人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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--早く来い、我が運命


あぁ、いっそ。この世が地獄であれば--


「さて、では早速始めるとするか」

--始める?王よ、それは何をですか?

《決まっていよう。遠征には拠点が必要だ。流浪や文無しなど楽園の旅人が甘んじてよいモノではない。フォウ、何を寝ぼけているか!出陣の支度をせい!》

(ふぁっ--マジで?何処いくの?)

《フッ、決まっていよう!》


土気城・城下町遊楽

「この出店、我が買い取ろう!!」

「ちょま、なーにを言ってるんですかこの御大尽様--!?」

「こ、困ります御客さん!そんな、店を譲れだなんて!」

「ほう?これを見てもそのような口が叩けるか?--襖を空けよ!」

--はいっ!

(ほいっ)

『部屋に敷き詰められた千両箱×100』

「これらが全て、貴様のモノになるわけだが?さぁ、もう一度返答を聞こうではないか」

「ヨロコンデー!!」

「ちょ!?元締めさーん!?」

「ふははははははは!!都の拠点、ゲットである!!さぁエアよ、城下町を適当に楽しもうではないか!酒池肉林は我が手だぞ?ふははははははは!!」

--しゅちにくりん?わ、わかりました!

《マリーや友人も構わぬぞ!ゴージャスゲイシャにて軍資金を稼いでくれるわ!》

「む?なんだ狐。働きたいか?構わぬぞ、善きにはからえ。名はなんだ?」

「お、おたまですぅ、けどぉ・・・」

「よしおたま!整理整頓を始めよ!徹底的にな!」

「いきなり大波乱じゃねーですか私ぃー!?」


小手調べ

守護者の計らい、観音様の導きによって再び訪れし日ノ本、下総国。巡り会えた縁に、リッカは再び・・・武蔵は初めて出逢う。かの守護者が結びし縁を、リッカは武蔵ちゃんに紹介していく

 

「こちらはしっかりもののおぬいちゃん!で、こっちが将来大物になるであろう赤ちゃんの田助くん!此処から離れた人里に住んでるいい子達だよ!仲良くしてあげて!」

 

「ワン!」

 

リッカの紹介に同意を示すように一鳴きする、雪のように白い狼、しらぬい。二人をその大きな背中に乗せながら、軽快にリッカと武蔵の歩幅に合わせ歩行している

 

「しらぬいもそう思います。武蔵ちゃんはどう思いますか?だって」

 

「解るの?リッカさん!流石は人類最悪のマスター!なんでも出来るのね!」

 

「適当だけどね」

 

「あらっ」

 

「えへへー、そんなことないよぅ。あなたが、りゅうじんさまが言ってたおさむらいさま?綺麗なおべべを着てるからそうなんだよね!綺麗だねぇ・・・」

 

おぬいからしても、リッカは知っているが侍、武蔵は初顔なのだ。不思議そうにその豪奢なる召し物をまじまじと見ている。武蔵ちゃんはその無垢で穢れなき在り方にほっこりとしながら頭を撫でて名乗りをあげる

 

「私は武蔵、宮本武蔵よ。世界を旅する女の子で、こちらのリッカさんのお友達でお侍さまをやってるの。仲良くしてくれると嬉しいわ!田助くんもよろしくね!」

 

「うん!武蔵ちゃんだね!」

 

「ちゃーん!」

 

「んむむ、ちゃんという評価に威厳の無さを感じるわね・・・まぁいっか!よろしくよろしく!」

 

「強いから期待しててね!で、ぬいちゃん。このおっきな狼さんは?」

 

「ワフ?」

 

のんびりと歩いていた狼、しらぬいに一同の意識が向く。本人は変わらず歩いており、興味が無さそうにポアッとしている。

 

「この子は白ぬい!りゅうじんさまがいなくなったあと、すぐに村正のじいちゃまの所に来た、のらおおかみ?で、村正じいちゃまのお手伝いをしてるの!私たちがおつかいに行くときに、背中に乗せて走ってくれるんだよ!すっごいはやいの!しっぷーみたいなの!」

 

「ワフ!」

 

同意するように一鳴きする。・・・この狼は群れを作るわけでも、野良でさ迷うわけでもなく。ふらりと現れそのまま村正の場所に居着いたという。そして人里からおぬいや田助を送迎したり、里の人々の色々な仕事を手伝っている、賢く優しい狼だとの評価と評判を受けているようだ。二人を乗せていることになんの抵抗を見せていないことからも、親しみやすさと暖かさを感じる。さながらぽかぽか陽気なお調子者といったところか。何より・・・

