「・・・ふむ、いよいよ。か」
【新免武蔵を--殺せ。その為にこそ、今の今まで貴様を置いていたのだ。さぁ、役割を果たしに向かうがいい】
「承知した。--さて、この身がかの華の彩りになれば良いのだが」
【・・・--】
「ンン、ンンー!」
【猿轡の味わいはいかがかな?姫君。案ずるな。苦痛は与えぬ。その身にながるる徳川の血、贄をもってこの我が聖杯は完遂するのだ。栄光の!サタンの礎となれ!ハハハハハハハハハハハハ!!】
(武蔵さま・・・リッカさま--!)
「・・・・・・・・・」
「気を失ってしまいましたか、小太郎殿。・・・リッカ殿の許可も受け取っております。・・・一時、
「・・・・・・はは、うえ・・・」
「・・・はい。必ず・・・必ず思い出しまする。必ず・・・」
「あいっっっ!!!」
仲間たちの下へ帰ってきたリッカを迎えしものは祝福や激励よりも先の・・・村正の痛烈な拳骨であった。今までの傷など及びもつかぬ痛烈な魂のこもった拳を頭に落とされ、激痛と共にうずくまるリッカ。その拳を落とした本人は声を荒げはせず静かに告げる
「その齢で、しかも女だてらに――修羅や地獄に堕ちるんじゃねぇや、バカ野郎」
先の戦い、先の激闘にて持ち直したは良いものの、鬼や外道を食らう為に自らもまた同じ境地に堕ちる必要は微塵もない。それは羅刹の境地だ。安らぎや平穏など望むべくもない、人間の行き着く果ての果てだ。その境地を覗き込み、魂を無の道へと落としかけたリッカに村正は痛烈な一撃を浴びせる
「はぃ・・・ごめんなざい・・・」
自分を真剣に案じた拳は、何よりも効く。だからこそ、リッカはその拳の重みを真摯に受け止めた。自分を心配してくれた想いを、自分をおもんばかってくれたその真意を受け取り、顔をあげる。村正の顔は・・・静かであり、穏やかであった
「・・・だが、まぁ。お前ぇはしっかりと帰ってきた。・・・説教は勘弁してやる。儂以外の全員に怒られろぃ」
彼女を『叱って』やれる者達は沢山いる。彼女を怒ってやれる者達は沢山いる。それを救いとし、村正はぽん、と肩を叩く
「よく戻ってきた。堕ちるんじゃねぇぞ、金輪際な」
「・・・うん、ありがとう」
自分の心に見つけた答えを懐きながら、村正の言葉に頷く。それさえあればもう喪わない。こうして叱ってくれる人がいるならば。もう心配はかけない。他者を怨むのではなく、引き起こされし邪悪を恨む。その為に戦う、その為に力を振るう。だからこそ・・・もう迷わない。いや、迷ったとしても、必ず皆の言葉に耳を傾ける
こんなに、真面目に想ってくれる人がいる・・・その事実に、不謹慎ながら。自分の巡り合わせの幸福さを痛感したリッカはもう一度その顔に笑みを浮かべてしまい
「ちゃんとわかったんだろうな、おいっ」
「あだあぁっ――!!」
村正に、二度目の痛恨の打撃を脳天にいただき、すこしばかり気絶を果たし
「リッカさん大丈夫――!?村正おじいちゃん手心!手心!」
「うるせぇ。バカやらかしたガキを爺が怒らねぇで誰が目を覚まさせんだ。母ちゃんや【
憎しみと怨嗟に呑まれかけたお馬鹿な人類悪はそのまま、妖術より脱出を果たした武蔵に抱かれ、手厚く看護を受けるのであったとさ
そして、休憩を果たし一同は顔を見合せ頷きあい、いよいよ天守閣に向けた階段の前に、たどり着く――
――えんこんを ふりきりはばたく けものかな――
歩みを進めていた武蔵は、ぼんやりと実感していた。この旅路の果てに、自らの剣技は完成を見ると。かの叫喚地獄、牛若丸との戦いにおいて、確かに『無』を斬る感覚、あるべきものではなく、形が見えぬものを叩き斬る感覚を確かに見出だし、掴んだ実感がある
まろびでた世界にてゴージャスに拾い上げられ、歴史を流れる迷いものであった自分を仕官してくれたカルデアの皆さん、そして人を斬り、実技を優先する煩悩まみれの自らに分け隔てなく触れあってくれる隣の少女、藤丸リッカさん。この女の子のたどり着いた場所に、同じ境地にようやく辿り着ける
かつての自分なら、辿り着く事に不安を感じることもあった。生涯の研鑽に答えを出したのなら、自らの人生に結末、終わりが出来てしまうのではないかと。空の果てには、何もないのではないかと。だが――今は確かに、その果てに待っていてくれる人がいる
「?どしたの?武蔵ちゃん」
