「つい先程、ということになる。長い計算が終わった気分だ」
じゃんぬ「さっきって・・・ど、どういうことよ!ていうか、アンタ、アンタ!所長、所長よね!なんで・・・!」
『それに、私たちは勝っていたのに!裏切る理由なんて・・・!』
「いいかね、アイリーン」
アイリーン「御自由に。盟約は果たされましたから」
「宜しい。君達には問い質す権利があり、そして私には答える義務があるだろう。全て、全て順繰りに答えよう。――何しろ、ホームズはもういないのだから」
【・・・ホームズさん・・・】
「レディ・リッカ。君は気付いていたかな?この新宿の違和感に、現実ならざる組み立てに」
【・・・物語が本当になった、フィクションの世界みたい】
「その通り。この新宿はあらゆる世界から切り離され、人理と無関係になっている。結果――この新宿は『空想の街』となった。幻霊と英霊、幻霊と幻霊の融合など、この新宿以外では不可能だろう。そして、この新宿で私とアイリーンは各々の目的のため同盟を結んだ」
【目的・・・!?】
「私は、リッカに絶望を与えるために」
「そして私は、ホームズを越えるために」
【・・・オルガマリー・・・】
「アイリーンよ、私はね。誰かに似ているかしら」
「共に不可能に等しい難行を成し遂げるために、我等は盟を結んだ。それこそが幻影魔人同盟。幻霊と人間の同盟だ」
マシュ『越える、のですか?殺すのではなく?』
「・・・リッカ君。21という数字を言ったら負け、というゲームをやったことはあるかね?互いに言える数字は三までとする。先攻後攻、君が決めていいと言われればどちらがいい?」
アルトリア「・・・先攻、後攻・・・、・・・そういうことか」
【・・・後攻】
「おめでとう。君の勝利が確定した。21を言わせるためには四の倍数を自分が言わねばなはない。四の倍数を言うためには、決して先攻を選んではならない。・・・そして、私は先攻。ホームズは常に後攻と世界に定められている」
「私達の生きた世界はそういうものよ。『善が悪を倒す』。・・・それが世界の理よ。貴女の人類悪の銘の出典、二元論ね」
【・・・だから、此処を切り離した】
「そう、私はモリアーティで有る限り、けしてホームズに勝利できない。それはこうして召喚される身となってなお、我々を縛り付けている。例えるなら・・・世界が滅びる瀬戸際に現れる抑止力のようなものだ。殺そうとしても勝てず、裏をかこうとしても無駄だった。だから考えたよ。それはもう必死にね。――そうして目をつけたのが。唯一出し抜いた女性、アイリーン・アドラーだった」
『!』
「私は霊基数値が足りなくて、召喚には不十分だったの。だから依代が必要だった。サーヴァントとして、役割を果たすために必要な霊基を手にいれるために。そうして聖杯で『ホームズを出し抜いた女性に相応しい、聡明かつ悪辣な存在』を検索し、モリアーティが用意した依り代を元に産み出されたのが・・・私と言うことよ。まぁ・・・体の持ち主互いの合意はきちんとしてあるのだけど」
『そんな!?じゃあ所長は、アイリーン・アドラーとモリアーティに自ら協力を・・・!?』
「当然よ。『教え子だもの』・・・確かに合意を示したのは保証するわ。だからこそ、私はサーヴァントとして活動できている」
『疑似サーヴァント・・・!と言うことなのか!ますます解らない!?教え子!?モリアーティと!?君はいつから・・・!レイシフト適性は・・・!?愛弟子!君の選択がわからないぞ!師匠としてこの上ない不覚だ!』
「ふふっ。まぁそのうち解るわ。・・・ホームズだって万能じゃないわ。私に負けたように、ミスを犯したりもする。だけど、教授にだけは必ず全力を出してしまう。そんな彼を出し抜く方法はただ一つ」
「『私がホームズの側に付くことだった』」
【・・・あなたはゼロになっていたから、私達は見抜けなかった。でしょ?】
