人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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──はい、ブラッシング完了。おやつも用意してあるから、楽しみにしていてね。フォウ

(いつもありがとう。こうして気を遣ってもらえること。それこそが最高の幸せなんだって実感するよ)

──ワタシもフォウに触れていると幸せだから、おあいこだね。ワタシの方こそ、いつも傍にいてくれて、ありがとう。ずっと、これからも一緒にいてね?

(勿論さ!あ、御風呂が沸いたみたいだよ。入っておいでエア。身体を浄めて、疲れを残さないようにね!)

──うん!フォウも一緒に入る?

(是非!と言いたいところだけど、一人の時間も必要だよ。気兼ねなく入浴しておいで。上がったらまた、一緒の時間を過ごそうね!)

──勿論!たくさん気を遣ってくれる親友がいてくれて、ワタシはとっても幸せ!フォウ、ワタシの親友でいてくれて、ありがとう!

(エア──)

──また後で!おやつ、期待していてね!

(──無邪気で清廉な在り方・・・お礼だなんて、そんなのボクが言うべきなのに──とうと)

《消えるのは構わんが毛を撒き散らすなよ?掃除した部屋が台無しになるではないか》

(消滅キャンセルするなよなお前な!フン!散歩してくる!)

《そうか、間食は要らぬのか?》

(そんな訳あるか!エアが入浴終わるまでだよ!食べるなよボクの分!)

《フッ、俗であり感銘と感動を現す獣である、か。忙しないものよなフォウ》

(本望だ!!)


いろんなきみ

「よーし!今日も女子になるぞ~!」

 

楽園たるカルデアに、そんな一見不可解な宣誓が響き渡る。性別の如何の問題に声をあげ、それを改善するなどと言う人物は一人しかいない。藤丸リッカ・・・人類悪であり人類最悪のマスター。武力と快活さをあまりにもハイスペックに両立させ過ぎて真っ当な女子の在り方から逸脱してしまっているともっぱらの事実を証明している彼女である。その渾名は女ヘラクレス、ヘラクレスの君、つがいなき孤高の女子など枚挙に暇がない

 

「先輩、まずは何より裁縫や料理に傾倒するのは如何でしょう!」

 

「まだまだ年始なんだから焦らなくてもいいんじゃないかしら。休むのも仕事、業務のうちよ」

 

「解ってる解ってる!じゃぁとりあえず・・・押し花?茶道?とかやってみよっかなぁ・・・なんか落ち着いてる感じがするし!」

 

後輩、所長と楽しげに会話しながら一日をどんな風に過ごすべきかと歓談しカルデアを駆けていくリッカ。彼女の周りには常に人があり、常に誰かと繋がっている。それは彼女の人徳と力の証明に他ならず、結局のところ彼女はその力で人理を救ったのだ。誰かと繋がることを恐れず、悪に苛まれながら善を信じる。そんな心構えが彼女を奮い起たせて来た。それは誰の目にも明らかな、偉業といっていいものだろう

 

(リッカちゃん、女子は女子になるって言わないんだよ・・・其処は忘れないでね・・・)

 

そんなリッカの後ろ姿を、静かに見つめる影がある。小さく美しく、それでいてもふっとしている獣。カルデアではもっぱらエビフ山に包まれ天上の幸福に身を委ねており、割と本気で身体を三メートルくらいにしてエアをもふもふに包み込んであげたいと考えているプラトニックスケベ一途獣・・・『至尊の守護獣』フォウである。エアの入浴中な為所在なく散歩していたフォウがリッカを見掛け、静かに所感を懐いていたのだ

 

(それにしても、リッカちゃんは女子になる女子になるって言ってたけど・・・そんなに致命的に乖離してたっけ?)

 

フォウは一度、旅路を経験している。人理を救うための旅路を、ゲーティアと戦うまでの旅路を見てきたのだ。その果ての結末は、人格と魔力を譲渡しとある少女を生き返らせたが故に自らは消滅したのだが・・・その決断に後悔は無い。消滅はまぁ人格だけの話だったし、行き着いた先が彼女の側、傍らだと言うならばむしろ本望と言うべきものであったというに何の躊躇いもありはしない

 

だからこそ、気になった。確か自分の前世の藤丸は男だったと記憶している。ボーイミーツガールにニヤニヤしながら茶々入れてたし間違いない筈だ。そんな記憶があり、前世では少なくともなんのブレも揺らぎもない旅路だったと、ほんのりと実感がある

 

(此処のリッカちゃんと、数多無数の藤丸立香・・・どんな風な差異があるのかな?)

