人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ムーンセル

「・・・楽園の、クラッキングに挑めと無茶を仰有いますけどぉ・・・」


『Aaaaaaaa----』

「なんですかこの防衛システム!?ビーストクラスに無数生成防衛プログラム、権能剥奪門にサーヴァント!?全世界相手のサイバーバトル想定しているんですか!?」

「あなたみたいな録でもないウィルスやキャンサーじゃないかしら。徹底したことね。ムーンセルとはまた違った意味で厄介・・・私のウィルスとも違う。『吸収』でも『防衛』でもない『殲滅』と『抹殺』を主題としたシステム。ムーンセルが匙を投げてあなたに任せるのも納得ね。ムーンセルが一日で機能停止してしまうもの」

「メルト、解るの?・・・そ、そんなに強い防壁なのですか・・・?あわわ・・・マスターさんと会ってみたいですが・・・」

「ぐぬぬぬぬ・・・こんな徹底した仕事ぶり、さぞ所長は優秀なのですね!南極のマイナー基地な癖に何処からこんな完璧な防衛機構を用意したんですか!ラスボス系デビル後輩がそんなに怖いですか!引きこもりたいんですか!ばーか!ばーか!・・・うぅ・・・」

「・・・で、どうするの?とてもじゃないけど、私達三人で突破できるのは二層まで。其処でムーンセルを逆探知されて中枢以外は殲滅されるわよ?無限に湧く殲滅プログラムでね」

「怖いです・・・くしゃっと潰すのは、良くないですし・・・」

「むむ、むむむむむむ・・・この私に恥を欠かせるなんて!誰だか知りませんが、覚えておきなさ--い!!」



カルデア

《--はっ・・・くしゅ!》

--くしゅん!

[風邪か?十一月も半ば、冷え込んできているのだ。あまりはしゃぐな]

『風邪は辛いわよ。看病は任せて』

--ありがとう、二人とも・・王もお気をつけください

《うむ、不養生は誉められたものではない。・・・しかしエア、お前に何かあれば真っ先に飛び出してくる獣の姿が見えんが?》

--フォウなら、『集会』と言っていました

《・・・集会だと?》


動物園(けものふれんず)

人類悪──

 

 

それは人類が生み出した悪にして人類史の淀み。人の歴史が発展すればするほど集積され、形を成し、強さを増していき。最終的に人類史を滅ぼす癌細胞にして自殺機構のようなもの

 

あらゆる即死攻撃も、時間軸干渉も意味を成さず。ソレが現れたならば、全身全霊でこれを討ち果たし、退けなくてはならない。しかし、それは並大抵の事ではない。誰も彼もが神に匹敵する力を持ち、あるいは神そのものであり。破滅をもたらす大災害であるがゆえ。正規の手段においては打倒、破滅には困難を極める。誰もが持つ力と理を結集して、あるいは文明の全てを結集して。自らの手でこれを滅ぼさなくてはならないのだ

 

だからといって、彼等が憎しみや復讐心で人類を滅ぼすかと言えば明確に否である。憎しみや悪意は振るえば薄れていく。目的を果たす度に、少しずつ霧散していき『全てを滅ぼす』には至らない

 

では、何故人類悪は人類を滅ぼさざるを得ないのか。・・・その理と理由は、人の当たり前の感情に根差している

 

その人知には遠く、そして限り無く近い『獣』と呼ばれる者達の存在の根幹はなんなのか。何故、人類悪は人類に牙を向くのか?そもそも人類悪とは、何を思い今を生きているのだろうか

 

・・・今日は、その知られざる生体。ビーストと呼ばれし者達の思考形態を僅かに垣間見る事にしよう

 

これらはやがて・・・産み出せし人類に牙を向くものたち。或いは、羽化を待つものたち

 

そして、或いは・・・人類に『答え』を得たもの達の姿である──

 

 

そんざいが(それ) あってはいけない(から) けものかな(どした)

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ定例ビースト会議始めまーす。全員席についてくださーい」

 

漆黒の空間にして、天空に黒い太陽が浮かび上がる此処ならぬ何処たる場所にて、其処に似つかわしくない美しい獣が机に立ち声を上げる

 

「全員揃ってるね。よし、じゃあ改めて確認しておこう。ボクたち獣の根幹をね」

 

彼の名はビーストⅣ。既に討ち果たされた獣であり、単独の存在に数百回討伐された霊長の殺戮者(笑)ともっぱらの話題のキャスパリーグである。その力は今、正しく人類の特効薬となっているためリーダー格として皆を纏める立場に就任している。・・・精神的に一番まともであるという事でもある、という事でもあるが

 