彼女に視線を送っていることを気付かれあわてて笑顔で誤魔化す。――誰かのためではなく、それは間違いなく自分のため。自分自身の願いのため、研鑽の為。だけど・・・自分の研鑽の成果が、母を図らずとも斬り殺してしまった彼女の、孤高の位の重さに寄り添う事が出来るなら。その位の壮絶さを、僅かなりとも一緒に背負うことができたのなら
彼女と並び立つ事が出来るのなら・・・その先を、見出だす事には。手を伸ばす先にあるものを掴むことに、迷いはなく躊躇いはない。だからこそ自分はこうして進んでいるのだ。何より、彼女と共にある自分は少なくとも、自分だけのために剣を振るうのではなく・・・――
「・・・・・・、――――」
その思考は、即座に寸断される。目の前、天守閣に続く階段に立ち塞がる者より放たれる剣気が、一同を縛り釘付けにする
【――世の終わり、それらに流され縁は掛け違うかと胆を冷やしたが・・・待った。実に待ちわびたぞ新免武蔵】
その冷ややかな言葉を受け、リッカの左腕が脈動する。酒呑童子にて潤され説き伏せられた影響か、はたまた別の理由か。痛みは無い・・・熱くたぎる血潮の躍動と言うべきか。眼前の剣気を撃ち放たれながら獰猛に騒いでいると言うべきか。痛みにならないなら・・・いや、待った
「・・・あなた・・・『何処かで会った』?」
この鼓動、この脈動をリッカは知っている。この躍動を感じたことがある。痛みではないので確証はないが。この村正は、確実に。彼を知っている。そんな気がしたのだ。村正もまたそれを肯定するかのように熱く燃えるような感覚を左腕に叩き付けてくる。血潮が煮えたぎるような熱さに左腕をうずかせながら問い掛けられし疑問に、静かに頭巾の男はその纏っていた衣を静かに、脱ぎ捨てる――
「――・・・」
「なっ――――」
【如何にも。私と貴様は・・・貴様らとは姿を見せ合っている。・・・その左腕、三文芝居では騙せなんだ】
其処にあったのは、断じて其処にあってはならないもの。断じて、其処にいてはならない者。人を護るために在り、人を助けるために剣を振るうべき者。【外道に堕ちる】など、けしてあってはならぬもの
【――我が名、柳生但馬守宗矩。
その、壮年の剣士――柳生のじい様が・・・かつての鬼ヶ島のように。その場に立ち塞がっていたのだ。その事実に、動揺と衝撃を隠しきれぬ一同。――ただ一人。剣を振るう生き方を貫く武蔵を除いて
「・・・えぇ。驚きはあります。ですがそれ以上に、納得してしまう自分がいる。柳生のじい様なら、そういうこともあるのだろうな、と」
【ふ――】
「でも、サーヴァントの気配はどうやって消したの?あの宿業を埋め込まれた者はどんな英霊であろうとも・・・」
狂い果てる。格や力は関係無く。どんな者であろうとも狂気に堕ちる。その宿業を埋め込まれながら何故、こうも冷静なのか。その答えは、驚くべきものであった
【私は正真正銘、血と肉を備えた人である。あの程度の業で狂いし魂などはなく。――そもそも業なら108つ、腐るほど持ち合わせておるわ】
「・・・人間の身で、宿業を埋め込まれながら・・・狂わない・・・?」
リッカが愕然と呟く。いや、それはありなのかもしれない。情愛にて、宿業を抑え込み自分と語り合ってくれた『母』がそうしたように、強靭な意思さえあれば・・・自らを律することができるかもしれない。でも、それが本当に叶うなんて、そんな
【・・・しかし、血肉がたぎり、逸る事は抑えるのに必死でな。江戸を守る柳生さま、などと実態とは真逆の有り様を持て囃され、無防備な民草を見た最中には、ふ――事もあろうに】
その口には、笑みが浮かぶ。――冷ややかな、冷徹な、人を斬る、人を伐り殺すことを望む外道の笑みが張り付き口角を釣り上げる
【此処で屍山血河を築くしかあるまいか・・・と。自らを抑えるのに必死であったわ。――礼を言うぞ、藤丸。そして武蔵。【貴様らが、私の皮を剥いだ】】
名前を喚ばれ、訪ねられ。二人は顔を見合せる。自分達が、自らのすべてを取り払ったと。柳生は静かに告げる
【半年ほど前の事、あの島の頂上にて相対した際に、貴様らに刃を振るい、そして一瞬打ち合った。・・・そして私は、その感覚を痛感し、全てを置き去りにする歓喜に震えた】
「鬼ヶ島・・・」
【生死の合一する感覚、読みあいの境地、他者と自らの心が融け合う刹那・・・その感覚の果て、貴様らを取り逃がした際に・・・我が胸に熱き躍動を残し、私と言う人間の皮は凡て剥がされ・・・一匹の剣鬼が残ったと言うことだ】
