人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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--フォウが作ってくれた大冒険日記、早速読んでみよう!どんな場面から読み返そうかなぁ・・・ん?

『エアの無銘突っ込み時代』

--・・・・・・!?

『無銘知ってる。それはイマジナリフレンドだって言うのを』

・・・あわ、あわわ・・・

『空手形は後々大変な事になりますよ?』

『見果てぬ夢の結末を知るがいい。これは、貴方が示した結末だ』

--あぅうぅ~!ぁ~!あ~っ!ぁ~!

(エアが枕に顔を埋めて足をぱたぱたしてる・・・そんなに気に入ってくれたんだね!嬉しいよ!)

--ワタシの!無銘のばかーっ!こんな気取ってすかした物言い、なんでおかしいと思わなかったのーっ!うぁあ、あー!ぅあ~!

《ふむ・・・たまにはこういった酒も悪くはないな》

「微笑ましいね。甘酒みたいだ。どれ、僕も拝見・・・」

--ダメです!やめて~!見ないでください~!


流れ流れて此処何処?

現れた、異世界へと続く穴。宮本武蔵いわく、観音様の加護という異なる世界へと渡る穴。此処に、武蔵とリッカは躊躇わず飛び込む。王とロマンの目を信じ、武者修行の旅の一環として窮地や研鑽の旅へと飛ぶ

 

今日はどんな場所へと辿り着くのだろう?如何なる困難が待っているのだろう?そして、どんな出逢いが待っているのだろう?高揚と期待に胸を高ぶらせながら二人は自らの魂を此処ではあらぬ何処かへと飛ばしていく

 

其処にあるのは想像を絶する果たし合いか、奇々怪々な魑魅魍魎か。はたはすさまじき英傑との廻り合いか?

 

何れにせよ、確信し、断言できることがひとつある。それは--

 

 

「あーいきゃーんふらぁーい」

 

「南無三──!」

 

その場、平穏泰平とは程遠し。胸を踊らす旅の始まりである事に他ならない。新たなる出逢いを求め、うら若き乙女は世界を駆ける──!

 

『間も無くレイシフトが安定する。魂の尾を巻き戻せ。そら、到着だ』

 

王の揺るぎない言葉に二人は目を見開く。その瞳に、広がる景色は・・・──

 

 

 

 

 

 

「海だね」

 

降り立ったリッカが発した第一声がそれだった。武蔵も異を挟むことなく、うんうんと頷き肯定する

 

「潮風、匂い。紛れもない海ですね。此処は海岸、見て。小舟も打ち捨てられています」

 

曇天、荒波。寄せては返す潮の満ち引き。足下の感覚はしゃりしゃりとした砂浜、遥か向こうには・・・列島が見える。どうやら此処は日本ではない事は読み取れた

 

辺りを見渡してみる。後ろには険しい崖と山が聳え立ち、自分達を威嚇するかのように偉容を示している。ここは着岸地点であり島の入り口であると予測ができた。辺りに人影はない。そして・・・

 

「あ。あそこに茶屋が見える!」

 

リッカが目敏く峠の向こうに店を構える茶屋を見据える。やはり此処は人為的に用意された島、何らかの要因にて招き寄せられた尋常ならざる島なのだろうか

 

「ギル、ロマン。此処が何処だか解る?」

 

後方のバックアップに確認を取ってみると、間も無く応答が帰ってきた。現状を把握したであろう英雄王が述べ上げる

 

『此処は何者かが作り上げた童話の島、有り得ざる神秘や怪異を匿い、愛するものに拵えた遊び場よ』

 

「遊び場ぁ?島ひとつをくれてやるだなんて、随分と豪勢な事ね。将軍かっつの」

 

武蔵の苦々しい言葉に王は笑う。総てを見据えていながらも、あえて口にせず現状を愉しむ絶対者としての物言いを崩さない

 

「お前に宿る母に聞いてみよ。少しは心当たりはあるのではないか?」

 

「そうなの?母上」

 

左腰に下げた童子切に手を当て聞いてみる。かつての異なる日ノ本では口を開かなかった母、丑御前に確認をとってみる、のだが・・・

 