 

勿論武力や人類悪といった差異ではない。どんな性格なのか、どんな人格なのか。世界を救う難題に晒されていた一般人は、どんな風に人格が分岐し枝分かれしているのか。そんな華を見比べて微笑むような思いつきに、フォウは愉快げに華を鳴らす

 

(エアがのんびり入浴している今、時間を費やすには面白い試みだね。バードウォッチならぬ藤丸ウォッチ。試してみようじゃないか!)

 

そんな思い付きを面白がり、フォウは早速行動に移す。自らのスキル【単独顕現】そして【千里眼(獣)】を駆使し、此処ではないカルデア、そして藤丸立香を見据えるのだ。人類愛となった自分にはそれくらい容易い。顕現するならともかく、時空をロックオンしてちょっと覗き見るくらいなどお茶の子さいさいなのだ。エアのプライベートは遵守するが、それ以外は割とアバウトなフォウの眼が、異なる編纂事象の平行世界を捉える

 

(さぁて、どんな彼等彼女等がいるのかな?)

 

自分達が経験していない異なる世界の物語。隣街の立ち寄った事のない本屋に足を運ぶ楽しさと胸の高鳴りを覚えながら・・・フォウは今も歩み続ける可能性を垣間見る──

 

 

 

「本当に、俺なんかに出来るのかな・・・マスターなんて・・・」

 

最初にフォウが垣間見たのは、世界を救う使命に戸惑う普通の男子。何処にでもいる普通の一般人たる藤丸立香であった

 

「世界を救うだなんてスケールが大きすぎて良く分からないし、サーヴァントとか魔術とかもよく・・・」

 

(そうそう、それが普通の反応だよ)

 

フォウはその戸惑いや未熟さを嗤う事はない。むしろほっこりしながらその可能性を垣間見る。そう、この旅路は君だからいい、君だからこそいいのだ

 

何の特別な力も持たない一人の人間が、皆に支えられて成長していく。そんな物語がこの旅であり、最高ではなく最善を目指すものが皆で世界を救う。そんな事実と偉業こそが尊いものなのだ。だから始まりは、頼りないくらいが丁度いい。それは当たり前の不安なのだから、正しい人間の反応であると獣はにっこりする

 

「先輩、及ばずながら私も精一杯サポートいたします」

 

「そうだよ。マシュだけじゃない、カルデア皆が君の味方だ。気負わなくてもいいんだ。必ずやり遂げよう!」

 

「皆・・・。分かりました。俺に出来ることがあるのなら・・・!」

 

(頑張れ、藤丸立香。進めば必ず、君は何かを掴めるさ)

 

かつての前世にて垣間見た彼のように、歩みだす彼を見送る。そこには苦難と、それを上回る喜びがあるから。揺るがずに進んでくれたら嬉しい。そんな感傷と激励を胸に、フォウはまた世界を変えて藤丸立香を見据える──

 

 

~now loading~

 

「クラス相性・・・あーと、えーと・・・あぁあぁあ面倒くさい!!やっちゃえバーサーカー!!」

 

(おやおや、こちらはずいぶん大雑把な藤丸立香だね)

 

別の藤丸の可能性。それは大抵の事を力押しでなんとかしちゃおうとする端的に真っ直ぐな立香の姿だった。性別は女性、駆け出しだろうか。筋骨隆々のバーサーカーだらけで戦場を蹂躙している様子である

 

「せ、先輩!バーサーカーの皆さんは確かに強力ですが打たれ弱く、防御や的確な回復を・・・!」

 

「やられる前にやれ!強いフレンドを後ろに控えさせておけばなんとかなる!いちいち戦法を変えるより最短で潰した方が早いよ!私のバーサーカーは最強なんだ!!」

 

「そ、そうなのかもしれませんが・・・!」

 

(うーむ、第六辺りで地獄を見そうだ・・・)

 

確かに力押しでなんとかなるならそうすべきだが、相手もシミュレーションではない。力強く強力になっていく。そんな時に今のままでは終わってしまうのがオチだろう。成長なき旅路は望まぬ結末にたどり着いてしまうやもしれない。初心から横着と楽を覚えてしまうのはどうかと思わなくもないが・・・

 

「育成の為の礎となれ!!私のバーサーカーは最強なんだ!!」

 

(成長するための横着だ、悪いことにはならないさ、きっと)

 

自分なりの成長と計画を立てて挑む。それもまた最善を目指すものなんだろう。ならば必ず結果はついてくる。理不尽も乗り越えられるほどに我が道を貫けるなら、それも立派な正道だ。脳筋が何処まで通用するのか。期待するのも一興だろう

 

「わぁあぁ直撃したぁあぁあ!?」

 

「だから言ったじゃないですか先輩~!?」

 

「マシュ!フォロー!フォロー!」

 

「が、頑張ります!!」

 

(・・・頑張れ!)