「――ふ、く。わははははは!流石はリッカ君!君を前にしていたなら、悪意の何が君のエサになるか分からないからね!」
「教授?脇道に逸れず」
「すまんすまん。いや、まさしくその通り。自分自身をゼロにした。記憶を削り、悪性を削り、善性を産み出し、生まれ変わった。・・・私だけではないぞ。このアイリーン・・・オルガマリー・アニムスフィアも記憶を削った」
「オルガマリー・アニムスフィアのパーソナリティー。教え子である事、私がアイリーンであること。疑似サーヴァントになった事。それらを全て削って・・・宝具、『
「彼女は自分を、悪のモリアーティと信じて動いた。私は自分を、善のモリアーティと信じて動いた。そう、つい先程まで。悪のモリアーティが滅びるまではね」
「私はモリアーティだとおもっていたし、モリアーティとして振る舞っていたわ。・・・本当は、もう少し下の紳士がよかったけれど」
「そう言うな。こうでもしなければ、我等はホームズと君に勝てないからね」
「私の目的は土壇場で防がれてしまったけれど・・・まぁ、これからやればいいわ」
『そんな・・・』
「だってそうだろう?そうしなければ、ホームズの観察眼から逃れられるわけがない。だから私は全力で君達の味方をしたし、仲間として君たちと共に戦った。それは紛れもない真実だ。リッカ君、見破れなかったことを嘆く必要はない!」
【――解ってる。疑ったりなんかしないし、嘆いたりもしない。・・・ただ、哀しいよ。モリアーティ】
「・・・いや、すまないな。それはそうか。人類悪の核を成す君の魂は、清らかな人類愛だ。私が裏切ったことを悲しんでいるのではなく、私が悪に回ったことそのものを悲しんでいるのか」
ジャンヌ・オルタ「殺す!!!」
???「おっと――ようやく姿を現したな、雇い主」
「――貴様は」
「雇われのボディーガードさ。其処の教授に雇われてな。アイリーン・アドラーの護衛・・・報酬がよかったものでね」
『霊基パターン・・・エミヤ、さん・・・!?』
「退きなさいよボブ!!よくも、よくも・・・!!リッカの気持ちを踏みにじってくれたわね!!絶対に、絶対に赦さないわ!殺してやる!髪の毛一本残さず燃やしてやるッ!!」
「義憤と忠義に燃える反転英霊とは初めて出逢うな。稀少だが・・・殺すことに変わりはないか」
「よろしくね、傭兵さん」
「やらせるか、貴様には裏切りの報いを・・・!ッ!」
「反転してはいれど、誉れも高き騎士王。君は私が直々に止めねばならんだろう」
「小癪・・・!」
『・・・先輩・・・私は、どうすれば・・・何が正しくて、何が間違いなのですか・・・?』
『まさか、こんな土壇場で・・・!皆、モニター前に殺到しないで!席に、席に戻って!愛弟子が心配なのは解るけど!』
「慕われているのね、彼女。・・・さて、では始めましょうか。藤丸リッカ」
【・・・!】
「貴女と全力で戦い、どちらが勝つのか・・・『解りきった戦い』を始めましょう」
【オルガマリー・・・!!】
「―⬛⬛」
現代人には発音すら叶わぬ、神代の言葉。それを口にし、発声すると同時に、オルガマリー・・・いや、『アイリーン・アドラー』は瞬間移動の魔術を発動させ、動揺と混乱の最中にあるリッカと共に、その存在をバレルタワーの頂上よりテレポートさせる。それらは、彼女の師匠たるメディアが得意とする魔術の一つ。万能たる聖杯の力を使用し、習得難度を乗り越えて再現された神代の奇跡がほんの一欠片
【ッ、あっ――!】
ぐらりとリッカの視界が暗転し、明滅する。その次の瞬間・・・彼女達は、有り得ざる場所に浮遊していた。其処は、屋内ではなく地上ですらない。眼下にきらびやかな街灯が立ち並び、コンクリートにより形作られたジャングルがごとき紋様が広がる悪性の都市・・・
