人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
『セラフィックス』
(この施設は父さんの虎の子の資産。本当ならカルデアの運用に当てるべきなんだけれど・・・もうギルのお陰で運用は万全なのよね。・・・いっそ解体して向こうの人員をこちらに呼ぼうかしら。だけど・・・)
「向こうの人達は特権階級と一般階級がごちゃ混ぜだし、あちらの人員をこちらに招いたら軋轢が起きるのは目に見えてる。だからといって見て見ぬふりも・・・うぅん・・・」
(トラパインやマーブルはともかく、アーノルドやホリイはトラブルしか招かなそうね・・・どうしたものかしら。洗脳は敵対者の認識にしか振るうつもりは無いし・・・)
「・・・ロマンに聞いてみようかしら」
~
「そうだなぁ。いっそのこと外部から精神改革のプロでも呼んでみたらいいんじゃないかな?」
「・・・セラピスト?」
「うん、セラピスト。ああいう閉鎖空間とかではやっぱり一番怖いのは人為的トラブルや精神の疲弊だし。歪んだ人格が形成されるのも無理ないと思う。そんな人らを癒すプロがいるんじゃないかなと僕は思う。ただでさえ鬱憤が溜まりやすい場所にいるときは、話を聞いてもらうだけで大分違うものさ」
「そうね・・・こちらに招く前に、相応しい人格を持ってもらうのも大事よね・・・死活問題でしょう。ギルが気に入るかどうかは」
「・・・確かに。個性と生きざまが凄いか、凄い人じゃなかったら楽園に入れないよね・・・」
「・・・まぁ、最悪時計塔に栄転させるという手もあるし、セラピストを入れてみるという手段を実施てみましょうか・・・セラフィックスが維持できるならそれでよし、無理なら解体して、有望な人員をこちらに引き抜き残りは所望した科目へ。ロマン、ギルと一緒にセラピストのあてを探しておいて」
「了解。でも、いるかなぁ?かなり凄腕じゃなきゃ怖いぞぅ・・・」
一夜にて夢見た、とある少女への邂逅。その何者かからの干渉から目を覚まし、カルデアの玉座から目を覚ます王と姫、そしてフォウ。目を開き、時間を確認する。一週間ほど滞在した故、大きな時間の齟齬が発生しているのなら時返りの宝具を選別せねばならないのだが・・・
《その心配はないようだぞ、エア。所詮は泡沫の有り得た出来事に迷い込んだが夢の酔夢。精神体感は致し方無いが、肉体と魂にそう隔たりは生まれておらぬようだ》
王の言葉は事実であった。時間を垣間見てみれば時は午前六時。いつもと変わらず、早朝の朝だ。日付も眠った日より一日しか経っていない。大丈夫、問題ない。王もフォウも傍にいる
──新鮮な体験でした。カルデア以外の方とじっくりお話しすることも、誰かに自分の事を話すことも
友達や、仲間達とは違う。完全なる赤の他人と触れ合う。自らの考えと相手の考えを伝え合い、語り合う。コミュニケーションの基本と成り立ちをしっかりと勉強させられた気分であった。自分達を飛ばした存在は、そういった事を望んだのかもしれない
・・・そして、ワタシ達と彼女を巡り会わせた存在は・・・あのキアラちゃんにこそ人との触れ合いをさせてあげたかったのではないだろうか。あの、辺りに誰かがいながら彼女に誰も手を差し伸べない・・・狂った世界にいた彼女を。誰かが助けてほしいと願ったのではないだろうか?
そう願いし者が本当にいるのかは解らない。それに、自分にそういった役割を期待したのかもどうかもだ。それはまさに、神のみぞ知る、という奴である
・・・けれど、夢だからといってなにもかも無くなったわけではない。あの触れ合いは確かに、自分の体験と実感として心に残っている
おはぎの作り方も、精進料理の作り方も・・・彼女が教えてくれたものだ。それを・・・無かったことに出来はしない。だからこそ・・・自分は改めて思う
──元気でね、キアラちゃん
菩薩になりたいと願った少女。太陽系すら軽く管理するその神格に人が至れるかどうか。それは解らない。人の身で神に至ること、それが何れ程凄まじいものとなるかは想像だにできない
だけど、どうか忘れないでほしい。救済の道筋で、あなたも・・・確かに救われるべきなのだと。誰かを救うものが、救われてはいけないなんて道理はない
どうか、自分の人生をも大切にしてほしい。だからこそ・・・この世界の何処かに生きているかも知れない彼女の無事と、健勝を改めて祈ろう
──その道筋に、確かなる輝きと未来があります様に
誰かに教えを説くより。こうやって誰かの幸福や未来を祈る方が『らしい』と。エアは手を合わせながら実感するのだった。・・・そしてその祈りが終わった頃。エアは王に告げる
──アンデルセンさんに会いに行きますか?王
その言葉を待っていたとばかりに膝を叩く英雄王。最高の土産を見せびらかしたくて堪らないかのように落ち着きなく玉座にてゴージャス揺すりをしていた彼が弾かれたように立ち上がる
《よし、有り難き礼拝は終わったな!よしよし、では早速あのひねくれた童話作家の心根を叩き折りに行こうではないか!懇意なりしマスターとの運命を突きつけてやれば、奴はまさに自らの良縁と幸運に感謝するであろうよ!そら行くぞ!獣、何をしているか!遅れるでないわ!》
王の言葉が耳に入っていないのか、フォウはピンク色のプログラムをいじり、自分のパソコンに厳重にロック、そして封印している。何をやってるんだろうか?
