フォウ様、私はあなた様に謝らなくてはなりません。たかが一人の娘に骨抜きにされただらしのない畜生とばかり、侮っておりました
・・・私も恥は知っております。エア様が成し遂げた奇跡、新たなる私の生誕とその魂の美しさ、認めざるを得ませんわ
あぁ、口惜しい・・・マスターがあのような汚泥にまみれた邪龍でなく、肉体と精神を守護せしものが英雄王とフォウ様でなかったならば。その魂をゆっくり味わいたかったと言うのに・・・
・・・まぁそれは敗者の責務として、諦めるといたしましょう。ならば・・・勝者には、褒美が無くてはいけませんね
うふふ・・・さて、何が良いでしょう?・・・あぁ。アレならばおそらく、エア様は使いこなしてくださるでしょう・・・
「私は、菩薩になりとうございます」
エアとの対話にて真理を垣間見、己の目指すべき場所を、生き方を定めたキアラは自らの父・・・教祖たるものに自らの所感を伝える。その生き方を、その人生を費やして目指すが位をはっきりと伝える
その為に、自らのする事を成すのだと告げるその視線と振る舞いからは、揺るがぬ絶対性、解脱を果たしたがごとき逸脱した人間性を示していた。父は笑い、その娘の言葉尻を返す
「ははは。菩薩になって何とする。如来を目指すのか?残念だが女性の身で悟りの道は開けぬ。お前の往く道に、光が指すことは無いのだぞ」
「えぇ、そうでしょう。貴方の教えでは、悟りに至れぬものを作りましょう。故に──私はこの山の獄より出でて、自らの理に従い生きようと思うのです」
「──何?」
えぇ、ですから。と。心に仏を宿した者は、合理と決意を以て言葉を為す
「衆生万物一切至尊。善悪慈観進如尊重。・・・この私の懐くものに懸け、あえて私は禁忌を犯しましょう。私が抱く場所への、ほんの一歩として」
彼女の生きざまを賛美する言葉を告げ、キアラは決意と自立の意思を以て。訣別の言葉を父に告げる
「真言立川詠天流。そのあまねく広まりし教えと説教に、一切における大悟の道理無し。・・・小娘一人救えぬこの教えに、如何なる仏も宿りはせず。形骸無形と化したこの信道に、私は否を突き付けましょう──」
・・・この言葉は、詠天流が告げる教え、悟りを否定する呪詛に他ならなかった。教祖の娘が事もあろうに、自らの教祖の教えを完全に否定したのだ
・・・この対話と問答の後、殺生院祈荒は破門、絶縁と相成る事となる
真言立川詠天流の三つの禁忌。「女でありながら女と一つになろうとする」「師の術具を奪う」そして・・・「悟りそのものを否定する」
最後の一つを破りし禁忌を犯した彼女を留める理由は何処にもない。父は娘の存在を追放することを決めたのだ。──何の援助も、手助けも与えるつもりもなく、下界へと落とすことを余儀無くされた
それこそがキアラの本望。自らを、人を腐らせた教えの穴蔵に留まる道理は無し。自らの胸の悟りに生き、自らの胸の悟りに死に、救いを夢見精進するのみ
生命の総てが悟りを見つけるまで、支え続ける道を生きるには。こうすることこそが最適だとキアラは決意したのだ
・・・肉親との永劫の別れ。欲徳と情愛を犠牲にし。他者の救済に奔走する人生を選ぶが為に。・・・自らの執着を断ち切る
それが、殺生院キアラの生きる救済への道の、小さな一歩でもあるのだ──
「お医者様。私、破門されて参りました」
開口一番そう告げたキアラを見てエアはそれはもう驚いた。そう言う割にはまったくへこたれていないどころか何処か清々しくすら見える。何があったと言うのか?