「こうして実戦形式で披露するのは初めてかしら。アイリーンとしては荒事すら初めてだけど・・・この新宿にて、地脈と龍脈の掌握は終わっているの。だからこの悪性の都市が、まるまる私の工房と言うわけ。――1年間貴女が戦ってきたように、私も魔術師として、それなりにやってきたんだから」
【オルガマリー・・・!】
「言葉は不要ね。貴女への問いは、これから始まるのだから。じゃあ、よろしくね。肉体――⬛⬛」
リッカを油断なく眺め、微笑みながら呟くほんの呟きのような言葉。意味の理解できぬ単語。ただそれだけの
地脈から魔力を吸い上げ、新宿のエネミー達から魔力を拝借し、空中に新宿一帯を覆うほどの魔法陣が現れる。聖杯の魔力を汲み上げ、『アニムスフィア』『フリージア』の銃身に炉心クラスの魔力が供給される。その偉容に応え、リッカも――即座に鎧を纏う。『そうしなければ死ぬ』と言う直感と悪寒が、全身を駆け巡ったからだ
「
アイリーンの周りに五つの魔法陣が浮かび上がり、それらが総てリッカに向けられる。静かにオレンジと白の銃を向け――
「
放たれる、無数怒濤の超絶連射。本来の魔術で言えばこれはガンド。単なる魔力を飛ばす他愛の無魔術なのだが。オルガマリーのそれは神代の魔術を組み込んだ常軌を逸した連撃。一発一発に元素を再現し、あらゆる属性の射撃を可能としたおぞましい威力と連射。威力の高いものを『フィンの一撃』と呼称するがこれは最早その程度に収まらない。・・・本来の使い手であるオルガマリーは、これらを『万能の手』『魔女の指先』と名付けていたが、今はそれを知るよしもない
【!!】
リッカは素早く羽ばたきその軌道から逃れた。いくら連射とは言えども指向性のある弾丸ではなく、またアキレウスよりは速くない。常日頃人類最速を目の当たりにしているからこそ。それらを回避することが可能となった。――そして、リッカは更に目を見開くこととなる
回避し、着弾したガンド・シュート。其処に在った廃ビル、約三十階層のビルが即座に爆散解体の憂き目に遭う。放たれに放たれた弾丸のあまりの威力に、骨格が壊れ、砕け、支柱が折れ、倒壊し、やがて物理的な威力に吹き飛ばされた。屋敷の一つや二つを倒壊・・・どころか、ただ放つだけで都市を破壊し尽くす事も可能なのな程の威力を持つその魔術弾丸の威力を、まざまざと見せつけられる。そしてこれは単なる銃弾であり。アイリーンにとっては小手調べ以下の代物であることがリッカには直感で理解できた
「ほら、私を止めないと『ベンヌ』が来る前に守るべき新宿が更地になってしまうわよ?」
【ッッ・・・!本気、なんだね・・・マリー!!】
「勿論。あなた相手に手など抜く筈が無いでしょう」
冷厳に笑うアイリーン、飛翔するリッカ。黒い翼をはためかせ、人間の範疇には最早収まらぬスピードで、罠を警戒し・・・そして大回りに翔ぶ。高度はアイリーンが見上げる角度。街に今のガンド・シュートを撃ち放たれないように高所を取り旋回航空を行う
「そう、あなたは必ずそうするわ。見てきたもの、この身体はずっとね」
そしてそれは同時に、アイリーンもまた全力を出すことを示唆している。周囲に展開した魔力ゲート。そこから奔流、大砲がごとき無数の魔力放出を無際限に放つ。あまりの規模、あまりの威力と束からそれらはこう呼称されるべきだろう――光の織物と。夜空を彩る紋様がごとき魔力の雪崩が、リッカを呑み込まんと襲い来る・・・!
【っおぉおぉお!!】
人間一人を呑み込んで余りある。そしてそれらがうねりをあげて放たれる極光の葬列。それらを今まで培ってきた洞察と勘、そして気合いと度胸で掻い潜る。かすった場所の鎧が蒸発するほどの形ある消滅の光を、紙一重でかわし、すかし、飛翔し、停止し急発進し交わし続けていく
【――!】
そしてその間断なく放たれる魔力光の僅かな空白。回転し、魔法陣から魔法陣に展開される瞬間の僅かな隙間を狙い、反転急降下し、加速と全体重を乗せた拳を振るい上げ、アイリーン・・・オルガマリーの顔面目掛けて渾身の力を振るう
