人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「ほほう。人類最悪のマスター殿が奥義に、『雷位』に至るとはめでたき事。美酒の一つもお贈りすべきかな?」

【・・・平将門の祟りをカルデアに向ける計画は頓挫した。よもや平定者自らが召喚されるとはままならんものだ】

【・・・--】

【セイバー・エンピレオ。やはり思うところがあるか】

【・・・かの少女、最早人に非ず。悪を以て、悪を断つ龍なれば。何をしようと不思議ではあるまい。--訪ねてみたいものだ。母と仰ぐ者を切り捨て至った境地をな】

【--キャスター・リンボは惨殺され、黒縄地獄は宿業を両断され果てた。平将門により鬼門は封じられ、この地の大怨霊は調伏された。我等の計画の大幅な遅延は免れぬ。しかし、それを加味してでも『平将門の介入を此処で潰す』という成果には釣り合う対価であろう】

「いやはや全く。日ノ本であの御方に勝てるものなどおりはすまいよ。アレは仇なすものでなく、崇め奉り鎮めるもの。我が物干し竿などで傷をつけれる相手ではござらぬ」

【ルチフェロなりしサタンにすら届きうる神威・・・ふ、ふふふハハハハハ!愚かなりしカルデアよ!貴様らは、最大最高の手札を使い潰したのだ!わが【おんりえど】!未だ健在!我が英霊剣豪『六騎』!健在なり!!ハハハハハ!ハハハハハハハハハハ!!!】

「藤丸リッカ・・・ふむぅ。親を殺すとはげに凄まじき心胆。其処に至りし奥義、是非味わってみたいもの・・・」

【--・・・】

「ははは、我等共に剣に生きるもの。こればかりは、なんともしがたきものでござるなぁ--」


--終幕・平将門人龍絵巻--旭は必ずまた昇る。日ノ本の仔らよ、健やかなれ--

眩しい陽射しが、目に入る。その暖かさに包まれて、ゆっくりと、瞼を開ける

 

「ん・・・んん・・・?」

 

此処は、首塚じゃない・・・?天井も布団もあって・・・自分は横になってて・・・

 

「・・・庵・・・?」

 

このほんのり感じる魔力。結界だ。そんな結界があるってことは・・・

 

「ん、おう。目ぇ覚めたか。随分と立ち回ったそうじゃねェか」

 

精悍な青年の声が、耳に届く。予想は的中しているらしい

 

じぶんの枕元で、薬膳を処方している人物が其処にいる。赤毛の、筋肉質な上半身を顕すその青年に・・・見えるじいちゃま

 

「じいちゃま・・・?」

 

「すぐに起きねぇでもいい。相当疲れが溜まってたみたいだからよ。ちっとばかしだが眠って、今起きたってとこだ。体もあれだ、疲労困憊って奴だ。直ぐ様立ち上がるのは止めとけ」

 

じいちゃまの言葉通り、ゆるゆると身体を起こす。・・・あれだけ酷使した筈の体が、痛くない。魔力も、問題ないくらいに快復している。おかしいな、私は確か・・・

 

「・・・此処、庵だよね?」

 

「おぅ。将門サマがおめぇを運んできてよ。随分と疲れてるようだから、帰らせる前に挨拶も兼ねて休ませてやってくれとの沙汰だ。そりゃあ一大事と寝床を慌てて用意したって寸法だ。散らかってんのは大目にみろい」

 

薬膳を混ぜこんだ粥を差し出される。湯気が立ち上ぼり、美味しそうに輝いている

 

・・・将門公が・・・何から何まで、本当にお世話になりっぱなしだ・・・

 

「将門公、いる?」

 

「土地の穢れを祓って回ってくださってるよ。鬼門を念入りに封じると言ってくださってらぁ。・・・神田明神に祀られるのも道理だ。あんなにご立派ならなぁ・・・」

 

村正じいちゃまも手を合わせ、将門公に祈る。・・・私の立ち合いを、見届けてくれた人・・・

 

「・・・うん。私もそう思う!」

 

顔を見合わせ、笑う。その笑顔に安心したのか、出来た粥を差し出す

 

「まずは食え。食って血肉にしろ。おめぇさんが何を斬り、何処に至ったってのは・・・あれを見りゃぁ分かるってもんだからなァ」

 

