人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

411 / 2535
宮本武蔵が目指す道。目指した道。その道を、その『起源』と真逆の道を往くもの。真逆の道を極めた者こそが。剣者にとっての最高の敵


天眼の剣士。一を超える零を目指した剣士。これと相克する道--即ち、無限

無限に辿り着く剣士、全ての可能性を認める剣士。--それこそが『零』に至りし者の宿命の敵

本来ならば、現れぬ筈であった。本来ならば、人の身にはたどり着けぬ筈であった

--だが。此処に。この下総の地にて

天元の華に、その天運により。--運命が確かに追い来る--




一刀・繚乱--至りし運命

黒き太陽は落ち果て、怨霊は調伏され、妖術師は両断され。もはやその企みと目論みは完全に潰え、頓挫させし穢土の顕現。完膚なきまでに辿り着いた物語の句切り。その天守閣にて、四人は、集い、互いの無事を確認したあと・・・燃え盛る城より走り出していた

 

村正の必殺の一閃『都牟刈村正』にて、真っ正面から両断されし厭離穢土城。その鼓動、その脈動ごと──完全に絶たれ、城の生命、そして業は終焉を迎え両断を果たされた。その残骸なる城からは、溜め込んだ憎悪や憤怒が解き放たれたが如くに火と業火が立ち上る。それは瞬く間に立ち上ぼり、穢れを浄化するかのように天に消えていく。兵、怨霊の夢の跡と言えば聞こえはいいが・・・巻き込まれ、内部にいる者たちには風流で済まされるものではない。長居していれば、城との心中が確定してしまう。冗談じゃないと武蔵達は顔を見合わせる。こんな所で果ててしまっては魂を引きずり出されて王と姫様に大目玉を受けてしまう!

 

「村正のじいちゃま!ハッスルしすぎぃ!」

 

「見れなくて残念極まりないのですけれど!城をまるごと一刀両断なんてどんな境地と手段をしたんですか!?刀鍛冶ってそんな事できましたっけ!?」

 

「生死の瀬戸際だってぇのに喧しい奴等だな全く。生き延びたらいくらでも話してやる。そら、走れ走れ!」

 

姫様をお米様だっこにて抱え疾走する村正。神剣を振るい、一戦交えた後だと言うのにその在り方に微塵も衰え、疲労が見られない。快調そのものだ。健脚極まる姿にて駆け抜け、若い娘二人の先を走っていく

 

「元気すぎぃ!人一人抱えてなんで私達より速いの!?」

 

「鍛え方がちげぇんだよ。儂の槌は無呼吸で打つ。肺も強くならぁ。──ふっ!!」

 

残りの刀を振るい、落下や飛来し道を塞ぐ残骸瓦礫を蹴散らし吹き飛ばし猛進していく。だが・・・舌を打つ村正。想像以上に火の手が速い。余程振るい上げた一撃が効いたのだろう。あと十分も保たないだろうことを直感的に理解した村正は・・・

 

「悪ぃな。姫様の身には代えられねぇ。一足先に上がるから追い付いてこい。──じゃあな。しくじるんじゃねぇぞ」

 

「ふぁっ──!?」

 

最後の刀を渾身の力にて叩き振るい、城の外壁を粉々に粉砕する。調度堀がある場所を、下界を見定め、走り出し──

 

「村正じいちゃま──!?」

 

飛び立ち、清姫を抱え・・・飛び降りる。その高所から躊躇いなく。火に焼かれ、煙に肺を焼かせ姫を身罷らせる訳にはいかぬがゆえの最短にして最適解。最後まで村正じいちゃまはじいちゃまであり、一足先に脱出と相成ったのである。・・・下層から小太郎と段蔵の困惑に満ちた会話が確かに聞こえてくる。良かった、無事なようだ・・・などと言っている場合ではない。このままでは城と共に心中が冗談ではなくなってしまう!清姫が無事なのはいいけど、自分達も連れていってほしかった!育成方針が厳しい!

