人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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【うっ・・・!?】

式「・・・これは酷いな。もう目に見える臭気だ。二階でこれとかどうなってるんだ全く・・・」

『尋常ではない魔力濃度ね・・・まともに座標も計れるかどうかのレベルよ、これは』

『ううっ、モニター越で寒気がするような気がする・・・!大丈夫かいリッカ君、生きてるかい?』

「うん、大丈夫──ん?」

【・・・は・・・では・・・った・・・こん・・・では・・・な・・・】

「・・・?」

耳を澄ますと、何か、風でもない、音でもない。何か、呟くような響くような声が聴こえてくる

【こんな・・・筈・・・なかった・・・こんな・・・筈は・・・わたしの・・・は・・・っと・・・】

「・・・?」

【あの子・・・あれ・・・もっと・・・出来が・・・ったなら・・・】

「・・・何の事・・・?」

「おいリッカ、どうした?ぼさっとするなよ、置いていくぞ」

「あ、ごめん!今行く!」

男性の、くぐもるような声を振り払いリッカは走り出す

【──・・・】

その姿を、とある影がじっとみつめている事を、誰も知るものはいない──



【204号室】

「はーい、お邪魔しますよぉ?うぅん!匂います匂います!これは同類の気配!とても香ばしく芳しく!草原に走る炎のような焦げ臭さ!感じます、臭います、臭いますよぅ!」

 

二階の部屋に訪れた三人。全く変わらぬ陰気なる部屋、壁にはヒビが入り、うらぶれた調度品が散見される程度の小さく、そして肌寒き部屋。そこにてメフィストフェレスは変わらず、場違いなまでに高らかに笑い叫ぶ。彼にとって、地獄や混沌、他者の想念などは楽しむものにしか過ぎない。だからこそ──住人の、急所や生い立ち、末路を鮮やかに、無遠慮にただただ暴き立てる。それこそが、悪魔の悦楽と言わんばかりの陽気さと朗らかさにて、その真相を暴き立てるのだ

 

「『あんな恐ろしいことをしたヤツは怪物に違いない』と!死後も相応しい罰を受けたクリーチャーの臭いがねぇ!」

 

「──ハ、その通りよ道化。ちゃんと喋れるじゃない」

 

その演説とも講演ともつかぬその声高き糾弾に、ゆっくりと影より現れる影がある。ピンクの髪、フリフリの衣装に身を包む、カルデアにも召喚されているサーヴァント。──その目は、比べ物にならないほど澱んでいるのだが

 

 

「けど今更なに?引っ越し祝いに来たのかしら?私が暗いレンガの中に戻ったから?」

 

その頭には角。生々しく蠢くは尻尾。虚ろになれど、そのコケティッシュさは間違えよう筈もない。カルデアや特異点のムードメーカー。朗らかに笑い、美声から産み出される破滅の絶叫を産み出すアイドル──

 

【エリちゃんも変質組・・・いや、カーミラさんもいるから、そういう一面があるのは解ってたつもりだけど・・・】

 

毎日顔を合わせ、仲間として共にある存在がこうして変質し敵に回る。サーヴァントとしての無情さにやるせなさと悲憤を抱きながら、リッカはそっと戦闘体勢を取る。哀しいからこそ、知己であるからこそ。こんなところに彼女を置いてはいけない。彼女はもっと・・・

 

「そう言うことだ。もうカルデアのアレとは別人だろ。あれはただの怪物。誰かの噂や風評に歪められた無辜の怪物って訳」

 

知己の変質に、僅かに眉を寄せながらナイフを弄ぶ式。リッカの半歩前へ立ち、戦闘の姿勢を取る。虚ろにギラつくエリザベートの視線が、二人を、三人を残酷に射抜く

 

「そうよ、正真正銘ね!美味しそうなものを連れてきたわね道化!いいわとても!気が利いてるわ!そうね、すごく気が向いてきたわ!」

 

槍を、マイクスタンドめいた槍を手に取り翼を開く。鋭利な刃を剥き出し、そのまま殺気を、加虐の意志を無遠慮に叩き付けてくる。その様相に、愛くるしさは微塵もない。獰猛に火を吹く、竜と全く同義だ。相互理解は、不可能に近い

 

「今日はなんのパーティーだったかしら!なんでもいいわよね、ご馳走なんだもの!エビみたいに生きたまま手足をもいでいいのよね?ブタみたいに内臓から焼いても良いのよね!やった!じゃあ殺すわ!始めましょう、始めましょうニンゲンども!」

