人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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彼岸

──すぅ、すぅ・・・

(むにゃむにゃ・・・)

『こんな風に添い寝をするのは初めてね。王様も私に二人を任せるなんて、評価してもらえてるということかしら?そうなら、嬉しいわ。此処は名前のある子がいるべき場所ではないけれど、あなたたち二人は特別ね』

眠りにつく白金の姫に膝枕を行いながら、白き空を見上げる

『・・・ひょっとしたら、私も出会えるかもしれないわね。あのマスター、頑張りやさんの彼女に。ふふ、たくさんおめかしした方がいいかしら?どうしようかしら・・・ね、エア?』

・・・その笑顔は、無垢な少女のように──


「・・・?あれ、おかしいな。鍵が開かない」

ガチャガチャと、マンションの入り口で鍵を動かす式であったがどういう訳か開かない。謎の力でも働いているのか、びくともしない有り様だ

「くそっ、大家を門前払いとはいい度胸だ。こうなったら・・・」

「──せいっ!!!」

リッカが鎧を部分展開し、入り口のドアを扉ごと拳で粉砕する。風通しも、人通りもよくなるリッカ式ピッキングであった

「この手に限る!さ、行こう!」

「・・・頼もしい地上げ屋だな、全く」

そのパワーに呆れながらも、リッカらしいと肩を竦める式であった──


【101号室】

「うっ・・・」

 

円筒型の奇怪な形を取る、動乱と争乱の根源と思わしきマンションに脚を踏み入れた二人。式は顔におくびも出さず歩いていくが、リッカはそのあまりの異質さに小さく声を漏らさざるを得なかった

 

空気があまりにも淀んでいる。体にまとわりつく、へばりつくような不快感が絶え間無く自分を襲ってくる。まるで海底にいるような息苦しさ、押し入れや密室に押し込められたような閉塞感が絶え間無く自分を苛む。脚を一歩踏み出すのも億劫に感じてしまうほどの重圧、絶え間無く背筋が寒くなるような感覚。それが自分を、狙い澄ましているかのように叩きつけられている感覚が襲い来ているのだ。なんとなく、この空間全てが、自分を排除し、憎悪することを望んでいるような・・・そんな、『特定』された戦慄を覚える

 

外観も異質で、照らす灯りは血に染まる赤、廊下は黒く塗り潰され、エレベーターは『永遠に整備中』と張り紙がなされており意味をなさない。ボタンを押して扉を開いてみればそこは空洞で乗ることすらも出来ない。そして何より──

 

【あ、ゥアガア・・・】

 

【ィ、イィイ・・・】

 

通路を阻む者がいる。意味を成さぬ言葉とうめきをあげ、力なく頼り無く、廊下を周回する敵性エネミー。生者ではなく、ただ無作為に徘徊する生きた死体。数は10体前後にして、異物たる二人を見つけた瞬間に襲い来る──

 

『ゾンビよ!動体反応の元ね・・・行く手を阻むみたいだから遠慮なく蹴散らしてあげなさい!』

 

「了解!式、半分お願い!」

 

「あいよ。やれやれ、堅気の皆様を巻き込まないワンライフ・ワンデスの決まりを飛び越えるなよ。マナーが悪いったらないだろう!」

 

式と頷きあい、共に戦闘体勢に移る。着物に深紅のジャンパーを羽織る独自のスタイルの式は、手にしたナイフを縦横無尽に振るいあげゾンビ達の四肢五体、振り上げられた、伸ばされた腕や得物を豆腐に刃を入れるように刈り取り切り裂きバラまいていく

 

『き、切られたゾンビ達の反応が消失していく・・・!消しゴムで消したみたいだ!存在が消える一撃って何それ怖い!』

 

ロマンが言うように、振るい上げられたナイフはゾンビの腐乱した体のみならず鉄パイプ、そして拳銃などの頑強な得物をも易々と切断していく。そして同時に、切られたゾンビはまるで其処にいなかったかのように、その存在を霧散させられる。

 

『魔眼・・・彼女が持つ眼は、万物の綻び、崩れやすい歪み、言うなれば『死』を見る。直視ならぬ直死の魔眼なのね。形ではなく、物の寿命を切り裂いているから、強度なんて意味を成さない。其処に刃が通れば、見えてしまえば易々と切り裂けるのよ』