(・・・あのアマ、何てもの送ってきやがったんだ!これはボクが厳重に保管しておかなくちゃ。医療ソフトぉ?外道が何を言っているんだか・・・)
王はそのプログラムがなんなのかあっさり見抜いた様で、神妙な顔付きでアイコンを指差す。・・・頭に角が生えた女のアイコンのプログラムを
《その女の要らぬ餞別などゴミ箱に捨てておけ。麻薬に勝る快楽など我等には・・・いや、モノは使い様か。気が変わったぞ獣。後でそれを我に預けよ》
(何に使うんだよ。カウンセリング(意味深)だぞこれ)
《言葉通りの意味だ。魂を丸裸としつまびらかにする対面の極致・・・精神と心の機微を解き明かすには丁度よい》
(あーなるほど愉悦活動ね。解った、パスワード教えとく。エアには使わせちゃダメだからな!)
トントン拍子にて話を進ませ完遂する二人。・・・二人とも態度こそは辛辣だが。心胆という意味では非常に仲良しなのではないだろうか。気のせいでは無いように、なんとなく感じてしまう
《まぁそんな事は後にせよ!今は童話作家にこそ注目すべきだ!ヤツめ、どの様な醜態を晒すか見物だぞ!あれほど罵倒していた自らの愛人が元からのファンであったのだという事実を突き付けられた瞬間の動揺が目に浮かぶようではないか!》
目を輝かせながらエアの手を引き、フォウの首根っこを掴み部屋を出ていく我等が英雄王。まるで新しい玩具を手に入れた無垢なる子供のようだ。まぁこんな他者の醜態を喜ぶ子供がいたら流石に恐ろしくて敵わないが
・・・まぁ、人生を彩る娯楽が愉悦なのだ。いつも愉悦に付き合ってもらっている手前、ワタシが断るのは筋が通らない。またアンデルセンさんにお話を聞きに行こう!
そして・・・キアラちゃんの分も所感を告げにいこう!あなたの物語は、確かに人を救っていたのだと・・・!
──行きましょう!素直になれない童話作家様の下へ!
三人は意気揚々と玉座の間より出でて、アンデルセンへの最高の手土産を渡しに(返品不可)行くのであった
・・・この世界における例外、特殊処理。人類悪の萌芽は確かに打ち払われた
憐憫、回帰、未知、比較。そして・・・愛欲。計五体の獣がカルデアにて打ち払われる
これより先、人類は更なる厄災、苦難と絶望に見舞われるだろう。終末のⅦは、既に何処かに顕現している
・・・しかし、この世界にはあらゆる絶望を吹き飛ばす者達もまた、集っている
故に──絶望や悲劇、滅亡などは断じて有り得ず。あるのはただ、希望と愉悦の未来のみ
未だ未熟なる人類を守護し、王と姫は人の未来を夢見、愉しむ
いつか人が、大いなる成長を遂げ星を飛び出し未来に至る。そんな未来を・・・確かにその真紅の眼にて見据え。そしてそれが確かな形にへと結実することを信じて
──愛欲の獣、ビーストⅢラプチャーは。かつての過去により倒された──
「会いに来てやったぞ童話作家!此処を開けよ!王の来訪である!」
訪ねた
「断る!お前の弾んだ声など終末のラッパと同じだ!未来永劫俺は留守だ!永遠にな」
断られた
《エア!》
──はい!
選別した
「攪拌の時だ!!」
抉り撃った。扉は木っ端微塵に粉砕され、中に悠々と入り込む
「邪魔をするぞ童話作家!もてなすがよい!」
「鬼編集、いや鬼畜編集だなお前は!作家の人権と居住権すら踏みにじるとは!」
「ハッ、我の愉悦を阻むものには容赦はせぬ。それが薄扉一枚であろうともな!」
愕然とするアンデルセンに笑いながら腕を組み侵入を果たす英雄王。エアもまた、しっかりと告げる
──知らなかったのですか。英雄王からは逃げられない・・・!
