人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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『かなしいものね。親が子を本気で疎み、憎み、妬み。そして死に引き込もうとするなんて。立ち塞がるならともかく、あなたにマジマジと見せたいとは思わなかったみたい。改めてとても・・・大切にされているのね。エア』

──ん、くぅ・・・ぎる・・・ぬぐのは、おやめ・・・くださ・・・

『あら、余程心に残ってしまったのね?ふふふ、夢を教えてくれるなんて素敵。あなたがあなたで良かったわ』

──すぅ・・・くぅ・・・

『・・・けれど、私は見てばかりもいられないわ。地獄で結んだ縁だもの。しっかりと清算しなくちゃ、気持ちよく誰もが生きられないわ。あなたも、そう思うかしら?』

──りっか・・・ちゃん・・・どう、か・・しあ・・・わ・・・せに・・・むにゅ・・・

『・・・友達のお願いを聴くのも、大切なことよね。大丈夫、エア。その願い・・・叶うわ。必ず──ね?』



3階

【こんな筈・・・は無・・・。私の、人生は輝い・・・ているはず・・・た。失敗・・・得ない、ずっと・・・輝いている筈だったのに・・・】

リッカ「また聞こえる・・・!何の話・・・!?」

【世界が憎い、明日が憎い、希望が憎い、他者が憎い、全てが憎い。そして、そして──一番、憎いのは・・・】

メフィスト「ワォ!聞こえてきましたねぇ謂れのない恨み言!グチグチ愚痴の異口同音、万歳三唱!いやぁ素敵ですねぇ。恨み辛みは素敵ですねぇ!」

式「・・・」

「何故素敵かって?決まっています!『シンプルイズベストな現実逃避』!一人では生きていけないプライドが高い!なのにそれでも止めようとしない自己弁護に視野狭窄!その滑稽さに気づかぬは本人ばかり!クヒヒッ、リッカさん、ご期待していますよぉ?ズバッと!言ってやってくださいねぇ?」

「?わ、解った!じゃあ・・・、?」

【・・・】

「・・・また・・・?」 

【・・・】

「・・・そこに、いるの?」

【──】

「おい、どうした?ぼさっとして」

「え、あ、ううん!・・・なんでもないよ、多分!あの部屋、行ってみよう!」

(・・・見たことがあるような、無いような・・・?)


【304号室】

「あれっ?」

 

三階の部屋の扉を開け、そこに囚われ居を構える変質したサーヴァントを解放せんと深呼吸し部屋に脚を踏み入れたリッカが上げた第一声は、そんなすっとんきょうな、気の抜けた声音だった。其処は今まで入室した部屋とは根本から異なっている。──どういうわけか、良い方に、だ

 

「・・・片付いてるな。掃除や手入れも行き届いてる」

 

式の告げる通り、その部屋は閑散やうらびれたといった印象は全く感じさせない。調度品は整理整頓が行き届き、埃は綺麗に拭き取られており、各自電化製品もしっかりと手入れがされている。コトコトと鍋が音を立てており、確かで豊かな生活水準を窺わせる程の、言うなれば自炊力、家事能力をまざまざと現している。寒さも感じない。むしろ、ほかほかと暖かいと思えるほどの優しい雰囲気に満ちている

 

「や、いらっしゃい。出逢った事は無いかもだけど、来てくれたなら誰でも歓迎だよ」

 

違和感、いや正常感に首を捻っていると・・・厨房に立っていた女性が優しげに声をかけてくる。柔らかで優しい、包容力に溢れた物腰。暖かく包み込むような笑顔と声音の主は、リッカ達が知っている、楽園のサーヴァントと同じ者だった。赤毛、露出度の多い服装。彼女は──カルデアの料理事情を司る、優しきライダー

 

「ブーディカさん!」

 

「ん、やっぱり知ってたか。そっちには私がいるのかな?うん、それは嬉しい。その反応だと嫌われてはいないみたい。うん、良かった良かった!」

 

頼りになり、優しく、そして穏やかな慈愛に満ちた笑顔を浮かべるブーディカ。リッカも警戒を解き、釣られて微笑み返す。発言と言動からして、彼女は変質らしい変質が見られない。初めて出逢った真っ当な存在に、警戒のレベルをリッカは下げる。良かった、漸く穏便に済ませられそう。胸を撫で下ろすリッカであった、が──

 

「丁度シチューも作ってたんだ。食べていかない?味はバッチリ保証しちゃうから。此処に来るまで大変だったでしょ?フジマルリッカちゃん」

 

「ん、皆怖くなってるからね~!でも、大丈夫!皆、こんな場所から帰れるように説得してるから!」

 

