人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
【あっははははっ!!そんなものか新免武蔵!温い温い、温すぎるっ!平家の者共より尚も劣る未熟ぶり、話にならんッ!】
「くっ--!!」
打ち合い、跳び合い、斬り合う。武蔵と衆合地獄が斬りあってから十分が経過してなお、武蔵はただの一太刀も浴びせられる事なく防戦一方であった
(とにかく軽い!そして鋭い!あっちにもこっちにも行ったり来たりで一太刀総てが一撃必殺!防御を緩めたら首が飛ぶ!遮那王の名に偽り無し!--50回挑んで一回勝てるかどうかなんて止めてよね、もう・・・!!)
かわし、すかしながら武蔵は舌を打つ。同時に、沸き上がる思いが一つ・・・
(何より、何より・・・!女の子じゃないアレ!!私の遮那王を返せ--!!有名な侍が女の子だなんて、英雄っていうのは何かが間違っているわ絶対--!!!)
【邪念を感じるが、良い!まとめて斬り伏せ首を飛ばし、そのめだまを鴉の餌としてやろう!!】
「ぐっ--!リッカさん、無事でいてくださいよ!私が挑む前に、私がうどんを奢る前に死なないでくださいね・・・!!」
リッカの無事を信じ、リッカの再来を願いながら・・・武蔵は叫喚地獄と斬り合う--!
【ほぉら、たーんと喰らいや。そうそう、ええ飲みっぷり。そやねぇ、今までお腹空かせて気の毒やったねぇ。その分、大盤振る舞いしてあげるよって。遠慮せんと──】
・・・声がする。直ぐ近くにて、はんなりとした声がする。思考がうすぼんやりとしているなか、それだけはきっちりと読み取れた。えぇと、自分は今確か・・・何をしていて、何が起きたんだっけ・・・
【でも、そないにますたーはんを困らせたらあかんよ?なんやかんやで、あんたを運んで愛でてくれよるお人、少しは堪忍、我慢を覚えんと。ほんまに捨てられてしまうえ?】
左腕が、やけにひんやりとしている。まるで冷水を掛けられているような、なんだか浄められているような・・・、そんな、緩やかな穏やかさを直接堪能させられているような。・・・自分は、えぇと、此処で、何を・・・していたんだっけ・・・
「────はっ!!」
思考を纏めて、即座に跳ね起きる。そうだ、自分は今、日本にレイシフトしていて英霊剣豪と戦って、山から落ちて此処に来たんだった!その身を起こし即座に飛び起きようとしたリッカであったが、やんわりとしかして力強く抑えなだめられる
【あぁ、目ぇ覚ましたん?そないに焦らなくてもなんも逃げんよって。ゆっくり、ゆうっくり息を吐いて、のんびりすればええよ。取って食ったりなんて『今は』せんよって。のんびりいこか?】
見ると自分は上着を脱がされ、左腕にとっくりからなみなみと酒を注がれている。満ちる匂い、その香りからしてこれは間違いなく極上かつ強力な酒だ。それを躊躇うことなく左腕にかけているは鬼の角を、頭より生やした・・・
「衆合地獄・・・!?なんでこんなこと・・・!?」
【ん?別に何でもなにも、気まぐれ。鬼のやることなすことに小難しい理由なんて無いよって。やりたいことしかやらんし、やりたいことをやるのがうちら鬼。狂っていようと、それは変わらへんよ~】
あっけらかんと伝える。信じがたいことにそれは本気だった。自らを害しにきた存在に対する利敵行為。それに間違いなく該当する事を彼女はやっている。捻り潰すなんて簡単なはずなのに。彼女はこうして、治療めいた行為に耽ってみせている
並々と左腕に酒が注がれる度、そこに変化が起こる。先程まで感じていた、村正から伝えられていた痛みや飢餓感、激痛が加速度的に抑えられていくような気がする。左腕の胎動と脈動が急速に鎮められていくような気分だ。これは一体・・・あのお酒を、村正がまさか飲んでいるとでも言うのだろうか?