 

「来るぞ、リッカ。油断するなよ」

 

【解ってる──!】

 

その狂気のライブステージに巻き込まれる二人。その狂乱にして絶叫なる破壊の声音が、二人に過たず叩き付けられる。まずは槍の一撃。暴風のような力任せの豪腕で振るわれるその攻撃は、直撃すれば骨や肉を砕かれ引きちぎられると明白なまでに破滅的で破壊的なファーストアタック。式は壁を三角蹴りし逃れ、リッカはスライディングでエリザベートに猛接近する

 

「邪魔ァ!!」

 

接近したリッカに振るわれる尻尾の蹂躙。振り回されるその人間離れした部位の一撃に強かに打ち付けられ弾き飛ばされ、壁にめり込むリッカ。鎧の強靭さでダメージは五体にはないが、衝撃は如何ともしがたく行動が硬直する

 

「あはははは!あはははは!あはははは!!」

 

そして現れる多種多様な拷問器具。三角木馬、アイアンメイデン、ブラッドバスや鉈。様々な器具が召喚されリッカに一直線に、振り払われた槍を合図に飛来する

 

【拷問(物理)・・・!】

 

回し蹴り、拳の一撃。膝蹴り、チョップに肘。鎧の強靭さをフルに活かした戦法にて拷問器具を叩き落としていく。金属音と破壊音が響き渡る狭き部屋。女子の対決とは思えぬその豪快な戦闘の様相は、見守るメフィストフェレスを痛快に楽しませている。次はどんなハチャメチャをするのか?それを期待し笑いながら

 

「アァアァアァアッ!!!」

 

断末魔めいた絶叫を上げながら槍を振り下ろすエリザベート。煙に翳り姿を隠した奇襲。リッカが反応するより速く、左腕の【龍哮】が槍を掴み取った。至近距離にて、睨み合う竜と龍。エリザベートは叫び、問い質す

 

「此処にいる奴等を助けに来たわけ!?笑わせないで、アンタは私と一緒の存在でしょう!憎まれ、恨まれて!そうしてそんな姿になったんでしょう!」

 

【そうだね・・・!私、大分人としてはどうなのって感じだよね・・・!】

 

「解ってるじゃない!アンタは私と同じ!化け物にして怪物!誰かを食らい、誰かを弄ぶロクデナシでしょう!?なのに、なんで──!」

 

床が踏み締められ陥没する。竜の血が混ざるエリザベートの力は、一時的にも本来のそれだ。真っ向から、エリザベートが押し、リッカが受ける不安定な体勢で押し込まれる為、僅かに力負けしている。その体勢のままにエリザベートは問う。何故、アナタはそうなのだと

 

「なのになんでそんなキラキラしてるのよ!そんなガチガチした鎧着て、ニンゲンどもの薄汚いドロなんか纏って!なんで、なんでアンタは怪物(トカゲ)じゃなくて、(ニンゲン)になったって言うのよ!」

 

何故、同じような存在なのにこうも違う。誰かに貶められ、それを良しとしたならば。血にまみれ他者を潰すトカゲのような薄汚い自分と同類ならば、薄汚くて当たり前な筈なのに。助けに来た、自分の危険を省みず。光輝くような煌めきを放つその姿に、行動に。どうしてこうも歪まずにいられたのかと問わずにはいられない。

 

「答えなさいよ!私とアンタ、何が違うって言うのよ!!」

 

 

【──そんなの、決まってる】

 

リッカが押し返す。その狂乱と慟哭の力比べを真っ正面から押し返す。そんなのは問われるまでもない、今更に過ぎる。自分は確かに貶められたのかもしれない。悪になったのかもしれない。この身に纏う鎧は、汚い人類の澱みなのかもしれない

 

それでも──

 

【『人間は悪いだけじゃない』・・・そう教えてくれた人達に、私は出逢った!そして私は、そんな人達が生きる世界を救いたいと願った・・・!】

 

そう。人類悪である自分に、愛を、絆を、生きる意味を。教えてくれた人達がいた。沢山のものを教えてくれた人達がいた。そして──自分は、そんな人達を、未来を救いたいと願った

 

【『私は、私であることから逃げない』!どんなに貶められようとも、どんなに蔑まれようとも!自分を悪に落としたりはしない!そう、自分自身が決めたから・・・!私は此処にいるんだよ!エリちゃん!】

 

