人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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どこかの星系

「む、どうした白野。地球の方を見据えおって。郷愁の念に駆られたか?」

「今さらすぎる・・・単になんか、ちょっと目に入っただけ。地球見えないし」

「煮えきらぬな。そんな事より前に注目せよ。我等が進む前方にな」

『デブリ帯・ブラックホール宙域』

「気を抜けば死ぬぞ」

「今更過ぎる」

「であろうな。では跳ぶぞ!しっかり掴まっていろ!!」

「一欠片の安住が欲しい・・・」


カルデア

『どうだい愛弟子?私の作ったダブルガン。我ながら、宝具に匹敵する魔術礼装だと思うんだけどな。試してみたかい?』

「その、それが・・・」

「--想像理念(弟子の一助)、基本骨子『魔術師を撃退する銃型の魔弾射手』、構成材質(英雄王の財)製作技術(万能の天才の業)成長経験(弟子の無事)蓄積年月(未だ希薄)--・・・」

「その、是非ストックさせてもらいたいと貸しっぱなしで・・・」

「うぅんこの!作って欲しいと言えばいいじゃないか!?」

「投影しいつの間にか出すことにこそ意味がある!隠し暗器みたいでカッコいいだろう!オレ、使ってみたかったんだよなー!」

「男の人って・・・」


月の追憶

マイルームにて一夜を過ごし、そして向かえた一日目の夕焼け。三人は飛び起き服装を整え、学校探索へと向かう。この月の裏側は時間経過が無いが故、時を経ても朝や昼夜の概念はあらず。いつも夕焼け、静かな黄昏に満たされている。その部屋・・・垂れ幕や飾り、酒など。王の趣向を凝らした部屋より、再び二人と一匹は出立する

 

《安宿で悪態をつくのも旅の醍醐味。そう言ったのは我であったな。楽園とは比べるべくもないが・・・どうだ?良き体験となったか?》

 

玉座で器用に眠りについていた王が、その身体的負担をものともせず問い掛ける。フォウとエアはベッドで寝たのである。月のマスターのように床でも眠れる豪胆さは持ち合わせていないがゆえに。フォウもエアも、マイルーム初期を思い出させるその無機質さに思い思いの所感を漏らす

 

《この寝台すら使わず床へ臥薪嘗胆する鉄の心・・・英雄王が認めたマスターとはなんと心の強い方なのでしょう・・・!だからこそ、彼女は最強に至ったのですね・・・!》

 

(ま、ボクはエアが満足していて、傍にいてくれるなら何処だって構わないけどね。グレードや品質に拘りは無いよ。比較は良くない、これマメね)

 

《貴様の嘗ての悪はなんだったか?》

 

(比較だったけど今は違うからな!違いの解るってだけで比べるつもりは無いの!)

 

《ふはは、すっかり牙を作り替えられおって。そら、お前の姫は外へ出立するぞ?傍におらずとも良いのか?》

 

なぬ!?とフォウが目をやると、其処には既にワクワクで、外に繋がるマイルームの扉に手をやるエアの姿があった。真紅の瞳を煌めかせ、今か今かと出掛ける時を待っている

 

──さぁ行くよフォウ!夕暮れの校舎が、ワタシ達を待っているから!隅から隅まで探索しよう!王、申し訳ありませんがご足労をかける事を御許しください!

 

そう言いながらキラキラした眼差しで今か今かとハスハスするエアに苦笑しながら、王と獣は立ち上がる

 

《さて、姫のお転婆に付き合うとするか。用意はいいか、獣よ》

 

(当たり前だろ。店員ショックから立ち直ったボクに不可能は無いぞ!大分悶々して夢に出てきたけどな!)

 

《ふはは、ヤツは愉悦の種を本能的に見分ける天才よな。・・・まぁ、それ故に底を見せ、我の関心はいくらか薄れたがな》

 

悩み、煩悶し、自らに苦悩を課していたその本分こそよい肴だったと王は思い返す。自らの性分を自覚し、積極的に他者を堪能する事に邁進するようになったヤツの器は、王が見切れる者に収まったという

 

《此処ならぬ何れの話だがな。まぁ--今の我は退屈とは無縁なのだ、心配はいるまい》

 

世界の総てが愉悦である底無しの魂を見据えながら、王は喜悦に口許を綻ばせる。フォウも頷き、テシテシと王を叩く

 

(ほら、エアが待ってるぞ!早く早く!)

