人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『ごぉじゃす殿。賊にござる。どうやらアサシン・パライソの模様。これより交戦に入りまする』

「よし。適当に相手をしてやるがよい。此度は顔見せ、緒戦であろうよ」

『緒戦でありまする、か?』

「然り。本領、宿業を断つ前に逃げ仰せよう。しかして忍が顔を出す以上、何かしらの情報の開示があろう。適度に追い詰め、余裕を持たせ追い払うのだ。あちらに主導を、華を持たせつつな」

『承知いたしました。そのように事を運でござる。--では、失礼します』

「--ふむ、情緒は治りが緩やかよな。あと一匹程の経験がいるか」

--36通りの内、もっとも警戒が薄いルートを選んできましたね。流石は忍でしょうか。ゴーレムは倒されましたが死傷者はおりません。接敵、数分後となります

「よい。アサシンごときに遅れはとるまい。ゴージャスの配下にそのような惰弱はおらぬ。不確定要素があるとすれば--」

・・・--清姫様、でしょうか

『恋とあらば暴走するのがアレの起源だ。無茶しなきゃいいけど・・・』

--信じて待つ。これは中々、もどかしいですね。ですが、手出しは無粋。ただ見守ることが今回の使命ならば、ワタシは全力で信じて待ちます!あ、御夜食の差し入れくらいはよろしいでしょうか?あたたかーい御茶漬けは、夜風にて冷えた身体や胃に最適です!おぬいちゃんに教わりましたからね!

『キミはいつだってぶれないね。素敵だよ、エア』

--フォウにも作ってあげるよ~。ほかほか御茶漬け!ね?しらぬい

「ワフ」

『うわぁ!いたのか君!?』

《--エアを当たり前のように認識する。それだけで、正体が図れると言うものよな》

「ワフ?」

《ふはは!何処までも惚けたヤツよ!・・・金箔餅を食らうか?》

「ワン!」


姫の部屋

「此処で待ってて!姫様!」

「武蔵様!リッカ様は、リッカ様は・・・!」

「大丈夫!先に行ってるから!どーんと待ってて!」

「でも、でも・・・私も、私も・・・!」


アサシン・パライソ--顔見せ

「曲者だ!であえ!であぇい!!」

 

 

草木も眠るウシミツアワー。異なる歴史によって形作られたシモウサ・トケ・キャッスルにて騒々しくも生物大移動めいた騒ぎがこだまする。それらはキャッスルに忍び込みしスゴイ・シツレイな侵入者を討伐するために呼び出され、防護についていた島原の争乱を乗り越えたベトコン帰りの兵士にすら劣らぬツワモノたち20名。それらが中庭にて深紅の月が照らす不気味なる物陰を取り囲む

 

「神妙にせよ!大人しく縛につくか、さもなくば叩き斬ってくれる!」

 

モブシ。物語においてある意味必要不可欠な前線にて果敢に戦うモノ達がずらりとならびその物陰に威嚇と罵倒、一糸乱れぬ包囲網を展開する。いずれも柳生家中、同時に姫を護るために集められし一流の侍達である。その一般市民なら震え上がる剣幕にも、その影は飄々とした体勢をくずさない。ゆらり、ゆらりと蛇のようにつかみ所なく笑っているのだ。一同を、冷たい汗が伝う

 

【おやおや、侍どのが雁首を揃えて結構なことでござる。いつの世も忙しなく、喧しく、見かけ倒しな事はあるでござるなぁ】

 

嘲笑いながら、その者は笑って何かを投げて寄越す。それは首であった。あの女武者からの提案によるカラクリ仕掛け。それらが全て、キレイに分断され、足下に投げ捨てられたのだ。その切れ味、切断面を見れば窺い知れる。全てが何の遮りもなく通り抜けたような滑らかさであるのだ。戦慄が深まる一同。それを為した者が、此度の賊であるのだから・・・

 

【いやはやお見逸れいたした。このような人形遊びに傾倒するなぞ、余程平安は心地好いのでござろうなぁ。気楽なことにござる】

 

嘲笑いながら、くすくすと笑みを表す。その所作は美しく、またおぞましい。それに畏怖を覚えながら、撃退を為そうと隊列を組む。それを見て笑みを深める賊将。あわや全滅かと為されたその瞬間、命を拾う横槍が入りまったをかける者が、その影が一つ、いや二つ

