人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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英霊剣豪 七番勝負 御前試合

勝負 一番目

仕合舞台 新皇座臨総鎮守 神田明神

立会人

藤丸龍華 御尊神 平将門


宿業 一切焼却 アーチャー・インフェルノ

VS

宮本武蔵 明神切村正 禁手・オーダーチェンジ


いざ、尋常に--!!


旭の在処。宿業の在処--懐きし想い。切り裂く業

英霊剣豪、御前試合。無双にして唯一たる平定者、将門公の前にて二つの道を、求める道に覇なる道を魅せつける魂がぶつかり合い、広く澄みわたる空を、登る太陽に捧げ奉る

 

片や、求道の魂。無二を越え、無限を越えて『零』へ至らんとせし二天一流の天元の花。それらは刀を持ち、怨恨、縁、宿業にへと至らんとする刃を、無形の形を、万象全て『斬った』と定めさせる無窮の剣へと自らを高めんとする未だ至らぬ『空』を目指す美しき魂、宮本武蔵

 

片や、覇道の魂。その宿業にて狂わされし魂の躯。人に非ず、怨霊に非ず、怪異に非ず、無論英霊に非ず。人の世を切り裂く英霊剣豪6騎が一人、アーチャー・インフェルノ

 

【──・・・】

 

藤丸リッカは腕を組み、しっかと仁王立ちにて二人の魂のぶつかり合い、激突をその眼に、魂に焼き付ける。此より行われたるはどちらか必死の真剣勝負。横槍無く、水入り無く、他者の魂解き放つまで終わらぬ戦い

 

その結末が、どのようなものであろうとも──リッカは目を逸らさず、受け入れる。それこそがマスターとしての矜持、立会人としての矜持、義務

 

(頑張れ、武蔵ちゃん・・・!)

 

鎧の下にて唇を咬みながら、リッカはただ願う。相棒の勝利を、そして・・・宿業の清算を

 

ただ、穏やかなる終わりを、介錯を願い・・・リッカはただただ、泰然にて本殿の前より鎮座し見届ける

 

全ては、日ノ本を守護せんがため。──極限の刻を、此処に魂を懸けて見届ける──!

 

 

しあいにて いのりしものは けものかな

 

 

【アァアァアァア!!】

 

その咆哮。地獄の鬼も小便を漏らす気迫から、馬を掴み投げ男子の首を捻りきる剛力から放たれる無双にして怒濤の火焔弓。男が五人がかりでも引けぬ強弓をまるで輪ゴムのように引き絞ると一撃一撃が必殺の威力を持った、肉裂き、骨を焼き砕く恐ろしき弾幕を張り降り注ぐ。その形なす破壊の弓矢を、二刀にて騙し透かし斬り捨てながら武蔵は舌を打つ

 

遠い──間合いが遠いのだ。いくら名刀、刀であろうとも届かなくては意味がない。届かぬ刃では赤子の産毛すら断ち斬れぬ。踏み込み、引き斬り、斬り伏せなくてはどんな斬れ味も意味をなさない無用の長物だ。それを知ってか知らずか、アーチャー・インフェルノはひたすらに弓矢を放ち続け辺りを焼き尽くしていく

 

(間合いも格も上とか嫌になる!十回やって一回届くかどうかなんて止めてよね、もう・・・!)

 

彼女は旭将軍、木曽義仲と共に戦い、首を蹴鞠に馬を投げに振るった無双の戦姫。可憐さや華やかさ、尊さではなく勇猛と武勇にて歴史に名を刻んだ者なのだ。合戦最中、生死の最中にて鍛え上げられたもの、それが容易くある筈がないのだ

 

(リッカさんを知っていて良かった。いなかったら泣いてた・・・!)

 

リッカと手合わせした際の勝ち目は零であった。極みに達した者に半端者が挑んだ所で零は零。100挑もうと雷位を開帳された時点で勝ちの目は消え失せる。──それに比べたら、彼女ですらまだ容易いものだ。勝ち目のあることのなんと救われる事か!ならば泣き言など不要にして無粋、一から十まで手繰り寄せて勝利を掴む!

