人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オルガマリー「あらリッカ。カルデア制服に何をしているの?」


リッカ「エンブレム背中にくっつけるんだー!素敵なデザインだから、私のイメージマークにしようかなって!」

オルガマリー「あら・・・女子しているじゃない。素敵よリッカ。一体どんな・・・」

「これ!」


【挿絵表示】


「・・・・・・か、かっこいいわね・・・凄く・・・」

「だっしょ~!?これはリッカポイント高い!高過ぎ!」

「そ、そうね。・・・黒地に白は似合うんじゃないかしら?」

「やっぱり!?いやー!改造制服っていいよねー!」


画像提供は、スパイ・ダーマさんが行ってくださいました!本当にありがとうございます!


・・・こんなに恵まれていていいのでしょうか?(感涙)


空の境界──深淵孔怨嗟オガワハイム──
──【狭間の混沌】──


「よう、おはよう。早速だがこいつを見ろ」

 

カルデア、人類最悪のマスターのマイルーム。時刻は零時の深夜。夜のシミュレーションを終え、シャワーを浴び後は寝るのみ・・・とあくびを噛み殺しながら自らのフリースペースに戻ったリッカの前に現れたのは・・・アサシン、両儀式。カルデアの夜回り番であり、気まぐれな猫のような人物。ストロベリーアイスをぼんやりと口に運びながら、リッカに気楽に声をかけとあるものを投げ寄越す

 

「おはよ──わぷっ!紙!?メモ帳!?」

 

「読んでみろ。とあるマンションに対する苦情の数々がみっちりだ。正直うんざりするくらいだぞ、ホント」

 

そう言いながらリッカの部屋の冷蔵庫をガチャリと開け、ストロベリーアイスの追加を頬張る。その物言いには心底沈鬱な響きを含んでおり、面倒事である事は疑いのない出来事だと一目と一声で解る程に態度が嫌悪と憂鬱のそれである。そこまでかぁと思いながら、渡されたリストを読んでみると・・・

 

「何々?騒音被害、どんちゃん騒ぎ不法入居にペット持ち込み、無許可の侵入にエトセトラエトセトラ・・・うわ、もしかしてこれ全部苦情!?びーっしり書かれてるこれ全部!?アリみたいな絵でいっぱい書かれてて白いところがわかんないくらいなんだけど!?」

 

リッカの驚愕通り、五枚ほど束ねられたメモに、びっしりと、隙間なく苦情の数々が書かれているのだ。間断なく、白い場所なく、一字一字判別できる漢字と文字に、丁寧に。それはある意味偏執的で真面目な所業とすらも取れるほどの徹底ぶりであり、背筋が寒くなる程の大量クレームである。それなんだよ、とベッドを占拠しながら式は頭を抱え、アイスクリームによる頭痛を耐えつつも呻く

 

「今まで伽藍の堂だった癖に、今年に入ってから急に苦情に苦情だ。どうなってるんだ全く。入居希望者も退去希望者もまるでいなかったマンションだぜ?悪戯にしては悪趣味で手が込みすぎてる。新年に大掃除だなんてだらしないにも程がある」

 

「ほぇ~・・・新年で入居者がどんちゃん騒ぎしてるんじゃないの?新年パーティーとかいう、そんなノリで?とことんまで騒ぐぞーみたいな。辺りの皆が一緒にいるとか・・・」

 

「そうならいいんだけどな・・・俺も気が楽で良かったんだけどなぁ。全く・・・」

 

深い深い溜め息を吐きながら、呆れたように肩をすくめた後・・・ストロベリーアイスをリッカに投げつけながら、なんでもないことの様に呟く

 

「そこな、『無人』なんだよ。誰も入居なんてしてないし、生きてる人間なんて住んでない。どんちゃん騒ぎなんて有り得ないんだ。本当ならな」

 

「────へ?」

 

「言葉通りの意味だ。伽藍の堂、がらんどう。分かりやすいだろ?其処には騒ぐようなおめでたなんて無いし、中に入って暴れるような骨のあるような連中は要るはずがないんだよ。だから困惑中だ。ただの質の悪い悪戯か、俺をからかっているのか。・・・なぁ、お前はどう思う?」

 

「──特異点案件?」

 

「だよなぁ」

 

やっぱりそうだよなー。面倒だなぁー。やっぱりそうなるよなー。と何度も何度も頷き、ペットボトルの水を飲み干し・・・ベッドよりスタリと立ち上がる

 