 

オルガマリーが感嘆と共にそれを告げる。最上級の魔眼。それを組合わせ戦う彼女が備える物の凄まじさ、神秘を見る瞳の稀有さと恐ろしさを、モニター越しに評価し絶賛する

 

「ナイフを振ったらおくびが飛んだ、もひとつ振ったらおくびが飛んだ、たくさん振ったらおくびが飛んだ♪」

 

サクサクとお菓子やケーキを切るようなノリで鼻唄を歌い、そしてとどめとばかりに残ったゾンビの眉間にナイフを投げ付ける。サクリと容易く貫通を示し、ゆっくりと回収し抜き放ち

 

「はい、おしまい」

 

ゾンビの全てを排除完了し、気だるげに息を吐く。久々の荒事でも腕は鈍っていないな、と安心に息を吐く式。立香の援護に行くか、と考え・・・

 

【うぉおぉおおぉぉお!!!】

 

そんな心配はいらないな、と肩を竦める。漆黒──いや、四肢の先端や走るラインが白く変化した龍の鎧を纏ったリッカが猛り、鈍重なゾンビを殴り付け、あるいは投げ付け踏み砕き引きちぎりの蹂躙を見せる。その戦法に、式には僅かな違いが見えた

 

【いつの間にか新武装!よぉし、ガンガン使って使いこなすぞーっ!!】

 

両腕に搭載された衝撃伝達兵装・パイルバンカー『モーセ』『マルタ』が唸りをあげ、殴り付けたゾンビを粉微塵に粉砕する。両足の装甲が超速回転する『ヤコブ』『ゲオルギウス』と名付けられドリルキックとなり、より直接的な破壊と削岩を可能としていく。従来の投げ技に加え、アンリマユが無理矢理浄化された祝福が形となった武装が追加されたリッカが雄々しく逞しく敵を撃破していく

 

『・・・サーヴァントを呼んだら変質しちゃうくらいの禍々しい雰囲気だから召喚はお勧めできないと言うつもりだったけど、なんの不安も無いのが凄いよね・・・』

 

『まぁ、リッカだし』

 

たかが五体の生きる死体などに苦戦する道理はなく、リッカは危なげなくゾンビ全ての蹂躙を終え、ねじきった首と死体をズリズリと引きずりながら一ヶ所に纏め上げ式と合流を果たす

 

【なんか鎧に新武装付いた!ますますパワフルになっていくのを感じる!すっごい身体も軽いし、なんなんだろね!これ!】

 

「それは何よりだな。サーヴァントと肩を並べるマスターだと仕事が楽でいい。そら、先をいそごうぜ。息苦しくてやってられないだろ、こんな場所。部屋のある場所は大体分かってる。しっかり俺についてこいよ」

 

【はーい!じゃあ早速・・・ん?】

 

式の後ろ、廊下の向こうにリッカは何者かの人影らしきものを見据える。それは小さな輪郭で、まるで少女のような、こちらを見ているような・・・

 

「ん、どうした?何か気になるものでも見つけたか?」

 

式に声をかけられ我に返ってみると、視界にもうそんな影は映っていなかった。あるのはただ、陰鬱な闇そのものである

 

【・・・見間違い、かな・・・】

 

首を捻りながら、リッカは歩き出す式の隣に歩幅を合わせ、物音一つしない無音の廊下を二人で歩み、式が鍵を持っていると言う表札の無い部屋へと向かうのだった──

 

いきぐるし からだはさえぬく けものかな

 

 

式の鍵にて開けられた扉を開き、二人は表札のない寂れた部屋に侵入する。個室ではあるものの、その景観はうら寂しく、人が住むにしては調度品が何一つとしてない閑散とした部屋割りとなっている。だが・・・そんな辺りの様相や印象も吹き飛ばすほどの環境と感傷が、純然たるリッカの感覚に、鮮烈な違和感として訴えかけるのだ

 

【──寒っ・・・】

 

そう、鎧や服を纏っているというのに、ただただ【寒い】のである。まるで冷蔵庫や寒気の寒空に在るような肌寒さが突き抜けるような鋭利さを持って身体を貫いてくるのだ。廊下とはあまりにも違う、悪寒と言ってもいいほどの気味の悪い感覚。

