「南無、八幡大菩薩--願わくば、この矢を届けたまえ!」
ぷれしゃすの屋根にて、召喚された俵藤太。渾身の一射を、百足に向けて放つ
その弓矢は過たず飛来し、百足の眉間--弱点に向かい飛ぶ、が--
「むっ--!?」
眉間に届いたはずの弓矢は『打ち払われた』。その百足の眉間には【小柄の鬼】がおり、こちらに手を振っている
「むぅ--、当然ながら防御を固めているか!宝具にも対策しているとは参った参った!」
--遠方からの征伐は不可能、ですか
《良いぞ。アレほどの図体なのだ。多少の防具、防備を整えておらねば無能の謗りを受けよう。神話の弱点など最たるものよ。--まぁ、マルドゥークを呼び一捻りにしてやるのも一興であり最適解ではあるのだが・・・》
『DEBAN!』
《いや、よい。ようやく衆目に曝されし余興なのだ。『まだ』起動と披露は控えておけ》
『SONNAー』
(心配しなくていいよ。エアたちの街に来るまえにボクが捻り潰してあげるからね)
--そうなる前に、あらゆる手を尽くすから心配ないよ。力があるからって、対応できるからって。親友を危険な目には会わせられない
(エア----(虹色の米俵になる))
《砥石が増えた程度よ。我等が起つにはまだ相応しき舞台ではない。マスター共に・・・あの狼で事足りよう。特等席で眺めてやろうではないか。酒の肴、新たなる神話をな》
--狼?しらぬいの事ですか・・・?
駆け抜けていくしらぬいを、エア達は静かに見送った・・・
「そういえばリッカさん、リッカさんご褒美は何に?使ってるところ見たことないのですが・・・」
「首塚買い取って全額補修と御供えに注ぎ込みました」
「・・・oh・・・」
突如現れた、山に巻き付きし大百足。それらの偉容ははるか江戸に垣間見え、はるか音を聞かせ、下総を、日ノ本を激震させた。その赤紫の身体、頭を覆うおぞましい人の頭蓋骨。ギチギチと身体をよじれば空気が穢れ、雲は暗雲漂う不安と恐慌を掻き立てる空模様を固定せしめる。小さな山とはいえ、本来の伝説ほどではない大きさには無いにせよ、泰平の世には十二分以上に驚異であり、脅威に過ぎる。故に──
「ワンワン!!」
しらぬいは、リッカ達は駆けていた。都に座をなす英雄王は動かず、リッカ達に対応を一任したのだ。ゴージャス御殿に万が一がないように、との判断である
「御機嫌王も無茶ぶりですね!?『害虫が湧いたぞ、対処せよ。剣豪などには及びもつかぬ前座だ、容易かろう』だなんて!」
武蔵、小太郎、段蔵、リッカも疾風のように駆け抜けるしらぬいを追いかけ駆け抜ける。一同は山の麓、そして其処に居を構える村正、胤舜を慮り。一目散に駆けていたのだ。アレほど巨大な百足ならば、庵を砕くなど容易きことこの上なかろう。それはならない。サーヴァントとはいえ、確かに此処にある生命、見棄てるわけにはいかない・・・
「いそげ、いそげ、しらぬい!じいちゃまがしんぱいだよぅ・・・!」
「きゃい、あうー!」
「ワン!!」
一声鳴き、もはや車より速く、迅速にダッシュし駆け抜けていくしらぬい。当たり前だが、しらぬいも急ぎ、村正の身を案じている事を感じさせ、一同を引っ張るかのような揺るぎない足取りだ。そして──
「待った待った待ったァ!なんでアタシも道連れなのサ!?そりゃああんな生百足を目にするたァ思わなかったが!あんなもん絵描きは墨絵を描くくらいしかどうしようもないってもんだよ、あまてらすさま!?」
しらぬいが連れてきたのはお栄、絵描きの大切な仲間にしておぬいの絵の師匠でもある女性だ。本人が言う通り戦闘力など皆無ではあるのだが・・・彼女はサーヴァント。けして役立たずなどではない。だからこそ、しらぬいは彼女を連れてきたのだ
「ワフ!」
黙っていなさい、舌を噛むからと言わんばかりに抗議を遮るしらぬい。落ちたら全身打撲の大ケガは避けられない状態の速さを維持したまま苦情をスルーし、一同は駆け抜ける──!
「ここまで来たならば、小太郎殿と拙者が抱えまする!」
「オッケー御願い!あ、小太郎君が私で!段蔵ちゃんがリッカさんを御願い!」
「はっ!えっとその、その心は!」
「抱かれるなら美少年!!」
「ぶれないね頼もしいや!!」
「ワォオォオーン!」
一同は魔が待ち受ける膝下、その庵に駆け抜ける──!