「未練を断ち切って参りましたわ。これで私は天涯孤独。自らのありのまま、求道を求めることが叶います」
そのあまりにもブッ飛んだ行動力に、流石の王とフォウも動揺を隠せなかった。自らの掲げるもののために肉親との情や執着すら容易く断ち切る。その精神の絶対性・・・これが救世主の器なのだと見せ付けられる
《行動力の化身であるのは嫌と言うほど思い知ってはいたが、これ程とはな。成人にも至らずこの決断、さぞや常軌を逸した者と世を騒がすだろうよ》
(なんだコイツ・・・(ドン引き))
二人とは対称的に、そんな決断を下した彼女をまた・・・エアは尊んだ
「──勇気ある決断だったね、キアラちゃん。其処に確かな信念があるなら、ワタシはあなたを肯定し、尊重する。・・・本当に、頑張ったね」
親にも退かず、情にも靡かず。己が信念に殉じるキアラを、エアは敬愛し、尊敬を送る。キアラはその言葉を聞き、手を合わせエアを拝む
「我が身に宿るは至尊の理。不軽菩薩がごとき生き方を目指し修行を積むためにも。私はこれから下界にて人と触れあおうと思います。その為にも・・・最後の慈悲を私にくださいませ」
そう言ってキアラはエアの手を取り、自らの部屋に招く
「明日、早速旅立とうと思います。ですので・・・共に荷造りをお手伝い願えますでしょうか?」
その顔は破門された悲しみも、肉親との絶縁かなよる憂いもなく。ただ微笑みがあった。遥かなる未来への歩み、人の幸福を見つめた微笑みである
「──うん!きっちり準備しよう!手伝うよ、任せて!収納とか得意技だから!」
その精神の変化。生き生きとした相に安心しながら。エアはキアラに手を引かれ最後の手伝いを行うのであった・・・
・・・夜遅くまで語り合い、荷物を詰め込み、これからどうするか、どう生きるかを語り合いながら、寺で過ごす最後の夜
「辛くなったら、また童話を読み返して頑張ろうと思います。私の経典でもありますので、この本は」
「・・・やっぱり、童話って素敵なものだよね。ワタシも、アンデルセンさんの童話は大好きだから。ファンレターも出したことあるんだよ?」
「まあっ・・・!」
《アレは痛快であったな、獣よ》
(ラブファンレターだ。全身打撲くらいには喜んでくれたろ)
──そして。日が登る寸前の早朝4時頃に、キアラは門前へと立ち、いよいよもって旅立つ
見送りは二人、そして一匹しかおらぬ孤独な門出。しかしキアラはそれで充分と穏やかに笑い、お医者様たるエアに感謝を告げる
「ありがとうございます。何から何まで。あなたがもたらしてくださったもの、あなた様への感謝、私はけして忘れません」
持つものは、軽い衣服と童話のみ。それのみでも良しと笑うキアラに、最後まで見送りを全うせんとするエア達
「自分も大切にね。困窮しても、挫折が見えても、けして自暴自棄や捨て鉢にはならないで、自分が誓った決意を思い返して、また立ち上がればいいんだから」
「はい。最後まで至らぬこの身を慮ってくださるその慈悲を、私も体現成し得るように精進いたします」
和光同塵。日が登り始める前に、救世主の力を宿せし少女は世に踏み出す。菩薩へと至る旅路を今、目指す為に。その為に、キアラは下界へと下りるのだ
「衆生万物一切至尊。善悪慈観進如尊重──」
「?その言葉は?」
そのキアラが口にした言葉を聞き返すエア。キアラはそんなエアに微笑みながら告げる
「私が考えた、あなた様から貰った真理を謳う御言葉です。ふふっ、お医者様に捧げる真言、といった所でしょうか?」
「──・・・」
(コイツ、エアを讃える言葉を産み出しただとぅ!?なんてやつだ!やるな!悔しいけど!)
《ふはは、いよいよ我が至宝も此処に至ったか!本尊として崇められる日が来ようとはな!》
茶化す二人に苦笑しながら、エアは頭を下げる。・・・自分の言葉が、あなたに届いたのなら、こんなに嬉しいことはない
「忘れないよ。貴女の言葉も、貴女と過ごした時間も」
「私もです。私にとっての救いにして仏。真なる救いを見せてくださった素晴らしきお医者様。──では、最後に」
コホン、と咳払いし、キアラはエアに向き直り。最後の問答を告げる
「
そもさん、とは仏教にての問答の投げ掛け。相手に問いを与える際の合図のようなものだ
少しだけ、作法をかじったエアもまた、礼に則り言葉を返す
「説破。──生命とは等しく在り、総てが尊いもの。人生とは死と断絶を越え、愛と希望を懐き・・・」
「・・・」
「──尊き
日が登る。二人の道筋を照らすかのように、答えを後押しするように。暖かく、優しく二人を包む
「・・・ありがとうございます。貴女の事を、私は一生忘れません」
「ワタシも、忘れないよ。元気でね・・・キアラちゃん」
二人は最後に、互いを静かに抱擁し、生命を確め合い・・・
「──では。また、この場ならぬ廻り合いにて・・・いつか・・・必ずや」
キアラは、胸を張り歩き出す。もう振り返ることなく、すがることなく、自らの故郷を、山を、最愛の恩人を。背にやり、自らの脚で進みながら。その目には、もう迷いはない
迷う人を、傷つき進めなくなった人々を癒し、励まし、前へ進ませるための助力を為す生き方をするために。『人間』が持つ仏性を信じ、キアラは揺るぎなく進む
未だ未熟な人々が、いつかあまねく宇宙の総てを救うと信じて。あのお医者様の境地に、衆生総てが至ることが叶うと信じて。自らの総てを以て人々を、満たされぬものたちを愛そうと誓いを立てて、キアラは下界に進む
その姿、まさに和光同塵。仏や菩薩が、救いを信ずる事の出来ぬ者達を救うために自らを隠し下界に赴くが如し・・・
──此処に、人類を愛する『守尊菩薩』としての道筋が。確かに紡がれるのであった--
「・・・これで、ワタシ達を招いた方の期待には応えられたでしょうか」
キアラの病を治したのは英雄王の財であり、自分はただ自分の人生観を語っただけなのだが。キアラちゃんの人生の指針になってくれたのなら、こんなに嬉しいことはない
左手の薬指に目を見やる。・・・暴力や敵対心でなく、他者を尊重し、敬愛し、必要ならば対立を選ぶ
そんな生き方が、誰かの救いになってくれたのなら・・・自分がこの世界に、転生した甲斐と意味があるというものだ
「──!」
ふと上を見る。空間に亀裂が走り、異なる時空へと繋がる穴が開く
「・・・あの中に入れば帰れるようですね。王、フォウ。大変お疲れ様でした!」
直感的に感じ取り、キアラの向かった方を見ながら。・・・エアはヴィマーナを展開し、天の鎖をアンカーとし上昇する
《中々の愉悦であった。小娘一人を調伏し、童話作家めの顔面蒼白のネタをも確保した。首尾は上々かつ戦果は思わぬ大収穫。うむ、端的に言って笑いが止まらぬなふはは!エアよ、我等が愉悦ローラー。堪能したか?》
──ううっ!!な、何故それを・・・!?
