人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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感想検索、なんていう神機能が追加されて大変驚きました

これで部員の皆様と駆け抜けた一話一話の戦いが振り返られて本当に楽しくて嬉しいです!

一部完結の際には21ページにも感想が届いていたり・・・本当に本当に感謝です!

長い長い更新になりましたが、今も読んでくださる皆様に感謝を

どうかこれからも、末永くよろしくお願いいたしますね!


・・・しかし感想検索とは・・・まるで部員の為にあつらえたようなシステ(殴)

召喚室

我がルールだ《順序や段取りはそう変わらぬ。良いな、エア》

至尊の魂――はい。ギル。私の魂を、楔に御使いください

とうとみのけもの(まさかの召喚かぁ・・・エア、リラックスだよリラックス)

――うん。行きましょう。かの王に、細やかな安らぎを捧げる為に。例えそれが、末期の刹那であろうとも。――彼から全てを奪ったのが人間ならば、それを悼む事も出来ると。ワタシは信じます

《それでよい。事象の真偽を決めるは他者ではない、自らの決断よ。さぁ、始めるとするか――!》

――どうか、お応えください。彼の魂に、せめてもの安寧をもたらすために。そして、縁を紡ぐために――





根はどこまでも真面目「本当だな!?本当にカヴァス二世は了承したんだな!?」

風呂嫌いのアマ公『ワフ!』


謎解く為に事件を求める「間違いないよ。動物読唇術に狂いはないからね」

悪巧む為に悪事を求める「君が学んだと聞いて私も学んだからネ!信頼してほしい」

「しかし、む・・・しかし・・・こんなとろとろのさのさしたカヴァスが・・・」

ほこ(略)「わふ(俊敏に動いてるつもり)」

ラグビー部野球部最強「眠っちまいそうなのろい動きぃ!」

ポジティブフレイムメイジ「覚悟決めなさいよ。カヴァス猟犬なんでしょ?」

「ぐ、ぬぬ・・・くっ・・・!」

『ワフ!』

「解った!・・・えぇい、信頼してやろう!暴君的にな!」




看取カランポー

新宿、変わり果てた狼王への決着・・・それは、最早けして避けられぬ宿命、命題へと成り果てた。かの疾走し続ける復讐者。その存在への介錯。最早、自らが望むもの・・・自らが望んでいたものすら解らず、把握が叶わぬならば。じゃんぬが告げていたように止めを刺すことで、かの存在に終焉をもたらすより他にない。ゴールもない、ブレーキもない。ただ走ることしか叶わない。そんな生物は・・・最早、他者がその身を終わらせてやるより他にない

 

一同は国道20号に足を運んでいた。其処はアヴェンジャーの縄張りにして疾走地帯。其処に足を踏み入れるということはアヴェンジャーと対峙し、戦うということ。だが、今回は三度め、けして逃がさない為に・・・彼等は一計を講じる。人間としての叡知、そして『悪意』を利用した罠を、戦術を構築する

 

まず、リッカを乗せアルトリアがバイク・・・キュイラッシェ・オルタにて街道を疾走。200㎞の時速を維持し、かのアヴェンジャーより距離を放し疾走する。速すぎても遅すぎてもいけない。適時この速度を保ち・・・リッカの鎧にて引き付ける。彼女の泥は人類の悪性の泥。かのアヴェンジャーの鼻を強烈に刺激し、殺意と敵意を猛烈に掻き立て他の全てよりリッカの抹殺を最優先させるビーコンと成るのだ。故にこそアヴェンジャーは追い立てるだろう。リッカを抹殺するそのために

 

そしてその途行きを、モリアーティの弾丸でアヴェンジャーを撃ち据え、ダメージと注意を引き付ける。かなり離れたポイントで彼を翻弄しながら、それを牽制とし・・・彼を追い立て、『仕掛け』へと誘導するのだ

 

その仕掛けとは、魔獣用大型虎鋏。キメラですら囚われれば脱出は叶わなくなるほどの激烈な装置を三ヶ所に分けて設置する。アルトリアが疾走する背後の三ヶ所。其処こそが彼を陥れる三度のチャンスだ。・・・だが、その二ヶ所は期待が薄い、望み薄である捨て罠である事は否定できない

 