【歯を、食いしばれぇ!!!オルガマリーッ!!】
「流石」
魔法陣の間断を即座に見つけ、接近を可能としたリッカに心の底からアイリーンは驚嘆し称賛を贈った。そしてその、首から上が消し飛ぶような渾身のパンチを受け――
【・・・!!】
受けては・・・いなかった。オルガマリーの周囲には、魔力によって形成された障壁、そしてその障壁にリッカが触れ、侵食破壊されぬよう魔力にて編まれた『水銀』が強度を増した防壁として。彼女の拳を阻み、拒否していたのだった
「
【硬い――!!】
「貴女の拳は重すぎるのよね。これ、時計塔のロードの最高傑作の逸品礼装魔術の再現なんだけど・・・」
水銀が、固形の限界を越え砕かれる。飛沫が辺りに飛び散り、そして同時に四散した欠片、それらはリッカを取り囲む形となる。アイリーンはただ言葉を紡ぐ。代替となりし体、その戦闘経験と手段をただ振るい、任せていく
「貴女はこれくらいする・・・か。――
瞬間、砕け散った水銀がリッカを遠心力と速度にて鞭のようにしなり、刃のように鋭利となり、その総てが彼女に襲い掛かる。無数の刃の攻撃にして防御を行う、時計塔の魔術師が産み出した万能礼装の聖杯再現
【ッッッ~~!!!】
殺傷の領域から下がり、そして寸断なく襲い来る水銀・・・いや、展開ユニット。それら総てをかわし、防ぎ、反撃し、そして無力化せんとあがき・・・
そして――
「
次なる指示にて、魔力水銀の総てが散開し、きらびやかに輝く自律浮遊を行う。夜空の星のようにちりばめられた白銀。そして、その意味を察し――
「入射角、計算――」
右手の純白の銃、『フリージア』を構える。リッカを中心とし、一発の弾丸にて取り囲み。その総てをリッカに撃ち放つ為の計算を考案し、そして・・・一発の、光弾を発射する
「
【くっ!!】
その目論見を察し、素早く翼を畳み自らを防護する体勢に入る。それと同時に、同じタイミングにてそれは放たれた
【ぐぅうぅうぅうぅっ――!!!!】
無数に反射し無限の軌道でリッカを縦横無尽に襲い来る光の乱反射。たった一発の弾丸が千、万の軌道を描きリッカに殺到する。全身全霊の防御にて直撃には至らないものの。それらはリッカの鎧に甚大なダメージを与えていき、無数無限に切り刻んでいく
「
左手のオレンジ色の銃、アニムスフィアに魔力をチャージし、極大の魔力バーストを用意する。リッカが動けないことを把握、利用し、そして作動させし圧倒的な単純火力を突き詰めた携行大砲がごとき極大の一撃。アニムスフィアから迸る魔力。それらは引き金を引く瞬間を今か今かと心待にし――
【――!!!!】
「『
放たれる。強力無比な一撃。それらは屋敷やビルなどを覆い砕き吹き飛ばしあまりある一撃。極太の戦艦主砲に匹敵、巨人の一撃に比肩する極大の光線。軌道上総てを薙ぎ払う、平凡な魔術師が一生に産み出し賄う魔力総量を遥かに越えた、魔術の常識を覆す必殺の射撃
【――っうっ!!!】
リッカはその時、動かず死ぬより動き死中に活を見出だす手法を選択した。全身を穿つ反射光線を、泥を自らに最大展開して自分を覆うように駆動させ、力づくで攻撃範囲から逃れ得る。速度と衝撃は減衰しきれずに地上に猛烈に落下しては行くものの、蒸発という最悪の事態からは逃れ得る。リッカの目の前に走り消え行く、聖剣の輝きがごとき超巨大光線。雲を霧散させ空の彼方に消えていく光の束。あの場所にいたら、アキレウス・コスモスを使わなければ防ぎきれぬであろう極大魔力の奔流
サーヴァントの宝具のような奇跡ではない、単純にして明快、膨大な魔力を、緻密にして丹念に構築した故の論理的戦術。奇跡や神秘ではない、しかして確かにすさまじいまでの物量と勢い、破滅的な制圧力にして悪辣さ。これら総てを、その気になれば一言呟くだけで発動可能な隙の無さ