かけぬける それがさいてき けものかな
【おっと、来たか来たか。早馬もかくやという速度。逆落としにも使えるやもしれぬ勤勉ぶり、まこと愉快愉快】
最短で駆け抜け、しらぬい達が庵に辿り着き待ち構えていたのは叫喚地獄。先程声をかけたとは思えぬ程の速さで先回りを果たしていたのだろうか。身軽さにおいては英霊剣豪の中でも随一やもしれない。優雅に笛を吹き鳴らし木に飛び移ると、一同を見下ろし睨み付けながら、哄笑と共に歌い上げる
【先に伝えた通りだ、刀鍛冶、そして坊主!特にその女子供に伝えておくがいい!!】
美麗な顔立ち、美しき身のこなしを殺気にて歪ませながら、軽快に飛び去っていく叫喚地獄。その高笑いを終幕の合図とし、村正と胤舜は刃と槍を下ろす
「おぼうさま!じいちゃま!だいじょうぶ!?」
「おう、ぬいか。──心配ねぇ。ったく、こんな時に戻ってきやがって。悪いな、心配させてよ」
「ワフ!」
「矢も盾も堪らなかったって?・・・そうかい。そいつはどうもよ」
何時も通りのお惚け顔、その変わらぬ図太さに安心したように笑う村正。どうやら二人で、彼女を食い止めていたようだ。傷だらけ、斬り跡だらけな事がそれを証明している
「いやはや、まるで風を踏むかのような軽やかさ、そして容赦の無さ。変幻自在、自由奔放というのはこういう事なのであろうなぁ」
袈裟を払いながら胤舜は飛び去った方を眺めていた。彼が村正と共にいなかったならば、叫喚地獄に村正を害され、結界が潰され。庵は即座に百足に潰されていたかもしれない。・・・本当に、頼れる味方で救われた気分だ
「お疲れ様でした、胤舜殿。まさか直接攻め込んでくるなんてね。まるで情緒を弁えない狂犬みたい」
「全くだ。首を寄越せ、素っ首差し出せだの喧しくて敵わねぇ。・・・だが、そんなもんは問題じゃねぇ」
見ろぃ、と村正が視線を促す。黒い空、紫の雷、そして川は腐臭を醸し出し魚を余さず殺す。その一帯には障気が蔓延り、そしておぞましく時空と空間を歪めている。それだけではない。山も、ただ事ではなき邪気を醸し出しているのだ
「うっひゃあ・・・地獄絵図もかくやとは驚いたァ。アタシもととさまも、実際問題地獄を見るのははじめてだい」
「【山を丸ごと異界と化した。此より下総を腐らせる要石とし、おんりえどの贄としてくれよう】だの・・・聞いてもねぇのに、べしゃくしゃくっちゃべってくれやがった。あの野郎、遣いや伝令には向いちゃあいねぇ類だな」
呆れたように村正が目を閉じ、そしてその後、ぬいと田助を見やる。その目には、憤懣やるかたないといった怒りと悔しさを湛えたものがあることを・・・リッカは見逃さなかった
「【我等英霊剣豪、山頂にて待つ。来ぬと言うならば百足を下総に放ち、全てを蹂躙し貪らせ日ノ本を害する刃とする。同時に贄を百足の腹の足しとする】・・・そう告げるだけ告げていった。どうやらこちらを誘き寄せる餌も万全といった様子。まこと悪辣であり天才的だ。断ればアレを放ち、向かえばあの魔境に入らざるを得ぬといった選択を取らねばならなくするとは」
胤舜も苦々しく呟く。──生け贄、つまるところ囚われた人間がいると言うことなのだろうか。ならば迷う暇などない、一分一秒が惜しい!リッカは矢も盾もたまらずに声を上げる
「行こう!!どのみち英霊剣豪は倒さなくちゃいけないんだし、捕まった人がいるなら放っておけない!」
それはカルデアや研鑽などとは関係無く、生命を見落とし、見過ごすなどリッカが断固許せぬ事態だ。迷う暇などない、迷いなどない。それが即座に決められること。誰かの命を蔑ろにせず救うこと。それが自分が自分であることの理由。人類悪が人間でいられることの証左、矜持であり生きざまなのだ。──例え、それが罠であろうとも
「はい、段蔵も賛成いたしまする。囚われた人、人質や捕虜がいるならば即座に救い、保護するべきだと私は思います」
それに真っ先に賛同したのは段蔵であった。その金色の瞳を、義憤と怒りに燃えさせ言葉を震わせている。それは、共に生活をし、よろず屋を助けた際にぬいの話を聞き、そして心待にしていた・・・庵の団欒を台無しとされたこと、そして同時に、非道なる作戦へと踏み切った、大切な人を害された『個人として』の怒りであったのだ。──個人の、情であったのだ
「──僕も段蔵殿に賛成です。日ノ本を害さんとする悪手は、断たねばならないかと」
その情緒に、胸の内に沸き立つ想いを抑え込みながら努めて冷静に小太郎も賛同する。段蔵と小太郎、心は一つであるがゆえに。導き出す結論も一緒である。道理が通らぬならばそれを糺す。生前ならばいざ知らず、それを果たせる主君と王に仕えているが故に、迷いはない