ロボは生前、ありとあらゆる罠を回避した。避け続けた。あまりの賢さに、悪魔の化身と恐れられる程に。故にこそ、彼に罠は容易く効きはしないだろう。それは生前の逸話と昇華されているためだ。それは生前の偉業と化しているためだ。彼にあらゆる罠は意味を為さない。・・・唯一つの、例外を除いて

 

そして、三つ目の罠の傍にホームズはいる。その例外を、容赦なく衝くために。容赦なく、その愛を悪用するために。もう一度、人間としての叡知を振るうために

 

「いい子だ。大人しくしているんだよ。動くと逆に危険だからね」

 

「わん!」

 

そう。狼王ロボを倒すために。もう一度。かの想い出を、かの恋情を、かの記憶を悪用する。カヴァス二世を、ブランカに見立てた作戦を立案し、実行に移す

 

そして、その罠ごと焼き尽くすように魔女、じゃんぬが控えている。今度こそ、何の憂いもなく彼を止めてやるために。その疾走にゴールを与えるために

 

「・・・リッカ。気を付けなさいよ・・・そいつに、遠慮なく頼ってやりなさい。貴女がいなかったら、勝利なんて何の意味も無いんだから」

 

その、かのアヴェンジャーと同じクラスの魔女は、今度こそ断固たる誓いと決意を以て。狼王に幕を引く決意を表す。全ての存在が決意を見出だせし狼王討伐作戦は・・・

 

『――ロボ、出現!!真っ直ぐ・・・先輩に向かってきます!!』

 

『時速・・・400㎞!二人とも、フルスロットルだ!!生半可ではあっという間に追い詰められるぞ!!』

 

「――来たわね!」

 

【⬛⬛⬛⬛⬛⬛――!!!!!】

 

大地を、天空を震わす戦慄の狼王の咆哮にて開幕を告げられる。それは正気と死出の宣告を共に抱いた、怒濤にして鮮烈のウルフチェイスとなる。喰うか食われるかの運命。獣が吼えるこの街にとて熾烈なる復讐の終演の幕が開く――!

 

もういいよ とまってほしい けものかな

 

 

【来たよ、アルトリア!ひとっ走り付き合ってもらおう!】

 

キュイラッシェ・オルタによる二人乗り。後部座席に座り、フルアーマーに身を包むリッカ。この形態だとロボの殺意が狂おしく刺激され一直線にやってくる。そして同時に事故防止、その気になればキュイラッシェの強化装甲となる。故にこそ、此処で纏わぬ理由はない。アルトリアの腰に手を回し、女の子のようにしがみつく禍々しい人形の邪龍はシュール極まりないが。そんな事を気にしている場合ではない

 

『そっちに行くわよ!しくじるんじゃないわよ死体女!』

 

「本当に、本当にカヴァス二世は了承したんだろうな・・・!」

 

『気にするのソコ!?したのよ!アマちゃんがそう言ったんだから間違いないわ!』

 

【アマこー嘘つかない。ワカル】

 

「貴様らは動物会話を何故会得している!?えぇい、信じるぞ!けして離すなリッカ!お前の生命、このアルトリア・ペンドラゴンが預かった!」

 

悩みと腑に落ちぬ迷いをアクセルを捻りMAXスピードで置き去りにし疾走を開始する。備わった騎乗スキルによる万全な運転テクニック。整備が行き届きし騎馬、キュイラッシェが夜の外灯にて照らされる新宿の国道を暴虐的に疾走していく

 

風を切る音、風圧、過ぎ去っていく景色。オルレアン、ローマ、そして時間神殿を思い出す疾走。懐かしさすら置き去りにするその走りに振り落とされぬよう、必死にしがみつく。兄貴はこの何百倍も速く生身で走りながら安全が万全だった事に驚愕しつつ、アルトリアに生命を預ける

 

『アヴェンジャー、猛追!一直線に君達を追い掛けている!時速500をオーバー!こんな速さで走れる狼がいてたまるかという感じだね!』

 

「ご託はいい、状況を報告しろ!罠の進展はどうなっている!」

 

『モリアーティに任せてるよ!援護射撃と一緒だ!――第一ポイントに間もなく差し掛かる!接触まで三、二、一・・・!』

 