「・・・そうだな。夜食にはいい時間だ。ギルガメッストアのメシもいいが、さっさと食ってさっさと帰りたいからな。そら、あんたも」

 

「帰る?何を言っているの?二人とも」

 

──瞬間。全てが吹き飛び、歪み果て、堕ち果て、変質し、変容した。今まで部屋にて感じていた暖かさ、優しさ、柔らかさ。それら全てが凌辱され蹂躙され、部屋一帯が醜くおぞましく歪み果てる。壁がひび割れ、寒気が吹雪のように打ち付けられ、慈愛が反転した──殺気と怨念が余すことなく充溢する。

 

「ぶ、ブーディカさん・・・?」

 

「ふざけたことを言わないで。帰る、ですって?」

 

底冷えするような声がブーディカの喉を震わした。その声音に、柔らかさや暖かさなどは微塵も宿っておらず。満ち満ちているのは純粋な・・・憤怒と殺意、そして、飽きぬ復讐の炎。いつの間にか髪は腰まで伸び、身体中にはむち打ちの傷が穿たれ浮かび上がり、拘束具が巻き付けられ、その眼差しは氷のように冷たく、焔のように苛烈にリッカらを睨む

 

「やっぱりか・・・変わらない筈はないよな、そりゃあ」

 

リッカの前に躍り出、ナイフを構える式。リッカも例にならい鎧を纏う。目の前にいるブーディカは、変容していない訳ではない。・・・致命的に変わり果ててしまった姿であるのだと

 

「あたしは帰らない。帰る場所なんてない。だって──ぜんぶ、お前達が奪ったんだ!」

 

問答無用だった。先程の友好さなど微塵も感じさせずに手にした剣を式に振るい上げる。その気迫と意思は底知れぬ黒にて昏なる色。彼女を知る二人に、並々ならぬ衝撃を与える。何よりそれは凄まじいまでに苛烈で、怒濤で、全てを破壊し蹂躙せんとする決意に満ちていたのだ

 

「あの人の親族はあたしたちだけだった。王にはあたしと娘しかいなかった!」

 

つばぜり合い距離を離す式に、剣から小型のエネルギー弾を撃ち放つ。それは目につく全てを破壊し、砕き、皆殺しにせんとする無差別の射撃。無作為に放たれたそれは、式を回避に専念させリッカに防御を余儀無くされる程に無慈悲だった

 

「だからあたしは後を継いだのに──女には相続権が無いといって──」

 

盾を振るい、リッカを打ち付ける。その顔に慈愛などは微塵もなく、烈火や業火のように燃え猛る憤怒が顕在化しているのだ。其処にあるのは母などでは断じてない。傷つけられ、辱しめられ、それでも立ち上がることを選んだ──

 

「お前が!お前が!お前が!お前が!お前達が!お前達が!お前達が!お前達が!!私達から!ローマ(お前達)が!私達から奪ったんだ!!」

 

【ぐぅ、っく──!】

 

凄まじい勢いで盾を叩き付け、狂おしいまでに髪を振り乱し悪鬼羅刹がごとき醜悪な面構えでリッカを──憎きローマを破壊せんと猛り狂う。その怒りは、その憎しみは・・・じゃんぬやエドモン、ロボが懐くのと同じモノ。震えるほどに真っ直ぐで、消して癒えぬ醜き傷痕・・・

 

盾の腹でリッカが吹き飛ばされる。ガラガラと食器棚・・・家庭の象徴の一つが崩れ去る。ダメージはない、ただ・・・その激情に返す言葉がない

 

「あたしは忘れていた。人類史を守るなんて大義名分で誤魔化していた」

 

国を蹂躙され、娘を蹂躙され、我が身を蹂躙され、全てを辱しめられ貶められた。だから──これは楽園では決して見られぬ、変容せし者

 

「この怒りを、この憎しみを。この復讐を・・・!!」

 

【ブーディカさん・・・そうだよね、しないわけ無いか・・・】

 

戦慄と共にブーディカが叫ぶ。それらは震え上がるほどに鮮烈で、同時に喉を引き裂く様な絶叫である。──復讐の女王。勝利の語源となりし、その存在がリッカ達に刃と殺意を叩き付け、吼え狂う

 

「それを邪魔するものは、誰だろうと許さない──勝利の女王の名の下にその首を晒すがいい・・・!!」

 

絶叫を上げながら斬りかかり、抹殺と殺戮を行うブーディカ。リッカがそれを受け止め、式がナイフで反撃し金属音を響かせ合う。殺すため、護るために

 

「邪魔をするなら殺してやる・・・!女だろうと子供だろうと!!お前達も同じように・・・!!」

 

