勝負 三番目
仕合舞台 新皇座臨総鎮守 神田明神
立会人
御尊神 平将門
宿業 一切熔融 衆合地獄
VS
藤丸龍華 怨獣斬村正 童子切安綱 混沌武槍アンリマユ
禁手・オーダーチェンジ
いざ、尋常に--!!
英霊剣豪・七番勝負、御前試合──
その極限の刻において、敵方は此度は二人、二つの躯。英霊の残滓となる英霊剣豪。その二匹と相対ししのぎを削る
叫喚地獄は宮本武蔵。衆合地獄は藤丸リッカ。互いが背中を預け合い、襲い掛かる彼女らをいなし、蹴散らし、討伐せんと剣を、槍を振るい躍動する。──互いに日本に名を残す恐ろしく変生せし躯。難題以外の何者でもない真っ向勝負が、神田明神の仕合舞台にて行われているのだ。その気迫と想念、まさに推して知るべしである
何処にも逃げ場はありえない。守護神、平定者に高らかに勝ち名乗りを上げる以外に道はない。だからこそ、なればこそ。敵を、眼前の躯を討ち果たさねばならない。僅かな情や、一時の気の迷いで討ち果たされる訳にはいかないのだ
【ぉおぉおぉおぉおぉお!!!】
【あははっ──!】
たとえ、ほんの一時──心が、言葉が重なった相手であろうとも。自分達の護りたいもの、自分達の望むものの為に、少女達は生命を懸けて戦い抜く・・・自分が、自分であるために──!
つうじあい やいばをかわす けものかな
【ほらほら、ちゃんと腰入れんと潰れてしまうよ?きちっと前みて、相手を見るんがやりとりの『まなぁ』やろ?ほーれ、龍さんこちら、手のなる方へ~・・・】
槍を手に取るリッカと徒手空拳の衆合地獄の戦いは熾烈を極めていた。大地を踏みしめればみしりと凹み。槍を突き出せば、すさまじい勢いで大気が引き裂き風切り音が響き渡る。気紛れに衆合地獄が四肢を振るえば境内がみしりとへこみ、リッカの鎧が悲鳴を上げる
【強い──!】
それ以外の感想は何も出て来ないほどに、衆合地獄の振る舞いは絶対的だった。ただ腕を振るい、足を振るい、楽しげにこちらを煽り焚き付け殴る蹴るを繰り返す。戦いというほど気負わぬ、子供の遊びのように無邪気な振る舞いをただ繰り返しているだけ
ただそれが、その行為が絶望的なまでに力強い。軽い拳が鎧を凹ませ、細やかな牽制の蹴りが触れれば数メートル吹き飛ばされ体勢を崩される。本人は極めて真面目だ。侮っているわけではない。『本気でこちらと触れ合っている』。ただそれが、人間を瞬時に引き裂き、砕き、粉々にしてしまうほどに怪力と剛力が詰まっているのだ。──軽い手遊びで首をネジ切り、骨を砕き引っこ抜いてしまうかのように
鬼種の魔──その根本的に違う存在である鬼の馬力と剛力に、心の底から理解と驚嘆をリッカは抱く。確かにこの力は、彼女の生きざまを証明し、強く後押すものだろう。間違いない。何故なら彼女は『生きているだけで何者よりも強い』のだから。集団で群れる必要など何処にもない。他者への遠慮など微塵も必要ない。望むままのものを手にいれ、望むままに生きていける力が生まれながらに備わっているのだから、他者など喰らうものか芸術品程度にしか価値がないだろう。絶対強者──日本に伝わりしその妖怪の真髄を、余すことなく痛感する
だが、此処にいるリッカは真っ当な人間ではない。人類史を滅ぼす癌細胞にして淀み・・・人類悪であるのだ。人類史を丸ごと呑み込み滅ぼしせしめる力を総て自らの内側に封じ込み、世界の総てを救うために振るっている。その乖離し矛盾にまみれた力が原動力となり、サーヴァント達とも、英霊達とも打ち合える地力と力を持っているのだ。人類文明を滅ぼす力を総て自分の力に。その決意にて、彼女は何も滅ぼすことなく、目の前の外敵を打ち払う事が出来るのだ。だからこそ、かの衆合地獄と無数の数、無数の合を打ち払う
突きを弾かれ、蹴りを捌き。薙ぎをかわされ拳を受ける。槍と、四肢の奇妙な打ち合いは互いを傷付け穿たんとする必殺のやり取りとなりて生命の輝きを煌めかせ、其処にある二人の輝きを最大限まで高める
思想も、知略も、心も。総てが刹那に融け合い、互いのみに没頭していく。衆合地獄はその境遇に笑い、リッカはその境遇に勝機を見出ださんと歯を食い縛る
其処に善悪なく、其処に優劣なく。あるのはただ、互いの『生命』への執着のみ。そう、二人は今・・・互いを貪る為だけに戦い、刃を振るい、愉しんでいるのだ──
【ほぉれ、とったり~】
ガシリ、と突きの一撃を手に取られる。放った一手を読まれ、その一発に狙いを定められ軽々と掴まれたのだ
【ほいっと】
槍を後方に引き、リッカがつんのめる形となる隙を見逃さず、衆合地獄の右手が伸びる。人の頭蓋骨など容易く砕くその恐ろしき腕力と膂力につかまれてしまっては、鎧ごと、兜ごと砕かれかねない・・・!