【はい、これで良し。随分と渇いとったみたいやから特別に、うちのとっときの一杯を馳走させてもらったの。うちのとっくりは、怨みやつらみをたんと吸いとって美味しいお酒に変えるんよ。味が大層気に入った『これ』に、言うこと聞くよう言い聞かせたつもりやから、これからはこんな風に気をやる事は無くなると思うわぁ】
漆黒と紅い左腕が静かに鳴り止む。目の前に切り裂くべき相手がいると言うのに。濡れ滴るその腕が、極上の酒を堪能したかのように静かに鳴動を繰り返している
【こんな暴れん坊にあんな年増まで抱えて・・・ほんにお疲れ様。頑張りやさんやねぇ、えらいえらい。だけど無理はあかんよ?その左腕の、骨を噛んで肉を喰らう暴れん坊みたいやから。痛くて痛くてたまらんかったやろなぁ。ほんに頑張ったねぇ、辛かったねぇ】
可憐に笑い、くすくすと楽しんでいるようなその様子に、すっかりキョトンとしてしまう。あれ、自分達は敵同士だったような・・・?本当なら自分は気絶していて、殺せる絶好の機会だったと言うのに
【んー?そない不思議なことやあらへんよ。さっきもいった通り気紛れ、やりたいことをやっただけ。年増に良いように振り回されて傷だらけになってしもうたますたーはんがほんに可哀想やと思って。年増もあんたはんが目覚めたらあっという間に引っ込んでしもて・・・そのまま放っとくもどないやのん?と思うてねぇ。どないしよーとも考えて、まぁうちは叫喚地獄とも反りがあわんよって。こうしてお酒を刀さんに振る舞っていただけの話やからねぇ】
殺すことより楽しいこと、やりたいことを。信じられないことに本気で言っているらしい。楽しいことならそれが先、敵にも振る舞い味方を裏切る。それを平然と行うことが・・・鬼なのだと。雑じり気のない鬼の思考回路を目の当たりにし、リッカは人間との隔たりを感じる。ぼんやりと、だが・・・確かにこれは、人間とは違いすぎる生き物だ。母上から教わっていた、鬼は人とは違うと自嘲混じりに伝えられていた事を痛感する
・・・が、その奔放さ、自由さは・・・けして何者にも縛られない、ある意味で素敵な生き方なのかもしれない。少なくともこうして助けてくれた鬼をなじるような気分にはなれない
だが、今はこうしている場合ではない。早く武蔵ちゃんと合流し、まずは叫喚地獄を何とかして人質を何とかしなくちゃ始まらない。翼を生やし、鎧を纏わんとしてリッカは飛び立たんとするが・・・
【もう出掛けるん?せっかちなお人やわぁ・・・じゃあ一つだけ、カルデアのますたーはん、えぇと、ふじまる、りっかやった?に、聞きたいことがあるんやけど。えぇ?】
「・・・聞きたいこと?別にいいけど」
翼を収め、振り返る。治療の手前、無下や邪険には出来ない。刹那の後には殺し合うのだとしても・・・言葉をかわす事は、こちらとしても望むところだ
【嬉しぃわぁ。ありがとさん。ほな・・・ますたーはん、カルデアで色々わちゃわちゃやっとるみたいやね。じょしりょくだ、女の子らしくだー、世界を救うんだー・・・其処の村正はんから聞いたんやけど。年増も大層口走ってくれたやさかい】
「う、うん。まぁね。・・・まだ成果は出てないと言いますか、道は遠いと言いますか・・・」
【うんうん。それ・・・窮屈とちゃうの?】
「──へ?」
衆合地獄の言葉にこれまたキョトンとなるリッカ。その言葉の意味するところを、衆合地獄はお酒を飲みながらはんなりと告げる