粥を受け取りながら、呆れたように顎を動かす先に在るのは、立て掛けられた龍吼村正だ。打って変わって静かに立て掛けられ、今は収まっているようだ

 

「あの偏屈なヤロウが随分と満足した面構えになっていやがる。余程大層なもんを食らわせたらしいと一目で見てとれた。・・・どうやらおめぇさんが気に入ったらしいぜ。おめぇといれば、食いっぱぐれるこたぁねえってよ。地獄も平らげちまえそうってんで喜色満面ってやつだ。おめぇさんが戦う限り、収まっておいてやる、とも言ってらぁ。見てみろ、左手」

 

言われた通りに目を向けると、肩から左手の先まで真っ黒に肌が染まっていた。魔力回路と接続した証であり、妖刀が自らを持ち主と認めた証しでもあり・・・母をこの手で、斬り伏せた証でもあった

 

「――・・・うん。ありがとう」

 

その魔術回路に繋がった村正に礼を言う。かの刀があればこそ、自分は奥義に至り、母を宿業から解放することが叶った。それはまさに・・・村正じいちゃまのお陰だ

 

「・・・てめぇのかかぁ殺してたどり着いた境地が雲曜、かみなり様の境地とはなぁ・・・」

 

そんなリッカが至りし場所を正確に見抜き、村正が目を細める

 

「ばっかやろう。・・・しかたねぇとは言え、親御さんを手にかけるにしちゃ、それくらいの場所に至るしかあるめぇとはいえ・・・無茶を通しやがって。十兵衛三厳でもあるまいに、その歳で神仏に至るにゃなんもかんもがはぇえってもんだ」

 

村正の口調は、労るように穏やかだ。しっかりと、此方の身を案じてくれる優しさがある

 

「どんな言葉をかけたとしても、お前さんの慰めにはなるまいよ。だから儂ぁ、刀鍛冶としての礼をおめぇさんに言うだけだ」

 

「お礼?」

 

「おうよ。・・・あの刀を、その場所に連れていってくれて、ありがとうよ」

 

人を喰らうばかりの妖刀に、人を救う役割を担わせてくれた事。人を救うために、奥義に至らせた事。その事実に、村正は感謝すると言う

 

「とんでもねぇもん作っちまったと思ったが・・・道具は人の使い方次第ってぇ基礎を忘れちまってた。忌子の刀が、持ち主を救うたァ上出来も上出来だ。・・・ありがとうってのは、そういう意味だ」

 

そのお礼に、笑いながら返す。お礼を言うのは、こちらであると

 

「あの刀が、宿業に届いたんだよ。龍吼が、私にあの場所を見せてくれて、母上を救ってくれた」

 

宿業両断。その未来へと、その決着へと導いてくれたのは、他ならぬあの刀であると。あのやんちゃで、乱暴でグルメな村正であると

 

あの刀に・・・自分と母上は救われたのだと。少なくともリッカは、そう感じていたのだ。私の辿り着いた奥義は、求めた訳じゃなく『そうするしかなかった』だけの話なのだから

 

「・・・忌子の刀に勝たせてもらった、か。鍛冶屋冥利に尽きるってもんだが、素直に喜ぶ訳にもいくめぇよ。アレを誉められてもなぁ・・・」

 

苦々しく呟く村正に抗議するかのように、低く鈴鳴りのような共鳴を醸し、唸る龍吼。どうやらあちらもあちらで自らを誇示するくらいの矜持は持っているようだ

 

「へっ、一丁前に吠えやがる。担い手サマに噛みつくんじゃねぇぞ。おう、少しは顔色が良くなったな。なら起きて、ぬいと田助に顔出してやれ」

 

「いるの!?おぬいちゃん田助君!」

 

「おう。あの後、無事だってんのを伝えに態々よ。これから先に何をするにしても、挨拶だけは済ませとけ」

 

「うん!・・・わ、体が軽い!」

 

起き上がって見ても、身体がピンピンしている。総てを擲った反動で、殆ど死に体だったのに・・・

 

(将門公のお陰なのかな・・・やっぱり)

 