「呆れるくらいの恨み節だな。情が深いとひっくり返った影も深いのは当たり前か・・・!」

 

「アアァアァッ──!!!!」

 

震え上がるような斬撃が、竦み上がるような盾の殴打が部屋の全てを叩き壊し切り刻む。間取りが絶え間なく激震し、家具や調度品が砕け散り、目につく全てを更地にするような苛烈さが、辺り一面に復讐と怒りを乗せて叩き付けられる

 

「殺してやる、壊してやる、潰してやる、滅ぼしてやる・・・!!私達がやられたように!与えられた痛みと憎しみを全て、全て、突き返してやる!贖罪を、報復を──!!お前達の死をもって!!」

 

・・・最早それは戦闘にもならないほどの無差別、蹂躙、破壊であった。かつてローマの三つの都市を破壊し更地とした戦闘女王。その怒りと憎しみは最早吹き上がるマグマ、噴火する火山。崩壊する堤防からあふれ出る濁流に他ならない。目につくもの全てを、叩き壊すブーディカを、リッカは果敢に接近し羽交い締めとし無力化を図る

 

【ブーディカさん!落ち着いて、ブーディカさん!】

 

カルデアとは別人だと分かっている。分かっていても・・・あっさり倒してしまえと分かるわけにはいかない。必死に動きを止め、阻み、沈静化を計ろうと目論みるリッカだが、最早目も耳も機能しておらぬブーディカは、リッカにすら気付いていない

 

「ァアァアァアァアァアァア!!!」

 

【わぁっ!!】

 

力の限りに振りほどかれ、兜を鷲掴みにされ壁に向かって投げ付けられる。敵は等しくローマ、ならば殺す。故の無遠慮にして無秩序な戦術に、リッカの身体は壁に叩きつけられ身体がめり込む

 

「おいリッカ、無茶はするな──くそっ!」

 

放たれる光弾。『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブティカ)』より放たれし小規模ながら浴びせられる弾の対応に、式は舌打ちと歯噛みを吐き捨てながら対応せざるを得なくなる

 

【──解放してあげなきゃ・・・!自分が選んだ感情、憎しみだとしても・・・!誰かに無理矢理変えられたモノなら・・・!!】

 

戦う決意、いや・・・『助ける決意』を即座に硬め立ち上がるリッカ。迷っている場合じゃない、迷いなどない。彼女の怨嗟は、彼女の憎しみは本物だ。だからこそ──利用されるなんて事は、あってはならない。彼女の抱いた感情を、弄ばれるのは許せない・・・!

 

「ローマ・・・!殺してやる・・・!!お前も・・・!!」

 

【ブーディカさん・・・行くよ・・・、ッ!?】

 

戦う決意を固めたリッカは・・・しかして、向かい来る、一直線に迫るブーディカに、拳も脚も、武器も振るうことはなかった。戦うより、全く別の行動をとったのだ。それは、間近にあった『あるもの』を庇い──そして、護るために

 

「アアァアァ──アアァアァッ!!!!」

 

ブーディカがひたすらに、盾を、剣を振るう。何かを庇いだて、背中を見せたリッカを、ひたすらに打ち付ける。鎧が軋み、リッカの身体にずしんと鈍い痛みと衝撃が絶えず蓄積されていく。為すがままに打ち付けられるリッカ。それでも『あるもの』をけして離そうとはしない

 

【ッ、ぐ、ぅ・・・!!】

 

「死ね!ローマ!死ね!死ね!死んでしまえ──!!」

 

ダメージを受けていくリッカ。止まらぬ苛烈にて、罪を糾弾し処断をひたすらに行うブーディカ。──しかし、その終わりは、唐突に訪れる

 

「あ──」

 

胸の中心を、ナイフが深々と突き刺し、霊核を刺し貫いていた。その一撃は、『核』と『線』を、同時に打ち貫き切り裂き、絶命をもたらし果てなき復讐の閉幕を告げる

 

「・・・そりゃあ恨み辛みも骨髄だ。そんなあんたを否定する気にはなれないし、そんなあんたを否定できるやつなんていないだろう。英霊ってのは皆そうなんだろうし、オレも口を挟むつもりはない、けど──」

 

そっと刃を引き抜き、そのままに式は促す。見てみろ、と言うように

 

「リッカが庇ったものは・・・あんたが狂っていたとしても、壊させたくなかったものには違いないみたいだぜ」

 

・・・そう、リッカが身を呈して護ったものは。変質する前であったブーディカが腕によりをかけ作っていたはずの・・・

 

「──シチュー・・・」

 