 

「全くだ。うちのリッカが風邪でも引いたらどうするんだ。せっかく空調があるんだから暖房でも入れたらどうだ。そうだろ?そこのデカブツ。魂が冷えきったからって身体まで冷やさなくてもいいんじゃない?」

 

それを発する根源に、式は声をかける。部屋の中央にて仁王立ちし、能面のような無表情にて佇む、槍を構えし僧兵──

 

【弁慶さん!?こんなとこで何してるの・・・?】

 

武蔵坊弁慶。ウルクで共に戦った、牛若丸の部下。武器を背負いし破戒僧たる彼は、ただ静かに──否

 

「──めぬ」

 

【!】

 

「──認めぬ。認めぬ!認めぬわぁ!!

 

静かに佇んでいた筈の弁慶が、堰を切って暴れだし猛り狂う。眼を血走らせ、怒号を発し、手にした槍を手当たり次第に振るい回し、部屋にあるもの分け隔てなく、蹂躙し粉砕していく。その咆哮や剣幕に、対話の余地は微塵も挟まらないほどだ。回避しながら、リッカと式は顔を見合わせる

 

「許される事ではない、許される事ではない!天に見放され、地に忘れられ、人に笑われた!彼の御仁の人生からなぜ貴様らは眼を背けるっ!」

 

そのまま、否。見えているのかいないのか。式とリッカに武装を振るい回し狂乱を露にしながら襲い来る弁慶。剛力の槍を式は壁を走りかわし離脱、リッカはガード態勢を取り凌ぎ、ぶつかり合う

 

【弁慶さん!あなたはどうして此処に!?連れてこられたの!?それとも──】

 

「智恵を鍛えず、醜悪を極めるとは言語道断!もはや衆愚と叫ばずにはおられぬわぁ!!!」

 

会話の余地が微塵もない。もはや魂の叫びに、全てが支配されている。最早言葉など、微塵も耳に入っていないのだろう。そう感じ、決断したリッカは即座に──戦闘を決意する

 

【私に合わせて!式!】

 

「止めるか?」

 

【ううん、此処から叩き出す!】

 

それだけを告げ、リッカは拳を構え、回避と防御に専念する。猛り狂い、怨嗟と呪詛を撒き散らす僧侶と化した弁慶の一撃一撃を、確かに静かにかわしていく

 

薙ぎ払いは皮一枚でいなし、突きは槍の腹を打ち付け軌道を逸らす。殴打は鎧の力ではね除け、じりじりと間合いを詰めながら冷静に、ただ慌てることなく勝機を図る。猛り狂う槍の嵐に、弁慶の咆哮を受け止めながら数分間打ち合い──好機は、訪れた

 

「ぬぅうぉおぉおぉおぉ!!!!」

 

業を煮やした弁慶が一際巨大な絶叫を上げ、目の前の龍の鎧を砕かんと槍を大上段に構える。直撃すれば真っ二つになりかねない幹竹割りの体勢。勝負をつける必殺の一撃。絶体絶命の境地──

 

「ぜぇえぇえぇえい!!!──ぬ、うっ!!?」

 

その刃が、鎧を、肉を、骨を砕き喰らい、啜ることは無かった。その閃きは、【手を叩く】ような快音と、白き鉄を打ち付け響く音・・・

 

【────ギリギリ・・・ッ!ケイローン先生ありがとう!!】

 

白刃取り。その凶刃を、両の掌にて合わせ受け止める近接対応の秘技。その咄嗟の判断と技術の合わせ業にて、一瞬の隙を作り上げ──勝敗を、此処に決する事となる

 

「ガ──!!」

 

弁慶の胸に、霊核に突き刺さるナイフ。死の線と共に、致命傷となる一撃を静かに突きつける

 

「器物損壊。備え付けの家具だからってバカスカ壊されちゃ困るんだよ。恨み言を積み重ねる前に、最低限のマナーくらいは身につけていけ」

 

「ぐ、おぉぁっ──」

 

「じゃあな、デカブツ。念仏は自分で唱えられるだろ」

 

「ぐぬ、ぉおぉおぉぉおぉおぉおぉ・・・・・・!!!!」

 

