人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「庵から心配してみて来てみりゃぁ、そりゃあ立派な御屋敷で豪遊三昧、おぬいと田助はしらぬいと愉快痛快なよろず屋経営、男女で共同部屋だぁ・・・?冗談じゃねぇ!!」

「い、怒りは最もだがな村正殿。此処に不埒な事を働くような輩はただの一人もおらぬが故に無用な心配だと拙僧は思」

なんで儂を呼ばねぇ儂を!!見てみりゃ美女は選り取りみどり!爺だと侮るんじゃねぇや!まだまだ儂ァ若ェ!女を相手にくらいできらっ、ふぇーーーっくしょいてやんでぃべらんめぇーーーぃ!!」

(うむ、その振る舞いはまさしく年相応の者ではないのかな!)


「ふふっ。とても似合うよおぬいちゃん!」

「ありがとう、おひめさま!ぬい、かわいいかな?こんなおべべ、はじめて!」

[フフ、人間にしておくには惜しいほどだ。紅き月の住人になるか?]

「ほんと!?わぁい!」

「じゃあ元気よく!せーの、オイデヤス!」

「おいでやすー!」

「オムツを変えましょうね、タスケくん」

「あぃー!」

「ネフェルタリ、あなたにもしもがあってはいけない。此処は騎士王たる私が・・・」

「あー、託児所としても優秀なんでございますねぇ、ここ・・・」

「ワフ!ワフ!ワンワン!」

「なんだか妙に厳しいですねアナタさま!?」


--王よ、何故此処でワタシに変わったのでしょう?

《気に食わぬ面があるのでな。しかし・・・贋作を振るうしか能の無かった雑種に一に至らせし鍛冶屋を宿らせるとは、抑止力めも皮肉な真似をする》

--?

《こちらの話よ。--城を害する手段は既に拵えてあるようだ。あとは自壊を何処まで遮れるかという話よ》

--・・・あの赤毛のお爺様が世界に召喚された者、敵を仕留める最後の因子、と言うことなのでしょうか?

(そんなことより)

「?」

(此処は楽園か、天国か・・・美女しかいない・・・着物を纏う君こそが永久至尊--華やかであれ、君は誰よりもかけがえないから--(桜吹雪となり、窓から消えていく))

「フォウ--!?」


天命沙汰・清姫防護任務

清姫に物凄い勢いで手を引かれ、招かれ導かれやって来たのは天守閣の一番上の謁見の間。土気の城の最も高く、姫や城主と見える際によびだされる間だ。倶利伽羅武蔵城においてはもっぱらうどんをすすり空を見上げる場所となっている憩いの場だ。だが、他人の城となればそうはいかない。武蔵、リッカ、小太郎は神妙な面持ちでるんるん気分な清姫の前に正座している。いくら気安く、親しげであっても身分が違いし姫に平面。無礼を働けば首が飛ぶ。家中か、リッカ達か。姫ではない『どちらかが』の話だが・・・

 

「ふふっ、そんなに緊張なさらないでくださいな。但馬守が来るまで、他愛のない御歓談を楽しみましょう?リッカ様に、武蔵様!嗚呼、聴きたいこと、訪ねたいことが沢山あるのです!」

 

(お、お気楽ですね・・・粗相を働けばこちらは首が飛ぶのですが・・・)

 

そのあまりの無礼講ぶりに困惑する小太郎。リッカは別段驚いてもいない。基本リッカは自然体であり、他者にへりくだるような真似はしないのだ。武蔵もまた同じく。彼女がいいというならただ構えは解くのみである

 

「まずは、その活躍の真偽を問う無礼をお許しくださいな。かの怪異の首魁。討ち取ったのは皆様というのは真ですか?」

 

清姫の興味津々な問いに、肘にて武蔵の脇腹をつついてリッカが返答を促す。えぇ~?言っちゃっていいんですかぁ~?とばかりに顔をにへらと崩し、直ぐ様キリッと引き締め、全力でイメージアップを計る

 

