人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「・・・年末、かぁ・・・」

「・・・よし」




ギルガメッシュ「──良かろう。許可をくれてやる。存分に慰霊を果たすがよい」

「ありがと。大晦日には、必ず帰るから」

──あ、王。それではですね、いい事を思い付きましたよ

「──そうか。よし、ならばリッカよ。手ぶらで向かうは無礼であろうよ。少しばかり時間を寄越すがいい。何、すぐに終わろうさ」

「?」



オルガマリー「分かったわ。許可します。連れていってあげて。最近時間がとれなかったものね」

「うん。・・・いつか、オルガマリーも」

「楽しみにしておくわ。・・・あ、じゃあこれを持っていって。その資格があると、私が認めます。あと、これもね」

「──ありがと!じゃあ、ロマンによろしく!」

「分かったわ。マシュを起こしてきなさい」

「・・・よーし!」 


とりもどしたかったばしょ

「今日一日、私に付き合ってくれる?マシュ。良かったらでいいんだけど」

 

 

年末、そして新年も間近な12月30日。思い思いに年を迎えんとカルデアで過ごすものたち。のんびり、穏やかに過ぎていく時間の中、早朝にマシュに掛けられた声の主は、藤丸リッカ。カルデアを代表する、唯一にして人類最悪のマスターだ。いつものように明るく快活に、それでいて、どこか真面目な顔持ちで。マシュにその申し出を提案する

 

先輩が、私と付き合う・・・?そんなどこか甘く素敵な御誘い。それと同時に、何よりも二人きりでということが容易に計り取れたその誘いに、マシュの心は大きく弾んだ。リッカと過ごしたいと思い、また狙うサーヴァント達は引く手数多。自分も勿論その一人であり、どうにかして彼女と過ごす時間が欲しいなと考えていたマシュにとっては正に天啓、願ってもいない至高にして素敵な声かけに他ならなかった

 

「はい!マシュ・キリエライト、先輩にお供致します!」

 

「そう言ってくれると思ったよ。じゃ、行こっか」

 

それだけを確認し、嬉しそうに笑顔を浮かべマシュの手を引くリッカ。いつもとはどこか違う積極的な態度に、マシュは高揚を露にする。最近、ドタバタしてばかりの中のこの申し出と機会。逃す手はないとリッカの手を強く握り返すマシュ。そんな感触を感じながらも、リッカは口数少なく歩み続ける。揺るぎなく、淀みない足運びにて進み続け。其処は──レイシフトを行う、管制室であった。其処に待っていた人物の姿に、マシュは再び驚愕する

 

「ドクター・・・?」

 

「あ、連れていくのはマシュにしたんだね。よろしい、行っておいで。ギルもオルガも、許可はきちんと出してくれたよ」

 

立っていたロマンは、いつもはアイドル活動かシバにゃんと共にいるかの時にしか見せない、『ソロモン』の姿に変身していた。両手に嵌められた十の指輪が優しく厳かに煌めき、そしてその両手がリッカとマシュの頭に優しく乗せられる。そのただ事ではない様子に、マシュは困惑を表しながらも冷静に状況を問う

 

「せ、先輩!私達は今、何処に向かおうとしているのでしょう!?お泊まり会とは、カルデアの外で行われるのでしょうか!?」

 

「行けば解るよ、多分。ロマン、お願い」

 

「あぁ。よろしく頼むよ。原理は令呪の強制転移と同じだから、再現は容易い。君達の魂や魔術回路を認識して、指定した座標に飛ばす・・・レイシフトと令呪ワープみたいなものだからね。回収の時は、連絡を頼むね」

 

「な、何事なのでしょう?一体、何処へ・・・?」

 

「凱旋と、戦利品の確認だよ。マシュ」

 

リッカの、その言葉と共に。マシュとリッカの存在は魔術王の力を振るうロマンの力によって楽園より飛び立ち、一瞬にして瞬間の跳躍を果たし、楽園からとある地点の場所にて誘われ、転送される。意識と感覚が、遥か彼方に追いやられ気が遠くなる感覚がしたのち、ふわふわとした浮遊感から解放され、重力の軛に囚われた事を身体全体で理解し、閉じた瞼を、ゆっくりと開ける。すると、其処は──