 

脳筋の先行きに希望と不安を巡らせながら・・・フォウは更なる可能性を見据える。新たなる世界に挑む藤丸立香を垣間見るために。次なる出逢いに胸を踊らせながら・・・

 

~now loading~

 

「シャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリ・・・」

 

藤丸立香はひたすらに林檎を食べていた。黄金、白銀、赤銅。分け隔てなく林檎を食べていたのだ

 

「素材を集めなきゃQPを集めなきゃ集めなきゃ集めなきゃ・・・」

 

(あぁ、いわゆる何かをしていなくちゃ不安でやっていられないという精神状態なのかな)

 

自分に出来ることを、やれることを。極限まで意識し、考え、一日も早く世界を救わんとする気持ちが肥大化した結果働くことに傾倒し過ぎた結果が彼なのだろう。けして強いばかりではない、一般人であった彼らならではの光景なのだとフォウは頷く

 

「1億や2億じゃまるで足りない・・・銅素材が100個あれば楽勝だなんて思い上がりも甚だしかったんだ、星5の育成がこんなにも大変だったなんて・・・」

 

「いけない!いつもの発作だ!マシュ、藤丸君を休ませるんだ!」

 

「大丈夫です!休みましょう!休みましょう先輩!!」

 

「離してくれぇ!せっかく来てくれたんだ・・・!育てなくちゃ、育てなくちゃぁあ・・・!!」

 

(巡り会ったならではの苦悶、か。でも、君の苦難は強さという形で必ず報われると思うよ)

 

育てる甲斐がない英霊は皆無だ。苦難を味わった数だけ必ず応えてくれる。その積み重ねが、きっと世界を救う足掛かりとなるはずだ。必ず、その悲鳴を上げながら走るマラソンは──

 

(・・・なぜ苦しく感じるのか、何故重荷となるのか。あぁ、君は確かに藤丸立香だね)

 

投げ出せば終わり、逃げ出せば楽になる。それを選ばず挑むからこそ苦しい。ならば、その苦しさはかけがえのない選択の結果に他ならない

 

何故自分が苦しいのか。そこを勘違いせず正しく認識できたならば・・・必ず自分だけの勲章になるだろう。声なき応援を捧げながら、フォウは静かに視線を切って次の場面へと意識を移す──

 

~now loading~

 

「霊基降臨確率アップ・・・今度こそ、今度こそ当てて見せる・・・!!」

 

「待ってください先輩!もう資源も僅かです!ダ・ヴィンチちゃんの甘言に耳を傾けてはいけません!!」

 

「離して!離してマシュ!私の旅は始まってすらいない!!推しがいなくちゃ何も始まらないのぉ!!」

 

「藤丸君を鎮静させるんだ!これ以上は藤丸君の私財と精神が危ない!」

 

「引くまで私は諦めない!ガチャは今しか引けないの!だから引かせてぇえぇ!!」

 

切実な叫びを上げる藤丸立香。恐らく憧れの英雄と世界を救いたいという願いを抱いて待ち続けたのだろう。並々ならぬ精神と執念を現しながら叫び続けている

 

(その先は地獄だ・・・程ほどにするんだ・・・)

 

その執念と願いは理解できる、共感も出きる。だが、自分の身を滅ぼしてしまっては本末転倒と言うものだろう。今ある存在を蔑ろにしてまで、見えない影を追い求める必要はないのだ。自分に出来ることを、出来る範囲でやってほしいという想いはある。だが、それはあくまで彼女等の物語。阻むのは野暮というものだろう

 

「今を逃したら・・・!一生後悔する・・・!!次なら、次なら出るんだ・・・必ず!!」

 

「それは幻想だ藤丸君!君は妄想にとりつかれているんだ!!」

 