【さて、私は何も存じ上げません。他なる私なら兎も角、我が子が満たされている以上遊び場など作るはずも無いでしょう】

 

帰ってきたのは他愛ない否定であった。つーんと顔をそむけ記憶にございませんと告げる丑御前に苦笑しながら言葉を返す

 

「知らないって」

 

『そうか、ならばよい。どうやら貴様らは何らかの要因にて、平行世界の特異点の跡地にやって来たようだな。めぼしい絹も珊瑚も、つづらも狩り尽くされていよう。旨味などあまりない痩せた土地だ、さっさと帰ってくるがよい』

 

王的にはあまり気乗りする場所では無いようだ。モニターの向こうで山吹色の菓子とお茶をロマンと一緒に啜っている

 

「ありゃ、外れかぁ。観音様もいい加減ねー。まぁ面倒事を避けられるならそれに越した事は無し。取り合えず、あの茶屋に行ってみましょう!リッカさんと食べ歩きなんて願ったりよ!」

 

手を取りくいくいと引っ張る武蔵ちゃん。泰然にして自然体の物言いは、じゃんぬやマシュとまた違った感覚の連れ合い感がある。オルガマリーが優等生ならば、こちらはクラスの仲のいい女友達といった所だろうか

 

「はーい。じゃあリッカに武蔵ちゃん二人で、探索とゴールを目指します!」

 

その誘いとオーダーに答えながら、ゆっくりと歩を進める

 

(将門公はいない・・・当たり前かぁ・・・)

 

少なからず寂しさが胸に去来する。できればカルデアの皆に、私が記憶する中で最高の日ノ本の守護者を紹介したかった。彼がカルデアに来てくれたならば、最早何者にも負けないという確信が持てたのだが・・・

 

(まぁ、まっすぐ旭に向かって生きていれば必ず会えるよね!恥ずかしくない生き方をしていれば、将門公はきっと見ていてくれる!)

 

首にかかりし、彼の守護者から賜った勾玉を強く握り、前を向く。此処が日ノ本ならば、自分の歩みは必ず彼が見ていてくれると強く自負し、前を向く

 

自分には、将門公がついている。そう考えただけで・・・揺るぎなく歩みを進める理由には十分だと自らを奮い起たせるのだ。決して、下を向かずに進んでいこう

 

彼の守護者も、それを望んでいるはずだから。その決意を胸に歩み出さんとしたとき。その歩みと決意に立ち塞がる者が二つ、武蔵とリッカの前へと躍り出る

 

「ヒャッハー!こいつは運がいいぜ!旨そうな肉の女だ!鞘付きの刀!上等な着物までおっ付けてやがるぜぇ!運がいいな相棒!」

 

下卑た物言いにて二人の前に躍り出しは・・・鬼だった。紅い瞳、餓鬼のように膨らんだ腹、鈍色の肌、そして額の小さな角

 

「・・・そうだな。我等も此処等で一つ、上を目指していい頃合いだ」

 

もう一人の鬼も姿を現す。こちらは理知的で落ち着いており、沈着さを感じさせる佇まいだ。見た目は完全に一致しているが

 

──凄い!お伽噺に出てくる鬼そのままです!

 

(まさに創作ものだ!あながち間違いじゃないな、此処が作られたというのは!)

 

寝る前にフォウやアルクに語って聞かせるお伽噺の怪物を目の当たりにし気分が高揚せしエア。全く以て同じなのだ。書き写したように。模写したように

 

『──余程子を溺愛していた母が拵えた島なようだな。子供の落書きにまで生命を吹き込むとは』

 

王が意地悪げに言葉を洩らす。その心胆、目論見を容易く看破し把握する。これは紛れもない愛にて作られた産物だ。制作者は駄作と舌打ちするレベルの低俗品であるのだが、事此処に至りクオリティに口は出さぬと空気を読む英雄王

 

『絵に書いたような鬼だな!?ともかく相手はやる気みたいだ!応戦してくれるかい!二人とも!』

 

ロマンの指示に、二人は顔を見合わせ頷く

 

「金や名誉も無し、お捻り一つ期待できぬ寂しい立ち合いですが・・・絵巻より迷い出た悪鬼羅刹の類いならば、退治するに迷いなし!それによくも、ぬけぬけと──」

 