《何、相も変わらずな切れ味であったが故把握しておいた。無銘時代の辛辣さは失われてはおらぬようだな?ん?どうだエア、我と共に愉悦ローラーをするか?》
──あ、その、えっと。あの・・・!し、失言でした!申し訳ありません!王!
《ふはは!よい、赦す!たまには言葉の刃も研ぐことだ。口撃は愉悦部の嗜みであるのだからな》
──そ、そう言えば仰っていましたね・・・あまり歓迎したくはない技術ではありますが・・・、・・・?あの亀裂、変な形ですね?ピンク色で・・・食べ物のアワビみたいです
(・・・・・・・・・そう言うことか。あのさぁ・・・)
──?どうしたの?心当たりがあった?
《・・・未だ知らずともよい。腐肉に集る蛭めが。天の理に味を占めたと見えるな》
──?
(何でもない!帰ろう!きっと帰れるからね!大丈夫さ!さぁ、家に帰るまでがミッションさ!)
──よ、良く解らないけど・・・。うん!それと、ワタシの辛辣癖は他言無用でお願いいたします!
(えぇ~?どうしよっかなぁ~?)
──フォ~ウ~!意地悪しないでぇ~!
《ふはははははは!まぁ今は良い!一夜の夢としては上出来だ。凱歌を上げて帰還と行こうではないか!》
あわただしく、それでいて確かな絆と愉悦を胸に。二人と一匹を乗せたヴィマーナは・・・ピンクアワビへと突入していったのであったとさ
そして・・・──
「待たれよ、其処の少女。突然であるが、その目に悟りを見た。その体に宿せし真理・・・小生に教授願いたい」
「・・・あなたは?見たところ、私と同じ沙門(悟りを目指し修行するもの)とお見受けいたしますが・・・」
「小生か?小生は人の性に染まらぬ神を追い求めるもの、古今東西の宗教を大雑把に修めるもの。・・・モンジ、とでも名乗っておこう。小生を説き伏せる事が出来るか、若人!」
「若人・・・見たところ、あなたも私もそう御歳はそうかわら」
「そもさんッ!!!」
「問答無用・・・!?」
・・・全て世は、事も無し。人類愛たる菩薩の足取りは、果てしなくもいと険しきもの也──
『万色悠滞・マスタープログラム』
カウンセリング医療ソフトです。どうかエア様、自在に御使いくださいませ
天にも登る多幸感、幸福感も堪能できる優れもの・・・きっと、お気に召してくださるはずかと。うっふふふふ・・・
・・・しかし、何故、なのでしょう。フォウ様の言葉に興味が湧いたとは言え、我ながら不可解です
『あちらの私を獣に』と思ったならば、何故其処らの口先紛いの詐欺師をあてがわず、エア様を私は指名いたしたのでしょう
『出来る筈がない』と思ったならば、何故、ゲーティア様を説き伏せた実績を持つ彼女を私は選んだのでしょう?
そもそもの話・・・エア様の挫折を見たいならば何故・・・態々私はかつての私を選んだのでしょう?救い用のない醜い人間を、エア様にあてがえば済んだはずでしたのに
何故・・・私は、『こうなる前の平凡な私に、エア様を会わせたいと思った』のでしょう・・・?
・・・ええ、深い意味は無いのでしょう。偶然、偶然です
・・・ならば、あのとき・・・
~
『本当』に・・・?
~
・・・思わず口に出していたあの意味は、なんだったのでしょう・・・?
・・・詮なき事ですね。私の行動になど整合性など無用です
楽しければ、気持ちよければよいのですから・・・ふふっ、ふふっ・・・ふふふふ・・・
「長々とモノローグしてんなくたばれアバズレェ!!!!」
「あいたっ!!もっと!!!」
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