天下の御留流の指南役、新陰流の剣士。そんな御題目、そんな建前は残らず吹き飛んだと。あの刹那の時は、全てを捨ててなお素晴らしき時間であったと
「・・・私達があなたと出逢ったから、あなたはそうなった・・・?私達との出逢いで、あなたはそうまで狂い果てた・・・?」
【それは違う。言ったであろう、皮を剥がされたと。題目や体面を打ち捨てれば、我が本性とはこんなもの。故にこそ、こうまで外道に堕ち果てることに迷いも悩みもせなんだ】
あくまで出逢いは切っ掛けにすぎない。無念無想に心を保とうと、その根っからの獣と狂いは抑えられるものではない。この齢に成り果てようと確かに血がたぎり、肉が躍る。そして・・・剣を握りし者が、自ら以外の剣客を見出だした際に懐く思いなどただ一つ。そう、それのみを懐いてこの身は外道にて生きてきた。それは、たった一つの、唯一なりし自らの我欲にして、当然の帰結
【世界が混迷に満ちた今、護る民草も仕える天下も闇と消ゆる。なればこそ、我が宿願はこの刹那にこそ託すもの。――宮本武蔵、藤丸龍華!その剣と私の剣、果たしてどちらが最強に通ずるものか!この身を以て示し試すに一切の迷いなし!】
ズン、と一歩を進めし柳生。その進みは、尋常なる仕合にして果たし合いを望みしもの。水月がごときその身が望む、邪魔横槍入らぬ乾坤一擲の真剣勝負を望むが故に――
「・・・リッカさん」
武蔵が静かに前に出る。その意気、その意味することを理解し、静かにリッカは勾玉を取り出す
「・・・村正おじいちゃん。先に行ってて。私達は、落とし前をつけなくちゃいけない。巡りめぐってやってきた、この戦いの決着を」
そう。自らの存在が彼の皮を剥いだというならば、外道として生き、真剣勝負を望むというならば。その心意気、その渇望には確かに応えなくてはならない。逃げることは赦されない。此処で柳生を・・・セイバー・エンピレオを討ち果たす。武蔵ちゃんと私の役割、その責任を果たすためにも
「・・・――解った。だが、さっさと倒しちめぇ。待たねぇぞ。儂に美味しい所を持っていかれたくねぇなら急げ、いいな」
その簡潔な激励を受け取り頷く。必ず追い付く事を約束とし、その後ろ姿を見送る。此処に在りしは、一人の外道、一人の剣士、そして一人の人類悪のみ。今こそ此処に、英霊剣豪の大一番が幕を開ける――
【長い時間であった。――あぁ、待ちわびたぞ新免武蔵。最早何も取り繕う意味もなく、最早何も枷はなく。ただ、その境地を目指し夢見、外道に成り果て待ちわびた】
「・・・――あなたの事は赦せない。虐殺を良しとし、矜持を踏みにじるあなたたちのやり方は赦せない。けれどそれ以上に・・・試したい自分がいる。剣聖に、その位階に到達せし者の仕合を、確かめたい自らがいる。目指す者に肩を並べるために、この真剣勝負の機会を逃すものかと騒ぐ自らがいる」
その実利、まさに価千金。一騎当千剣術無双。きっと彼との果たし合いの果てに掴むものがある、きっと彼との戦いの果てに、手を伸ばし続けた境地が待っている!
「――見ていてください、リッカさん!私はいま、この身の全てを懸けて彼に挑む!目指した者に至るため、この刃にて『空』を掴むため!――柳生新陰流、何するものぞ!水面の月、十文字に切り捨てる!!」
「うん!――助六さん、見ていてね!あなたに紡いでもらったこの身、この生命を以て今!私達は平和と自らの答えを掴む!」
この身を救った鬼、その生きざまにて自らを救いし恩人の名前を口にし、高々とその身に宿りし覇気、その左手に宿りし勾玉を解放する
全ては、この生死の狭間の果てにあるものを。三種三様の未来を掴むために
「「【――いざ!!!】」」
その極限の舞台を、日ノ本の極致が彩り示す――!!
【いざ!平将門の名の下に!!--出でよ、神気立ち上る彼の守護者の極致。旭照らす日ノ本を見守りし神田明神の仕合舞台!!】
その境地を見守る舞台。蒼き空、厳かなる境内。曙光充ちる神聖なる空間、神威みなぎるその邪魔立て叶わぬ真理の極限
言葉は要らず。もはや語る舌は非ず。向かい合う二人はただ、その矜持のまま・・・刃を抜く!
【我が刃の忌名、セイバー・エンピレオ!我が魂の名、柳生但馬宗矩!】
「我が刃の名、明神切村正!我が魂の名、宮本武蔵!!」
「いざ!その身に宿りし刃の太極を此処に示せ!!」
【いざ、いざ--尋常に!】
「----勝負!!!!」
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