 

【!?】

 

瞬間、武蔵の取った行動にインフェルノは目を見開いた。突如武蔵が左手の刀を手放したのだ。そう、戦の最中に命とも言える刀を手放した。何をする気か、と気を張らせた瞬間──

 

【ギッ、ガ、ァァアァアァア!!!】

 

突き刺さっていた。右目に剣が深々と。蹴り飛ばしたのだ。武蔵が刀を渾身の一蹴りで冷静に、的確に。それは『天眼』。可能性あるならば、其処を斬ると決めたならば必ず届かせる運命確定の魔眼の一種。今回は『インフェルノの目を潰す』事に総てを懸けて放った刀の飛来一閃が過たずインフェルノの目を潰したことになる。その天眼成就せり、好機とばかりに武蔵は歩法にて距離を詰め一刀誓願の下に渾身の一刀を馳走奉る!

 

「──一本!!」

 

悶え苦しむインフェルノに情けをかけず、武蔵の一太刀は閃き、つるりと首筋に滑り込み鮮やかに撥ね飛ばしてのける。その冴えこそは宮本武蔵たるものの証左。覆らぬ真名の証明。血の噴水になりて断面より鮮血を撒き散らすインフェルノの肉体。本来であるならば勝負あり、ではあれど。本来も何もこの英霊剣豪は一味も二味も異質にすぎる──

 

「いぃっ!?」

 

刹那に身構え振るわれた刀を剣にて阻む。力任せにて襲い来る剛力の一太刀。抑えただけで武蔵の手に痺れが走り握りが甘くなるほどの衝撃にてつばぜり合う。振るう、振るう、振るう。振るわれる。『首が無き躯』が血を噴き出しながら刀を振るい回し武蔵を追い込んでいく

 

【英霊剣豪、身に纏いしは躯なれば!宿業穿たずして我等が身は滅びはせぬのです!ァアァアァアァアッ!!!】

 

撥ね飛ばされた首が独りでに飛び回り武蔵の首もとに食らいつかんと飛来する。角を生やし目が充血仕切った修羅の相に戦慄を覚えながら、咄嗟に武蔵は頭突きをかまし相殺する。くらくらと眩暈を覚えながらも、躯の胴体と斬り合い、鍔迫り合い、そして瞬時の隙を突き胴体を真っ二つへと叩き斬る。ぐらりとよろめくモノに、追撃の十文字斬りを手向けとする──!

 

【その程度の素振り包丁がごときで何を断つと言うのか!未熟なり新免武蔵!刀に見合わぬその腕前に恥じ入るがいい!】

 

「嘗めてくれるな弓の醜女!この武蔵の一振りを!!」

 

斬り飛ばして直感する。首を刎ね、胴体を斬り裂き分かたったとしても死にはせぬ。果てはせぬ。リッカさんの一閃、胤舜の困惑がいかなるものかを理解する

 

決して誤魔化し効かぬその仕組み。いくら躯を害そうが、それを動かす機構断つ術を手にせねば宿業両断夢のまた夢。武蔵は息を吐き黙考にて太刀を二つ構え神妙な顔持ちとなる。頬に伝わる汗が、やけに冷たい

 

弓矢には、宿業は宿っていなかった。それは練り上げられた武勇の具現、躯に備わった技術の再現。断ち切れど意味はなく、ただ繰り返されるが関の山だ

 

剛力もまた同じく。それは血脈の励起による哀しくも凄まじき血の宿痾。それは忌避され、忌避するものなれど今この場で断ち切るものでは無い

 

ならば何処に、ならば何処に宿業はある?肉あるこの身では、必ず限界が来る。この禅、黙考にて答えを導き出さねば、あの一切焼却の業に刃が立つ事はけして──

 

(──一切、焼却?)

 

かのインフェルノを薪として燃え盛る宿業。あらゆる総てを憎み、あらゆる総てを怒り、あらゆる総てを焼き尽くすおぞましき闇の宿業

 

・・・──何故、それを燃やす?薪があり、宿業という火種がある。ならばそれを猛らせるモノとは何ぞや?如何なる想いがインフェルノを焼き尽くす?何を、何を以て憎しみを燃やすのだ?

 

それは──かのインフェルノ、いやさ。巴御前を巴御前として、鬼ではなく英雄として人類史に刻ませしもの。それは、まさに、まさに、まさしく、まさしく──

 

「──っふ、ふふ、ふふふ・・・!あっははははははははは!!!」

 

天啓に至る──靄は消え去り霞は晴れ。心はこの空の如くに晴れ渡り、澄み渡る。天眼に映る、解る。把握できる。斬るべき業が、放つべき魂が!