 

《解った解った。・・・持ち帰りは、衣服と調度品のいくつかにしておくか》

 

わくわくざぶーん、ライオンのぬいぐるみのみを手に取り、王はエアと共に・・・かつてのマスターがいたマイルームを静かに後にしたのだった──

 

どこだって(それ) ボクはしあわせ(から) けものかな(どした)

 

三人は気儘に、気の赴くままに学校を探索する。ギシギシと踏みしめられた木材の床の音もまた心地好い、素敵な自分達の足跡に感じられていとおしい

 

《狭いが故に用件はすぐに終わる。見処のある箇所を案内してやる故、存分に愉しむがいい》

 

──はい!

 

王の案内のもと、エア達は隅から隅、堪能できる場所を文字通り徹底的に探索した。まずは、この学校における心臓部、生徒会室に二人を招く

 

扉を開け入った先には、人が6人ほど座れる巨大な机に椅子が添えられ、会議に向いた様相の間取りの部屋だ。窓から射し込んでくる夕陽が、一帯を紅く染めている

 

《此処で、表より落ちたマスターどもは迷宮攻略の策を練っていたな。守銭奴、観測魔、そして王の素質を兼ね備えた小僧に齷齪尻を叩かれマスターは遁走していたわ》

 

懐かしげに目を細める英雄王。其処で彼は思い返す。絶望に沈むもの達を叩き起こす檄を飛ばすなどという、らしくもない真似をした自分を

 

敗北は必定だった。敗北を前提とした戦いを月の癌は仕掛けていた。だからこそ──まず敗北せねばならなかった

 

──現在とは絶えず回るもの。未来とは付け加えていく織物。そして我は永劫不滅の英雄王。──この我がいる限り、物事に終わりはない。滅びが必定ならば、その意味合いを変えるがよい──

 

《──フン。まさかよりにもよって、それを上回る、らしくない真似をし続けるとはな。我ながら、こうも神話に立ち返る機があるとは驚きを隠しきれん。──だが、悪くはないな》

 

そんな、月の一幕を思い返しながら、興味深げに探索を続けているエア達を見やる

 

──美味しいカレーの作り方・・・。・・・!抑えるべき点や、手順に詳しく赤線、黒線が引かれていてとても解りやすい・・・!何度も読み込まれ、研究された形跡が!ほ、欲しいですこのマル秘本!是非、皆の為のカレー作りに!誰の目にも映らないのはあまりにも・・・、ドラム缶・・・カレー・・・?

 

(何か面白いものは無いかなぁ~・・・ゴミ箱だ。漁って──、・・・!?い、今、黒い物体が動いたような・・・ん?ペン?なんだこれ)

 

数多の思い出と戦いが交錯した、学校の最深部にてはしゃぐ二人を目の当たりにし、探求する彼女達を肴に、彼は酒を進めるのであった

 

《よし、一通り見たならば言え。次に行くぞ》

 

──はい!英雄王!

(ボクの特性はひろいものだったのかぁ・・・)

 

そうして更なる探索へ、三人は赴くのである。次なる場所は・・・この月における聖域。かつての、そして総ての発端となった場に、英雄王は二人を誘う・・・

 

 

 

《我は此処で待つ。この先はお前達で行くがいい》

 

王はエアとフォウにそう告げ、保健室へと送り出す。此処はかつての健康管理AIが鎮座し、皆と、何より月のマスターを支えぬいた影の心臓部でもあるのだ。見るべきものはあまりないが、それでも王はエアをフォウと共に送り出す

 

──此処が保健室・・・健康管理をする、大事な場所・・・

 

(ナース服は!ナース服は無いのかい!?エアのボディサイズにあえて収まりきらない小さめのサイズがいい!)

 

──さ、流石に無いんじゃないかなぁ・・・?あ、でも設備はちゃんと完備されてるね!ベッドや、ちゃんと器具一式も・・・ジャプニカ健康手帳?あ、皆の名簿が書いてある!岸波センパイ、トオサカリン、ラニエイト・・・

 

(マトウシンジ・・・あ、ワカメの落書きが書いてある!やっぱり何処の世界でもマトウはワカメなのか・・・)

 

和気藹々としたその声を耳にしながら、王は其処に宿った思念と想念を垣間見る。この月の騒動を引き起こした一つの想い。自らに懸命に語りかけた尊き者の為に、月を犯す癌となった路傍に転がる石。そして──

 

 

《・・・最後の話をしよう。儚く現実に破れる、当たり前の恋の話を。・・・だったか?童話作家よ》

 

 

この事件すべてを夢として処理する。自らの生命、いや・・・魂を支払ってまで。ムーンセルを護ると言うのか、AI?

