人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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~リッカ殿。涙を流してはいかんでござるよ。戦というものは勝敗が現れるもの。手に入らなかった悲しみや苦しみは、次こそは手に入れる為のバネとするのですぞ。ほら、顔を上げるのです

転売は確かに哀しいですなぁ。欲しいものを食い物にし、自らの私腹を肥やす様は哀しいモノでござる。・・・ん?憎いや、怒りではないのかですと?

そうでござるなぁ・・・拙者はやはり、哀愁が先に来るでござるな。動画を作った我等ならわかるでありましょうが、創作はエネルギーの発露。それらには大なり小なり『誰かに見てもらいたい』といった想いがあり、それを『素晴らしい』と感じた者との間でお金をやり取りする。そうして、文化は進化し、育まれていくのです


・・・日本が世界に誇るべき文化で、醜い争いでカルチャーが消費されてしまうというのは、やはり・・・哀しいですなぁ・・・え?あなたがずっと欲しかったグッズだろ、ですと?

ははは、次があるのです。次にこそ。何故なら拙者、もう一人に非ず。フジマル殿がおりますゆえ悔しくはないのです!

故にこそ──来年こそは、正々堂々、共に宝を手に入れましょうぞ!誰かがやっているから自分達も。そんな甘言や誘惑に惑わされず。そう、来年も、必ずや!

自分を偽らず手に入れた宝物は、きっと輝いているのですからな──!


夏と冬の祭典! 後編

【徹夜組ァアァアァ!!!】

 

パイケットを、文化を脅かす者達をたった一人の黒龍が蹂躙する。拳を振るいマストを根本からへし折り、龍哮を泥で斬艦刀に変容させ、渾身の一刀にて転売組を運び私利私欲を満たす欲望の船を真っ向から一刀両断し、真っ二つに叩き斬り沈没させ海の藻屑と化す。月女神の弓矢より放たれる凄まじいエネルギーの奔流を束ねた瀑布のような極太の光束が船体に巨大で極大の穴を空け、砲台や火薬に引火し、連鎖爆発を起こし爆炎を噴き上げながら沈没していく

 

「ひぃいぃいぃ!!殺される!殺されちまうぅ!!」

 

「冗談じゃねぇ!こんなチンケな稼ぎで命を落としてたまっかよぉ!」

 

買い占め、売り飛ばし、自己の欲望を満たそうとしたもの──友との想い出を汚され、怒り狂い猛うリッカ。その嵐の如き暴乱に骨の髄まで畏怖と戦慄を叩き込まれ、自分から参加資格を放棄し、海へと飛び込んでいくノーマナーの海賊達。命を懸けてまでイベントへと参加する気概無きもの、甘い汁のみを吸おうとした覚悟なき者たちが、次々と脱落していく

 

【命が惜しいなら飛び込め!!さもなくば、全てを喪うことになる!──その覚悟が無いのなら──私の前に立つな!!

 

船が巻き起こす暴炎に照らされ、漆黒の鎧が真紅に煌めく。決意を火焔の如くに吐き出し咆哮するかのように怒号を上げるリッカの迫力に完全に戦意をへし折られ、あるいは帰るべき船を沈没させられ。転売組、深夜組、夜襲組のほぼ全てが壊滅の憂き目に逢う。リッカは彼等が戦意を喪うこと、離脱することはある程度計算と目論見に入れていた。何故か?語るまでもない。グッズを転売し得る利益に、命を喪うリスク、船を喪うリスクが釣り合わないためだ。元々オタクや文化などに興味がなく、目先の利益に群がるからこそ転売は行われる。なればこそ──損を大いに被らせれば、自然と利益目当ての転売は撃滅させられる。それは──そこに情熱の欠片もないもの達の性根を把握したリッカならではの狙いだった。故にこそ、ひたすらに船を、破壊活動を重点的に行っていたのだから

 

「ち、チキショー!お、お前!何しやがる!俺らをぶっ潰して何の得があるってんだよぉ!!」

 

船員に逃げられ、腰を抜かしながらカトラスを振り回す船長にゆっくりと歩みより、カトラスをへし折り首を掴む

 

【──創作活動やグッズは、ファンの皆に見てもらう為に作られたものが大半だし、それを欲しいと思う人たちが買うから成り立つ。そうして生まれた利益や情熱はまた新しい創作の活力、ひいては文化の成長を助ける大事なエネルギーになる】

 

