人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アキレウス「そういや大王さんよ。あんたゼウスの子孫を名乗ってるんだって?あのジジィ、後世で後付けで子供が増えまくりだなんてフカシてやがるが自業自得だよなぁ?」

イスカンダル「偉大なるアキレウスに問われると照れ臭くて叶わんなぁ!いや、強ち間違いかつ出任せではないのです。駆け出しの頃を見比べていただければ納得していただけますかな?」

『アレキサンダーの写真』

「・・・・・・ゼウスのジジィ・・・・・・祝福なんぞ余計な事しやがって──ッ・・・」


冬木上空 ステルスヴィマーナ

英雄王《さて、言の通りに別行動を始めるとするか、まずは──キャスターを始末するぞ。この陣営は初めから暴走と無秩序を是とし盤面を覆す事に傾倒した破綻者よ。生かしておく理由は無いが・・・特に手を下す理由も無い。警察に身柄を一任させ、始末するはキャスターで良かろうさ》

──了解しました。かの陣営を早期に排除すれば、助かる命は数多となります。なんとしても・・・子供達を。世界の宝を護りましょう!

(召喚の場所は分かってる。先回りして召喚を誘導しよう!)

《よし、では往くぞ!我等の威光、寂れた片田舎にあまねく届かせ輝かせる時だ──!》

──


ACT―1『カモネギハサン』

繰り返されし聖杯戦争、第四の試み。冬木にて行われし、第三魔法成就の為の殺し合いの場。特異点Fとなり、炎上を続けている場所である都市の健在たる姿を、レイシフトにてリッカとマシュは垣間見る。そこは深夜ということもあり静寂に包まれており、町外れと言うことも相まって・・・同時に人気も無いありふれながらも穏やかな時間が流れている。その戦争開催地とも思えぬ平穏に、マシュは目を白黒させる。彼女はこういった本格的な都市には馴染みがそれほどない。故に総てが目新しく映る。図らずとも箱入り娘めいた反応を素直に表すこととなる

 

「これが、まだ燃える前の冬木の街・・・」

 

「ファスト風土化がまだ発展してないんだねー。やっぱりあんな大火災より平和なのが一番だよね」

 

目の当たりにした、総てが燃え果てている都市。一欠片の生命もなく、ただ残骸が積み重なる地獄。その凄惨なる姿に成り果てる未来が待っていると考えてしまえば、その平穏が如何に得難いか否応なしに実感できるというものだ。リッカは深呼吸し、ストレッチと準備運動に精を出している

 

「感傷はいい、日常を想うもいい。だが、『やがてああなる』といった想いに囚われては戦いの決意を鈍らせてしまうぞ」

 

エルメロイの言葉がマシュとリッカに投げ掛けられる。惨劇と悲劇、未来を想ってばかりでは現在を踏み外し予期せぬ結末を招くと念入りなお節介による忠告を二人に告げる。

 

「・・・言い方を省みれば、だ。得難く思うのはいいが、けして囚われるな。戦いによって引き起こる惨劇、回避できない悲劇を恐れては歩みを遅める。中途半端に崖を飛べば落ちるように、だ。──世界を救った過程で、我々は滅びと向き合った上で戦いを選んだ。その上で臨戦態勢でいるべきだと言ったんだよ」

 

恐れるばかりでは、失うことを躊躇っていては手に出来るものも取り零す。滅びと破滅、そして終焉を意識した上で覆せ。それがエルメロイの、まず始めに告げたレクチャーであった

 

「そして、たとえば今この状況だ。誰もが寝静まりし深夜。差し迫った脅威はない、そう思うかね?」

 

首を縦に振り、頷くマシュ。戦争の場であることすら実感が湧かないという『真っ当』な感性を基に肯定する。──しかし、【異常】であるリッカは、既に魔力を・・・自らの内に流れる泥、そして大英雄達に叩き込まれに叩き込まれた経験が、そんな当たり前の結論を許さなかったのだ。同時に──漆黒の外套が、風もなくはためいている

 

「マシュ、戦闘準備。いるよ、多分」

 

「?は、はい!」

 

「その洗練されきった感覚を誉めるべきか、一般常識離れした研鑽と成果に嘆くべきか・・・今回は魔術師の思惑渦巻く聖杯戦争。眼に映る総てを疑わねばならん。例えば、このように──」

 

