人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「胸焼け注意報だ!!ギーグ、ナードの皆!早くブラウザバックだ!早く逃げるんだぁ!!」

「また発作が始まりましたよ所長」

「本当、懲りないわねぇムニエル」

「怨霊は鎮まってもらうしかないわ。そっとしておきましょう」

「ムニエル!落ち着くんだムニエル!何があったんだい!?」

「離してくださいドクター!あんたが、あんたがいなかったら自分達は大変でした!あなたがいてくれたからぁ!!ドクターに祝いあれぇえぇえ!!」

「ムニエル--!?」

「管制室で暴れて、ものを壊さないようにね・・・」


『カルデアに いきたいです』


《ほう。この残留霊子からして電脳世界・・・月のタイプライター、ムーンセルからの要請か》

--名前が無いようなのですが・・・

『質の悪いイタズラ・・・にしては意地らしいと思って。一応報告したわ。どうするの金ぴか?招き入れる?』

《そうさな。このまま沈黙を貫き敵対させ迷宮や防衛の生け贄にしても構わぬのだが・・・》

--ものすごく文字が震えていますね。つまみながら書いたみたいです

(凄くプルプルした書体だ。なにこれ、ぷるぷる字体?ムーンセルはこんなヘタレみたいな字書くの?)

《・・・--よし。この意地らしさに免じ・・・次の召喚の際に迎えてやるとするか。突入ではなく、正式な書文という形式をとったのが気に入ったわ》

--新しい仲間ですか!やった!・・・しかし、迎えにいくとは?

《お前の単独顕現により、我等に赴けぬ場所はない。例えそれが、別次元にして別天体であろうともな》

--それは・・・

《熾天の座。月の海に興味はあるか?エアよ》

--!


未来への、大事な準備

英雄王が手掛けし至高の楽園、カルデア。それらはゴージャスによる徹底的な監修が行われ産み出された究極にして豪華絢爛なる南極の果ての楽園

 

此処には『総て』がある。施設の充実や、物的な満足は至極当然の結果として、物事はその程度の理論に収まらない

 

此処には『人類の可能性』の全てがあるのだ。人間が望み、思い描き、そうあってほしい、あれがあってほしいといった機器と施設が一日単位でアップデートされ続けている

 

もはやカルデアの施設は残さず人類が最先端の歴史にて辿り着くべき技術と神秘に包まれ生まれ変わり、其処は人類の可能性が詰まりに詰まった施設となっている。最古の宝物庫から産み出されし、最新の施設。『人類の総資産』となったこの世の最も豪華絢爛なる建造物にて楽園――それこそが、『人理保証リゾート機関カルデア』なのだ

 

其処に在りしもの、皆価値は等しく定められる。王の所有物にして、『財』。此処に至ることができた者は万象の王の名の下、この世の全てを堪能する事が叶うのだ

 

・・・しかし、そんな楽園だからこそ。生まれる煩悶や苦難などと言うものも僅かながら在る。それらは極めて贅沢かつ、死活問題にはなり得ぬものではあるのだが・・・

 

「はぁ~・・・・・・」

 

今回は、そんな悩みを懐く者へと焦点を当てて物語を紡ぐとしよう。今回の主軸となり、楽園にて活動を観測される者は・・・麗しき美女。この世で並ぶものなき聡明なるもの。全てを観測する、謎多き美女。アビシャグ的には無さげな美女

 

「お金儲けが、したいです・・・」

 

──ミドラーシュのキャスターこと、シバにゃんに主役のレンズを当てていくとしよう。これは富めるものならではが持つ、贅沢な悩みへと踏み込んだ日常の一幕である・・・──

 

 

 

「なんだいラボに急に顔を出して。いきなり欲求不満を私にぶつけるとは随分と困窮極まっているのかな?」

 

入ってくるなりぐで~と耳をしなだれさせ机に突っ伏しへにゃへにゃした様子で言葉を紡ぐはシバにゃんである。ダ・ヴィンチちゃんにその憤懣やる方ないといった様子を表し、ラボにて尻尾と耳をしなだれさせる

 

「うぅ、商売がしたいです~。市場を開き、商業を流通させて、左手うちわで情報弱者をこの手にコロコロしてブームを作りたいと言うか~・・・」

 

彼女はシバにゃん。シバの女王と呼ばれ、その聡明さと商売強さにて名を轟かせし商業の化身。その身体に流れているものは常に経済の流動だ。金銀財宝、コネクションに堅実なる大儲け。それら全てが在ってこそのシバにゃんである

