人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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うふふ、無事に治していただけましたね。善哉善哉

ですが、これよりが本懐。有象無象の矮小雑多にて歪められしかつての私、如何に調伏なさいますか?

あなた様の至尊の理、私も目の当たりにしとうございます。うふふ・・・いわば禅問答ならぬ、人類観問答

あなた様の在り方がまやかし、詐欺の類いでなきこと、私に見せていただければ幸いです

さぁ--ご堪能、なさいませ?私、大変楽しみにございます・・・うふふ・・・ふふふふ・・・


愛欲如何(けものそもさん)至尊説派(しそんせっぱ)--人類観禅問答

如何なる者の導きか、山奥にありし宗教『真言立川詠天流』の総本山に脚を踏み入れたカルデアのトップたる英雄王、フォウ、そしてエア。彼らは其処で、とある人物と出会う。そして、その身を蝕んでいた病巣と共に、その運命を変えることとなった

 

その者の名前は『殺生院祈荒』首領の娘にて、その身の病弱にて床に臥せりきりであった小さな娘。14歳程の、まさに可憐な少女といった頃合いだ

 

彼女は山奥に在りし場所にて、隔離、隔絶された生を送っていた。そして同時に外界なら容易く治る筈の病を拗らせ、死に瀕していたのだ

 

本来ならば、其処で彼女は悟りに至る。自らを救わず、ただ囀ずり、嘆く煩わしい者達を人として見られぬようになり、大いなる結論に至る

 

『この世に人は一人のみ、この世に正しきものは我一人』

 

そのような悟りを得て、自らの絶対性と普遍性を疑わず全てを食い物にする『魔性菩薩』と化すだろう。人畜災害、人を食い物にする、大いなる獣と変化しただろう

 

・・・だが、その芽を。如何なる導きにて迷い出た外界の存在が変えた。其処に、紛れもなく『美しい』ものを見た

 

あの天幕、あの遮られた影絵の向こうより現れ、自らを鮮やかに救ってのけた『お医者様』。自らを案じ、諦めていた筈の尊きものを、其処に垣間見せてくれたのだ

 

・・・仏とは、あれ程に美しいものだったのか。子供心に、彼女はそう感じた。夕陽を後光と纏い、静かに煌めく金の髪。暖かに揺らめく真紅の瞳。黄金比を体現する至高の肉体に・・・静かに微笑む菩薩がごとき優しき表情

 

行かないで欲しい。待ってほしい。まだ、まだ帰らないでほしい。此処に巡り会えた縁を、まだ手放したくはない

 

仏にすがるように彼女は願った。自らの名前を告げ、紛れもない、かつて見た清き人間であり、仏がごとき『医者』に、願いを告げる

 

「私は、殺生院祈荒。・・・どうか、もう少し・・・御側にいてはくださいませぬか・・・」

 

夕日の輝きに眼を細めながら告げる、か細い少女の言葉。ただ傍にいてほしいと願うそのあまりにも細やかな願いを、彼女は・・・静かに聞き届けた

 

・・・少女にとっては、それは不明瞭なままだ。彼女は人間なのか。それとも、自らを救いたもうた『釈尊』が、女性の姿を取り。自らの想いを糺しに来たのだろうか。それともこれは、末期の夢なのだろうか

 

今はまだ、何も分かりはしなくとも。ただ一つ、分かることは確かにある

 

「──我が身は、貴女という人に・・・確かに救われました・・・」

 

この身を蝕んでいた自らの病が失せ。確かにこの身は、この薄暗い天蓋から出ることが叶ったという事実である--

 

 

あばずれは(それ) おことわりなし(から) けものかな(どした)

 

 

病に臥せっていた少女から病を払い、健康体に導いたエア。本来ならば其処で帰還を果たす筈であったが・・・彼女に気に入られ、もう暫く行動を共にすることとなった。主治医と患者としての体面は果たされているので、別段どうということも無いのだが

 

「救った手前、放るのも不誠実です。せめて少しの間、話し相手になるくらいは許されるでしょう・・・きっと」

 

エアとしても、自らの行った行動には責任を取るべきだと決議する。ならば今暫く此処に在り、彼女を見守るとしようと決断する。王も獣も、その決断に異論は挟まなかった

 

《良かろう。思うままに動け。但し、この宗教の教えに触れることは禁ずる。信仰心など歪みきった人物像しか産み出さぬのだからな》

 

(大きな場面は乗り越えたけど油断はできない。此処にいる限り、アイツはいつ羽化してもおかしくない)

 