あの固有結界、神田明神の立ち会い。最後に勝ったものを、五体満足にして送り出す・・・みたいな御利益が働いたのかもしれないと、リッカは推測する。となるといよいよもって、将門公に恩義を返せるかどうかが怪しくなってくる

 

「・・・うん!やっぱり私も、頑張らなくちゃ!」

 

こんなに、大切にしてもらったのだから挫けてる場合じゃない。御前試合をやって将門公に見てもらったのだから、くよくよしている場合じゃない。胸を張って、恥ずかしくないように前を向かなきゃ

 

そうしなきゃ、心配をかけちゃうから。将門公にも、母上にも。これから帰る、皆にも

 

「じゃあみんなで、ご飯を食べよう!やっぱり最初は、朝ごはん!」

 

「へっ、なんでぇ。飯の話となりゃあ生き生きしやがって。色気より食い気かよ、おめぇさん」

 

「まだ食べ盛りだもーん!」

 

「解った解った。おーい、ぬい!リッカのヤツが目ぇ覚ましたぞ!」

 

「ほんとう!?うわぁい、りゅうじんさま!おはようー!」

 

「おぬいちゃん!半日ぶりー!」

 

「だうー!きゃいきゃい!」

 

「田助君も!無事でよかったぁ・・・」

 

『料理、完遂なり。身体に染み渡らせるがよし』

 

「しみわたらせるがよし!」

 

「おいおい、バチがあたんぞ。将門サマの真似たぁよ・・・」

 

『我が子、祟る道理なし』

 

「きゃいきゃい!」

 

「大丈夫!将門公はとっても優しくて深い方だから!」

 

「・・・おう。もしかしたら・・・儂の信念は脇に置いて・・・天下五剣に迫る刀を打てたのは、将門サマの加護なのかも知れねぇなぁ・・・」

 

互いの無事を確かめ合い、平和と天下泰平を噛み締めながら、また一日を始める一同

 

別れの前の最後の団欒を、一同は確かに、しっかりと噛み締めて過ごすのだった・・・

 

・・・そして、別れの時もまた。同様に訪れる

 

「行っちゃうの、りゅうじんさま、おさむらいさま・・・」

 

庵を出て、首塚に再び向かうために。此処で別れると言うこととなるおぬいは、寂しさを隠せないようだ

 

『別れは必定なり。しかし、生命有る限りそれは永遠に非ず。我等、また縁により巡り会う機会在ると信ずるが良し』

 

「・・・うん。また、会えるよね!絶対!」

 

「きゃうー!あぅ!」

 

暖かい肯定の言葉を理解し、笑顔を浮かべる二人。それを満足げに見やり、静かにリッカの背中を叩く

 

「村正じいちゃま。色々と、お世話になりました。龍吼怨獣斬、大切にいたします」

 

「おぅ、また来い。今度は明神切を使えるってぇ触れ込みの侍を連れてな」

 

軽い挨拶の中に、また会うことを信じ、ぶっきらぼうに笑う村正じいちゃま。・・・そう。必ず次がある。異なる世界、異なる場所であろうとも。紡がれた縁は切れはしないのだ。ずっとずっと、それが世を織り成す紋様、歴史となるが故に

 

「うん!おぬいちゃん、田助君!――またね!」

 

そうして二人は歩き出す。在るべき場所、在るべき未来、在るべき世界と、帰るべき場所へと向かって。

 

「おさむらいさまー!りゅうじんさまー!また会おうねー!ととさま、かかさまも!また会いたいって言ってたからねぇー!」

 

「きゃいー!だうー!」

 

「刀ん手入れもきっちり仕込んでやるから、また顔出しに来い!おぬいと田助、泣かせんじゃあねェぞ!」

 

三人の視線と祝辞を背に受けて、二人は確かな足取りにて首塚へと向かう

 

『別れは、縁を土産として紡がれる門出なり。ますたぁ、悲しむ必要はなし。遥か果てにも、必ず縁は残り、また再会の縁は紡がれし定めなり。故に――』

 

「今は笑顔で前に進もう!でしょ?将門公!」

 

『――然り』

 

顔を見合わせ、やっぱり笑い合う二人。時間にして一日の関係なれど、絆の密度と想いにその時間の短さは関係無く。互いに肩を並べて歩き出す

 