「はっ。清姫様がおわす城下、治めし民の平穏と笑顔のため。この身一つを刃とし、この魂を鋼とし。乾坤一擲宿業両断、斬った張ったの大活躍!民草に平穏もたらし皆に笑顔をもたらすため!旭と黄昏に誓い天地神明に誓って刃を振るい!悪鬼羅刹を断ち切り斬り伏せましたとも!報奨も見返りも、何も!求めては!いませんでしたとも!」

 

「まぁっ、なんて御立派な・・・!リッカ様に侍る剣士!やはり素晴らしき方なのですね!素敵!好き!」

 

「ぶっ、ふっ──」

 

思わず盛大に吹き出してしまった。何をまぁ大層な御題目を並べたものである。武蔵ちゃんの目的は強者との真剣勝負。金と地位と名誉が原動力と言っても不思議はないというのに。まぁこれも兵法。仕官するために身に付けたと思おう。俗すぎるぞ、武蔵ちゃん!そう頭をはたいてあげたい気分であった

 

(主殿、笑っては、笑ってはいけません・・・笑っては・・・っくくっ・・・)

 

小太郎の赤毛もふるふると揺れている。必死に笑いをこらえているようだ。まぁ無理もない。先刻前の物欲糞雑魚女郎の醜態を見せてあげたい。どんな反応が返ってくるのだろうか。想像するとなんだか凄く楽しい。武蔵ちゃんの反応が

 

「しかし私など未熟も未熟!こちらにおわすリッカさんは遥か高みにいらっしゃいます!何故ならばリッカさん、剣の極みの頂が一つ、『雷位』に至りし御方であるゆえその腕まさに雷神が如く!龍の雷これ即ち最強なのです!御安心召されよ清姫サマ!不届きなる怪異、即座に我等がリッカさんが討ち取ってくれる~!」

 

「ちょっ・・・」

 

リッカの静止すら暇もなく。清姫が目を輝かせるは同時であった。剣の極み、頂きという仰々しい名乗りがあらば無理はないとはいえ・・・おのれ武蔵ちゃん!失言だったぞと言わんばかりにほっぺを軽くつねる

 

「いふぁいいふぁい!?なふぇゆえ!?」

 

「まぁっ!女の身で頂きに!?」

 

「あ、あははは・・・まぁ、そんな感じに・・・」

 

・・・リッカ的には、自分が極みに達したなどという自負も、実感も曖昧かつ薄味だ。総てを駆け抜ける迅さはそうでなければ宿業に届かなかったからだ。雷がごとき速さは彼方にある宿業に辿り着く為に必要だったからだ。──母上を救うため、至らなければならない境地が『雷位(コレ)』だったというだけの話なのだ

 

・・・本当は持て囃されるべきものではなく、自戒し、慎むものなのだ。何故ならばコレは、自分の最愛たる母上を、どんな理由があろうとも斬り殺し、葬った故の境地、血塗られた技なのだから。滅多にリッカが振るわないのも、そう言った戒めと戒律の誓いから来ている

 

・・・これは母上を救った『証』であり、母上を手にかけた【業】なのだ。自分は、取り立てて自慢するつもりはない。そんなリッカの気持ちは内なるもの。清姫は目を輝かせ食い付いてくる

 

「わ、私!見てみたいと思います!リッカ様が至りし極み・・・!どんな境地にて、その強さが放たれるのか!自慢ではありませんが私は武家の娘、それなりに仕込まれておりますので!」

 

「あはは、ダメですよ清姫様。もう見せる・・・斬ると決めた相手はおりますので」

 

だからこそ、【奥義】を手向ける相手はもう決めている。血塗られた雷、おぞましき稲妻を響かせ切り捨てる相手は見定めている。其処に至るまで・・・雷位は、奥義は封印しているのだと清姫に説明し、分かってもらう事を願った

 

「まぁ・・・なんと奥ゆかしい・・・!つまり、奥義は余人の眼には見せられぬ御留流がもの!素晴らしいですリッカ様!好き!!」

 