【私の親友が――こんなに強い魔術師だったなんて・・・ッ!!】
「私も驚き。凄い依り代だったのね、彼女」
【!!!】
瞬間振り返り、吹き飛ばされながら弾かれたように防御体勢を取る。組んだ腕に正確に叩き込まれる魔術防御を備え魔力強化にて放たれる神速の脚。切れ味鋭いインパクトと、打撃衝撃と共にリッカが弾き飛ばされ吹っ飛んでいく。鎧が無ければ、粉砕骨折していただろう
「投げ技では貴女にはどうしても勝てなくて、掴まれたら私の敗けが決まったようだけど・・・打撃戦では、ほとんど私が有利だったようね」
そして、吹っ飛ばされていくリッカより速くオルガマリーが追い縋る。それらは物理的に本来有り得ぬ動き、しかして常識を覆す聖杯の奇蹟が産み出す魔術の再現
「⬛⬛、――
神速の脚捌きに、距離を詰める速度が更に加わる。唸りを上げ加速し、倍速にてリッカに追い縋り、そして――
「脚癖が悪くて、ごめんなさいね。リッカ」
近接格闘を披露するアイリーン。凄まじくキレの足技。ハイキック、ローキック、ミドルキックに旋風脚。おおよそ総ての足技を、極限まで軟体とした股関節としなやかに鍛え上げられた筋肉にて間断なくリッカに叩き付けていく。それらはリッカのパワフルでダイナミックな投げ技やフィニッシュとは対極的なもの。颯爽と駆け抜けるアキレウスが如く、スマートかつスタイリッシュな疾風怒濤の連続コンボにして捉えられぬ風のごとき流麗な体捌き
【よく解ってるよ・・・ッ!!うわっ!?】
だからといって、リッカもけしてサンドバッグではない。姉妹弟子なのだ。堪え忍び、受け止め、やがて跳ね返さんとする。今まで戦ってきた中での模擬戦は、打撃でリッカの意識が狩り落とされるか、リッカが掴みオルガマリーを絞め落とすかに集約された。だがそれはあくまで徒手空拳の話。オルガマリーの今の両手には『銃』が握られている。その不確定要素は、リッカの付け入る隙となった
「ガン=カタと言うらしいわ。人は開発と発明の化身と言うのは本当ね」
近接戦闘でありながら、銃火器を手足、拳の延長のように振るう。派手な体捌きの予断と間断を銃で埋め、そして蹴りの動作に銃撃を挟む。掴む余地に銃弾があり、投げる動作の前に銃弾が邪魔をする。近付けば足技が披露され、距離を詰めれば徹底的に撃ち込まれる
【ッッ、~~!!】
精神的な動揺と混乱を差し引いたとしても、あまりに合理的で冷静な戦闘構築。邪龍の鎧が致命的な損害を防いではいるが、正しく防戦一方である。――いや、正しくは。それすらもアイリーンは計算に組み込んでいた
彼女は必ず立ち上がる。だが、けして即座に切り替えられる程外道ではない。悩み、哀しみ、迷い、惑う。人類悪などという観点に惑わされず、彼女を一人の『人間』として把握し、そして――それを悪用した
勝つとするなら、この瞬間――『自分を排除すると決意する間の空白』をこそ・・・アイリーンは狙いを定め、全力を注ぎ込んだ
【っあっ――!!?】
左足にて飛び膝蹴りを鳩尾に叩き込み、渾身の瞬間強化を施した右足を駆動させ、体を回転させ――
【がはぁっ――!!】
渾身の回転を加えたミドルキックを、回転の反動を加えて叩き付け――遥か下層の新宿目掛け、リッカを吹き飛ばす。リッカの加速の勢い、アイリーンの蹴りの威力が加算し、都市の一角に隕石追突クラスのエネルギーを発揮させ空中から地表と、一瞬の内に叩き込まれる人類悪、リッカ
「
建造物を吹き飛ばし、クレーターとなった事を確認し。アイリーンは静かにだめ押しの一撃を準備する。――アニムスフィア、フリージアを連結し、更なる魔力循環を稼働させ、魔法陣を全展開し、階層下にある目標めがけ――
「
今ある総ての魔力を集積した一撃を、だめ押しに放つ。それらは注がれる神罰が如く。冷厳な裁きの如く。五色の光束となりリッカに降り注ぐ
【・・・アキ、レウス――コスモス――!!!!】