 

「──あ・・・!」

 

白き、純白の館。巧妙に魔術が施され、隠蔽の跡が垣間見える、白き屋敷。豪邸と呼んで差し支えない、まるで雪のように白く、塩のように潔癖な印象を与える巨大な屋敷が、マシュの瞳に映り込み、また飛び込んでくる。辺りには、何もない。人の家屋はなにもない、孤立した土地に建てられた人が何不自由なく過ごせるような豪邸に、思わず声を漏らすマシュ

 

「変わらないなぁ、あの頃から・・・何も」

 

そんな呟きを口にしながら、リッカは静かに豪邸へと歩んでいく。歓待するような鳥の鳴き声を受けながら、ポケットから鍵を取り出す。あの時に閉めた、誓いの鍵。毎日手入れを欠かさなかった、純白の鍵をそっと、その扉に差し込む

 

「ほら、マシュ。おいで。一日過ごす家にしてはグッドな優良物件なのは、私が保証するよ」

 

「先輩、此処は・・・」

 

「ん。──私の、私達の家だよ」

 

それだけを告げ、リッカは家に入っていく。その背中が、やけに寂しく丸まっていたような、それでいて懐かしげに、自慢気に伸ばされていたような不思議な感覚がして・・・マシュはそれ以上問えずに、ただ後ろを付いていく他はないのであった

 

 

・・・入室した部屋は、とても整頓されており、美しく綺麗であるといった印象をマシュに与えた。薄型テレビがあり、シャンデリアがあり、白いソファーがあり、DVDやブルーレイが沢山取り揃えられており。キッチンや個室、そして何かの薬品が大量に並べられている。それは、潔癖な清潔と、暖かな生活の跡を同時に残しており、物音一つせず、やってきた二人を迎える。把握しきり、気心知れた友人と話すように荷物を置き、ゆっくりとキッチンに向かうリッカ

 

「なんか作ってあげるよ。何がいい?」

 

リッカは黙して、此処は何処か、どんな場所なのかを語らない。けれど、マシュには理解ができる。なんとなく、そうなのだという確信がある。レイシフトではなく、此処に生身で来た理由。どんな時代でもなく、終わりかけている2016年の此処に来た理由・・・

 

「・・・日本食が、食べたいです。先輩」

 

「はいよ。味噌汁とか、鮭とかでいいよね」

 

『家から出ずともよい』と言わんばかりに、保冷や保温が行われている冷蔵庫の中から材料を取り出し、手慣れた手付きで料理を作っていくリッカ。其処に、いつものような溌剌さや快活さは、鳴りを潜め見られない。その時間を噛み締めるかのように・・・静かに穏やかに、朝御飯を作っていく

 

「じゃ、いただきますして食べよっか。マシュ」

 

「・・・はい、先輩」

 

マシュもまた、問い質すような無粋な真似はせず。そっと机に向かい、リッカの朝御飯を食べる為に机を片付け、席につく。何もかもが白いそんな一室で、並べられる朝御飯から立ち上る匂いが鼻を突き、そして・・・

 

「「いただきます」」

 

静かに、喧騒から切り離されたその場所にて。二人きりのその純白の家で。リッカは静かに、噛み締めるように。後輩と二人で、珍しく自分が作った料理をゆっくりと食べるのであった──

 

 

・・・そして、朝御飯が食べ終わり、マシュはソファーにて。リッカに勧められた映像ソフトを、静かに上映し見続けていた。リッカは皿を洗い、洗濯をし、部屋の清掃を行い・・・女子として当たり前の家事を行っている。手伝います、とマシュは提案したが、大丈夫。とリッカは答え一人で家事を行っている

 

リッカに勧められたものは・・・極めて単純で、それでいて心に訴えかけてくるような、動物との触れ合いや王道のストーリーのアニメ作品、そしてそれのシリーズばかりだ。頭を捻らずに、真っ直ぐ感情や情緒に優しく語りかけてくるようなそれに、心を震わすその映像と展開に、彼女は知らず知らずのうちに涙ぐみ、眼鏡を取って拭うを繰り返す

