人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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・・・実際のところ、これは何処まで言っても殺人だ


痴情のもつれ、感情の齟齬、金銭のトラブル。突き詰めれば、その程度の動機でしかない

そして、其処に仕掛けられた些細なトリック。だが、だからこそこのトリックは彼には解けない

ともすれば投げやりな、賭けとも呼べない部の悪いもの。・・・だが、それでも


・・・私は、彼に勝ちたかった


決戦前ミーティング

皆の全霊を尽くし、死力を尽くして打倒した新宿のアヴェンジャー戦。誰もがおらずとも欠けず、誰かが欠けなかったことが奇跡に等しいその生還。本題であるモリアーティが残ってはいるが・・・僅かなりとも勝利を噛み締め浮かれてしまう雰囲気を完全に取り締まることは不可能である。あれだけの強敵を討ち果たせたのだ、決戦前の祝勝と必勝祈願、そして薄々と感じるこの新宿での奮闘が終わりに近付いていることを感じながら・・・それぞれは、思い思いの時間を。仮初めのアジト、ねぐらで過ごしていくのであった

 

悪性に満ちた新宿。それでもなお確かに・・・存在した尊いものを確かめるように。確かに皆で、過ごした時間を取り零すことの無いように。それぞれが、刹那なれどかけがえない時間を過ごしている

 

「御苦労であった、カヴァス二世。貴公の尽力のお陰で、我等は勝利を掴み取った。その勇気と功績を讃え、大騎士勲章一個とドッグフードを上位にランクアップ、つまり昇格するものとする」

 

「わん!」

 

此方は不機嫌王アルトリア。先のアヴェンジャー戦闘での確かな働きにして勝利の鍵となったカヴァス二世を心より讃え、抱きしめもふもふすりすりを堪能したのちに厳かな騎士の礼と共に偉大なる騎士と認められ、昇格を果たす瞬間をねぐらにて行っていた。カヴァスの胸に煌めく騎士の中の騎士の証。騎士であるならば誰もが欲しがるそれを躊躇いなく渡すアルトリアに、緩む顔をハンバーガーで隠しながらじゃんぬがからかいの言葉を投げる

 

「可愛がりすぎじゃない?確かにカヴァスがいたからなんとかなったのは認めるけど、それにしたって破格の扱いにすぎると思うんだけど」

 

「黙れ突撃小火女。カヴァスは私の最も信頼していた猟犬の直系の子孫とされる設定を持ち、私に仕えるナイトの称号を得たもの。貴様よりぶっちぎりで格が高い。頭が高いぞ控えるがいい」

 

「設定って何よ!?ていうか私より位高いってどういうことよ!アマちゃんがいたからこそカヴァス二世は無事だったんでしょーが!」

 

『ワフ、ワンワン、クーン』

 

 

「フッ、弱い犬程よく吠える。それは貴様に相応しい言葉だ。みろこのカヴァスの泰然堂々とした雄々しき姿を。貴様とは風格が段違いだ。アマテラスも誉め称えている、そうだろう?」

 

『ワン!』

 

「わふぅん」

 

「私にはのさのさして食後の昼寝に移る動作にしか見えないんだけど!?」

 

『ちなみにだなSweetS店長さんよ、カヴァ公は『皆の勝利だ・・・其処に優劣はない。誰も欠けなかった偉業をこそ私は称えたい』って言ってるぜ』

 

「カッコいいわねカヴァス!?あと翻訳どうもゴールデン!」

 

女性二人、カヴァス一人を交えた愉快な歓談の中で、ホームズ、モリアーティ、マシュ、そしてダ・ヴィンチは悪のモリアーティの真意、その本題を探究予測した会議を開いている。マシュは自主的に、席を外しているリッカの為に分かりやすいマシュれぽーとを書き記す体勢に入っていた。マメな後輩である。リッカもまた、そんなマシュに任せているのかもしれない

 

『悪のモリアーティが星を破壊するために隕石を利用するというのは解ったけど・・・実際問題そんなことは可能なのかい?1999年に飛来した隕石と言えば、神戸に直撃した一つのみ。おまけにこれは136グラムの小さなもので星を壊すことが出来るとはとてもとても・・・』

 

不可能である。概念的にではなく物理的にだ。直撃して尚、その程度で星は揺らがないと彼女は告げた。そしてその意見をホームズは同意し肯定する

 

「その通りですミスター、ミス・・・ミス・ダ・ヴィンチ」

 

(悩んだ末に!)