 

【・・・何がおかしいのです。気でも触れましたか】

 

「勝機!──一切焼却、敗れたり!!」

 

武蔵は確信を以て勝ち名乗りを上げ、明神切村正を誇示するかの如くに構え不敵に笑い、真っ直ぐにアーチャー・インフェルノを睨み付ける。それに顔を歪めしはインフェルノ、そして──

 

【おぉっ──!】

 

目を輝かせるはリッカだ。それはまさしく宮本武蔵伝説の再現。巌流島にて言い放ちし必殺の必勝宣言。伝承の再現を目の当たりにし、テンションと期待が否応にも高鳴り昂る!

 

「女の柔肌一つ焼けぬ宿業ちゃんちゃらおかしき戯れなる子供だまし!悔しく思うならばその業火にて我が身を黙らせ炭と変えるがよし!いざインフェルノ、その身を炎となした本領を開帳せねば汝の身に勝ち目はありませんことよ!」

 

チンチンッ、と鯉口を鳴らし込み徹底的にインフェルノを挑発する。果たし合いにて無礼極まる物言いに顔を歪ませ、激怒と憤怒を以て憎しみをたぎらせインフェルノは吼え、荒れ狂う

 

【憎い、憎い、憎い、憎い!嫌い、嫌い、嫌い嫌い!ならば、ならばならば目の当たりにしてくれる!私の炎を!総てを燃やす我が憎しみを!!──宝具、断片展開!!】

 

そして溢れだす炎を、火焔を、燃やし尽くし猛り上がらせ霊基を燃え上がらせ、一息すれば肺が煮えたぎるその沸騰を、そのおぞましき技を垣間見せ、武蔵目掛けて解き放つ──!

 

【私に炎を!!燃えろ、呑み込め!何もかもッ!!】

 

それこそはアーチャー・インフェルノの総ての情念。恨み辛み、怒り憎しみの全てが詰まったその炎の猛りが、怒濤が、総てを食らい燃やさんと猛り狂い、蠢き溢れ襲い来る──最中

 

「好機到来!──二天一流の妙技、御覧あれっ!!」

 

其処にこそ活路あり。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり。隠されたもの、真意、歪むことなき真なる想いが其処にある──!

 

【武蔵ちゃん──!?】

 

駆け抜けていた。炎へ向けて。躊躇うことなく飛び込んでいった。両手に剣を構え、一気呵成に疾風が如く。その炎──アーチャー・インフェルノの全てへと駆け込んでいたのだ。目を見開き言葉が出るのをすんでのところで呑み込む。まだ立ち会いは、終わっていないのだから──!

 

武蔵は自棄になったわけではない。これこそが活路だ。これこそが望むべき斬り裂くものだ。例え魂を殺され、肉体と精神が支配されようとも。ここには熱がある。世を恨む憎しみ、世を嫌う怒り。それらは真正しく、『巴御前が懐きし感情そのもの』に他ならない

 

歪めない。歪ませては炎は燃えない。愛するものの想い、それらを裏切った世界への憎しみこそが──アーチャー・インフェルノの『宿業』を担わせる根幹!

 

「南無、天満大自在天神──」

 

自らが祈りを捧げる明王、倶利伽羅に祈りを捧げ火を掻き分け、切り裂いていく。炎を出している今でなくては、焔となり燃え盛る今でなくてはかの宿業を断ち切れぬ!今こそが好機、逃がすべくもない勝機なのだ!

 

「仁王倶利伽羅!聖天象!!」

 

吠えたぎる炎を掻き払い、薙ぎ払う。臓腑を、肌を焼く灼熱を気合いで乗りきり、一歩一歩踏みしめていく

 

逆巻く竜巻、畝る地獄のような炎を、倶利伽羅明王が焼け爛れながら斬り払っていく。武蔵は止まらず、その目はインフェルノを見つめている。──見える。見える!人が生きていくには不可欠なもの、それを歪めているものの在処が、この天眼には確かに映り込んでいる!ならば振るうのみ、ならば斬り捨てるのみ。躯に巣食いし下劣なる宿業、この一刀にて霧散させる!

 

【──────!!!!!】

 

いよいよもって炎が最大限まで猛る、呑み込む。もはや息をすれば炭になる業火が二人を余さず取り囲んでいる。倶利伽羅明王は余さず火だるまになり、武蔵もまた、燃えている。──身体ではない、心が、魂がだ

 

「我が空道、我が生涯にこの一刀を捧げ奉る!さぁいざ刮目せよ!宮本武蔵が空なる第一歩!」

 

天眼、剣気の昂りを以て剣を振り下ろす。未だ届かぬ宿業の清算、形無き、業に至る未熟と欠落は明神切が助力を為す!