二人の所感を不思議に思いながらも、自分は他者には見えぬ主治医としてキアラちゃんの・・・セラピストとして此処に滞在することとなったのであった

 

正直不思議な話である。王やフォウに導かれていたばかりのワタシが、こうやって誰かを助ける立場になるなんて。運命とは、巡り合わせとは不思議なものだ

 

・・・キアラちゃんは、これからどのように歩んでいくのだろうか。少しの間、見させてもらおうと頷くエアであった。そして、その望みは正しく果たされていくのである

 

今まで動けなかったキアラちゃんはその反動ゆえか、様々なことに精力的に活動を行っていった。本堂の清掃、精進料理。そして自らの鍛練、修行に・・・

 

「私、お医者様のお話が聞きたいです。この場所に来る前のお医者様と、外のお話を」

 

貪欲に、ひたすら真摯に自らに取り込むことを覚えたキアラちゃんは、眼を輝かせながら下界の知識を求めた。そしてそれを受け、エアも語る。自らが体験してきた一幕、エアとして生きてきた人生を

 

「まぁ・・・人を救う旅をしてこられたのですね。なんと、それはまさに菩薩の所業・・・仏の救いを身に宿せし者の旅路・・・」

 

眼を輝かせ、話に聞き入るキアラ。この狭き山の中では体験しようもない輝きの旅路の数々に想いを馳せ、エアの話に聞き入っている。その様は、正しく年相応の少女であった

 

「ありがとうございます、お医者様。実は私も、物語と言うものは大好きなのです」

 

聞くばかりではなく、自らも何かを語ろうとベッドの下より本を出す。其処に在ったのは・・・童話であった。グリムとか、その・・・

 

「私、アンデルセン様が書き上げた物語が大変に好ましく。上っ面の幸福な結末では終わらせない無慈悲なまでの人生観が本当に、寝たきりの私を思い起こさせるようで・・・」

 

その少女らしからぬ好ましさに冷や汗を書きながら共感を示す。彼女もまた、報われぬ登場人物であったのだという諦念を思い、胸を痛めながら

 

「では、ワタシが読み聞かせて差し上げましょうか?誰かの口から聴かされる、というのも新しい体験な筈ですよ」

 

「まぁ!ありがとうございます!ちょうど、御迷惑でなければ御願いさせていただこうかと思っていた所なのです!」

 

エアの提案に眼を輝かせ、読んでもらいたい物語を探し始めるキアラちゃん。その様子を微笑ましく見守るエアの隣で・・・

 

《ふははははははははは!!何という縁だ!これは我も読めなかったわ!童話作家め、図らずとも最高のマスターを引き当てていたのではないか!傑作だ!事実は小説より奇なりとはまさにこの事よな!いかん、笑い死ぬ!控えよ!控えよ殺生院!ふははははははははは!!》

 

(コイツに見せてやりたいよマジ!アバズレに変化した自分自身ってヤツをさぁ!)

 

《記録したな獣!レコード的なアレに記録したな!》

 

(バッチリだ!ショタジジィに聞かせてやるぞぅ!)

 

腹を抱え転げ回る英雄王とフォウを、何となく楽しそうだなぁとにっこり笑って受け流す英雄姫であった。特にフォウは何処と無く辛辣である

 

「えぇ、ではこの『マッチ売りの少女』を・・・お医者様?」

 

不思議そうに眺めるキアラちゃんの言葉に我に返り、物語を受けとる。危ない危ない、フォウと英雄王は今ワタシにしか見えていないんだった・・・

 

「ふふっ、お医者様は私達には見えない者が見えておられるのですね」

 

「私達?」

 

その言い回しに引っ掛かり、聞き直す。キアラちゃんは笑ってこう答える

 

「私達、悩みに惑う衆生には見えぬ仏を。貴女は確かにその目に垣間見ているのでしょう?本当に、頭が下がるばかりでございます・・・」

 

──・・・確かに、救いと言えば救いなのだが・・・

 

《ふははははははははは!!!これはまずい、何としてでも帰り、アンデルセンめに伝えてやらねばなるまい!エア、しくじるなよ!なんとしても帰還するぞ!》

 

(キアラちゃん・・・!キアラちゃん!ブッフーwwww)

 

・・・少なくとも此処にいるのは、転げ回って愉悦ローラーとなっている一人と一匹だけですよ?