「行くか。迷惑千万の悪戯野郎を刻みに行くぞ」

 

「いきなり!?え、何処か解るの!?このマンションの場所とかさ、何処にあるのかとか・・・!」

 

「そりゃあ解るさ。俺は大家で、此処を管理してる人間だぜ?場所なんて分かって当たり前だ。退去勧告を含めた夜回り・・・新年にしては憂鬱なホラースポットだけど、其処は心配するな、とびきりハラハラすると思うぞ」

 

着物を着込み、上から真紅のジャンパーを纏ういつもの式スタイルにて正装を完了し、愛用の業物ナイフを弄びながらリッカに気安げに肩を組む

 

「意外と面白そうだろ?新年は始まったけど、サクッと残った煩悩を退治してのんびり過ごそうぜ」

 

「おぉお・・・夏に体験するべき冷や汗を此処でかくと言うのか私ぃ・・・穏やかな一年の始まりにまさかのホラー体験・・・!だけどいいや!付き合うよ大家さん!出てこいやゴラァ!クルルァ住居票持ってんのか見せるんだよあくしろよ!って言えばいいんだよね!」

 

「そんなに柄悪くはなくていいぞ、多分・・・どこのヤーさんだお前。だがいいぜ、お前のそういう付き合いよくて物分かりの良いところは好きだ。とりあえず飛び込む。危なっかしいけど・・・まぁそこは俺らがサポートすりゃあいいもんな」

 

そんな意気投合の直後、端末よりメッセージ回線が開く。其処に映りこむは我等が所長、オルガマリー・アニムスフィアだ。ナイトキャップにパジャマを装着するお寝むスタイルで二人に通信を飛ばしてきたのだ

 

『リッカ、聞こえる?特異点発見による緊急召集を発令するわ。休みだけどごめんなさい、来てくれる?』

 

「私が行かなきゃ誰が行くぅ!勿論行くよ、待ってて!あ、式も連れていくけど大丈夫?」

 

『歓迎よ。マシュは身体のメンテナンスでスリープモードなの。貴女が選んだサーヴァントを選出して貰うつもりでいたから助かるわ』

 

是。マスターの意志を尊重した意見に無言でハイタッチを行うリッカに式。決まったのなら善は急げ。二人は部屋を出て、即座に管制室へと向かう

 

「悪いな。終わったら京都料理作ってやるよ?さぁ、深夜徘徊の悪い子ムーブと洒落込むか」

 

「おーっ!徹夜アニメで鍛えられてるからね!まっかせて!ばっちりしっかり役に立つよー!」

 

走り出す二人。そう、異変を解決するためならば休みを返上するのがマスター道。其処に例外はない。だからこそ・・・

 

(・・・なんか胸がざわざわするなぁ・・・なんだろ?)

 

『現れた』ではなく『招かれた』事実であることを、リッカは知らない。まだ、何が待ち受けているのかを、少女は知るよしもない

 

──それは、最後の訣別。大いなる未来へと飛翔するための、最後の大仕上げ・・・

 

 

 

たたかいは あきるひまなし けものかな

 

 

「ふむ、やって来たか。休暇を与えたと言うに休まらぬとは、世界を片手間に救う組織は辛いなマスター?」

 

玉座に座り、ゴージャスに酒を飲むは我等がゴージャスにして英雄王ギルガメッシュ。リッカと式が到着した事を確認し、マギマリパジャマを着用したロマンがコンソールを叩く

 

「だけど大丈夫、働いたら働いただけ手当てが出るホワイト・・・プラチナ企業だから!本当の意味で笑顔の絶えない職場だから働きたくなる永久就職先にピッタリさ!」

 

「ロマン、まずは概要を説明なさい」

 

「は、はい所長!・・・シバは寝ているから、僕と所長、ギルの三人で説明するね」

 

パジャマ、パジャマ、そしてバスローブの夜間衣装に身を包む三人に言葉を喪う式ではあったが、リッカは変わらず、指示を仰ぐ。シバが観測した天体が指し示す場所は──

 

「あ、日本だ!下総?」

 

「違う違う。・・・あぁ、やっぱりか。あそこだな」

 

「然り。場所は日本区画、打ち捨てられたとある根源を目指した魔術師が積み立てた死の集積所──『オガワハイム』と呼ばれる場よ」

 