槍を吹き飛ばし、力付くで蹴り飛ばし距離を取る。その在り方を聞かされ、気圧されたエリザベート。そして、その破綻が加速する

 

「教えて、もらったですって・・・!?何よ、何よ、何よ!お母様はいなくて、お父様は何も言ってくれなくて!じいやも執事も、私に何も教えてくれなかった!」

 

【・・・!】

 

「私が悪いことをしたのなら、どうして誰も言ってくれなかったの!どうして私を叱ってくれなかったの!私の何が!何が悪かったって言うのよ・・・!!あ、あぁ、あ・・・!痛い、痛い、痛い・・・!」

 

槍を落とし、頭を抱え、取り乱し始めるエリザベート。その眼には、何も映っていない。その感受性を苛む、誰もが教えてくれなかった『罪悪感』が形となりて、変質したエリザベートを糾弾する

 

「痛い、痛い、痛い・・・!また、ブタが私の貞操を・・・!リスは私の宝石を・・・!ウサギは私の美しさを奪っていく・・・!かじらないで、かじらないでよ・・・!何が悪いのかなんて、何が悪かったのか解らない!何が悪いの!家畜を好きにして、動物をいたぶって何が悪いのよ!?私は、ずっと──そうやって・・・!」

 

男は家畜、そしてかしずくブタ。女の子は奴隷、美しさを保つ材料にして小賢しいリス。ウサギは、劣化させていく時間。そう、認識を刷り込まれた思考に苛まれ、頭痛が彼女の罪を捲し立てる

 

涙すら浮かべながら狂乱するエリザベート。その破綻とその罪を、肩代わりし救ってやれるものは此処にはいない。彼女の罪は、彼女が償うべきものであるがゆえに。彼女が目を逸らす限り、何時までも彼女を蝕み続ける。リッカが歩み寄り、介錯を行わんとナインライブズの姿勢に入らんとして・・・

 

「──そうだな。教えてやれることならあるぜ。『目が悪い』ぞ、お前」

 

「ギ──ッ・・・」

 

それより速く、式がナイフをはためかせエリザベートを一閃する。過たず背中から一刀両断。困惑する彼女を無慈悲に両断する。血飛沫が飛び、ゆらりとたたらをふみ、飛び散った血を、へばりつく血を呆然と眺める

 

「痛い、痛い、痛いじゃない、痛い・・・じゃない・・・!」

 

「お前がやってきた事だろ。引き裂かれるとどんなもんか、知りたいみたいだから教えてやったぞ。それは──『やられた人間と同じ痛みだ』」

 

・・・そう。家畜などいない。ブタもリスも、ウサギもいない。彼女が殺し、破滅させてきたのは・・・同じ存在。全く同じ『人間』なのだ。その事実を、式は『死』と『痛』をもってエリザベートに突き付ける。引き裂いた命は、奪った命は全く同じものであると。自分自身と、同じであると

 

「・・・やめてよ、教えないでよ・・・!背中から引き裂かれるとこんなに痛いとか、そんな本当、私に突き付けないでよ・・・!」

 

どれほど叫ぼうと、どれほど目を背けようと痛みは消えない。消滅の虚無感に苛まれながら、エリザベートは・・・純粋培養の悪の華は叫ぶ

 

「いまさら──ニンゲンはみんな同じ作りだったなんて、教えられてもどうしようもない!なんで!?なんで私ばっかり惨めなの!?なんで私は何をやっても救われないの!?」

 

「さぁな。自業自得だろ。──リッカと違うところがあるとするなら、そうだな・・・」

 

【・・・】

 

「アイツは前を向いて進んで、お前は考えるのを止めて目を閉じた、だな。──さっさと戻れよ。こんなところで管巻いてる場合じゃないだろ。トカゲ女」

 

「ナニよそれ・・・アイツは羽ばたいて、私は這いつくばったトカゲってこと!?トカゲみたいに、トカゲみたいに、トカゲみたいに・・・!私には、私にはそんなの堪えられない!」

 

自分は嫌だ。そんな惨めなままではいたくない。こんな無様なままで、こんな愚かなままで。だからもっと、せめて、何か──

 

「だから、ねぇ・・・殺されなさいよ、殺してよ・・・!」

 

救いでもいい、罰でもいい。こんな──惨めなまま、放逐されて這いつくばるままでは堪えられない。償う手段があるのなら、そんなものがあるのなら、必ず・・・

 

「お願いだから──私を、容赦なく殺してよぉおぉおぉッ!!!」

 