モリアーティの弾幕を掻い潜り、魔力擬装により隠された虎鋏の地点を通り抜けるアヴェンジャー。その疾走は形振り構わず、その疾駆はただひたすらにリッカを狙う。故にこそ、足元の罠になど気づく余地は――

 

【⬛⬛⬛⬛⬛――!!!】

 

『なっ――!』

 

それは、コンマ数秒のやり取りであった。アヴェンジャーは足元の罠になど気にも掛けず、ただ疾走を続けていた。魔力の擬装は完璧であり、気付かれるものなど、そんな不手際など有り得なかった

 

『あ、アヴェンジャー・・・!跳躍して回避!』

 

だが、彼は回避した。足許にある卑劣な罠を、察知ではなく本能で。理屈ではなく魂にて回避したのだ。それは本人すらも預かり知らぬ――生前の逸話の再現であったのだ。彼は、妻がその場に在らぬ限りあらゆる罠を問答無用で回避する――!

 

『信じられない・・・!魔力擬装も、隠蔽工作も完璧だ!臭いもリッカ君の臭さで解らなかった筈だ!かわせるはずがない!気付いてすらいなかった筈なのに!コンマ数秒の速業だ!なんなんだあの狼!?』

 

【臭さっていうの止めてぇ!!女の子にスメル話題禁止ィ!!】

 

『狼の王なのだ、それくらいはするだろう!モリアーティ、次の罠に取り掛かれ!』

 

『ハハハハ!勿論やっているとも!ところで何も考えず最適解を導き出せるって凄くない?羨ましいナー』

 

『真面目にやんないとブッ燃やすわよ髭ェ!!』

 

『はいアラフィフ頑張るぞ~!!そーらロボ君、アラフィフが導いてあげよう!悪意あるトラップにだがネ!!』

 

引き続き、気持ちを切り替え第二のトラップに対応を移す。疾走するロボの周囲、ルートを変えられないように弾幕にて舗装しながら、ロボはそれを回避しながら。怒濤の速度にて肉体を疾走させ駆け抜ける。鉄の檻がごとき都市を。無機質なアスファルトを砕き吼えながら疾走を繰り返す

 

『第二トラップに差し掛かる!・・・しかしこれもダメなんだろうナー!三、二、一――!』

 

弾幕を最大級に放ち足許を誤魔化すように放ち続ける。その回避、対応に追われるロボに足許の罠がロボに迫る。小さい跳躍を繰り返させ、着地点に罠があるようにモリアーティが計算した罠は、しかし――

 

【⬛⬛⬛⬛⬛!!!】

 

あろうことか、『着地する瞬間に罠の地点をくりぬき』、完全に無力化することに着手したのだ。上部の首無し騎士が大地を抉りとり、窪んだ場所にロボが着地する。その殺戮の為のコンビネーション。概念的な対応に絶句を隠せぬ一同。最早痛感し認めるしかない。『ロボに罠は通用しない』・・・!

 

『うん、無理だネコレ!力業と直感の二枚重ね、いや概念の三枚重ねなんて計算に組み込むのも馬鹿らしい!さっきから撃ち込みまくってるのに糠に釘や暖簾に腕押しな所も凹みポイント高いぞぅ!』

 

魔弾すら回避し、罠すら無力化し、全てを擲ってでも傷すらもつけられない。悪意すら乗り越え、殺意にて全てを

 

『これが狼王・・・!シートンすら敬意を払った、狼の王・・・!!』

 

人の知恵を嘲笑う、人の叡智を容易く踏み越える。頑弄し無力とする。悪魔と呼ばれるも宜なるかな。その知恵と本能、あらゆる智恵を上回る悪辣さはまさにおぞましき魔物が如し・・・!

 

『最早、こうなったらリッカ君、じゃんぬ君、そしてカヴァス君に任せるしかない!最後のラストチャンスだ!任せたよ・・・!』

 

ダ・ヴィンチの願いと祈りに、力強く頷くリッカ。此処まで来て、負けるわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。止めてあげなきゃいけないんだ、あの・・・ゴールも解らない、メチャクチャに走るしかないあの獣を・・・!

 

「覚悟はいいな、お前達!此処で決着を付けるぞ!」

 

その言葉に、通信のじゃんぬと頷く。力強く絆を再確認しながら・・・アルトリアの駆るキュイラッシェは唸りを上げて最大級の疾走を披露し駆け抜ける――!!

