!!幾度も我が玉体を目の当たりに出来るとは、やはり貴様は幸運EXよな!!」

「だーれーかー!!このゴージャスをなんとかして――!!!」

――諦めましょう

輝きが、ハロウィンチェイテ城を満たしていき・・・

[ふふ、あはははははっ!面白い!このような現象を、我に呼び起こさせるとは!――気に入ったぞ、英雄姫エア・・・!]

愉快げに虚無の心を揺さぶられし姫もまた、哄笑を上げるのだった――
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