左手に食い込む・・・否【馴染む】妖刀に、母上の護り刀を携えながら、御天道様の照らす道を足取り軽く歩き出す

 

――健やかに。私のリッカ。それだけが、母の望みです

 

ふと、風が運んだ清らかな音に耳を傾け振り返る

 

「――」

 

手を振り、自らを見送ってくれる三人の隣に・・・着物と笠を着た、麗しき女性がいる--幻を、リッカは確かに、垣間見る

 

「・・・行ってきます。母上」

 

その、素敵な幻を・・・確かに胸に抱いて。リッカは強く前を向き、力強く歩き出す

 

『――・・・』

 

その気丈な姿に、将門公はそっと・・・肩に手を置くのだった

 

 

 

そして、辿り着くは将門公の首塚。おぞましき怨霊の気配は既に無く、辺りには神気が立ち上る霊験あらたかな場所へと様変わりしている

 

首塚の前には金色の孔が空いており、其処に入れば、元いる場所へと戻る確信がある

 

『汝、在るべき世界へと帰参すべし』

 

穏やかに肩に手を置く将門公。その温もりを感じ、改めて向き直る

 

「ありがとうございました。将門公。貴方様と同じ国へと産まれることが出来た事、この上無い幸福です!」

 

『我が身、同じく。我が決議、我が決意。過ちでなきものと確信を得たり』

 

「はい。――はい・・・っ」

 

此処で、お別れ。あまりにも鮮烈で、あまりにも輝かしく、あまりにも・・・唐突な別れ

 

彼は、カルデアの召喚のサーヴァントではない。この先に将門公は来れず、どうあっても・・・彼とは此処で別れる事となる。何れ程、通じあっていようとも

 

右も左も分からぬこの場所で。自分を導いてくれたのはこの御方だった。自分を見守り、正しい道へと共に歩いてくれたのがこの方だった

 

その方と・・・別れる。一日、半日、僅かな時間でも、その威光、その輝きを生涯忘れない自覚があった

 

これが、永遠の別れでなくとも・・・『この』将門公とは、もう、逢えないのだ

 

『・・・別れに、涙は付き物なり』

 

そう言いながらも、将門公は優しくリッカの頭を撫でる

 

『別れど、縁は切れず。我等の絆、刹那なれども永遠なり』

 

「はい、――はいっ――・・・!ありがとう、ございました・・・!日本に戻ったら、お礼参りに行きます・・・!首塚にも、神田明神にも、絶対・・・!」

 

『――忘れることなかれ。他者への感謝と畏敬。それらは日ノ本を支えし柱なり。日ノ本への祷り、尽きぬ限り――我は、そなたらを守護せし神で在り、平定者たる御霊なり』

 

自らではなく、全てへの感謝を忘れるな。それらは、人と神が生きていく上での大切な事

 

『息災であれ、藤丸龍華。そなたの母もまた――それを願い、望むものであった』

 

「――ぅうぅ~っ・・・~~!!!」

 

将門公の暖かさに堪えきれず、彼に顔を埋めて涙を流すリッカ

 

痛みでは弱音を吐かぬ。苦痛では不敵に笑う。困難は陽気に乗り越える

 

そんな、不屈の邪龍の心をも・・・偉大なる日ノ本の守護神は優しく融かし、ありのままの感情を穏やかに引き出しせしめるのであった

 

其まさに・・・万物を暖かく照らす旭光が如し。平将門公、日ノ本の平定者--此処に在り

 

彼はまさに――暖かき、人と共に歩む守護者、そのものであったのだ

 

『――縁を形にするもの、確に必要なり』

 

そう告げた将門公は、リッカの首にそれをかける

 

「これは・・・」

 

日緋色の色、圧倒的な神気と力を凝縮せしめる、日本三種の神器が一つにして、将門公が何時の日か、よきマスターに、よき子孫に出会えたと感じ入った際に賜そうと決めていた、その秘宝が一つ

 

将門勾玉(まさかどのまがたま)。あらゆる怪異疫病を退ける護りにして、我が魂の分御霊也。土産にするが良し』

 