「ではその前に・・・この場に還ることなく、正しく満足にて討ち果たされたビーストⅠ、グランドせんとくんへの哀悼と労いの意を示し、その理念を黙祷して聞きたいと思います」

 

ヒョイヒョイとビーストⅠの座に添えられたラジカセをオンにするフォウ。同時に一同が目を閉じる

 

『我が偉業!!我が誕生の真理を知れ!!』

 

同時に、天地を震わす大音量にてビーストⅠ、ゲーティアと呼ばれし者の声音が響き渡る

 

『この星は新生する!あらゆる生命は過去になる!!』

 

その言葉を静かに耳栓を付けながら聞く一同。ボリュームでか過ぎだろ・・・とフォウは苦々しくラジカセを見やる。撮ったのはビースト見習い、マナカだ。後でシメてやらねばなるまい。フォウは静かに決断する

 

『讃えるがいい!我が名はゲーティア!!人理焼却式、魔神王ゲーティアである!!』

 

ゲーティア・・・ソロモンの使い魔にして、『生命の終わり』を超越せんとしたもの。あらゆる生命に終わりがあるという結末を断じて認めなかったもの

 

彼等は・・・冠位と共に贈られた『理』にて答えを得、自らが人工的に生み出した者との対峙にて倒され、『自らに課せられた全ての課題』を解いた

 

故に、もう此処に来ることは無いだろう。遠き彼岸にて、人間達の奮闘と進歩。人類史の発展と成長を静かに見守っている筈だ

 

ビーストⅠ『憐憫』を持つものはたしかに・・・人類の生存本能にて討ち果たされたのである

 

「よし、追悼は終わった。あの鹿の事は忘れずに覚えておこう。それが彼等にとってもの『永遠』なわけだしね。よしじゃあ次は・・・」

 

「はい、私です。ビーストⅡ、ティアマト・・・私の理は変わりません」

 

静かに頷き、言葉を紡ぐは・・・メソポタミアの神、ティアマト。あらゆる生命の母だ。その巨大な角に、星の内海を写しとる瞳。それらは紛れもない神の証である

 

「子を愛すこと。これが、永劫変わらぬ私の夢であり、私の全てです」

 

それだけを告げ、静かに席に座り目を閉じる。例え裏切られようと、例え追放されようと、切り捨てられようと。微塵も変わらぬ無限の愛。それこそがティアマトなりし者の核心にして原動力であるのだ

 

「ね、フォウくん」

 

フォウと顔を見合わせ頷き合う。フォウと最も仲良しなビーストが彼女だ。互いに根っこは理性的で、今ある人類を滅ぼさないように自らを封じた、という観念において共通しているがゆえに。カルデアでの仲間として友として仲良しなのである

 

「あぁ、君はずっとそうだろうね。それでこそだよティアマト。だからボクは君が好ましい」

 

「まぁ。その理で言うのならば私も愛してはくださらないのですか?フォウ様。私、あなた様のお気持ち・・・ようやく解りましたのよ?」

 

誰かを愛すること・・・それは真理であり、素晴らしいことだと。今の自分は分かるからだ。その言葉に、穏やかに微笑むのは隣にいる蠱惑的な女性、魔羅(つの)を頂きし覚者の敵対者なりし、救世主の末路・・・

 

「私は人間を愛しております。全ての者、みな等しく我が身を捧げるに相応しき愛し子だと心より信じております。ビーストⅢR(ラプチャー)。我が理も一切変わることはありませんわ、フォウ様」

 

殺生院キアラ・・・遥か月にて、自らの快楽と絶頂の為に自らを神の座へと押し上げた快楽天にして獣。確かに彼女は全ての人類を愛している。確かに彼女は人類を救わんとしている

 

「ねぇ、ティアマト様?私とあなた、無限に続く快楽の土壌、永遠なりし天上楽土を作り上げたくはありませんか?素晴らしいと思いますわ」

 

「──遠慮、しておきます・・・」

 

そう、同じ愛を持つものではあるが・・・二人の愛は相容れない。目指すもの、求むもの、望むもの。致命的なまでに擦れ違っているからだ

 

「はいはい、離れろアバズレ。ボクとティアマトは人類愛ルートにもう行ったから。お前はこれからだろ、キアラ」

 

迫られイヤイヤするティアマトからキアラを引き剥がす。ティアマトは基本成すがままなのでフォウがブレーキ、仲裁役を成しているのだ。ほっと胸を撫で下ろし、感謝の視線を送るティアマト

 

「まぁ、いけずな事・・・ですがその通り。私の気紛れにて救われた私がどのように成るか・・・楽しみにさせていただきますわ」

 

「『気紛れ』ね・・・お前はちょくちょく、自分の大事なものを見落とすどんくささがあるよな」

 

