人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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狂猛

「――こんばんは。寂しい夜ね」

 

長い紫髪、引き締まった肢体を露にする神聖な雰囲気を湛えた女性サーヴァントが、目の前に相対する

 

 

「――参ったな。囲まれてるぞ。くそっ、嫌だなぁ。害するために発せられる音って言うのは……甲高いトランペットみたいだ」

 

「解るのですか?アマデウスさん……?」

 

「そりゃあ解るさ。僕は音楽一本で英雄になった男だぜ?空気の波を読むなんて字面を読むが如しさ。マシュにリッカ、ジャンヌの寝息に生体音、寝返りの音や胸が衣服を擦る音、下着が股ぐらに食い込む音まで完全に僕の記憶野に蓄音済みさ!」

 

「なっ――!!」

 

赤面する三人

 

――凄いな。そんなことまで解るのか。これが音楽のみで英雄と呼ばれる所以――!

 

 

「フキュルルル!(なんて変態だ、許せない!キミ、後ろからコイツを串刺しにするんだ!)」

 

?ここはその絶技に感嘆するところでは無いのだろうか

 

「皆さんごめんなさい。監督役の私が謝ります――でも、我慢して?彼から音楽をとったら何も残らないのだもの!」

 

「ほう、では我と王妃の睦み言も盗み聞きしていたか?」 

 

「もちろん。本当ならあらんかぎりの下ネタ罵倒を叩き付けてやるところだが――」

 

「アマデウス!ゴージャス様はふしだらな事はしていないわ!」

 

「解ってるさ。何故か英雄王からは『汚い』匂いがしないからね。本当に他愛ない世間話だって知ってるしね」

 

「当然だ。身の清行はマナーであろう」

 

「マリーの相手は疲れたろう。話すばかりのヤツとは一緒にいてくたびれるものさ」

 

「もう!アマデウス!」

 

 

「――よい仲間たちね。私達とは大違い」

 

清らかに笑う、バーサーク・ライダー

 

……敵なのか?雰囲気があまりにも清澄すぎる気がする

 

「貴女は、何者ですか」

 

 

ジャンヌが問う。なにかを感じたのかもしれない

 

 

「私……さぁ、何者なのでしょうか。聖女であれと律してきた自己を狂わされ、壊れた聖女に顎で使われるなんて」

 

「――壊れた聖女……」

 

間違いなく黒きジャンヌ、竜の魔女を指しているのだろう

 

「フン。たかだか狂化にて自己を手放す時点でその程度の器。英雄ならば自己を壊す呪いは三倍まで耐えてこそであろうが」

 

「――いたわね、金ぴか。一つだけ言っておくわ」

 

「なんだ、懺悔か?」

 

「――アンタは私の信ずる神を弾圧がお家芸と宣った。……確かにそうね。信徒たちは主の言葉を、真っ直ぐ受け止められずに、そういった事を繰り返した」

 

「でもね――たとえ歴史がそうであったとしても、私達の神はけして血と鉄は求めない。弾劾されるとすれば、父の言葉を受け止められなかった私達よ」

 

毅然とした、祈りの言葉。狂猛の猛りにも犯されぬ、聖女の信仰

 

「だからね――覚えておきなさい。いくら神を拒絶しようが、けして人の心から信仰が無くなることはない」

 

「それで?貴様は民草を虐殺したその手で、父とやらの油と洗礼を受けるのか?」

 

「――返すことばもないわ。私はここで消えるつもりよ。業を抱えてね」

 

「待って!」

 

マスターが問いかける

 

「貴女、まだ自我を保ってる!狂わされても!そうでしょ!?だから話をしてくれた!」

 

「先輩……」

 

「話し合えるなら、解り合えないかな!?一緒に、魔女に立ち向かえないかな!?」

 

張り上げる叫び。マスターとして投げ掛ける

 

「――ありがとう。こんな私に改心を勧めてくれるなんて。素敵なマスターね」

 

「だから!」

 

「それは無理よ。私は狂化をかけられている。今もこうして衝動を押さえるのに割りと必死なの。気を張らなきゃ後ろから刺しかねないサーヴァントなんて、信用できないでしょう?」

 

「そんな……」

 

「……業腹であろうが、呑み込め。サーヴァントとはそういうものだ」

 

 

唇を噛むリッカ。――無念が伝わってくる

 

「だが――上出来だ」

 

「え?」 

 

「理解できぬ事と、理解しようとせぬ事は異なる。お前は今、こやつを理解しようとした」

 

「はい、先輩。まずは対話、大事です!」

 

そうだ。こんな単身でこちらに攻めいるのは違和感がある

 

――もしかして、彼女には自分達に伝えたい事があるのでは無いのだろうか

 

「では、一度した対話には責任をもて。王妃、音楽家。辺りを掃除するぞ」

 

「いいのかい?」

 

「我が介入すればどちらかが死なねば止まらぬ。我はこの場では邪魔者であろう。戦闘に長けぬ貴様らも見張らねばならぬからな」

 

「では、マスターは私が」

 

「任せる。無様は晒すなよ」

――無事に勝ってくれ、マシュ

 

 

「はい!」

 

「アマデウス、私の友達を信じましょう」

 

「解ったよ。友情、空虚だが確かに在るものを嗤うほど僕もくさっちゃいない」

 

「よし、我に続け!」

 

信じて、離れる

 

――死なないでくれ、マスター

 

 

 

 

「何でもお見通しか、金ぴか……」

 

「あなたは……」

 

 

「・・・一つ言っておきます。ジャンヌ・ダルクは竜の魔女。竜を殺す力なくば、あなたたちに勝利はない」

 

「私ごときを倒せねば、彼女の竜は倒せない――邪悪な竜にはね」

 

『邪悪な竜?――まさか、嘘でしょう?』

 

蒼白となったオルガマリーの呟きが漏れる

 

『知っているのですか、オルガ所長』

 

『いえ――有り得ないわ、――ニーベルンゲンの邪竜なんて、そんな・・・ギルがいたって、勝てるかどうか……!』

 

「貴女は……!」

 

「私ごとき乗り越えられねば、彼女に勝つなど不可能。――私の総てを以て、あなたを試します!」

 

バッ、と高らかに杖を掲げる

 

 

「私の屍を乗り越えられるか試します――!いでよ、『大鉄竜・タラスク』――!!」

 

 

地響きと共に、聖女の祈りに鉄竜が応え、現れる

 

巨大な甲羅、太い六本足、強靭な牙、爪……総てを兼ね備えた竜種

 

かつて都市を荒し尽くし、人々を侵害した巨大な竜――

 

「我が名、真名をマルタ。さぁ、清き聖女よ、構えなさい」

 

「聖マルタ――!貴女は、私が……!」

 

「私を越えねば、貴方の願いは叶わない――!」

 

十字架の杖と、聖なる旗

 

因果により別たれた、同じ想いを懐く者がぶつかりあう――!

 

 

「先輩!戦闘準備、完了です!」

「うん。――試すって言うなら。私達の全力を!」

 

右手を高々に掲げ、カルデアに回路を繋ぐ

 

 

「来て!!ヘラクレス――!!」

 

大地を砕き、無双の大英雄が顕現する

 

「――――⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛――――!!!!!!」

 

 

「くぅ、っ……!!」

 

『マシュ!ヘラクレスを使役できる時間はごくわずかよ!長引かせたらリッカがあぶないわ!』

『ヘラクレスを援護して短期決戦だ!いいね!!』

 

「はい!マシュ・キリエライト!行きます!」

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛――!!!!」

 

 

願いを掛けた戦いが、始まる――!!

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