人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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頂上

「さて、夜明けも間近に迫っている。どう転び、どのような顛末を迎えるか。存分に愉しむとしよう。大掃除は年末に行うもの。禍根を遺しては巧くはあるまい」

(気張るがいい、マスター。憎悪や怨嗟の清算は貴様の仕事よ。我は結末がどのようなものかを見定めるのみだ。最も──)

「貴様が敗北する、なぞ・・・そんな未来を垣間見るつもりは毛頭無いのだがな?フ、どのような等いいながらこれでは、望む結果は分かりきっているではないか!我ながら白々しきモノよな!ふははははははは──!!!」



式「大丈夫か?リッカ」

リッカ「勿論、大丈夫」

『臍の緒』

「・・・これ、此処を通るために必要だったんだ」

「そうですそうです!恨みつらみの片割れと御対面といきましょう!さぁさぁ!さぁさぁ!」

「・・・楽しそうだな。ピエロ。本気で」

「そりゃあそうですよぅ!私のような悪魔と付き合い、使っていただけるマスターといるのです!これが楽しくない訳がない!あぁ、楽しいですねぇ!嬉しいですねぇ!本当に、夢のような日々ですねぇ!」

「・・・そうか。良かったな。──行くぞリッカ」

「うん」



全てが思い通りであってほしい。全てが思うままに行ってほしい

そうならないのは全て自分以外のせい。全て、全てが自分の脚を引っ張っている

他者など自分の人生の歯車でしかない。死のうが、苦しもうが自分にはなんの関係もない

自らは完璧に生きる。自らは完成された人生を送る

僅かな揺らぎやミスも認められない。そんな時分は完璧ではない。

揺らぎのない幸福を。永劫続く完璧を。ただそれを願い──子を成した

その子供が才あるものであったとき、心から喜んだ。この子こそ、新たな自分に相応しいと

どんな事を教えてもやり遂げる才覚に有頂天となった。ますます、自分の才能に舞い上がった

両親を亡くし、縁者がいないことも拍車をかけた

そして──その期待という名の拷問に、子が根を上げたときに無関心となり

──その子供が、自らの手を離れ懸命に生きていることを知った時、胸に灯ったのは・・・

果てない、憎悪であった


【伽藍の堂・中枢】

五階。──霊子密度がもっとも濃厚であり、マンションの中心に位置する場所。其処に、全ての決着を付けるためにやってきたリッカ、式、そしてメフィストフェレス。此処に在りし特異点。総てを歪め、貶め、変質させ取り込んでいるこの世の地獄の具現。其処にある原因を排除しなくては、無際限に怨念を取り込み肥大化し、人類史を侵食する染みとなり、やがて紋様を塗り潰すけして消えぬおぞましき穢れとなる。・・・そんな事を、けして赦すわけにはいかない。リッカは、強く強く決意を露に最後の扉を開ける。父は滅んだ。ならば此処に在るのは──

 

『・・・何てこと・・・!?其処の部屋、境界線が無いわ!何処までも広がる暗闇、四方八方に仕切りがない・・・!』

 

オルガマリーが驚愕を露にするのも無理からぬ話だった。その部屋には、分け隔てるものが何もない。天井も、壁も、何処にも、何一つ。何処までも広がる虚無の広場。木造の床しか見えるもののない、一寸先すら見届けられぬ虚ろなる部屋。──此処こそが要石。総てを歪める変質の果て。其処に在りしは元凶。そして、それを守護する──

 

「ようこそようこそ!此処まで、楽しんでいただけましたかぁ!?」

 

それは『メフィストフェレス』。リッカ達の傍にある存在と、全く同じもの。愉快にて笑う、悪辣を嗤う道化。──何故?そう感じる一同に、付き従う『善』のメフィストフェレスは哄笑を上げる

 

「あちらは此方の境界線を守護する悪のメフィストフェレスでございます!イヒヒッ、お疲れさまでぇっす!」

 

「どういうことだ、退去させた筈だろお前」

 