 

「物凄くぽわぽわした顔よねあなた!妖怪やあやかしなんて絶対にないわ、悪さなんか出来そうに無いもの!あ、饅頭食べる?」

 

武蔵がおかしそうに手を叩く。そう、余りにも緩く、ふわふわぽわぽわしている顔立ちは見るものの心を緩ませる柔らかさを他者に与え、いつの間にか餌をあげているような感覚に陥る。とにかく、和むのだ。先程からリッカのもふもふすりすりも止まらない

 

「もふ もふ すり すり」

 

「リッカさん!?凄い顔が緩んでらっしゃいますが!?」

 

「もふぅ・・・」

 

リッカ的にこの美しさと柔らかさはたまらない。身体もしなやかで柔らかく、野良とは思えないほど整っている。リッカがいつの間にかすりすりしているのも気にも留めず、ぺたりと肉球を置く

 

「ワフ」

 

「ほわぁあぁあぁあ!!」

 

肉球の柔らかさにifなる獣が浄化され、骨抜きにされるその姿を苦笑しながら武蔵ちゃんも頭を撫でる。クゥンと一鳴きするその姿が、想像以上に可愛らしい

 

「りゅうじんさまたちもしらぬいが気に入った?かわいいよ!すっごくはやくて、毎日ご飯くれるんだよ!美味しいご飯!いつも傍にいてくれるし、怖いのが来るとわおーんって吠えて教えてくれるの!」

 

「へぇ・・・!危機察知も完璧なんだ!流石は狼、野生に生きるものね!」

 

「そうなんだよ!ずっと一緒でいつも守ってもらってるんだよ!」

 

「ワォオォオ────ン!!!!」

 

「そうそう、こんな風に・・・あれっ!?」

 

吠えていた。しらぬいが高らかに吠えている。日ノ本すべてに伝わるような通る声音にて、咆哮を轟かせていたのだ。そしてその意味は即座に理解することとなる

 

「空が・・・!」

 

武蔵ちゃんが愕然と呟く。刹那の前は快晴なりし空がどんよりとした暗雲に覆われ、太陽が陰り辺りが薄暗く、禍々しきものへと表情を変える。まさに凶兆、魔を示す漆黒の空模様だ

 

「ど、どうしたのしらぬい!まさか、来るの!?」

 

「ガゥンッ!!」

 

真っ直ぐ睨む視線の先に──現れしは。揺らぐ亡霊、漆黒の甲冑武者。行く手を阻むかのように徒党をなし、女子供ばかりの旅の一行を狙う山賊や野盗の有り様を示しているかのようだ

 

「・・・妖魔や亡霊はそりゃあ見るもんですけれど、白昼堂々ならぬ白昼反転までする念の入りようで頭が下がるわね。リッカさん、アレはもう敵として相違ないですね?」

 

もちろん、とリッカが頷く。武蔵が武器を握るより先におぬいと田助をかばい、手には混沌武槍アンリマユを所持している。同時に・・・

 

「わわ、わ!なぁに?なぁに?」

「ぁうー!」

 

二人を【泥の球体】に覆い尽くし、完全保護を完了する。望まぬものが触れれば侵される、リッカの鎧と同じ材質のもので誘拐、流れキズから完全に防衛を成す

 

(・・・流石ね、リッカさん)

 

自分は剣に手をかける方が早かった。リッカさんは真っ先に彼女らを護るために行動した。性根の違いは此処で出るのだろう。自分は一人では、人を斬ることを優先する鬼の類いであることを痛感する

 

(けれど、嘆いてばかりもいられない。目の前に魔がいるならやることは一つ!)

 

剣を抜き、行く手を阻む魑魅魍魎に天元の華は高らかに啖呵と発破を切り込み、悪しき空間を渇破する。仁王立ちの剣気にて、真っ先に相手を威嚇する

 

「何処の手先かは存じ上げねど、女子供の気楽な道中を邪魔する無粋な輩!かよわき者の集まりと知り手を上げる悪鬼外道の類いなら、こちらとしても慈悲の類いはかけません!」

 

「──ワフ?」

 

しらぬいの極めて不思議そうな視線に気付かず、武蔵は高らかに歌い上げる。その隣に、リッカも槍を構えて並び立つ

 

「我が友、我が仲間、我がマスター藤丸リッカ、そして天下泰平御機嫌王に剣を捧げし宮本武蔵!矮小雑多なまろびでし怨念、十文字に切り捨てる!!──いざ!勝負!!」

 

武蔵が気合いと共に一直線に突撃し、リッカは対照的に静かに気を練り上げる

 

