人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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人の為に戦ったのです


傲れる平家の世を正すためとして義仲さまは立ち上がった。そう、正しき事の筈でした。多くの血を流そうとも、真に泰平の世を築くためと

木曽義仲。我が愛しき無双の英雄。虐げられてきた源氏の方々と共に平家の横暴に戦って、戦って、戦い続けました。なのに、なのに--

平家なき新しき世は義仲様を怨んだ!京の都に座した次なる悪しきものとして!

義仲さまを!裏切った!こともあろうに共に戦ってきた筈の源氏の方々が!


許せない!許せない!許せない!嗚呼許せない!義仲さまは死んだ、源氏の手で殺されてしまった!

許せる筈がない!憎い

憎くて、憎くて、憎い、憎い、憎い--

義仲さまを裏切った源氏が憎い!

義仲さまを受け入れなかった民草が!日ノ本が憎い!!

この世の悉く全てが憎い!!憎くてたまらぬ私の憎しみはけして消えぬ!!

--いえ

・・・何かが、違うような

義仲様は、何故立ち上がったのでしょう。何故、平穏を、泰平の世を求めたのでしょう

私は、末期まで、全てを恨み、憎しみ、呪詛のまま死に絶えたのでしょうか?

何故憎しみは、憎しみは止まらないのです?私は英雄本人では、本人では無い筈なのに?

愛しい人の想いが、涙した悲しみが何故、こうも燃え上がるというのです!!


私は、何か、そう、何か--


尊いモノを、忘れてしまっているような--


カルデア

『ホットアイマスク』

「あぁ~、染み込んでございます・・・暖めるのが良いのですね、眼精疲労対策!知りませんでした・・・巴はまた賢くなりました・・・あぁ~・・・」

「次にゲームをやり過ぎたさいには、両目を摘出します。気を付けてください」

「ヒェッ--わ、分かりました。・・・でも、ふふっ」

「?」

「こうして、穏やかに日々を過ごす。戦仕度などなくとも、平穏に時が流れる。それが巴は、嬉しくございます」

「怪我人が出ないならば、それが最良です」

「はい!・・・この平穏こそ、この安らぎこそ・・・義仲様が願い、取り戻すために戦った願い、これこそが--」

(マスター、大丈夫でしょうか?私もメディカルルームから出られたならば・・・)

「絶対安静です」

「は、はい・・・お気をつけくださいね、マスター・・・」


宿業・炎唆の果てに

「見えました、皆様。あの麓、英霊剣豪にてございましょう」

 

段蔵が声を上げる。アーチャー・インフェルノ討伐を命じられた藤丸一行。本隊にして陽動たる侍衆より離れ、リッカ、武蔵、段蔵、小太郎のメンバーの少数にて峠を越え、インフェルノを直接叩くルートを歩みはや半刻。歩みを続け見通せる天辺にして下り坂にて、一同はいよいよその討伐対象を目の当たりにする。その血染めの月、夜の帳もこの出会いが正しいものだと告げているのだ

 

「夜の時刻には早いと言うのに、もう月夜が・・・これが、英霊剣豪・・・王からお話は伺っておりましたが、こうして目の当たりにすると不気味にすぎます。風情どころか底知れぬ悪寒を覚える程に」

 

「あんまり見たいものじゃないよね。月夜は綺麗じゃないと。アルテミスも御立腹だったし。紅い月とかゆるせなーい!いみわからなーい!って」

 

「そういえば月の神様がいらっしゃいましたね・・・これはますます負けられないわねリッカさん!」

 

「おう!というか私の人生で今のところ負けていい戦いってマシュとのスパンキング対決くらいしかないし」

 

一同はそんな環境でも自然体を忘れない。死地など日常、負ければ世界が在らぬといった状況で戦い抜いてきたその心胆、唐突な夜闇に動ずるほど容易く無し。心臓に毛が生えているのだ、今更鬼の一匹二匹何するものぞ。その様子を見て、段蔵は『思わず笑ってしまった』。その頼もしさにだ