体を奮い立たせ歯を食い縛り体を起こし、新宿への被害を食い止めんとした全力の宝具展開。彼女の師匠たるアキレウスの宝具を、全力で発動し――
【はぁあぁあぁあぁあぁっっっ!!!】
「――・・・・・・」
新宿の空と地表の狭間で・・・終末を思わせる大爆発が巻き起こる。盾が振るわれ、光が満ち溢れ荒れ狂う。新宿の終焉を彩る、完全なる犯罪の彩りの果てに
――人類悪を、滅ぼすが故に。そしてアイリーンは、彼女に細やかな魔術を掛ける。それは・・・彼女の生きざまを問う最後の一押し・・・
~
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・はぁっ・・・」
度重なるダメージ、精神的動揺と混乱、全開の宝具使用により、リッカの鎧はほどけ、金色の眼は真紅に染まり網膜の紋章が輝いている。アイリーンの魔術干渉、そして執拗な大破壊攻撃の集中により、少し休息を果たさねば鎧が展開できぬ程に追い詰められていた
本来ならば、このような事は起こらない。どんな相手であろうと、奮い立つことを諦めない。・・・だが、この場ではその決意、『人理を臨む龍心』が翳りを見せている。抑止力が働かぬと同じように、人類悪の力が『滅びても問題のない世界』とこの場を定義しているためだ。その解離すらも・・・かのモリアーティとアイリーンは予測していた。今の彼女は『いつもより揺らぎやすい』のだ。本来の彼女ならば、けして起きえないバッドステータスでもあり・・・最後の一押しでもあった
「親しげな者の絆を、友情を、想いを利用されるというのは堪えるでしょう。これは貴女というコインの裏。誰かを信じ、誰かを想うが故の苦痛よ」
アイリーンが降り立つ。銃を二丁持ち、片膝を付き息を切らすリッカに歩み寄る
「世界を救う戦いに、在るのは誉ればかりとは限らない。あなたを恨み、あなたを憎み、あなたの純真さを利用し、ひたむきさを悪用し、快活さを嘲笑う者は必ず現れる。――今の私や、教授のようにね」
「・・・教授・・・」
「リッカ。あなたは悪を名乗るには、人類悪を名乗るには甘過ぎるわ。生まれながらの悪であるのに、誰かを信じ、誰かを想っている生き方をしているから、今、私なんかを見上げている」
アイリーンは、告げる。貴女の生き方は辛いことばかりだと。人を信じたところで、得られるものはこんな裏切りばかりだと
「疑いなさい。騙しなさい。欺きなさい。信頼出来るものは己のみ。自らの存在のみが唯一無二。他者は踏みにじり、裏切って当たり前の端役と認識なさい。それが悪を担うと言うこと。それが悪を支配するということ。それが・・・悪を背負うと言うことよ、リッカ」
「・・・・・・」
「もっと賢く生きなさい。踏みにじられ、搾取される側に立ち、裏切られて傷付くばかりの生き方は、辛いだけよ」
・・・彼女は、何故今になって、こんな事を・・・
「今までの生き方でなんとかなってこようとも、あなたはいつか必ず何者かに利用される。そんな時、後悔するのでは遅いのよ」
次、――次の話を・・・何故、今になって・・・
「そう。――辛いのなら、苦しいのなら。総てを諦め、止めてもいいのだから」
「・・・・・・」
この体の苦痛が、この疲労が、総てが楽になる方法があるという。それは、諦め、止めることだという
信じたところで、裏切られる。託したところで・・・貶められる。なら、人は何の為に出逢い、時を重ねる?
「レイシフトなさい、リッカ。帰してあげるわ。今の私なら、あなたを帰らせる事は叶う。あなたを裏切った総てを見捨てなさい。あなたには、それが許されるのだから」
それは、――何故・・・
「さぁ、リッカ。あなたはこれから先、本当の人類悪としてあのカルデアに――」
・・・瞬間。燃えたぎるような熱い熱が。震えるように魂を揺るがした
「――っ・・・!?」
これは・・・この声は・・・?