【せやっ!!】
リッカはあえて、そのまま衆合地獄に『頭突き』をかました。本来なら後方にのけぞる所を前に進み、タイミングをずらし死地を脱する。あいたぁ、とよろめく衆合地獄から槍を引き剥がし、後方に後退し、距離を取る
【──・・・】
自分自身でも薄々感付いている事だが・・・攻撃に致命打を望めずにいる。かの鬼に、英霊剣豪に。心の何処かで無慈悲に、非情になりきれぬ自分がいるのだ。その答えは解りきっている。彼女と語り、問われたことが心の中で生きているからだ
『窮屈にならんと、好きに生きればええんちゃうの?』
それは気紛れだったかもしれない、単なる戯れ言だったのかもしれない。ほんの暇潰しだったのかもしれない。けれど、それでも。殺気ではなく、宿業ではなく。確かに彼女の言葉として自分に伝えてくれたような気が、そんな想いが籠っていたかのような気がするからだ
左腕も、嘘のように落ち着いており、母も何も伝えてはこない。この決闘における横槍は何もないという取り決めや効果だろうか。それとも自分の所感を大事にしてくれているのだろうか?今の自分には解らないが、少なくとも解るのは、彼女は──
【一つ、言い忘れてたさかい。リッカはんには伝えさせて貰うけど・・・堪忍な?】
その思考を遮るように、大判の盃をクルクルさせ雅に笑いつつ・・・かの鬼、衆合地獄は告げる
【鬼に共感やの、同情なんてしたらあかんよ?好きに生きた鬼は、好きに生きとる鬼はみーんな。何かを壊して何かを殺しているんやもの。だから鬼、化け物怪物として恐れられてるんやもの、あたりまえの話やねぇ?】
【・・・】
【だから・・・躊躇う必要もあらへんし、迷う必要もあらへんよって。邪魔なんやから蹴散らせばええんよ、リッカはん。散々殺したんやから、殺されて当然なんよ、鬼っちゅう生き物は。だから、ね?本気でかかってきてえぇんよ。遠慮なんてせんと。この首を断ち切ってしまえばはい、おしまい。恨みも憎しみも、あの世には持っていけんさかいに】
迷うな、斬れ。それが当たり前だし、当然の結末だと衆合地獄は告げる。それこそが鬼の結末にして矜持。それが・・・鬼の生きざまのけじめなのだと
【いちいち斬る相手に同情やのなんやのしとったら辛くて敵わんよ?その優しさや甘さにつけこんでみっともなく生きようとする輩なんて何処にでも、いくらでもおるんやさかいに・・・此処に、甘さは置いていってかまへんよ。うちが持っていくさかい】
ひらひらと手を振り、リッカに語りかけていく衆合地獄。その言葉は、その振る舞いは彼女なりの餞別なのだ。自分が生き延びるつもりなら、自分が生きて帰るつもりなら、こんなことを言う必要は無い。彼女は要するに、最期の楽しみを見出だしているのだ。『死出の旅路』に向かう自分を。最期の仕上げとして、自らの躯を使い、自らに教授してくれているのだ。『躊躇うな。鬼はそう言う生き物なのだから』と──・・・例えそれが、微かにでも心が通った相手でも
【どの道・・・こんなに狂うてしもたんじゃ、酒のうま味も風流も血に浚われてなーんも分からなくなってしもうて。つまらん事しか無いんやもんねぇ。自害もさせてもらえんと窮屈で叶わんわぁ。・・・ほなら、ね?】
──槍を構え。静かに童子切安綱に手を掛ける。魔力を雷に変換し、身体中に負荷をかける
【うちを、次に──地獄の旅路に見送ってくれんやろか?あんたはんほどのいけめんに擱くって貰うんなら、そりゃあなんも悔いはないわぁ。この躯も、ようやっと眠れるんで嬉しいんやないの?知らんけどねぇ。もう魂は死んどるようなもんやろし】
槍にて放てるかどうかは解らない。だが、試し、放ってみる価値は大いにある。神仏を穿つ槍の要訣を振るい、何もかもを貫く槍とは真逆──『隠された宿業』のみを穿つ槍を。今この場で放つ
剣の位を、槍の一投げに乗せる。左腕の村正と反発させるかのように左手で持つ。かの躯を、止めるために。憂いなく、宿業から解放するために。かつて──母上に行ったように。槍の手解きをしてくれた胤舜の言葉を思い返す
『至る極みは既に宿っている。ならば再び登るだけだ。装備を変えてな』
それならば、叶うはずだ。たった一回、たった一度。宿業を穿ち貫く想いを、奥義を込めた槍の一投を・・・この場で放つことが叶うはずだ──!