「何を言うのです!私を見くびらないでいただきたい!私は悪魔ですよぉ?善の心とかそりゃあ一つしかありませんけどぉ~。悪の心は一つや二つで済む訳が無いでしょう?それこそ、数え切れないくらいあるのでぇす!!」

 

ぐうの音も出ない正論だった。むしろ悪魔に善心があること自体が驚くべき事なのかも知れない。此処まで付き従ってきたメフィストフェレスこそが奇特。あちらこそが正常。そう納得せざるを得ない正論を、深々と痛感する

 

「イヒヒッ、ですがあんなモノは前座、サラダにしか過ぎません!さぁ御覧なさいリッカさん。私の背後に在る──あなた様の御両親の片割れ!鬼子母神ならぬ【鬼子怨神】!死霊達を招き、柱にし、貴女への大怨成就を願う大無間地獄の体現にてございます!!」

 

華々しく、おぞましく指を指したその先に──その怨霊、その元凶・・・変わり果てた、【それ】はいた

 

【アァア、ァア、アァアァア・・・──】

 

それは──見るだけで醜悪な、一目見ただけで死を選びたくなるようなおぞましき、吐き気を催す【芋虫】であった。人より遥かに巨大で、毒々しい紫の体躯に、数多無数の女の顔が張り付いている。脚の部分に人間の手足が着いており、身体中の孔と言う孔から、爛れるような障気を発して辺りを充たしている。一際巨大な顔は──何処と無く、しかして確かにリッカの面影を残し、腐乱している。例えるなら、這いつくばる女と芋虫を合体させたかのような、この世の醜悪さを総て掛け合わせたような姿をとっていた。──あまりにも巨大で、あまりにも穢らわしき姿に、式は顔をしかめる

 

「デカイな・・・どれだけ死に難いんだアレ。線が多すぎてキリが無いぞ・・・!」

 

あちらの雄の怪物は、ひたすらに太かった。此方の怪物は、ひたすらに死ににくく、ひたすらに醜悪で、ひたすらに生き汚い。人間の怨念を、概念を、悪辣に形にした姿。その姿を見てリッカは──

 

【大丈夫、必ず倒す。──もう、終わりにしてみせる】

 

当然のように戦闘体勢を取る。身体に鎧を纏い、己の五体に力を込める。此処に至って迷う筈はない。どんなに醜くても、どんなにおぞましくても見間違える筈はない。見落とす筈はない。そして──逃げられる筈はない。

 

あの醜い生命体から、自分は産まれた。あまりにも他者を省みず、自らの為に他者を利用する者から自分は産まれた。誰にも任せる事は出来ない。あの生物は・・・自分が討ち滅ぼすべき存在なのだ。それは最大の禁忌、親殺し。自分の魂の母、自分の実の父に続き・・・自分の実の母まで、自分は手にかけようとしている

 

親不孝にも程がある。愛をくれた親も、憎しみを寄越す親も等しく、自分は手にかけるのだから。何一つ恩義を返すこともなく、何一つ報いる事もなく。この手を両親の血で染め上げるおぞましさ。──かの醜い怪物たちと、自分は何も変わらない。結局のところ、血は争えないのだろう。外道の子は、外道なのかもしれない。そんな感傷に、リッカは鎧の下で目を細める

 

【それでも】

 

それでもだ。それでも──野放しには出来ない。出来の悪い子を恨むだけならともかく、彼等は関係の無い者達を恨み、憎み、引きずり込んだ。変質させ、害無く眠るはずの魂を巻き込んだ。己の憎悪を、最悪の形で顕してしまった。特異点を作り人類史を犯す澱みにすら成り果ててしまった

 

【私が、決着をつけないと】

 

親の不始末は、変えられた者の無念は己がつけなくてはならない。自分の血縁のおぞましさを、誰かに押し付ける訳にはいかない。総てに幕を引かなくては。何一つ始めることは出来ない。だって──

 

【それが──私に出来る、たった一つの親孝行なんだから】

 

・・・自分達家族は、もう致命的に壊れ果てていて。手を繋いで絆を紡ぐなんて事は、もう出来ないけれど。それなら、せめて。これ以上、誰を苦しめることがないように。他ならぬ自分自身が止めを刺す。