【──】

 

・・・その願いは、リッカの手により果たされる。せめて、介錯として。その道行きに、贖罪の道に戻れるように。パイルバンカーが、彼女を打ち抜く

 

「か、はっ──」

 

【・・・弱音はきちんと聞いたから。後は歩きだそうよ。大丈夫、必ず貴女は真っ直ぐ歩いて、自分だけの道を進める】

 

「・・・子ジカ・・・」

 

【何度出てきても、うんざりするぐらい出てきても・・・私達は付き合うよ。だから・・・こんな陰気臭い楽屋から出て、次のステージに行こうよ、エリちゃん】

 

「──何よ、そんなの・・・バカみたい・・・」

 

【何度も出てきて恥ずかしくないんですか?なんて・・・言われるくらい、また会おうね】

 

「・・・・・・ふんだ。アンタみたいな・・・野蛮なドラゴン、出禁よ、出禁──」

 

それだけを告げ──住民にして狂い果てていたエリザベートは、退去を受け入れる

 

【・・・アイドルは笑ってなきゃ。ファンが待ってるよ。・・・月辺りに】

 

「いるのか?ホントに?宇宙人とかじゃなくて?」

 

「マイナーやコアなファンと言う変わり種はいらっしゃいます!信じましょう信じましょう!まぁ救われるのは足ですが!」

 

その感触を強く受け止めながら・・・式とリッカは、メフィストフェレスの案内にて部屋を退室し。次なる階層に向かうのであった──




ギルガメッストア

藤乃「まがっしゃいませー」


ギルガメッシュ「ふむ、堕竜めを仕留めたか。貴様らが聴いたものは、あの雑竜めの抱く本心であろうよ。ヤツはとうの昔に自らが行うべき贖罪の道を定めている。要らぬ情けは無用だろうさ」

「そうだといいなぁ・・・解ってはいるんだけど、親しげな人が狂い果ててるのを見るのは、中々に堪えるなぁ・・・」

メフィストフェレス「いえいえ、良いガス抜きになったことでしょう!あの方プライドとか品位?貴族としての教育水準の高さでしょうなぁ。支配階級は嘆いているだけではいけない。上に立つ以上は負わなくてはいけない責務と言うものを心底から叩き込まれているのでしょう」

ギルガメッシュ「転び、起き上がり、飛翔しては墜落し、汚濁にまみれようとまた起き上がる。ヤツが選ぶ道はそのようなものだ。まこと、(トカゲ)のごとき在り方よな。故に気を病むなマスター。次に出逢ったときは適当に──」

メフィストフェレス「『ところでその角、コラボ的に可愛いね』等と言っておけば万事OKなのですから!」

オルガマリー『そういう、ものかしら。抱え込むものが黒ければ黒いほど、ひた隠しにはしづらいもの。いつか本当に怪物に、なんて・・・』

ロマン『自家中毒ってやつだね。カルデアの彼女も、たまにはメンタルケアを──な、なんだぁ!?』

リッカ「!?」

ギルガメッシュ「何事か!」

ダ・ヴィンチちゃん『たたた大変だロマニ、愛弟子!理由は不明だけどいきなりエリちゃんが私の工房に!?』

エリちゃん『はーい!なんだか凄くスカッとしたような気がしたから、たまたま通りかかったダ・ヴィンチちゃん工房に夜食を運んであげたの!さぁ食べなさい、泣きながら食べなさい!』

『あぁ!溶けてる!何故皿からこぼれたソースで私のモナリザが溶けてしまうのか!』

『ゴーレム三体をまるごと焼いて御団子のクッキーにしてみた、だと──!?』

・・・・・・・・・

オルガマリー『何もなかったわね』

ロマン『カルデアは平穏なままだ、リッカ君、ギル。気にせずマンション探索を続けてくれ。僕らも気にせずサポートするから』

リッカ「あ、うん」

ギルガメッシュ「・・・まるごしシリーズを使う理由がもう一つ増えようとはな・・・」

「叩いてもすぐに戻る形状記憶アイドル!それがエリザベートさんなのデス!」

「コロッケですね、揚げますか?」

「曲げなくてい──」

「引っ掛かりましたね。ではお情けでもう一つ」

「いるかそんなもの!リッカにやれ!」

「曲げますか?」

「揚げなくてい──」

「引っ掛かりましたね」

「・・・今のお前が分からなくなってきたぞ・・・」

「いぇーい」




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