 

【うァアァアァアァアァ!!!!ヨシナカサマ──────!!!!!】

 

懐の必殺の間合いにて、怒りと憎しみに満ち足りしおぞましき一閃が過たず武蔵の首を狙う!

 

「伊舎那!!大!天!象──!!!!」

 

人生の修練を詰め、求道の一閃がインフェルノの宿業を断ち切る!

 

爆発、衝撃、轟音、熱風──ぶつかりし瞬間世界が堪えず悲鳴をあげるも、神田明神の偉容は微塵も揺らがない

 

【くっ、うっ──!!】

 

そのあまりの衝撃に驚愕しながら、目を見開くリッカ。戦いの行方はどうなっている、どうなったのか。武蔵ちゃんは無事なのか!?

 

【むさ──】

 

──リッカの目に飛び込んできたのは、決着の様相であった

 

武蔵の一閃は、明神切は確かに、インフェルノの胸を貫いていた。しかし、肉は切れず血もあらず、するり、とすり抜けたかのような自然さだ

 

インフェルノは硬直している。へし折れた刀を、力なく掲げながら

 

制止した二人、静まり返るような静寂。そんな中、武蔵は確かに感じていた

 

斬り捨てたものの感覚を。するり、と斬り落としたもののを、その何かを

 

肉ではなく、精神ではなく、魂でもない。それでいて、人が生きるに必要なもの

 

その、『何か』を──自分は、この刀は。確かに──斬り裂いていたのだ──




平家の横暴は見過ごせぬ。恐らく荒れ果てていくのは、都だけではないだろう。このままでは日ノ本全てが荒れ果てる。誰かが立たねばならない。戦わなければならん。源氏の世のためではない。あまねく人々が平穏に暮らせるために俺は戦おう

--御立派です、義仲様

そうだろう。立派だろう。・・・ははははっ、それはそうだ。立派な事を述べようと思って述べたのだ。何、今のはただの建前だ。誰に問われても今のように俺は答えるがな

--義仲様?

そなたには本音を言うぞ、巴。俺が平家と戦うのは他の誰のためでもなく。--そなたと生きる明日のために。それだけだ。戦の火が、何をも焼かぬ明日を・・・そなたと共に過ごすため、私は戦うのだ、巴よ


--・・・何故


何故、この光景を忘れてしまっていたのでしょう。私。・・・恨みだけではない、怒り、憎しみだけではなく、私はきっと尊いモノを彼から貰っていた筈なのに

だからこそ、私は生き延びたのです。私は義仲様の言いつけを護って落ち延びた。命を拾った。やがて義秀を産み落とし、尼となって、義仲様の菩防を弔いながら晩年を迎えたのです

私は、そう。祈りながら穏やかに、晩年を迎えていたはずの女。なのに、どうして。

『--なんだ。泣いておるのか、巴よ--』

夕陽を背にして微笑む義仲様の横顔を。嗚呼、巴は、どうして忘れていたのでしょうね--


「・・・恨みなど、憎しみなど、怒りなど。とうにおいていったはずのものを、このように燃え盛らせて狂い果ててしまうとは」

【--・・・】


「無念、無念です。・・・ですが、これも此処で終わるようです。--良かった」

「・・・」

「巴はもう、薪のようにならずに済むのですね・・・--良かった----」

彼方にある、宿業を両断され。インフェルノ・・・巴の躯はパリン、とガラス細工のように砕け散る。御前試合が終わる、黄昏の落陽、夕焼けが辺りに充ちていく

「弓を取らば鷹すら落とし。刀を取らば大木すら断つ。--巴御前、その伝説に偽りなく。此度、勝ったのは手にした名刀の助け合ってこそ」

総ての決着を見据えた武蔵が、夕日に照らされながら明神切厳かに納刀し、刀身に光を反射させ、巴の魂の慰めとする

【宿業、両断。勝負あり】

静かに声を上げ、勝者を告げ定める。武蔵ちゃんと頷き合い。勝負の閉幕を守護神に奉る

【勝者--宮本武蔵】

「--アーチャー・インフェルノ。此処に成敗、仕った」

神田明神の境内、黄昏と落陽の夕陽・・・二人は静かに勝利を噛み締めるのであった--

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