「今日は・・・神座シリーズと村正シリーズっぽく行ってみよう!龍華の理、此処に在り!──形成(イェツラー)邪龍黒装(アジダハーカ)!」

 

同時に高くジャンプし、鎧を各種部位から装着していく。右腕、左腕、左足、右足、胴体、兜──

 

【よし・・・!武蔵ちゃん!思いっきりやっていいよ!】

 

静かにぬいと田助の傍より離れず槍を構えながら、武蔵にゴーサインを出す。自分は基本を維持し戦うつもりであるのだ。が・・・

 

「ワフ!!」

 

【白ぬいも下がっ・・・なんとぉ!?】

 

飛び込むのは武蔵だけでは無かった。隣にいたしらぬいが一声鳴き、リッカから『将門勾玉』を借り受け一直線にダッシュし距離を詰め走っていく

 

【──!?】

 

瞬間、自分の目を疑う。将門勾玉を持ったしらぬいの身体に『紅い紋様』が浮かび上がり、将門勾玉に備えられた魔力に呼応して身体能力が上昇し、同時に、勾玉を随伴ユニットが如く辺りに浮遊させたのである

 

【しらぬい、何者!?あ、もしかして・・・】

 

何らかの理由で、『魔術回路を備え』、『魔術を行使できる』存在なのではないかとリッカは納得する。それならば、ぬいや田助を護り抜けたという状況に合点が行くというものだ。それに、将門勾玉が反応するというなら悪い子の筈がない!

 

【よぉし!しらぬい!行くよ──!】

 

 

「ワゥンッ!!」

 

納得を是としたリッカの呼び掛けに応えるしらぬい。役者は揃った。此度の相手は高々木っ端の怨霊ども

 

対するは三人、二人と一匹は現れた怪異に悠然果敢と立ち向かい、勇猛に、華麗に、逞しく打ち払っていく──

 

「ふんっ!!せぇいっ!!」

 

剛力にして強力に鎧武者を相手取るは宮本武蔵。繰り出される太刀を時にすらりとなめらかにかわし斬り、時に腕ごと叩き斬る柔軟なりし戦運び。真正面から打ち込んだかと思えば不意に死角をつく、忙しなく撹乱したかと思えば腰を据えて敵を斬る。そして決まり手は必ず刀。上手く、狡く、そして美しい二天一流の剣技が相手を断ち切り切り裂き吹き飛ばしていく

 

【──脇を閉め、相手との間合いを計り、余計な力を入れずに・・・】

 

対照的にリッカは静かな立ち回りにて相手を前にしながら脱力し待ち構える。焦ることなく、静かに相手の後の先を取り、相手の動きを見てから先手を決め穿つ戦いを行っている。必殺技は魔力を大量に消費するものばかり、剣との差別化を計るために、省エネの基本戦法を選んだのだ

 

敵が来たる前に首下を穿ち、敵が振りかぶらば頸を落とす。一から十までの動作や所作の完遂を刹那で駆け抜け、敵より速く槍を届けさせる。カルデアで槍の師匠達に教わりし槍の基本、それらを冷静にこなしていく。攻撃したら殺されていた。攻めていたら倒れていた。そんな摩訶不思議な状況に倒れ伏していく鎧武者

 

囲まれれば槍を長く持ち替え薙ぎ払い、懐に入られれば槍を短く持ちパンクラチオンの打撃を叩き込み、中距離に在らば龍頭として変化させたアンリマユで食らい尽くす。剣ではできぬ変幻自在な間合いの立ち回りを完遂するリッカ。最後まで、冷静に槍を振るいさばいていく

 

「ワゥウ、ガゥンッ!!」

 

対してしらぬい、狼は華麗であった。頭突きや方向転換、叩き込む一撃、駆け抜ける所作は流麗無駄なき演舞が如く。法力が詰まった将門勾玉に助けられし怒濤の連撃が霊魂を穿つ

 

浮遊した六つの勾玉を魔力で繋ぎ合わせ鞭のようにしならせ滅多打つ。将門公の威厳が詰まったしなやかながら鉄球が如き勾玉の一撃は、迷える霊魂をあれよあれよという間に叩き砕き昇華させていく

 

「やるぅ!しらぬいちゃん想像以上にやるじゃない!」

 

【雌なの?】

 

「私には解るわ!身のこなしがとにかく華麗だもの!さぞ育ちのいいワンコとみたわ!ね、そうよねしらぬい!」

 

「ワフ!!」

 

「ほらいってうぁっとぉ!!」

 

【喋ってるからそうなる!ほら、油断しない!】

 

「はいっ!じゃあ決めると致しましょう!」

 

三人の活躍により、10匹いたもののけはのこり一つ。結びの一撃を三者が振るう

 

「ガゥンッ!!」

 

勾玉の束縛により逃げ出す鎧武者をきつく縛り、す巻きの要領で逃げ場と退路を無くす。そして二人に促すは結びの一撃

 

「切り返せるかッ──ぜぇえい!!」

 

【すぅっ──はっ!!】

 

気合いと気迫が詰まった十文字斬り、脱力から放たれる速度差からの高速の突きが同時に放たれ、束縛された妖怪の魂を穿ち叩き込む──!