死の線、核を穿たれ消滅を開始し・・・絶叫を上げながら──部屋にて狂乱していた招かれざる住人、武蔵坊弁慶は在るべき場所へと還っていくのだった。静寂が戻る、空虚な部屋に二人が残される

 

「此処は騒動の元じゃない。ハズレだな。さ、次に行こうぜ」

 

【う、うん。・・・取りつく島も無かったね・・・】

 

『退去先は英霊の座、確かに其処からの解放を確認したわ。リッカ、会話の一つも行えないのは辛いけれど・・・襲い掛かってきたサーヴァントは、倒すことで対処しなさい』

 

【力尽くかぁ・・・】

 

武力が際限なく鍛えられている女子リッカではあるが、実際の所それ一辺倒になった事は殆どない。汗を流す運動は好きだが、問答無用の武力行使は好むところではないのである。対話は二人が笑い合えるが、暴力は殴る方も殴られる方も痛いし、辛い。・・・だけど

 

【・・・こんなところに縛られるの、辛そうだし】

 

何かに引き込まれ、魂を縛られる。縛られたままで、淋しい部屋で一人きり。・・・それは、もっと辛いと思う筈だ。それを助ける手段が・・・それしかないのなら

 

【行こう、式。・・・此処にいる人達を追い出して、元の場所に返してあげなきゃ】

 

「前向きだな。そういうとこがいいところだ。オレも最後まで付き合うし、ペースを守って捜査していこうぜ」

 

【うん・・・さぁ、次の部屋に行こう!】

 

『次の階層の場所へ案内するわ。モニター越しだけど、きちんといるわよ』

 

『見るからにおっかない雰囲気だけど・・・実況プレイみたいに賑やかしでフォローするからね!』

 

【よろしく!】

 

頼れる仲間達と頷き合いながら、虚ろな部屋より抜け出し。虚ろなマンションの調査へと戻るのだった

 

──次なる階層は、二階──




通路

式「しかし、運動したら喉が乾いたな。汗もかいたし・・・コンビニとか無いのか、ここらへん」

『生体反応が無いし、無いんじゃないかなぁ・・・大体、いたとしてもこんな場所で売上が望めるとは思えないし・・・』

「くそっ、五階まで上り詰めるまで水も食料も無しか。中々に面倒だけど仕方な──」

「ふはははははは!!我が楽園を代表する一行にそのようなさもしい行軍を許すものか!!ものはついでだ、面倒をみてやろう!いらっしゃいませ財ども!望みの品を手に取るがいい!!」

混沌と汚泥の最中に微塵も揺らがぬ黄金の輝き。笑い声の主が、ヴィマーナに『臨時開店キャンペーン』と旗を掲げ大量の品を甲板に乗せている

「移動式コンビニ!ギルガメッストアである!!さぁ、店長王ギルガメッシュが許す!好きに品物を買うがいい!!」

ロマン『なにしてるんだい君は──!?』

マリー『姿が見えないと思ったら・・・』

「フッ、我がいたのはマンション最上階よ。この特異点を踏破した者のみが辿り着ける頂にて我は待つが、それはそれで物資の補給は必要であろう。直接な戦力にはならんが、補充において役に立ってやろう!」

式「・・・とことん愉快な王様だな、お前」

「褒めるな褒めるな理解している。では改めて──いらっしゃいませ!望みの品を手に取るがいい!!」

黄金の法被とはちまきを巻き、愉快なスマイルにて叫ぶ店長王ギルガメッシュ。リッカと式は、そんな王の揺らがぬ在り方に苦笑と安心を浮かべながら・・・

「お茶とかは止めとけ。トイレとか行きたくなるぞ。水がいいぞ、絶対」

「え、アイスしか買わないの式!?」

「これだけあれば十分だろ」

「カロリーメイトもつけてやろう!小腹が空いたなら貪るがいい!味は、金箔味だ!!」

『また上に行くのかい?ギル』

「無論だ。とはいえ貴様らの奮闘は常に俯瞰している。我らを退屈させるなよ」


一時の休息。買い物を終えたヴィマーナは、再び最上階へと帰っていく。待機しているのだろう

「・・・天辺に何があるのか、楽しみになったな?リッカ」

「うん!」

共に戦わずとも、共に在る。その事実に、リッカ達の心は少なからず暖かくなるのであった──

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