 

「侍方、この怪異の相手は我等がつかまつる!どうかこの場はお任せを!」

 

その影は素早く、音もなく黒い影に躍り出、襲い掛かる。その場にいた黒き妖しき影と共に連なり飛びたち、クナイがぶつかり合う音と様相を辺りにもたらし火花を散らす。屋根の上、屋内空中中庭にて。一の影が増えたとおもえば十にて絡み合い、一つ投げたクナイが蛇へと変化し、スチームやカラクリの起動音が辺り構わず鳴り響き、侍方達を混乱に陥れる。それらはニンジャのイクサ。マスター動体視力が無ければ見ることすら、遮ることすら出来ない超常の戦いである。眩惑、目眩まし、瞬間移動に特殊な歩方。それらが忙しなく入り乱れ飛び交うなか、声が響き渡る

 

「怪異の討伐は、我等が請け負いまする。但馬の守と合流し、体勢を整えなされよ。我等忍に、そしてマスター殿にお任せあれ」

 

「ぬ、ぬぅ・・・確かにいんへるのとの戦い、我等の仲間たちは手も足も出なかったと聞く。此処で生命を捨てては姫様を護れぬ・・・!」

 

一致決断。此処は専門家に任せ、姫の防護に専念する。そう判断した一同は素早く踵を返し姫のいる部屋を防御に向かう。それを見て安心する二人、嘲笑う一人

 

【おやおや、容易く背を向け尻尾を巻くとは驚愕にして落胆にござる。忍びにまける侍とはまこと世も変わりもうした。そのような腑抜けの生命など喰らってもつまらぬはつまらぬが──】

 

ニィ、と二人の忍を分身、変わり身にて相手取りながら嘲笑い、同時に──

 

「う、ぅわぁあぁあぁ!!?」

 

逃げ出した侍達めがけ、巨大な蛇の頭が呼び出され差し向けられる。よりにもよってクナイも届かぬ屋根上に到達した一瞬を見計らって、だ。その悪辣なタイミングにて侍達を狙う宿業の悪辣さに二人は舌を打つ。不味い、これでは無用な被害が──そう感じた刹那、その瞬間であった

 

【ぜぇいっ!!】

 

気迫一閃、高揚一薙ぎ。泥により編まれ形を為した恐ろしくも鋭き槍の一薙ぎ払いが侍を喰らわんと襲い掛かってきた蛇を一刀の下に撥ね飛ばす。宝蔵院の槍の教え、未だ至らぬ槍の基礎。薙刀がごとき一撃をアンリマユにて本当に薙刀に変化させ再現したのだ。その闇より黒くしかして輝く真紅の瞳を懐きし龍鎧のマスターが侍達を発破し撤退を促す

 

【退け!ここは後ろに向かって全力で後退するが最適解!怪異無く、自分達がいなくなった後の姫様を護るのは皆さま方!此処で生命を失ってはいけません!此処は私たちにお任せを!あなたたちの戦いは、この後に続くものです!!】

 

その物言いの力強さと確信に、今度こそ承知とばかりに引きおおせる侍達。絡み付く蛇を、その群れを一つ一つ基本の所作にて薙ぎ払い蹴散らしていき、その黒き血潮が辺りにばらまき散らされ黒く染めていく。総ての蛇を穿ち祓った頃に、槍を振り回し高らかにマスター、藤丸リッカは告げる

 

【この闇に身を潜め生命を付け狙う遣り方、英霊剣豪がアサシンとお見受けする!きよひーを暗殺しにやってきた不貞なる輩!その姿を見せてみろ!然るのち、首を貰う!!】

 

威圧と気迫を見せつけ鼓舞する物言いをさらりといなすかのようにからからと笑いが闇に響き渡る。その声に良しと答えるように。はじめからそのつもりだと言わんばかりにその影が姿をマスターの、リッカの前へと表す

 

【見事、見事。薄汚い人類史の澱み風情が人の振りなどよくやったもの。その滑稽なる舞に免じて此方も姿を晒すにござる。──見たければ特とみよ、カルデアのマスター、藤丸リッカ。そして知るがいい】

 

それは──小柄な少女のようであった。美しき黒髪、華奢な裸身にはい回る蛇のような痣。それでいて身体を縛り付けるかのような黒き布地の包帯のような意匠の装い。そして強調される女性としての肉体の滑らかさと艶やかさ。──知っている。リッカはその姿を知っている・・・!