【──衆合地獄】
全身に雷と、覇気をみなぎらせ構える。そして、最後に──『言葉』を交わす
【ん?なぁに?】
【──看病、介抱してくれて。ありがとう】
【ん、そないなこと?かまへんよ。痛そうやったさかいねぇ。別に悶え苦しむの、見たいわけでもあらへんよって。女子がのたうち回るんはあんまりいいものじゃないもんやしねぇ?】
それを──最期の言葉とし、リッカの身体に限界まで過負荷がかかる。アンリマユが雷鳴がごとき絶叫を放ち、その一投を鮮烈に彩る。槍を投げ放ち、自らの『位』を乗せた、自らと一体なりし混沌の槍を、遥か彼方に隠された宿業へと投げ放ち、穿通せしめる必殺の槍──!左腕の村正と触れ合わせ、反発射出させるがごときその槍の投擲──
【雷位・開帳。──奥義・亜種展開・・・『
【──・・・】
その様子に、満足げに徳利から酒を煽る衆合地獄。この躯、この召喚にてかのマスターに遺せたものを思えば、此処で果てることなど十分すぎる
程に大戦果であろう。殺し合いだけではなく、しっかりと語り合い。紡ぎ合った。骨も、名誉も、なにもいらん。鬼として、やりたいことを好きなように・・・最期の最期で振る舞えた。狂わされていながら、あの時だけは、ようやっと自分らしく振る舞えた
【──あぁ。最後の最期だけは・・・ほんまに、楽しかったわぁ。次があるんなら、またよろしゅう。ほな・・・】
ならば悔いはない。殺して喰らって、きままに生きて。死に方まで選べるなんてうちは幸せ者や。・・・ふと徳利を見ると。もう酒が底をついている。恨みやつらみを吸いに啜った御酒。無くなるなんてあらへんと思ったのに・・・
【──またね?】
──あぁ、おかしい。最後の最期まで。ほんまに楽しませてもらったわぁ・・・
雷位を加えた槍を射出する体勢に入ったリッカを前にしても、微塵の抵抗も、微塵の恐怖も絶望も見せず、大判の盃を放り投げ、笑いながら──
【
雷が如く。迅雷が如くに投げ放たれた槍が空の彼方へと消え、遥か彼方に隠された衆合地獄の宿業を、過たず貫き穿ち、ぱりんと──何かが割れ砕けるような音が境内に響き渡った頃には
【──さよなら、酒呑童子。母上は毛嫌いしてるけど・・・あなたの生き方。尊敬しちゃうくらい気ままで、自由で。──素敵だったと思う】
躯たる、宿業にて動かされていたカラクリたる衆合地獄は消え失せ
【──!】
リッカに投げ渡された、都にて買い愛用していた大判の酒器のみが。かの自由気ままな地獄の鬼がいた事の、ただ一つの証となっていた。
『──勝負あり。勝者・・・──藤丸龍華』
厳かな声音にて勝利を宣告されて尚。リッカは左腕を抑え。──いつまでも、澄み渡る空を眺めていた──
--話したいことは話したし。このまま、消えるとしよか
あぁ、パライソはんには酷いことしてしもたなぁ・・・かるであで会えんやろか。御詫びに酌をさせてもらうよって
・・・そんで。あんの年増がいるんやから・・・あの『小僧』もいるんやろか?あぁ、ほんに楽しみやわぁ・・・
ほな、お祈りしとこか。えーと、伊吹の神さんでええよね。ほな・・・
・・・--いつか、リッカはんのさぁばんとになれますように。うふふっ、叶うやろか?叶わへんやろか?
どっちにしろ--まだまだ。楽しい時間は。酔夢は。終わらへんなぁ。ふふっ。随分と血腥い夢やったけど
・・・うちも、楽しかったんよ?リッカはん--
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