 

「ふふっ。心強くございます。密偵、隠密として誠心誠意頑張らせていただきますね」

 

「・・・・・・」

 

「?小太郎殿、何か?」

 

小太郎がじっと見ていた事に気づき、訪ね返す段蔵。--どうやら王は『最後の鍵』はまだ託してはいないらしい。ならば自分は黙するのみ。こうして情緒が起動したならば、それは喜ばしき事なのだから

 

「いえ、何でもありません。──侍衆100人が怪異の群れへと接敵しました。主殿、皆様。参りましょう!ヒアウィ・ゴーです!」

 

一同は峠より飛び立ち、一気に下界へと飛来し落下していく。段蔵、小太郎にそれぞれ抱えられ、一息に高所から下所へ、英霊剣豪目掛けて到来する──!

 

「レッツパーリィ!!カルデア筆頭推して参る!その宿業を私達が断ち切る!!」

 

「段蔵も、ファイト?致します!皆様、ご無事で!」

 

「横文字!?横文字が今流行りなの!?」

 

「い、いえその。風魔の特色というか足柄山クオリティーといいますか・・・と、ともかく皆さん、一息にアーチャー・インフェルノの下に行きますので戦闘準備を!」

 

一同の仕合の時、極限の刻は其処まで迫っている──!!

 

 

いつだって きりひらくのは けものかな

 

 

【──全く、なんだと言うのです。私のような女一人に、むくつけき武者の方々五十程、いえ百余り。それほど迄にこの怪異が、この身が恐ろしいのですか?】

 

怪異との決戦、激しき戦の様相にもつれこんだ最中に対峙する兵ども。目の前に在りしは眼が真紅に濡れ輝く麗しくも激しき白き女武者。それこそが此度の原因、此度の怪異の首魁に相違なく。血気盛んなりし精鋭たちは怯まず啖呵を上げる

 

「縛につけとは最早申さぬ。素っ首叩っ斬るまで!荒ぶる切支丹どもを退けた我等が武勇を見るがいい!!」

 

唸りと怒号を上げし精鋭たち。気炎たぎり業火の如く。アーチャー・インフェルノを覆いし威圧を響かせる。その決意の雄叫びにも、インフェルノは静かに佇むのみだ

 

【まぁ、恐い。憎いですね、なんと憎い。その豪胆さ、意気の高さ。恐くて憎くて、たまりません】

 

「妖術を操る怪異何するものぞ!我等皆、年経た名刀を備えおる。観念して其処に直るがいい!」

 

【まぁ、それは凄い。そんな少し年季が入った棒切れを名刀とは余程物を知らぬのですね。あの禍々しくも妖しく、おぞましい漆黒血染の刀を目の当たりにした今ならば、とてもとてもそのような素振り包丁を刀などは。それでは私は死にませぬ、死ねませぬ】

 

「ッッッ、言わせておけば──」

 

炎が、強くなる。アーチャー・インフェルノの身体の全て、心の全てを薪にして。燃え盛り、猛り狂い、おぞましく捻れ狂う竜巻のように。兵たちを威圧していく

 

【我が身、怒りと憎しみにて燃え盛り全てを焼却せし宿業を担いしもの!見よ、煌々と燃え盛る私そのものを!!──お前達の悉く】

 

火が燃え盛る。草を焼き、大地を燃やし、実りを、恵みを、肉を、気迫を、全てを焼却していくほどに猛り狂っていく

 

【おまえも、おまえの親も、おまえの兄弟姉妹も、おまえの妻も、おまえの子も、全て──】

 

「ぬぅうっ!!熱い、なんという熱さか!まともに呼吸叶わぬ--!身体は燃えぬがッ、息が、出来ぬっ──!」

 

【全て、全て、全て全て全て全てを眼の玉を炙り心の臓を焼いて肉と骨総てを焦がしてくれましょう!!】

 