 

そんなこんなで、キアラと童話を読んだり聞かせたり。穏やかな一時を送る、エアであった。・・・余談ではあるが。こうしてカルデア以外の人間と深く語り合ったのは、キアラちゃんが初めてである

 

そういう意味では・・・キアラちゃんも、エアの唯一無二と言えるのかもしれない

 

──その後も、エアはキアラちゃんと行動を共にした。こっそり抜け出し、山の景色を見に行ったり、共に絵を描いたり、精進料理を勉強し共に作ったり

 

そんな中、キアラちゃんは自分に『おはぎ』の作り方を教えてくれた。これが自らの、一番得意なものだという

 

「山を下りる際に、忘れないでください。私にも特技の一つはあるのですよ?」

 

そう言ってつくってもらったおはぎは・・・本当に、神の手にて握られたような輝きと旨味を誇っていて

 

「──美味しい!」

 

思わず漏らしてしまった感想を受け、キアラちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。ようやく、俗らしいお顔が見られました、と

 

・・・どうやら、一杯ならぬ、一おはぎ食わされたようだ。キアラちゃん、恐ろしい子!

 

──そうして、共に過ごす時間が一週間程になった頃、夕陽が厳かに辺りを照し、血のような夕焼けが空を満たす頃。エアはぼんやりと縁側に座り、読経の修行に励むキアラちゃんを待っていたのだが・・・

 

「お疲れ様です、お医者様」

 

予想外の声と共に、むぐむぐとおはぎを頬張りながら現れしは件のキアラちゃんだ。本堂からは御経が響き渡っていると言うのに、なぜ此処に?

 

「時間の無駄でしたので。あのような写経、読経など猿の戯れ言でございましょう」

 

あっさりと告げるのであった。その理由を訪ねてみる。救いを見出だせぬ道理はあるの?と

 

「小娘一人救えぬものの何処に、大悟に至る道筋がありましょうや。この山の救いとは即ち自慰にて欺瞞。自らを慰めるのみの触りのみなのです」

 

それがキアラちゃんの、この教えの答えであった。人一人救えぬものに、世界は救えぬ。まやかしそのものであるものに下げる頭は無いという

 

《この頃より破戒僧としての資質は在ったようだな。なるほど、あれはあれで、素養を鍛える土壌で在ったというわけか》

 

(罰当たりなのは生まれつきな訳ね。アマテラスにも喧嘩売ったしなぁコイツ)

 

「大物になるね、キアラちゃんは」

 

二人の所感に苦笑しつつも、キアラちゃんの決断は咎めない。自己と自律を、頭ごなしに否定する必要はないと感じたからだ。それが、尊重と言うものだからだ。それはそれとして後で反省文は書かせるつもりだけれど

 

「父上も、信者も。本堂の救いと救済から目を背け信じたいものを信じるばかり。何度告げても、お前を救ったのは敬虔なる立川流の教えとの異口同音。私、疲れ果ててしまいました」

 

ぐったりと横になるキアラちゃん。夕焼けに染まる空を見上げ、彼女は溢す

 

「・・・お医者様。何故、人は人を救わないのでしょう。何故、人は自らの信じたいものばかりを信じるのでしょう」

 

もっとも信頼できる彼女に、キアラは告げた。自らの根底に根差す諦念を、絶望を。積み重なった人生観を

 

「あの天幕より来たりしは貴女のみ。何故、私という人を救うことを、誰も選んでくれなかったのでしょう・・・」

 

あの場にて、ただ一人でも。ただ一人でも自らの手をとってくれれば、それで良かったのに。それを成したのは悟りを掲げる教えではなく、渡来したお医者様のみだ

 

「お医者様は、分かりますか?何故、人が人を救わぬのか・・・その答えを、お持ちですか?」

 

・・・王とフォウの雰囲気が変わったことを肌で感じとる。どうやら、こここそが。この場に招かれた用命であり使命であると。自らも直感で感じとる

 

・・・自らが悟りに至ったとは思えず、また自分も完璧ではない。だからこそ、自分がキアラちゃんの納得できる答えを用意できるとは限らない

 

ならば、自分の伝えられることは・・・

 

「──それはね。人も、人の紡ぐ歴史もまだ幼く、人は皆未熟な存在だからだよ。ワタシも含めてね」

 

この、王の裁定に至らぬ世界という事実をもとに、自らの人生観と共に説くより他ないと直感した。それが、今できる最善と信じ言葉を紡ぐ

 

「未熟・・・?愚かではなく、ですか?」

 

キアラちゃんの言葉に、頷く。そして夕焼けを見ながら言葉を紡ぐ

 