それを、破壊からリッカは護っていた。反撃よりも優先すべきと、身を盾にして守護しきった。何故そんな事をしたのか?など、問われるまでもなくリッカは答える

 

【ブーディカさんのシチュー、スッゴク美味しいから。床にぶちまけて台無しにするなんて勿体無いこと出来ないよ】

 

「・・・!」

 

【激しい部分も本当だけど、こうしてあったかい料理が作れるって言うところ。そんなところもブーディカさんだって・・・ちゃんと、分かってるから】

 

カルデアで、何度もお世話になっている。料理教室で、何度も教えてもらっている。だからこそ、自分には解る。例え変質してしまっても・・・

 

【あなたの優しいところは、決して無くなったりしない。ううん、優しいから・・・復讐を選んだ。傷つけられた誰かのために。でしょ?ブーディカさん】

 

その言葉は信頼と確信。変わり果てたブーディカにも、確かに届く言葉の攻撃。敵意なき、最後の一〆に、武器も防具も、ブーディカは取り落とし・・・

 

「あぁ・・・私、何を・・・ごめん、ごめんね。カッコ悪いところ、見せちゃってね・・・」

 

そのまま、リッカを抱き寄せる。そこに苛烈さは消え去り、あるのは大切な小さき子を慈しむ、慈愛に満ちた母の振る舞い。傷付けてしまったその行いを、深く深く悔やみ、涙を流し──

 

「痛かったね、辛かったね・・・ごめんね。『勝利の女王』なんて・・・私、大切な戦ではいっつも負けていたのに・・・ね──」

 

最後まで抱きしめ、謝り、悔やみながら。ブーディカは、リッカへ謝罪を告げながら──光となって、在るべき場所へと還っていく

 

【・・・シチュー、食べてから行こう。式】

 

「・・・あぁ」

 

この特異点をおかしくしている元凶。彼女を招いた聖杯。絶対に、このままにはしておかないと・・・リッカは、頬に伝う暖かいものを拭うことなく。一心不乱にシチューを食べ、かっこむ

 

彼女を誤解しないため。復讐の真意を忘れないため。何れ程苛烈な行い振る舞いであろうとも。根底にあるものは、尊く深いものなのだと、忘れないために

 

 

「美味しいね、式」

 

「あぁ。・・・そうだな。家庭の味だ」

 

リッカと式は、ただ言葉少なく。ブーディカのシチューを食べ続けた──




ギルガメッストア

ふじのん「陳列しまーす。荷台とおりまーすまがりまーす」

式「言いたいだけだろそれ・・・!」

「まがれー」

「黙ってバイトできないのかお前は!」


ギルガメッシュ「ほう、復讐者に変異していたか。相手はブーディカ、なるほど。復讐者になるには申し分ない背景だ。不思議はあるまいな」

リッカ「・・・それは優しくて、慈悲深いから?」

「然り。人が人を仇なすのは、その人間に裏切られ害されるか、自らの宝に当たるものを害されたからに他ならぬ。名も知らぬ、顔も知らぬ相手などに刃を取るほど思い入れはすまいよ」

「・・・娘さんが、国が、旦那さんが大好きだから、あんなにブーディカさんは・・・」

式「憎しみから生まれたものが愛を語り、愛から生まれたものが憎しみを語る。それが──」

メフィスト「アヴェンジャー!正義を以て断罪をなすダークヒーローォ!ヒュー!キャックキー!」

ギルガメッシュ「故に気に病むな。アヴェンジャーの在り方を、貴様ほど見てきたマスターはいるまい。目の当たりにしたものの真理程度は、誤解をせずに抱いておけ。他者を正しく理解するそれはお前自身の力であり美徳であろうよ」

「・・・うん。ありがとう、皆」

式「・・・陰気臭いばかりで気が滅入ると思ったが、此処があって助かった。絶妙に気を遣うな、王様」

「当然であろうよ。我は財に関しては重宝し守護する。それが我の王道だ。それがマスター、楽園の唯一の価値を持つならば尚更よ」

「ギル・・・!」

「それは何よりだ。オレもリッカが曇ってるのが一番堪え・・・ぐっ・・・!?」

「すみません、荷台がぶつかりました。曲がっていたらこんな事に。反省です」

「お前、そろそろ真面目にクレームするぞ・・・!」

「御詫びにストロベリーアイスをどうぞ」

「次は気を付けろよな」

(ちょろっ!?)

「やりました、ふじのん優秀ですね」

「袖の下は店長のいないところで通さぬか、たわけ」

「あ、はい。・・・怒られました、しょんぼり」

「なんなんだ本当に・・・」
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