王の愉悦に異を唱える理由はない。自覚ある居留守ならば尚更断固たる手段を取ると言うもの。あの手この手で作者に鞭打つ編集王の姿が其処に在った
(二人がやらなかったらボクがぶっ壊してたけどね!)
そんな嵐のような王に理屈や道理を告げることが愚かだと痛感したアンデルセンは観念しソファに座る
「・・・仕方ない、話だけは聞いてやる。どうした頭の湯だった御機嫌王。英雄姫にまた痛快な言葉の刃を刺されたか?」
──うっ・・・鋭い・・・
流石は人間観察のプロフェッショナル・・・人の機微にはとても詳しい。ま、まぁそれはともかくとしてですね
「それも追々語ってやるが今は別件だ。貴様のファンに会ってきたのでな、委細詳細を態々告げに童話作家の下に馳せ参じてやったという次第よ。有り難く思うがいい」
「あぁ最高に有り難迷惑だな!何処にでもいる趣味の悪い乙女脳の感想などを態々拾い上げてくるとは!暇をもて余しているのなら特異点の一つでも産み出せ!ネタをくれネタを!」
「ふはは、ならばそのようにしてやろう。ファンの名はな、殺生院キアラという」
その言葉を聞いたアンデルセンの反応は、忘れることはできないだろう。飲んでいたコーヒーを吹き出し盛大にスッ転び眼鏡が割れ身体を余さず打ち付け頭を強打しマグカップのコーヒーが服にかかりフォークが頭に刺さった
「ふははははははははははは!!!期待以上のリアクションよ!流石は作家!求められた要求は外さぬな!実によい驚嘆ぶりだ!無理もあるまい、我等も驚天動地であったのだからな!サーヴァントたる貴様には尚更信じ難かろうよ!くくっ、ははははははははは!!」
(ラブレターを越えたんじゃないかこれ!デガワの領域に彼は今達したぞ!)
──お薬だしておきますね~
存分に愉悦を堪能し酒を一気飲む英雄王。よろよろと立ち上がる満身創痍のアンデルセン
「・・・何か、大きなものが付いたり消えたりしているな。町の街灯か?いや、違うか。町の街灯はもっと切なく静かなものだ。いつか、いつか春が来る。いつか幸福が訪れると・・・」
何やら本格的に不味いものを見出し現実逃避と精神崩壊をセットで発症しはじめた老成少年の醜態を存分に堪能しながら、王はだめ押しに事実を突きつける
「あぁ、ついでに付け加えておくとだな童話作家。貴様の作品を心を拠り所にしていた殺生院はな・・・」
ごくり、と飲み干し。瞳の光彩と黒目を細め告げる。ちなみに蛇のこの瞳の変化は興奮している際の機微である。海王類は目が血走り充血する
「なんだ、これ以上俺の人格を破壊して何になる。もう止めておけ。その暴露は俺に効く、止めてくれ」
「──まことに可憐であったぞ?我が至宝、英雄姫の隣に立つことも赦す程度にはな」
その『想像と意識の外から襲い来る閃光のような』雷神カウンターめいた想像を絶する一撃に目玉が飛び出るほどに目を見開くアンデルセン
・・・それが、契機だった
「──・・・なん・・・・・・だと・・・・・・ぐっ!!」
驚愕のまま左胸を抑え始め悶え苦しむアンデルセン。現実を受け入れる事を拒否した霊基が自主的に意識の根絶、有り得ざる生理現象を引き起こした
それすなわち・・・ショックによる心臓発作である
「ぐっ・・・!初な事は知ってはいたがっ・・・まさか、菩薩になったヤツが那由多の彼方に伸ばしても届かないものを兼ね備えた時期が存在していたとは・・・!はは、ははははははははははは・・・・・・!」
──アンデルセン先生!?
激痛とショックに身を悶えながら、アンデルセンは心から愉快げに笑う。そう、本当に楽しいもの、楽しいことを知ったときにあげる偽りと雑じり気のない笑いだ。ヤケ、自暴自棄ともいう
「目は目を見ることは出来ず、指は指を指すことはできん。はは、いつか言った言葉が役に立つときは来るとはな・・・!はは、ははははははははははは・・・これは、いいネタだ・・・だが・・・」
ゆっくりと、胸から英雄姫から貰ったファンレターと生前持ち続けていたラブレターを握りしめ、膝を付き・・・
「これを題材に物語るには・・・些か、このカルデアでは狭すぎるな・・・」
ゆっくりと・・・心肺を停止させ倒れ伏す、三大童話作家の一角であったのだった
──アンデルセン先生ー!!!