【ますたーはんは龍なんやさかい、人並みの世界や人の営みに馴染める筈があらへんやん。牙を飾っても噛みついたら殺してしまいよるし、爪を磨いてもだーれも綺麗とも思わん。触った相手を引き裂くのがオチで、その身体に収まる可愛い服なんかどこにもありはしないよって。それ、ちゃんと理解してるのか気になったんやけど・・・どない?】
「──・・・」
それは鬼ならではの観点の言葉だった。力があるくせに、力が有り余っている存在なくせに何故態々小さく低い方にあわせ、取るに足らない者達にあわせて自分を抑え込むのかと。それが解らんと、不思議やと。彼女は告げたのだ
【好きに振る舞う方がよっぽど楽やないの?好きに歌って、好きに殺して、滅ぼして。龍ってそういうもんやとうちは思うんよ。今のあんたはんは変に、堪らんほど歪やわぁ。翼をたたんで、爪をおめかしして、牙を鳴らして音楽にしようともがいてもがいて。自分から檻に入って、腹を空かせるのも喉が乾くのも我慢して、どうにか人の世界で生きようとしてる変な生き物。人にも龍にもならん、ヘンテコなお人やと・・・どーしても思うてしもうたんよ】
飢えたなら満たせ、乾いたなら飲み干せ。そう生きることが出来るなら尚更だ、と。そう鬼は告げているのだ。それが普通、それが当たり前の生き方だと
【聞かせてほしいわぁ。そんなみょうちくりんな生き方・・・辛ない?どうしようもなく、面倒だと思ったりしたこと、唯の一度もあらへんの?】
そう告げる顔は楽しげだが、真剣であった。その生き方、自分達と同じではないかと。それを告げられ、それを伝えられ・・・リッカは向き直り、はっきりと告げる
「無い。自分を磨くのは当たり前だし、より良い自分を目指すのは人間として当然の事だから。力があるからって、周りより違うからって。何かを害して滅ぼすような生き方を私は選ぶつもりはない。・・・飢えている、渇いている。あなたはそう言ったよね」
【・・・うん、言うた。言うたねぇ】
「飢えていればいい、渇いているならそれでいい。それを我慢できるのが人間だから。腹が減ったから何かを食べる、渇いたから何かを飲む。自分本位ならそうするべきなのかもしれない。でも、自分と同じ様に飢えている人を、渇いている人の苦しみを解って、癒してあげたいと思うのが人間の生き方だと私は思う。私は・・・そんな生き方を死ぬまでしたい。そんな人間が生きる世界を護って、生きて、幸せを掴んで逝きたいの。身体は龍だとしても、精神は人類悪だとしても・・・心は、人間であることを捨てたくない。それだけだよ。私は最後まで、人間であることから・・・私であることから逃げない。そう自分に誓ったから」
それがリッカの揺らがぬ理由なのだ。例え人間とは違う存在だとしても、例え何も実ることがなくても。自分を磨くことを、自分を輝かせることを諦めたくない、捨てたくない。それをしてしまったら、本当に自分は何もない、ただの人類悪となってしまうのだから。女子力を磨くこと、高めることは自分自身を人間だと定義し、自らの存在を人の世界へと繋ぎとめる楔であると、そう自分は信じている
いつか、絶対に『人』として幸せになってみせる。そう自らに誓い、自らに願い、自らを信じて生きているのだ。この生きざまに、誰にも文句は言わせない。だから自分は、この生き方を死ぬまで貫いてみせる
「いつか私は──絶対に女子になってみせる。言いたいことはそれだけだよ。だからこそ、私は私が生きる世界を絶対に護るし、救う。私が幸せを掴む前に、滅びるなんて赦さないし認めない。戦う理由はそれだけで、立ち向かう理由はそれだけだから!」
だからこそ、自分は走り続けるのだと。鬼にはっきりと告げ・・・翼を生やし、飛び立つ