(主殿、彼女は見た目も中身もそっくりですがくれぐれも、くれぐれも粗相のないように)

 

(わかってるよぅ)

 

そんな自分の拘りは、他人には関わりのないことだ。だからこそ、見せてほしいと言われたぐらいでは怒ったりなどしない。当然の対応である。そして、暫く清姫の雑談に付き合い、幾ばくかの時が過ぎる

 

「江戸には剣豪が多く集いますのね!天下無双の柳生さま、二天一流の武蔵さま!そして迅雷刹那のリッカさま!あぁ、素晴らしいです!運命の方がそのような・・・あぁ・・・!」

 

(え?武蔵って人気というか、そんなに有名なの?)

 

(江戸時代では宮本武蔵は有名であり、人気ですよ。様々な物語、様々な絵巻に姿を見せますからの)

 

(ふ、ふぅん・・・其処は地元びいきなのね・・・)

 

「私も何か、皆様に誇れる特技は・・・そうです!私、実は小さき頃に蛇を助けたことがありまして!蛇の気持ちや言葉が、なんとなく解るようになっているのです!こう、なんとなくそれとなく!」

 

(まさかの動物会話(蛇)・・・!?やっぱりきよひーと蛇は斬っても切り離せないのかぁ・・・やはり焔か、いつ転身する?)

 

(蛇には売るなら恩が一番よ。下手をすると末代、遠く離れた代まで呪ったりするからね。蛇のようにしつこい・・・っていうのは誇張じゃないわ。私も下手をすれば蛇に噛まれて御陀仏に・・・)

 

(陰湿、執拗、執念深い事を蛇のようとも言いますから。・・・確か、そのような者も人類史にはいたような・・・)

 

そんな歓談が続くなか、襖が開き怒濤の気迫と剣気が辺りを満たす。即座に姿勢を正し、現れた但馬守・・・柳生に悪印象を与えぬように構えるカルデア三人衆

 

「・・・姫、そろそろ」

 

姫の奔放に頭を悩ませていた家中に助け船を出し辺りを引き締める。楽しい話し合いはここで終わり、正式に話の沙汰を確認する会談が始まることになる

 

「はい、私ったらはしたない。では、改めて・・・先の怪異討伐、誠にお見事でした。城下に生きる民草たち、私自身も含め、松平様にお代わりお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございました」

 

頭が高いと言われる前に即座に頭を下げ、お褒めの言葉を慎んで受けとる。ゴージャスに仕えているためへりくだる要素など微塵もないのだが其処はそれ、礼節と道理の問題である。ぷれしゃす抱えの看板に泥を塗るわけにはいかないのだ

 

「光栄でございます。慎んでお受取りを、清姫様」

「右に同じく」

「はい、右に同じく」

 

睨みを利かせてくる柳生をいなしつつ、話を促すリッカ達。そして話される。自らの下に暗殺を成さんとせし言葉を遺してきた何者かがいると。民草では飽きたらず自分自身すらも害さんとする者がいると。その心中は推し量れるものに非ず、静かに沈黙が成される

 

「そして混乱収まらぬなか、私に届いたおぞましき文・・・此処には柳生さまもあり、精鋭五百余名があるというのに・・・私は言うべきではないのです。・・・怖くて、たまらないなどと・・・」

 

蝶よ華よと育てられた姫に突き付けられた、その突然の生死の瀬戸際。その胸中の不安や悲しみ、苦しみはいかばかりか。それでも清姫は気丈に、上に立つものとして、しっかりと顔を上げ剣豪たちにしっかと告げる

 

「ですが、言います。言ってしまいます!リッカ様!私、不安なのです!怖いのです!だから・・・だから、どうか私を護ってください!皆様のお力で!」

 

「解りました」

 

リッカは無論即答し。頷く。殺害予告を見逃すつもりはなく、同時に清姫を見殺しにするつもりもない。自らが助けられる生命、救うために此処にいる。事此処に至り迷いなどあるはずもなく。そしてこれは、自らが選択し、選ぶべき決断なのである。乙女の仕事の八割は決断、後はおまけみたいなものなのであるのだから