(コイツも死に芸を持っていたか・・・なんと壮絶な死だ。あなたもまた死に友だった・・・)
力尽き、安らかに倒れ伏すアンデルセンを静かに見下ろし、英雄王は更なる愉悦の気配を感じとる
「──よし、良いことを思い付いたぞ」
英雄王はニヤリと意地悪い笑みを浮かべ、アンデルセンを見下ろす
「いつまでも独り身では寂しかろう。ムーンセル程ではないが・・・我も恋のアーチャーとなってやろうではないか」
──キューピッドの事ですか!?キューピッドは恋と愛の矢をガトリングのように射出はしないと思います!射殺天使はハリネズミと化したカップルしか産み出さないのでは!?いやそういう話ではなく!悶えるのは兎も角まさか心臓が止まるなんて・・・!アンデルセンさん!しっかり!キアラさんがあなたに会いたがっているんです──!
作者の突然死にエアはただ、アンデルセンに必死に呼び掛け続けた──
ちなみにこの後、婦長に身柄を投げ渡す英雄王の英断により、無呼吸100回近くの心臓マッサージにてアンデルセンは無事蘇生した
ガトー邸
「モンジ様、今日の五穀がゆは何時でございましょうか?私、あれを食べねば始まらぬのです」
「暫し待たれよ。しかしそなた、非の打ち所なき振る舞いをしたかと思えば急に俗となる動体の激しさはあの頃より変わらぬな」
「えぇ、衆生万物一切至尊、善悪慈観進如尊重。
欲徳や雑念もまた人は愛すべきもの。己の人生を彩る娯楽は、人を前に進ませる原動力ですもの。というわけで・・・お粥をいただきたいのです・・・」
「解った解った。暫し待たれよ。これしか作れぬがこれならば恥ずかしくはないからな。今日の予定はどうなっているのだ殺生院」
「悩める者へのセラピーが15件、老人ホームへの来訪が7件、各国の首相、官僚の御忍びの来訪における心理措置が数件・・・今日はあまり忙しくはありませんね」
「シャモンはとうに過ぎ、アラハンに踏み入るか。近しい歳で大したものだ。小生も負けてはおれんなぁ!はははは!」
「御謙遜をなさらないでくださいまし。積み重ねた徳では、あなたに勝るものなど世におりましょうや」
「小生は単に惑っているのみだ。完全なる神は未だ見えず・・・そなたの医者の形を取った釈尊のように、我が前には姿を見せてくださらぬが故」
「ガトー様・・・」
「何、人の生とは短いがまだ時間はある。この身が入滅に至るまで、我が神を追い求めるのみ!ガトー仕事しろとあの麗しき魔眼で言っておられる!せめて、せめて神託を!ショウ、ショウジキ・・・ぬぅっ、頭が・・・!!」
(・・・私を認め、面倒を見てくださったガトー様・・・あの御方にも救いは在るべきなのです。誰よりも敬虔な方・・・ですが、人が神を作り、罰を与えしものと定めた事実に至り、全ての教えには都合のいい解釈を含むと知られた彼の深淵を、他ならぬ何者が癒してくださいましょう・・・)
「・・・我欲無くて大悟目指さず、我欲在りて大悟には至らず。世は諸行無常、ままならぬは人のサガ・・・」
(あぁ、せめて・・・何処か楽園がごとき場所にて。彼の魂が癒される程度の僥幸を望むは罰当たりなのでしょうか・・・)
「殺生院、殺生院よ。我とお前に届け物が来ているぞ」
「?私に・・・?」
『海洋油田基地・天文台施設案内』
「何やら施設の紹介のようだ。これは良き修行の匂いがすると思わぬか?」
「・・・何故でしょう。その天文台・・・まさか・・・」
『カルデア』
「・・・!」
「どうした、殺生院?」
(・・・かつてお医者様が口にしていた施設と、同じ名前・・・!?)
「・・・そなたが動揺するなど珍しいな。何か良縁を感じたのかな?」
「いえ、まさか、そんな。おほ、おほほほあいたっ!?」
「転ぶとは!入滅間近か!殺生院!」
「五七五でからかわないでくださいまし!乙女ですもの転びもします!」
「乙女・・・?」
「歳上ではありません!ありませんのです!もう!」
(・・・いいえ、まさかそんな。カルデアにてお医者様がいるなどと。・・・いえ、もしかしたら・・・?)