将門公の力を込めた勾玉。無病息災を約束し、良縁成就、勉学大成。総ての利益を約束せしもの。あらゆる属性の外法を打ち払い、万能なりし将門公と同じ属性以外の魔術に干渉する、『守護』の概念礼装。――天皇やそれに連なる者が持つべき、究極の魔術礼装が一つである

 

「い、いいんですか!?私、貰ってばかりで、こんな・・・私、貴方に、何も・・・」

 

『良い』

 

紅き瞳が、暖炉のように揺れる。もう、大切なものは貰っていると、将門公は言う

 

『ますたぁの輝く笑顔、絆、未来へ続く日ノ本の未来。――十分に、我は報酬を得たり』

 

とん、と。優しく背中を押される。リッカの身体が、ゆっくりと在るべき場所へと帰還していく

 

「将門公――!」

 

腕を組み、穏やかに頷く将門公が遠ざかっていく。まだ、まだ・・・話したいことは沢山あるのに・・・!

 

おむすび、本当に美味しかった。怪異に立ち向かう貴方は本当に格好よかった。泰然とある貴方は、本当に、本当に――輝かしくて・・・

 

「――また!!」

 

せめて、これだけはと。腹の底から叫ぶ

 

「また!会えますよね!いつか必ず、一緒に、一緒に戦えますよね!!――おむすび、一緒に食べられますよね!」

 

『――是』

 

「カルデア、とってもいい場所ですから!皆、皆いい人ばかりで!だから、きっと・・・!貴方も、必ず・・・!」

 

『ますたぁがますたぁで在る限り、我は必ず傍に在る者也』

 

リッカの言葉に、深く頷き告げる

 

『我が真名『平将門』。日ノ本の総てを守護せし、神田明神へと座する平定者なれば。――さらば、我がますたぁ。その生が健やかなること、我は心より祈る者也――』

 

「――さようなら!将門公!また、必ず――!また――!」

 

・・・こうして、後の空位に至る七番勝負の前日譚は静かに幕を閉じる

 

 

『・・・――天下泰平、日本晴れ。まこと――この晴天が如き我が胸中。まこと・・・』

 

腕を組み、空を見上げる平将門公は快く笑みを浮かべ

 

『まこと――天晴れなり。藤丸龍華。これより先――揺るぎなく。歩むべし――』

 

いつまでも、いつまでも。雲一つ無き日ノ本の空を眺め続けた――




・・・リッカ、リッカ。朝ですよ。母が起こしに参りました。さぁ、目覚めください、さぁ・・・


「--!」

がばり、と跳ね起きる。爆睡せしじゃんぬとアルクが傍にいて、目の前には優しく微笑む母

「あ、あ・・・お母・・・さん・・・」

「はい、あなたの母です。おはようございます、リッカ。朝御飯の支度は既に、しっかりと。・・・どうなさいましたか?」

キョトンとするリッカを、不思議そうに見つめる頼光。その変わらぬ様子に、リッカは涙を流す

「リッカ・・・?」

「・・・--母上だぁ・・・・・・」

「ふふっ。おかしな子です。怖い夢でも見たのですか?やはり、母がいない寝台では寝苦しかったのでは?じゃんぬさんはともかく、其処の無秩序な西洋のあやかしでは・・・」

「母上」

母上の言葉に、涙を堪えながら。告げる

「母上でいてくれて、ありがとう・・・」

「--はい。私こそ、あなたが娘であることに、感謝していますよ」

笑い合う。絆と魂で繋がった母子。--幻なれど、殺し合ったその心の、確かな救いとなりし母の笑顔に・・・リッカは。自らの心と行動に、揺るぎなき確信を得たのであった--

「どうやらまだ夢の中にいる様子。顔をしっかり洗いましょう?良ければこの母が抱えて洗面台に・・・」

「ううん。母上と金時兄ぃと御飯が食べたい。先に待ってて、お母さん」

「--はい。ふふっ・・・金時も、リッカのように素直になってくれれば、どんなに・・・」

満足げに頷きながら手を振り、部屋を後にする頼光、ほうっと息を吐く

「・・・--」

どうやら・・・夢ではないようだ。【左手の魔術回路に一体化した龍吼怨獣斬村正】を感じる。左腕の付け根から手の先まで、漆と血染めの真紅に染められている

同時に・・・胸の上に輝く、将門勾玉を握りしめる

夢ではない。夢では無いのだ。かけがえのない縁は、此処にある

またいつか、必ずあそこに行くのだろう。英霊剣豪は、必ずまた現れる

その時に、また必ず--私に何か、出来ることは在るはずだ

「そのときに備えて、頑張らなくちゃ!」

強く決意し、将門公の暖かな大きさを思い返しながら、日々に駆け出していくリッカ




「ふむ。一日眠っていたに過ぎぬが大分言葉を発するのは久しい気がして叶わぬな。貴様はどうだ、獣」

(そういうメタいツッコミはボクわかんなーい)