 

これ以上、誰も憎むことが無いように。これ以上、誰も苦しめる事がないように。・・・【藤丸立香(ふつうのにんげん)】からは、かけ離れてしまったけれど。でも、だからこそ──

 

【式、メフィストフェレスをお願い・・・!行くよ、母さん・・・!!これが私の、最後の親孝行・・・!!】

 

【立香・・・立香ァアァアァア・・・!!】

 

身体をもたげ、醜悪極まりない悪臭を放ち、人形の邪龍に相対する憎悪の怪物。翼を開き、真正面から睨み返し。身体中から覇気と気迫をみなぎらせるリッカ

 

──だからこそ。決着は自分の手で。もう誰も、自分の身内が原因で苦しむ人が出ないように。自分を此処まで見守り、形作ってくれた、総ての人達への感謝を込めて

 

【──恨まず、憎まず・・・!!無に、還れぇえぇえぇッッッ!!!!】

 

【⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!】

 

翼を飛翔させ、純白と漆黒、真紅の鎧を纏った金眼の少女が、一直線に元凶の存在へと殴り込む。芋虫と化した怪物が、それを呑み込まんとうねり狂う

 

「解った・・・!さぁ、始めようぜピエロ。バカげた催しも御開きだ。サクッと斬ってカーテンコールにしてやるよ・・・!!」

 

「クヒヒッ!親子相争う!血は争えぬとは言いますがァ!楽しいですねぇ愉快ですねぇ!はてさて顛末は如何なるものやらァ!?」

 

「・・・フヒヒッ、そうですねぇ、分かりませんねぇ・・・?」

 

怪物と龍、道化と魔眼が交錯し合う。この馬鹿げ、狂い果てた特異点に終止符を打つために。おのれの業に、幕を下ろすために。拳と呪詛、ハサミとナイフ。それらが、高らかに開幕を告げる──!

 

 

こはたから いつくしむべき けものかな

 

 

「ふむ、そろそろ店仕舞いか。一夜の店にしては中々の稼ぎと言った所か?ふむ、ショップの店員も中々に悪くはない友楽であったな」

 

ギルガメッストア。ヴィマーナの甲板にて展開されているその店は、特異点の解決を以ての閉店の様を見せている。品を畳み、回収し、片付けていく。祭りの終わりの寂寥をどこか感じながら、激震するマンションを英雄王は見やる。──そして

 

「さぁ、最後の見せ場だぞ。──アルバイトとして最後の勤めを果たすがいい」

 

「はい。分かりました。ちょっと頑張ってきますね」

 

ぺこり、と店員の服を身に纏った少女・・・浅上藤乃が王の声音に応える。その目は、ただ・・・マンションをじっと見詰めている

 

「餞別だ。これも持っていけ。売れ残った不要なものだ。使うも使わぬも好きにせよ」

 

「はい、ありがとうございます。店長、またアルバイト募集を行うときは、真っ先に私に声をかけてくださいね。ここ、素敵な場所ですから」

 

去り行く最後。一礼を交わし・・・藤乃は心よりそう告げる。素敵だった。楽しかったと

 

「ハッ、世辞も完備とは中々に出来た娘よ。よい、考えてやろう。──最も。出逢う場は、このような吹き溜まりでは無いことは明白であろうがな」

 

一夜の縁。店長王とその店員であるという事実だけを懐き、互いは望むべき場所へと赴く。王は、最上階の天辺へ。そして、藤乃は──

 

 

【うぉおぉおぉおぉぁあぁあぁっ!!!】

【ギャアァアァアァ!!!!】

 

龍、そして怪物は激突し、互いを殺さんと猛り狂い、吼えた。自らが持てる技術の総てを振るい、そして自らが持てる気迫の総てを懸けて、目の前の存在を抹殺せんと奮い立つ

 

リッカはあらゆる技術を目の前の怪物を殺し尽くす為に振るった。剣を振るい肉塊を切り裂き、槍を使い食い荒らす。弓を放ち穿ち貫き、拳を振るい叩き潰す。

 