~
それは、バレルタワーの頂上にて
「ぐ、っ・・・!」
「マスターの指示も貰えず、防戦一方だな。そのまま死んでくれると楽でいいのだが。霊核は無事だが、浅い傷でも無いだろう」
悪辣な嘲笑に、じゃんぬは尚も吼える
「――ざっけんなっての!私が私で有る限り、絶対に退くものか!諦めるものか!!」
奮い立つ、龍の魔女。けして諦めはしない。けして逃げ出しはしない。それは人を、他者を信じる炎。悪意を塵にする弾劾の炎
「だって――リッカはずっとそうしてきた!そうやってここまで歩いてきた!此処までこっぴどくやられたって、まだリッカはきっと足掻いてる!マスターが諦めないってのに、サーヴァントの私が諦めてる暇なんか無いってのよ!」
それは、悪意の中に煌めく、黎明の火。決意にて刻まれた、魂の咆哮
「私は諦めない!リッカを信じる事は絶対に止めないし!世界を救う事だって諦めないわ!――だってそれが、リッカが私に教えてくれた事!私の心を燃やす――『絆』という火種なのだから・・・!!」
ジャンヌ・オルタの叫びに呼応するように、カルデアの者達もまた、奮起を露にする
「馬鹿野郎!皆、何を下を向いてるんだ!」
「!」
「ムニエル・・・!?」
「まだリッカや皆が戦ってるじゃないか!俺達が下を向いてどうする!諦めてどうするんだ!俺達が目指している理念は、完全無欠のハッピーエンドだろう!?なら、諦めてる暇なんて無いだろう!」
それは、大人である彼等が決意した事。最後まで、少女たちを応援すること
「所長が何を考えてるかは正直これっぽっちも解らん!だから、だから戦わなきゃダメなんだ!『俺達は、所長から何も聞いちゃいない』!自分達が納得できる答えを所長が言ってくれなきゃ、何も分からないじゃないか!それに・・・一回裏切ったくらいなんだ!それを言うなら、『俺達はかつて、所長の助けを求める声を裏切った』じゃないか!」
「・・・!」
「所長を止めて、連れて帰ってこれるのはリッカだけなんだ!そんな彼女を、俺達が見捨ててどうする!?俺達の大人の役目は子供を利用して切り捨てることじゃない!しっかり支えてやることだろ!」
「・・・ムニエル・・・ははっ、あぁその通りだ!天才の私が、まさか真理を説かれるとは!」
「はい!まだ、終わってなんていません!先輩も、所長も、まだ・・・何も、終わってなんていません!」
ムニエルの啖呵に、スタッフたちも次々と活力と平静を取り戻していく。混乱が、覇気へと変わっていく
「そうだ、そうだったな・・・!とりあえず、オルガマリー所長には食べ放題奢ってもらわくちゃな!」
「大体、あの所長がカルデアに敵対するなんてそれこそまゆつばよね。あの人、絶対なんか考えてるわ」
「楽観的か悲観的か・・・愉悦するならどっちかなんて分かりきってる!所長ー!信じてますから、帰ってきたら覚悟してくださいよ!!」
「あぁそうだ!モリアーティの計画さえ覆せれば、愛弟子の身柄は確保できる!判断は、彼女の口から真実を聞いてからだ!すまない皆!自意識過剰な万能の天才、復活だ!」
「先輩も、絶対今頑張っています!誰も諦めたり、絆を否定したりなんてしていません!だって私たちは・・・!皆!英雄王の財なのですから!」
「「「「「英雄王!!万歳!!英雄姫!万歳!!俺達はカルデアのメンバー!愉悦の絆で結ばれた仲間達だ!うぉおぉお――!!!!」」」」」
耳に届く声。それは、リッカ達が紡ぎあげてきたもの。リッカが歩んできたもの。窮地、世界の滅亡、敗北に直面しても消えぬ、確かな人の輝き――
「・・・・・・――あぁ、そうだね。私は、嫌だよ」
身体に力を入れる。大丈夫、まだ立てる。まだ戦える。まだ、歩みを進める事ができる
「・・・――誰かを裏切り、欺き、貶める事だけを考える人生なんて!私は真っ平!どんな悪に苛まれようと、どんな苦難に苛まれようと関係無い!人を信じる事を止めない、絆を紡ぐ事を躊躇わない!」
それが、自分を人類悪と人間を分かつもの。けして譲れぬ自らの生きざま。どんな傷だろうと、けして投げ出したりなどしない、自分だけの生き方
「私は私の、皆と紡ぐ『善』を信じる!!モリアーティやあなたが言うような【悪】には絶対に屈しない!これが、私の生き方!どんなに悪に苛まれようと、私は絶対に自分の生き方を否定なんかしない――!!」
それは、裏切られ、傷付いてでも貫く善。けして譲らぬ、譲れぬ生き方、そして生きざま
「アイリーン!ううん、オルガマリー・アニムスフィア!私はあなたを、必ずカルデアに連れて帰る!!あなたが、何を思って私達に敵対したのか、徹夜してでも聞き出す!!」
「・・・裏切った相手よ?私は」