 

「ガゥッ!」

 

同時に法力を流し込み、最後の残滓ごと完全に霧散させる。この一撃をもって敵方は全滅。リッカ・武蔵陣営の完全勝利と相成るのであった

 

「ガゥンッ!ワォオォオォーーーン!!」

 

勝ち名乗りのように空に一吠えするしらぬい。それに応える光明のように黒き暗雲が掻き消され、天晴れなりし空が顔を出す

 

「気持ちのいい勝ち名乗り!本当に何者なのかしら、しらぬいさま!」

 

「ワフ(勾玉を返す)」

 

「はい、ありがと!今、変な模様が出てなかった?」

 

「ワフ?」

 

「惚けちゃって!狼なのにタヌキだなんて変な子ね!」

 

「ワフ?」

 

「このぉー、意地でも惚ける気ね!いいわ、そのうち正体掴んでやるんだから!」

 

「ワン!」

 

リッカとしらぬいは二人に駆け寄る。おぬいと田助の無事を確認するためだ

 

「あんれまぁ、もうやっつけたのしらぬい?いつもはぴゅーっと逃げるだけだったのに、強くなったねぇ」

 

「ワフ、ワフ」

 

「ふーん、ともかく無事でよかった!みんな、ありがとう!」

 

「きゃーう!」

 

「りゅうじんさまも、ありがとう!やっぱり女の子は強くなきゃいけないんだねぇ」

 

「だめっ!ぬいちゃんは可愛く淑やかに!私になったら女として終わりだからっ!」

 

「そ、そうなの?」

 

「ワフゥ・・・(すりすり)」

 

「あ、慰めてくれるの?ありがとう、ありがとう・・・モフゥ」

 

微笑ましいやり取りを見つめ、武器を納めながら空を仰ぐ武蔵。雑魚は斬っても所詮雑魚。取り立てて感嘆することはない

 

「・・・小手調べは上々、後は如何なる強敵が待つか、って所よね」

 

突き抜ける空のような位、『空位』。リッカの『雷位』に比肩する腕前を手にするため、武蔵は決意を新たにする

 

──その座、必ずやこの手に。リッカと武蔵の旅は、始まったばかりなのだ・・・──

 

 

 




「よーし!じゃあじいちゃまへの場所にいこー!あ、実はね!じいちゃまの場所にいるのは、しらぬいだけじゃないんだよ!」

「そうなの?また新たなお客さぁん?がいるの?」

「うん!いるよー!えっとね、額に十字傷がある、頭がつるぴかな御坊さん!すっごい強いんだよ!」

「頭が」

「つるぴかな御坊さん・・・そして、強い?」

「うん!いつもしらぬいと一緒に・・・」

「はははは!俺が、拙僧が強いのではない!我が収めし槍の技が強いのよ!だが、心地好い評価は受け取っておこう!」

「あ!御坊さん!来てくれたんだ!」

現れたのは、紫の袈裟に、槍を握りし爽やかな青年。ぬいたちが駆け寄り、親しげに話す

「そなたらがぬいたちを護り抜いたか、しらぬいだけでは手に余っただろう、忝ない。礼を言わせてもらう・・・む?御主のその漆黒の魔力・・・それは槍か?」

「は、はい、一応。あなたは・・・?」

「おっと、無礼だったかな?俺は・・・」

「--胤舜・・・その十文字槍、間違える筈がない!やったわねリッカさん!この上ない槍の師匠がお出ましなさいましたよ!」

「え?胤舜?」

「ははは!そうか、それなりに知れていたか!そう!我が名、宝蔵院胤舜と申すもの!槍に生き、槍を振るう坊主だ!よろしく!」

「やっぱり--!その槍神仏に達すると言われた、宝蔵院胤舜・・・!!いきなり最高の方が巡りあってくれました・・・!!」

「・・・知ってる?」
「ワフゥ」

興味ない、と言わんばかりに一あくびするしらぬいであった

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