 

はい。──長い夢、でした。とっても、とっても幸せな・・・

 

 

一つの出逢いと、桜の夢。全ては消え去ったとしても、あの戦いの日々は真実であった。ならばこそ、王は此処に在り、至宝と獣を此処へと招き、追憶を続けている

 

《思い返してみれば、この場は我の想像を越えることばかりが巻き起こったな。まこと、怠惰が吹き飛び、我が記憶に残すに相応しき騒動であった》

 

『ハッ、喜べよ岸波!表側に出たところで死ぬだけだった貴様の運命も、元通りというわけだ!ま、先は見えているがな!貴様のサーヴァントなどどうせ、箸にもかからぬ下らぬ英霊であろう!我であれば敵なしであろうがそれも此処まで。六回戦目とやらで、無様に敗北するがよい!』

 

総てが無になると、なかったことになるとの事実にて、異なる我が吐いた負け惜しみ。そこから取った自らの行動を鑑みれば一目瞭然と言うものだ

 

《フッ、我が醜態すらも肴にするとは。いよいよ以て我が愉悦も極まったか》

 

壁にもたれ掛かりながら、ふと、左の廊下の突き当たりを見やる。其処には、減らず口が絶えぬ反骨の童話作家が屯していた行き止まりであった。思えば、彼処もまた・・・愉快な対話が繰り広げられていた場所であったと英雄王は笑みをこぼす

 

──

 

サーヴァントとしては失格だ!一点すらくれてやるものか!では英霊としてはどうか?これもまた話にならん!

 

強欲、冷酷、そして慢心!それらが究極の形にまで育ち、一つになったものがお前だ!

 

よし、では生命を持っていけ。言いたいことは言い切ったからな!

 

・・・・・・・・・・・・そうか、コメディ路線に変更したか

 

後はお前たちの仕事だ、お嬢さん。小市民らしく懸命に・・・当たり前の幸福を護るがいい

 

--

 

最後まで己を貫き通した反骨の童話作家。その語りと観察眼を思い返し、なお笑う。今にして思えば・・・あの女は、ヤツにとっての運命だったのであろう。なればこそ、ヤツは自らの魂に懸け、とある言葉を封じたのだから

 

《己を改革する出逢いと言うのは、眼にも見えず筆にも紡げぬものよな。童話作家》

 

そういう意味では、互いに同じ穴の狢であるのだな。自らの自嘲を酒に溶かし、静かに甘露として飲み干す

 

──理路整然と手入れが行き届いた素敵な部屋でした・・・ギル?

 

探索を終え、出てきたようだ。エアとフォウが不思議そうに、廊下の突き当たりを見据える王を覗き込む

 

(何ボンヤリしてるのさ。む・・・そんなに角を見て・・・まさか・・・幽霊でも見てるんじゃないだろうな!)

 

《サイバーゴーストの類いか?なに、それならいつも目の当たりにしているではないか。我の周りを忙しなく浮かび上がる、愉快な幽霊がな》

 

──うっ・・・!・・・辛辣な言葉は自業自得・・・伏して、伏して受け止めます・・・!

 

(プレシャスで生き返れ、生き返れ・・・!)

 

すりすりぽかぽかとエアにちょっかい出すフォウ。笑いながらじゃれるエア。そんな一幕を確かに愉しみながら・・・王は二人の背中を押し更なる探索へと推し進める

 

《幽霊であろうが亡霊であろうが、此処にいることは代わりはない。さぁ行くぞ、次はあの大英雄、カルナのマスターであった者の養豚じょ・・・部屋を目の当たりにしようではないか》

 

──あ、あのカルナさんのマスター・・・!ジナコさんと呼ばれた方の・・・養豚場・・・!?

 

(いやいや、そんなフィクションだろ?そんなしゃべる豚肉がカルナのマスターだなんてボクは信じないぞ。其処に生活の跡地があるなら信じるしか無いけど)

 

《我の言葉を疑うか?ならば良かろう。心して見るがいい。怠惰に染まった喋る肉塊。その悲惨にして無様なる跡地をな!さぁ、ある意味この月の歓楽としてうってつけな見世物であろうよ!》

 

 

器を放り投げ波紋に回収し、何処までも笑顔を絶やさず獣と姫を引っ張る御機嫌王。その様の一部始終を見ていた購買部店長がなんとも言えない顔で英雄王を見やり、すれ違い様に声をかける

 

「夢遊病の気があるのなら、上質な医者を紹介するがどうかね?」

 