【治してくれてありがとう!次に逢うときは殺し合いだとしても、気紛れだとしても!この恩は、忘れないから!】
頂上に待つ戦友を助けるため、一直線に駆け抜けるリッカ。今はただの、偶然の出逢いだ。互いに殺すために出会ったのでないならば、生命を奪い合うのは今ではない。・・・今でなくていい
【バイバイ!鬼って可愛い子しかいないんだね!また違う出会いをしたら・・・次があったら!もっと楽しい話をしようね!】
別れを告げ、それだけを言葉にし。頂上へリッカは飛び去っていく。それを見送りし衆合地獄、やがて堰を切ったように笑い出す
【あっ──はははははは!うちに、鬼に可愛いなんてへんなお人やわぁ・・・!あかん、どないしよ、お腹捩れてまう!ふふっ、あははははは!はぁ、はぁ、腹をぐりぐりされるみたいやわ、ほんまに、効くわぁ・・・!】
愉快げに腹を抑え笑い転げる。全く想定していなかった愉快な返しに、痛快な返しがツボに入ってしまったのだ。ひたすらに笑い転げ、涙目になりながらも起き上がる
【次、次・・・そやねぇ。サーヴァント、には次があるんやった。便利やねぇ。此処でうちが使い捨てられようと、もしかしたらあのますたーはんに・・・あぁ、そりゃあ叶わんわぁ。そんならうちも、毎日楽しく上機嫌に・・・】
くすくすと口許を隠し、やがてゆっくりと歩き出す。その目はいたずら好きの幼児であるように、此より何かを行う際の決意に満ちた志士であるように、楽しさを、忘れぬ遊び人のように・・・
【次が、ほんまにあるんやったら・・・此処で世界が滅んでしまうんは・・・あのますたーはんが曇うてしまうんは、あんまり宜しないなぁ。ほな、うちはうちらしく・・・振る舞ってみよか?】
一人の龍、一匹の鬼は・・・愉快げに洞穴を後にするのであった・・・
よろず屋あまてらす、そして大百足の攻防は一進一退の体を要していた
百足が疎ましげに身体を震えば、額目指して進めししらぬいは飛び退き
剣を振りかざせば、百足は身体を捩り近付けまいとする
お栄の筆が閃けば、摩訶不思議な力にて木が生え、花が咲き、水を叩きつけ炎が燃える
おぬいと田助が激励すれば、百足も張り合い声を上げる
互いが互いを攻めあぐねる千日手。その互角の戦いに、お栄が声を上げる
「くそっ、墨が底を尽きそうサ!しらぬいさま、面目ねぇ!こんなことなら全霊で刷っときゃ良かった!不覚だ・・・!」
「ワフッ・・・!」
同時に、しらぬいの身体の隈取りが消えかけている。神力を発揮し続けた影響か、魔力が消えかかっているのだ。後一撃に全霊を込めねば、戦闘不能になりかねない・・・!
【⬛⬛⬛⬛⬛!!!!】
ギチギチと天高く身体を起こす百足。どうやら業を煮やしたようだ。空に高く、何処までも届かんと直立させている。--身体を叩きつけ大地震を起こすつもりなのやも知れない。そして弱点の額が狙えない!
こうなれば、極限まで神気を解放して・・・としらぬいが決意しかけたその時・・・
【--千紫万紅・神便鬼毒--】
辺りに濃厚な酒気が満ち、それが百足を取り囲む。おぞましき百足を呑み込んでいく濃厚な謎の霧
【--ったく。まだまだだなぁ俺の娘はよぅ。困難なときにこそにかッと笑わねぇでどうすんだい。そんなだから描けねぇのさ、ポカポカの太陽ってやつをな!】
お栄の胸元から飛び出した謎の蛸が彼女を覆い、謎の衣服と口調を変え
「--ワフッ!?」
【⬛⬛⬛⬛⬛!!!??】
夜空を、暗雲を、混沌を切り裂くかのような黄金の流れ星--都より放たれる無数にして豪華絢爛な剣や槍、数多の財宝が百足の身体を滅多撃ち
「わ、わ、わぁ・・・!」
ぬいの持つ将門宝剣が、目映く輝き始める--!!