 

【我が忌名、アサシン・パライソ。・・・その奇怪な目線は何でござるかな、マスター殿。気迫や殺気というにはあまりに間の抜けた頼り無さ。そんなに何を驚いているでござるか?】

 

硬直していた鎧の龍武者が首を振り、目の前に現れし忍--いやさ、くノ一に度肝を抜かれ仰天し、張り上げるような声にてそのパライソの格好と装いを感嘆と共に歌い上げる

 

【夏を刺激するクノイチ・・・!ナマ足、魅惑の、ゴウランガ・・・!!】

 

そのスタイルは平坦ではあれど、鍛え抜かれスレンダーな機能美に満ち溢れておりとても美しい。アザや黒がまた、とても危うげな雰囲気を醸し出している。いかなるモノが忍かと思いきや予想外も予想外に驚愕を隠せない。そんな様子を目の当たりにし、弾けたように笑うのはパライソの方であった

 

【あっははははははは!カルデアのマスター殿はクノイチがそんなにも珍しかったでござるか!これは失敗したでござる。であれば正体を隠し、近づいてくびり殺してやればよかったでござるなぁ。あの愚かにも情にほだされし黒縄地獄の様に--】

 

【────】

 

【ならば、いざや死ねぃ!冥土の土産に我が身は相応しかろう!伊吹大明神を辱しめた貴様にはその末路がお似合いにござる!!】

 

その憤怒と憎悪を即座に刃に乗せ、素早く翻りリッカに飛び掛かるアサシンパライソ。それをリッカは【刀】にて受け止め、少しの拮抗ののち力付くで吹き飛ばす。

 

【──────ッッッ?】

 

一瞬首筋に走った稲妻のような寒気に戦慄を覚えながらパライソは仕切り直しと距離を図り、弾かれすたりと屋根上に着地する。同時に襲い来る忍び達を相手取りながら

 

【さてさて、姫の暗殺を命ぜられた身ではあるがもう一つの命も果たさねばならん。そうでなくては主命を果たしたとは言えぬのでな。まっこと、いつの世も忍は難儀なものにござる】

 

「主命──?」

 

【如何にも。いざや耳を傾けよ。我等英霊剣豪、悪霊に非ず、亡霊に非ず、怨霊に非ず、無論英霊にも非ず、人の世を終わらしせしめる剣豪がごときもの!】

 

高らかに告げるパライソ。赤き月に負けぬほどの血染めの眼差しが爛々と猛り狂い、呪詛が如くに言葉を歌い上げていく、段蔵、小太郎の追撃を捌ききりながらその本懐を告げていく

 

【我等、ルチフェロなりしサタンの名の下に、尊き命を完遂する!此即ち人の世を終焉とし新たなる世界の礎とす、空前絶後の大偉業!我等が頭目、妖術師のもとおんりえどは築かれるであろう!嘆け、叫べ!悲嘆せよ、救いなど何処にも在りはせぬ!故に、貴様ら生命は只の贄──何ィ!?

 

瞬間驚愕したのはパライソであった。小太郎ではない、段蔵ではない、さりとてリッカでもない。全く別の死角より、過たず何かが『飛来していた』のだ

 

「おっ、ととっ!」

 

それは『刀』。明神切村正であった。宿業万物全てを切り裂く。村正至高の失敗作が一振り。武士の生命たるその刀を、天眼にて必殺の一刀ならぬ一投にて放り投げた。段蔵がロケットパンチにて回収していなければ何処ぞに名刀が放り込まれるところであったのだ。そのあまりの大胆さにパライソの余裕が崩れ去り、三人が驚愕する

 

「ちっ、当たらなかったか。段蔵ちゃんナイスキャッチ!返して!」

 

「は、っ!はいどうぞ!」

 

「ナイス!リッカさん、肩を借りるわね!」

 

【オッケィ!】

 

ぎゅいぃん、とカラクリを唸らせてしならせ大業物をあるべき持ち主の場所へ返す。同時にリッカの肩を踏み、跳躍し、二本の刀を振るいてパライソを十文字に切り捨てんと躍り出る

 

【チッ、剣客かとおもえば大道芸の類いとは見誤っていたでござる。興が殺がれた、此処は退かせていただこう】

 