「う、うぉおぉおぉ!!肺が、肺が焼けるようだ!皆のもの息を吸ってはならん!鎧で護れぬ箇所が害されるぞ!!」

 

即座に絶望的な温度を感じとり、呼吸を遮り距離を置く兵達。具足により身体は燃えぬものの、内臓器官はそうはいかない。吸えばただれる真紅の火焔に、たまらずに間合いを離さずをえなくなる

 

【────むっ!!】

 

そんな中インフェルノは風切り音を耳にし空を睨む。直感する。このような数合わせなど只の前座。本来の本命。その様相、一行が来る──!

 

「っぜぇえぇい!!!」

 

小太郎に叩き落とされた加速、その重量を渾身の力任せにて叩き振り下ろす。直撃したならば骨を断ち切り真っ二つに出来るほどの気迫と剛力詰まった一撃だ。だが、それをインフェルノは難なく捌く。単純な【腕力】にてこれを無力と化し、武蔵を上間る剛力で振り回し吹き飛ばす──!

 

 

【よっと!!】

 

炎を槍の一振りで薙ぎ払うリッカ。大回転にて吹き荒れし槍の一閃。ただしこれは、アンリマユの補食による魔力吸収なため腕前によるものではない。まだ、形なきものを穿つには・・・雷位を宿すには至らない

 

【まぁそれはともかく!小太郎、段蔵!】

 

素早く武蔵ちゃんの背中を護り指示を飛ばす。サーヴァントの相手は、こちらがする!

 

「段蔵殿!侍衆の誘導を!王の配給があるとはいえ、サーヴァントの相手は人間には不可能です!」

 

「はっ。では藤丸リッカ様は人間ではないと?」

 

「あっ──」

 

【母上に言いつけてやる!!】

 

「申し訳ありません!申し訳ありません主殿!あくまで一般観点の物言いですからお気になさらず気に病まず!」

 

大慌てで小太郎は撤退し、段蔵、即座に怪我人の誘導と避難にあたる。残されしはリッカ、武蔵、そして──

 

【・・・巴・・・】

 

アーチャー・インフェルノ。その躯に、リッカは覚えがある。毎日部屋に来て、ゲームをやろうと誘ってくる楽園を一番楽しんでいらっしゃる未亡人気質にして女武者。その身に鬼の血宿し、女子力については語らぬ猛々しき女性──

 

【あなたも、英霊剣豪に・・・】

 

【あなたは・・・何だというのです。あぁ、でもこの世に生きる、源氏の臭いがしますから燃やさねばなりません。私が燃やして嫌いな憎い方なのですねわかりやすい死んでください。とても死んで欲しいわかりやすい方です死んでください】

 

支離滅裂で、感じ取れるは殺意のみ。目を輝かせゲームを楽しむ面影も、熱い情熱も恋慕も最早感じられない有り様に仮面の下の目頭が熱くなる。英霊剣豪--なんとおぞましき所業なるや

 

「・・・私達はあなたを知っている。愉快で、お茶目で、仲間であるあなたを知っている。だからこそ、私達はあなたを止める、止めなくてはならない。我が名、宮本武蔵。あなたの身、この刀が切り捨てる!」

 

【・・・そうなのですか。私を知っているのですか、それは】

 

斬りかかる。瞬間に距離を詰め、一閃する。会話の口を切られたインフェルノは表情を歪め、憎々しげに炎を燃やし噴き上げる

 

【言葉の途中で襲い掛かるとは卑怯な!】

 

「悪鬼羅刹、外道の類いに正道貫く意義はなし!格上ならば本性顕す前に腕の一つも叩き斬る!!」

 

【──将門公。いよいよあの続きが始まりました。これより始まるは、武蔵ちゃんの一騎討ち、そして躯の鎮魂・・・!】

 

湧き出る怪異を龍頭槍で食らい、突きと薙ぎ払いを素早く繰り出し繰り返しながら、将門公の勾玉を握りしめる

 

【どうか、見守ってください!貴方の御前に、我が友の奮闘を!彼女に、光明と勇気を与えたまえ──!!】

 

リッカは高々と、将門勾玉を掲げ上げる──!