瞬間、エルメロイ・・・孔明の知略と生前の陣地作成を組み合わせた『石兵八陣』の兵法を発動し辺りに展開する。エルメロイを中心とした八方に展開される、誘発と感知の陣──

 

「奇門遁甲、八門金鎖の陣!」

 

持ち歩く魔術工房、即座に展開可能な魔術陣地。稀代の知略家の力。三國に名を轟かせた英雄の力の発露と具現に──足を踏み入れ機を逸した影が散見されその姿を引き摺り出される

 

「ぐわぁっ!!」

 

「っ!?」

 

「──えっと、ザイードさんと、ガリルさん、レイグさん・・・百貌の皆だね!」

 

リッカは即座に正体を見破る。仮面に漆黒の鍛え抜かれた肉体を持ち、数多無数の貌を持つハサンの一角など一人しかいない。全員の人格を把握しているが故に個体も熟知せしハサン・・・百貌のハサンと真名を見抜く

 

「我等が一人一人の名をも見抜かれただと!?」

 

「気配遮断は完璧であった!他愛無しな偵察が何故!?」

 

「正体バレしてしまった暗殺者など最早カモなのでは・・・」

 

『・・・アサシンの優位性を剥ぐ手段に長け、そして魔術工房にて籠城と迎撃が容易い。成る程ね、アサシンがキャスターに弱いのはこういう・・・』

 

『マスター暗殺で完勝か対策取らずに惨敗か・・・極端だよね!うん!』

 

衆目の下へと引きずり出されたアサシン三体。何故我々を見破ったかと叫ぶ彼等に落ち度はない。特級の例外に、即座に偵察を選んだ彼等は正しいものだ。正しいからこそ・・・彼等は墓穴を掘ってしまう

 

「当たり前のように真名を看破できるのもカルデアの利点だな・・・さて、どうやって気配遮断スキルを見破ったのかって?残念、全くわからなかったよ。だが、我々は世界一英雄に詳しい機関であり、貴様らの素性も洗い出しが済んでいる」

 

『レイシフトなんて派手な手段を振るえば、偵察に赴かざるを得ないわね確かに。成る程・・・道理ね』

 

『おまけにロード・エルメロイは疑似とは言えサーヴァント!石兵八陣に足を踏み入れた時点で君達の命運は決まっていた、というヤツだね!』

 

優秀であるがゆえの袋小路。勤勉周到であるが故の虎穴への彷徨。──一体一体は脆弱な、本体の一部分ほどの力しか無きアサシンの群れの一欠片。ここで逃す理由も無し。ならば──対処は決まっている

 

「さて、リッカ。窮屈だとは思うが一暴れと行こう。時間が勝負だ、詳しい説明は後にさせてもらうがね」

 

「了解!マシュ、ヘタ打たないでよね!」

 

「はい!お任せくださいマスター!マシュ・キリエライト、アサシンの排除に入ります!」

 

「「「っ──!」」」

 

接敵、そして初邂逅たる戦闘の開幕。その戦力を鑑みれば答えの分かりきった、アサシンにとってあまりにも分の悪い戦いが繰り広げられてしまう。情報や素性、特性が割り出され、長所を潰された暗殺者に、勝ち目などは用意されよう筈もない

 

「物理で殴るだけが戦いじゃない。分断、各個撃破に持ち込ませてもらおう」

 

自由自在に変化し、設置し、また飛来させ押し付けるエルメロイの数多の罠が振るわれる。三体の内二体を罠にて受け持ち、断末魔の一つもあげさせぬ罠の歓待にて、吹き飛ばされ、罠を起動させまた呑まれ、その先にて罠の連鎖による翻弄に、瞬く間に二体が死に果て消滅を果たす

 

「くっ!おのれっ・・・!」

 

苦し紛れに短刀を振るう欠片。無抵抗で果てるなど暗殺者の沽券に関わってしまう。懸命にして必死の抵抗を──久々の活躍にいて意気軒昂となりしマシュ、そしてギャラハッドの盾は軽々と弾き返し、押し返す

 

「今の私は、とっても強い後輩です!」

 

受け止め受け流し、押し留め押し返す。巨大な盾、ラウンドテーブルを振るいし白亜の騎士たるマシュに、負ける道理は微塵も有り得ず。そして──

 

「こういうの久々~!『瞬間強化』!マシュ、マシュっと決めちゃって!」

 

オルガマリーから受け取った礼装変換リング、術式を展開しマシュに放つ。攻撃力と身体能力をブーストさせる基礎魔術。しかし──カルデアの技術とリッカの無尽蔵たる魔力の装填により、マシュの身体に力を極限まで満たし尽くす

 

「お任せください!!マシュっと!!