「そう言って何度爆死してきましたか先輩!もう止めてください!見るに堪えません!」

 

「次なら!次なら絶対なんだ!此処で引いたら全ての犠牲は無駄になるんだ!私は止まれないんだぁあ!!」

 

適度と用法を護って、無理のないように。道半ばに精根尽き果てる事の無いように・・・せめてそう祈るしか出来ない自分を遺憾に思いながら、フォウはこの世界の俯瞰を切り上げるのだった──

 

~now、loading~

 

「フォーウ。こんなところで何してるの~?」

 

さて、次はどんな・・・そう考えていたフォウを我に返らせ、持ち上げるは藤丸リッカ。自分の存在する世界のリッカが、自分に声をかけてきたのだ。廊下で微動だにしない自分をおもんばかってくれたのだろう。軽々と持ち上げる彼女と目が合う

 

「ギルと一緒じゃないなんて珍しいね?もしかしてはぐれた?」

 

「・・・・・・」

 

「?どしたの?」

 

・・・ほんの一部ながら彼女や彼を見て、改めてフォウが確信したこと、それは、彼女や彼等は『最善』を目指しけして逃げないと言うことだ

 

どんな窮地であろうとも、どんな困難であろうとも。藤丸立香は逃げ出す事を選ばなかった。自分が出来る最善を目指し、自分が出来る事に全力を尽くし、皆に支えられ・・・世界を救う未来に辿り着く、

 

困難や苦難を味わうのは、その状況から目を背けず踏ん張っているからだ。逃げ出してしまえば苦しみも哀しみも味わう事はない。みっともなくても惨めでも、其処から逃げ出す藤丸立香はいなかたった。そして・・・最後まで、走り続けたのだ

 

「?フォウ?もしもーし?」

 

だから・・・リッカちゃんも大丈夫だろうとフォウは思う。彼女もまた、『女子』という最善を目指し、駆け抜ける者なのだ。今は果てしない遠い道でも、必ず彼女は辿り着くんだろう。足を止めない限り、きっと

 

「フォウ!フォウ!フォーウ!」

 

「わ、どうしたの!?」

 

リッカの手よりフォウは跳ね立ち駆けていく。彼女に激励と、礼賛の言葉を残して、あるべき場所へと走り去る

 

「気紛れだなぁ。・・・ひょっとして姫様がいないから暇だったのかな?」

 

そんな想いは露知らず、彼女も自らが行うべき取り組みに、理想の自分を目指し走っていく

 

(宇宙や星が産まれたんだ!君が女子になる奇跡くらい楽勝さ!)

 

そんな──割と失礼な星の獣の激励を背に受けて──

 

 




自室

(うぅん、やっぱり改めて見て此処の施設の充実っぷりはスゴいなぁ。ホテルやリゾートだなんて目じゃないくらいだ!うん、やっぱり此処がボクの居場所。エアと一緒にいられる楽園でボクは死ぬんだ、間違いない!)


(・・・そう言えばエアは御風呂から出たかな?キチンと身体は拭いて湯冷めしていないかな?風邪でも引いてしまったら事だからね、そこはキチンと言っておかないと!)

──あ、フォウ!お帰りなさい、お散歩はどうだった?

(!エア!ただいま!それがね、試しに気になって他の世界の藤丸君達を垣間見──)

《ほう?愉快な試みをしていたと見える。委細詳しく報告せよ》

(ぐわぁあぁあぁあぁぁあ!?なんで全裸なんだオマエ──!!!?)

《湯上がりだからに決まっていよう。エアの次に我も入浴したのだからな。ふはは、よもやサービスショットを期待していたか?浅ましいヤツめだが許す!最近は脱ぐ機会も無かった故な!見たければ!存分に!見るがよい!》

(誰が見るかぁ──!!!!)

エリザベート「ゴージャスー。来月のバレンタぶはーーーーー!?」

「む、なんだ駄竜ではないか。ノックもせずに入室とは礼節を弁えるがよい。・・・いや、さては狙ったな?」

「誰が!!狙う!!もんですかーーー!?」

──フォウ!王!二人のお顔バターケーキができま・・・何事ですか!?ああっ!王がまた無差別テロキングに!?

《む、バターケーキか。ふはは可愛らしいではないか!よい、一つまみさせてもらうとするか》

──前を隠してください王よ!眩しくて!眩しくて──!?

・・・うららかな休日は、大惨事になった

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