 

【――――⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!!】

 

過去最高の憎悪を撒き散らし、アスファルトを粉砕し、外灯をへし折り辺り一帯をズタズタにしながらロボはリッカに、ただ一人の人間に向けて疾走し駆け抜ける。ただ抹殺する為に。この比類なき悪臭を、汚物を滅ぼす為に

 

それは、ある意味は絆であるのかもしれない。憎悪でありながら、怨嗟でありながら、ロボは確かにリッカを強く強く意識している。彼女を、一直線に目の当たりにしている。殺したくても殺せない、害したくて害せない、届かせたいのに届かない。そしてリッカも、その憎悪から逃げ出す事をしなかった。新宿よりドロップアウトをせず、この獣を止める事を選んだ。それは歪で、血腥く、けして穏やかかつ華やかでなくとも。それは確かに――『縁』と呼ばれるものであったのかもしれない。・・・それにより。確かに結ばれた殺意と決意が交わる中。その終わりは確かに訪れる

 

『最終ポイントだ!カヴァス君が、ついでにホームズが待っている!いいかい、リッカ君!――五!』

 

来る。相互理解をはね除ける獣が来る

 

『四!』

 

モリアーティが最後の弾薬を振り撒き、その作戦の成就を後押しする。だがその全ては、首無し騎士により弾き落とされる

 

『三・・・!』

 

マシュは思わず両手を組み、神に祈りを捧げる。最早アヴェンジャーとリッカたちは間合いの内。この刹那に、この瞬間に全てが無に帰するかが決まるのだ

 

『二』

 

ホームズがカヴァス二世より離れる。猛烈な速度で疾走するロボ相手に、のたのたのさのさと立ち上がり、――しかしてけして逃げ出すことなく向かい合う

 

『一!』

 

アルトリアが、反撃転身のために速度を落としドリフトにて踵を返す。火花を散らし、地面が炎上を起こすほどの暴虐の制動と合わせ――

 

『ゼロ!!今よ、リッカ!!』

 

じゃんぬの言葉と同時に、――リッカの全身の鎧が真紅の光を放ち、金色の瞳の網膜に刻まれた獣の紋様が紅く煌めく――!

 

「令呪を以て奉る!!天照大神の威光よ、カヴァス二世を護って――!!!」

 

それは令呪へ託す祈り。アマテラスは顕現叶わねど、その威光はけして無くなりはしない。その慈愛と慈悲は、無くなる事なく在り続ける

 

「――わぉーーん!」

 

アマテラスの神威を、魔力を、令呪によって借り受け。それをカヴァス二世の身体に瞬間的に託す。それによって引き起こされるは刹那なれど確かな奇跡。わずか数秒の間に、其処に確かに現れるは――小型にして小振りな・・・

 

『名付けて!!『ちびてらす』よ!!』

 

真紅の隈取り、そして狼程ではない、小さな犬クラスの大きさ。されど纏う神威は確かなる真。見た目すらも変化させ、現れたるはミニマムスケールの狼。カヴァス二世の魂に、少しだけ力を貸して現れし小さき太陽、チビテラス。その彼女の咆哮が、高らかに響き渡り、そして――

 

【!!!!!!】

 

動きが、静止する。目の前に現れし、有り得ざる白きもの。殆どを取りこぼした彼には、それが正しく妻なのかすらも解らない。だが――『白きもの』。それは確かに、確実に。彼の心に空白を生んだ。確かに――そのたぎる心に、空白を生んだのだ

 

『・・・――すまんな、オールド・ロボ。我々は再び、お前の愛を悪用する』

 

モリアーティの言葉を最後、そして、確かな合図として――彼はだめ押しの罠を起動させる。彼の機動力を奪う、その罠を

 

【⬛⬛⬛⬛――・・・・・・・・・!】

 

右前足に食い込む、その罠。彼の心の機微を利用して・・・彼の愛を悪用して。その罠に嵌め込み動きを止める。それは生前の人間の偉業(あくじ)の再現。効率的な、極めて理性的な状況の再演であったのだ。動きは封じられた。最早逃げ出すことは叶わない。ならば――速やかな、幕引きを

 

【――令呪を以て、私だけのじゃんぬに願いを託す】

 

最後の、一撃を。魔力のリソースと一撃必殺の火焔に昇華させるだめ押しを、最高の相棒に捧げる。何の禍根もなく――

 