そう。作る人に更なる資金と、素晴らしいものを作ってくれた事への感謝。いつも支えてくれたファンに素敵なものを手にとって欲しいと思う創作者の純粋な想い。それが交錯し、生まれる場のひとつがこうしたバザーやコミケという大切な場所なのだ。──だが、転売するものはそうではない。手に入れたいものから奪い取り、自らが儲けるためだけに無感情に売り飛ばす。そこには欠片も尊敬や情熱がない。無感情な損得勘定だけだ。──金儲けが悪い訳じゃない。それはリッカ自身の、個人的な感情的な問題なのだ。ただ単に──

 

【私は、創作文化を利用し、誰かを泣かせて美味しい想いを利用しようとする転売組、深夜組を絶対に許さない・・・!ただ儲けたいだけの貴方たちとは違い・・・私みたいな、文化に人生を救われたような筋金入りのオタクは・・・!!鍛え方が違う!!精魂が違う!思い入れが違う!!情熱が違う!!】

 

「ひ、ひぃっ──!!」

 

皆が笑顔であるべき集まりに、皆が楽しくあるべき集いに──誰かに涙を流させ私欲を満たしている存在がいると言うことが──

 

【グドーシが流した涙の分だけ!!ホットな拳をくれてやる!!くたばれぇ!!徹夜組ぃいぃいぃい!!!】

 

「うぎゃあぁあぁあぁあぁあぁ!!!!」

 

赦せないと言うだけの意地と情熱の発露である──!!血が出るほどに握り込まれた拳が、渾身の力で振りかぶられ叩き込まれる。決意と断罪の一撃にて空中を彩る屑となり、そのまま海の藻屑へとジョブチェンジし、組織一味が壊滅となる

 

【ふんっ!!!】

 

自分が立っている船を、最後に斬艦刀で真っ二つに引き裂き、火焔を噴き上げている数多の船を確認する。活動を停止し、転売組達の壊滅を確信したリッカが、マシュたちが待機している船へと帰還する

 

【全滅、確認・・・!!仇は討ったよ、グドーシ・・・コミケからいつか、徹夜組が無くなるその日まで・・・私は戦い続ける・・・!】

 

「リッカ・・・物凄く・・・溜まってたのね・・・」

 

「バザーで・・・一個船団が壊滅しました・・・」

 

リッカの背後で繰り広げられる地獄絵図。それを巻き起こした漆黒のオタク龍が・・・今は亡き親友に、『無法者、戦果ゼロ』の成果と『転売組撲滅』という・・・本来のコミケなら、決して行うことが叶わぬかけがえのない財宝を胸に懐き空を見上げるのだった──

 

 

こみけでは ばーさーかーだよ けものがな

 

 

「よぉしよくやったぁ!!リッカでかしたぜ!!此処等はきっちり締めた!次はいよいよ・・・あぁ!?」

 

リッカを迎え、いよいよお目当ての財宝へと向かわんとした黒ひげがいる船に、大量に取り囲む大小様々な船達。船を寄せ、次々と侵入を果たしていく船員たち

 

【徹夜組の増援かぁ!!皆殺しにしてやるぁ!!】

 

『リッカから狂化が感じられる程の気迫を感じるわ・・・』

 

『流石、人類最強の烏合の衆のトップファイターだよね・・・』

 

しかし、それはリッカではなく、一直線に黒ひげを睨んでいる。それは先程のような利益目当てではない。それはむしろ──

 

「おぉう、黒ひげェ。前回はよくもウチの船長に恥をかかせてくれたなぁ!!」

 

同じ志を持つものであり、けして相容れないもの同士。憎しみと怒りを露にする者たちが一斉に怒号を発する。それらは同じ参加者にしてパイケット戦士。黒ひげに苦汁を嘗めさせられた、敗北者たちであったのだ

 

「船長がふたなりに目覚めちまったぞこらぁ!!ふざけんなよてめェ!!」

 

「複乳ケモナーとか業が深すぎんだろオラァ!!船長が獣モノでしかハッスルできなくなっちまったんだぞ!!」

 

「ロボモノの設定の齟齬を片っ端から指摘してやるとか止めてやれよぉ!!」

 

そう、それは黒ひげに与えられた新たな扉の鍵。新たなるステージへと旅立ってしまった海賊団の船員たち。個人的な報復のために、黒ひげ本人にターゲットをつけにやって来たのだ。銃、剣に囲まれる黒ひげ。しかし──今を生きる海賊に、過去の罪を問い質すほど無意味な事はない。恨みなど飽きるほど罪は犯した。飽きるほど享楽した。其処に、倫理や論理などは何の意味も介さない

 