──すぅ・・・

(えあぁ・・・スヤァ・・・)

 

エア、フォウは王の傍にて就寝している。王が二人に、安眠の宝具を使用し、安眠にて熟睡しているのだ。──とあるものを、彼女らに見せるために

 

「此度は我も特異点に出向く。だが戦力としては動かぬぞ。解決した暁に歩く凱旋の花道にして貴様らを待ち受けるとしよう」

 

「は?つまりなんだ、物見遊山ってことか?」

 

「言い得て妙よな。我は我で財宝を用意する段取りがあるのだ。此度の特異先は染みではなく孔・・・あまり得るものは無いであろうよ。骨折り損のくたびれ儲けなど我が楽園の冒険譚として認めるものか。宝箱を心待にし開く瞬間までが冒険なのだ」

 

冒険に我は一家言ある、とだけ言い残し、玉座より立ち上がり右手を掲げ指を鳴らす

 

「では一足先に出向いておくぞ。座標は即座に伝えられよう。覚悟と決意を抱き、足を踏み入れるのだな」

 

白金のオーラが王の身体を包み込み、粒子として黄金の輝きと混ざり合う幻想的な現象の中、王は消え去り、特異点への道が開かれる。そこは、2016年、12月31日・・・

 

「去年の大晦日!?それに、生体反応は無いのに動体反応は数えきれない・・・!?」

 

「何よロマニ、それってつまり・・・リビングデッドやゾンビだらけ、と言うこと?」

 

「はい、オルガマリー。これから挑む特異点には、生きた人間は確認されない・・・全くの無人の場所に飛び込む事となります。ですが、これは・・・どれだけの動体反応が詰め込まれているんだ・・・!?」

 

戦慄するロマニ、それを聞いた式とリッカは頷き合い、素早くコフィンに入り込む

 

「あ、二人とも!?」

 

「今更お化けなんかにビビるリッカ様じゃないやい!大家さんと不法入居者、ぶっ飛ばしてきます!」

 

「そういう訳だ。世話かけて悪いな。それと、こいつの御守りは任せろ」

 

「──レイシフトを許可します」

 

「所長・・・」

 

「全力でバックアップするわ。必ず帰ってくるのよ。いい?」

 

「了解!マシュが寝ている間にサクッと行くよ!じゃ、行ってきます!!」

 

所長と頷き合い、レイシフトにて過去の日本──伽藍の堂、『オガワハイム』へと転移する一人のマスターにサーヴァント

 

「・・・嫌な予感がするわね・・・」

 

「や、やだなぁ所長。脅かしっこなしですよ?あは、あはははは・・・」

 

シバを観測しても【黒】しか観測されぬ程の特異な空間。生者が全くない死の静寂の孔。其処が、今現れた理由とはなんなのか──

 

何もかも見通せぬなか、二人はただ祈るのみであった。人類最悪のマスターの任務達成を。そして、大切な家族である彼女の無事の帰還を

 

──空の境界。その狭間に吹き溜まりし混沌と混迷が、一人の少女を誘う──




・・・レイシフトを行った二人は、ただ息を呑んだ。目の前の光景が、あまりにも異質で変わり果てていたからだ。

赤黒く、真紅の雷を絶え間無く発する暗雲

漆黒の雨が絶え間無く降り注ぐ異常気象。風は生暖かく、言い様のない不快感を催していく

辺りの建造物は軒並み廃墟と化しており、其処に生命の息吹は一切ない

呻きとも慟哭ともつかない叫び声。引き裂かれた喉から漏れ出すようなぜっきょうが何処からか聴こえてくる

「・・・何ここ、日本だよね・・・?」

目の前にある光景が、最早魔界のような様相に変わり果てた有り様に、リッカが唾を呑み込む。左腕が震えるように疼いており、焼けた鉄を熱せられたように熱い。──魂が、呼ばれている気がする

「こりゃあ、悪い冗談じゃ住まないな・・・」

その目が虹色に輝く式が、うんざりしたようにもう一度吐き捨てる

その目には──

「・・・いつの間にこんなモンを呼び寄せたんだ・・・?」

【死の線で象どられ編み込まれた二体の巨大な顔】が、オガワハイムマンションにへばりつくように巻き付いている

その虚ろに窪んだ眼は──

「・・・ううっ、なんか寒気が凄い・・・」

射殺すように真っ直ぐに──リッカをただ見つめていたのだ──

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