【・・・――あのアヴェンジャーに、安らぎを】

 

『――承ったわ。私のリッカ(マスター)

 

最大級に高まった魔力の奔流、ロボの憎悪を憤怒と変えた、過去最高の火焔と業火。マスターの最終指令を受け、令呪のバックアップを受け。その狼に放つ。翼が折れ、身を滅ぼしながら羽ばたき続ける鳥を、解き放つように

 

「『――これは龍によって磨かれた、我が魂の咆哮』・・・うたかたの夢を見ながら、消えていきなさい」

 

生い立ちが贋作であった自分とは違う、正真正銘の憎悪に敬意と、そして最早その応報が誰にも肩代わりできないこと。彼には、自分にとっての運命(リッカ)が、最早何処にも存在しないことに・・・締め付けられるような息苦しさを感じながら――

 

 

「それが、アンタの救いよ。・・・『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』――」

 

彼女は、焔を解き放つ。それは新宿の何処にいようとも目の当たりに出来るような、悪性を焔として焼き尽くすような。彼の恨み辛みを、全て焼き払うような、業火の篝火。全ての憤怒と憎悪を焔とした、極大の火焔。――じゃんぬが巡り会った、運命へ捧げる想い

 

【⬛⬛、⬛⬛⬛・・・⬛⬛――】

 

バレルタワーより高く、なお高く屹立する焔の塔。その炎は、ロボを余さず焼き尽くす。一同は、それをただ、見詰める。自らの業にて産み出された、憎悪の獣。その不始末を行うかのように

 

『・・・アヴェンジャーの魔力、急速に減少・・・』

 

『やった、みたいだね。・・・ナビゲーションだから、フラグじゃないぜ?』

 

【・・・うん】

 

此処に――憎悪の獣は討ち果たされる。その勝利に快感や、喜びはない。得た結末は、引き起こされし人間の叡智と悪意によって。善悪など、どちらにもない。此は、世界にて府起普遍起こる日常的な生存競争の縮図なのやも知れぬのだから――