 

「ですが、私は此処にいるくさいパパことモリアーティを観察し、新たなる推論を仮定したのです」

 

「ぐふうっ!!!おのれヤングホームズ他人事だと思って!疎ましきは加齢臭!!なんで私はアラフィフでお前は超絶イケメンなんだマジ許さねー!」

 

軽く心をバリツり反応を堪能しながらホームズは続ける。其処には終生のライバルと有り得ぬ共闘の機会を彼なりに楽しんでいるのやも知れない、とマシュはこっそり思う。実は彼女、シャーロック・ホームズシリーズの大ファンであるが故に。そんな予想を立ててしまったことは内緒である

 

「君の 過剰武装多目的棺桶(ライヘンバッハ)。特に狙いなど付けていないだろう?」

 

かの砲撃を繰り返す、モリアーティすら使用経験は生前にない棺桶、ライヘンバッハ。それらは生前重火器など使用例がない彼の手でも百発百中と化しており、本人すらも不思議がっている節すらある程だ

 

「あぁ。あれは最早撃てば当たると言ったレベルだ。敵に背を見せていても当たるだろう。我ながらよくあれほどスパスパ当たるものだと・・・」

 

「それは銃弾でもミサイルでも同じだろう。幻霊『魔弾の射手(デア・フライシュツ)』・・・残りカスの君でもそれであるならば、本元であるモリアーティは更なる力を発揮できると睨んだ。つまり・・・」

 

それらは想像するにも恐ろしき事。しかして、成就するならば、確かに可能な力量と答えを導き出すもの。そう――惑星殺人の為の魔弾。計画の必須事項

 

「『1999年時点で観測された隕石ならば、彼は弾丸として操ることが可能ではないか』と。私は考えた。そして1999年に観測されし隕石・・・小惑星は一つある。直径500キロメートルにして、この時代より数百年後に数回接近するという巨大な弾丸。その名を『ベンヌ』。これをバレルタワーに装填し、この星は殺される・・・それが、悪のモリアーティの目論見なのだろう」

 

魔弾の射手は確かに狙う場所に弾丸を撃ち放つ。弾丸は必ず狙う場所に放たれる。それを利用した大犯罪、終局的犯罪。それを、彼は見出だした。モリアーティの著作、『小惑星の力学』を紐解くことによって

 

『・・・そんなことが可能なのか・・・?霊基が足りない幻霊がそんなことを?今のカルデアでようやく、肉体を構成する、無いものをあるとするのが精一杯だって言うのに?』

 

「それはまさしく楽園たる偉業なのだが、その通り。幻霊はとても弱い。何故なら肉体が無いからだ。楽園のように壺を用意してやらないかぎり、横に穴が空いた壺に水を注ぐようなものだ。どうしても一定量にはならない。だが・・・概念たる宝具は別だ」

 

「生前の逸話、伝承、エピソード。それらの再現は強くはなれど衰えはしない。・・・故にこそ、霊基を高め合成させれば・・・」

 

「確かに力を発揮する概念となる。故にこそ、君は求めたのだ。魔弾の射手。弾丸と必中を司る歌劇の主役の物語を」

 

それが、導き出された答え。隕石を利用した星の抹殺。彼は、それを計画し、推論し、導き出した。そして、可能と証明し・・・実行に移したのだ

 

『~本来ならそんな事出来るはずないんだけどなぁ!幻霊と幻霊、英霊と幻霊の融合なんて!まさにこの新宿でしか出来ない犯罪か!おのれ!モリアーティ!』

 

「照れるナ・・・」

 

星を抹殺する大犯罪に対して誇らしげにしているモリアーティに、オルタズ怒りの火焔と峰打ちが迸り。瀕死と化し、死にかけながら喘ぐ髭に、笑いながらホームズはパイプをふかす

 

「君、獅子を起こすのは程ほどにしておきたまえ」

 

「そうする・・・ちょうこわかった・・・」

 

『ならもう一刻の猶予もありません!なんとしても、彼の計画を止めにバレルタワーへ!』

 

「あぁ。勿論そのつもりだ。ミス・リッカが戻ってきたならすぐにでも出立しよう。・・・何故かバレルタワー周辺には警備が張られていないからね」

 

『警備が、張られていない?』

 

「歌舞伎町を一人で殲滅したミス・リッカを警戒しているのだろう。あるいは防衛を諦めたかだ。『無駄な兵力など犠牲にしかならない』という、無味乾燥な状況判断かもしれないね」

 

調査したホームズの言葉は正しい。タワーの回りには何の防備すら張られていない。それは自信なのか、誘っているのか。どちらにせよ、好機な事に変わりはなかった

 

決戦は、近い。一同の心は、気迫と気概は高まっていく。この悪にまみれた世界に決着を付けるために。そして、正しき場所に、悪辣なる計画を打倒するために戦う決意を高める

 

『しかし、こんな悪魔的な計画を彼は一人で企てていたのか・・・!おのれモリアーティ!全く面倒臭いったらない!とっちめたら存分に苛めてやらなくちゃならないね!カルデアの休暇を潰した罪は重いんだからな!』

 

「それは真に申し訳無い!いやはや、空気の読めない存在もいたものだ!あ、私か!私だったなアハハハハハ!よーしみんな!此処は一つ心を一つにして!私の企みを潰してやろうじゃないか!えい、えいおー!」

 

「カヴァス、私たちはこれより最終決戦に赴く。必ず戻る故、此処の防備は任せたぞ」

 