剣を二振り腰から抜き、八相構えにて怒号を発す。大気を震わせ努喝の啖呵が辺りを揺るがす

 

「峠の茶屋に手を取り向かうか弱き乙女に良く吠えた!空腹時に襲い掛かるその下劣、十文字にて斬り捨てる!」

 

刀を突きつけ鬼を脅す。その剣気と気迫に、気圧され総身を震え上がらす二人の小鬼。無理も無し。その迫力、不動明王に通ずるものなれば

 

「ひ、ひぇえぇぇ・・・!?な、なな、なんだこの女の迫力は!?俺の知ってる女と違う!?」

 

「むぅう・・・この迫力、二刀を携えた武者。そんな者が剣気を飛ばすとなれば心当たりは一つのみ。まさか、まさか・・・?」

 

完全に気に当てられた鬼の片割れは混乱し、武蔵の啖呵に拍手を贈る呑気なリッカに狙いを定める

 

「あっちの女はどうだ!?肉はうまそうじゃねぇが、飛びっきりの名刀を腰に下げてるぜ!あの鞘の飾りに球飾り!売れば儲けがすごそうだ!」

 

「肉は美味しくなさそうは余計です~」

 

「──いや、馬鹿な!そんな事が有り得るのか!?いかん、逃げろ!逃げるのだ!」

 

今度は対照的に、取り乱し震え上がるは冷静な鬼だった。リッカの腰に差す刀を目の当たりにし興奮と狂乱を露にする。刀というのは、下げているだけでその武者の格を定めるものであるがゆえに

 

「『童子切』・・・!あれは童子切安綱だ!西の横綱とされる名刀の中の名刀!こんな小娘が持っていられる筈がない!何故なら、何故ならば・・・!あの刀の持ち主は・・・持ち主は・・・!」

 

その驚愕にキョトンとするリッカであったが、震えるほどの怒気と殺気に身体を動かされる事にきづく

 

【五月蝿い虫ですね。ようやく狂い果てた私を手にかけさせてしまった自責から顔を出せるようになったと言うのに。娘と友の二人旅を見守ろうと思い至ったのに台無しではないですか】

 

バチバチリ、とリッカの身体に電流が走る。そして流れるような、見入ってしまうような美しく軽やかな動作にて童子切に、リッカの意思を関わりなく手をかけ──

 

【目障りです。失せなさい】

 

抜き放つ。その一刀はまさに【迅雷】と呼ぶに相応しきものであった。構え、帯刀に手を掛け、抜刀、振り上げ、納刀。その一連の動作を、小数点以下の刹那にて完了させる刹那の神業。脳が神経に信号伝達が叶う限界までに圧縮された身体の動作。その一閃

 

「──」

 

目を見開く鬼──それ以上に仰天せしめたのは武蔵であった。その途方もない神業に、愕然と実力差を見せ付けられる

 

(目にも留まらぬ、なんて生ぬるいものじゃない。抜刀から納刀まで・・・違う。リッカさんが構えに入った事すら解らなかった・・・!)

 

リッカが構えを解くと同時に、鬼二人の背後にあった切り立つ崖に、砂浜に、壁に、地走る電流がごとき一閃が穿たれる。大地を割り、壁を伝い、崖すら引き裂く雷光の一閃

 

(目にも写らず、刹那の見切りにて芯を捉えるその業は神雷が如し。駆ける稲光にあらゆる動作は後塵を拝す。これが、リッカさんが至った『雷位』の一端・・・!)

 

リッカもキョトンとする程の速く、凄まじい剣業。丑御前の虫を払うような軽い脅しのつもりで放てし一撃は、鬼達の戦意を砕くのに十分であった

 

「ひぇえぇえぇえ!?この女共めちゃくちゃつえぇえ!?やめだやめだ命が惜しい!すまんな助六!俺のために死ねぇ!」

 

先程の威勢は何処へやら。武蔵の威嚇とリッカの身体を借りた極みの一閃に完全に恐慌に陥った鬼は、一人の鬼を差し出し逃げ出す

 

「あいたっ!?突き出すか普通!?鬼か貴様!いや鬼だった!!」

 