 

だが、それらが今発揮されているとはいい難い。素晴らしく、良いことではあるのだが。これはまた、贅沢な悩みなのではある

 

「御機嫌王様のお陰で何一つ欠けていないという、不満が全くでないという人的配慮、環境配備、人権尊重に物的流通が完璧さは最早何も言うことはありません。口に出せば出すほど完璧すぎて悲しくなりますからね~・・・あぁ、でもでもぉ~」

 

「『完璧すぎて商業をする理由がない』かな?」

 

シバにゃんが感じる欲求不満と悩みを、オルガマリー専用の魔銃デリンジャーやコルトガバメントを仕上げながらさらりと指摘するダ・ヴィンチちゃん

 

「そうなのです!この楽園は素晴らしいものですし、私もいることに何の不満などありませんけれども!不満が無いのが不満というか・・・なんというか・・・」

 

「あー。アレだよね『もっと商売上手な所を皆にアピールしつつ個人的な懐を暖めたい』っていう邪なアレ。流石は女王、がめついなぁ」

 

はははと笑うダ・ヴィンチに、顔を赤くしながら反論の意を示すシバにゃん。耳と尻尾が荒ぶりパタパタ猛烈に揺れる

 

「い、いいじゃないですか~!ちょっとくらい見栄は張りたいのです~!なんというかその、私も皆様の役に立ちたいというか~」

 

指をいじいじしながら、視点を泳がせ天井を見上げる。その瞳には静かな決意を感じさせる澄んだ輝きが宿り、油断なく煌めいている

 

「・・・懐を、暖めたい理由がありますというかぁ・・・」

 

落ち着きのないシバにゃんを見て何かを察したのか、眼鏡をカチャリと音を立ててシバにゃんに告げるダ・ヴィンチちゃん。天才はたまにはフォローを担当するのである

 

「ほーう?ほうほう。ならば商売してみるといい。ギル君には私が伝えておくよん」

 

「ひわっ!?いいのでしょうか!?」

 

「あの王様がケチな事で禁止なんかしないしない。楽園に在るもの、皆思うままであれだ。ポケットマネー稼ぎくらい容易く容認してくれるさ。たぶんね!」

 

その言葉を聞いて、シバにゃんの目がシイタケめいて輝く。水を得た魚、儲け話にシバにゃんである。即座に起き上がりメモ帳を取り出す

 

「こちらにサインを!『私は確かにシバにゃんに商売をお勧めいたしました』と!」

 

「あー、其処はきっちりしているんだねぇ。はいはいかきかきと。そら、天才の直筆だ。責任は私が負うから行ってきたまえ!」

 

さらさらと書き上げられたサインを見てニンマリと笑い、尻尾をパタパタさせつつ跳び跳ねるシバにゃん。このサインはこのサインで抜群の値打ちを誇るでしょうと喜色満面である

 

「毎度あり~!よーし、私は私なりに色々やってみましょー!商売!商売!ひゃっほぅー!」

 

ダッシュにて走り去っていくシバにゃんを生暖かい目で見守り、オレンジと白のカスタムコルトガバメント『フリージア』『アニムスフィア』を仕上げつつダ・ヴィンチちゃんはシバにゃんの活動の真意をさらりと見抜く

 

「それは個別のマネーがいるよねぇ。君達はさ。ふふっ。さてさて、どうなることやら」

 

無反動、魔力供給による弾数無制限。ブラックバレルの子機魔術礼装としての改良を加えつつ・・・ダ・ヴィンチちゃんは引き続き作業に没頭するのであった

 

 

気分を弾ませ耳をヒコヒコ、尻尾をフリフリしながらシバにゃんはカルデアを進む

 

ようやく自分の本懐を果たすことが出来る。たぐいまれなる計税手腕にて、瞬く間にこの懐を暖め、素晴らしく個人的に裕福を目指していけるのだ。気持ちが弾まぬ筈があろうか

 

「さーて、まずは試しに三つほどやりたかった事をやりましょうかねー♥」

 

もう既に経営、儲けのプランは考えてあるのだ。前々から実行に移したくて出来なかったこと。それを今、活動として行うのである

 

「ではまずは、手始めにぃ~」

 

紙を印刷し、メモ帳を携え、早速彼女は向かうべき場所へと向かうのであった。その向かう場所とは・・・

 

「まずは『皆様』に片っ端から話を聞くといたしましょー♥」

 

──他の、英雄達の場所である。彼女は彼等、彼女らの『人生』に、目をつけたのだ

 

英雄達。歴史に、世界に語られる人類の至宝。本来なら遺物や伝承を基に真実を追求しなくてはならないもの、口伝にて薄れ行くものであり。真実は闇に消えていくものであるのだが・・・

 

(それが今こうして形をなし、本人様のお口から正しい歴史を訪ねられる!この機会、決して逃せぬお宝ですよ!)