 

ぶつかり合う剣、高まる気炎、溢れ出す憎悪、生死の狭間、その刹那の境地にて武蔵とインフェルノはぶつかり合う!

 

【アァ、アァアァアァアァア!!ワタシハ、ユルサナイ・・・!!ニクイ、ニクイ、ニククテタマラヌ・・・!】

 

「──!」

 

【ヨシナカサマ、ヨシナカサマ・・・!!オォアァアァアァアァアァア────!!!

 

吐き出すような呪詛、燃え盛るような慟哭。全てを憎み、燃える情念は愛する男を想いとして巻き上がる

 

「──英霊はあくまで一側面。それを増長させられればそうもなりましょう。巴御前。ですが、その憎しみも、憎悪も。此処で振るわせる訳には参りません。──その躯、死した魂を断ち切る」

 

右手に握るは明神切村正。リッカさんの左腕に宿りし龍哮の姉妹刀。これにて、あの宿業を断って見せる

 

(──しかし、だが果たして倒せるか?手にした業物こそ比類なき一刀、しかし私の腕ではまだ遠い。──全てを駆け抜け辿り着き切り捨てる雷位の境地に至ったリッカさんならいざ知らず、怨念を断つその境地に、私はまだ至ってもいないというのに・・・!)

 

伝うは不安、感じるは憔悴。宝蔵院すら至らぬその腕前、果たして到達せしめるか否か・・・

 

 

【武蔵ちゃんッッッ!!】

 

そんな悩みを、不安を切り裂くは大切な相棒、共に肩を並べる戦友にしてライバル、友達のリッカであった。怪異を薙ぎ倒しながら、リッカは槍を掲げ、吼え猛る

 

【競うな!!持ち味を活かせッッ!!】

 

それは、地上最強の真理であった。己は己にしかならぬ。ならばこそ、自分自身の強さで至るべき場所に至らねばならんのだ。リッカにしか出来ぬことがあるように、武蔵にしか出来ぬことがある・・・!

 

「──そう!その通り!兵法者として名を上げるにまたとない英傑!此処で怯めば二天一流の名が廃り、雷位に並ぶなど夢のまた夢!リッカさんを阻み、人の形をした炎!十文字に切り裂くのみ!!」

 

【ウゥウ、グァアァァアゥウ──!!】

 

「──持っててよかった明神切村正!さぁ立ち会いと行きましょう!インフェルノ!!」

 

その言葉を合図に──屍山血河を築くか否かの舞台の幕が開く──!!




【いざ!平将門の名の下に!!--出でよ、神気立ち上る彼の守護者の極致。旭照らす日ノ本を見守りし神田明神の仕合舞台!!】 

高々と掲げし勾玉より、輝きが溢れ出し一帯を覆いつくし、インフェルノと武蔵、リッカを呑み込む。其処より現れしは神田明神の境内。神おわす神社、曙光射し込み、無窮の蒼天広がりし日ノ本が守護神の御前也

なんの介入もなんの横槍も入らぬ究極の空間、神が在りしその場にて、剣鬼と化した剣豪、二天一流の武蔵が向かい合う!


【我が刃の忌名、アーチャー・インフェルノ!我が骸の真名、巴御前!】

「我が刃の名、明神切村正!我が魂の真名、宮本武蔵!!」

互いに神たる守護神に名乗りを告げ、いよいよ以て刃が振るわれ、合戦の火蓋が切られる!

【いざ、いざ、いざ、いざ覚悟召されよ新免武蔵!!いざ、尋常にィ!!】

「勝負--!!」

【--始めッ!!!】

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