「あら、忍は相変わらず強かね。やはり勝ち目がない戦いはしないのでござるか?ござる?ござるぅ?」

 

【人を苛立たせるのが上手な女でござるな──ん?】

 

そんななか、リッカの方面を見やったパライソの顔が歪む。其処に絶好の獲物が在ったからだ

 

「リッカ様!御無事ですか!そのような雄々しき鎧を纏おうとも解ります!あなたはリッカ様!リッカ様なのでしょう!大丈夫です!私が、清姫が此処にありますから!大丈夫です!」

 

【清姫様!乱心なさらないでください!大丈夫!大丈夫ですから!此処は私たちにお任せを!】

 

「いいえ、いいえ!私はあなた様を御守り致します!運命の人に戦わせてばかりで何が姫でありましょう!私に背中は、背中はお任せください!」

 

清姫がリッカを心配し、たまらず跳ねとんできたのだ。リッカを想い、自らも闘わんとする気高い発露なのだが、パライソにとってはそれが好機となる

 

【お命ッ──頂戴!!】

 

渾身にて投げられたクナイを、なんなくリッカが弾き落とす。清姫を庇いながら、右腕にて槍を回し無力化し姫を護る

 

「段蔵殿!」

 

「はい!」

 

「「共闘(ユニゾン)!!」」

 

同時に隙を晒したパライソに二人で挟み撃ちにし、クナイを仕込み刃を同時に翻し、パライソを同時攻撃にて穿つ!

 

「──ふっ!!!」

 

武蔵もそれに合わせ、渾身の力にて刀を振り下ろし叩き斬らんとする。そしてそれは果たされる、が・・・

 

【フッ──細工は粒々、に御座るよ】

 

ほわり、と影となり消え失せ霧散するパライソ。どうやら逃げの一手は打たれていたようだ。気配が消え去り、静かに刃を収める武蔵、周囲の警戒に飛び去る二人の忍

 

「大丈夫ですか!?清姫が!この清姫が御守り致します!大丈夫!大丈夫ですから!共に、共に生き残り!私達の運命を始めましょう!さぁ!いざ!いざ!いざ!」

 

【順序と道理がメチャクチャです!まもるの私!護られるのあなた!ちがうでしょー!むさしちゃーん!たすけてぇ!たすけてぇー!】

 

清姫にぴったりとくっつかれ、じたばたと騒ぐリッカ。平時ならばこんな無茶をなさる姫様に説教の一つも交わしているところだが、今はそれどころではない。取り逃がしたパライソ、その真意が図りかねているからだ

 

「必ずまた来る。次こそその影、たたっ斬る」

 

武蔵が星空を睨み付け、雄々しく屋根より飛び降りる。そう、これはほんの小手調べ。未だ本戦御前試合には至らぬモノ。故にこそ──アサシン・パライソが撒いた種の悪辣さを、気付ききるものはいないのであった

 

──その種は、夜も明けぬ内に芽を出す事となる──

 

 




【はっ、はっ、はっ・・・】


【おや、パライソ。そんなに息を切らしてどしたの?何処かにいくんやろか?ほいほいと】

【衆合地獄・・・貴様には関係無い。ただ魔力が切れただけだ。補充して、直ぐに】

【あらそう。気づいてないの?ようけそないに保ったもんやわぁ。それがあのマスターはんの仕業。ほんにおそろしゅうておそろしゅうてかなわんわぁ】

【--?何を、何を言っている?】

【あぁ--【取れとるよ、首】】

【な、に】

瞬間、ずるりと、ごとりと。アサシン、パライソの首がずれ、衆合地獄の足下にぽんぽんと転がり落ちる

【刀、抜かれたんとちゃうん?きづかんかったん?そないに速かったん?はぁ、おっとろしいわぁ・・・】

馬鹿な、アノとき、確かに、刀を防いで。いや、待て--



【ぜぇいっ!!】



・・・あのとき、直前まで振るっていたのは、『槍』では--なかったか・・・?


【いややわぁ、怖いわぁ。怖くて怖くてかなわんわぁ。首を落とされたことにも気付かん一閃。よっぽど怒らせてしもたんやねぇ。・・・なら】

ひょいひょいと、頭をまたいでパライソの身体に近寄る衆合地獄

【待て、貴様、なにを・・・】

【怖いから・・・『伊吹大明神さま』に御祈りするしかないやろねぇ・・・?】

【----ひ、っ--】

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