「人の歴史は、まだ始まったばかり。そして人も、ようやく歩き出したばかりなの。神との訣別を終え、人は今尚進んでいる。未だ、人という存在は幼くて、自分のことで精一杯。だからこそ人は、自分以外の誰かを救えないし、自分以外の誰かに気を向けられないことが殆どなの。未だ、成熟に至っていないのだから」

 

そう。王が人類を裁定し、価値を決める研鑽の最中なのだ。それ故に、未だ人は人を救わない。人は自らを第一に考え、自らの思うままに生きる生き物だからだ

 

「人は、未だ未熟・・・ならばそれは・・・人という存在は、救いなく、迷い、打ち捨てられるだけなのですか?救いは与えられず、滅び去るだけなのでしょうか?」

 

キアラの言葉の絶望を静かに受け止め、エアは首を振る

 

「──『人は、救いに辿り着く』。この世界に生きる総てのものは、自らの手と脚で進み、いつか救いに、答えに辿り着くものなのだと。ワタシは信じています」

 

エアの暖かい言葉に、キアラは目を見開き絶句する。そのまま空を見上げ、エアは続ける

 

「今は未熟で、幼年期の只中にいる人間も。いつか成熟し、大いに成長し、輝かしい人類史という紋様を紡ぎ上げる。誰に導かれるでもなく、誰に救われるでもなく。人は必ず、自らの力で答えに辿り着く事が出来るのです」

 

そう。人は裁定の時まで幼年。まだ歩き出し、進みだし、あらゆるものを紡ぎあげたばかりなのだ。それを見て絶望し、諦め、見限ることこそ早計にして愚かであるとワタシは思う

 

「人は必ず成長し、歴史の果てに辿り着く。この星を飛び出し、いつかは宇宙の果てにまで進んでいく。その時の人間はきっと、星にて培い、成長した心身と技術にて。宇宙のあらゆる全てを救うでしょう」

 

人は救いに辿り着くとは、そういう事だ。いつか、価値あるものを持って宇宙に飛び出し、まだ見ぬ星々にて・・・紡ぎあげた人間の可能性を、正しく成長した心にて振るうだろう

 

それが・・・王の裁定にて価値を下された人間が至る姿だと。ワタシはそう信じている

 

・・・王が愛し、見守る『人類』という種が。必ずや王を楽しませ、喜ばせ、満足に至る答えと価値を示してくれると。ワタシは信じている

 

だからこそ・・・ワタシは、世界と、其処に紡がれし人々の全てを愛している

 

歴史を紡ぎ、明日を紡ぎ、未来を紡ぐ。そのように輝かしく生き続ける人間というものを・・・ワタシは心から尊敬し、尊重し、愛しているのだ

 

だから・・・ワタシは。この世界の総てが尊いのだと。この世界に在るもの総てが尊いのだと。心から信じている

 

──信じることが、出来るのだ

 

「・・・ですが、ですがお医者様・・・人は、人は優劣をつけ、互いを食らい、貶めるものではないですか?そのような方が、悪徳を積み上げるものが、本当に悟りに至ることができると。本当にお考えなのですか?」

 

人とはそのようなものだ。このような山奥にあっても人はそのようなものだ

 

布施の横流し、邪淫、横領。迫害、弾圧。見て見ぬふり、絶望。その苦悶と苦悩を見てきたキアラは告げる。人はけだものであり、救いには至れぬのだと

 

キアラの言葉に、獣の在り方に。エアは静かに頷く

 

「悪も、醜さも。人類が紡ぐ紋様であり、忌避するものではないとワタシは思います。悪徳を積み上げるものが善をも織り成す。だからこそ、人間の心というものは尊いのではないですか?」

 

「──、──・・・ッ」

 

エアの暖かな肯定に、キアラは静かに目を見開く

 

「悪を織り成す者も、愛を掲げるものも等しく唯一無二。その価値は尊いのです。生きている命、生命は全て尊き価値を持っているのです。悪を為すものは人類の悪性の紋様を紡ぎ、人類の愛を掲げるものは同じく人類の良性の紋様を紡ぐ。其処に優劣はなく、等しく尊いもの。だからこそ──」

 

夕陽が、エアを照らす。その答えをキアラに告げる彼女を、厳かに照らす

 

「『この世に在るもの、全ては尊い』。何かを成さずとも、何かを成し遂げたとしても。一人一人が違うからこそ、全ての生命は一人一人違う人類の歴史を紡ぎあげる。故に代えなど何処にもなく。全ては等しく価値があるのだとワタシは信じています」

 

善も悪も、正も邪も。それらは全て人類の価値であり宝だ。だからこそ、生命は在るだけで、生きているだけで、死ぬことにすら意味がある

 