 

「あぁっ!──ありがとうございます!リッカ様に、皆様に護っていただけるなんて!私、私・・・!嬉しくて死んでしまいそう!!」

 

「死なないための護衛だから死なないでね!?・・・──それに」

 

それに、約束したのだ。始まりは突然であったが、それは確かに約束となりて紡がれた。だからこそ、ならばこそ。為し遂げねばならないことがある

 

「貴女との運命──けして、忘れてはいませんから。清姫」

 

ウィンクにて、安心させるつもりにて放ったリッカの一瞥。だが、それはあまりにも強烈すぎた

 

「あぁっ──!!」

 

くらりとよろけ、安らかな顔にてパタリと倒れ伏す清姫。あまりにも運命の人(暫定)の振る舞いが理想通り、予想通りという偶然にて夢見る心がオーバーロードしたせいだ。幸せそうな顔にて、表情にて穏やかに気を失っている

 

「好き・・・(やすらかなかお)」

 

「姫ェー!?己貴様ら、狼藉者めが!」

 

「いや私達なにもしてませんよ!?ちょっとリッカさんが声をかけただけじゃないですかぁ!?不当!不当です!そこのおじさまも何か言ってやって──・・・」

 

「貴様ら」

 

冷厳なる物言いが、辺りを一喝する。静まり返り、二の句を告げられぬ厳粛な中、沙汰を申し付けられる

 

「──姫様を、佳く護ってみせよ。しくじれば、打ち首ではすまぬ」

 

リッカと武蔵を見据え、静かにそう告げる。それは任命、まさしく一任に相違無い、正しく姫の守護を任せるモノであったのだ

 

「!じい様やっと私達の実力を認めるつもりになりましたね!えぇ、いいですとも!バッチリシッカリ護って見せますから見ていてくださいね!」

 

「貴様ではない。そこの藤丸めに申し付けたのだ。未熟者よ、脚を引っ張らないようにすることだ」

 

「ぬっっっ──やっぱり延びきったうどんね!食べられなーい!!!」

 

ぷんすか怒る武蔵、姫様を抱えて帰る柳生。そしてほっと胸を撫で下ろす小太郎

 

(あの剣気、サーヴァントですら総毛立ちます。あれほどの人間がいるとは・・・)

 

(・・・)

 

(・・・主殿?)

 

リッカは動かない。小太郎に不安と衝撃が走る。もしや、気に当てられて・・・!?

 

「しっかり!しっかりなさってください主殿!息を吸って!吐いて!ゆっくりと!はい!しっかり!!」

 

慌てて体を揺すると、リッカの口から断末魔が、おぞましき声があげられる

 

「足がしびれっ──ぁあぁあぁあぁ~!!しびれるおとぉお~!!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「ちょっ、まっ、ツンツンしないで!止めて!止めてぇ!あっ、あぁ!あぁあぁあぁ──!!」

 

足に正座魔術を受けた、リッカは暫くいたずら好きな忍びと侍に弄られるのであった──




そして、介抱にて目覚めた清姫と色んな時間を過ごした


「先に言った通り、私は薙刀を仕込まれております!極みとは言いませんが、二人にだって負けません!」

(ほっこり)

(ほっこり)

「では、証拠を御見せいたします!たぁあぁ--!!」

「おいでー(ほっこり)」

「かかってらっしゃーい(ほっこり)」

共に夕食を食べ

「武蔵さまは世界を旅して!?」

「そうそう、御機嫌王様に拾われたのです!」

「御機嫌おー!?」

「御機嫌だよー。箸が転がっただけで笑ってる。雑種って言った回数が10回に満たない」

「まぁ・・・!!」

そして、夜


「・・・・・・」
「・・・・・・だんぞうちゃん、こたろーくん、近いよ・・・」
「・・・・・・」

「いや、だからね?顔がね・・・体がね?もう少しスペースを」

「主殿」

「マスター殿」

「?」

「「賊です」」


「--!?」

僅かな休息は、終わりを告げる--




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