《ふはは、こやつめ。今更猫を被ろうと心胆は知れ渡っている。無駄な抵抗と言うものだぞ》

(なんだと!ボクは常に自然体だ!エアの前で嘘なんかつくもんか!)

--うん!いつもフォウは可愛くて、素敵なワタシの親友だよ!

(あふん--・・・)

--フォウがパンになった!?

(モーニングフォウ。朝フォウ)

廊下にて、寝巻きのギルとすれ違う

「おはよーギル!朝御飯食べてくるねー!」

「うむ。--マスター」

「ん?」

呼び止められたリッカが振り返る。英雄王は、愉快げに笑う

「--貴様の奥義と縁、大切にする事だ。大元の神と肩を並べるなど、そう在る機会では無いからな」

「--・・・・・・」

「ではな。気疲れが抜けぬならば今日は休暇でよい。休み、また励めよ。藤丸龍華」

手を振り、マリアが待つバスルームへと向かう英雄王の後ろ姿を、リッカは見つめる

「・・・ひょっとして・・・いや、そんな・・・まさかぁ・・・」



--先程の御言葉、如何になさったのですか?何やらリッカちゃん、左腕に何かを宿し、何者かが傍におりますが・・・それと関係が?

エアの言葉に、英雄王は笑う

《男子三日逢わざれば刮目してみよ、という言葉がある。ならば女子が一日夢を見れば見違える成長を果たそう事象も有り得ようさ。何故ならば--》

今日一番暫定ゴージャススマイルで、自信を以て告げる

《--女子は、夢に生きる生き物なのだからな》

--お、おぉお~!流石は英雄王!含蓄と、自信に満ち溢れた言霊です!

(エア、こう言うときはこう言うんだよ。--上手いこと言ったつもりかこいつめ!こいつめ!)

《むっ、まさしく上手いことであろうが!テシテシは止めよ!獣臭くなるであろうが!》

(ボクはリセッシュでフローラルだよ!こいつめ!こいつめ!)

《ええぃ、エア!こやつをなんとかせよ!お前の守護獣であろうが!》

--ふふっ、はい!フォ~ウ~、落ち着いて~、落ち着いて~。ワタシが傍にいるからね~、よしよし、よしよし。

(ふわぁ~。ほわぁ~)

[これ、何をしている。朝の食事も果たしておらぬのにはしゃぐでないわ。今日はばいきんぐ、に挑戦するのだ。共をせよ、エア]

『あら、食べ放題に興味がおあり?無限に食べ物が出るなんて幸せね。私もご一緒しても?』

--皆で仲良く食べましょう!そうすれば、忘れられない素敵な時間となりますから!

《ふっ、では--贋作者を冷やかすとするか!》

「なんか久しぶり!さぁて、パン食べて~、アキレウスとケイローン先生と手合わせしようかなぁ~・・・ん?」

「リッカさーん!なんだか面白そうな--」

「あ!武蔵ちゃん!おはよー!」

「--リッカさん・・・何時の間に・・・剣の極みにいたったので・・・?」

「え?母上をちょっと救うために」

「--」

「え、鯉口!?誘わないで!?朝御飯だから!」

「さきっちょ!さきっちょだけでいいんです!私と、私と真剣勝負を!!」

「ちょっと待って!待ってってばぁ!」

・・・この後、リッカがいた半年前の下総に武蔵が飛ばされ、一騒動あるのだが・・・

それはまた、別のお話--

「どうしたい、頼光サン。晴天日本晴れってくらい笑っちまって」

「我が子が元気ならば、母はいつでも幸せなのですよ。金時」

英霊剣豪七番勝負・前日譚。此れにて閉幕--

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