 

「リッカさん!飛びましょう!私を抱えてどわーっと!ぐわーっと!それくらいなら出来ますよね!我等がヒーローリッカさんなら大丈夫ですよね!?」

 

武蔵ちゃんの言葉は最もだ。奥義を使った反動で一人しか抱えて飛翔はできないし短時間しか無理だろうけど、今この二人が生き残るには大丈夫、計算が合う。むしろそれしかない。体の泥を捻り出す。燃えろ私のオルガマリーから貰った魔術回路、人類悪の魔力!燃えたぎる城から飛び立つために!しらぬいや将門公に会えず死に果てるなど絶対に嫌だ、武蔵ちゃんと死んでも生きて皆の場所に帰る!

 

「ヒーロー!?ま、まぁいいや!よぉし私に掴まって武蔵ちゃん!無限の彼方へ、さぁ行く──ん?」

 

泥を練り込み、鎧を纏おうと童子切り高々と掲げ円に虚空を切り裂こうとした時──リッカは『それ』を垣間見る

 

「──よい判断でござる。だが、暫し時間を貰おうか。涼やかに階段にて待ち構えていながら窓より飛び立たれてしまっては道化の謗りを免れぬと言うもの」

 

・・・この火の手の中、何事も無いかのように佇む者が一人。青き髪、青き着物、そして・・・人が振るうにはあまりにも『長すぎる』得物の刀を背中に背負う美丈夫が一人

 

「──貴方は」

 

武蔵が、魅せられたように声を上げる。その在り方、そのたたずまい、その所作、その声音の一つ一つに、引き寄せられるかのように、惹き付けられるように

 

「──『小次郎』さん?」

 

知っている。リッカはその人を知っている。メディアが自らの神殿を守護させている侍。お月見にて、マルセイユにて駆け引きを見せた侍。──その剣の腕。正しく神業。ただの一瞬に飛来する燕を三度斬って魅せる絶技を持つ、長髪美麗の剣士。『燕返し』を振るう──極みに至りし、無二の剣豪・・・

 

「──そうか。私はそのような名前なのか。・・・ならば名乗らせてもらおう。我が名、『佐々木小次郎』。しかして巌流に非ず、我流にて御免。──雷位を懐きし快活なる剣士よ。そなたとも存分に剣を競い合いたいと期待していたが・・・その名が私であるならば。まずは仕合わねばならぬ相手は決まっていると言うものであるなぁ・・・」

 

その剣士の言葉はあくまで自然体だ。何処にも気負いがなく、何処にも力が入っていない。そしてリッカは直感にて思い至る。此処にて、自分が振るう剣は無い。此処にて戦うべきは自分ではない。--小次郎とは対極。その気迫と覇気に満ちて、目の前に在る存在を睨みながら、一歩前に出る戦友にして親友の存在を認めたが故に。リッカは静かに下がる

 

「──ありがとう。リッカさん」

 

謝礼には及ばない。この場が如何なる状況なのか、この場がどのようなものなのか。それは最早二の次、遥か些事にへと追いやられた。時間も関係無い。空間も状況も関係無い。そう--今此の瞬間がすべて。リッカは、そう直感する

 

二刀を振るう天元の華、宮本武蔵。歴史に名高き、天下無双の剣豪。二天一流の創始者、空に至りし『零』の剣の使い手

 

長き一刀、『物干し竿』の銘を持ちし流浪の剣士、佐々木小次郎。絶技の剣を振るい、飛来する燕を斬り、魔法の領域に至りし剣を振るう『無限』の剣の使い手

 

この二人が、出逢ったのなら。この二人が相対し、巡り会ったのならば・・・それは一つの運命、それは一つの宿命の清算が行われる他有り得ない──!

 

「『待たせたな、小次郎』」

 

「『うむ、実に待ちわびた』」

 

その言葉のみ。互いが初対面であろうとも、戦う理由など無かろうとも。その生命を懸ける理由が無かろうとも。此処で剣を抜き放つ事を躊躇う理由など、何処にも在りはしない

 

何故ならば──此処には『剣』における極みに至った者が集っている。剣を極めんと走り続けた者、剣の極みに辿り着いていた者。剣の極みを駆け抜けていたもの。このような瞬間、このような刹那──二度と訪れはしないだろう。二度と現れはしないだろう

 

彼等を、彼女らを包み込む運命、天命を阻むことは何者にも叶わない。──運命は、此処へ追い付き。確かに定まったのだ

 

「──佐々木小次郎。立合人を仕立てる事・・・卑怯とは言わないわね?」

 