「私も乗りましょう!本当なら生命のやり取り、理のない事はしない下衆なれど、義憤と正義に燃える友がいるなら話は別ってもんよ!」
ドン、と胸を叩く。言う通り、自分は面倒事には尻尾を巻き、見て見ぬふりして通り過ぎ、事なかれと無用な争いに首を突っ込まぬ外道だ。英霊剣豪と性根は同じですらあるかもしれない。されど──戦友、相棒がおうさと膝を叩き起ったならば、それを支えずしてなにが剣客か、サーヴァントか御機嫌王に仕える宮本武蔵か!友のために振るい、正しき道に剣を震えるならば重畳としてリッカにウィンクを贈る。それにリッカは、力強く頷き応え、確かに視線を交わし合う
「では拙僧は皆の帰る場所を護るとしよう。なぁに、我が槍、全てに勝る武器ならば。高々巨大なばかりの百足ごときに遅れはとらぬさ!任されよ!」
衆生護るが槍を極めた理由。それを為すに迷いなし。元々槍は神仏穿つもの。ともすれば外道に落ち死んでいた身、此処で消え去るならばそれまでの事!精悍に笑う宝蔵院胤舜。百足など取るに足らぬと胸を叩く
「・・・ったく。物怖じもねぇとはたまげた奴等だ。まぁ、悪くはねぇがよ。奴等にゃ・・・鮎を皆殺しにしてくれやがった礼をしてやらなきゃならん」
百足の影響にて裏の清流の魚は全滅してしまった。百足は大気や水質汚染も司る妖怪である。山も、河も、このままでは住めるものではなくなってしまう。それらの生き物達の為にも、死んでしまった魚たちの弔いのためにも。・・・あの百足と剣豪には落とし前をつけさせてやらにゃならんと。──村正は息を吐いて告げたのだ
「やろう!みんな!よろず屋、あまてらす!みんなの力でやっつけよー!」
「あぅー!」
「こうなりゃ破れかぶれだァ!徹底して付き合ってやろうじゃないのさ!男は度胸、女は愛嬌ってなもんサ!描いて描いて、描いてやろうじゃないのさ!」
三人もまた、覚悟を決めたようだ。よろず屋の経験によるもの、恐怖を上回るその責任感と使命感、好奇心にて奮い立つ三人。紅き月の誘いを受けたぬい、将門公におしめを変えてもらった田助。そして、しらぬいの弟子。迷う理由は一つもないのだ
・・・此処に逃げ出すものは一人もいない。皆が皆、山に巻き付く百足を、英霊剣豪を見据え、闘志を燃やしている。ならば、向かうのみ──!
「──よし!じゃあ皆で行こう!!武蔵ちゃん達は天辺に!あの百足の相手は私に・・・おうっ!?」
自分なら、人類悪の自分ならなんとかできる。ティアマト母さんも食い止める事ができたなら百足くらい・・・そう思い、リッカが名乗りを上げたとき。頭突きをかます者が一人
「ワン!」
同時に、リッカより将門宝剣、勾玉を拝借し、其処に佇むしらぬい。──いや、それは、何処かが様変わりしていた
「・・・しらぬい?」
「──ワフ!」
宝剣と勾玉を抱え、任せろと言わんばかりに力強く鳴くしらぬいの身体に──真紅の隈取りが施されていた──
準備をすると言い、思い思いの支度にかかる中、村正はただ鉄を打つ。頭を冷やし、冷静に戦うために
「ワフ」
そんな中、村正の間に一匹の狼が訪ねる。--しらぬいだ。ただ静かに座り、村正を見ている
「おめぇか。・・・ったく。百足の相手は任せろとは大胆不敵な野郎だな。惚けたつらしやがって」
「ワフ」
「--あぁ、解ってる。そうだ。浚われたのは、贄に選びやがったのは・・・ぬいと田助の両親だ。だから--此処で待たせる事も考えた。だが、おめぇはやるんだな、あいつらを連れて」
「ワン」
「・・・--お前さんも、儂も。人の手に呼ばれたもんじゃねぇ。神様に呼ばれたもんだ。これが切っ掛けだってんだろ、しらぬい」
「ワフ」
「・・・何?百足は『龍』を喰らう。リッカを喰らわせるわけにはいかねぇ・・・だぁ?・・・ったく、てめぇがどんだけ苦労するかわかってんだよな?」
「ワゥ、クーゥ」
「・・・言うじゃねぇか、馬鹿野郎。なら・・・任せたぜ、しらぬい。お前さんに、あいつらの生命を託す。三上の伝説の百足、討ち取ってみろい」
「ワン!!」
「--いいか、百足ってのはな--」
天辺
【来るか、来ぬか、来るか、来ぬか、来るか・・・】
【叫喚はん。来るみたいよ?うち、どないしよ?】
【知ったことか。私だけで充分だ。何処へなりとも失せるがいい】
【ん、そやの?・・・はぁ、つまらんわぁ。ええよって。どこぞの穴蔵で潜めるさかい、来たのを喰らえばええんやろ?】
(さぁて、誰が来るんやろか・・・)
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