 

彼等の発言や人生を正しく編纂し、そして伝え、纏めた書籍にし出版すれば莫大な利益と文学会に一大センセーショナルを産み出すことができるだろう。サーヴァントとして彼らを使役できるならば、自分は真っ先にそれを成し遂げるとの確信があった

 

その把握の為に彼女は奔走した。古代、神話の英雄達には特に念入りに話を聞き、徹底して取材した。諦めず、何度も何度も訪ねてインタビューし、取材を慣行した

 

そしてメモ帳を分厚く、分厚くして出来上がったのは神代英雄、古代英雄の真実を書き留めた、シバにゃん印の歴史考察書。当人から聞き及んだものを編纂した真なる書物である

 

「このメモ帳!この中に神話歴史の真実の一端や古代の細やかな交渉が全て・・・!うふっ、うふふふふふ・・・!!」

 

意気揚々と商売の成功を確信したシバにゃん。早速ダ・ヴィンチちゃんにて書籍化の相談を求めては見たのだが・・・

 

「んー。目の付け所はいいんだが、これを世間一般に公表して評価を得るのは難しいんじゃないかなぁ?」

 

ダ・ヴィンチちゃんからはユルいダメ出しを食らってしまう。ガビーンと尻尾と耳をおったたせて彼女は食い下がる

 

「ななな、何故ですかぁ!?正真正銘の真実にして真理!皆様から聞いたものですよぉ!?情報は完璧で、万全で・・・」

 

「完璧で、万全だからこそさ。君ともあろうものが足下の穴に気づかないとはブランクかな?何処ぞの名探偵ではないが・・・初歩的なことだぜ?」

 

コホン、とダ・ヴィンチちゃんは咳払いしびしりと指を突きつける

 

「『この情報の出所』。もっと言えば『この発言が正しいもの』と・・・誰が実証してくれるのかな?サーヴァントは仮初の顧客。その人から聞いたなんて怪しげなカルト教本となにも変わらないんと思うけどねー」

 

「──あっ!!」

 

ダ・ヴィンチちゃんの物言いと、当然の帰結に愕然とするシバにゃん。尻尾がしなだれ、耳がへにゃりとつぶれ力なく崩れ落ちる

 

確かにこの情報は正しいものだろう。素晴らしく、歴史を変えるものだろう。しかし、世界はそれの根拠と立証を求むるものだ

 

『サーヴァント』という世界に現れた奇跡のような存在の言葉を、世間一般に認知されておらぬものをどうやって世間一般に認知させるのか?寧ろ神秘をばらまき開示する的な案件により恐ろしい組織を呼び寄せられかねない。禁書や焚書という結論も極めて打倒な落とし処になってしまうだろう

 

要するに・・・仮初めから生まれた真実は、真実と立証できず歴史を考察する資料には認められない。それをするのならば、失われた歴史考証を探して旅立つ方がまだ現実的だろう

 

要するに・・・プラン、企画倒れである

 

「私の印税がぁ・・・」

 

「残念だったねぇ。大体こんなのあげたら悪目立ちにも程がある。確実にポケットマネーじゃ済まない騒ぎになるよ?王様も利権の管理に駆られるだろうし、お仕置きが怖いぞ~?」

 

王の怒りを買うならばそれはどんな手段であろうと下策だ。株主や地主、領主や国王を怒らせては商人などクビ(物理)だ

 

「うぅ・・・行けると思ったんですがねぇ・・・」

 

力なくしなだれ、計画の失敗を痛感するシバにゃん。のっけからつまづいてしまったが故に、ちょっと気持ちダメージ大きめである

 

「まぁ気を落とすことはないさ!大企業を起こすわけでもなし、軽い小遣い稼ぎなら君なら楽勝な筈だろう?挑戦は失敗してこそ次に生きる。歴史に名を残した君ならよーくわかる概念だと私は思うんだけどなー」

 

「うぅ・・・」

 