「あぁ!?てめぇらの事なんて知るかよアホンダラァ!!リッカ!ヒヨッコどもを連れて先に行け!コイツらを血祭りにあげてから俺は行く!抜かるんじゃねぇぞ!!」

 

即座にリッカを突き飛ばし、群れに飛び掛かっていく黒ひげ。ポカンとするじゃんぬとマシュを連れ、リッカは即座に船長命令を遵守し駆け出す

 

 

【おう!!首を取られないでよ船長!】

 

「誰に向かって口聞いてやがんだ!俺はカリブの黒ひげ様よぉ!!命を心配されるほど落ちぶれちゃいねぇなぁ!いいからさっさと行きやがれ!!」

 

「と、とりあえず目当てを手に入れればいいのよね!行きましょう、リッカ!」

 

「後方はカバー致します!ダッシュです!二人とも!!」

 

「「「「「死にやがれェー!!!!!」」」」」

 

隣の船に飛び移るリッカ達、始まる戦い、響き渡る怒号。駆け抜ける、迎え撃つ。熱い情熱と振るわれる矜持のやり取り。飛び散る血液、熱い咆哮。熱狂と狂乱の坩堝と化したカリブの海で、数多無数の男達が命を懸ける

 

「NTRモノは抜けるか抜けないかはっきり別れるってソレイチ!!」

 

「百合には竿役なんていらねぇ!!そもそも男の影がちらついた時点でアウトなんだ!!読まなきゃいい?そういう存在自体が許せねぇんだよぉ!!」

 

「純愛は読み物として必要なのであってそこに実用性は二の次!!心が暖まるホンと実際使えるホンは分けて考えろ!!」

 

「本当に好きなキャラは純愛本を買い漁り、気が付いたらR18があんまりない!あると思います!!」

 

「罪悪感が疼くならNTR本なんぞ描くんじゃねぇ!!夢落ち救いありなんぞ求めてねぇんだよ!!」

 

「絵柄が好みだったけどシチュはいまいちだった時の感覚はなんとも言えないよね!!」

 

「そもそもマイナーだったりすると供給がねぇ!!」

 

「絵柄の上手さとハッスル出来るかどうかは別の問題です!!!」

 

辺り一面で執り行われる怒号と矜持のぶつかり合い。それらと同時に前に移動すら叶わないほどの大量の人混み。コミケでは髄著だが、自らのパーソナル、プライベートスペースなど微塵も存在しない。自らが進むべき場所はルートごとに決められ、押しくらまんじゅうを常に強いられながら移動を──否、漂流を余儀無くされる。後ろからは絶えず押され、背中で前が見えぬなか足を絶え間なく踏まれながらの行進は当たり前であり、無慈悲なまでに押し潰される。落とし物などをしようと立ち止まることなど許されぬ人の波。其処に、意思などは立ち入らない。ただ流れに流されるのみだ。欲望抱きし人の海。それは此処のパイケットも同様なのだが・・・リッカにとって、此処は難易度が低かった。何故ならば──

 

【じゃんぬ!!蹴散らすよ!マシュ!突撃!!】

 

「えぇ!」

 

「了解!押し切ります!!」

 

『邪魔なものは排除が赦されている』なぞ、容易も容易。如何なる理由においても押し退け、ダッシュが禁止されているコミケと違い、中央、正面突破が赦されている無法地帯。暴力による排除が赦されているのなら、目の前に広がる人海は・・・ただの障害物にすぎない

 

『ルートを表示するわ!最短ルートはそこを真っ直ぐよ!』

 

『ナビをするから駆け抜けるんだ!目の前には沢山いるが、別にやっちゃっても構わないんだろう!?ソロモンの千里眼の使い道は此処と見た!』

 

 

オルガマリーとロマンのナビに従い、マシュのアメフトシールドバッシュが進行方向を確保し、じゃんぬが焔にて船を焼き滅ぼし海へと海賊達をダイブさせていく。リッカは適当な海賊の足をひっつかみ、手頃な棍棒がわりの武器として振り回し、薙ぎ払う。目当ての宝を手にし、向かい、手にいれるために。その全ての障害を蹴散らしていく。暴れ、蹴散らし、叩き潰し、そして──

 

「こちら『フランシス・ドレイクBBA百選』最後尾となりまーす!!」

 

上げられているプラカード。見えたゴール。そして──駆け抜け群がる男達。見ると手に入るかどうかはタッチの差。ならば──

 

【勝つのは私達だぁあぁっ──!!!】

 