 

「どう?泣けるでしょ?」

 

リッカがソファーの背後から、何時の間にやら現れてマシュと一緒にエンドロールを眺めている。まるで、其処にて逢った景色を振り返るように。遠い日の思い出を、噛み締めるように

 

「・・・はい」

 

「アニメ、いいでしょ?」

 

「・・・はい!」

 

「ん、良かった。シリーズあるから、全部見てね。大丈夫、あっという間だから」

 

そのマシュの姿を、満足げに見つめながら、リッカはいそいそとDVDを入れ換え、マシュの隣に座ってソファを軋ませる。キングサイズの、女子が二人座るには大きすぎるものに、どっかりと腰掛け二人でそのままアニメをマラソンにして見続ける。あっという間に過ぎ去る時間。リッカとマシュは、食い入るように見詰める。日本が産み出した、文化の極みを

 

・・・全てが終わる頃には、マシュは嗚咽をするほどに涙と感動を露にし、リッカに泣きすがり泣きじゃくる。リッカもまた、かつてそうしてもらったように背中を撫で、優しく受け止める。アニメへの感謝と感嘆と・・・もう二度と繰り返されることはないであろう、遠き日の彼方の二人を思いながら。そうする自分の目に浮かぶ涙を、静かに拭いながら

 

「落ち着いたら、御風呂に入りなよ。シャンプーとかボディーソープとか、スゴいんだから」

 

「はい・・・っ、はいっ・・・」

 

日が暮れ、沈む中。リッカとマシュは穏やかな一日の夜を迎える。マシュは、一人には余りにも大きい浴場で身体を洗い、清め・・・驚愕に目を見開いた

 

シャンプーやボディーソープで洗った身体や髪が、みるみるうちに癒されていく。身体の傷や、髪のダメージ。古傷すらも消えて、溶けていくような程に艶やかに、美肌と清潔を促進する感覚を覚える。人ではおおよそ振るわれないような、魔術にて編まれたものであるとマシュは推測する

 

(此処は・・・まさか・・・先輩は、私を此処に連れてきたかったと・・・それは・・・)

 

・・・一年の締め括り。ここは、間違いなく先輩にとって大事な、かけがえのない場所。もう二度と、喧騒が戻ることはない、追憶と過去の集積する場所。・・・此処に、自分を連れてきてくれた理由、それは・・・

 

「・・・先輩。ありがとうございます・・・」

 

一年間、刻まれてきた傷や疲労が消えていく感覚を噛み締めながら、マシュは入浴を続け、無防備にその安らぎに身体をただ預けるのであった──

 

・・・そして、眠る段取りになり、マシュは寝室に招かれ、ベッドに入る。こちらもまた、女子が二人入ってもなお大きいキングサイズのベッドであった。大の字になっても端にすらつかないその巨大さに、マシュはもぞもぞと布団のなかで蠢く

 

「──今年が終わる前に、どうしても此処に来たかった。世界が滅びて、そして救うことが出来た、この終わる年の頃に」

 

リッカは窓の近くにて椅子に座り、空を眺めている。冬場の澄んだ空で、星がとても良く見える。縁に肘をかけ、足を組み、寝巻きの姿にて・・・そんな綺麗な景色を、自分達が生きる世界の空を眺める

 

「戦利品だと、私は思ってる。この空や、この一日が過ごせること。成長した私が、此処に来れたこと。──可愛い後輩を、此処に呼べた事。初めてだかんね?此処に、人を呼んだのなんて」

 

「先輩・・・私で、良かったのですか?じゃんぬさんや、皆様でなく・・・」

 

「ん。最初は、マシュがいいかなって。何だかんだで、私が一番最初に仲良くなった、世界でただ一人の後輩だしね。人生の後輩?的な?私の後輩は、やっぱりマシュだけだなぁって」

 

いつもの愉快かつ快活な笑みではなく。人が見れば胸を打つような、静かで誇り高い笑みを浮かべながら・・・リッカはただ空を見上げ、ぽつぽつと言葉を紡ぐ

 

「ねぇ、マシュ。長生きしてね。沢山生きて、沢山知らないことを見て、立派に成長してね。どんなことがあっても、生きることを諦めないで」

 