『無茶だリッカ君!サーヴァントを召喚しなくちゃ危険だ!そのエネミーは・・・君の、君の・・・』

 

『遺伝子提供者とでも言っておきなさい!両親としての定義はとっくに逸脱している!リッカ、援軍を──』

 

【ありがとう!でも──これはギリギリまで私がやる!!】

 

 

 

 

サーヴァントの加勢は切り札としてギリギリまで温存する。こんなおぞましき元凶の坩堝に触れてしまえば、どんな変質や変化が起きてしまうか分からない。最後のギリギリまで、己の存在のみでこの怪物を討ち果たしてみせる。──そんな事が叶う人間は、人間とは呼べない何かだろうと言う自己認識を置き去りにし、それでも尚、微塵も躊躇わずに奮い猛る。これ以上、誰もがこんな憎悪に呑まれることが無いように。此処で、家族の縁を清算するためにリッカは総てを懸ける

 

【お前は!お前は何度私達の脚を引っ張れば気が済むの!?お前を産んだのは誰だと思っているのよ!?この恥知らず、恩知らず!!】

 

必死に蹂躙に抵抗しながら、女性の顔が叫び声を上げる。それは生前、自らを徹底的に教育させ、同時に教養を教え込んだ母のものであった。その声は告げる──リッカの存在を、否定する呪詛を

 

【あんたなんて存在自体が間違いだった!あんたなんて要らなかった!私はただ、自分が幸せである証明が欲しかっただけ!あんたの成長や幸福なんて欠片も望んでいない!食費や養育費!私の代わりになる筈だと信じていたから吐き気を堪えて堪えられた!あんたがよりよい私であると信じていたから、産みの苦しみにも耐えた!なのに、なのにあんたは──!!】

 

怪物に掴まれる。凄まじい力で、鎧が軋み苦痛が滲んでくる。目の前の怪物の呪詛がそのまま形になったかのようだ

 

【どれだけ私の邪魔をすれば気が済むのよ!死んでおけば良かった!いっそ殺しておけば良かった!『私の代わりにならないあんたなんて、死んでしまえば良かったのに』!そうすれば憎む必要も無かった!期待して、裏切られる事も無かった!私の人生の失敗は、私の総ての過ちはあんたよ!藤丸立香!!】

 

【──!!】

 

【死ね!!死んでしまえ!!このマンションで、この特異点で永遠に死に続けなさい!その為にこの空間を作った!その為にあんたを招いた!サーヴァントどもを招いて、死を集め!あんたが死ぬように仕向けた!何故、何故死なない!!何処まで私を裏切れば気が済むの!この役立たず!出来損ない!!】

 

一際巨大な口が、リッカに襲い来る。失敗だ、無用だ、不要だと──一心不乱に叫びながら

 

【あんたが私から離れて積み重ねた総てのモノは屑よ!!屑みたいなあんたにはお似合いよねぇ!!親の期待にも応えられない子なんて、この星を食い荒らす害虫みたいなもの!あんたは害虫なのよ!リッカ──!!!】

 

噛み付く。その不出来な存在であると断定するリッカを噛み砕かんと蠢く怪物。その様は、理不尽ながらも強く、強くどす黒い思念であった。破綻しながら揺らがない渇望。己の総てを呪うおぞましさ。なればこそ──

 

【────どんなに憎もうと、どんなに恨もうと・・・!私は絶対に逃げない!!死ぬつもりも無い!!】

 

力付くで拘束から抜け出す。上顎と下顎を砕く勢いの強引さで、その呪詛を、その理不尽を真っ向から受けて立つ

 

【私の人生は、もう私一人のものじゃない!!見守ってくれるお母さん、支えてくれる友達、導いてくれる大人、助けてくれる親友・・・!私を見てくれたかけがえのない皆が支えてくれたから、今の私がいる!!そして、そんな私が──そんな私になれた奇跡を!手放したりする筈がない!!】

 

更に勢いを増す、憎悪に呑まれぬ覇気と決意。自らを支えてくれた、応援してくれた総ての存在への感謝、そして自らを生かしてくれる総てへの敬意。かの王と姫が自分にくれた総てを、力に変える

 

【私は、私であることから逃げない!!どんな言葉であろうとも!どんな呪いであろうとも私は屈さない!絶対に──幸せになってみせる!!貴女が産んでくれたこの身体で!貴女が産んでくれたこの魂で!!】

 

【そんなもの──!!】

 

【私の生き方は自分で決める!!誰にも、価値がないなんて言わせない!!