 

「ぐぎゃあぁっ!!?」

 

肉体ではなく骨格、霊核を揺るがし砕くシールドバッシュを直撃するハサン。霊核が当然のように崩壊し、断末魔と苦悶を残して消失を果たす。円卓の騎士の力、そしてマシュの神代クラスの肉体に強化魔術。断末魔を残せた事自体を称えるべき事象に他ならぬ程のワンサイドゲームであった。何より彼等は諜報集団として活用するのがベストであり、極論は対等の土俵に来た時点で敗けなのである

 

「戦闘終了お疲れ様でした先輩やりましたよマシュ・キリエライトがやりました!」

 

「お疲れ~。よくやったなすび!だが自惚れるでない、まだこれはウォーミングアップに過ぎないのだから。まだまだ手放しで誉めるにははやいかなぁ?」

 

「なんと・・・!ですが私はやります!先輩を護り抜いて聖杯もマシュっと手に入れ、ナンバーワンサーヴァント、スペシャル後輩として先輩の隣に・・・」

 

『不便ねリッカ。あれくらいあなたなら三秒でしょうに』

 

「言ってあげないでよじゃんぬ。マシュは盾で敵を倒すなんてコアな事やってるんだから是非も無さげじゃん?あ、スイーツ作っといてね~」

 

『分かりました。ちゃんと無事に戻ってくるのよ。マシュを、ちゃんと上手く焚き付けなさい』

 

「せ、先輩!余所見は禁止!禁止ですよ!もう、オルテナウスとか物凄いんですからね!」

 

無事に戦闘を終了したエルメロイと合流し、戦闘の構えを解く三人。方針を固め、次なる行動を執り行う

 

「諜報に徹すればこの上なく厄介であるが・・・フン、奇門遁甲陣を極めている今の私にはいいカモだ。──監視と偵察の名目上、彼等は冬木、そして此方を見張らねばならん。故に彼等は兵法の禁則たる戦力の逐次投入を余儀無くされるだろう」

 

一息に最大戦投入か、波状にて呑み込むか。鉄則に対し、打開ではなく浪費、悪戯に数を減らしてしまう逐次投入を余儀無くされるアサシン達に哀れみを示すエルメロイ

 

『マテリアルが解放されているアサシンなんて問題ないわ。さぁ、次に行きましょうか』

 

「百貌さん苦労人だったんだなぁ・・・サーヴァント人生も良し悪しなんだねぇ・・・」

 

「あぁ、グズグズしている暇はない。優先的な事柄は歩きながら説明しよう。さぁ、次だ次!」

 

一同は歩き出す。暗殺者を下し、そして本流の中心となる市街地へ

 

(しかし、英雄王は何をするつもりなのか・・・英雄姫・・・叙事詩に存在しなかった『姫』という未知数の存在を有したギルガメッシュ。暴君や混沌とはかけ離れた人格であるのは承知しているが・・・己の愉悦と娯楽を探求する心胆は微塵も変わっていない。──彼等の愉悦が、この世界の利となる事を祈るより他はないか。・・・心配はあるまい。姫を擁したかの王の今の愉悦は、清涼にして痛快な過程結末だ。寝返り、謀叛、悪戯に状況を乱したりなど無粋はするまい。あの征服馬鹿と違い、あの征服馬鹿と違い!)

 

「・・・冷酷無比、酷薄無情の英雄王を人類史を救いし御機嫌王に昇華させたギルガメシア姫・・・何故石板に描かれていなかったのやら。歴史というものは肝心要を取り零すものだな」

 

「?」

 

「独り言だ、気にしないでいい。・・・それにしても。王に寄り添うもの、か。・・・何処かの未熟者を思い出す組み合わせだな」

 

・・・冬木の空に、自嘲のため息一つ、そして可愛らしいくしゃみが二つほど吸い込まれて行くのだった・・・

 