「裏切られたからって、今までの全部を否定する理由にはならないから!今も変わらず・・・貴女は、私の親友だって思ってる!!」
それが、新宿の――悪性の渦の中で彼女が出した答え。『悪に苛まれようと善を貫く』『善を信じ、悪を憎まない』。・・・――それこそが、最後の言葉。彼女が彼女である事の結論
――彼女は、この悪性魔境において・・・自らの自己存在を証明して見せたのだ。それは、まさしく・・・
「――ふふっ。そう。・・・それが、貴女の答え、ね」
・・・そして、その言葉の、信念の前に。彼女は認める
「――『アニムスフィア』。これで、・・・これで。最後の鍵は揃ったわ。――おめでとう。私の負けよ。リッカ」
自らの、敗北を。そして――
「・・・!!マリー!?」
「えぇ、私は消えるわ。『アイリーン』は此処で退場。ホームズを欺いた時点で、私の役目は終わっていたの。これは、追加講演のようなものよ」
「え、あ・・・!?え!?あなたは、オルガマリーで・・・!?」
「すぐに、全ては解るわ。――敗者は消え行くのみ。おめでとう。・・・バレルタワーへ戻りなさい。もう、あなたは負けないわ」
消えていく。アイリーンの体がほどけ、消えていく。それは、サーヴァントが行う、粒子消滅
・・・ただ一度、ホームズを出し抜いた美女の、退去の時
「あぁ、最後に。いつかあの人に会ったら、伝えておいてくれるかしら」
「・・・!」
「『立ち会ってくれて、ありがとう。それと、また私の勝ちね』・・・とね。あぁ、本当に・・・あの人の顔は痛快だったわね。――さようなら。一時の縁に、有らん限りの感謝を。一途で、献身的なあなた。借りたものは、預けておくわね」
最後に、ウィンクを送り。――アイリーン・アドラーは、消滅していったのだった
「――・・・・・・アイリーンさん・・・――あぁ、そういう、事なんだね。『私がこれを選ぶと信じて、あなたは』・・・」
銃を拾い上げ、彼女は息を吐き、飛び立つ
親友に宿りし彼女が振るっていた二つの銃。それ『のみ』を確かに握りながら――
バレルタワー
モリアーティ「よく頑張るものだ。マスターから切り離され、孤立無援の状態でな」
アルトリア「・・・生きているか、ジャンヌ・オルタ」
ジャンヌ・オルタ「当たり前でしょ・・・リッカのナンバーワンサーヴァント、嘗めんなっての・・・」
二人は血にまみれ、戦闘維持が精一杯な有り様だった。白い肌は血に染まり、アルトリアは鎧が赤黒く、じゃんぬは片目が血で塞がっている
エミヤ・オルタ「フン。いつまでもしぶといものだ。さっさと諦めればいいものを」
「ハッ、リッカを諦めるくらいなら、もう一回ゼロになる方がマシよ」
「そうか。なら、死ね。構わないなモリアーティ」
「・・・勿論だとも」
「・・・最後に言ってやるわ、モリアーティ」
「?」
「つまんなくなったわね。あっちの方が、千倍ましよ」
「――そうだろうとも」
その言葉を最後に、最愛のマスターを想い、目を閉じようとしたとき――
【させるかぁあぁっ!!!!】
銃の乱射。無差別射撃にてエミヤ・オルタとモリアーティを打ち払う。それは、アイリーンに心身ともに殺されて然るべき筈の・・・
「リッカ!!」
『先輩!!』
【お待たせ、皆!帰ってきたよ!】
アニムスフィア、フリージアを持ち、龍が戦線に復帰を果たす。驚いたのはモリアーティであった。計画通りなら、精神に支障を果たしたか・・・
「――随分と元気な事だ。親友を殺した感想はどうかな?」
【うん、とりあえずあなたの計画を全部ぶっ壊してチャラにすることにした!】
じゃんぬとアルトリアに治癒をかけ、助け起こす。吹き飛ばされ、転移された再会に、三人で頷き合う
「それは結構。・・・アイリーンは失敗したようだな。君が浮かべるべき表情は絶望であるべきで、そんな・・・希望に満ちた顔ではない筈だった。だが・・・此処に来たことは失敗だよ、リッカ君」
瞬間、地響きが起こる。その原因は・・・
『馬鹿な・・・これは、『ベンヌ』・・・!?リッカ君の帰還と一緒に、とんでもないものが現れたぞ!これではまるで、空間転移だ・・・!!』
空中へ転移してきたのは、『ベンヌ』。モリアーティが地球を破壊する最後の弾丸。バレルタワーに装填されるべき、星を破壊する隕石
「残り三分。――さぁ、勝つのはどちらか。すぐに分かるとも」
どちらも、逃げ場なき塔の最上階。向かいあう一同
【うん。――此処で、総ての決着を付ける!!】
アニムスフィア、フリージアを装備し、悪のカリスマ、モリアーティに最後の決戦に挑む――!
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