 

己の我を、徹底的に貫き通す。決して揺らがず、ぶれることなく自らの生きざまを、叩きつける。それは訣別でもあった。自らは誰でもない、唯一人の自分。世界の誰も、自分以外の誰にもなれない

 

だからこそ、違う人間同士が出逢うから奇跡が生まれる。かけがえのない出逢いが生まれ、対話が行われ、大切な命が生まれる。──自分の両親が行っていることは、その行いを阻むことだ。未来を閉ざすことだ。誰かの未来を、暗闇に葬る事だ。そんな事は──絶対に赦せないし、認めない

 

それに──

 

【・・・もう、私達家族のせいで誰も苦しんで欲しくないから!!娘の私が──貴女を止める!!】

 

【!!】

 

【誰も止められないのなら、私が止める!!それが私の──親孝行だっ!!行くよ、母さん!!】

 

左手より、【龍哮】を引き抜き、──母の護り刀『童子切』より魔力を身体に充填させる。その輝きは深紅にして漆黒。恐ろしくも神々しく煌めき。目の前の怨霊の成れの果てに、真なる訣別の一撃を見舞う

 

【『雷位』開帳──!!龍咆一閃──!!】

 

【このっ────出来損ないがあぁあぁあぁぁあぁっ!!!!】

 

『──行きなさい。貴女の命と祈りを胸に』

 

『えぇ、母は、ずっと一緒ですよ。龍華』

 

苦し紛れの断末魔に、けしてかき消されない太陽のような暖かい声音。そして、穏やかな慈愛を懐く、優しき声

 

──ありがとう。お母さん。そして・・・さようなら

 

 

【──『雲曜・神雷』!!切り裂けぇええぇぇえぇえぇえッッッ!!!!!

 

無数、数億の死により隠された聖杯。その中心の怨念にして、核となるその情念。その大怨霊の中核となる物体に──

 

【ァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァアァア──!!!!!!】

 

【──・・・・・・・・・】

 

過たず届く、神速の刃。響き渡る絶叫、断末魔。積み重なった怨嗟が、業が、真っ二つに叩き斬られる

 

【・・・さようなら、母さん。私を・・・産んでくれて、ありがとう】

 

こんな形でしか、親孝行が出来ない。狂い果てる前に、止められない。そもそも・・・何一つ、期待には答えられなかった

 

そんな自分は、それでも。──産んでもらった事だけは、絶対に覆せない事であり、なにより自分の始まりであるから

 

リッカは刀を収め・・・絶叫する母だったものへ、深々と礼を捧げるのだった──

 

 




式「あばよピエロ、先に地獄に戻ってな!」

ナイフが、切り裂く。メフィストフェレスの死、その線そのものを

メフィストフェレス「あひいーぃ!これは凄まじい!凄まじいですねぇ!切り裂かれた痛みは無く!苦痛はなく!むしろ快感がある!なんと凄まじい切れ味!私もう、堪えられません!」

最後まで笑いながら、消滅していくメフィストフェレス。──悪は去った。後は速やかに・・・

【あはははははは!!あはははははははははは!!私は死なない、死ぬものか!!出来損ないを呪い続け、憎み続けてやる!その為の聖杯!その為の特異点なのだから!】

宿業を両断されようとも、見苦しく足掻く怪物。リッカの持つ、とあるものに反応し──復活を果たさんとしているのだ

『リッカ君!君が持っている何かにアレは反応している!いや違う、君と反応が同調しているんだ!君がいる限りアレは死なず、同時に──アレが死ねば、君は・・・!』

【・・・臍の緒・・・!】

【私とお前は繋がっている!どんな手段を使おうと!!お前が死ねばそれでいい!あはははははは!あははははははは!!認めるものか!!お前だけが幸福になるなど認めるものかァアァア!!】