「・・・はい」

 

「私達が生きている今は、彼が・・・生きたくても、生きれなかった今だから。これからもずっと、思いっきり楽しんで。毎日を過ごそうね」

 

「・・・──はい、先輩。約束・・・します・・・」

 

「此処に来てくれて、ありがとうね。・・・世界を救えた、護れたって自覚。実感・・・しっかり感じたよ。このお家も、久し振りに賑やかになれて嬉しかったのかもね」

 

「はいっ・・・──はいっ・・・」

 

「・・・帰ってこれて、良かった。大事なものが、沢山増えた。旅のお土産を、沢山持ってこれたよ。私は・・・そう思う」

 

「私も、です・・・先輩と出逢えて・・・本当に、本当に・・・っ」

 

「──お休み、マシュ」

 

「お休み、なさい・・・先輩・・・・・・」

 

マシュの嗚咽の声に、何も言わず、何も告げず。自分が一年の中で手に入れた大事な宝物の一つ。この世界で、人生を懸けて自らを先輩として呼び掛けた大切な後輩を、穏やかに見つめ、寝付くのを見守りながら。静かにリッカは、想いを馳せる

 

戦い抜いた一年。自らの境遇。始まりの出逢い、はしゃいだ二年間。出逢いと別れ。鮮烈な旅。その出発点である──この場所を。世界と共に救うことが出来た、この場所を。今はもういない、二度と此処で語り合うことはないであろう、永遠の親友に・・・ただ静かに、言葉無き凱旋の報せを告げる

 

此処にいることが、私の旅の答えだと・・・そう、空の彼方へと伝えるように。空が白むまで、太陽が顔を出すまで。リッカは窓の外の空を、ただ眺め続けた──

 

・・・・・・そして、夜が明け。大晦日を迎え、激動の一年最後の日がやってくる。白き屋敷を出て、黄金の楽園へと帰るのだ。マシュもリッカも、忘れ物が無いように部屋を片付け、屋敷を整頓する

 

此処には、誰も来ることはないだろう。誰も、この屋敷に足を踏み入れることはないだろう。だけど、それでも・・・この屋敷は待つのだろう。この屋敷の、もう一人の主の帰参を。一年の始まりか、終わりに。積み重ねた人生の土産話を心待ちに、静かに佇み続けるのだろう。だから──

 

「全部、此処に置いていくね。また来るとき、変わらないままで過ごせるように」

 

そうして、リッカは彼の部屋に、とあるものを置いていく。それは、リッカが受け取った粋な計らいにして、大事なもの。彼もまた、大事な存在であるという証し、証明

 

「──」

 

言葉はいらない。最後に扉を閉め、部屋を後にする。誰も知らない場所に、誰も知らない贈り物を置いて・・・リッカはマシュと、屋敷を後にする

 

『お泊まりは楽しかったかい?それじゃ、南極に転送するよ。楽にしていていい。すぐに終わるからね』

 

「はい。帰りましょう、先輩。・・・ねぇ、先輩」

 

「ん?」

 

「また──今度は皆で、来ましょうね。此処へ」

 

「──うん。いつか、必ずね」

 

──そうして二人は、楽園へと帰っていく。再び、自らの未来へと走り抜け、過去を悼みながら、それを糧に今を生きていく

 

・・・激動の一年が終わり、未来が二つの命を待つ。それを、物言わず見守る思い出の場所

 

喧騒が収まり、静まり返り。二人が来る前と全く同じ環境へと戻る、純白の館。──否。そこには残ったもの、託したものが確かにある

 

──小さなライセンスに、LLサイズの制服。其処に書かれていた、彼女の筆にて紡がれた、大切な言葉と共に、それはそっと置かれ。朝焼けに静かに煌めく

 

『カルデア職員 証明ライセンス グドーシ』

 

そう書かれた隣には・・・最高の笑顔を浮かべた、橙色の髪の少女の写真が、そっと添えられていた──

 

 




──ただいま。そして、行ってきます。グドーシ


──おかえりなさい。どうか、お気をつけくだされ。リッカ殿

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