「──・・・」

 

リッカと武蔵が歩み寄る。武蔵は刀を握ったままで、リッカは次なる一閃に至る雷を身体に走らせたままで

 

その姿に、鬼は己の死期を悟り、観念した断末魔を上げる

 

「源頼光の生き写し、そして誉れも高き宮本武蔵・・・!ぬぅうぅ!オレもここまでか──!」

 

目を閉じ叫ぶ鬼。しかし、予期していた刀は一行に振り下ろされない。やがて、カチンと鍔をならし納刀が果たされる

 

「・・・あれ?生きている?生きているのか、俺は・・・」

 

「これに懲りたら、悪いことはしちゃダメだよ?」

 

リッカが目線を合わせ、鬼を諭す。・・・リッカはそのつもりは無いのだが、瞳の中に、牛頭天王の如き気迫と殺意と神威が揺らめくのを感じとり、ひぃっと鬼は震え上がる

 

「はいっ!人は無闇に襲わぬと誓う!」

 

「よろしい!じゃ、私達は茶屋に向かうから!じゃね!」

 

その言葉に満足し、鼻唄まじりに、リッカが歩いていく。その様子に笑みを浮かべ、武蔵も後をついていく。・・・その様子に、鬼は武蔵を呼び止める

 

「ま、待て!その気迫に剣、無礼を承知で訪ねるが、そなたは宮本武蔵では無かろうか!」

 

「生まれてこのかたその名以外で呼ばれたことも無し。えぇ、私は確かに武蔵でしてよ?」

 

「・・・立ち合う総てを皆殺しにした武蔵が、私を見逃すと言うのか?いや、そもそも何者なのだ、お前達は。国宝の刀を、極みの境地にて振るう女に、女性の宮本武蔵。あまりにも破天荒なお前達は・・・」

 

その問いに、武蔵ちゃんは笑いながら答える。利にも徳にもならぬ殺生はしないと

 

「私達は、カルデアから来た二人の気楽な旅人。楽園から武者修行にやってきたか弱い乙女二人なだけですよ?」

 

「か、かよわい・・・?」

 

「大体、殺しなんて理がなければやりません。あなたの首にお金がかかるならば、そのお金欲しさに私はあなたを仕留めましょう。ですがそうでないなら、脅して散らすが最適解。私達の道は、屍山血河にならぬのです」

 

「・・・では」

 

では、何処を。何を目指すと問うた鬼。武蔵は笑い、こう返す

 

「剣の極み、空の座へ。そして目指すは、完全無欠のはっぴぃえんど!私達はそれのみですよ!」

 

笑顔で返す武蔵。困惑する鬼。分からぬならばと手を振るい、リッカの後を追いかける

 

「要するに!脅しですめば万々歳と言うことです!と言うわけで、もう私達にはちょっかいを出さないことをお勧めいたします!私はともかく彼女には、並みの鬼が百が千でも蹴散らされるでしょうからね!」

 

走り去る武蔵の後ろ姿を見ながら、助六と呼ばれし鬼は声を上げる

 

「・・・宮本武蔵・・・まさか、未だ旅の途中であるとは・・・」

 

その言葉には、とある想いが込められていた・・・




(あれが、リッカさんの至った極み・・・ふふ。燃えてくるってもんです!必ず至る。あの場所に!)

「武蔵ちゃーん!席空いてるよ!一緒に食べよー!」

「はいはーい!」

(・・・でも今は、一緒にいられる時間を尊みましょう!殺し合うのはなし!一緒に過ごすに勝る道楽なし!)

茶屋

「「はぁ・・・」」

『お茶』

『旅の一息も醍醐味よな。どうだロマン、貴様も同じであろう?』

『あぁ。パーキングエリアの食事は何故か美味しく感じてね。どうだい?お団子は美味しいかい?』

「そんなに!」

「程ほど!」

『あ、そうなんだ・・・』

「ふふふ、ねぇリッカさん」

「ん?」

「これからも、よろしくね!」

(そのまま、極みに胡座をかかぬ性根の清いあなたのままで・・・)

「もちろん!」

(末永く、共に在りたいと。私は願ってしまうのでした!)

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