「ワフ!」

 

「さてと、リッカを呼んでこようかしら。力んでるようなら、らしくないわよって言ってあげなくちゃ」

 

「ミス・ダヴィンチ。最短突入ルートを割り出そう。手伝ってくれるかな?」

 

『勿論だとも。どうせやるなら楽な方がいいしね!どれどれ、あれがそれだろ、これがあれだろ?』

 

「・・・・・・・・・おー。リッカ君がいないと、これ程までに自由奔放にして我が強いのね、私達・・・」

 

『お、おー!』

 

「マシュ君!!!」

 

『はははは、だからなつくななつくな』

 

「すまないねモリアーティ。彼女は熱心な愛読者つまり私のファンなのさ」

 

「ワトソン君では飽きたらず美少女まで手にするのかね!これだからお前は嫌いなんだ!アイリーンの時のように出し抜かれて酷い目にあってしまえ!ああくそ、新しい文庫が発見されて、モリアーティには超絶美少女の教え子がいたとかになったりしないだろうか!望み薄だろうか・・・!」

 

そんな、ねぐらでの騒々しい一日。最後になるであろう出立に、一同は思いを込める。最後の決戦の後、見事勝利を納めるか、星が砕かれもろともに滅びるか。その命運を左右するのは、自分達にかかっている

 

・・・彼女らを包み込む運命の解を導き出すことは、ただ一人の裁定者を除いて誰にも叶わないのだから。運命は、相応しき場所に、相応しき者達を導いていく

 

 

・・・――完全犯罪の成就まで、もう間もなくである




屋上

文武両道女子道舗装中「・・・あ、来た来た」

『・・・態々電話を改良して持ち運び可能にするなんて。其処までしてもらう理由は私にあるのかしら』

「今更じゃん。たくさん助けて貰ったもん。御礼くらいは言わせてよね。ありがとう、フリージアさん」

『――ふふっ。どういたしまして。だけど落第よ、リッカ。最後まで私を疑わなかったわね?・・・本当は叱るべきなのに、そんな雰囲気じゃ無くなっちゃったか』

「先手必勝!ペースを握った者が勝つ!・・・なんてね」

『変わらないわね、貴女は。・・・どう?この新宿で、命を懸けるに相応しいものは見つかったかしら?。ドロップアウトの機会を蹴ってまで。見付けられたものはある?』

「ん、もう見付けてるよ。フリージアさん、このままだと死んじゃうじゃん」

『――あぁ、そう言えばそうね。自分の存在を考慮していなかったわ。確かに、死ぬわね』

「死なせたくないよ、だから頑張る。それだけ」

『ひたむきね。でも、ありがとう。・・・えぇ、貴女が楽園のマスターで良かったわ。そんな貴女だから、皆やってこれたのよ』

「そう?」

『そうよ。・・・最後まで頑張りなさい。もう、モリアーティの計画の破綻はすぐ其処よ』

「うん!・・・そう言えば、フリージアさんはどうして新宿に?」

『私?・・・・・・そうね、私が此処にいる理由、か』

「聞きたいな、私。フリージアさん、悪い人じゃないのになんで此処に?」

『・・・そうね。敢えて言うなら・・・『笑っていてほしい人がいる』からかしら。いつも楽しそうにしてほしい、楽しんでいてほしい。そんな人の為に頑張る・・・なんて言ったら、信じる?』

「信じるよ。――信じてよかった」

『?』

「誰かのために戦える貴女は、やっぱり・・・素敵な人で、私達の仲間だよ。最後まで顔合わせが出来なかったのが、ちょっぴり心残りなくらい」

『・・・・・・』

「新宿を救ったら、必ずまた会おうね。絶対だよ。今度は、一緒にハンバーガーでも食べようよ」

『・・・えぇ、楽しみにしているわ。そして・・・最後の助言よ』

「?」

『真実は貴女の中に置いていくわ。どんな嘘や欺瞞が貴女にぶつけられようと、その真実は輝き続ける。折れる事なく進みなさい。私は希望を運びに行くわ。貴女がそれを疑わない限り、ずっとね』

「・・・・・・フリージアさん・・・」

『それじゃ、またね。今度は、しっかり会って話しましょう』

「・・・ん、またね」

『頑張りなさい、リッカ。・・・あ、そうそう』

「?」

『『銃身の端に布を括っておいたわ。一度だけ、手に取ってみなさい』』

「・・・切れちゃった・・・」


(・・・ん、行ってくるね)

ギリシャに囲まれた田舎娘「リッカ、大丈夫?」

「ん!問題ないよ!準備、出来た?」

「えぇ。後は全員で行くだけ。貴女の号令を待っているわ。あのいけすかない髭に、キツい一発をぶちこんでやりましょう」

「オッケィ!――行くよ!最後の決戦に!目指すは――バレルタワー!!」




バレルタワー


教授「・・・――長い、長い計算が、もうすぐ終わるのだな」

ロストマン「・・・・・・」

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