「一人一人が、人類の価値を示す者。故に・・・『この世の全ては尊い』のだと、ワタシは思うよ、キアラちゃん」

 

それが、エアの辿り着いた真理にして悟り

 

この世の全ては価値があり、等しく尊い。それこそが──『至尊』の理。魂が至った答えであると。エアは確かに告げたのだ

 

「だから・・・焦らなくてもいいんだよ、キアラちゃん。人はいつか、必ず救われる。ううん、『必ず自分の手で自分を救えるようになる』。──だから、それまで。人を信じてあげよう?」

 

今はまだ、未熟な幼年期の只中なのだから。見守り、愉悦するくらいが丁度いいのだと。キアラに静かに諭すエアであった

 

「・・・人はいつか、必ず悟りに至ることができる。人は、まず自らを救えるようになる・・・」

 

エアの言葉を、静かに受け止める。キアラは自らの人生観と諦念が、暖かに昇華されていくような感覚を感じた

 

このような暖かく、尊い答えを、人類が導くことが出来るなら。いつか人が、みなこのような答えに至ることが出来るなら。その為に、自分が出来ることは・・・

 

「・・・ならば、お医者様。私は・・・『菩薩』になりとうございます」

 

キアラの目に、最早曇りと澱みはなかった。真っ直ぐに、ただ美しくエアを見つめていた

 

「未だ迷える子なりし人々を見守り、時に救う者を目指し、人がいつか救いに至るまで・・・私なりに、人類の全てを支えたいと。人類の一人一人を、自分なりに救いたいと思います。お医者様のいう・・・『人類史の紋様を書き上げる』その日まで。私は人ともに歩みたく思います」

 

菩薩。太陽系すら管理する人を救うもの。それになりたいと、そう在りたいとキアラは告げたのだ

 

「迷い、悩み、苦悶する方達の抱えるものを、少しでも軽くして差し上げるような生き方をしたいと、私は思います。・・・笑われますか?昨日今日出会った方に影響されて、このような大逸れた事を口にする幼児と」

 

その答えに、エアは首を振る

 

「それは、あなたにしか出来ない尊い生き方だとワタシは思います。どうかその想いを、忘れないで。そう想い至った自らの心を、どうか忘れないで」

 

その想いは、誓いは、きっと綺麗なままで。その想いを忘れなければ、必ず貴女は貴女のままでいられると。エアはキアラにそう告げる

 

「あなただけの尊い答えを。どうか、見失わないで。それは、キアラちゃんだけの理だと。ワタシは信じています」

 

その返答に、キアラは満足げに頷く。自らの至った理に、自己を絶対的に定義したがゆえの行動だ

 

「はい。私は私の出来る限りで。人を癒し、救いましょう。いつか自らの手で、済度の日取りに至ることを信じ、私は迷える人を立ち上がらせて見せましょう」

 

その言葉と共に、キアラは立ち上がる。そして、手を差し出す

 

「いつか時の果てにて、思い出してくださいね?この夕陽の空に、菩薩になると誓った身の程知らずの女がいたと。貴女に──救われた者が、確かに此処にいたのだと」

 

そして・・・

 

「あなたがしてくれたように・・・誰かを救いたいと願った一人の女が。確かに此処にいたのだと」

 

「──勿論。忘れないよ、キアラちゃん」

 

・・・夕陽を受けて、輝く二人の女性。それを見て、王とフォウは確信する

 

《──燻りし火種、此処に鎮静と相成った、か。どうだ、新たなる門出・・・『人類愛』の女を祝ってはやらぬのか?》

 

(ふん。どーせどっかでクリボーみたいにオナ狂いになるのがオチだろ)

 

・・・第三の人類悪の芽の終焉、そして・・・

 

「あぁ──世界とは、美しきものでございますね──其処に生きるものも、全て・・・」

 

・・・新たなる聖人。そして、救世の資格を持ちし者の生誕を・・・

 

(・・・ふんだ。エアの一番はボクなんだからな)

 

《嫉妬か?エアはやらんぞ》

 

(誰がエアをモノにしたいと言った!勘違いするな!ボクはエアの傍にいられればいいんだ!)

 

《ふははははははははは!!獣らしからぬ慎ましさだ!やはり貴様は獣としては落第よな!そのような感情、貪るだけの獣が至るはずがあるまいよ!》

 

夕陽が暮れ行くなか、それぞれが答えを得るのであった──

 

 

 

 




--・・・・・・・・・


まぁ・・・なんと・・・--

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