フォウの言葉に、むっと顔をしかめさせるキアラ。それは少なからず思い当たる所があるからだ。そう。・・・それにて彼女は、かの座から転落したのだから

 

「女に恥をかかせる悪いお人・・・そんないけずなフォウ様なんて嫌いですっ」

 

「しゃあっ!!」

 

「そ、それほどまでに・・・?あぁ、ゼパなんとか様、私を励ましてくださいまし・・・」

 

「気持ちよければいい!♥気持ちよければいい!♥」

 

「ふふ、はい。ありがとうございます♥」

 

他なる世界にて拾い上げたバカな魔神柱の一匹を手込めにし使役するキアラに薄ら寒いものを感じ、ゼパなんとかに侮蔑の唾を吐きながら、フォウは話題を本題へと──

 

「はいはい!私も、私も人を愛しています!」

 

襷をかけ、鉢巻きを装着し、ブロマイドを握りしめメガホンを手にしながらビースト見習い・・・サジョウマナカが手をあげる

 

「はい本題いくよー。そこのコールタール女は無視しよー」

 

「先輩酷い!いいもん勝手に言うから!こほん!」

 

フォウのスルーをスルーするという荒業にて流し、自らの愛を高らかに叫ぶ全能ゾンビ少女マナカ。その愛の内容とは・・・

 

「私は!!王子様を愛し!王子様と添い遂げ!王子様の為に!私の全てを注ぎ込んで王子様の願いを叶えたいと願っています!その為になら、どんな苦難も障害も乗り越えて見せるわ!だってそれが乙女なのだもの!!」

 

ばかでかい声で喚き散らす彼女もまた、深く、大きい愛を持っている。誰にも侵されない愛、永遠に失わぬ尊いものを持っている。その為に、彼女はなんでもおこないなんでもするだろう。読んで字の如く

 

「取りあえずプロトタイプ映像化されろ、ワンクールでもいいから。それが出来なきゃオマエは一生ビースト見習いだ」

 

「そんな!?タイプムーンがなくなる方が早いんじゃないかしら!?」

 

「オマエは一生お蔵入りでいい。まったく、手緩いぞアーサー・・・もっと徹底的に処分するべきだった・・・」

 

フォウとマナカの関係は微妙な感じである。マナカはフォウの事を気に入って色々ちょっかいを出してくるのだが、フォウはマナカの事をウザがっている。聞いてもいないのろけをしてくるし、単純に臭い。定期的にファブってくれないと共にいるのも嫌だと割と思っている

 

そして何より・・・自らの愛を押し付けアーサーの意志をガン無視し、『尊重』の欠片も無いところが気にくわない。まだまだ自分も未熟だな、と思ったり、痛感させられるのもマナカが苦手な原因かもしれない

 

まぁ、そんな所感をおいておけば真面目に先輩をリスペクトするいい後輩である。プライベート付き合いをしたくない先輩後輩であると言えばまさしくその通りである。ガチウザ系後輩とワイルド(種族的な意味)先輩の凸凹コンビで辺りからは生暖かい目で見られている

 

『いつまでたっても攻略する気になれない系サブヒロイン』と言った感じのマナカである。・・・が、互いに大切な人の悪口は絶対に言わないからこそ関係が保たれているところも多分にあるのだが

 

・・・話を戻そう。口にした通り、彼女らは皆一様に人を、人類を愛している。それらは全ての人間が持つ、当たり前の感情だ

 

死を乗り越えたい。母として子を愛したい。人を愛したい。大切な人のために全てを捧げたい。それらは皆、素晴らしい感情だ

 

だが──彼女らが力を持ち顕現すれば、それらは全て今の人類に牙を剥く『悪』となる

 

今の人類を燃料にし極点に至る。生態系を塗り替え母に返り咲く、全ての人間を快楽の材料にし絶頂に至る。祖国を救うために、祖国が滅ぶという歴史を紡いだ全ての人類史を破壊する

 

人が生み出したが故に、人が産み落としたがゆえに全ての人類を否定する悪。それが人類愛の反転・・・『人類悪』なのである

 

・・・フォウは改めて告げる。態々こうして集会を開き、話を行うが故の命題を告げる

 

自分達が顕現した理由にして前兆・・・それらが辿り着くが故の意味

 

「じゃあ、改めて・・・君たちに聞こう」

 

我等獣が現れし意味。それがもたらす究極の決議

 

「──『終末のⅦ』。終焉の獣の手掛かりを掴んだヤツは此処にいるかい?」

 

・・・終焉の獣。ビーストが顕現した事により自動的に現れる、終末と破滅の獣。ビーストⅦ

 