力を振り絞り、懸命に気合いと想いを込めて、群れと後続を押し留めマシュとじゃんぬを列に並ばせ、群がる男を、泥の嵐にて薙ぎ払い、吹き飛ばし列を守護し力の限り暴れ回る

 

「リッカ!」

「先輩!!」

 

【掴め御宝を!!私達は一人じゃない!手にいれることができれば勝ちなんだから!!】

 

殺気だった海賊達を片っ端から叩き潰し、リッカは叫び、告げる

 

【二人とも!!戦利品の獲得は任せた!!初イベを!!笑って勝って新年を迎えるために!!】

 

大量に飛びかかり押し潰さんとする海賊達。食い止め、退路を確保せんとリッカは暴れ狂い海へと敵を叩き込んでいく。その気迫と想いに応えるために、じゃんぬは確かに列を確保し、自らの身を証明し、戦闘離脱を告げる言葉を、マシュが高らかに告げる──!

 

「こちら!最後尾となりまーす!!!」

 

列への参加。──それをもってマシュとじゃんぬは不干渉権を得る。同時に──リッカを押さえ付けていた大量の敗北者達が、彼女の尋常ならざる怪力と剛力によって、全てが海に叩き込まれ勝敗が此処に決する

 

そして────三時間の列待機、参加者の60%をリッカが殲滅し海に叩き込み、夕陽がカリブ海を照らす頃──

 

『はい、『フランシス・ドレイクBBA百選』完売となりまーす』

 

「っしゃあ!!やったわよリッカー!」

 

「ラスト一冊!!確保です!!」

 

【でかした!!!】

 

大量に海に浮かぶ海賊達。死屍累々の中で、手に入れた宝と、乗り越えた試練が報われた事を。三人の少女は確信し、抱き合い涙を流すのであった──




黒ひー「よぉ、どうやらやってくれたみてぇだな」

リッカ【何だよ船長。ボロボロじゃん。肩、貸そうか?】

「へっ、いらねぇよ。首がつながってるだけマシってもんだ。・・・いい暴れっぷりだったぜ、リッカ。お前のお陰で、クソどもは大損、参加者は目当てに在りつけられる。いいことづくめだ。お前らを連れてきて、良かったぜ」

「ヒゲ・・・」

「世界を救ったんだ。ばか騒ぎの一つもねぇとな。──楽しかったかよ?あぁ?」

【──うん。大事な過去を、思い出せた】

「そりゃあいい!上々だ!全く、全くいい祭りだったぜ!ガハハハハハハ!!!」

【ありがとう・・・くろひー・・・】

じゃんぬ「・・・なんかいい話みたいにしてるけど、これが欲しかったんでしょうが。あんた」

黒ひげ「おほっ!?これが噂の会場限定BBA限定画集!?出た!新刊出た!これで勝つる!!正直BBAとか超リスペクトだし!!!」

「途端に元気になりましたね・・・」

【そうなんだよ。辛いし、苦しいし、やってられないのに。目当てにありつけたら一気に元気になる。そんな単純で愉快な人種が・・・オタクなんだよね】

じゃんぬ「・・・そうなの・・・」

メアリー「目当てはゲットできたー?スゴい暴れてたね、リッちゃん」

アン「私達はバッチリですわ~。これで年を越せますわね!お疲れ様でしたわ!」

【お疲れ~!じゃ、帰ろっか!】

「はい・・・凄まじい疲労ですが・・・楽しかったです!」

「・・・まぁね。・・・リッカ」

【?】

「・・・いつか、こうやって何かを作ったりする事になったら・・・一緒に、作りましょうね。自分達だけの『宝物』を」

【──勿論!でもその時は・・・】

「・・・?」

【理性を投げ捨てる覚悟で頑張ろうね!バーサーカーになるくらいに!】

「──えぇ!」



オタク姫「ひぃ、ひぃ、ひぃ・・・浚われて、酷い目に逢うかと思った・・・」

(あのバカみたいに暴れてた子、誰なんだろ・・・怖・・・かかわり合いになりたくないなぁ~・・・離れとこ~・・・そそくさ~・・・)


白髭「全滅!!大損!!大損害だとぉ!?なんてこった・・・なんてこったぁ・・・!!」

(チキショウめ!!楽して稼ぐボロい転売がダメになっちまうとはよぉ!!・・・いや、だがよ、だが・・・諦めねぇぞ・・・絶対に諦めねぇぞ・・・!)

「諦めねぇで・・・!ボロ儲けをしてやるからよぉ・・・!!野宿を乗り越えて!返り咲いてやるぜぇ!フッハッハァー!!・・・ああクソ、チキショウめ・・・チキショウ・・・」

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