とある宅

キャスター「――怖がらなくていいんだよ。坊や」

「!?」

「立てるかい?」

「・・・(こく)」

「さぁ坊や、あそこの扉から部屋の外に出られる。
 周りを見ないで、前だけを見て、自分の足で歩くんだ。――ひとりで、行けるね?」

「う、うん!」
龍之介「ちょっと・・・!」

「シーッ・・・」


「────うわぁあぁぁあぁーっ!!?」

「おぉ・・・!?」

「恐怖というものには鮮度があります。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです──真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態・・・希望が絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。如何でしたか? 瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は」


「──COOOOOOOOL!!最高だ!超!COOLだよアンタ!オーケイだ!!聖杯だか何だか知らないが、もかく俺はアンタについていく!さあ殺そう! もっともっとCOOLな殺しっぷりで、俺を魅せ──」

?「下らぬ催しかつ醜悪な児戯よな。聖杯も汚染されたとはいえ、このような悪霊を招くとは嘆かわしいいにも程がある」

「──え・・・──」

黄金がごとき絶対なる声音が響き渡りし瞬間、雨生龍之介の身体に──腹部を。黄金の小さな弾丸が撃ち放たれ貫く鮮烈なる芸術の華が咲く。ペタりと尻持ちをつき・・・

「貴様が求めし真理と芸術、この我が手ずからにくれてやろう。堪能し、探求を終えるのだな」

「リュ、リュウノ──」

「我等がこの場にいる以上、最早貴様は目障りなだけだ。聖なる怪物よ、何を供物にすることなく──無為にして凡庸な結末を抱き果てるがいい」

「おのれ貴様!何も────」

・・・それ以上の問答は無用、それ以上の顛末は不要であった。無数の豪華絢爛なる宝具の雨に、乱打に撃ち据えられ吹き飛ばされ串刺され──

「知りたいのならば教えてやろう。貴様の神に伝えるがよい。我は英雄王ギルガメッシュ。天上天下において唯一無二の御機嫌王よ」

キャスター、ジル・ド・レェは・・・何を成すことなく滅び去る。黄金と白金の輝きを放つ王の手によって。始末を終えた英雄王は、やがてマスターの右手を見やる。呆然と、右手と腹の真紅を見つめる青年に

うわぁ……そっかぁ……そりゃぁ気付かねぇよなァ……灯台下暮らしとは良く言ったもんだぜ・・・他の誰でもない。俺の中に、隠れてただなんて・・・」

「──」

「俺んなかにあるならあるって──言ってくれりゃぁ、いいのにさぁ・・・──」

その言葉が、最後。人生を懸け追い求めた芸術との邂逅・・・至福と歓喜の中、絶頂の果てに──雨生龍之介の意識は途絶える。最早、人体をキャンパスとした無数の『芸術』は、産声を上げることなく絶えるだろう。それは──無数の幼児達の未来が、一先ずは確定したことに他ならない

──先んじて設置していた魔方陣を上手く使ってくれたようですね。この家の家族の皆様も、いずれ目を覚ますでしょう

エアとギル、そしてフォウは聖杯戦争のスケジュール、そして召喚から日時に至るまで総てを把握し対策を打った。この場、キャスターが召喚される場にて惨殺される家庭の家族を確保し、予め血の魔方陣を描き、それを使うように誘導させた。目論み通りにマスターは召喚を行い・・・無事、こちらの思惑に乗ったのだ

《手を下すに値せん俗物だ。治癒をかけ警察に突きだしておくぞ。フォウ、運ぶがよい》

(うへぇ、やだなぁこんなヤツ乗せるの・・・まぁやるっていったしね!分かったよ!)

──この子は、自宅へと送りましょう。・・・生きていて、良かった・・・

王の傍らに抱えられる先程の児童。怪魔を見た事によりショックを起こし気絶しているのだ。王による海魔殺しにより、惨殺は免れた為・・・寝息を立てている

(じゃあそっちも任せてくれ!エア達は先に行っててよ、追い付くからさ!)

──お願いね、フォウ!では王!楽園のジルさんを先んじて下水道に招いております。ジャンヌグッズを支給しに参りましょう!

《うむ、一夜であろうが惨劇など我等の好みではない。裏方なれど、舞台の清掃は欠かさず行わねばな!》

ヴィマーナ、ステルスモードにて潜航する二人、見つからないように駆け抜けるフォウ。御機嫌王は、大小問わず悲劇を粉砕せんが為に奔走する──

用意した血の一滴も流すことなく、キャスター陣営を下し、王は更なる最善と磐石を目指す──

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