最後まで恨みと憎悪を撒き散らすおぞましき魂。リッカを憎みながら、リッカに生命を依存するおぞましさ。臍の緒が無くば此処にはいられない。それが有る限り滅ぼせない。──親子の情すら利用する悪辣さに、一同は戦慄を隠せない

【・・・なら、此処で・・・!!】

刀を振るい、なんとしても抹殺しようと奮い立つ。最後まで、どちらが滅びようと。絶対に──

その時──

「いえいえ、結構ですよ?死ぬのはあちら様のみです、ハイ」

陽気な声音、そして、爆発音。猛烈な破壊音に巻き込まれ、絶叫する怪物

【メッフィー・・・!?】

「いえいえ、素晴らしいものを見せてていただいたお礼と言いますかなんと言いますか?あちらが生きるよりコチラが生きたほうが楽しいと思いまして?」

【グアァアァアァアァ!?】

「ハイ、聖杯にこっそり爆弾を♪いやぁ、手癖が悪くってもーしわけヒヒヒャハハハハハ!!」

聖杯を奪われ、みるみるうちに弱体化していく怨霊。その止めを行わんと、リッカが奮い立ち・・・

「生半可だと逃げられてしまいます。式さん、力を合わせてやっちゃいましょう」

それを制し、現れしはコンビニ店員。浅上藤乃が、止めを諭す

「お前・・・」

「私が凶て、逃げられなくします。その後は、式さんがやっちゃってください」

「・・・その為にバイトしてたのか、お前」

「偶然ですよ、偶然。──頑張る女の子を、応援したくなっちゃったのです」

【ま、待て!!私を殺せば、その娘も・・・!】


【────】

・・・リッカの目の前に立つ影。それは、少女の姿にて現れていた

【あ・・・】

そっとリッカから、臍の緒を手に取り、優しく頷く。大丈夫、と

【・・・わたし・・・?】

【──・・・】

その声音に、嬉しげに頷き・・・、そっと、見つめる

【──大丈夫!二人とも、お願い!!】

『リッカ!?』

【私、人類悪だから!多分大丈夫!】

「──良く解らんが、信じるぞ。お前の言葉!」

「はい。絶対大丈夫だと信じます」

【待て!止め──】

・・・それ以上、言葉が紡がれることは無かった

「凶れ。凶れ。──凶れ、凶れ・・・」

ミシミシと音を立て、怨霊が曲げられていく。たった一度の逃亡も赦されず、逃げられず。形がネジ曲がっていく

歪曲の魔眼。目の当たりにした景色を一枚の紙のように認識し、ネジ切り曲げる最上級の眼。──見えているならば、それはどんなものでもねじ曲げる。──そして、それにて動きを止められし者に──

「それだけ活きのいい怨念だ。『生きてる』と認識するのには困らないよな」

駆け抜け、飛び立つナイフ。着物とジャンパーを身につけた麗人の、輝く両眼

「じゃあな──恨み辛みの大懺悔は御開きだ!」

突き立てられる、直死の眼光。どんな存在であろうとも、その眼に映る生は逃れられず

【ァ──】

消失する怨念。──本来なら、道連れにリッカも絶命する筈であった結末。だが・・・

【・・・──】

それは、残滓の少女によって防がれる。彼女が懐く、リッカに託した力の一端にて防がれる。

・・・その名は【単独顕現】。どんな場所にも、既に存在していることを証明するスキル。討伐され、欠片である彼女の持つランクは、Eランクに過ぎない。だが、それでも──このスキルは、即死と魅了を、総て打ち消す力を持つ、つまり・・・


【────】

欠片である彼女は、新しく前へ進み始めた彼女を。自らの力を振るい、人類を護る彼女を・・・死への誘惑、悪辣な道連れより。最後の力を以て護ったのだ──

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