振り返り、シバにゃんは己の手段と目的の齟齬を理解する。自分が望んでいたものは細やかな収入。しかし経済活動の御墨付きに目がくらみ、いつものように遥か先を見詰めてしまったが故の失敗だ。印税、文学賞、歴史考察の賞状、世間における地位・・・それらを総て勘定にいれてしまったがゆえの。この失敗だ

 

「帳尻が合いませんでしたねぇ・・・これではカルデア冒険部隊の設立や、エミヤさんの贋作売買なども上手くいかないでしょう。冷静に考えたら、収入より負担の方が大きいですし~・・・」

 

シバにゃん的には、海賊サーヴァントを中心に冒険部隊を立ち上げ手付かずの財宝を片っ端から回収したり、エミヤの産み出す贋作を片っ端から売りに出すなども考えていたが・・・どれもよく考えたら小遣い稼ぎの割に合わないとようやく気付けたようだ

 

「いや、それはもう小遣い稼ぎというか一大オペレーションだから・・・ふう。まったくしょうがないなぁ」

 

計画が御破算し困窮に陥るシバにゃんに、わざとらしく声をあげるダ・ヴィンチちゃん。あからさまに大袈裟に、声を上げる

 

「あー、なんだか工房が汚いな~。つきっきりで清掃してくれる人に、お金を払ってあげてもいいくらいなんだけどなー」

 

その発言を耳にしたシバにゃんは即座に立ち上がり、ダ・ヴィンチちゃんに挙手し立候補する

 

「はいはーい!私にお任せくださーい!きっちり労働させていただきますぅ!あ、時給、労働基準に福利厚生、拘束時間に昇給制度!きっちりしっかり定めていきましょー!」

 

契約書をポンと出し、緻密にして厳密な雇用契約を迫り尻尾を振りまくるシバにゃんに、呆れと感嘆を表し首を振るダ・ヴィンチちゃん

 

「あっははははは、君はとことんそういうところに拘るなぁ!天才とはいえ、査定を甘くしたりはしないぜ?」

 

「望むところでーす♥私の能力、安く見られては困りますよ~♥」

 

 

・・・そんなこんなで、『大きく儲けるのなら毎日コツコツと』を再び思い返し。シバにゃんは地道な小遣い稼ぎから始めるのであった

 

そう、それらは全て未来の為に──




「~♪」

一日の日給を握り締めながら、シバにゃんは軽やかに自室へ向かう。英雄王に頼み込み、『個人的なマネーを確保する事』を、給与以外の機会を設けてもらったのだ。生活費ではない、貯金のためのお金稼ぎである

・・・お金でなんでもは買えないが、お金で大抵のことは賄える。安全、保険、生活の向上。人が生きていく上で金銭はなくてはならないものだ。持ちすぎてもよくはないが、何もないよりかはある方が強い。マネーイズパワーである

・・・そう。自分『達』には、お金が必要なのである

「ただいま戻りました~♥」

扉を開ける。自分達の空間に足を運ぶ。其処には静かに『旅行雑誌』を目にする、一人の男性がいる

「あ、お帰りシバ。今日もお疲れさま。コーヒー入れておいたから、飲んでゆっくり休みなよ」

『彼』はロマニ・アーキマン。かつての智恵の覇者にして、今は人間でありながら・・・偉大なる智恵の王でもある。正直なところ英雄王と互角だと確信しているくらいな御方だ

「ありがとうございます♥その雑誌は?」

「あぁ、これ?ギルに言われちゃってさ。『有給を適当に消化せぬか馬鹿者め。我が楽園を侮るな、男女一人が一ヶ月ほど抜けたところで不備など起こらぬわ』って押し付けられたんだよ。もう、乱暴なくせして休ませてくるなんて変だよねぇ?」

・・・どうやら、彼の事を考えてくださっているのは自分だけではなかったようだ。その事実に、顔が緩む

「カルデアの皆の旅行はギルが考えるっていうから、その・・・僕たちは・・・」

その先は、あえて自分が伝えることにした。殿方ばかりに胸中を告げさせるは、対等の関係ではないからだ

「はい♥『新婚旅行』の場所を決めましょー♥ロマン様の要望をお聞きいたしまーす♥」

「僕か、僕はそうだなぁ・・・」

・・・問題です。よりよい夫婦生活の為に、必要なもの。浅ましく仲を引き裂かれないように溜め込むもの、なーんだ?

解ったあなたは、幸せものです♥分からなかったあなたは・・・

いつか必ず、解る日が来ますよ♥ちなみに答えは--

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