それらは既に現れ、破滅へと誘う者だという。世界の何処かに顕現すると言われるその最悪の存在に、フォウは警鐘を鳴らし、前兆を掴みとる為に定期的に集会を開くのだ

 

「・・・本体から星を見ていますが、それらしきものは・・・すみません・・・」

 

「はて、ムーンセルにて検索をかけては見ましたが・・・手応えはありませんわ。残念です」

 

「根源に聞いてみたけど、『いる』ってだけしか言ってなーい」

 

「マナカには期待してないから安心してほしい」

 

「酷い!」

 

となると打つ手なし。先手も取れず、顕現を待たねばならないというのがもどかしいが・・・それでも、何かをしない言い訳にはならない

 

「引き続き検索や探索を頼むよ。そして見つけたら必ずボクに伝えてくれ。各種担当の世界からこっちに引きずり込む」

 

「・・・こちらで、倒すと?」

 

「あぁ。必ず・・・ボクと、ボクの仲間たちと一緒に倒して見せる。そのためのこの力だ。そのための人類愛の力だ」

 

例え、それがどんなものであろうとも。例え、それがどれ程恐ろしい災害であろうとも。必ず自分達が討ち果たし、打倒し、倒してみせる

 

人類が挑む試練だと言うのならば、それは・・・まず、ボクたちが手本をみせるべきだとボクは思う

 

そして、信じている。あの王様なら、あの皆なら。ボクの運命である、彼女なら。必ず・・・終末を乗り越えることができると

 

だからこそ、ボクはこうして・・・信じて。ただ備えるのみだ

 

「──今日の会議は此処までだね。お疲れ様、これからも引き続き、頑張って打倒されるように」

 

その言葉を合図に、緊張が解ける。皆、思い思いに言葉を告げる

 

「ていうかマナカお前いい加減にしろよお前。ボリューム考えろよお前。耳吹っ飛ぶと思ったじゃん」

 

「えー、これくらい魂込めないと解らないじゃん。私もいつもこれくらい叫ぶよ?」

 

「背中から刺された癖によくやるよ。まぁ頑張って愛に生きればいいさ。報われるかは知らないけど」

 

「マナカ様、もしよければ確実に心身をつかみとれる素敵な方法をお教えいたしますが・・・」

 

「本当!?」

 

「負けヒロインが余計なことするなよ。外国人ファンにフルボッコにされんぞ、何処ぞの青髪みたいに」

 

「やってみなければ分からない!私は既に勝っているの!」

 

「何にだよ・・・」

 

「とりあえず・・・帰りましょう。あまり離れすぎるのも、どうかと思いますから」

 

「そうだね。じゃあまたよろしく。何かあったら伝えてくれ。いいね」

 

「「「はーい」」」

 

・・・そうして彼等は、自らの世界へと戻っていく。あるいは新たな芽を産み出す

 

いつか、現れる終末へと。対処と打倒を成し遂げんとするために。・・・星の獣は、静かにその時を待つ

 

自らを討ち果たした善き人々が、必ずや終末を退ける、その瞬間と成長を信じて──

 

・・・人類悪とは、人類を愛す美しいもの。人類史の癌細胞であり、人類を助ける特効薬であるのだ──




番外編


「美容パックや美肌サロンは程々になさい。そして常にクリームを塗りなさい。紫外線は確かに肌を壊すわ。年を経た後必ずね」

「はい!カーミラさん!」

「エステの秘訣はまた次の機会に。元が瑞々しいのだもの。保つ技術は覚えて損はなくてよ?」

「はい!カーミラさん!ありがとうございました!」

「ふふ。・・・では、今日はここまで」

「良かったら私の血、吸う?」

「・・・遠慮しておくわ。生き生きしてるけど、高カロリーで胃もたれしそう」

「そんなー」

扉を開け、体を伸ばす

「さーて、明日はどんな女子力を伸ばそうか・・・ん?」

「フォウ!」

「あ、フォウ。どしたの?姫様といないの?」

「・・・」

「どしたのー?マシュも心配するよー?」

「・・・フォウ」

・・・--君もボクも、とても幸せだね。これからも、そうあることを一緒に祈ろうじゃないか

「・・・?」

「フォウ、フォーウ!」

「あ、行っちゃった・・・」

(・・・前々から思ってたけど・・・)

「フォーウ!!」

「・・・幸せそうだな、フォウ。ふふっ。よーし!私も幸せになるぞー!次はー・・・お裁縫かな?」


「あ、キャスパリーグ。どうしたんだい?じょうきげ」

「ドケフォーウ!!」

「あいたぁ--!?本当選り好みが激しいなオマエは--!?」

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