ロボ【⬛⬛⬛・・・】

アルトリア「・・・その苦しみを、肩代わりすることは誰にも出来ない。それは貴様に帰ってきた応報であり。それは貴様自身の喜びに他ならない」

【⬛⬛・・・】

「・・・さらばだ、狼王」

剣を、振り下ろす。その疾走を終わらせるために。・・・だが

「!?」

それを阻む者がいた。それは、何も意思を表示せず、何も主張しなかった筈の・・・

『・・・・・・・・・・・・』

「・・・何のつもりだ、デュラハン」

その首無し騎士は、ロボを庇うように立ちはだかり、そして武器を捨て、丸腰にて両手を広げる

【・・・ロボを、護ろうとしている?】

『・・・・・・』

ホームズ「・・・ヘシアン。お伽噺にて語られるスリーピー・ホロウ。首無し騎士の伝説。・・・君は、乗り手の責任を果たそうとしているのか」

『・・・・・・、・・・・・・』

龍華【・・・・・・】

リッカは鎧を解き、もはや満身創痍のロボに歩み寄る。ヘシアンは止めなかった。ロボに歩み寄るリッカを、止めはしなかった

【⬛⬛、・・・⬛⬛・・・?】

リッカは、虎鋏を外した。ロボとの決着は付いた。ならば、最早敗者を辱しめる必要はない。最期の瞬間は、彼だけのものだからだ

「行きなよ、ロボ。行きたい場所へ。その脚で、その身体で、せめて、最期くらいは」

【・・・⬛⬛、⬛⬛⬛・・・】

「貴方の新宿での物語は・・・もう、終わったんだから」

・・・首を、落とすことも出来た。最期の力を振り絞り、首を断ち落とすことも出来たのだ。なのに、そんな気持ちや気概は・・・ロボには浮かんでこなかった

初めて・・・彼女の匂いを間近で嗅いだ。・・・何故か、その匂いは。先程まで感じていた激臭や悪臭ではなく。――心が沸き立つような、朗らかな匂いだと思えた

【⬛⬛、・・・・・・】

ロボは歩き出す。満身創痍の身体で、一同に背を向けて、身体を引き摺り、よろよろと頼り無く歩いていく

ジャンヌ・オルタ「・・・ようやく、アイツは獣として戻れたのね。最後の最期で、やっと」

『・・・・・・、・・・・・・』

ホームズ「その通りだ、ミス・ジャンヌ。・・・もう誰も害することはない。ヘシアン。君の心配は、最早無用なのだ」

『――・・・』

静かに、ヘシアンが消え行く。それを以て、獣を討ち果たす戦いは確かに勝利と相成ったのだ――




身体を引き摺り、歩んでいく。苦痛よりは、喪失感の方が大きい。あの人間達に、また自分は敗北したようだ

敗因は、あの声を・・・あの姿を見たせいか。自分は、何故止まってしまったのだろう。犬など、ただ蹴散らすだけの代物なのに

それを考えると、酷く気分が悪くなる。だけど、忘れられずにはいられない。それが何か分からなくても、大事なものだといった感覚があるから。これだけは・・・捨ててはいけない気がした

あの人間に、自分は情けを掛けられたのだろう。ついに殺せなかった人間。殺せなかった唯一の人間。あの・・・おぞましく、最後には穏やかな臭いだった人間

次があるなら、必ずまた・・・必ずまた、この身を振るい殺してやりたい。人と獣は分かりあえず、殺し合う運命なのだから。殺すため、殺されるためになら・・・あるいは、手を組み、誰かを殺すためなら。手を貸してもいいかもしれない。最後にヤツを殺すため・・・

・・・いや・・・『なぶり殺しを選ばなかった』恩にくらいは・・・報いてやっても、いいかもしれない。少なくとも、五体満足で果てられる礼は、いつか・・・返してやらなくてはならないだろう

あぁ、故郷が酷く遠い。感じていた故郷が、思い出せない

空はもっと青かった筈だ。星はもっと煌めいていた筈だ。大地はもっと柔らかかった筈だ。空気はもっと、心地好かった筈だ

でも、それらは記憶。実感はどうだったかは、もう思い出せない

でも、もういい筈だ。終わった筈だ。もう、誰も殺さなくていい筈だ。帰りたい。愛しい⬛⬛⬛⬛がいた場所へ。仲間達がいた場所へ帰りたい

帰りたい。帰りたい、帰りたい、帰りたい・・・!もうなにも要らない、もう誰も殺す必要はない、もう走る必要が無いのなら、あの大地に帰りたい・・・!もう何も思い出せないけれど、もう何も思い返せはしないけれど・・・でも、どうしても帰りたいのだ・・・!

【――――・・・オォ、オ・・・】

・・・あぁ

そうか、と。生命を吐き出し理解する。自分の居場所は此処なのだ。帰る場所など、何処にも無かった

好んでこの場所に召喚され、好んでこの場所で殺戮した。好んで遠吠えで、人間の心胆を震わせた

――此の場所が。この汚れた人間の世界こそが。自分の帰る故郷なのだ

【ウォオォオォオォオーー・・・ン・・・!!!】


ならば、もう。果ててしまおう。ようやく止まれる。ようやく静止できる。ようやく・・・この、胸を掻き回されるような想いから抜け出せる


やっと、やっと・・・静かになれるのだ――





























《――そう悲観したモノでも無いぞ。貴様の怨嗟と憎悪は存分に我等を愉しませた。ならば報奨の一つも必要であろうよ》

・・・何故か、匂いがする。身体を、鼻を、柔らかく包み込むような匂いが、自らに寄り添っているような感覚がある

――人間との確執、愛憎・・・本当にお疲れ様でした。その魂に・・・せめてもの安らぎが在ることを。心より祈り、願います。その形を、此処に

誰だろう。解らない。でも、・・・微塵も、敵意や恨みが湧き出す気配がない。この声は――

《因果応報など知った事か。我が法であり、貴様の縁を我が欲した。施しをくれてやる理由などそれで事足りるのだ。――目を開けよ。いつまで眠っているか》

そして、感じるは・・・――

(・・・末期の間だけ、原初に立ち返るがいいさ。その憎悪、その怨嗟、ボクの力で持っていくとしよう)