「医者などもう何処にもおるまい。魂は最早、ムーンセルに支払われたのだからな」

 

此処には在らぬ、もはや桜の残滓となったとある少女。当たり前の、恋の話。その主軸となった一人の少女。それらがもう、この場に現れることは叶わない

 

「我はあの結末を覆しに来たのではない。かつてあった、最早有り得ぬ場の事象を目の当たりにしに来たのだ。余計な介入なぞ無粋であろう」

 

ただの漫遊。歓楽に過ぎぬと。王はそれだけを告げ。聖杯戦争の観客であり続けた者の塒へと脚を運ぶ。・・・獣と、他者には見えぬ姫を傍に侍らせながら

 

「お前が感傷を重んじるタイプだったとはつくづく予想外だったよ英雄王。だが──何事にも例外は起きるものだ。無意平穏など、最もお前に縁遠い廻り合わせではないかね?」

 

その後ろ姿に、言峰なりの言葉を贈る。期待と、驚きと・・・そうあってほしいなーという願いの言葉を

 

・・・下になった人物の信仰心か、はたまた言霊の縁が結ばれたのか。その神父の言葉は、これより正しく現実の物となるのである──




--凄く、生活感溢れる部屋でしたね・・・

圧倒され、絞り出した感想がそれであった。部屋に所狭しと置かれた生活用品と、怠惰の証たるポテチやお菓子の山・・・

(現代人の闇を見た。確かにアレのマスターなんてカルナみたいな聖人じゃなきゃ務まらないよなぁ・・・)

フォウも静かな面持ちでコメントを控えている。なんというか、罵倒するでもなくただただノーコメントである

《よし、珍獣の穴蔵は垣間見た。そろそろ見るべきものは一通り目の当たりにしたようだな。此処には戻らぬぞ、忘れ物はないな?》

最後の確認を取る。いよいよ以て本題、何処かにいるカルデア参列の意を取った者を探す為の月の探索が始まるのだ。手紙の霊子を辿り、此処に来た理由がそれである

(よくやるよなぁ。誰かも分からないのに)

《別段出したものに思い入れがあるわけでもないがな。楽園に参列する意思そのものが肝要なのだ。一度意志を示したならば、意思を示した者を裁定せねばならん。王の目に届かず意志が黙殺されるなど憐れにも程があろう。人知れず流れる涙ほど、勿体のない資源はないのだからな》

--つまり、自らの手で確保しなくてはならない王の責務と言うわけですね!

片手にギルガメシュ叙事詩を持ったエアの言葉に頷き、歓談しながら学校を出る

《そういうことだ。しかし石榑とはいえ衛生。そう簡単に見つかるかどうか・・・》

--そうですね。力あるサーヴァントとは言えど、月の表裏、どちらにいるのかをせめて絞ることが叶うなら・・・

・・・その時であった

「はーい、今日も清掃頑張りましょー。・・・はあぁ。グレートデビル後輩もこうなったら形無しですね・・・」

「お母様、大丈夫・・・!私、頑張るから!」

「何も考えず潰すのは便利でいいわね。私は溶かして取り込むのだから、ゴミだなんて見るのも嫌なんだけど・・・」

--!?

目の前に現れる、奇怪な服装に身を包み掃除用具を持った三体の・・・サーヴァントと近しい反応を示す者達

「文句を言わずに、がんばっ--」

《・・・言峰め。これを見越して呪詛をかけていたのではあるまいな・・・》

(ドフォーーーーゥ!?)

頭を抑える英雄王。あらゆる意味で巨大な、腕とブレストに度胆を抜かれるフォウ

「な・・・!うそ、どうして此処に!?」
「あ・・・!それは、私の手紙・・・!」

驚愕に踵を鳴らす青き存在、喜びの笑顔を浮かべる巨大な存在

--アルターエゴ、パッションリップ、メルトリリス・・・そして・・・!

「な、な、な・・・」

リーダー格の位置にいるのは・・・月を侵す癌・・・

「なんでこんなところにいるんですかぁ--!?」

月の裏側を混乱と恐怖に突き落とした存在・・・BBそのものであったのだ・・・!

《・・・面倒な話になってきたな・・・AIの防備としては申し分は無いのだが。さて、どうしたものやら・・・》



「はは、言ったはずだぞ英雄王。『上質な医者を紹介する』とな。いやぁ。麻婆が五倍増しで旨くなるとは。月の裏勤務も、悪くない」

全く互いに意識せぬ邂逅。その困惑を調味とし一人上機嫌に、麻婆を食べ続ける言峰であった--

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