「無論。我が剣、そなたの剣。【無】の境地より生還を果たすには何者かの眼が無くば叶わぬがゆえに。極みに辿り着いた者ならば──我等が剣戟の行方、託す事に異論や意義など挟まぬよ」

 

「忝ない。──ごめん、リッカさん。本当なら、こんなことをしてる場合ではないと解ってる。こんなことに巻き込んではいけないと、解ってる」

 

待っているのは死地の中の我欲。待っているのは死地の果ての終末。この対決の後には何も残らぬやもしれない、ただの意地にて押し通る死出の花道。そんなものに戦友を、親友を巻き込むなど・・・正気の沙汰ではないと解っている。それでも──

 

「けれど。貴女には見届けてほしい。共に歩き、共に戦い、共に笑い、共に極みと在りし貴女には。このどうしようもなく自分勝手な戦いを、その結末を見ていてほしい。──此処に示すは、我が生涯の全て」

 

今までに振るいし剣の全てを。今までに積み重ねし道の全てを。辿り着き掴み取ったものの総て。それを今、此処に表す

 

「『我が総てを、貴女に見て欲しい』。貴女の隣に立つ剣豪が、何を目指し、何を想い。何を掴んだのか──貴女の魂に刻んで欲しい。そうすることで、やっと──私の『漂流』に。答えが・・・意味が宿ると思うから」

 

火の手が回る、城が朽ちる。互いににらみ合いながら互いに柄に手をかけながら、一歩も退かぬと火花を散らしている

 

「──解った。この戦い。確かに・・・見届ける。最後まで、立ち合い仕る」

 

相棒の心意気に、人生の総決算に。立ち会わずして何がマスターか、藤丸リッカか。此処で命惜しさに矜持を軽んじ踏みにじるは乙女に非ず。紅蓮と終焉の狭間にて、大輪の華が咲くと言うならば──その開花に立ち会うが人の道と言うものである

 

「ありがとう。──長いようで、あっという間の下総巡りでしたが・・・まだ、私には心残りが在ります」

 

「?」

 

「──それは、全てが終わった後に。その願いを果たすためにも、今は・・・!」

 

全ての宿願、全ての非業が此処に集う。放たれる、行われる、振るわれる。それら全ての収斂が、二人の剣士に注がれる

 

「美しき華、雄々しく凛々しき黒き龍。どちらも麗しき事このうえないが・・・生憎と、心中する気は無いのでな。立ち合いを終わらせ、早々に立ち去らさせてもらおう。・・・恩義を返すため、妖術師を供養せねばならんのでな」

 

それ以上、言葉は不要。それ以上、問答は無用

 

宮本武蔵は、静かに二剣を

 

佐々木小次郎は、軽やかに一刀を

 

藤丸龍華は、その勾玉を

 

其々に手をかけ、万感の想いを胸に総てを懸ける──!妖術師、英霊剣豪、下総の危機。彼女と彼にとって、それらは総て、状況でしか無かった

 

その研鑽は、その立ち合いは、その人生、その生涯は──時刻にしてあまりにも儚き、この瞬間に有ったのだ──!

 

【・・・いざ!!!】

 

鎧を纏い、勾玉を掲げる。それを合図に・・・二人の剣豪も確かに構え、刃を抜く──!




「「--すなわちは!!英霊に非ず、剣豪に非ず!!我等二匹の剣の鬼!魂震わす果たし合い!!空前絶後、驚天動地、此こそ我等が我等である証!!」」

魂の叫びが、一喝が響く。互いに現れし運命、互いに訪れし運命を、蒼天に告げ紅蓮の城を揺るがしていく

【いざ!平将門の名の下に!!--出でよ、神気立ち上る彼の守護者の極致!旭照らす日ノ本を見守りし神田明神の仕合舞台!!】

その二人の魂を誘うは日ノ本の極致。その全ての運命を包み込み導く旭光差し込む極限の舞台。この究極の果たし合いを彩りし究極の空間也!

「「--これぞ!真の真剣勝負なり!!!」」

始まる。総てを--時間、空間、存在、概念を超越せしめる剣技のぶつかり合い。その開幕を、立ち会うことを赦されし一人の少女が高らかに告げる!

【英霊剣豪、勝負、七番--最終戦!!】

その総てを、見詰めるものとして--訪れし運命の、始まりの歌を歌い上げる!

【----いざ、尋常に!!始め!!!】

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。