頭に響く声を聞き、導かれるように瞼を開ければ・・・

「・・・・・・!」

――――――――――



其処は、遥か彼方の荒野だった

懐かしい土の感触

耳をくすぐるそよ風

星の輝き

遥か彼方まで続く、雄々しき大地

《此処が何処なのか、末期の生命の手向けに教えてやろう。――此処は、貴様が焦がれ、戻ることを切望した大地だ》

・・・自分の、願いを叶えてくれたと言うのか。数多の人間を噛み殺し、憎悪にて果てる運命だった私を。


涙と、息苦しさに悶えながら問う。・・・貴方は、何者なのだと。目の前の、輝けし者は答えた

《我は王。人類最古の英雄王よ。その情念、取り零すには惜しいのでな。盤上より落ちた貴様を回収しに来たと言うわけだ。我は自らの我欲にて動く。人間どもの応報や確執など知った事か》

自らの為に、私を連れてきたのだと。この地へ、私を連れてきたのだと彼は言う

今はもういない、失ってしまった遠い思い出

奪われたのではなく、捨ててしまった筈のもの

人を憎んでも遠かった。人を恨んでも、いくら殺しても遠かった

それが今、こうして――こんなにも、近くに・・・

《それだけではないぞ。――そら、見てみるがいい。貴様を悼み、哀しみ、憐れむ存在も其処に用意してやったわ》

誰かが、私に触り指を指す。その向こうより走り寄る、その存在は――

『ワゥッ!ワゥッ!フー!』

楽しげに、忙しなく、無邪気に跳ね回る。踊るように跳ね、此方に寄り添う、かけがえのない、二度と出逢うことはないと思っていた、愛しき存在――

《あぁ、我が呼び寄せた訳ではないぞ?無垢に無邪気、好奇心旺盛な魂に、心当たりがあったのでな》

・・巡り会わせてくれた者がいるというのか。幻霊たる彼女を、なんら戦闘力がない彼女を。利用するではなく、ただ、私に会わせたいとの願いだけに・・・?

――自然を破壊し、生態を破壊し、貴方の愛を悪用するのが私達人間ならば、自然を愛し、生態を慈しみ、貴方の愛に想いを馳せるのもまた人間です

頭に響く、安らかにて穏やかな声。聞き及ぶだけで、心が癒され、澄み渡るような感覚に満たされていく。顔も見えない、姿も見えない。けれど――その声音だけは、けして忘れないだろう

彼女ならば、我が愛しきものを、我が妻を。招くことになんら疑問を持つまいと信じられるほどに――その声は。静かで、清らかで。・・・心地好いものだった

――どうか、御休みなさい。誇り高き狼王。その孤高にして気高い在り方を、せめて、忘れずに懐いたまま。愛しき者を愛しいと想い、懐かしきものを懐かしいと感じたままに

あぁ、直感する。――この優しさが、この清らかさが。自分を此処に連れてきてくれたのだ。この美しき魂が・・・応報に沈んだ自らに、侮蔑や罵声ではなく、尊重と慈悲を以て看取る事を選んでくれたのだ

放っておけば死に絶え、数多の同胞を食い殺した私にすらも・・・この輝きしもの、美しきものは。優しき心をむけてくれたのか

「・・・・・・ワン、ウォン」

その想いに応えるように、人にも伝わるような、久しく使っていなかった咆哮を上げる

『ワンワン!キャウン!』

・・・故郷の地へ、愛しき者を連れてきてくれたあなた達に、感謝を

人と獣は分かり合えず、相対すれば殺し合う運命だ

(ほら、行きなよ。消滅までの時間、水入らずで楽しめばいいさ)

その運命を理解していながら、それでもなお

《フッ、存分にはしゃぐがいい。その末路、憎悪の終焉。この場限りであろうとも。この我がしかと見届けてやろう》

それを良しとしなかった、『貴女』に・・・いま此処で伝えよう。全てを思い出せた今、生命の限りに伝えよう

――どうか、心安らかに。もう誰も、貴方達を引き裂くものはありません。願わくば、いつか再びの邂逅を。雄々しき狼王、誇り高き・・・オールド・ロボ

愛しき者と共に、消滅の刹那。高らかに吼える

今はこれだけしか、できなくとも。これだけをせめて、全霊で行うために

『ワン!ワォオォオォオーン!!!』

「・・・――ウォオォオォオォオーン!!」


憎悪を忘れた今の、この想いを。輝けるあなた達に伝えよう



――・・・・・・ここがわたしの、生きた場所なのだと

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